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虐殺器官
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虐殺器官の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.03pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全369件 301~320 16/19ページ
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噂通りの作品。月並みだが、その世界観、「虐殺器官」をめぐる謎解き、戦闘や情報ガジェットのディテール描写に恐れ入った。 主人公のモノローグで語られるところが魅力的だ。たとえそれが薬物による抑制の結果であるにせよ、冷静な戦況分析や戦闘行動の記述は、現代のゲリラ戦のやりきれなさをリアルに感じた。宿敵と対峙したときの饒舌なやりとりは、アメリカ人の特殊部隊隊員らしからぬインテリジェンスではあるが、物語の特性上、解説は避けられないのであまり気にならない。舞台も複数の戦地以外はプラハという異質な古都を持ってきたところがクールだ。これがニューヨークやロサンゼルスや東京という都会では陳腐だったろう。 結びの場面は、皮肉な展開と既出のシーンとの対比で鮮やかな幕切れだ。もし映像化されるなら、このシーンは落とさないで欲しいところだ。 この作品を十日程度でかき上げるなんて、命を燃やすようなことをする必要を感じていたのか、逆に創作が命を縮めたのか。いずれにしてもこの作品を知った時点ですでに著者はいない。新作に会えないのはあまりにも残念だ。 | ||||
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ゼロ年代最高傑作との帯が付いてたので、買ってみた。 ゼロ年代最高とまで言うなら、鈴木光司のリング並みに 5回位は、仰け反ったり、マジでっ!と叫ばしてくれるのかと期待した。 期待した俺が悪いのか?全然、驚く所が無い。皆無だ。つまらんし。 後、実際に母親に、早死にされた身には、胸くそが悪いだけだ。 コレを凄いと言うは人ば、この手のゲームを知らない人ですね。単にノベライズに焼き直した様な内容です。 帯を書いた宮部みゆきにもガッカリです。 | ||||
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正直まったく期待はずれでしたね いろんな小説やらラノベやら読んできましたが ちゃんと最後まで読まなかったのはこの本が数冊目です 確かに描写はうまいかもしれんが、日本人特有の描写があって 嫌になります こういうのは鼻につくのでやめてほしいですね 確かにそこらの小説よりは面白いのかもしれませんが、ここまで 挙って絶賛されるほどの本ではありません ☆5付けてる方は他の小説やらなんやらを、ちゃんと読んでるんですかと問いたいですね 果たしてこの本自体をちゃんとレビューしてるのかと・・w 他人が面白いと言ってるから、自分も言っとけみたいな乗りはやめてほしいです つまらない買い物をしました | ||||
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文庫版の帯に、宮部みゆきが「私には、3回生まれ変わってもこんなにすごいものは書けない」と感想を寄せていた。宣伝のためのおべっかと思ってたけど、読むとその意味がよく分かった。全編緻密で、いろんな要素がぎっしりつまっていて、語彙も豊富でセンテンスも洒落てて巧い。どこを読んでも隙がない。筆力とか文章力とか知識量とか、どう表現したらいいのか、SF的ではない部分まで、いや、私にとってはそうでない部分のほうが綿密で、精巧で、圧倒された。翻訳調の小気味いいリズムに、何度か出てくる”抹香”がそこだけ妙に日本人臭かったり、とか、重箱の隅をつつけば違和感もあったけど、ごくごく些細なことだ。オマージュが多いせいもあって、いちいちこれはオリジナルなのか?と疑ってしまうくらい完成されている。もちろんオリジナルとはなにか? という根源的なことを考えるとキリがないし、作家は誰しも、膨大な過去の名作に触発されるのだろうけど、それだけ細部までぎっちり意味がつまっている。