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わたしを離さないで
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わたしを離さないでの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.10pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全707件 521~540 27/36ページ
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はじめはおだやか、やがて終盤に向かうにつれて恐ろしい事実が明らかになる……。 「もし自分の人生が限られていて、それに反抗ができないとすれば、 人はどうするのだろうか…」と思いました。 主人公たちはまさに、そんなふうに運命が定められている人たちです。 限られた枠のなかで、どう生きていくのか…。 それぞれ違う個性をもつ主人公たちが、自分たちの運命を受け入れていく 様子が、丁寧な語りとともに描かれていきます。 なんとも特殊な世界観で、読んでいると不思議な気分になりました。 とても静かな小説だけれども、そこには普通のホラーとは違う、 芯に迫る恐怖がちりばめられていて、言いようのない戦慄を感じました。 思春期の子供たちの揺れる心を、作者は見事にとらえて自然に 描いており、彼らの初々しさがとても新鮮でした。 やがて物語はある「伝説」を中心にまわりはじめていくのです。 私が今まで読んだ中で、最も美しくて謎に満ち、 神秘的な物語だったと確信をもって言えます。 是非、この本を手にとってみてください。 | ||||
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主人公たちの持つ悲劇的な面を淡々と描いたり、最後の方の旧い恩師に会うところとかは良かったのですが、全体的に退屈な作品です。主人公達の青春時代の話やいざこざが3分の2ぐらいを占めていて、正直読むのがかったるくなってきます。確かに必要な描写だったのでしょうが……SF、ミステリー、青春、社会への警鐘。様々な面を持つがゆえに結局どれも中途半端になってしまっているという印象を受けます。 | ||||
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ミステリーと思って読むと、謎はすぐ解けてしまうのでつまらないかもしれません。 主人公の繊細な心の動きを追いながらじっくり読めば、読み終えた後に人生というものについて思いを馳せてしまうこと間違いなしです。 特異な設定のように思われるかもしれませんが、そこに描かれているのは、誰もが送る人生そのものです。 生まれた時から与えられている運命の枠組みの中で、小さくあがく事はあっても、流れそのものに逆らうことはない。 その中で日々小さな喜びを積み上げていければ、それが幸せです。 流れのはやい川の中で互いにしがみつきあっているけれど、いつかはその手が離れてひとりずつ流されてしまうことも、それをあらかじめ知っている事も、彼らと一緒なのです。 自分の毎日が愛おしく大切なことに、改めて気づかされました。 忘れたときにはすぐ思い出せるように、この本はすぐ手の届くところに置いておきます。 | ||||
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運命に身を任せるしかない主人公たちが哀しくも綺麗です。 が、個人的な好みとしては閉塞感を破るめちゃくちゃさや強さが欲しかったです。 主人公たちが良い子すぎてツライです。もう少し悪くても汚くても良いから生きてる強さが見たかったです。 | ||||
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ニューハンプシャーという全寮制の学校で学ぶ子供達の抱く夢、いずれ向き合う未来。 一見普通の青春ストーリーのようだが、本作品ははじめから個性的な「仕掛け」がある。 度々出てくる「提供」や「介護」などの言葉に戸惑う読者も少なくないはずだ。 主人公であるキャシー・H(キャス)は自身の冷静で大人びた感性で 「仕掛け」られた未来とそれに向かう仲間達を語る。 淡々と、的確に、諦めと希望の入り混じった言葉の連なりで。 読み進めていくと、違和感を感じた設定に徐々に溶け込んでいく。 何故ならそれは何者にも侵されるべきでない自分の記憶という領域と共鳴するからだ。 カズオ・イシグロの繊細な描写の数々は穏やかに遠い記憶を揺さぶる。 誰もが抱く将来の夢や希望を描きながら、その対岸にある悲しみや喪失を 回顧的に綴った美しい青春小説、しっとりとした感動に包まれる。 「何か大事なものをなくしてさ、探しても探しても見つからない。でも、絶望する必要は なかったわけよ。だって、いつも一縷の望みがあったんだもの。 いつか大人になって、国中を自由に動き回れるようになったら、 ノーフォークに行くぞ。あそこなら必ず見つかる、って・・・・・」 本文より。 | ||||
