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冷血
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冷血の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.76pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全109件 101~109 6/6ページ
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カポーティの歴史上の名作「冷血」に高村薫さんが正面から挑んだ野心作です。 家族4人が強盗に惨殺され、警察が犯人を逮捕し、緻密な取り調べの後で起訴、判決が出て刑が執行される。 その一連のストーリーを作者はまるで細密画のようなミクロの細かさで描き上げます。 被害者の家族の表情、犯人の生育環境、警察の捜査、刑事の葛藤は実際の事件のレポートを読むようなリアリティであふれています。 犯行事実は明々白々であり、犯人の供述が揃っているにもかかわらず、あいまいな犯行動機に合田刑事が疑問を持ち徹底した調べが開始されます。 ここまでが上巻です。 捜査の中で明らかになるのは愛情を知らずに育った犯罪者の境遇であり、偶然の重なりで孤独の中で運命を狂わされて堕ちていく姿です。 ひとりの人間には多様な面があり、僅かなことで人生は思いもかけない方向へ転がるのです。 中年に差し掛かった合田刑事もまた孤独を抱えるひとりの男であることから彼らを「他者」と観ることができません。 彼が抱く殺人者への慈しみの感情は私の心を揺さぶるに十分でした。 「どんな犯罪者でもその命は大切である。生きよ。生きよ」これが高村薫さんの人間の本質への真摯な洞察の末に導かれたメッセージでしょうか。 「冷血」はおそらく作者が身を削るような苦悶の中で探り当てた到達点だと私は受け止めました。 上下巻2段組600ページを読み終わって、私は少しの疲れと寂寥感にしばし立ちすくむ思いでした。広く読まれるべき書として推薦いたします。 | ||||
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難しいことはわかりませんし、書けませんが、この本はおもしろいです! 久しぶりに高村作品では、思考がぐるぐる迷走しないで、スーッと文字が頭に入って来ます。 琴線に触れそうでいて、抑制された文章のためきつくは触れないもどかしさがあり、続きをどんどんと読み進めて、登場する刑事たちとともに物語の深みにはまっていきたいという焦燥に駆られる感覚でもって、一冊さらっと読めます。 さらっと読めるとはいっても、余韻がずんと来るのが高村作品の醍醐味でしょう。 凶悪犯罪を犯した若者(?三十代ですが)の、それぞれの心理と二人の相互作用、衝動と成り行きに流されていく行動(殺人)・・・ 犯罪の現場で何が起こったのか、刑事たちは現場を再現するかのように詳細に掘り起こしてゆきます。 現代を生きる者の闇と空虚を描き、さらには衝動による暴発的な犯罪を、どのようにとらえるのか。 潔癖かつ人間くさい合田刑事の視点から、ていねいに精査・構築していくというドラマになっています。 こんなにまじめでかつ展開はさして起こらないお話なのに、おもしろいなあ〜 人間について考えさせられます。 おすすめです。 | ||||
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著者のファンでした。久しぶりに新刊を手に取り読みました。実在する固有名詞を散りばめリアリティを醸し出し読者を惹きつける手法は好みです。(たとえば原僚氏の作品も好みです。)しかし本作読後の感想としては、・・・でした。被害者となる小学生を筑附の生徒と詳述してリアリティを膨らませる意図は如何かと思います。本作において被害者の子供の属性に実在名を供するのは不要であり、むしろ不快な気持ちとなりました。死刑制度に異を唱える著者の考えに異議はありませんが、容疑者の気持ちを汲み取ろうとばかり懸命になる刑事の姿勢は?です。本書では被害者の視点が完璧に欠落しています。警察小説のファンは多いと思いますが、主人公の刑事が犯人の気持ちを理解することばかりに懸命になる姿は、描く犯罪の重大性が著しく大きなものであるため、読者を醒めさせてしまいます。事実を詳細に描くことにより読者にその判断を委ねる手法は理解できますが、客観的に描写しようとしながら端々に著者の一定の意図が窺われるのは、多くの読者が期待する本来の著者の力量からしてちょっと残念でした。 | ||||