多くの人が絶賛するのが分かる。伊藤計劃という作家にしか書けなかったと思う。 文句なく楽しかった。興奮のあまり徹夜したあげく、いろんなレビューに「分かる分かる!」と票を投じてしまった。反対にがっかりした人がいるのも理解出来る。他の人が書いていたけど、後書きにあった小松左京の批評はもっともだ。でも虐殺の分法を具体的に書くのは不可能だろう。その部分はファンタジーと割り切れる。 ただ常人では書けない”すごいもの”であることは確かでも、自問自答したとき、圧倒的な技巧に対する感動ではないのか、と悩む。巧すぎて無邪気に感動できない自分は、飛び抜けた異能に嫉妬しているのかもしれない、とさらに悩んでしまう。この作品にダメ出しするのは勇気がいる。脳内のモジュールがずれ、小説のテーマである良心のバランスが狂っていると宣言するようで。 もっともっとこの才能を味わいたかった。いったい次回作はどうするのだろうと、追いかけたくなるタイプの作家であることは自信を持って断言できる。早すぎた死が残念でならない。 | ||||
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これでも一週間かけてじっくり読んだんです。 ながいこと罪だの罰だの書いてある。それは、主人公がそもそもなぜ軍に入ったのかという説明があってこその思索だと思う。こういうナイーブな主人公がそもそもなぜ軍に入ったのか?が母親との関係と密接につながっていて、しっかりとした説明がなされるのだとずっと思っていて、結局最後まで書かれていなかったことに自分は驚いた。病院で母親の延命治療終わらせるか否かの描写はしつこいくらいあるから、絶対なにかの伏線だと思っていた。 解説に兵士を調整するテクノロジーが、主人公を成熟した大人にさせない。と、書いてあるけれど、それだと、繊細な主人公が人を殺すために軍に入る意味がわからない。まあ、ベタに父親が軍人だったとか考えられるけど、そういう説明は一切ない。 精神を理屈に置き換えて禅問答するというのは、SF小説の作法なんだろうか?(自分はたくさんSFを読むわけではないのでよくわからないけど)そこはあまりにも熱心でまあ、著者が言いたいことなんだろうなあとは思うが、具体的にどうして内戦を起こすのか書いて欲しい。というか、SF小説なのに、虐殺を起こす方法という魔法が言葉でしゃべるだけっていうのがなんともアナログすぎて拍子抜けしてしまった。 ジョンポールはテクノロジーを駆使していると思っていたから。そうでないと時間的にも説明つかない気がしたし。うーん、これもある種の著者のジョーク(欧米的な?)なんだろうな。日本人の自分にはぜんぜん笑えないけど。 | ||||
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タイトルから「ソウ」のような拷問ポルノかと思ったら、全然違った。 非常に真っ当なSF小説だった。 作者が若くして亡くなったのが悔やまれる。 主人公は米軍の暗殺チームの一員である。 世界中で紛争が起こっている時代、プロの暗殺集団である彼らは第一レイヤーと呼ぶ紛争の首謀者を暗殺する。 紛争地域に出没するあるアメリカ人が、暗殺チームのターゲットとなるが、決して捕まることがない。 そのアメリカ人の目的は、紛争を引き起こすことだと判明する。 彼の言うところの「虐殺の文法」を使って。 始めに惹かれるのは暗殺部隊の装備である。 地上へ降下するポットは、表面が人工筋肉で出来ており、凹凸を微妙に変化させることで空気抵抗をコントロールし、着地後は腐って土に還る。 なかなかサイバーで、カッコいいアイテムだと思う。 しかし、これがトラップで中盤から人工筋肉が大きな意味を持つことになる。 頭脳がモジュール毎に機能が特定された世界において、どのモジュールが機能していれば意識があることになるのか? 現在の脳死より難しい問題である。 薬品で脳の一部の機能を止めて、セラピーによって倫理観を抑制されて状態での殺人は、罪になるのか? 科学の進歩を見据えた社会的、倫理的問題を扱った、正当なSF小説である。 こんな小説を日本人が書いたとは驚きである。 作者名を見なければ、翻訳だと思うに違いない。 この物語のテーマは贖罪である。 謎のアメリカ人は、死んだ家族のために、どんな手段を使ってでもアメリカを守る選択をした。 「虐殺の文法」の謎を解いた後、主人公は別の選択をする。 救いはないが、気の利いた終わり方だと思う。 | ||||
