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貴婦人として死す
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【この小説が収録されている参考書籍】
貴婦人として死すの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.13pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全23件 1~20 1/2ページ
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医者の手記という形のミステリー。 アガサ・クリスティのアクロイド殺しを思い出しましたが、果たして犯人は一体誰か? 私は油断して読んでたので、結末あっと驚きました。 | ||||
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足跡のない殺人を扱った本作。 そのトリックは細かいところまで配慮されており、なかなか巧妙です。 あと、事件の現場から離れた場所で発見された拳銃という謎に対する解決は、少しバカバカしいなと思いながらも意表をついて面白かったです。 ただし、カーにしては地味なストーリー展開と感じました。 また、犯人限定の手がかり自体は巧妙ですが、そのことにかかわる犯人の行動が不必要に思えました。 (つまり、探偵役に手がかりを与えるために、無駄な行動をとっているように思える)。 とはいえ、全体的になかなか楽しめました。 | ||||
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犯人は跡形もなく逃走という事なのだが、トリックはそれほど感心しない。考えてたどり着く楽しみが薄い。また、真犯人にたどり着く説明に関し、もう一つ納得出来ない。 | ||||
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英独が開戦しナチスがいつ侵攻してくるかわからない物情。夜間においては、上空の敵機から集落がバレないよう灯火管制が敷かれているというこの物語のシチュエーションを現代の読者は正しく把握しているか?カーが執筆した時の英国の状況がたまたま非常時だっただけかもしらんけど、本作ではそこにも意味がありノース・デヴォン地方リンクーム村の闇夜は一層暗く、その中に潜む者を包み隠す・・・。 不倫のふたり/ウェインライト夫人であるリタとバリー・サリヴァンが心中したと見られる〝恋人たちの身投げ岬〟。 瓶を投げつけられたヘンリ・メリヴェール卿の座る電動車椅子が崖から落下しそうになる場面もただのコメディ要素だけではなく、 眼下70フィート(約20m強)の崖の高さを無意識のうちに読者に刷り込ませているし、 上手いね~。真犯人は実に巧妙に隠されて。 気になった点はふたつの証拠物件のみ。詳しくは書かないが、 スティーヴ・グレインジ弁護士が道で拾ったあるものと、〝海賊の巣窟〟という名の洞窟に残っていたあるもの。 これらの扱いについてはもう一押し、登場人物の自然な行動の結果に見えるように完璧にしてほしかった、ウン。 乱歩でいうところの〝あくどさ〟が無い『何者』に対し、カーの〝怪奇性〟を使わなかった本作、 私はどっちも高く評価している。 リタ・ウェインライトの遺書の部分をこの創元推理文庫(創)と昭和30年代のポケミス(ポ)で比較してみると、 (創)「ジュリエットは貴婦人として世を去りました。責めないでください。邪魔もなさらないで。」 (ポ)「ジュリエットは操を立てて死にました。さわがないでください。責任のなすり合いもなさらないで。邪魔もなさらないでください。」 原題『She Died A Lady』を『貴婦人として死す』と最初に訳したのはポケミス版での訳者・小倉多加志だ。 原書を持ってないからこの部分の原文もわからないけど、果たしてどっちの訳が正確なんでしょうね? ただ、これだけは言える。〝Lady〟には〝貴婦人〟という意味は勿論あるが、日本語でいう〝貴婦人〟とは高貴な身分の婦人のことでしょ。『貴婦人として死す』という書名にすると見栄えが良くなるから営業的には望ましい。しかし、リタ・ウェインライトは決して高い身分でもなければそこまで誇り高き性格にも書かれていない。皆さんが本書の感想を寄せておられる中、ひとりだけ本を読みもしないでいつもレビューを投稿している人物が〝貴婦人〟という言葉の表面的なイメージから思いついたのか〝エレガント〟などと筋違いなことを書いている。 思慮深く読んだ人ならおわかり頂けると思うが、本作での〝A Lady〟は〝貴婦人〟というより〝(ひとりの)女として〟と受け取るほうが正しいのでは?あなたはどう思いますか。 灯火管制の他に、当時の英国と米国の関係さえもある人物の行動の謎を解く手掛かりが実は隠されている。 同じ時代なのに「探偵小説はまかりならん!」「この聖戦下に男女の不倫などけしからん!」とか言って、 国策が非論理的過ぎだった我が国と比べると1940年の戦時下という状況にも必然性を持たせて、 こんな面白い本格探偵小説を生んでいた英国は健全だ。日本も勝てぬケンカ(戦争)は早く止めとけば、 国土を焼かれず、美しい戦前の本・雑誌だって今ある数量の何十倍も残存していたろうに。 | ||||
