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解錠師
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解錠師の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.01pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全99件 81~99 5/5ページ
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ものすごく陳腐な感じの表現なのだけれど、一言でいえば、「青春のハードボイルド」という呼び方がしっくり来る。 読んだ時に、「これは今年のベスト3くらいには入るのではないか。大穴だけれど、もしかしたら1位になるかもしれない。」と思った。それほど僕の心には響いたし、一方、作品の設定の幼稚さは、小説としての甘さと感じられても仕方が無いと思った。 色違いのポケベルという小道具や巻き込まれる事件のあり方は、やや作り物めいていて、稚拙というのは言い過ぎかもしれないが、そんな匂いはしている。 それでも、時間が交錯する物語の展開はそこに一定の刺激を与えていて、時系列通りに語ればそんな欠点がいよいよ浮き彫りになって興が覚めてしまいそうな危機から、ぎりぎりのところで脱している。 危ない所を逃れてしまえば、後はこの作品の魅力の方が輝き始める。 一言もしゃべらない主人公。その設定は秀逸だ。もちろん、本当はしゃべってはいるのだけれど、声を出しては話さない。そして、話せないことを苦しいとは感じていない。いや、その苦しみを超える何かが彼に「話せなくてもいい」と思わせている。その絶対的孤独が、たくさん話せる我々の心にも響いてくる。 本当は、みんな、そんなにたくさん話さなくてもいい。ただ、どうしても話したい人と話せたらそれでいい。そんな風に思えるただ一人を見つけたい。それでいいのだ、と、そんな風に毅然と生きてみたい。僕らの中には、きっとそんな孤独や強さへの願望があるのだろう。 そして、本当に、一人、そんな彼と話したいと心から願ってくれる人がいる。通じ合いたいと思ってくれる人がいる。それがまた、こちらも同じように、この人とだけは繋がりたいと思える相手でもある。なんて素敵なことだろう。通じ合える人は、たくさんは要らない。でも、ただ一人でも、見つけたい。その一人がいてくれたら、僕らはそれだけで生きて行ける。 ふたを開けてみたら、今年の「このミステリーがすごい」のぶっちぎりの1位だった。つまり、そんな所に心打たれてしまった僕のような人が、たくさんいたということなのだろう。なんだ、みんな寂しがり屋なんだな。 これは、サスペンス小説だけれど、同時に心に染みる青春小説でもある。分厚いサスペンスのコートを来た、真っ直ぐな文学でもある。ハードボイルドの魅力が、主人公の「生き様」というか、そのあり方そのものにあるなら、これは、明らかにハードボイルドの魅力満載の作品だ。しかも、主人公は、こんなに若い男の子なのだ。 心に染みないわけが無い。・・・ということなのだと思う。 | ||||
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このミス1位ということで本屋で手に取り、文庫版の「絵本っぽい」表紙を見てからページをめくった時は、ガキっぽいセリフばかりが並んでいるように感じられてかなり迷ったが、購入して読んでみたら、意外にもグイグイと引き込まれて、そのまま読了した。主人公の少年の周りに登場する犯罪者たちの描写が面白かった理由かもしれない。この作者の「氷の闇を越えて」も読んでみたくなった。 | ||||
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正直に言って、あまり面白いとは思えなかった。こういう作品がウケるのか… 絶賛される理由が解らぬ。このミス1位ということで、期待したのだが… | ||||
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幼少期のトラウマのせいで喋れなくなった少年が金庫等の解錠が得意になりやがて・・・というお話。 主人公が解錠が得意になっていく過程と、現在の金庫破りになってその犯罪シーンを交互に交差させながら、最後に収斂していくというサスペンスで、主人公を聾唖の少年にしたのが私の勝手な憶測ですが、それを心の錠を閉ざした少年の心理状態にかけて、金庫の錠はうまく開けられるけど、少年の心の扉は開くことができるか?という風にしてあるように思いました。そういう意味で金庫破りのシーン等犯罪場面も多く出てきますが、一人の少年が様々な特異な体験を通じて精神的にある意味堕落し、ある意味成長をする青春小説の一種に思えましたがどうでしょうか。この様なタイプの小説がMWA賞を獲ったりポケミスに入ったりするところにミステリに限らず、広くエンターテインメントの変容を感じます。この後の主人公の人生が気になるので著者には是非、続きを書いてもらいたいと思うのは私だけではないでしょう。 著者のハミルトンは他にもシリーズ物の私立探偵小説も書いている人らしいですが、寡聞にして知りませんでした。己の不明を恥じます。そちらも読んでみたいと強く感じました。 | ||||
