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虐殺器官



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虐殺器官の評価: 4.03/5点 レビュー 369件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.03pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全369件 281~300 15/19ページ
No.89:
(1pt)

知識の羅列

ストーリーはハリウッド映画的でよくあるパターン。パターン的だが、主人公や敵の行動の動機に、感情的にも共感できず論理的にも納得できない。 特に虐殺をするに至った動機。
その他、主人公がルツィアに惚れたというか心の拠り所にしている理由、政府内の裏切りの理由などについて一応書かれてはいるが、いくらなんでもご都合主義すぎる。もちろん他にも強引な展開は多い。
この世界での先進国でIDを複数持っていたら不審人物としてマークされ日常生活に困るのは明らかだし、死人のIDが使えるままになっているはずがない。

格好をつけている文体はある意味読みやすくはあるけれども心に響かず、度々うんざりする。
テクノロジー機器の数々に関しては科学的に説明しようとするが中途半端が目立ち、あり得無さを強調するばかりで逆に陳腐に感じる。
もちろんSF小説では、ありえないものでも説得力を持つことは多々あるので、これは作者の筆力の無さによるものだろう。
管理社会・言語学・心理学・脳科学・進化論・ゲーム理論・グローバリズム・地域紛争等々いろいろな要素を詰め込んでいるが、どれも表面的になぞるばかりで迫真的に訴えてくるものはない。
作者はいろいろな知識を持ってはいても、深く踏み込んで理解・説明しようとする気持ちがないように感じる。
それともこれも筆力によるものか。

最も重要な「虐殺器官」についての説明はあまりにも理論的裏付けが弱く、まったく説得力がない。言語学を少しかじって小説に使えると思ったのだろ うが、勉強・研究不足が露呈していて(作者自身もそれは感じているようだ)これでは単に「魔法で虐殺に追い込んだ」としているのと変わらない。
全体としてSFというよりはファンタジーと言える。

SFに限らずとも時々このような「知識を羅列」しただけの小説が「深い・格好良い」と思われて流行ることがあるが、いつでも一定の需要があるのかもしれない。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.88:
(5pt)

貴重な才能を失った。

ハードSF好きとして、こうした作品を書き上げる才能が失われたことは
本当に惜しいとしかいいようがありません。

911後の世界で、世界に頻繁に起こる紛争・虐殺を追うアメリカの特務機関。
その活動の中で、虐殺の裏に一人の人物の姿が浮かび上がり、主人公をはじめとする
特務機関メンバーはその姿を追うことになります。

暴力の描写のリアリティは圧倒的で、回顧シーンのやや冗長な部分を補ってあまりある
表現力です。そして虐殺器官の謎は根拠が曖昧という批評もありますが、私は
その斬新さのほうに軍配を上げたいです。

作品発表当時の年齢を考えると、まだ粗削りなところは否めませんが、それを上回って余りある
寒気のするような表現力、展開力を持っているといって過言ではないでしょう。

もっと多くの作品を残してほしかったと心から思います。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.87:
(5pt)

「我々は知りたいものしか知らないし、見たいものしか見ない」

本書は近未来の世界が舞台だ
 副現実や痛覚マスキングなどSF的なギミックを使用しながらも、既になりつつある緩やかな監視社会をより推し進めた世界を舞台とすることで、現在の世界の矛盾点をあぶりだしている

 主人公は、戦場という極めてリアルな体験をしながらも、科学技術によって現実感を持つことができないでいる未成熟な男である

 その主人公の物語として本書を見た場合、以下のような本書は物語になる

 アイデンティティを確立していない未成熟な男が、大勢の他人を殺すことで理不尽な世界に加担していることに気づき、赦しを請うが、それが得られなかったことで、自分の世界に絶望する
 残った僅かな義憤心が選んだ選択は、自分の世界を守っていた「兵器」を自分の世界(=米国)に使用することだった
 世界の矛盾を解消するために世界を壊す
 彼は、自分の組み込まれている世界を壊すことで、矛盾した世界(≒自分)を再構築しようとしたのだ
 主人公は自らの選択によって確信できる「わたし」を欲したのだ
 

 また、本書を舞台設定という観点から見ると以下の様になる

 既存の社会の仕組みを変えないで、社会の仕組みそのものの歪みによって生まれた副産物(=テロ)を、小手先の変化で改善しようとしても、そもそも問いの立て方、アプローチの仕方が間違っているからうまくいくはずがない
 しかも、そのアプローチの仕方が間違っていたとしてもその間違いに気づこうとしない限り、人々はなんとなく「うまくいっている」と信じ続けてしまう