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38歳(本当は42歳)の人妻リタ・ウェインライトと25歳の美青年バリー・サリヴァンの不倫恋愛を中心に据えて、非常にミステリアスなドラマが展開する。 ヘンリー・メリヴィル卿の推理の冴えもさることながら、最後、絶対にありえないような人物が真犯人というもの面白かった。 ヘンリー卿やルーク医師の推理も、新たな事実で覆されて二転三転し、ラストまでハラハラドキドキ。結局、日曜日1日で全部読み終わってしまった。 イギリスが舞台で、多少怪奇趣味があるのも好ましく、ダフネ・デュ・モーリアの超名作「レベッカ」を連想したりしました。 熱烈な不倫恋愛の果ての心中というショッキングな事件で始まる「貴婦人として死す」は、また再読したくなる作品である。 あえて難点を言えば、ヘンリー卿の言動がやや大袈裟である。まあそれも個性かもしれないが。 他のキャラクターはなかなか面白かった。人妻リタと青年バリー・サリヴァンの美男美女カップルは言うに及ばず、ルーク医師、その息子のトム医師、リタの年取った夫アレック・ウェンライト、さらにはモリーとポール・フェラーズのカップル(最後の方でカップルと分かる)、クラフト警視、バリーの妻ベル・サリヴァン。もっとも、バリー・サリヴァンは美青年という点を除けば、それほど個性的と言えないかも知れない。 何はさておき、休日に一気読みするミステリーとしては最高の部類に入る一冊でした。 | ||||
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噂になっていた人妻と俳優の卵の二人が海に臨む崖まで足跡を残して姿を消し、後日海岸で遺体が見つかった事件。心中説、殺人説、逃亡説のいずれにも矛盾点が見つかり、捜査は混迷する。物語中盤で登場するベル・サリヴァンの冒険内容が謎を更に深めていく。 作者の特徴であるオカルト趣味は見られず、事件関係者の手記で事件が語られ、その記述者が事件の真相にかなり肉薄している。 本作品は、複数の人物の思惑が絡み合って、その行き違いによって謎が複雑化しているところに面白さがある。 電話線が切断された理由や車のガソリンが抜かれた理由、足跡の謎の真相が秀逸。 メリヴェール卿が犯人を特定した理由は、読者には気づきにくいものであり、犯人当てとしての難易度が高い作品。 | ||||
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医者の手記という形で、ある夫婦の妻とその年下愛人の失踪事件(後に死体で発見)の顛末を語った作品。失踪し死んだ2人は自殺だったのか他殺だったのか? 語り手の年配医師の人柄のせいか、カーの怪奇趣味が封印されているせいか、一部ロマンス小説のようでもあり残酷な描写もほとんどなく(特に女性の私には?)とても読みやすかった。崖から飛び降りたとされる妻と愛人の足跡の件や、とある人物が遭遇したという号泣する人物など、謎も散りばめられていて最後まで飽きさせない。しかし、結局は誰も幸せにならなかった(ある1人を除いて?)事件の結末を思うと少しだけ切なくもあった。まあ、この手の話にありがちな1組のカップルは誕生しましたが。 ハラハラドキドキというものではないが、のんびりした休日に、コーヒー片手にほろ苦い余韻を味わいながら読むにはぴったり。 しかし、この題名に込めた意味って・・・。皮肉? | ||||
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再読であるが結末には驚かされた。 足跡トリックや医師の手記による心理的トリック等さすがはカーと思わせるが、前半が冗長で読み進めるのには忍耐を要した。人物像も性格が描き分けられてはいるが表面的であり生き生きとしたものは感じられない。老いた善良な数学者(アレック)の中年の魅力的な妻(リタ)が不倫に陥り悩むという深刻なテーマが進む中でH・Mのドタバタは不自然でありそぐわない。事件発生後アレックは病に倒れてほとんど登場しないがアレックの言葉をもっと聞いてみたかった。 解決についても不満が残った。犯人の動機や犯行の全体像がよく見えない。自動拳銃が路上に落ちていたというのも大きな謎であったがその説明にはがっかりさせられた。 後半からは緊迫感が出てくる。手記の書き手である医師が検死委員会で偽証罪で逮捕される可能性が大となるあたりは意表をついた展開である。ここからラストまでは秀逸であるが検死委員会の場面が無かったのはやや拍子抜けであった。むしろ偽証罪となりそこで…という展開のほうが劇的だったのではなかろうか。 リタの書き置き「ジュリエットは…」(p87)や題名である「貴婦人として死す」、医師のリタへの父親的な愛情などを考えると、リタの複雑と思われる人物像をもっと深く描いてほしかったとも思う。 | ||||