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その昔、マイクは”奇跡の少年“だった。時が流れ、”ミルフォードの声なし“となった。金の卵、若きゴースト、解錠師どれもマイクの呼び名である。20代後半のマイクは刑務所での生活も10年を迎え、過去の回想を始める。 マイクは8歳の時に悲惨な出来事を体験した。奇跡の少年と呼ばれるようになったが、そのトラウマのために言葉を発することができなくなった。それでも絵を描くことと、どんな鍵も開くことができる才能に恵まれた。解錠師になるまでの少年時代と、解錠師になってからの日々を語りだす。その2つの話に登場するのは、恋人アメリアである。話は徐々に過去の悲惨な事件と、刑務所に入ることになった事件にフォーカスが絞られてゆく・・・そして、彼の隠された人生の全容が・・・。胸が締め付けられる物語ですが、ラストに希望の灯が・・・。青春期の複雑な感情や、まだ若者だった時の疎外感などがマイクの体験を通して読者に共感を与えるでしょう。傑作。お薦め! アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞の英米2冠に輝くのも当然と思う。 | ||||
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その昔、マイクは”奇跡の少年“だった。時が流れ、”ミルフォードの声なし“となった。金の卵、若きゴースト、解錠師どれもマイクの呼び名である。20代後半のマイクは刑務所での生活も10年を迎え、過去の回想を始める。 マイクは8歳の時に悲惨な出来事を体験した。奇跡の少年と呼ばれるようになったが、そのトラウマのために言葉を発することができなくなった。それでも絵を描くことと、どんな鍵も開くことができる才能に恵まれた。解錠師になるまでの少年時代と、解錠師になってからの日々を語りだす。その2つの話に登場するのは、恋人アメリアである。話は徐々に過去の悲惨な事件と、刑務所に入ることになった事件にフォーカスが絞られてゆく・・・そして、彼の隠された人生の全容が・・・。胸が締め付けられる物語ですが、ラストに希望の灯が・・・。青春期の複雑な感情や、まだ若者だった時の疎外感などがマイクの体験を通して読者に共感を与えるでしょう。傑作。お薦め! アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞の英米2冠に輝くのも当然と思う。 | ||||
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青春小説のような色合いが濃く、奇怪な人生へと進んでゆく主人公に思い入れをして読んで行けます。 話が金庫破りだけに緊張した場面に引き込まれます。金庫破りのディテールがおもしろい。 ですがちゃんとハッピーエンドと言えるような結末が用意されていて娯楽小説へと帰還する所がむしろ非凡な小説ではないかと思いました。 読後感の良い本です。 | ||||
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とにかく描写が細かく、展開がスローです。好きなタイプのミステリーではなかったです。 | ||||
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ハヤカワ・ポケット・「ミステリー」収録作品ではあるが、推理小説としての要素は一切、排除されている。主人公、つまり犯人が一人称で青春時代の大過去と金庫破りの小過去を回想し、刑務所暮らしの現在から自由に行き来する独特のスタイルで話は進行してゆく。 幼児時代の過酷な体験から、言葉を発することが出来なくなった主人公は、解錠と絵に特異の才能を示す。特に、解錠は、言葉を発することが無い、つまり仲間の名前や犯罪歴を警察に売ることが絶対にないという保証があるに等しく、組織にとっては、まことに都合のいい「職人」となる。 また絵は、恋人との「会話」としての重大なコミュニケーションの道具として、欠かすことのできない役割を果たす。 恋人への熱く、まっすぐな想いと犯罪現場での殺人、組織内での裏切りなど血なまぐさい描写、そしてアーティストとも言えるような解錠の技術と焦燥感が見事に交錯して、今までの翻訳モノにはない個性的な「味」を形成している。 単行本でも文庫本でもなく、立ち位置があいまいになっていた「新書ポケミス」らしい作品を紹介してくれた訳者、編集者に拍手! | ||||
