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虐殺器官
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虐殺器官の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.03pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全369件 321~340 17/19ページ
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文庫になったことだしAmazonでも評判よさげだから読んでみっか、てな感じで気軽に読み始めたら、 これは凄いです。 ドストエフスキーに挫折した人も是非読むべき。実存主義はここにある。 フィクションの力を思い知らされた。 良心を科学的にマスキングされた兵士が、良心を抑制し他者への残虐性を高める"文法"を発見した学者の暗殺を請け負うという皮肉。 ジャン・ポールがなぜ世界を転々とし虐殺を起こし続けるのか、この理由に私は打ちのめされた。 利己的であることと、利他的であること。 人はその両方を共存させている。この恐ろしさから目をそらせない。 この作品は2007年の小松左京賞の満場一致で最有力候補作として残ったが、当の小松氏の一言でその受賞を逃したと聞く。「虐殺の言葉」の描写がいまひとつであるという、全く的外れとしかいいようのない一言で。 本書を読んだ者はあとがきにあるこのエピソードに、怒りさえおぼえるだろう。 | ||||
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主人公クラヴィス・シェパードも、物語の主軸であるジョン・ポールも 行動の源となっているものは、一貫して「赦しを請う」ためである。 トラウマや後悔などの罪に対する罰を自分自身に科し、免罪符を受け取ろうともがいている。 内戦や虐殺を行ってしまう人々も、同じ文脈に乗っているように読み取れる。 「〜のために」というスローガン的言い回し。 「愛のために」「星条旗のために」「みんなのために」「祖国のために」 と、唱えることで身勝手で迷惑な侵略も干渉も虐殺もそして自分の罪も赦される…。 物語の中で象徴的な虐殺は、イルカと鯨だ。 人間の勝手な文法で虐殺を感じさせないネーミングにて利用されている。 繰り返されるメッセージ「人々は見たいものしか見ない」 突き詰めた痛覚のマスキング技術が滑稽に描かれている。 「情報を発信するのは容易だが、注目を集めるのはより難しくなっている」 見たくないものを見せつけるために著者は、グロテスクな場面描写を多く取り入れていると思う。 「罪を背負うこと」「自分を罰すること」赦しを得ることが どれほど身勝手で迷惑で混乱を招く行為なのか、 最後の一頁、 勝手に一人で気持ちが穏やかになって満足している主人公に醜悪なおぞましさを感じさせられた。 | ||||
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米軍大尉クラヴィス・シェパードはある男の暗殺を命じられていた。インドやアフリカといった内戦地域で大規模虐殺の種子を蒔いている米国人ジョン・ポールだ。当該地域の人々に憎悪と殺戮の念を植えつける上でポールが利用するのは、人間が持つ“虐殺器官”であった…。 緻密に構築した近未来の世界を舞台に著者が描くのは、人間社会を大きく突き動かしていく力を持った言語の姿です。 作者はサピア=ウォーフの法則や、チョムスキーの生成変形文法を模したかのような「脳に刻まれた言語フォーマットのなかに隠された混沌を示す文法」などの言語学風言辞を駆使しながら、人類を戦争へと駆り立てる駆動力を言語の中に見出そうとしています。 思えばオーウェルの「1984年 」もニュースピークなる綿密に操作された言語が近未来の人間の思考の筋肉を弛緩させていく様をグロテスクに描いていましたし、事実ナチスドイツがいかに言語を緊縛しながら国民を戦争に駆り立てていったかについてはヴィクトール クレムペラーが「第三帝国の言語「LTI」―ある言語学者のノート」で明らかにしています。 私は「虐殺器官」を、オーウェル的な言語と戦争の系譜を新しい形で受け継いだ小説として大変興味深く読みました。 しかしこうした戦争を生む力を孕む言語はまた一方で、だからこそ戦争を抑止する力もあわせ持つはず。そんな希望に満ちた信念が作者・伊藤計劃の脳裏にはあったと私は感じるのです。 「文明は、良心は、殺したり犯したり盗んだり裏切ったりする本能と争いながらも、それでもより他愛的に、より利他的になるよう進んでいるのだろう」(382頁)。 シェパードの胸に灯るこの希望を支えるのが言葉であり、畏敬の念をもってその言葉と対峙することが出来るとき人は真に平和を実現できるのではないか。 テロの時代に生きる私たちにとって、この小説が提示する理念に心震える思いがしたのです。 | ||||