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これがデビュー作とは思えないほど精密で繊細な文章。海外作品のようなクールでハードボイルドな語り口.よく勉強されたバックボーンによって、リアリティ十分な世界観。SFという体裁を取ることでマイルドな味付けになっているが、平和な国で富を享受し、貧しい国から多くの物資を巻き上げて生きているG9の国々の罪をあからさまに指摘した硬派社会派小説である。また「死」というものにこれほど真摯に向き合った作品を読んだことがない。海外の作家の作品と比べても見劣りしないすばらしい作品である.平和ボケした多くの日本人は本作を読み、世界の現状に目を向けなければならない. | ||||
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主人公のマザコン兵士が、一人称「僕」で物語を語っていきます。語り口はキャッチャーインザライ(村上訳)のようでもありました。 でもなんていうんだろうか、主人公が中二病を煩っているとしか思えません。ナイーブすぎるのか? そのせいでいちいちキザでオセンチな記述ばかりになり、読んでいて辟易しました。途中からただのめんどくさいやつにしか見えなくなります。 たぶんこの「僕」とは気が合わなかったんだと思います。 ストーリーもどうなんでしょか。 「僕」があっさりターゲットの女に一目惚れしたあたりから嫌な予感はしていました。 つまるところ読んでも読まなくてもどっちでもいい本だったなという感想しか残りませんでした。 しかしそれほど長い小説ではないので気になっているなら買って読んでみるのも悪くないでしょう。 | ||||
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しかもどういう状況下で作者がこれを書いたか、あとがき等読むと本当に圧倒されてしまうのですが、評判の割にはずいぶん衝撃の少ない作品だなと感じました。しかしそれは、私の持つ「現在の常識」のせいかもしれない。「わかりやすいもの」で読後感が満たされることを、日頃喜びすぎていて、そうでない小説(ドンデン返しや強烈な「泣かせ」サービスはなくても、文章力が極めて高かったり、発想が面白かったり)への評価は、文芸・エンターテイメント問わず、日本では未だに低いままのような。こちら側のそうした「常識」眼鏡を外してみれば、この作品はほんとうに素晴らしい、と思いました。特に世界観がすばらしい。 にも関わらずどことなく物足りない(特に後半)ように感じられるのは、同じ順で3度ほど繰り返されるシーン(そこで起きる事件は無論、異なるのですが、死を想い、ジョン・ポールを追い、降下し、戦い、帰還し、また死を想う・・・という点で)が少し退屈、さらにSFという分野にどこまでの人間ドラマ・文芸的感性を求めるのかという趣味の問題、それに年齢層もあるかもしれない。作者と同年代かそれ以上の読者にしてみれば(私もそうですが)まったく同じ流行・文化を経てきているわけですから新たに得る刺激が少ない。同年代で同業者である作家さんたち(しかも売れっ子の方々)がこぞってこの作者を褒めるのは、「書き手」と「読み手」の感性のちがいのように思います。その点、小松左京氏は「読み手」に近い感性を未だに持っていらっしゃるのかも・・・なんてことを考えてしまいました。 何より残念だったのが、私は作中でも触れられているJ・G・バラードの大ファンなので、これは日本人が初めてその域にまで到達するものすごい作品かと、最初読み始めたときは鳥肌が立つほど期待しました。SFなのに人の精神の内へ内へと向かうあたり、また「言葉」の扱い方などはきちんと日本的「言霊」風ストーリー展開が興味深く、さらに作者は知識量が半端じゃない上、文章力もあり、、、と、そこまではいいのですが、肝心の主人公、そうした思索の結果、なぜかごくごくあたりまえのところに落ち着いてしまう。初めてバラードを読んだ時の脳を横殴りにされたような衝撃がない。「残虐行為展覧会」あとがきにあるバラードと松岡正剛の対談を読むたび、この分野は日本人に向いている!!と感じている私にとっては、日本人作家による初めての期待の一作、だっただけに、もっと狂ったような独自性を出してほしかった。あるいは牧野修「MOUSE(マウス) (ハヤカワ文庫JA)」のような魅力あるアニメ風世界にしてほしかった。そうしたらものすごく堪能できただろうに・・・とそれで☆を減らしました。 あと、これは蛇足ですが個人的にすぎる感想として、分かる人にだけ向けて・・・やはり作中で語られる『プライベート・ライアン』、この映画の冒頭への一部ホラーファンの感想と、この本の冒頭を読んだ一部読書好きの感想って、すごく似ているのではと少々皮肉に感じられ・・・なので個人的には、この映画のくだりは、ない方が良かったです。 | ||||