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カー(発表名義はカーター・ディクスン)の作品としては『火刑法廷』『皇帝のかぎ煙草入れ』あたりが好きなのだが、本書も面白かった。 カーの作品にありがちな、妙な怪奇趣味的な要素もなく、ちょっと無理かなという密室でもなく、ごく単純な動機を背景とした殺人事件。しかも、トリックもそれほど奇抜なものではなく、叙述と見事な伏線で読ませる。 長さも、ちょうどいいぐらい。派手さはないけど、本格ミステリが好きな方に、お薦めする。 | ||||
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巨匠・カーのH.M. (ヘンリ・メリヴェール卿)ものの長編。古典である。 カーというと、不可能犯罪とか、怪奇趣味とかが頭に浮かぶが、本作はふつうに本格推理小説の形のようだ。 ものがたりはデヴォンの田舎開業医・ルーク医師の手記の形ですすめられる。 ある夜、屋敷から男女二人が消えてしまう。どうやら裏手の崖から飛び降りた様子なのだが、電話線が切られているなど不可解な状況が判明。やがて到着した警察が捜査を始めるのだがしかしさらに不可解な事実が見つかり、そうこうしているうちに案外早いうちにH.M.が登場、といった導入である。 最終的に明らかになるトリックは、現代の読者からするとそれほど驚天動地というようなものではない。デヴォン地域の○○ってそういう特徴があるんだ~というポイントは普通の日本人にはなかなか苦しいし、物的証拠が残ってしまう○○の手段はちょっと気になる。 それから、H.M.の登場シーンがいつになくしっちゃかめっちゃかで、ちょっと鼻白んだというところもある。(余談だが、motorized wheelchair(本書での訳語は電動車椅子。本当に電動なのか?)なるものが第二次大戦中にすでにあったというのが驚きであった。) ともあれ、第二次大戦に突入しつつある時代の英国の重苦しい雰囲気をはしばしに織り込み、謎解きだけではないストーリーに仕上げたというところも、本作のポイントなのであろう。結末は、その時代そのものを利用してうまくまとめてあり、さすが巨匠という感じではあった。 | ||||
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完全に一杯喰わされた、脱帽。見事な解決部には惚れ惚れとする。 カー(ディクスン)の高度な騙しのテクニックが光り輝き、ヘンリー・メルヴェール卿が繰り広げるいささか脱線気味のドタバタ騒ぎの場面を除けば(いや、それはそれで実に愉しいが)カー長編中最もエレガントな出来栄えの長編である。(1943年発表) とびきりの不可能状況を謎の中心に据えているが、オカルティズムの要素を敢えて排し、小さなコミュニティの緊張をはらんだ人間関係がもたらす破局を描いた物語と、二重三重にも仕掛けられた叙述の技巧はクリスティを髣髴とさせる。 第二次大戦最中を舞台とした時代背景がプロットの展開、特に悲劇的な結末に密接に結びついている点も興味深い。 そして巻末の山口雅也氏による乱歩、松田道弘の跡を受け継ぐカー問答はファン必読である。 | ||||
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怪奇色がない作品なので、暗鬱な描写にねっとり絡まれたり、幽霊や吸血鬼の伝説に寄り道する必要がないため読みやすく、郵便屋さんから受け取って早速ページを開いてみるや止まらなくなり、その日のうちに夢中で読了してしまった。 政界でも芸能界でも、ゲスな不倫が話題になっているが、この事件も不倫が発端となる。しかしワイドショーの報道が、姑息にのびた男の鼻の下の長さに行くつくだけでゲンナリするのに対して、本作は巧緻な謎解きストーリーに脳細胞が活性化される。海に向かう断崖へと真っ直ぐのびた男女の足跡。不倫の末の心中かと思われたが、海からあがった二人の死体には、拳銃による他殺の痕跡が―。崖の上には被害者男女の足跡しかないことから、あたかも空中に浮遊できる鳥人間による犯行のような、不可思議な謎が現出する。 魅力的な謎と、ちとやり過ぎではないかと思うほどのヘンリ・メリヴェール卿のドタバタ劇の可笑しさとで、飽きさせることなくどんどん読まされる。足跡のトリックも犯人の正体も、巧みな心理と思考の死角に隠蔽され、一筋縄では解けない。医師による事件の手記という作品の体裁から、かの有名作品なんぞを頭に浮かべたら作者の術中、う~~ん、そうか、あざとい。ちりばめられた伏線も、犯人を限定してゆくメリヴェール卿の論理も面白くそつがない。戦争が影を落とすラストの余韻もいい。物理的なトリック、自然現象の利用、叙述が生む錯誤、ミステリ四十八手知り尽くした匠の複合ワザで堪能させられる、なかなかの秀作だと思う。 | ||||