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SF初心者の私ですが、この書には震えました。圧倒的な筆力と現実感のある非現実。細部まで書き込まれた物語は。仮想現実を越えて、読者である私達に迫ってくる。その圧迫感が読者を物語の中に誘い、そして吸い込んでいく。まるで映画を観ているような読書感。名作中の名作です。 9・11以降の世界観の総括的な書である。その中では仮想現実と現実との対比(本作にはボードリャールの記載あり)や生物と感覚、言語という現代の課題が複層的に絡み合って、進んでいく。 こんな作品どうやったら書けるの?どんな思考回路なの?っていう驚愕の作品。でも作者はもうこの世にいない。この作品が作者の墓碑銘になっている。この世界にこれだけのものを残したのだから。 | ||||
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正直これはびっくりするくらいおもしろかったです。 大層なネーミング。筆者の夭折。読む前からこんだけ ハードルあげといて面白いのはすごい!! すごい、すごいと印象論になってしまうけど、内容は メタルギアソリッドみたいで、藤原豆腐店の車が出てくるし、 「1984」みたいだし。世界観はネットみたい。 っとまったくまとまらないレビューですが 筆者はこれらのものを巧みにまとめあげています。 「スラムダンク」以来ある意味忘れたい作品ですw | ||||
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このSFに☆を五つあげなかったら,他の何に今☆があげられるというのだろう。 主人公はクラヴィス・シェパード。アメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の大尉。 ときはおそらく2020年代。シェパードは,アメリカの特殊な上層部の命を受けて 第三世界で内戦と虐殺を起こしている男を暗殺する使命を帯びている。 その男がどうやって内戦を起こすかが、この小説の第一アイデアなのだが、 書評でその内容が少しでもわかるように触れるのは重大なルール違反である。 ただし、なぜそれで虐殺が起こせるかの書き込みは確かに足りないし,動機も弱い。 が、それを補って余りある疾走感。 まるで翻訳物のような文体,だが翻訳ではないので読みやすい。アメリカ人の作家が、 読者サービスで出すように日本の名を出すこころにくさ。 ぼくは、この作品の中で侵入鞘(イントルード・ポッド)が射出される瞬間の描写が好きである。 ぼくは、この作品の中で,母の延命装置を外す承諾をしそれを原罪のように悔いる主人公の心理描写が嫌いである。 ちなみに、ぼくが、たまたまそうなっただけだがイーグルトンの『宗教とは何か』と、ドーキンスの『神は妄想である』 を読んでから『虐殺器官』を読んだ。そうすると、と飛びます。 | ||||
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SFは普段読まないのですが、最近話題の本ということで、読んでみました。 まずは、文体に引きつけられました。読みやすい文章、比喩の斬新さ、洒落た会話、非常にセンスがよい文体で、グロテスクな場面もすんなりと入っていきました。しかし、そのグロテスクな場面がきれいに滅菌されてしまっているのかというと、そうではなくて、どこか悲しみを帯びたような静かな文体で、胸に響きます。 次にディテールを支える知識の量・深さに圧倒されました。哲学・経済・政治・宗教・歴史……それら一つ一つに対する筆者の造詣の深さに驚かされます。そしてそれらが、衒学的ではなく、非常に分かりやすく語られています。 もちろん、ストーリーも素晴らしい。張り巡らされた伏線は、それぞれがドラマを持っているので、伏線伏線していません。登場人物の心理変化や他者との葛藤も、ディテールやドラマにしっかり支えられているので、非常に説得力がありました。 そして、何よりも素晴らしいのは、この作品が現代社会の矛盾に対して、するどい視線を持っているということ。SFでありながら、現代社会に対する、そして現代社会に生きる人間に対する警告の書になっていると感じました。 読んでよかったです。今までの人生の読書体験の中でも指折りの一冊でした。 | ||||
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読み始め、文章の軽さとこなれなさに違和感を覚えましたが、 著者の綿密な取材と教養に裏付けられたディテールの積み重ね、 いい意味で日本人離れした厳としたストーリーテーリングの前には 些事になります。 (あとがきによると、文章の軽さは著者が意図したものだそうです。スミマセン) 詰め込まれた情報量は、ある意味、士郎正宗の欄外注の系譜を踏襲する SFへのアプローチ方法かとも思えますが、 このような先人の成果を十二分に消化し積み重ねる手法の中に、 (日本の)SFやその周辺がたどってきた行程が見え隠れし、 感慨深く感じる方も多いのではないでしょうか。 兎にも角にも、従来の日本SFのレベルを飛び越えた傑作であり、 一つの金字塔であることは間違いなく、 なおさら、このような才能の夭折に、哀悼の念を禁じえません。 | ||||