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読了してここまでもどかしい気分になった小説も久しぶりだった。今更ながら日本のSF史に残る傑作であることは言うまでもないし、それだけにもうほんの少しだけのリアリティと小説上の工夫があればと、処女作にこれを描き切った作者の夭折と合わせて残念でならない。小説内で用いられているエピソード、ガジェットやモチーフの引き出しの多さが世界観の構築に寄与しているのは認めるものの、それらの使い方の詰めの甘さ(もう一捻り欲しいというか)を感じるのだ。 なぜピザハットとFOXじゃなくて、ドミノ・ピザとCNNなのか。なぜもう一回NYでもなくテルアビブでもなくマーレーアドミームでもなくドバイでもモスクワでもなく、サラエボなのか。そもそも最初の引き金がなぜムスリム原理主義なのか。なぜジョン・ポール(ヨハネ・パウロ)という命名なのか。だったらなぜLTI、ルワンダの煽動ラジオなど近現代の文献だけが対象なのか。有史以来宗教の名のもとに行われてきた虐殺行為の数々は?等々の疑問がどうしても現在の延長線上にあるこの小説世界のリアリティを私的には損なってしまっていた。それがもどかしかったのだ。 多分、ものすごく贅沢な注文で、凡百の日本の国際謀略小説の多くが全共闘くずれの妄想かリアリティのないゲーム的小説に終始してることを考えれば、これ以上ないくらい贅沢な注文であることもわかっているので、とても星5つ以下にはできない。 | ||||
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SF作品としての世界観・設定の細かさは当然の評価対象として、 単純な反応で片付けることのできない、 人間の複雑な感情・感覚の描き方が秀逸な一冊。 ホラー、戦争小説などのジャンルにおいては ゾンビ→怖い、弾に当たる→痛い、戦友が死亡→哀しい と人間の感情・感覚の反応が、単純な図式で定式化されていた方が 読者は感情移入しやすいし、第一、話を進めやすいだろう。 しかし本書では敢えてそこを切り離し、目の前の凄惨な現実と、 それにビビットに反応しないよう統御された感情感覚を並列し 外部環境と人間内部、また現実とデジタル虚構、 平和な先進国と内戦の続く混乱地域という テレビやネットの中の報道だけで理解している気になっている 二項対立の拠って立つ基盤に鋭い疑問を投げかけている。 そういう意味で押井守作品との親和性や、 佐藤亜紀が評価するのも肯ける意欲作だろう。 この難易度は高いが、すばらしい探索の進化を もうこれ以上見られないのは、まこと哀しい現実である。 | ||||
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軍事SF小説というのか、戦争スペクタクルというのか、なんといったらよいかわかりませんが「すごかった」の一言に尽きる。 「未来の恐ろしい世界の仕組み(伊坂幸太郎)」と紹介がりましたが、すぐそこにある未来です。 個人的には狂気の殺戮者ジョンポールの生い立ちが気になります。なぜ学者からPRマンになり虐殺に目覚めたのか?単に妻子がテロで死んだだけではないはず・・ いつか翻訳され、世界に飛び立っていくことでしょう。 | ||||