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ポケット・ミステリの裏表紙では「ディクスン名義の作品中で指折りの名篇」という紹介がされています。これは否定しませんが、残念ながら本文中におかしな訳が数多く見られ、原作の内容を十分に伝えているとはとても言えません。(ただ、犯人と犯行方法は合っていますから、その点はご安心を)細かい点まであげればきりがありませんので主だったところを下に原文とともにいくつか紹介しますので、よかったら本書を読む際参照してみてください。本書をお持ちでないかたには、何を言っているのかわからないところがあるかと思いますが、どうかご容赦ください。 おことわりしておきますが、引用文、ページ数はすべてポケット・ミステリのものです。文庫化された際に直しがはいっているかもしれませんが、文庫は(ご存じのとおりかなりお高いので)読んでいません。 (1)・またその問題を誰とでも話し合える。(1章p7) And he can’t discuss the matter with anybody else. (金棒びきの医者はいやな存在なので)〈ほかの誰とも話しあうことができない〉 (2)・どんな弁護士だってしたがらないにきまっていますけど。(1章p13) No clergyman would do it, naturally. ・ところで、医者、法律家、弁護士、または治安判事などに、(以下略) (14章 p147) (途中略) a physician, a lawyer, a clergyman, or a justice of the peace? 1章でリタは弁護士をsolicitorと言っています。それなのになぜclergymanをかたくなに「弁護士」と訳すのでしょうか? (3)・今夜のところは若い女はぬきでいきましょう。それにはんぱに人数がふえてもまずいし。(2章p23) This is the maid’s night off, and a bigger crowd is awkward. 〈今夜はメイドに暇を出しているので、客が多いと面倒だ〉 (4)・あなた方はなにをして遊んでいたんです?(3章p32) Just tell me: what games have you been up to? もう少し先を読むと、上の問いは切られた電話線について尋ねていることがわかります。それを「遊んでいた」などと言うでしょうか?〈何をたくらんでいるのか?〉〈何をしようとしているのか?〉といった意味でしょう。 (5)・あの二人がわしのうしろで何をしていたかっていうことを。(4章p39) “How those two have been carrying on behind my back” He said. carry onいちゃつく、浮気をする behind one’s back人に隠れて 陰で 上の訳だと、リタとサリヴァンがひそかに視線を交わしたことをさして言っているように思えませんか? (6)・しかし、わたしたちは検死がすむまでは、どうしても二人の死が信じられなかった。(4章p46) But it wasn’t until the post-mortem that we learned how they had really died. 〈検死がすんではじめて二人がどのようにして死んだのか(二人の死因が)わかった〉 作者としては、章の終わりで「えっ、二人は溺死ではなかったの?」と読者に思わせたかったのではないでしょうか? (7)・クラフト君の云うように、犯人の逃走経路は事実完全犯罪だ。(7章p68) As our friend Craft says, this murderer has got away with a practically perfect crime. get away withうまくやりおおせる 上の文、日本語になっていないとまでは言いませんが、意味わかりますか? 〈犯人は事実上完全犯罪をやってのけた〉 (8)・アトリエの草ぶきの屋根もやぶれ放題にやぶれて、きたならしくなっていました。(8章p79) (途中略) what used to be the glass roof of the studio was all broken and messy. 〈ガラスの屋根がすっかり割れて散らばっていた〉 (9)・モリーがそんなことを云うはずがありませんがね。