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わたしを離さないで



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【この小説が収録されている参考書籍】
わたしを離さないで
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないでの評価: 4.10/5点 レビュー 707件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.10pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全707件 561~580 29/36ページ
No.147:
(3pt)

評価に悩む作品です

抑制の利いた筆致で、静かに高まっていく感動。心の微細なひだまで描きつくす巧みさ。キャシーをはじめとする登場人物たちの、あくまで端正なたたずまい。
一方で気になるのは、非現実的な設定、主人公たちが苛酷な運命をひたすら受容する不自然さです。

しかし、ストーリーは最初の淡々とした描写から、しだいに切迫感を帯びたものに変わっていきます。避けられない宿命が、すべてを支配するかのように。
おとなたちが子どもたちを保護するために隠している秘密、ひそやかに語られるほかない儚い望み、すがりつく気持ち。哀愁さえ湛えています。
エミリ先生(元主任保護官)の大審問官的告白は、苛酷な現実世界の比喩か。この不条理は、イシグロ氏によって今後追求されるのでしょうか。
回想の中のヘールシャムに、読者は自己の10代の学校生活を投影しているのかも知れません。

でも、やはり不自然な舞台設定は、私にとっては最後まで違和感を引きずる結果になりました。




わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.146:
(3pt)

クローンにとって死は安らぎである

奇妙な味の小説と呼ぶには思いが深い。長広舌のネタバレがあるのはミステリーっぽい。
設定に破綻要素が多すぎるのはSF小説のようでもある。男女間の真の愛もテーマのひとつ
であるのはおとぎ話とも言える。どこから突っ込まれても平均点を失わない作品である。

翻訳は昭和の香りがする。販売会みたいな訳語に最後まで違和感を感じた。ですます体がやや
ウザく感じるのは日本語の限界を思わせてしまう。否定疑問文に首を振って応えては直訳ミスだろう。
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4151200517
No.145:
(3pt)

レビューをみて購入しました

課せられた過酷な使命を、彼らは比較的自然に受け入れているように感じました。そういう教育を受けてきたからなのでしょうけど、それでも静かすぎるような気がします。普通の人間は、ぎりぎりまであがくものではないのでしょうか。自分たちの運命をもっと理不尽に思ってもいいように思います。あまりに淡々としていて、生に対する執着が希薄というか、私にはその辺りが不自然に感じられ、最後まで描かれている世界に入り込むことができませんでした。あと、学園生活での日常をそこまで描く必要があるのかなとも。
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4151200517
No.144:
(5pt)

カズオイシグロがあぶり出す人間像

読みながら背筋が寒くなるほどの戦慄を覚えた。本書のタイトルが示す情感と、カズオイシグロの代表作『日の名残り』のレトロロマンな読後感から、同様の期待を持って読み始めたのだが、まるで違った現代版ホラーだった。SFといえば近未来を扱ったものがほとんどだが、この小説の舞台は1990年代という同時代である
 臓器移植を扱った小説や映画は、例えばテオ・アンゲロプロス監督の『一日と永遠』や日本にも梁石日の『闇の子供達』といった秀作が存在するが、臓器提供者は他者化されており、彼等を巡る人物たちのヒューマニティーが課題だった。これと違って、この物語は提供者の一人称の語りで展開する。主人公のキャシー・Hの賢さと優しさに感情移入すればするほど、常識がひっくり返ってこの世界の狂いようが剥きだしになる。
 もちろん現実にこんなことが起きているはずはない。作者の度を超した妄想と笑い飛ばすことは可能である。だが人間が人間以下の人間を作り出してきた歴史は否定しようがない。古代ギリシャでは奴隷は人間ではなく「労働する動物」(ハンナ・アレント)だったし、アメリカでは19世紀まで黒人が人間以下であることを「科学的」に証明しようとして躍起になっていた(S・J・グールド)。奴隷と黒人が人間に「昇格」した後、苦役労働をロボットに肩代わりさせようとの期待があった。しかし何万もの精巧な部品を組み合わせて知能を有するアンドロイドを組み立てるより、クローンを作る方が易しいという風に技術開発の方向が変わって来ている。クローンにはこれに加えて人間に臓器を提供するという新しい役割が担わせられ得る。現在のところは人間のクローンを作ることは禁じられているが、増加する臓器需要を満たすことは緊急の課題でもあり、古典的な倫理観がどこまでこれに耐えられるかどうかは甚だ心許ないのであって、そう考えると、カズオイシグロの想像力はそれ程荒唐無稽ではない。
 クローン人間たちは、アシモフが唱える人間とロボットの主従関係−人間に危害を加えない、人間の命令に服従する、自分の身体を守る−に添うように作られているようである。クローンの若者は彼等を待ち受ける運命に逆らわない。
 ヘールシャムではクローンは人間的な全寮制学校で育てられるが、他の場所では家畜のように飼育されている様子。妊娠機能を失っている彼等だが、セックスは臓器の発育によいとして奨励される。フリーセックス的な状況の中で、彼等が唯一望みをかけるのは、「真の恋愛関係」にあるカップルが、それを認められて3年間の臓器提供猶予が許されるという噂である。しかしそれはヘールシャムが発生源の全くの嘘だった。一部の教育者が学校という制度の中でクローンを養育し観察していたのは、クローンの魂の見え方ではなく、クローンに魂が有るか無いかということだった。犬に魂が有るか無いかを議論することと全く等しい発想だ。  
 クローン人間を人間以下とすることは、原理上黒人を人間以下とする発想と変わるところがない。クローン人間の「細部まで抑制が利いた」(柴田元幸)の思考と行動からあぶり出されるのは、人間の側に魂が有るか無いかという問題なのである。2011年の現在に、これを馬鹿馬鹿しい小説だと言って顔をしかめることは出来ても、2025年に同じように顔をしかめることが出来るかどうか、筆者には全く自信がない。
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4151200517
No.143:
(5pt)