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最後の行動に納得いかん。 世界平和のために自国を犠牲にするという精神はまあいいとして、実際の行動がその理念を反映していないという。 戦争なんて一度始まってしまったらそうそう終われないわけで、現実として中東あたりはアメリカの介入にもかかわらずヒャッハー状態なわけですが、ではアメリカが内戦状態に陥れば中東情勢が落ち着くかというとそんなわけないだろうがと。 逆に超大国が不安定化すると周囲にも影響を与えることは間違いない。 つまり、彼が曲がりなりにも成功させてきた「アメリカのみの安定」程度の安定すらも守りきれてないわけですよ。 そして自分はその思想に殉ずるかというと、食料買い込んだり強盗撃ち殺したりして意地汚く生き残る気満々だしな。 確かに文体は凄いけど、ただそれだけで傑作になるかと言われると首を横に振らざるをえない。 | ||||
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SF素人の意見です。 タイトルにある「虐殺器官」とは何かという発想は斬新で面白いと思いました。 さらに、なぞの男をめぐる追跡劇は緊迫感があってよかったです。 しかし、ドラマが若干しょぼい。 SFをガッツリ読む人には面白い世界観や小道具があって、飽きさせないのかもしれません。しかし、SF素人が読むとその面白さはあまり感じないので、やや飽きます。全体の展開も、場面がよく変わる割に話の進行は漫然としていて、それほど上手いとは感じませんでした。また、章毎の繋がりにかけるという面も見逃せません。 単純に小説の面白さだけを抽出した場合、評価はまあ普通といったところでしょうか。 | ||||
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文庫化されるまで待ってみたけど・・・ ミイラ取りがミイラになる話。 そんな感想しか出てこないのだが、これは自分が全く内容を読めてないってことなのだろうか。 世界各地で発生する民族虐殺の原因が一人のアメリカ人であり、彼を暗殺する役目を受けた諜報機関員が語り手で、彼から見た景色が次第に真実を明らかにしていく、といったストーリー。 結局はテロの被害者であった人間が、言語によって、人の脳内に存在する破滅衝動を解放させる方法を見つけ出し、それを使用することで、自分と同様テロによって同じ想いを味わう被害者を出さない為に、あくまで自衛を目的として、将来的にテロリストを生み出す土壌をもった新興国を内戦状態に導き、自国(アメリカ)を守ることが目的であった・・・という、普通の話に収束していたので、逆にあっけに取られた。 よ〜く読めば、世界の守護者を自ら任じるアメリカの現実世界と重なる矛盾した行動に作者の皮肉な感覚を感じることもできる。 確かに面白いし、読みやすいし、一機に通して読み終えた。 だけど日本SF大賞受賞作で、このSFを読め!の2008年度第1位という前評判から、どんなに凄い物語だろうと、少々身構えて読み始めたのが、肩透かしを食らった気分である。 だからこそ、自分は、この作品の価値が全然わかっていないのか?という恐れのような感情が湧き出てしまった。 なかなかに自分を悩ませる一冊だったな。 | ||||
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ネビル・シュートの『渚にて』は前世紀の核の恐怖に怯えた人類に読まれるべき小説であったのなら、『虐殺器官』は今世紀最初に起こったテロの恐怖を身近に感じた人類に読まれるべきそれだと思う。 しかしこれは何も反戦を謳っているわけではない。我々が「今、ここに」生きていくための小説なのだ。 近い将来この小説は必ずや全世界に向けて発信されるだろうと確信している。作者が夭折なされたことが本当に悔しい。 | ||||
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アメリカ情報軍特殊検軍i分遺隊、空飛ぶ海苔(フライング・ウィード)、侵入鞘(イントルードポッド)、などの近未来兵器、ドーピングによって身体的、精神的痛みをコントロールされた少数精鋭のコマンドが主役になっている近未来の戦争の姿は、ゲーム、アニメの世界ではそう珍しいアイテムではないのかもしれません。ですので、バリバリのゲームマニアがそれを目的に読むだけであるならばそう衝撃はないでしょう。 作中の背景として登場するゲーム理論、進化論などもけしてアクセサリーとしてでなく本題の中に組み込まれている筆力は現在の邦書では群を抜いています。翻訳化を前提に書かれているのかと思ってしまうほど国際標準に準拠した形(なんのこっちゃ)で書かれていました。とても短期間で書き上げられた作品とは思えません。しかし、本書の核はそのようなガジェットではなく、人間の遺伝子に予めプログラミングされている残虐性を知っていながら、それに罪の痛みを感じる主観的な罪悪感(良心)との矛盾に苦しむ登場人物の描写にあるではないでしょうか。 戦争の姿は兵士である人間をたんぱく質でできている唯物的な存在として活用している現実がこれでもかと描写されています。一方、登場人物たちは、言語化されない思考の範囲が暗黙知として存在し、脳(こころ)に痛みを感じ罪の意識にさいなまれた人間はどう行動するのか?伊藤劃画氏の才能に圧倒される1冊です。 | ||||