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この頃なかなか見当たらない「文学」の偉大さを再認識した。 作者はこの世界を創造し、この世界に住み、その世界をえもいわれぬ表現力で紡ぎだした。 すごい人だと思う。 シビアな内容なので一度中断すると、再度取りあげるまでは気が重い。 が、読み始めるとやめられない。 上質で凛とした美しい表現力、語り口にもよるものか。 その日のうちに、読み終えてしまった。 英国の理性と品格、日本の幽玄と許容が融合された語り口は、圧倒的な魅力だ。 翻訳も素晴らしい。読みながら思わず嗚咽してしまった。 読書後、しばらくは圧倒されていた。 映画は見ていないが、見たいとは思わない。 以上 | ||||
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少し期待しすぎた。 洋書には訳の問題があるので一概には言えないが、それにしても。 まず、テーマについて今日では少々使い古されたもののように思う。 別にそれ自体は問題ではないが、「提供」というキーワードのせいで、 それが何の話なのか早々に見当がついてしまい、オチがオチにならない。 加えて、どこに焦点を絞った作品なのかが今一つ伝わってこない。 そのため、テーマの重さに比して切実感がない。 淡々とした語り口と、最後の方で散見される感情的なシーンに、 アンバランスさを感じる。 また、このテーマの場合、原則論からしてそんなに単純にはいかず、 ・一人残らず ・必ず 主人公を含む「生徒」達がああいった運命を辿る確率は現実にはとても低い。 現時点では確立していない新たな技術を根拠としている可能性は、 「ポシブル」の登場によってほぼ否定されている。 フィクションで技術論を展開する無粋さは重々承知の上だが、 あまりにも基本的な部分を無視しすぎていて私には看過できない。 仮にその部分を無視したとしても、今日のこのテーマを取り巻く環境を考えるに、 こういった悲劇的な状況が簡単に許されるとは到底思えない。 「一種のホラー小説だ」と思いきるにはあたかもこれが現実に起こりえて、 それに警鐘を鳴らす社会的作品であるかのような触れ込みでそれも思いきれない。 以上のことから、よく知りもせずにその深刻さだけで いたずらにこのテーマを扱ったのか?と疑いたくなり不快だ。 ほぼ全く同じテーマで、もっとまとまっている作品、日本にありますよ… | ||||
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映画を先に見ています。映画と比較すると登場人物たちの心理が細かく書きこまれていますがくどさは感じさせません。 死を運命づけられているという点で登場自分たちと、我々も同じです。違いは、それがいつか明確にわかっていない点だけです。 また、解説でも書かれているように、現代の(少なくとも近未来の)科学で十分可能なできごとが書かれているため、SFではあるのですが、至極リアルに感じられます。倫理的に鋭く対立する問題(人間とは何か?臓器移植はどのような場合に許されるのか等)がいくつも語られています。筆者の解釈はこの世界が可能になった段階で参考とされるかもしれません。 | ||||
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最近日本では『デス・ゲーム』なる、少年少女が額面通り、 命を懸けてサバイバルする旨の映画やドラマが量産されている気がします。 この作品は、そういう量産型にありがちな、過激でグロテスクな流血シーンなどは一切なく、 静かで美しく、甘みを含んだタッチで描かれていますが、途中途中で発生する恋愛が絡んで人間臭くなる 情とか妬みなどを感じると、漠然とした方向性は『デス・ゲーム』と同じなのかな? という気がしました。 ではこの方向性を定めて、少年少女を管理し、翻弄させている大枠がなんだ、 というところが少しずつ見えてくれば面白いのかな? と思ったのですが、第二部は、 単なる三角関係のもつれのみを記してあるのか? と中弛みの嫌いを覚えました。 