カバーが巧い

1ページ目から抵抗なく作品の世界に入れて一気に読了。作者と翻訳者の文章にとても魅力があった。
話の設定は突飛ではなかったと思うが、最初に大きい秘密を知るところまでは読むのを急いた。途中、幾度か(漫画で)数作品を思い浮かべる。
主人公の一見冷静な語り口は感情の起伏を感じさせないようでいて、登場人物の置かれた状況に思い入れが入って読めると訴求力が強く在るだろう、不思議な雰囲気をもった大変素敵な作品でした。
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4151200517
No.142:
(5pt)

自分の中のベスト5入り

衝撃的な内容であるにも関わらず
その出来事を越える人間の心の動きを描いている。
素晴らしい小説にめぐり合った喜びがこみ上げてきます。

彼のインタビューで世界中にいる過酷な運命に従うしかない
人たちに心を寄せて書いている・・
初めから漂っているザワザワした不安感はそのまま
へールシャムの子供たちの気持ちをより身近に味わって
ほしいから・・ともありました。

人間の気持ちの真実に近づくために何重にも練られていて
驚きと同時に静かで深い感動を味わえました。
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4151200517
No.141:
(5pt)

Great!

旋律と戦慄がフーガのように放射される作品です。何気ない日常の中に忍びよる切ない未来。重く・深いテーマをKazuo Ishiguroはさりげなく私たちの前に提示しています。2010年日本でもロードショウされた映画を見忘れました。英語版も日本語版も公式サイトがあり、予告編もyoutubeで見られます。レビューにはなりませんが、早くDVD化される日を一日千秋の思いで待っています。
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4151200517
No.140:
(4pt)

末期癌患者のメタファーとして読む。残酷な運命をいかに受け入れるか。

過酷な運命を予め定められた若者たちの話なのだが、末期癌を患い、余命があと半年から数年という自分にとっては、本書はSFともミステリーとは読めなかった。

末期癌で、近い将来に死を予定された人が自分の運命をいかに受容し、その過酷さと妥協し、最後は思い出を唯一の糧として死んでいくのか、というメタファーとして読んだ。いわば、数年後に死ぬことが決められており、それを変えられない事実として予め知らされているという状況。自分では運命を変えることはできず(新しい癌の特効薬が出来ない限り。そして、それは絶望的だ)、抗癌剤によって(極めて苦しい副作用を伴うのに、完治されない)余命を数ヶ月、数年引き延ばしているという人生。自分の死を意味する「提供」が数年猶予される僅かな可能性に、主人公たちは心を揺さぶられるが、それは効かないかもしれない新たな抗癌剤の登場に期待をかける末期癌患者(癌難民)に良く似ている。

私のような読み方は邪道で、著者は運命の過酷さと、それにいかに折り合うべきかという主題についてを、臓器提供のためにだけ生まれてきたクローン人間という想像を絶する設定を用いて、淡々と語っているのだろう。しかし、目前に死を控え、抵抗してもしようがないという意味で、本書の主人公たちと似たような人生を送っている私にとっては、全くの絵空事とは思えず、かえって感情移入が難しく(余りにも自分に身近だと、白けてしまうのか)、没頭できなかった。