 本書のテーマは「我々は知りたいものしか知らないし、見たいものしか見ない」ということなんだ

 
 悲しい話ではあるが、社会について自分について良く考えさせてくれる最高のSFだと思う
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.86:
(2pt)

近未来が舞台だが中途半端なリアルさ

かなり絶賛されている作品ですが私にはダメでした。
冗長な文体、難読漢字にカタカナのフリガナ、先の読める展開など、読みにくさだけが印象的でした。
舞台も近未来ですが、バリバリの理系である私にとっては、その描写が細ければ細かいほどそのありえなさが鼻に付き、その世界観にのめりこめませんでした。
肝心の虐殺器官のトリック(というか本質)も、そのアナログ感にちょっとびっくり。
コミック化とかすればとても良い作品だと思いますが、若者向けのこの作品、上手く評価できません。
ファンのかた、ごめんなさい。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.85:
(5pt)

冒頭から身が震えた。

作者の伊藤計劃(いとう けいかく)さんの早すぎる死が読む前の前提知識とあったので、「どうしても過大評価になるのでは?」と思いながらも読み始めました。
しかし、良い意味でその想定は裏切られました。
冒頭の1ページを読んだ途端に、体が震えました。
小説を読んでこんな感覚になったのは、久しぶりです。
内容としては近未来SFであり、ハードボイルドともくくれるのですが、それでありながら主人公の「ぼく」という言葉使いのギャップも感じさせず、むしろそれが一般読者層の敷居を低くしていると思います。
ライトノベル世代に受け入れやすい、架空の機関・近代兵器はもちろんのこと、最後まで飽きさせることのない緻密なストーリーと伏線。
タイトルの「虐殺器官」の意味。
あのパラサイト・イヴ (新潮文庫)を髣髴とさせるような、科学知識を駆使した内容。
褒めすぎなのかもしれませんが、本当に読んでいて充実しました。
エンターテイメント小説とは、こういうものを言うのだ、と。
振り返ってみると、やはり「惜しい方を早々に亡くしてしまった」というのが正直なところです。
巻末の解説には、伊藤計劃さんの闘病の様子にも触れられており、貴重な1冊ともいえます。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.84:
(4pt)

今ここにある未来

本格SFという事で躊躇していたが俺の中では『姑獲鳥の夏』『アラビアの夜の種族』『ガダラの豚』等に並ぶ凄い傑作。しかも著者の読書量が半端無いことを窺わせる、資料に使った本も読みたくなる。911から軽やかにサイバーパンクに移行してる世界を描く。
 もし村上春樹がこの『虐殺器官』を読んでいたら、『1Q84』なんてとても恥ずかしくて書けなかったのではないだろうか。伊藤計劃の文章・構成は村上チルドレンを臭わせるけど、細部の設定の未来予測な描写が半端ないくらい現在を感じさせる。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.83:
(5pt)

読みやすく、面白かったが、

読みやすくて、面白い作品だったと思います。
映画を見ているように、
最初から最後までだれることなくスラスラと読めました。

ニュースで内戦やテロを、ディスプレイ越しにしか実感していない私は、
この「小説の世界」が「今の世界」の延長線上にあるように強く感じられました。
そのため、読後はなんとも言えない気分になりました。

筆者がもうお亡くなりになっているとのことで、
今後もっと筆者の作品を読もうと思っていたのに残念です。

同じ筆者の「ハーモニー」も併せて読むことをお薦めします。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.82:
(5pt)

現代版「罪と罰」

もともと、私はSF小説という類が好きではない。
たいていの場合その物語を描く背景が突拍子もなく、そのインパクトだけで駄文を綴っていることが多いからだ。

この小説に関しては、書店で本の帯に描かれた「現代における罪と罰」というコピーにつられて購入をした。

実は読み出して最初この小説がSFだと言うことには気付かなかった。
人工筋肉の話が出てきて「あれ、おかしいな?」と思いだしたくらいだった。

なぜなら、ストーリー、状況描写、心理描写、どれもこれもうまいけれど、 ディティールがはっきりしており、
数十年後に実際なっているであろう世界を、哲学・経済・政治・宗教・科学・歴史の観点から見事に作り上げている。

他にも軍事、国際関係論、言語学、映画や文学の知識はもちろん、 自由意志、利他行動、進化論、最新の脳科学の知見なども
ふんだんに盛り込まれており、その著者の知識の幅広さと深さに感銘した。

どのページのどの一文にも、何かの意図や裏付けがあり、リアリティを感じさせるし、メッセージも多く含まれている。

確かに「罪と罰」のように、自分の読む年齢によって感じることが変わってくるのであろう。
帯の一文は嘘ではなかった。

この著者に興味を持ち調べてみると、これが作者のデビュー作ということで本当に驚いた。
そして小説家になりたった2年、35歳という若さで逝去されている。

著者の早すぎる死が惜しまれるが、
映画「The Waker」の主人公のように、自分の使命を全うして天に旅立たれたのだとも思う。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.81:
(1pt)

簡単に世界を操作できる?