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『晴子情歌』『新リア王』『太陽を曳く馬』は未読の私にとって、合田シリーズの『マークスの山』『照柿』『レディ・ジョーカー』を10年ほど前に読んだきりで久々の高村薫作品となる。 書店にて発売を知り、文学知識の無い私は帯文から「森永グリコ事件の次は、世田谷の一家強盗殺人がモチーフか」と浮かんで購入。ごく一部『太陽〜』だと思われるオウムや9.11周辺の情報があるだけで、すんなり没入することが出来た。 今作はエンターテイメント性は乏しいがドラマがある。過去に今に未来に、人々はそれぞれに何かを抱えて生きている。茫洋とした日常に編まれる歓喜や悲哀といった類の漢字二文字では形容し難い登場人物たちの情念が、理解が決してし難くない情緒のもとに描かれている。 そして事件は起き、合田ら警察は茫洋とした日常から確かに在った事実を洗い出す。 個人的に、今回の事件をありふれ事件と評価してしまう自身と世相に愕然とし、10年前を思い返す。 | ||||
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私個人として、現代作家の中で一番好きなのが作者です。ずっと読み続けていますが、前作の、オウム真理教を題材にした、仏教問答が多い、「太陽を曳く馬」は難しかった。正直なところ理解できないページも多く、何度も読み返し、読み終わるまで何ヶ月もかかり、ぐったりしてしまいました。「靖子純情」「新リア王」から比べても一気にある方向に進んだ感じで、このあとの高村さんの作品はどうなるのだろうかと、ちょっと怖いような、それでも、やはり期待の方が大きく、待ち続けていました。 そして最新作の「冷血」。週刊誌に2010年の4月号から連載されていたことは露知らず、通りがかりの本屋さんに、真っ白な表紙が平積みになっているのにハッと気づき、アマゾンで買って今日読み終わったところです。毎日1,2時間ずつ読んで、ちょうど1週間かかりました。 新鮮な気持ちで、まっさらなところから読んで欲しいので内容に関するレビューは避けたいと思いますが、2012年の最後に、高村薫さんの新作を読むことができて、こんな幸せなことはありません。しかし、一方、またもや深く考えさせられ、打ちのめされてもいます。 読み続けている日々、電車の中で、布団の中で、まわりの世界が違ってみえていました。被害者の生活があり、加害者の衝動があり、犯罪が起こり、警察が動き、やがて犯人が逮捕され、調べられ、裁判に臨む・・・・私の日常では、新聞やテレビで断片的に触れているような事件のひとつが、高村さんによって深く掘り起こされています。それを読みながら、私は日常の日々を過ごしているという矛盾。 同じ世界に生きていて、偶然となり同士になったとしても、まったく違う人生を抱えている他人がいるという当たり前の事実。同じ人間でも、多様な断片を持っているという、やはり当たり前の事実。そして偶然の出会いが、あっという間に殺人事件になってしまうという、酷さ。 「太陽を曳く馬」とは違って、全面的に登場している会田雄一郎警部の視点が読者にとっての救いです。彼自身も若い頃から比べると格段に思慮深くなっており、その自問が何とも言えない。 下巻は一気に進んでいきますが、何カ所か涙腺が緩みました。会田雄一郎警部の思いやりに、です。この作品では、誰も幸福にはならないし、誰も納得しません。それでも日々は積み重ねられて、ひとつの結末に向かいます。 高村薫さんのファンの方なら当然お読みになるでしょうが、多くの方にも、たくさんの書籍の中で選んで、ぜひ読んでいただきたいと願っております。 私は作品の中で語られた高村さんの思想を真摯に受け止めて、自分の今後の行動、他人との関わりを考えながら、死を迎える瞬間まで何とか生きていこうと思います。生きる、生きる、生きる、です。 | ||||