何故、彼らは自分の運命を変えようとしないのだろうか。

死を目の前にして、私は、自分の人生の意味を考え、無駄な人生でなかったと思いたいのだが、私にとってのヘールシャムは、宝物とはなんだったんだろう、としばし感慨に浸った。
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4151200517
No.139:
(5pt)

生を実感しながら生きていくこと

2005年発表の本作品は、長崎県出身の英国人作家である著者の新しい代表作と評価されている作品です。

−−と、「新しい代表作」などと書きながら、じつは著者の作品を読むのは初めてでした。名前は知っていたものの、文芸作品をあまり読まない私にとって、これまで触手が伸びずに来たのです。

この作品を読むきっかけは、「謎めいた作品設定」に興味を覚えたから。

物語は、介護人キャッシーの視点で、子ども時代を過ごしたヘールシャムという施設での出来事を回想する形式で語られる。
ここで共に暮らした友人達は、「提供者」と呼ばれ、世間から隔絶され、図画工作に没頭するような授業を受けるとともに、健康診断を毎週のように受診させられていた。
彼らには、想像を絶する運命が決定づけられていたのだった…。

エンタテインメントではないので、「提供者」が意味するところは、物語の早い段階で明らかになりますし、その真相を楽しむといった類のものではありません。
それでは、「提供者」にどんな意味があるかと言うと、本書で著者が語りたいことを描写するための、見事な舞台設定になっていると言えましょう。

このレビューを書いている2011年4月現在、本作品は映画化され、日本公開中です。
著者は公開前の本年1月に日本を訪れており、映画の公式サイトにインタビューの結果が掲載されています。
そこには、「この物語のメッセージは『皆が思うより、人生は短いということ。その中で最も重要で、やるべきことは何なんだろうか?』ということです。」との言葉がありました。

そう、本作品の「提供者」は、「生を実感しながら生きていくこと」を私たちに考えさせるきっかけとなっているのです。
優しく繊細な著者の文体は、主人公の友人達の運命を通して、私たちに「自分の人生」とどう向き合うかについての、ヒントを与えてくれているような気がします。

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4151200517
No.138:
(5pt)

決して解かれることのない「生きること」に対する問い

映画化されるにあたって、改めてゆっくり読ませて頂きました。
著者の他の作品は読んだことがないのですが、はじめの数ページ、いや数行を読むだけでその世界観に入り込ませてくれました。
いわゆる際立った台詞まわしや文章が、ということでなく、あくまでその世界がじんわりと伝わってくる感じです。
翻訳もこの作品体験を骨格として支えているような、歯ごたえのある文章で、噛み解いていく心地良さがありました。

多くのレビュアーの方々が大変しっかりとしたレビューを書かれているので、いまさら中身について触れるのも、とは思いますが、
一点だけ書くとすれば、この物語の問いかけについてです。
私にとっては「生きること」に対する、真剣で、暖かい問いかけを持っている作品だと思います。
我々の目の前にある一歩一歩が、隣人や、自分の知らないところで実は絆のある方々の一歩一歩が、
実はこんな形で刻まれていくのだな、と言った事を考えさせられました。

生きることは、決して、それだけの事ではない、そんなことを感じさせてくれました。

お読みになって居ないかたで、こういった問いについて普段から興味のある方であれば、
必ずや何かしら(言い意味で)心身ともにかき回してくれると思います。
是非たくさんの人におすすめしたい小説です。

映画も上映初日に見に行きましたが、小説の世界を見事に抽出された名作品でした。
映画もあわせて是非ご覧下さい。
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4151200517
No.137:
(5pt)

生涯の愛読書となりました

仕事・家事・子育てに翻弄される日々の中、
TVのバラエティー番組で紹介されていたのを観て本書を知りました。
それまで「カズオ・イシグロ」が有名な作家というのも知らず...

英国的な美しく静かで規律のある寄宿舎生活の描写の中、
時折現れる不協和音的なエピソード。
淡々とした日常の回想から、後半にかけて徐々にスピード感のある展開もすばらしい。
読み進むうちに、なんとなく頭の中に浮かぶ、ぼんやりとした像が、
最後にピントがはっきりし、さらに想像以上の姿を現した時の衝撃、
さらに予想を裏切るかのような結末と、感動的なラストシーン!

