昭和20年9月21日、神戸・三宮駅構内で浮浪児の清太が死んだ。虱だらけの腹巻きの中にあったドロップの缶。

死に顔がもっている威厳と迫力に魅せられ、万国博に対抗して葬儀博の実現にかける「ガンめん」。

九州の入海をながめる丘陵の、最も峻嶮な峠「骨餓身」。

徹底的に現実を拒否しおぞましい妄想にとりつかれた人間を主人公として、遠国の美女への願望、女たちの執念、反逆的なヒューマニズムや現実逃避をテーマとする中編小説集。

友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。

現役の作家のなかにも熱狂的なファンの少なくない、鬼才、久生十蘭の精粋を、おもに戦後に発表された短篇から厳選。

人はなぜ人を殺すのか――河内音頭のスタンダードナンバーで実際に起きた大量殺人事件＜河内十人斬り＞をモチーフに、永遠のテーマに迫る渾身の長編小説。

エロ・グロ・ナンセンス華やかなりし昭和初期、たび重なる発禁にも屈せず、『ロシア大革命史』や『デカメロン』、『密戯指南』を秘密刊行し続けた、「好色出版の帝王」貝原北辰。

花咲き乱れるオーブランの庭に眠る、少女たちの秘密。

時は一九六〇年代末、「ケバラ」をはじめとする大阪・釜ケ崎の騒動師たちが地元で騒動を起こすだけでは飽き足らず、貨客船をのっとりアメリカ・サンフランシスコに上陸、シカゴ、ニューヨークを珍道中して帰国した後、東大安田講堂の攻防戦に乗り込み、「総共闘」に味方して機

昭和29年の洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司・紅司兄弟、従弟の藍司らのいる氷沼家に、さらなる不幸が襲う。

散歩中に拾った、自分と同じ機種の携帯電話。

「おいどパシーンとなぐるこわい姉ちゃんが、あんたのお母ちゃんや、ほんまやで」。男の歓心を買うために娘を虐待する若い母。

薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。

1972年夏、キクとハシはコインロッカーで生まれた。

一九四二年一月、対馬要塞の重砲兵聯隊に補充兵役入隊兵百余名が到着した。陸軍二等兵・東堂太郎もその中の一人。

昭和三十年代前半、「水虫」とあだ名された貧相な面構えとひがみっぽい性格ながら、草創期の広告・放送業界をたくみに遊泳して芸能プロダクションの社長、出版社の経営者にのしあがっていく寺川友三。

超有名進学校「灘校」に八番で入学。

戦争の傷跡を残す大阪で、河の畔に住む少年と廓船に暮らす姉弟との短い交友を描く。

敗北が決定的となったフィリピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。

9歳のさきちゃんと作家のお母さんは二人暮し。毎日を、とても大事に、楽しく積み重ねています。

何でも売っている不思議な市場「夜市」。幼いころ夜市に迷い込んだ祐司は、弟と引き換えに「野球選手の才能」を手に入れた。

盲目の三味線師匠春琴に仕える佐助の愛と献身を描いて谷崎文学の頂点をなす作品。

絶望的な"閉ざされた"状況にあって、疎外された少年たちが築き上げる奇妙な連帯感。

平凡な男の部屋に闖入して来た9人の家族。

睡眠薬、シャブ、アヘン、幻覚サボテン、咳止めシロップ、毒キノコ、有機溶剤、ハシシュ、大麻やLSDもあれば、アルコールもある。

屍体処理室の水槽に浮き沈みする死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、バスの車中で発生した外国兵の愚行を傍観してしまう屈辱の味を描く「人

ドタバタとは手足がケイレンし、血液が逆流し、脳が耳からこぼれるほど笑ってしまう芸術表現のことである。

誰も殺せず、誰も救えず、徒労と焦燥の間を漂うしかなかったヴェトナムでの戦場体験を経て、暗く、抜け道のない「現代」によどむ懈怠と嫌悪の淵に沈潜し、ひたすら女との甘い生活にふけろうとする男。

アフリカにおける呪術医の研究でみごとな業績を示す民族学学者・大生部多一郎はテレビの人気タレント教授。

何かワケありの僕は、ある日、突然、妻子を残し家出する。勤める小さな広告代理店に、寝泊りするようになった僕。

日々の生活の中でたまった鬱を、日々の生活の中でいかに散ずるか。 「物」を買い、使い、また買い、使う。

暑い日になぜか起こる奇怪なある出来事、風鈴の音が呼び覚ますもう一人のわたしの記憶、死んだはずの母が見えるわたし、病院から届いた友人のSOS、旧いブザーを押す招かざる客…。

とつじょ大繁殖して野に街にあふれでたネズミの大群がまき起す大恐慌を描く「パニック」。

出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹…。

なぜ控訴しない?―施設で育った過去を持つ「僕」は、刑務官として、夫婦を刺殺した二十歳の未決死刑囚・山井を担当していた。

神よ、なぜ応えてくれないのですか?私はその答えを『沈黙』の中で雄弁に語り尽した。明かされる『沈黙』秘話。

日本における本格探偵小説を確立したばかりではなく、恐怖小説とでも呼ぶべき芸術小説をも創り出した乱歩の初期を代表する傑作9編を収める。

「むかし、あるところに、マーリアという名の売春婦がいた」。マーリアは、ブラジルの田舎町に育った美しい娘。

夢と現実のあわいに浮び上る「迷宮」としての世界を描いて、二十世紀文学の最先端に位置するボルヘス(一八九九‐一九八六)。

晩夏酷暑の或る日、郊外の風癲病院の門をひとりの青年がくぐる。

母の死の翌日海水浴に行き、女と関係を結び、映画をみて笑いころげ、友人の女出入りに関係して人を殺害し、動機について「太陽のせい」と答える。

ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。

アメリカはニューイングランド地方の田舎町、トゥームズヴィル。

ヴェトナムの戦場を肌で感じ生と死の異相を鋭く凝視した『輝ける闇』。

新宿・アンダーグラウンドを克明に描いた気鋭のデビュー作!おれは誰も信じない。女も、同胞も、親さえも…。

祖母から聞いた、四国の森の奥深くに伝わる「壊す人」と「オシコメ」の創造の物語を、MとTという記号を用いて書き記す。

「〈自閉〉から往還へ」の軌跡を追い、大江健三郎が「経験の弁証法」により作家であり続けた意味を問う。

日本の美学の底には「暗がり」と「翳り」がある。

七瀬、18歳。テレパシー力をもつ可愛いお手伝いさんが知った8つの家庭の意外な事実とは…。

神秘主義詩人ウィリアム・ブレイクの預言詩に導かれ、障害を持って生まれた長男イーヨーとの共生の中で、真の幸福、家族の絆について深く思いを巡らす。

第一次世界大戦の北イタリア戦線。