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今回の合田刑事ものは、実に読みやすく、しかも読み応え十分だった。 刑事小説としても、第二章から第三章の公判まで、刑事捜査の部分が実にリアルで、読ませる。 刑事たちは、粛々と尋問し証拠を集め、報告書をあげる。その連続の中で、事件を浮かび上がらせてゆく。 この語り口が、地味な分だけ極めて現実的で、捜査のリアリティを醸し出している。 特に、引き当たり捜査(現場検証)の部分は、強烈だ。順を追って淡々と語られる一家四人殺し。 淡々としているのが逆に、その凄惨さをすさまじく浮き彫りにする。 合田刑事も、前作『太陽を曳く馬』のように、納得できる答えを求めるあまり、思考の堂々巡りに陥るようなことはない。 あるいは、前作で延々と続けた自問自答の果てに、ある境地に達したと言えるか。 どんなにその心理、動機が理解できなくても、犯人は犯人。その事実には何を挟む余地もない―― そして、どんな殺人者でも、生は生であり、死は死である。そこにだけは何の留保もない―― その地点の上で、なおも犯人の“そこにいることの意味”を探ろうとする合田刑事は、やはり前作より一歩進んだ心境なんだと思う。 探った結果が、納得できるかどうかわからないのに。 結局は荒廃と空虚以外の何もないかもしれないのに。 それでも、人が存在することの意味を追い求め続けようとするのだから。 犯人との手紙のやりとりが、合田刑事の意志を、静かに、しかししっかりと表現している。 残虐な事件の惨たらしい詳細を語り尽くした後、それでもなお結末に漂う一抹の寂寥感に、小説としてのある種の到達を感じた。 それから、上巻を読み終えた時点ではカポーティの『冷血』と似た点も多く、どう違いを出すのかと心配もしたが、下巻は見事なまでの高村薫調。高村節全開。 加えて、医療過誤、検察のストーリー作り、死刑問題など、現代の社会的問題も背景としてしっかりと描き込まれ、本書の奥行きをぶ厚くしている。 読後、カポーティについては、全く意識の中から消えていた。 あれほどの名作をふまえて書き始めながら、最後には自分の世界に引っ張り込むその筆力たるや!見事としかいいようがない。 刑事小説としても読み応えがあり、淡々として迫力があり、なおかつ高村文学のテーマもより深みを増した本書は、非常に完成度が高いと思う。 しかし、今思うと、読み進めるのが苦痛なほどだった『太陽を曳く馬』の、バランスを崩しても書きたいことを全部ぶつけてしまう無軌道なパワフルさ。 あれも実は捨てがたいものがあったな、と今さら思ったりもする。 合田刑事が、新たな境地を獲得した中で、それでも再び激しく揺さぶられ突き崩されてしまいそうになる、そんな次回作も読んでみたい。 | ||||
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かつて「私はミステリーを書いているつもりはない」と語り物議を醸した高村薫。 その言葉の意味を否応無しに考えさせられる作品でした。 以下は上下巻両方の感想です。 まず、前に書かれた福澤三部作に比べたら非常に読みやすい作品になっていると思われます。 が、それは前作「太陽を曳く馬」にあったような仏教や前衛芸術、更にその前の「新リア王」に見られる政治といった専門知識に加え、古い言葉使いや仮名遣いがほとんど登場しない故のものです。 テーマとしての難解さはむしろ増しており、ミステリー性やエンタメ性も後退し、ある意味で「太陽・・・」の深化版と言えるでしょう。 そこには「無軌道な若者2人による一家四人強盗殺人」という誰から見ても明白な犯罪事実があり、その事件の捜査や筋立て自体に(これまでは薄らながらもあった)ミステリーらしい意外性はほぼ皆無です。 淡々とした捜査の末に捕まった犯人の、これまた淡々とした取り調べと公判の中で煩悶とする合田ら刑事たちの忍耐がひたすら続くといった内容。 