とても頭の良い方が、読者に「この豊富な知識に君はついて来れるかい?」と自慢しているような幼さを感じる。本書に出てくる理論、科学、心理、子ども兵、紛争地域の問題をその一言で片付けることに基本的な間違いはないのだろうか。フィクションだから構わないのだろうか。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.80:
(5pt)

とてもよかった。

すごいと思った。主人公をアメリカ人にすることでアメリカ人の作家には絶対にできない展開に持っていっている。斬新。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.79:
(5pt)

いま、ここにある地獄

ベトナム帰還兵問題以降、先進国では戦争体験に起因するPTSD(心的外傷後ストレス障害)が問題視されるようになった。
帰還兵の心の傷は、余人には想像もできない。彼等の「戦後」はきっと地獄の日々であろう。

では、戦闘に伴うストレスを抑止するテクノロジーが開発されたら、どうだろうか?
要するに、何の痛痒も感じることなく敵を殺すことができる“優秀な”兵士を作り上げる科学技術だ。
麻薬漬けなどという乱暴な方法ではなく、冷静沈着に任務を遂行するプロフェッショナルな戦闘員を生み出すための、もっと洗練された技法
―戦場において怒りや憎しみや良心の呵責といった“余計な”感情を背負い込まないための医学的処置―
そんな“素晴らしい”魔術があったら??

虐殺行為を気に病み、心の闇に悩まされる兵士はいなくなるだろう。そこは、何とクリーンで明晰な・・・地獄であろうか。



この作品は、「戦闘適応感情調整」というテクノロジーが生み出された、悪夢の近未来世界を描いている。
「今現在」の私たちの世界の延長線上に、極めてリアルに存在する近未来。
グローバル経済、国際テロリズム、監視社会、特殊部隊、民間軍事会社、国際PR会社、少年兵、南北問題・・・・・・本作に出てくる要素は、サイバーパンクと「戦闘適応感情調整」、そして「虐殺の器官」を除けば、全て「現実」である。


願わくば、この未来が「現実」にならないことを。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.78:
(3pt)

アイディアは際立つが、「虐殺器官」の科学的リアリティ構築には成功したとは言えない

新聞広告で宮部みゆきが絶賛していたのと、タイトルへの興味もあって手に取った。
「虐殺器官」というアイディアは際立って新しいが、リアリティの与え方がいまひとつ。進化論、心理学、言語学などをその存在の根拠に求めているが、生理学的知見というより思想的であり、かつこの分野にそこそこの知見を有するものにとっては議論の底が浅く、満足のいくリアリティは構築できていない。
物語にはバイオマシン、インプラントセンサ、ナノマシンなど近未来的なデバイスが溢れていて、そこはSF的世界ではあるが、それら小道具もテーマである「虐殺器官」に科学的リアリティを与えることには寄与しておらず、SFとは言い難い。
SFは昔、半村良や小松左京、星新一などが好きでほとんど読んだが、最近はこういうバイオハザードのようなグロテスクでスプラッタなゲーム感覚の作品の評価が高いのだろうか。作者の非凡な才能は理解できるが、筆者には馴染めなかった。似たようなテーマで半村良の不可触領域 (角川文庫 緑 375-27)を思いだした。30何年ぶりに再読してみたくなった。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.77:
(5pt)

この本は、読者を選ぶ本とも言える

錚々たる人たちが激賞しているだけあって、本当にものすごい本。
どのページのどの一文にも、背後にあるものすごいものを感じる。

ストーリー、状況描写、心理描写、どれもこれもうまいけれど、
僕がとにかく驚いたのは、著者の知識の幅広さと深さ。

いったいどれくらいの本を読めば、こんなものが書けるように
なるんだろうと驚く。しかもそれらの知識を自分のなかで消化して
自分なりの考えとして描き出す。(その考え方が正しいかどうかは
別として)