(8章p88) あなたはお嬢さんの云ったことが信じられないとおっしゃるんですね? 信じられませんな。 Molly should never have told you that. “You don’t doubt your daughter’s word?” “Not at all” (以下略) 〈モリーはそんなことを言うべきではなかった〉(訴えられる恐れがあるので) 〈お嬢さんの言ったことを疑わないのですか?〉 〈まったく疑いません〉 doubtって、「信じる」って意味なんですか? (10)・わしはな、やっこさんがごみ箱に入らないうちに、事件の顛末を話してみせることだってできるのじゃ。(9章p96) It would just round out my cycle before the old man goes into the dustbin. この作品でも他の作品でも、H・Mはたびたび自分のことをthe old manと呼んでいます。上のthe old manも、「やっこさん」という未知の人物ではなく、H・M自身のことをさしていると思われます。dustbin云々というのは「また向こう(ロンドン)でも、わしに何もさせる気はないらしい」(6章p58)、「ロンドンじゃ、もうわしも役に立たんと云うとるそうじゃでな(以下略)」(19章p216)などのH・Mの発言と関係があるような気がしますが、正直いってよくわかりません。ただ、上のような訳にならないことは確かだと思っています。 (11)・(途中略)それから少し匍うようにして進んでから抜け出たんです。(10章p117) I crawled a little farther along, the way you do when you come out of water, and then I passed out. pass out意識を失う 最後に「気を失った」と書いてくれないと、そのあとの「気がついてみたら」という発言とつながりません。 (12)・どこか船でいったことはありますかね?(11章p123) “Ever travel abroad anywhere?” 〈これまでどこか外国へ行ったことは?〉 この点についてあとでもう一度H・Mが言及しますので、しっかり訳してほしいところ。 (13)・なぜじゃんじゃん云ってやらないの! なぜこてんぴんしゃんにやっつけてやらないの! いい気味なのにさ!(16章p178) “Why, the guy was crying his eyes out! Crying his heart out! I heard him!” cry one’s eyes (heart) out 目もつぶれるほど(胸がはりさけるほど)泣く 翻訳ではなく創作になっています。10章p111でベル自身が言っているとおり、アトリエで〈男が泣いていた。わたしはそれを聞いた〉と言っています。先生は泣いたりしないでしょ、というニュアンスがこめられているのでしょう。それに対してリューク医師は悔し涙が出たとこたえています。頭のWhyはもちろん「なぜ」ではなく、「ねえ」などの間投詞です。 (14)・A、何か謎(パズル)をやってもいいね。リタもバリーも謎ずきだから。(2章p25) ・B、古い謎々の本ですの。(7章p73) ・C、彼もすばらしく判じ物のうまい男でした。(14章p156) ・D、パズルの本だわ!(19章p208) Cのすぐあとでリューク医師は「いつどこで判じ物のことを聞いたのか思い出そうとしていた」と言っています。それはAの“謎(パズル)”のことをさしています。原文は省略しますが、それぞれ、謎(パズル)、謎々の本、判じ物、パズルの本はpuzzles(puzzle-book)を訳したものです。puzzleにはいろいろな訳し方があるでしょうが、すべて同じものをさしているわけですし、特にBとDは発言者が同じなのですから、訳語も統一したほうが読者に対して親切だと思うのですが (15)・何を云えばいいのかって、なぜクラフト警視に云っておやりにならないんですの?(16章p179) Why don’t you say what Superintendent Craft wants you to say? ・みんなはあした、先生になんて云わすつもりなのかしら。(17章p190) Say what they want you to say tomorrow. 関係詞のwhatをどうしても疑問詞として訳したいようです。いずれもモリーやベルが〈クラフト警視や警察が望むとおりに証言したらどうか/しなさい〉とリューク医師に忠告しています (16)・一応はこれで事件全体についての検討はすんだ。(17章p191) I saw the explanation of the whole thing. 〈事件全体の真相がわかった〉 (17)・(途中略)リタは自分の夫を裏切るようなことは一度もしたことがないと断言した。