「物語は映像的・映画的に考えてしまう」とイシグロ氏の言葉にもあるように、
情景の描写が細やかでわかりやすく、頭の中でスムーズにビジュアル化しながら
ぐんぐん読み進むことができました。

「生きること」や「いのち」、そして「アイデンディティ」について深く考えさせられる、
哀しくせつない愛の物語です。

今回、映画化を知り、予告を見ただけで、涙が。。。
かなり忠実に再現されているそうなので、公開が楽しみです。
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4151200517
No.136:
(5pt)

静かに、静かに小説は進むが…

これまで読んだ小説の中でも、最も好きな小説の1つです。土屋政雄さんの翻訳も素晴らしい。現代文学の最高峰の1つと言ってもいいかもしれない。

1923年から2005年までの英語で書かれた小説を対象にした、タイム誌のオールタイムべスト100にも選ばれている作品です。(もとのタイトルは、Never Let Me Go)

http://www.time.com/time/2005/100books/the_complete_list.html

内容については書かずにおきます。多くの書評が言うように、最初は、事前に何も知らないままに読んでもらいたいです。ただ1つ言えるのは、静かに、ほんとうに静かに、少しずつ明かされていく事実が、そして事実を運命として受け入れる人間のあり方が、読者の胸を締め付けるということです。

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4151200517
No.135:
(5pt)

穏やかな感動が心をとらえて離さない作品

「おれはな、よく川の中の二人を考える。どこかにある川で、すごく流れが速いんだ。で、その中に二人がいる。互いに相手にしがみついている。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。おれたちって、それと同じだろう?」。

キャシー、トミー、ルース。へールシャム出身の若者たち。
淡々と落ち着いた語り口で物語りは進む。

平静でいられるはずがないし、
あてにならない希望にすがるときもある。
でも、結局彼らはそれぞれのやり方でその感情を処理し、
成長し、運命を受け入れてゆく。
最初から、それしか選択肢がないことも本当はわかっている。

現実にはありえない設定の話だ。
日本と違い、米国サイトでは否定的な意見も結構多い。
ただ、この作品は、強引に読者をこの世界へ引きこもうとはしない。
本人たち以外にはそれほど意味の無い、ちょっとした出来事の重さや、
秘密や、わずかな心の乱れを、慎重に描き出す。
穏やかでとても繊細な文体だ。美しさすら感じる。

本の扉を閉じながら、言葉にするのが難しい静かな感動に包まれた。
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4151200517
No.134:
(5pt)

切ない新境地

近未来SFともみなしうるからイシグロの新境地だろう。もっともこの作家は常に新しいものにチャレンジしているようなところがあって、その点はいつも感心するのだが、しかしこの作品はまた、ここまで来たか、と思わせるものがある。
 いわゆるネタばれにならずにこの小説について語るのは難しい。近未来の、いささか混乱し傷つき希望を持つことが難しくなっている世界の中で、先端科学がからむ話としておこうか。トーンは暗い。
 だがホラー小説にもなりうる設定でありながら、むしろここにあるのはひたすら哀しみである。この小説の映画版が間もなく公開されるのに際して、2月10日の毎日新聞夕刊にイシグロのインタビュー記事が載った。それによると、イシグロが考えたかったのは、前面にあるように見える生命科学の倫理よりも、限りある人生という普遍的な問題だったという。
 イシグロといえば、いわゆる「信頼できない語り手」の問題が定番である。つまり、語り手の嘘=不確かさ=生き方の希薄さが、別に浮かび上がる事実によって明らかになる、というパタン。だがここでは、それは使われていないのではないか。とすればそれは何を意味するのか。
 上述の夕刊では「記憶を武器に死と戦う」という見出しがあったが、興味深い点である。今までの作品では、語りの元となる記憶は不確かで、しばしば欺瞞につながるものだった。だがこの物語ではそれが転倒している。ほかの現実はすべてが失われてゆく中で、語り手の語る記憶だけが、確かな真実、生きる拠り所としてあるのである。それがとても切なく辛い。しかしそれゆえに深い感動を呼ぶ。
 今更のようにイシグロの重要テーマの一つとして、人間の絆の分断というものがあることに気付かされた。

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4151200517
No.133:
(5pt)