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虐殺器官である。機関ではない。 このタイトルの音から来る印象のせいか、当初国際的な殺人組織が暗躍するスパイものかなと思ったが、そうではない。虐殺する器官とは何か?目や鼻、胃や腸の如きが虐殺するとはどういうことか?この奇妙なタイトルが、文字通り物語の最大のテーマとなる。 “見てきたようなウソをつく” 司馬遼太郎氏に言わせれば、時代小説家の本分らしいが、これがSF作家となればどうなるだろう?“あり得るようなウソをつく”?どちらにしてもSF(サイエンスフィクション:科学的ウソ)という言葉自体、矛盾が含まれているのに、それをこのように遠大な小説に仕立てるというのは、相当な労力だっただろう。SF作家は、現況の最先端テクノロジーの延長としていろんな小道具を考案するが、その場合ある程度の説明義務が生じる。例えば“料理を加熱する”という場合、一般的な小説ならば、文字通りそのままの表現か、或いは“レンジでチンする”などでいいかもしれない。しかしこれがSF的表現となると、“マイクロ波で食材内部の分子を加速させる事により、火を使わずに加熱する装置”という長ったらしいものになる。それは単に道具のメカニズムに留まらす、社会システムや衣食住を含む我々の日常すべてにわたる。このような説明は物語の進行の緊迫感を殺ぎ、読者を興醒めさせてしまう恐れがある。クラークやアシモフなどの巨匠ならば、SF的とはかくなるモノかと納得してしまうだろうが、こちらはそういう手合いではない。事実僕は、この作品中のカタカナ語に対するカタカナのルビにはウンザリしてしまったが、熱心なSF読者ならこれが作者の最小限の説明なのだと、ピンときたかもしれない。 しかしながら、僕にとっては瑕疵ともいえるこれらを差し引いても、余りある魅力がこの作品にはある。それは精緻な状況設定だ。高度に情報管理された社会。それは9.11以降、もう一つの惨事を経た未来社会が、テロ対策のために選択したシステムだ。同じ情報管理された社会を描いた「1984」とはモチーフが基本的に違う。さらに民間軍事請負業者、途上国の現状の先にあるさまざまな紛争と虐殺、幼年兵という概念。これらが圧倒的なリアリティーでもってこちらに迫って来て、否応なく読者の首根っこを結末まで引っ張っていく。 だがしかし、僕のような年齢の者にとってはどうしても受け容れられない記述がある。ヒロシマの神話の崩壊という表現だ。作者はこれを”制御可能になった核”というふうに言い直したが、僕はそうじゃないと思う。ヒロシマ、ナガサキの被爆を、”神聖にして侵しがたいが遥か昔の絵空事”のように扱っているようだ。そしてあろうことか、ボスニアの美しい都市を消滅させてしまったことだ。これが遥か未来の荒唐無稽なお話ならまだ許せるだろう。しかしながら前述の通り、この卓越した想像力から描き出された近未来は、恐ろしくリアルなのだ。ウソは巧妙なほど罪深い。小松氏の選に漏れたのも、ひょっとするとこのあたりに理由があったのかもしれない。 どちらにしても、めったに読むことのないジャンルだけに、新鮮な読書器官、じゃなくて読書期間だった。ただどうしても理解できないのは、筋肉質のジャンボジェットだ。鋼鉄の航空機が羽ばたくとは、どうしてもイメージできない。 | ||||
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圧倒的な筆力と、秀逸なアイデア、今日的なモチーフと、自己と世界をめぐる根源的なテーマ、そして、これでもかと盛られている、さまざまな先行作品へのオマージュとパロディ、それでいて、唯一無二の大傑作。これぞゼロ年代の「全部入りラーメン」だ。 | ||||
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この小説を評するのに「リアル」という言葉を使うのはそもそも変。 想像上の未来の話なのですから。 それにSFチックなモノたちは全て単なる小道具に過ぎない。 そっち系のものに惑わされなければ本書の凄さが見えてくる。 強引に「こうなるかも知れないよ〜」と極端な方向に想像の羽根を伸ばしたのではなく、 現在の世界で実際に起きている様々な問題をまっすぐ伸ばし、悪い方向にちょっと曲げた感じ。 SF的ガジェットが「実現するか」はおいといて、この社会の状況、雰囲気は充分あり得る。 ーーーーーーーーーーーーーーー以下微ネタバレーーーーーーーーーーー 「彼ら(搾取される途上国)の憎しみがこちら(搾取する先進国)に向けられる前に 彼ら同士で憎み合って(中略)殺し合ってもらおう」 「自分と関係ない場所で悲惨な戦争が起こっていること」は必要なこと。 ドキッとしました。 自分の良心や本音といったものの裏の、さらに一番奥底にある何かが反応。