起きた事件に比べてドラマチックな描写や展開はなく、これは言わば高村薫のレポートです。 それ故に(上巻までは事件や捜査と言ったダイナミックな動きがある分一気に読み進められますが)恐らく女史と同じものに興味・関心が無いとしんどいだけの小説になってしまうことと思います。 さて、前作では「分からないものは分からないんだ!!」と投げ出して終わってしまった感のある合田の追求ですが、本作ではどれほど犯人の精神に近づく事が出来たのでしょうか。 個人的な感想としては、様々な後悔や不明瞭なところはありつつも、合田自身の中ではある程度納得できるぐらいには迫れたのではないかと思いました。 それにしても死刑廃止論者として有名な女史ですが、その思想や主張が表に出過ぎる事なく作品としてまとまっているところは流石の高村薫ですね。 女史自身、妥協せずに納得できるところまで続けた末にカポーティに行き着いたのはある意味必然のように感じました。 ラストの何とも言えないもの悲しさには、込み上げるものがあります。 ところで女史はいつまでこのような煩悶を続けるのでしょうか? もちろんファンとしてはこのような作品も興味深いのですが、かつてのような冒険心に溢れたノワールも恋しいです。 作品歴までカポーティのようにはならないで欲しいものですが・・・。 | ||||
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久しぶりの高村薫さんの新作で楽しみでしたが、宗教・政治・親子といった身体的なものを形而上的に捉えようとしていた三部作から一転、上巻を読んだ限りではレディジョーカーやマークスの山を彷彿とされるような重厚な刑事小説に仕上がっています。 一章で被害側と加害側が交差しながら、どちらにも感情移入させにくい仕掛けを施しつつ、肝心の事件の夜を飛ばして、二章で客観的な刑事の視点に移す手法はさすがだと思います。そこから出てくる合田刑事に感情移入していくものの、合田刑事シリーズの古くからのファンとしては、久しぶりの旧友の変化にアジャストしていくところが二章かと思いました。 下巻で、合田刑事がどこまで空虚な事件の内情に迫るのか、そこから言語が先に走る嫌いのあった彼がどのような言葉を紡ごうとするのかとても楽しみです。 | ||||
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高村薫の合田刑事ものが好きだ。 刑事小説の面白さと、重いテーマを追求する文学的側面が織りなす物語世界は、読み応え抜群である。 しかし、高村さんは『晴子情歌』以降、ミステリの比重がどんどん軽くなってきていると思う(『晴子情歌』は元々ミステリですらない)。 合田ものでも『照柿』からすでにその気配は感じられ、それが最もはっきりと表現されたのが前作『太陽を曳く馬』。 描き出されるテーマには強く惹かれるものの、宗教と芸術が絡んで難解さを増す文章のぶ厚さに、いささか辟易したのも事実である。 今回は、まだ上巻だけだが、まずは刑事小説、犯罪小説としてかなりの読み応えがある。 特に第二章からの、分刻みで刻々と描かれる捜査状況が読ませる。あたかも実際の捜査現場を見ているかのような細部のリアリティが凄い。 そして、合田は、まだ事件に対して客観性を保っている。しかし、ところどころ内面の葛藤が顔を出すあやうさもある。これが、下巻でどうなるか。 高村さんの主眼は、刑事小説、犯罪小説としての面白さだけにあるのでは、無論、ないから。 このあまりに酷すぎる事件。そこに引き込まれていく合田を通して、これから何が語られていくのか。何が待っているのか。 それに、もちろん、カポーティの『冷血』、がある。自分はカポーティを読んでいるので、どうしても意識せずにはいられない。 この文学史上の一大名作に、高村さんは正面切って挑んでるのではないかと思う。強い気迫を持つ高村さんらしい挑戦だと思う。 実話とフィクションの違いはあれど、この意識されやすい形の中で、どう高村文学が展開していくのか。追求し続けているテーマを表現し切れるのか。 2つの意味で下巻が非常に楽しみである。 | ||||
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