(20章p222) (途中略)Rita swore to him she’d never been unfaithful to her husband. 1章p14で、リタはサリヴァンと寝たと思いっきり言っていますが、これは裏切ったことにはならないのでしょうか? 第1章に上の原文どおりの発言はありませんので、例えば「あたしはアレックが好きです。うそいつわりじゃありません(以下略)」(p15)といった意味のことを書いた方がよかったのではないでしょうか? (18)・ところが水着の始末を忘れたので、彼はそいつを壁の割れ目へ見えないように押しこんだ。(20章p229) But he forgot the bathing-suits, which they had stuffed out of sight in a crevice of the walls. (p247) 壁の割れ目に水着を押しこんだのはheではなくtheyです。 最後のおまけ ・アーカンサスのリットル・ロックで一九一五年の生まれ。(13章p144) 巻末の訳者紹介によると、訳者は大学教授だそうですが、Arkansasを“アーカンサス”と表記する大学教授がいるなんて | ||||
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1943年発表の本作品は、カーター・ディクスン名義の作品としては、18作目。 この名義ではお馴染みの名探偵、ヘンリー・メリヴェール卿が推理を披露する、本格ミステリ。 じつは、ディクスン・カーの作品は、カーター・ディクスン名義の作品も含め、「傑作」や「佳作」と呼ばれているものは、あらかた読みつくしてしまいました。 このため、今後は、後期に腕を振るった歴史ミステリを読んでいこうかと思っていたのですが、ネット内を巡っていくうちに、本作品が、「絶版になっているとは信じられない傑作」らしいということに気づき、今回の読書となりました。 著者お得意の不可能犯罪を扱った本作品では、いわゆる「足跡トリック」が使われています。 舞台は、イギリス北部のデヴォン州の人里離れた場所にあるバンガロー<いこい荘>。 この裏庭を出ると、海を望む断崖絶壁<恋人たちの身投げ場>への一本道がある。 ある夜、<いこい荘>の当主、アレック・ウェインライトのもとへ、リューク・クロックスリー医師が訪問すると、そこには、アレックの妻、リタ(題名の「貴婦人」)と、リタの愛人と目されるバリー・サリヴァンがいた。 途中で、リタが裏口から出ていき、後を追うバリー。 ふたりが戻ってこないのを不審に思ったクロックスリー医師が、裏庭に出てみると、そこには、ふたりの足跡が点々とついており、断崖絶壁で途切れていた…。 二日後、ふたりの死体が海岸に上がる。 ふたりは至近距離から拳銃で撃たれており、その拳銃は、何と、<いこい荘>から半マイルも離れた街中に落ちているのが発見されたのだった──。 本格ミステリ好きなら、一体どんなトリックが?と興味をそそられるに違いありません。 かく言う私もそのとおり。 傑作として名高い雪密室の「白い僧院の殺人」(1934年)の「足跡トリック」に勝るとも劣らない技巧を凝らしたトリックが明かされ、大満足の逸品でした。 犯行の重要な目撃者であるクロックスリー医師の一人称視点で描かれる本作品、この医師がヘンリー・メリヴェール卿も目を瞠るほどの推理力を発揮するという趣向もなかなか楽しく感じられます。 ただ、多くの作品に見られる怪奇趣味やドタバタは薄めで、著者らしいアクの強さには欠けるかもしれませんが、やはり本格ミステリの命である「トリックが秀逸」な点は、評価したいところです。 冒頭にも記したように、「絶版になっているとは信じられない傑作」であると感じています。 | ||||
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確かに作品としては 最後まで犯人がわからないですし 犯人を推理しようとしても 提示されるヒントが特に見当たらないので 犯人すら思い浮かべられません。 さすがにこの事件では あのH・M卿の推理も さえわたりません。 事件が事件です。 「不可能犯罪」だから仕方ありませんね。 それと結末部は… これはカーの作品を読みこなしている 人には賛否両論者になるでしょう。 新鮮と映るか、 それともこの領分は別の探偵だろうが! と映ってしまうか。 まあ悪くはないのですが 評価は分かれる作品です。 | ||||
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確かに作品としては 最後まで犯人がわからないですし 犯人を推理しようとしても 提示されるヒントが特に見当たらないので 犯人すら思い浮かべられません。 さすがにこの事件では あのH・M卿の推理も さえわたりません。 事件が事件です。 「不可能犯罪」だから仕方ありませんね。 それと結末部は… これはカーの作品を読みこなしている 人には賛否両論者になるでしょう。 新鮮と映るか、 それともこの領分は別の探偵だろうが! と映ってしまうか。 まあ悪くはないのですが 評価は分かれる作品です。 | ||||