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー まさか今頃になって「近未来SF」にこんなに感銘を受けるとは。 過去の作品はほとんど陳腐化、なにせ「宇宙の旅」をしているはずの2001年は9年も前。 かつてSF作品が描いた未来は暗い予想も明るい予想もことごとく的外れ、 逆に宗教がこれほど大きな問題になるとか、小さなコンピューターがネットワークで繋がった世界、 などというものはほとんど予想されていなかったのではないかと。 だからSF、特に「近未来SF」などというジャンルは死に絶えたと思っていました。 でもSF的ガジェットをもっと少なくすれば、もっと幅広く評価されただろうなあ。 | ||||
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9.11後、先進国ではトレーサビリティと絶え間ない認証によるセキュリティレベルの上昇をもってテロと戦い、発展途上国ではもっと盛んな内戦やテロリズム(核も、もちろん)が横行する近未来。米軍の諜報機関でもあり、暗殺機関でもある部隊、情報軍の特殊検索群i分遣隊の一員であるシェパード大尉の目線で繰る広げられる【世界】の残滓。残虐な描写を含みながら、現実と向き合うことで生まれる様々な葛藤、生と死、アメリカンウェイオブライフ、神、肉親から残されること、言語学、文学・・・どの問題にもそれぞれの答えを出しながら進むことで、シェパード大尉の物語が、あなたの物語になる不思議な作品です。 構成的には、きっとどこかで読んだ物語と違いはないのですが、そのディティールや死生観に、独特の強さがあり、様々な事柄を扱いながらも、その到達点はいままで読んだどのSFよりも現実的で突き抜けている稀有な作品でした。 言語学者ジョン・ポールの思惑とシェパード大尉の物語なのですが、読ませるチカラ溢れるリーダビリティを少しも犠牲にしないで、これだけの描写やディティールにこだわれるその技術の高さ、そして結末とエピローグの突き抜け方は、経験の無いレベルでした。 トレーサビリティと安全の関係の盲点(と書きましたけれど、トレーサビリティを操作するのは人なわけで、偽の情報を入れてしまえば偽装表示と全く同じで、ただ今まで以上にコストがかかるだけですよね)、先進国と発展途上国との欺瞞、良心という機能について、脳死判定を受け入れるということ、自由と平和の対価、ジョージ・オーウェル、カウンセラーと倫理的ノイズ、愛国心の浅い歴史、見たいものしか見ない人々、そしてある地平(それはたくさんの死や苦痛によって支えられている!!)を越えてしまったところにある決断が最後に待っています。 あくまで1人称で語られるシェパード大尉の物語が、ジョン・ポールの物語が、知らぬ間にあなたの物語になるチカラを持った作品です。エピローグ後の【世界】の萌芽を、実はすでに日本に生きている私には感じられます。 作者の伊藤さんは既に亡くなられてしまっているので、これが本当に残念。とてもお若かったのに、残念。 戦争、テロリズム、愛国心、言語学、良心、トレーサビリティ、そんな単語が気になる方にオススメ致します。 | ||||
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タイトルの形容が正しいかは、わかりませんが、とてつもない衝撃的な小説だと思います。 いちおう軍事SFというジャンルに収まっていますが、伊坂幸太郎や宮部みゆき、小島秀夫など、あらゆるエンターテイメントを発信する方々から絶賛されていることが、この小説が今まで、あらゆるメディアから一線を画していることの証明となっています。 虐殺を引き起こすジョン・ポール、それに連なる民族紛争。ドミノ・ピザの普遍性とバドワイザーに象徴される、資本主義社会。テクノロジーの進歩と主人公のナイーブさ。そして、情報管理と自由。 これらすべてが丁寧に、繊細に、切実に描かれたひとつの世界。これが「虐殺器官」という小説であり、僕たちの世界そのものなのかもしれません。 知ろうと思えば、すべてを知れる。靴紐について、編まれている糸について。でも鯨や、イルカから作った人口筋肉については誰も知らない。目を瞑っているから。知りたくないから。 それでも世界は回っているし、成り立っている。目を開いてみればわかりますよね? 結末はとてつもないです。でも、彼はそれを自分で選択したのでしょうか。虐殺器官は誰にでも備わっています。もし、彼の虐殺の器官が作動していたら。そう考えると、また違った印象を持てるかもしれません。 | ||||