200ページあたりで僕は、読了するまで我慢我慢、読み流して早めに終わらせよう、と考え始めたのですが、 第三部に入り、ようやく作品の本質、何を訴えたいのか、が見えるその兆しを感じ、期待したのですが、 この作品に収めた世界観の大きさと、しかし相変わらず静かさを保とうとする山場のバランスが取れず、オチが弱い・・・。 源流を滴る水の流れのように穏やかな塩梅、具体性をあえて欠かせてヒントを多く与えず、 読者の頭の中でそれぞれの作品を完成させよう、というスタンスは、すごく好きです。 けれど、少年少女が置かれた惨状と忍び寄る悲劇が満載の『デス・ゲーム』を上品に、ふんわりと書き過ぎた。 だから、すごく惜しい、となってしまった、と僕は思います。 翻訳が上手いなあ、と思ったのでそこもプラスにして『★★★☆☆』としました。 まあこれだけ言った後になんなのですが、評価が分かれるように持って行こうとしている作品だとも思うので、 一読して、ご自身で『本物の評価』を下すのが、一番だとも思いました。 | ||||
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登場したころにすぐ読めば違ったのかも知れませんが、 ここまで高評価できていて、映画化もされている、 誰もが絶賛する作品として読むと、★としては3つ くらいでした。 まず、ちょっと世界に入るのに必要以上に労力が 僕にとっては必要でしたし、文体の問題としても はたしてですます体が最高なのかどうかが分かりませんでした。 ですます体の長い小説はそれ自体として僕にとっては くたびれるので。 旅行に持って行ったので、他に読むものがないから読み通しましたが、 普段の通勤のお供にしていたら挫折しているかも。 描かれる青春の揺れ動きとか友情の切なさとかには すでに不感症になってしまったのかな?と寂しく感じましたが、 現在の主人公の年齢も僕より数歳下なのでまあしょうがないのか とも思っています。 フェアなレビューではないかも知れませんが、あくまでも主観として。 読みにくかった割に、響きの薄い本でした。 | ||||
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キーラ・ナイトレイ主演で映画化が決定/公開されていますが、最近(日本語版ですが)になり原作を読みました。 久しぶりに見る「表現の緻密な」小説であり、静かながらも何かを心に残す類のものであります。 表現が巧みで、文字を追っていても情景が目に浮かぶかのような、そして登場する人物の考えていることが痛いほど分かる文章が特徴です。 その後、別の作家のベストセラー小説を続けて読みましたが、「わたしを離さないで」に比べてあまりの文章や描写の稚拙さに軽いショックを覚えました。 もしその前に「わたしを離さないで」を読まなければ、きっとそうは感じなかったのだと思いますが、要するにカズオ・イシグロはそういった類の作家であります。 | ||||
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(内容ネタバレレビューです) 特別な生徒たちに対する大人の不可解な発言や学校での風変わりな授業・・・それらが卒業後に少しずつ理解できる話の構成. 近未来のガン治療とそのための犠牲について、孤児である子どもの心理、夢を見続けるか現実を知るべきか・・・いくつかのトピックスが含まれているように感じます.作者の感情は抑えられ冷静な描写だなと思いきや、所々盛り上がります. 最初は、自分とはまったく違う世界での物語で、SF気分で読んでいました.けど、所々に生徒の心情に共感してしまっている自分に気づいたりして・・・最後にはのめり込んでいました. 決して読みやすい本ではありませんでしたが、読んでよかったです. | ||||
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カズオイシグロさんのファンですべての作品を読んでいます。 この作家の作品に特徴的な「裏側で大きな悲劇が進行している中で主人公が 流れに逆らわず静かに生きていく」様子が淡々と進んでいきます。 登場人物一人一人の機微やそれに伴う細やかな洞察などが 曼陀羅のように組み上げられ圧巻です。 物語の舞台がファンタジーの世界なので「日の名残り」を超えていないと評価されて いるかもしれませんが、作者の独特の世界観を強烈に表現した氏の代表作だと思います。 | ||||
