騒動師たち
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その昔の「なにわのややこしい男たちの世界」が野坂さんならではのタッチで描かれていました。が・・・今の若者にはちょっと理解しがたい作品になってしまっているのでは・・・小生の年齢にはピッタリでなかなかおもろ~い本でしたが、ノスタリジックな本でした。 安価な中古の本でしたが、何の違和感もなく読ませていただきました。 おおきに~でした。 | ||||
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こういう括りがあるのかわからないけれど、「全共闘」ものである。 といっても、藤原伊織の小説のように、「かつて全共闘として挫折した男のその後」をナルシズムたっぷりに描くものではない。 東大安田講堂封鎖から陥落までの、1968年4月から1969年4月にかけて連載された、今おこっている事件としての学生運動を捉えた作品だ。 本作は、作者と同年代から少し上の、釜が崎に暮らす戦後闇市派の「騒動師」たちが、1968年にアメリカや日本で起こったスチューデント・パワーと呼ばれる現実の「騒動」に便乗し、それを架空のゴールへの拡大させていくエンタテーメントである。 騒動師たちが知恵を出し合い安田講堂を崩壊へと導く過程は、娯楽小説としても充分に楽しめるものだが、本書を優れた文明批評・時代批評にしているのは、騒動師たちの設定だ。 「別に革命なんていう大それたことではないねん。もういちど、みな腹減らしてガツガツしてる面みたいだけや、親子も夫婦もあらへん。釜の底へばりついたスイトンのかけら、家族がにらめっこする光景をリバイバルさせたいだけやねん。」(P16) 騒動師たちはこのように戦後闇市世代として、高度経済成長が終わり、経済的に満ち足りた日本に、戦後の混乱を再現することを目的とする。騒動によって、何かをなし得るというのではない。騒動のための騒動をこの(といっても1968年だが)太平の時代に再現し、人々を「驚かせる」ことを企図するのだ。 六〇年以上前の戦争にリアリティーを感じられないのと同様、私たちは40年以上前の学生紛争にももはや時代としてのリアリティーを感じることがない。だから両者を「等しく現代史」と括ることしかできない。 だが、わずか戦争が二十数年前の出来事であった1968年には、戦争や戦争の傷が、「今日のテレビに映る」学生紛争とリンクする、と作者は感じている。 「浮浪児を生み出したのは、大人なのに、大人はただ、この目ざわりな存在を、汚らしい、占領軍に恥ずかしいと、ののしる、ごみ片付けるように、処理してしまった、いったい何人が生きのびたことだろうか、学生さんを浮浪児にたとえるなど申し訳ないと、一方では、えらく常識的に思いつつ、ケバラはまた、自分では見たことがないけれど、あれは、たとえば決死隊とか、また予科練をでてすぐ特攻隊にかり出された飛行兵の、表情に似ているのではないかとも思う、あすこまで思いつめたら、そして国家と、まともにぶつかれば、よくいわれるように総学連を出て、すぐに転身し社会のエリートコースをあゆむことはゆるされないだろう。 (中略)あの必死に自分の恐怖とたたかっている表情が、なつかしいのか、昭和元禄とかで、肥え太り、いささかの生命の危険も知らない連中の中で、総学連に心惹かれるのは、戦中戦後の記憶がよみがえるせいなのやろか。」(P240) 高度経済成長やオリンピックのための開発が進んだ1968年には、すでに戦後闇市の光景は一変していた。しかし「それでいて」、1968年は戦争は目のまえの出来事から、まだ「思い出される」「重ね合わせることのできる」記憶をまだ皆がかろうじて有していた時代でもあったのだ。 現実は、この小説とは異なり、安田講堂はあっけなく陥落した。全共闘世代のほとんどが「すぐに転身し社会のエリートコースを歩」んだ。それは、スチューデント・パワーの時代の終焉という風に総括されることが多い。 だが、私たちが失ったのは、それだけだろうか。1968年以降、私たちは戦争の記憶を「まだあり得るもの」として「思い出す」ことが一度でもあっただろうか。10年代に生きる私たちは、自分自身を1968年や1945年へと繋げる、騒動師たちのような「歴史感覚」をもはや有していない。 野坂の作品はどれも表面的な明るさの裏に、深い悲しみが隠されている。本作のハッピー・エンドは、戦争の記憶が埋葬されていくことへの深い哀悼なのである。 | ||||
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