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死の味



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死の味の評価: 7.67/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.67pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(10pt)

これぞ英国ミステリ女王のミステリだ!

本作から文庫本で上下巻による分冊刊行。ちなみにポケミス版は1冊だが、昨今よくある活字を大きくしたり、1冊の分量しかないのにわざわざ分冊にして浮利を得ようとする水増し分冊ではなく、上下巻に値するボリュームを持った作品である。つまり先にさんざん「疲れた、気が滅入った」を連発していた『黒い塔』よりもさらに分厚い作品なのだが、これは非常に面白く読めた。

本書の舞台は教会。教会の中で見つかったのは2つの死体。一人は元国務大臣ベロウン卿。もう一人は浮浪者ハリー。この奇妙な組合せの死に隠された謎を追うのがダルグリッシュなのだが、本作ではダルグリッシュだけではなく、彼の部下と共にチームとして捜査に当たる。今までの作品ではほとんどダルグリッシュの単独捜査だったのだが、よくよく考えるとこれは非常におかしく、現実味がない。それを実現させるためにジェイムズはダルグリッシュが休暇中に訪れた場所で事件に出くわすという手法を採っていたわけだが、仕事でも殺人事件に追われ、休暇でも殺人事件に出くわすということにさすがにジェイムズも無理があると思ったのだろう。しかもダルグリッシュは警視なのだ。どちらかと云えば署に居て、部下に指示を出して捜査を進める指揮官的立場なのに、自ら現場に出向いてしかもあわや一命を落とすという危難に逢ったりする、よく働く警視なのだ。
で、今回はこれが非常に功を奏している。特に部下のうち、女性警部のケイト・ミスキンはどこかコーデリア・グレイを思わせるキャラクターであり、ジェイムズがいかにコーデリアというキャラクターに未練があったのかを匂わせる。この2人が物語に彩りを添え、いつにも増してダルグリッシュのキャラクターに人間くささを感じる。

本書はこれまでジェイムズが得意としていた緻密なまでの人物描写、心理描写の粋が素晴らしい形で結集した傑作となっている。
教会で一夜を過ごした後、急に大臣の職を辞した被害者の1人ベロウン卿。彼の私生活はスキャンダルに満ちており、夫婦のベクトルは御互い違う方向に向いた、決して誉められる物ではない。
その彼がなぜ浮浪者と一緒に殺されたのか?
そして被害者のみならず、今回ダルグリッシュの部下となるケイトの抱える闇も重く、単に男社会で孤軍奮闘する女刑事というステレオタイプの人物像になっていない。この厚みある人物造詣が物語をさらに深くする。
そして今回白眉なのは事件を決定付ける証拠の扱い方だろう。なんとも皮肉というか、綱渡り的というか、いやあ、こういうの、好きだなぁ、本当。

事件は正にこのベロウン卿に尽きる。彼がある特別なことをしようとしたその瞬間に起きたがために実に不思議な状況として警察の前に差し出されたのだ。これはカトリック社会である英国でしか起きない事件だろうし、また爵位など階級が残る社会構造もこの事件を構成する一因だろう。
よくもまあ、このような事件を考えた物だと実に感心する、そして結末に感嘆する作品だ。私は本作でダルグリッシュ警視シリーズ第2期の始まりを告げる作品ではなかったかと今になって思う。今のところ、本作がダルグリッシュ警視シリーズで私が最も好きな作品だ。

Tetchy
WHOKS60S

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