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読解力の問題かな、とてもやりきれない気持ちになっただけで、 娯楽として捕らえるにはつらい作品でした。 読んだあと、場面展開の速くわかりやすい単純な作品が読みたくなりました。 | ||||
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心理的な描写と物語の構成がすばらしい。 キャッシー・Hが思い出を語る。しかし、何かの事実を隠して物語は進む。どこに連れられて行くのであろう。それを推理しながら読み進む。少しずつ様子がみえてくる頃に読者はへールシャムの誰かに共感しているに違いない。 誰もが知っている様に、かつての何気ない小さな出来事や会話などのいくつかが、その後の人間関係に影響する。頁を繰るたびにキャッシー・Hの語りから過去の出来事が線でつながる。この物語を読み終えた時に遠い道のりを歩ききった心地よい満足感が得られた。そして、「将来が決まっている」ことについて希望でも絶望でもない何かが書き加えられた。 | ||||
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名作だと思う。 語り手はキャシーという三十一歳の女性である。介護人を十一年以上勤めているというが、介護人というその仕事の実態がはっきりしないまま、物語はキャシーが十二、三歳の頃の過去にさかのぼる。ヘールシャムという土地での思い出が作品の前半を占め、トミーという男友だちとルースという女友だちが主な登場人物である。 それだけなら別に何ということはない。よくある三角関係の物語、そう言い切ってしまえないこともない。だが作品が過去形で語られていることや、時折出てくる「提供」や「展示館」などといった謎のキーワードが読者を落ち着かせない。何かが隠されている、読者にも、若い頃のキャシーたちにも。読み進めていくうちにその輪郭はおぼろげながら見えてくるが、おどろおどろしい現実を著者は最後まで直接提示することはしない。戦慄すべき社会は背景に退き、淡い郷愁の物語――さしたる大事件が起こるわけでもない追憶の日々――がさん然と光り輝く。表題はキャシーがテープでよく聴いていた曲のタイトル「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」であるが、この演出も読者のノスタルジーを駆り立ててやまない。 イギリス作家カズオ・イシグロの作品は初めて読んだが、どことなく日本的な哀感を嗅ぎ取ってしまうのはやはり日本生まれという先入観があるからだろうか。現代の日本人作家が忘れてしまった何かを持っているような気がする。最後の二ページは圧巻であり、涙が出そうになった。特に女性におすすめしたい一冊である。 | ||||
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本屋で、著者の作品が並んでいる棚から最初に本書を選んだとき、語り 口調の文体にちょっと引いてしまい、他のにしようかとも思った。 でも、これを選んで正解だった。 いろいろな出来事が、今現在のこととして語られたり、布石であったり、 思い出であったり、頻繁に時間が交錯しながらぞろぞろと出てくる。 人が自分の来し方を語るときは、おそらくそうなるのだろうが、全くの 創作でどのように書いたのだろう。書いていって自然にそうなったのか。 あらかじめ時間軸に沿って書いた後で入れ替えていったのか、興味がある。 終わりの方まで来て、最初の方のエピソードに言及され「何だったかな」 と最初の方のページをめくろうとしたが、細かく追求しなくてもいいや、 と思い直した。自分事として置き換えてみれば、思い出ってそれほど くっきり蘇らなくても、それはそれで十分に味わい深いから。 主人公の個人的な思い出という色合いが強いのに壮大なようでもあり、 あり得ないのに身近に感じられたり。一体どんな結末なのだろうと思い 最後にたどり着くと、少しばかり拍子抜けしてしまったのは事実。 | ||||
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ほとんどの書評は、「残酷な」とか「衝撃的」といったコメントがのせられている.しかし、これは我々自身の物語、ではないだろうか.我々は誰でもヘールシャムのような体験を経て、ゆがんだ形で世界を認識することを始める。その目的は1つが世界に貢献するために、もう1つが子どもたちによりよき人生を、というその時代の理想だ。(私は大学を卒業して教えるたちばに回ってそのことに気がついた)結局のところ、僕らは身体全体そのものを何か社会にやくだてるために育てられている、といってもいい.それはサラリーマンでなくとも、ユニクロの社長であっても、堀えもんであっても、合衆国大統領であっても同じだ。社会という装置のために仕事をしている。そんな僕らの意味探しをあてはめたにすぎないのではなかろうか.私たちにできることは、世界の在り方を知り、世界の在り方を変化させる、そのやり方について学ぶことだろう. | ||||