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作者の意図は、どういうものなんだろうか?。良く判らないまま、だらだら、終わった感じだけ残ってしまった。 話は、トラウマによる、失語症である、主人公の、心に浮かぶ言葉が、一人称で、著されるのだが、どうも、煮え切らない。描かれる、性格が、聊か鈍い感性のようなイメージになっていて、話全体のトーンを、起伏の薄いものにしているように感じる。いきおい、クライマックスも、今一つ盛り上がらず、作者は、何を言いたかったんだろうという、疑問が残ってしまった。 失語症の解錠師という、魅力あふれるキャラクタならば、まだまだ、料理の仕方があったのでは?と、少しく残念。もう少し、主人公の年齢を上げればよかったのではとも思う。 | ||||
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「解錠師」 聞き覚えがあるような無いような不思議な語感を持つタイトル。 インパクトのある赤い装丁に特徴的なフォント(恐らくオリジナル)で早川ポケミスの好調ぶりが伝わってまいります。 内容も上出来です。 刑務所に10年近く収監されていると思わしき主人公の回想でつづられる物語。 少年期の悲惨な出来事で家庭を失った主人公、マイクル。 ふとしたことから「錠前」の仕組みとその解放に取り憑かれたかのように血道を上げる日々、そしてその卓越した解錠能力がもたらした厄介ごととその渦中で出合った少女・アメリアへの想い。 彼女との出会いによってアウトサイダーとして生きてきた若者に訪ずれる青春の日々。 しかしマイクの解錠師としての卓越したセンスは予期せぬ運命を彼にもたらす事に…。 フリーランスの解錠師として様々な犯罪者たちと関わることとなったマイクはその能力と才覚だけを頼りに綱渡りを続けていく。 しかし自らの人生の軌道を修正すべく後戻りの効かない危険なヤマに一か八かの大きな賭けに打って出るのですが…。 主人公の解錠師としての能力が大きなカギとなった物語であり、さすがに微細に描写されるそのシーンは緊迫感がみなぎっております。 メカニカルな錠前の構造に関する知識はもちろんのこと最終的にマイクをプロ中のプロとならしめるのは一つ一つ異なる錠前のデリケートな個性を嗅ぎ取るセンス。 その点をマイクに教え込む老練の解錠師「ゴースト」との交流も本書の大きな読みどころ。 本音を言えばこの二人の子弟関係の交流部分をもう少し読みたかったですね。 マイクの解錠師としての能力に焦点が当てられてはおりますが、この主人公の特異性はそれにとどまらない。 別に隠されておりませんので書きますが、彼はある理由から「声」を失っております。 全編を通じて一度も彼の「会話」シーンは出てこないのだ。 解錠師としての能力、そして声を持たない境遇、これだけでお膳立ては十分なのだがさらにもう一点。 マイクは「絵」に対しても特筆すべき能力を持つ若者で、その能力が彼とアメリアの「会話」につながる展開も巧い。 しかし普通ならこれら3つの特異点を一人の主人公に付与するとなるとさすがにリアリティが失われそうなモノ。 しかし本作においてはマイクの心の声によって彼の揺れる心情や緊迫する犯罪状況などが詳細に活写されており上滑るようなことは無い。 もう少し軽い読み物にすることも十分可能だったとは思うのだがそのタッチは意外なくらいシリアスです。 二つの時系列を並行して描きながら、マイクが決定的な危機に見舞われるそのクライマックスに向かって収束して行く後半の盛り上げも中々に巧みだ。 一応「犯罪ミステリ」の体裁をとってはおりますが特異な能力を身に付けた若い犯罪者の物語であり、変則的な青春小説としても十分に堪能できる好篇です。 | ||||
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刑務所の中で「君」に宛てて綴る少年の回顧録。 少年は幼少時に遭遇した事件以来、声が出せなくなっている。手先が器用で絵描きとピッキングが得意。 ある夏休み、心惹かれた少女の気を引くために彼が選んだ方法は、コミック風のメッセージだった。少女との出会いがコマ割りで描かれ、言えなかった言葉を吹き出しに載せて。漫画がボーイ・ミーツ・ガールの小道具に、またそれ以上の表現方法として選ばれたことが無性に嬉しい。 「調香師」のように専門職のディティールを楽しむ作品。小説だけでなくコミックの体裁でも読んでみたい。 | ||||