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年老いた元数学教授の若き妻・リタと、アメリカ人の美青年・サリヴァン。 二人は、いつしか人目を忍ぶ仲となり、やがて破局を迎えることになる。 リタが住むバンガローから絶壁に向かう二筋の足跡 を残し、リタとサリヴァンは、忽然と姿を消してしまう。 思い余った恋人達の、ありふれた心中事件かと思われたのだが、 二日後に発見された二人の死体には、なぜか銃痕があり……。 本作のメイントリックは、目撃者と捜査陣、それぞれ に向けて仕組まれた、二段構えの《足跡》トリック。 二つのトリックは、互いに補強し合うことで見事に関係者を欺瞞しているのですが、 断崖という特殊なロケーションも、トリックを成立させるための必須の構成要素と して選ばれています(一見無意味に思える、電話線の切断と車のガソリンの抜き 取り、といった工作に込められた周到な意図にも脱帽)。 ところで、本作の大部分は、事件の関係者である、 年老いた医師の手記、という体裁となっています。 医者を語り手に設定することで、読者に××を意識させるカーの企みは、心憎いまでに 図に当たっていますが、その騙りのテクニックによって、真犯人を隠蔽するだけでなく、 苦く、やりきれない真相を、結末で浮かび上がらせているのが、きわめて秀逸です。 本作は、オカルト色を排したカー作品の中では、トリックの構築度、皮肉な人間ドラマといった点 で群を抜いており、個人的には、世評が高い『皇帝のかぎ煙草入れ』よりも、上だと感じました。 | ||||
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年老いた元数学教授の若き妻・リタと、アメリカ人の美青年・サリヴァン。 二人は、いつしか人目を忍ぶ仲となり、やがて破局を迎えることになる。 リタが住むバンガローから絶壁に向かう二筋の足跡 を残し、リタとサリヴァンは、忽然と姿を消してしまう。 思い余った恋人達の、ありふれた心中事件かと思われたのだが、 二日後に発見された二人の死体には、なぜか銃痕があり……。 本作のメイントリックは、目撃者と捜査陣、それぞれ に向けて仕組まれた、二段構えの《足跡》トリック。 二つのトリックは、互いに補強し合うことで見事に関係者を欺瞞しているのですが、 断崖という特殊なロケーションも、トリックを成立させるための必須の構成要素と して選ばれています(一見無意味に思える、電話線の切断と車のガソリンの抜き 取り、といった工作に込められた周到な意図にも脱帽)。 ところで、本作の大部分は、事件の関係者である、 年老いた医師の手記、という体裁となっています。 医者を語り手に設定することで、読者に××を意識させるカーの企みは、心憎いまでに 図に当たっていますが、その騙りのテクニックによって、真犯人を隠蔽するだけでなく、 苦く、やりきれない真相を、結末で浮かび上がらせているのが、きわめて秀逸です。 本作は、オカルト色を排したカー作品の中では、トリックの構築度、皮肉な人間ドラマといった点 で群を抜いており、個人的には、世評が高い『皇帝のかぎ煙草入れ』よりも、上だと感じました。 | ||||
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これをカーの最高傑作群に入れる人は余りいないかも知れない。 でも自分はこれが好き! 何と言ってもこの小説の最大のウリは犯人の意外性にある。 特定の作家は何作か読むと特定のパターンを発見するものである。で、当然あるんですよ、カーにも。そう言った傾向を勘案し、犯人を当てたりもするんですがね(卑怯とは言わないでほしい。そうでもしないとカーは犯人が当たらないんだもの)、この作品ではそう言った姑息な読者に天誅がまってます。しかも、その傾向を(姑息な方法を使って)守りながら……。 あんたらが姑息な手を使うなら、自分も使わせてもらったよ、というカーの高笑いが聞こえてきそう……。 と、言うわけで、この作品は、カーの作品を五作以上、できれば十作ほど読んだ後だとひっくり返ること請け合いです。 いやあ……、びっくりしたなぁ……。 | ||||
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カーの作品の登場人物で、フェル博士と、メリヴェール卿はまるで同一人物で、 どちらもユーモアがあって楽しくて、それでいて話は殺人事件で、と読んでてほんとに 魅力があります。 | ||||
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