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近未来SFでした。そういう前知識もなく読み始めたので、最初ちょっと戸惑いました(笑) まあ、近未来SFと気づいてからも、「何となくアニメっぽいなあ」と思いましたが、どうやらそれは私の知識の不足であって、むしろ「ゲームっぽい」らしいです。 私の読後感は、☆が少ないほかのレビュアーのみなさんとおおむね同じなので、繰り返しません。「あとがき」に、この作品を小松左京賞の選外としたときの小松左京氏の選評の一部が載っていますが、この作品のいい点も足りない点も、そこに言い尽くされていると思います。いい点に賛同すれば☆5つとなり、足りない点が気になれば☆2つとなるといったところでしょうか。 ひとつだけ、気になった点をあげます。「感情の孫引き」になってはいないかという点です。 作家は、自分の中にほんのぽっちりある感情をいわば起点として、そこからイマジネーションをふくらませます。よく言われるたとえですが、人を殺したことがなくても、「あんなやつ、死ねばいい」と一瞬でも思ったことがあれば、それを起点に作品を作ることができます。 しかしこの作品の主人公のような人生の場合、ほんとうはどう感じるのか、どうやって人生と折り合っているのか。想像を絶するといってしまってはミもフタもないのですが、実際のところそうではないでしょうか。 そういう人生を送った人に取材する、あるいは取材したノンフィクションを利用するということも難しいでしょう。そうそう本音を語ってはくれなさそうですから。 で、どうするかというと、過去のフィクションを参考にする。そのこと自体は、いいのです。どんな作家だって、大なり小なりほかの作品に影響を受けているのですから。 ただ、自分の中のイマジネーションの起点をしっかり持っているのかどうかです。それがないと、フィクションからフィクションを作る=感情の孫引きになってしまいます。 「アニメっぽい」と感じたのは、たぶん私が作者のイメジネーションの起点を感じられなかったからだと思います。 | ||||
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お話としてのオチは皮肉がきいていて良いと思うんですけれど、正直複線を回収された時に頭の中に起こる「!」という反応は起こりませんでした。長々続いたのにこれで終わりなのか…という感じでした。と言っても大変な事が起こってるのですけど! ですがそんなものを軽く凌駕するくらいに、世界設定、作中の人々が語る思想・哲学には光るものがあるかと思います。本来ならば小難しい理屈であるはずのものも、表現がうまいのですんなりと入ってきます。 この小説は必ずしも最後に「なるほど!」と納得するするものでなく、途中途中で「なるほど!」「なるほど!」の連続があるものであると感じました。 この小説を読み、作者の他の作品にも興味がわいてきました。 | ||||
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誰も言わないので書きますが、オチがハーラン・エリスンの有名短編にあまりにもそっくりです。しかもあちらのほうが鮮烈です。 個人の趣味にも依るとは思いますが、400ページもの長編でありながらどこかで見たようなオチ、では、私の感じたようなむなしさを味わう方も少なくないかと思います。 なぜ、10ページしかない短編に及ばない本作がこれほどの高評価なのでしょうか。客層がSFファンとかぶっていないのか、メタルギアファンが多いのか。それとも日本人の若者が書いたということに意味があって、そもそもハーランみたいな外人の大作家と比べちゃいけないのか?単に「器官」としたところがサイバネティックでカッコいいのか?キャラ萌えなのか?ジョン・ポールって魅力的か?細部には凝ってるようだがそんなにリアルか?イルカの肉で作りましたって小手先以上の意味はあるのか? まったくもって釈然としません。 もしあなたがストーリーを度外視して世界観なるもの(っていうか教養主義。コレ自体も古い)を純粋に楽しめる方でなければ、絶対にお勧めはしません。 | ||||
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