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孤独なゆえに犯罪者としての解錠師になった青年の内面を描く,ミステリーというより,あえてラブストーリーといってよい作品。 もちろん解錠に携わる緊迫した場面や死の恐怖と隣り合わせの場面も多数描かれているが,やはり恋する少女との出会いと交流場面がこの作品の中心である。障害のあるがゆえに気持ちを伝える手段が限られる彼とそれを受け入れた彼女を描いた場面は読んでいてもほっとさせられる。 現在と過去が前後して語られるので,途切れ途切れに読んで少し混乱させられたが,通して読めばむしろ場面場面の切り替えははっきりする。私見だが映画化(2時間ぐらい)が実現すれば,小品だが結構いい作品になるのではないかと思う。 | ||||
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タイトルからもわかるように、錠前や金庫をカギなしで開けられる少年のお話。 まずは通常のシリンダー錠を開ける(いわゆるピッキング)ことから始まり、 ナンバー錠に進み、ついにはダイヤル式の金庫まで開けられるようになる。 錠を開くためにはひたすら感覚に頼るのだが、その描写がすごい。 読んでいるだけで、自分でも錠破りが出来るような気がしてくる。 それくらい、ここで描かれる感覚の描写はリアル。 思わずホームセンターにあった金庫で試してみましたが、もちろん出来ませんでした。 作中に「1000人に一人くらいしかできない」って、ちゃんと書いてありますね(笑) ミステリとして優れていて、少年の成長物語としても素晴らしい作品ですが それをこうしたしっかりとした描写で支えているところが やはり並の作品との違いですね。 | ||||
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面白いミステリの条件って色々あると思いますが、私は物語全体を貫く緊張感を最も重要視しています。この小説は、主人公にとって決定的な何かが起きた後で、主人公自身が第一人称でその出来事を振り返っていくタイプの物語です。ただ、他の似たタイプの小説と異なるのは、主人公が振り返る過去の時間軸が2軸あるところです。これからこの小説を読むあなたも、きっとそれぞれの時間軸で展開される物語が持つ緊張感に、自然と引き込まれていくと思います。しかも読み進めていく内に、その時間軸が…と、これ以上はネタバレ的になるので控えます。でもその緊張感のおかげで、私のように最後まで一気に読んでしまうと思います。 緊張感が好きでミステリを読んでいるくせに、あまりに悲劇的な物語だと落ち込んだり、かといって安易なハッピーエンドだとシラケてしまったり、我ながら我儘な読者だと自認しているのですが、この小説の読後感は、他のミステリでは味わえない、満ち足りた喜びがあります。おかげで十代の頃、自分にとって特別な誰かの、特別な人になりたいという想いを、久しぶりに思い出しました。ジャンルは異なるのですが、原田宗典さんの「平成トム・ソーヤ」以来の、爽快感を味わいました。できればもう一度、タイムマシンに乗って、真っ白な状態でこの本を読んでみたいです。これから真っ白な状態でこの小説を読める人が心底うらやましいです。 | ||||
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意識して声を発さないということは、実際にはかなり困難だ。 ため息、欠伸、咳払い…ことばにならない声の、なんと多いことか。 しかしこの本の主人公マイクルは、その存在さえ感じられないほどに、無音だ。 それがますます物語の緊張感を高める。 暴力や犯罪が身近にあった環境で育つと、ひとは否応なしに その世界に引きずり込まれてしまうらしい。 似たような年頃の子どもを持つ親として、 読みながら何度マイクルを救いたいと思ったことだろう。 高校生活が語られる辺りから「これはYAだ!」と思って読み進めた。 不器用ながらも面倒を見てくれる大人が傍に居たり、 恋人同士が漫画を描き合うことによってこころを通わせて行くという展開も いかにもYAらしい。 アメリアとの将来を予感させるラストも、 人生はやり直しがきくのだというメッセージを明確に感じさせる。 案の定ミステリの賞だけでなく、全米のヤングアダルト世代に読ませたい一般書に送られる アレックス賞まで受賞している。 少年の成長とミステリを融合させた名作に ロバート・B・パーカーの『初秋』があるが、それに勝るとも劣らない。 紛れもない傑作。 | ||||