軍事関係、国際関係論、言語学、映画や文学の知識はもちろん、
ミームや自由意志、利他行動、進化論、最新の脳科学の知見なども
ふんだんに盛り込まれている。

たとえば、

「生物が進化すると必然的にことばを持つとかいうのは、人間の
思い上がりということになるんですね」

「カラスが築いた文明があったとして、進化した人間はすべからく
鋭いくちばしを持つ、というようなものね」

などといったちょっとした会話などからも、すごいものを感じる。


もちろん、僕は著者のような幅広い知識はまったく持っていないので、
僕が気がついていない、もっともっと、ものすごいものが
この本にはふんだんに詰まっている。

でも、レビューをみるとわかるように、いろんなころに隠されている
ネタに気がつく人もいれば気がつかない人もいる。

そういう意味で、読者を選ぶ本とも言える。


虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.76:
(5pt)

リアルで繊細な描写力に脱帽です

伊藤計劃さんの「虐殺器官」読み終えました。
圧巻ですね。

時代は近未来。おそらく2020年ごろ。
米軍正規の暗殺部隊と、世界各地で虐殺を続ける男との戦い。
痛みを感じない次世代の兵士たちが、虐殺を止めさせるために敵地に降り立つ。
暗殺任務のために、AKを持った幼い子どもを撃ち、目の前で虐殺される人たちを見捨てる。
自分の内に潜む「罪と罰」に向き合う主人公と、
テロを防ぐために虐殺を続ける男。
どちらが愛国者と呼べるだろうか・・・。

2000年〜2009年を代表する「ゼロ年代SFベスト」国内篇第一位を獲得したSF小説。
フィクションなのに嘘らしさのないリアルで繊細な描写力に脱帽です。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.75:
(4pt)

「ハーモニー」への導入として

私は超偏見で、SFは青背上等派、あまり国内物は読まなかったのです。

この作品自体には、多数のレビューがありますので、
それを参考にしてほしい。
確かに、「虐殺器官」のみをみてしまうと、アラもあるのだが、
(直接的な関係性は書かれていないが)続編となる「ハーモニー」を
読む為にも、是非読んでほしい。

私はこの二作を読んで、それこそ驚愕した。
日本にもこれほどの作家がうまれたことを。
そしてすでにその作家が失われてしまったことを。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.74:
(5pt)

世界規模の美しいSF

SFの歴史の中でも海外SFの描いて来た多くの世界を継承した上で新しい次元に進めた作品だと思った。
中でも、主人公の未熟さそのものが「未熟でいなければならない日本人の若者」を描いている。主人公はアメリカ人だが、話を自由にはばたかせるためにはアメリカ人でなければならないし、実際、小説の持つテーマを先鋭化するためにはどうしてもアメリカ人に設定しなければならなかっただろう。しかし、主人公の虚無的な無神論、母親の死に関わる日本人的な拘りはこの青年の心の中は日本人の独身男性に重ねることができるのではないか。

読後感じたのはアーシェラ・ル・グインの「オメラスから歩み去る人びと」に対する伊藤計劃の回答ではないかということだった。作者は娯楽的な要素を描いてはいるが、作品世界は現実に進行している虐殺の連鎖に対する作者の止むに止まれぬ痛みや怒りが噴出している。SFは「こうであるかもしれない世界」を描く寓話的な要素を含む。

また、破滅型SFの傑作バラードの「結晶世界」に見られるように、主人公の個人的問題が最終的に重要になってくるのが、ニューウェーブSFが変奏曲として現代に蘇った感がある。虐殺の大きなからくりを探求する旅に否応無く巻き込まれた主人公が最終的にその世界に「適応」するのだ。

結末の主人公は完全に自らが不適応に陥っていた「虐殺」のありように完全に適応する。それは主人公がジョン・ポールの継承者となることを意味している。「愛のため」という美辞麗句で人はどこまで残酷になれるのかを考えさせられる。

伊藤計劃の才能は夭折によって過大評価されているのではないと感じた。まぎれもない世界規模の傑作であり、今現在の世界の禍々しい状態を娯楽というものの中に見事にちりばめて読者に提供している。

現実に某安売り洋服屋さんや某安売りショップは国外の奴隷的労働によって日本人に利益をもたらしており、安価なチョコレートは幼い少年少女の苛酷な労働条件の下に生産されている。ナイルバーチはコンビニの弁当に入っている。労働条件の改善を求めて訴えても雇用主やその国の為政者達は企業が契約を切ることを恐れて簡単に弾圧してしまう。日本人はそれを知っているが知らないように振る舞っている。
そして日本企業は安い労働力を海外に求め、自国の若者は雇わない。日本人の若者達は安い服や安い小物を身につけ、安い有害な食糧を食べて高価な携帯やコンピュータを買う。