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まだ、幼少期のひたすらな思い出ばかりで、ようやく施設の子どもたちの運命についてはっきり語られたが、何だか、不自然さを感じて仕方ない。 5、6歳の子どもが、自分の作品を「展示されるかもよ」と友人に褒められて、誇らしく思ったが、すぐに「まさか」と考え直す・・・??他にも、10歳になるかならないかくらいの子どもから出るような言葉だとは思えない箇所が幾らか見られる。 長々しい、ひたすらな個人的思い出話は、思春期に近付くにつれ現れてくるであろう葛藤も自己嫌悪も、そういう情緒の変化や乱れといった表現が薄い。施設にいる主人公たちの思春期が、こんなだったらちょっとびっくりする。作者の思春期の感受性が、この施設の子どもたちには合致すしているだろうかと、疑う。 人によるとも思いますが、ヘッセの方が、ずっとそうした幼少期の内的な情緒の葛藤や、切実さ、感受性を反映した思い出の描き方が上手いと思う。やっぱり設定している状況が、実際に自分の記憶や過去と重なっていなければ、描き切れないところがあるように思える。 臓器提供のための子どもたちの施設というところまで来て、SFみたいに思えてきました。 | ||||
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31歳の女性キャシー・Hが来し方を振り返る。彼女はヘイルシャ ムという全寮制・共学の学校にも似た施設で育った。授業の合 間や、就寝時の友達とのたわいもないおしゃべり。普通の小中 学生の女の子にあるようなおだやかな日々が流れる。でもそこ は普通の学校ではなかった。生徒達の生活は施設内に限られて いて、敷地の外に一歩も出ることはない。そこでは教師はガー ディアンと呼ばれ、生徒に会いに来る肉親など誰もおらず、ま た彼らに一通の手紙が来ることもない。キャシーのファミリー ネームは「H」ただ一文字。他の誰もがそうだった。彼らには家 族などそもそもなかった。全員クローン人間だったからだ。彼 らは、臓器提供者として育てられていたのだ。おぞましくさえ 思える施設ヘイルシャム、しかしそこはそれでも例外的に人間 的であろうとした施設だったのだ。 そこでは、絵や詩作や陶芸などの創作活動が特に奨励され、 秀作は定期的にやってくる謎の女性によって召し上げられ、い ずこかへ持ち去られるのだった。小さな謎は深まり、その解決 は結末まで持ち越される。 物語は、主人公とその仲のよい女友達ルースと男友達トミーを 中心として展開していく。友情、誤解、裏切り、和解、そして ・・・。臓器提供者として、若くして死んでいく運命を知りな がら、そのことをことさら苦にするでもなく、彼らは成長しや がて施設を卒業していく。多分16歳ぐらいで。 逃亡することもなく、自殺することもなく、人をあやめること もなく、反乱を起こすこともない。ただただ彼らは自らの運命 に従順である。彼らを監視し管理するシステムがどうなってい るのか、またレシピエントや医者の視点からは、作者はほとん どなにも語らない。ただ、急激にクローン技術が進歩し、成熟 した議論が尽くされないまま現実が先行して、もはや後戻りで きない地点にまで来てしまったことが示される。 2年ほど「コテッジ」で過ごした彼らは、やがて臓器提供者の看 護人を経て、自分自身が臓器提供者となっていく。1回、2回、 と臓器を提供する度に彼らは痛みに苦しみ、衰えて行く。4回を 生き延びるものは希だ。1回を乗り越えられないものもいる、ルー スのように。彼らは死ぬのではない。ドナーとしての使命を completeしたのだ。 12年間という例外的に長く看護人を務めた主人公は、ヘイルシャ ム以来の親しい友人を全て失ったいま、自らも友人達と同じ道 をたどろうとしていることを示唆して物語は終わる。 大きな展開を期待した人は、当てが外れるかも知れないが、カ ズオ・イシグロはかつて女子寮にいたのではないかと思わせる ほど、描写がこまやかでうならせる。 | ||||
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