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作家歴14年間で長編10作と着実に活躍を続けるアメリカの中堅ハードボイルド・ミステリー作家ハミルトンが2009年に著し、昨年2011年度のMWA賞,CWA賞の両賞受賞の栄誉に輝いた著者会心の傑作です。最初に全くの余談ですが、本書が発表の2年後にMWA賞最優秀長篇賞を受賞したという事実から、最近のニュースで我が国日本の2005年発表作品「容疑者Xの献身」東野圭吾著が本年度の同賞の候補作にノミネートされた明るい話題を思い出しまして、外国の文学賞を選考する際の発表時期の幅は随分と柔軟なのだなと改めて認識した次第です。 現在獄中で日々を送る、8歳の時に声を失ったマイクルが、自らの数奇な人生の物語を手記の形で語り始める。それは1991年から始まる故郷ミシガン州の小さな田舎町ミルフォードでの発端の物語と、その8年後1999年からの故郷を出て数々の悪党達と過ごした危険な犯罪の物語であった。 本書のミステリーとしての興味は謎解きというよりも少年の人生の軌跡と人間性を探る文学性豊かなハードボイルド小説を読む趣にあるでしょう。この種の警察を脇役にして社会全体の大きな世界は描かずに、スケールは小さくなっても個人の側から見たごく狭い世界にスポットを当てて人間心理を丹念に描き上げた小説が高い評価を受ける傾向は今や現代ミステリーの自然な流れなのだと思えます。本書の主役マイクル少年の最も愛すべき点は、8歳の時に声を失う原因となった家族の悲劇的な事件や、どんな錠も開けられる才能を持つが故に人生の裏街道に足を踏み入れる事となる悲運といった体験にもかかわらず、全く暗さや悲壮感を感じさせない生来の明るさと何事にも動じない肝の据わった根性です。そして彼は運命の成り行きで犯罪者になるのですが、その動機が金を得る為ではなく唯々最愛の恋人アメリアを守る為である事が、彼を全く後ろめたさの無いまるで堅気の人間の様に思わせるのでしょう。本書の読み所は、愛するアメリアと共通する絵の趣味で理解し合い意思疎通の壁を越えてマンガで互いの気持ちを伝え合って遂に身も心も結ばれる幸福なラヴ・シーン、一流の解錠師ではあっても悪の道ではズブの素人の彼がヤバイ悪党どもとの侵入盗の犯罪の実践で数々の修羅場を踏み経験を重ねて行く内に身を持って知る生死を賭けた非情な勝負の行方の強烈なサスペンスにあると思います。唯8歳の頃から「奇跡の少年」と呼ばれた強運の持ち主マイクルがこの結果を見るとあまりにも運に恵まれ過ぎているなと思える所に(彼自身のぎりぎりの状況での生き残りと彼の周りに転がる死体が行きずりの人間ばかりで真実の意味で心が痛まない点)、著者が主人公に肩入れしている事によるリアリティーの欠如がありハードボイルドとしては少し甘いかなと感じますが、まあそこはこの緊迫感の漂う劇的で真の感動が呼び起こされる人間ドラマに免じて許そうと思います。 著者の十八番シリーズである探偵アレックス・マクナイト物の日本での紹介は残念ながら2002年を最後に3冊で途絶えてしまいましたが、本書を読んで著者に興味を抱いた新たなファンの為にも旧作の復刊と後続5作の翻訳再開がされればと願っております。 | ||||
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十代の金庫破り(解錠師)で、悪党の呼び出しに応じては全国を渡り歩き、美貌に恵まれながらも 8歳の時の家族の惨劇がトラウマで口が聞けないが、そのハンディを恵まれた画才で補ってゆくクールビューティ。 通り名は「ゴースト・ジュニア」 、内面は負けず嫌いの高校生。 時には凄まじい銃撃戦に巻き込まれたり、裏切りに遭いながら、臨機応変切り抜け、愛しのアメリアと心通わせ 最後は、更生への道を模索して行くという、アメリカ人受け(全米図書館協会の賞を受賞)もバッチリな面白本。 最近の「十代のバンパイア」小説と多少設定が被っているのが気になりはしたが、ウインズロウ「犬の力」の悩める若き 殺し屋カランを彷彿とさせる主人公に魅せられて、殆ど一日で読了。 すっかり忘れていた作家(<氷の闇を越えて>読んでからもう十年以上)だったが、こんな面白本で復活とは... 私には☆5以外考えられない程、楽しめた一冊。 | ||||
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金庫破りになるまでの経緯と、金庫破りになったあとの姿を服役中の主人公が交互に振り返るという形で話が進んでいきます。 小説として特筆すべきは、金庫破りのシーンにみなぎる緊張感。全身の感覚を駆使して金庫を開ける主人公の緊張感は、生半可な小説のアクションシーンを遥かにしのぎます。また、言葉を発しない主人公が描いた絵に託してヒロインと思いを通わせあうシーンなど芳醇なイメージを残す印象的なシーンも多くあります。 幼少時に遭遇した悲惨に事件(これもなかなか類似作に無い悲惨さ)に遭遇した主人公が、犯罪者として生きた後、救いを得るに違いないと読者に強く願わせずにいられないラストシーンも爽やかな読後感を残します。 広い範囲の読者層に受ける傑作だと思います。 | ||||
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