伊藤計劃は多分こういうことも知っていただろう。
しかし、これを日本を舞台にして描くと今日の日本では売れないのだ。営業妨害になりかねない。
現実はSFよりも恐ろしい。
だが、伊藤計劃が描いたこの本は多くの人々の目を開かせる力を持っている。翻訳して海外の人々にも読んでもらいたい傑作である。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.73:
(4pt)

SF小説の現況

近作では、話題と評判の高さに惹かれて読みました。
400ページ近い分量を10日ほどで書き上げたと言う小松左京賞の公募作品、
選には漏れたとのことですが、出版の機会を得た後、瞬く間にこの分野の新旗手として、
数多の評価を受けることとなった著者の長編デビュー作です。

SFと言えば回顧的にではありますが、全盛期(6,70年代)の洗礼を受けた者として、
隔世の感に打ちのめされつの読書になりましたが、ギブスン/ニューロマンサーで
そのSFを半ば捨てたことへの、これは仕打ちとばかりに受け留め、読了にしました。

辛抱の甲斐あってか、本作のエピローグへ読み進むに至り、著者の作意の些かを確かめることが出来ました。
内容については割愛しなければなりませんが、その構造としては、紡がれ描かれた世界(価値/感性/愛着)と、
主人公自身をも含めなして、その否定をより極め、遂には無化(放棄)してしまうことで、結ぶというものです。

ここには、ある種の快感があります。漱石の近代の超克説や大岡昇平などの意図する
「外からではなく、その内から超え、突き抜ける」という感覚に通じるものが、多少なりとここには実感されます。

小説表現とは、このように奇妙な仕方ではありますが、確かに進歩していると言うことには、
やはり無理があるのでしょうか。私には、こうした芸術分野がこの限りに終わってしまうとは、とても思えません。

例えば作中、ヴィクトリア湖のシーンに際し、その現況に言い及ぶところなどは、リアリズムもよく保たれており、
著者の世界状況に対する洞察力と含めるイロニーなどには、大いにそこへ才気も伺わせるもので、
今更ながらですが、その早世が惜しまれる作家であると思います。

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虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.72:
(5pt)

罪と罰を古本屋に売ってきた

で、この本を何度も読み返した。

読んだ日は必ずカレーを食べることにした。

泣きながらだと味わかんねーな。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.71:
(5pt)

何度も読み返せる小説だと思います

半年程前に、テレビ番組でMCが絶賛しているのを見て購入してみました。オビにある現代の「罪と罰」というくだりは、大げさなような気がします。感想としては、読み始めてみると多少読みずらい文章ですが、その世界観に引き込まれどんどんと読み進むことができました。読み終わった後に、作品の余韻に浸れいろいろと考えさせられます。ただ、世界観やSF小説ということもあって好き嫌いは分かれるかもしれません。それでも、購入して損はないと思います。私の中で、2010年で一番印象に残り、これから何度も読み返してみたい小説です。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841
No.70:
(2pt)

モノローグ50%+テクノロジーの説明文30%+物語展開5%+装丁15%=『虐殺器官』

ゼロ年代最高SFというので買って読みました。
あくまで個人的感想ですが、ものすごく退屈でした。

モノローグ(心理描写、心の声)や、近未来の兵器技術の説明ばかりで、全く物語が進まず、フラストレーションが溜まるだけで結局、最後まで終わってしまいました。

話が分かりやすく、物語がガンガン流れていくような本や映画が好き、という人にはちょっとオススメできませんね。ジブリ好きとか(かくいう私がそうですが)。
日本の小説界ではいわゆるSFというジャンルがなかなか盛り上がらないと言われているみたいですが、この作品を年代最高と推すのなら、そりゃあ大衆的には盛り上がらないだろうなあ、と思いました。

ただ、文庫本のカバーの装丁だけはすごく格好良かったです。時々本棚から取り出して眺めたくなるような見事な装丁だと思います。

これらの点を加味して、☆2つを付けさせて頂きます。

以上、辛辣なことを書きましたが、先に述べた通り、あくまで個人の感想ですのであしからず。
購入を考えている方は、一度、書店で実際に手にとって数ページめくってみてから買うかどうかの判断をすることをオススメします。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)より
4150309841

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