無限の謎解き

著者はインタビューでこの作品について「完全に幸せな子供時代を描きたかったのです」と語る。確かにヘールシャムにおいて養育されていた時期には主人公たちはそのように感じていた。子供の眼はすべてを見てすべてを見てはいないからだ。
15歳を過ぎてコテージに移ると自分たちをとりまく世界とどうかかわってゆくかが彼らの課題となってゆく。その際に主人公が語るように彼らにはモデルがいないため、住居(飼育場所)にあるTVや雑誌により
情報を得てそっくりコピーせざるえをえない。複製が人間のしぐさや言い草までも複製するという、苦い
ユーモアを著者はあちこちにちりばめるが、それは物語の中盤から始まる。5歳から英国人となり成人して
小説を書くイシグロは英文学特有のユーモアと諧謔を織り交ぜ、やさしく温かいのか冷たく突き放しているのか読書にとり認識しがたい状況をいくつも繰り出し、ヒロインに語らせる。(複製が小説家の複製をする)。たとえば性に関する彼らの悩みや行動は共感を喚起しつつ、読者にとってほとんど立ち直れないくらいの衝撃や絶望感や哀れみをもよびおこす。なぜ彼らは逃亡しないのか。なぜ自ら命を断ってむごい運命から逃れようとはしないのか。それは教育のなせる技なのか、それとも心すら操作できる科学技術を人間たちが獲得している近未来なのか。いくつもの謎を提供し、読者に沈思させる。涙や微笑がいつしか無限のおそろしさに変化し、魂が震え身動きすらできなくなる。たんなるSF小説と断じることを阻む傑作である。
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4151200517
No.132:
(5pt)

命の操作と魂の操作と

2011年春の映画公開の前に再読。
展開が分かっていても、淡々とした独白によって、少しずつ物語の核に近づいていく感覚を改めて味わうことができた。なぜ彼らはこんなに文化的な生活を送る必要があったのか、そもそも彼らは生きているといえるのか。そして、静かな残酷さに包まれながら読了後に思う、果たして私は彼ら以上に人生を生きることができているかと。
日本語はほとんど話すことができないという著者の、日本人としての死生観が垣間見れる部分も非常に興味深い。
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4151200517
No.131:
(5pt)

美しく哀しい絶品

カズオ・イシグロ氏の名前はかなり前から知っていたのだが、氏の作品に接するのはこれが初めてとなった。
まず、これほど哀切で美しい小説はそう存在しない。余分な虚飾をそぎ落とした文体は怜悧で見事にシーンを構成し、そのストーリーテリングも卓越している。〜設定そのものに余り触れるとネタばれになってしまうが、ある施設で育てられている子供達の『役割』は非常にシュールでありながら、極めてリアルに創られている。下手をすれば二級のSF小説のようになってしいそうなモチーフを、イシグロ氏の緻密な設定と文体はその存在をおおげさな誇張なく、けれんのない文章で、いやだからこそ、私達の胸に痛みをもって突き刺さる。
人生とはなにものなのだろうか。
彼ら彼女らのような存在に生まれた事は、人として存在する事の意義を哀しくあぶりだす。ラストのある種の「逃げ道」がふさがれてしまった時の絶望感は舌筆に尽くせない・・・。
イシグロ氏は本作で作風が変わったと側聞する。しかし、これだけ『魂』を感じさせる小説を書く作家なのだから、作風が変わったとしても期待に胸が膨らむ。ハヤカワからでている文庫は本書以外すべて未読なので、これからが楽しみだ。
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4151200517
No.130:
(5pt)

たゆたう

穏やかながら、全体的に悲壮感がうっすらとにじみ出ている。
大きな波はなく、うつりゆくように話が展開していく様が芸術的。
人の成長、時間の移り変わりなど
誰とでも隣り合わせになっているはずの普遍のテーマを
ひっそりと書き上げている。
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4151200517
No.129:
(5pt)

先入観なく読んで欲しい(できればレビューも読まないで)

(まだこの作品を読んでいない方へ)
ここに投稿されているレビューの中にも、ネタばれに近いことを書いてあるものがいくつかあります。
先入観なく読んでいただくためにも、あまり読まないことをお勧めします。純文学でありながら『このミステリがすごい!2007年』の第10位にランクインした魅力が薄れてしまいます。
もっとも、たとえ先に知ってしまったとしても、それでもなお余りある魅力に溢れた作品なのですが。純文学やミステリという特定の分野に収まる作品でもありません。

鮮やかな衝撃とともに、感情を奥底から揺さぶられるような、鮮烈な読書体験をさせていただきました。
文庫では、イラストレーターの松尾たいこ氏の手によるカバーのついた〈プレミアム・カバー・エディション〉があります。個人的にはこのカバーもとても気に入っています。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.128:
(4pt)

ラブストーリーに社会的メッセージも込める

映画をキッカケに読みました。

原作の素晴らしさはもとより、
思った以上に忠実に描かれていた
映画にも驚かされました。

映画でも涙が止まらなかったラストは、
原作でも眼が潤んでしまいました。

ファンタジックな世界ですが、
近未来に本当にありそうと想像すると、
背筋がゾクッとしてしまいます。

ラブストーリーでありながらも、
そんな社会的なものも含んでいる今作。

映画も、もう一度、見に行こうかな♪
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)Amazon書評・レビュー:わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517

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