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小松左京賞落選作(笑)。 ここまでの作品が落ちた理由について考えてみたいと思います。 まず、左京賞に応募した段階より相当書き込んだと言われている現在のバージョンにさえ、 「ここまで文章の上手い人が、なぜこんな不用意な書き方をするのだろう?」 と疑問を抱くような、明確に推敲不足と思われる記載が数カ所あります。 これが応募段階では、ずっと多かったのでしょう。 そういった記載が発生した理由は、巻末の大森望による解説で判明しました。ものすごい速書きの人だったらしいです。また、病気の治療の関係で体力がなく、じっくりひつっこく推敲することもできなかったのでしょう。 それから。 SFの賞に応募されたことから推測できるように、本作には魅力的なSFガジェットがいくつか登場しますが、それが社会状況として極めて今のテーマを描きたいという要求とぶつかりあって、相互に矛盾した時間になっています。つまり、テーマから言ってごく最近の話を書きたいが、SFとして魅力的であるためにはかなり未来的な技術を必要とした。そのアンバランスが気になるのです。 また、それらのガジェットは魅力的ではありますが、画期的に目新しくはありません。 一部のSF愛好家は、SFの価値を、目新しさ(だけ)に置いていますから、この作品がその面では評価されなかったのもうなずけます。 作者の発明と思われるガジェットはただ一つ、「虐殺言語」ですから、選評でその虐殺言語だけにこだわったコメントが出されたことにもうなずけます。 しかしここで描かれているのは、SF的なアイデアではありません。 全員を救えない時、あなたはエゴをむき出しに身内を救うのか? それとも、身内を犠牲にしてわがままを押しつけるべきではない他人の方をこそ救うのか? という、極めて倫理学的、哲学的問いなのです。 その問いが、現代の政治状況を背景に、今ここにいる自分の問題として、ぎりぎりと突きつけられる、そのすさまじさをこそ鑑賞するべき作品なのです。 本作は、旧来型のSFの価値基準にとらわれた審査員が、文学的価値を見落としたという、典型的な失敗例として語り継がれるべきであり、なぜ今SFがダメになったのかの答えとして長く提示される証拠物件となるでしょう。 | ||||
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10年後には早くも伝説になるであろう、30代半ばで夭折した天才的作家の数少ない長編の中の1作です。 主な舞台は内戦状態にあるいくつかの途上国。そこで暗躍する謎のアメリカ人ジョン・ポールを抹殺する使命を帯びた合衆国特殊部隊の指揮官シェパード大尉を主人公に据えて、これまでの日本のSF作品では描かれたことのないような世界を展開してくれます。 後半の読者の興味は「ジョン・ポールの真の目的は何か」の一点に向かいます。その一方で、彼が発見(?)した「虐殺の文法」の具体的内容は説明されません。その辺が小松左京賞に選考されなかった理由とも説明されています。 随所で繊細な主人公の脳裏を借りて、さまざまな倫理学的・哲学的思索を展開し、作品に深みを与えていますが、若干先走りすぎて、「後は読者が考えて」というような余地を遺してほしいと思う私などは、やや違和感を覚えます。 とはいえ、この作者が世の読書人たちに与えた影響は計り知れません。そして、人間というものは、限られた短い日々の中で、ここまで大きな仕事ができるのかという感慨に震えました。 | ||||
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私も普段SFはあまり読まないのだが,日経の書評で褒めちぎっていたので読んだクチだ。 確かにディテイルはすごく,軍事やテクノロジーに関する知識の豊富さ・正確さと細かい描写には感心した。 けれども,何というのか,大きなストーリーを感ずる上では,やはりちょっと尻すぼみな印象を受けた。 様々な技術や医療的処置によって,心の細部に至るまである意味「管理」を受け,多数の人間を殺しながらも自分が行為主体であったとは受け入れられず,従って罪の意識を持つこともできない主人公。その人間疎外の状況を描き出した筆者の筆力はまさに素晴らしく,我々も今後時代が進むにつれてこういう世界で生きてゆくことになるのか,と我々自身の問題として迫ってくる。 それだから,この後の大きなストーリーはこの人間疎外状況がテーマになり,主人公が思い人のルツィアと会って自分の罪と罰を定めてもらうのが大きな山場になるのだろうと想像しながら読み進める。あるいはジョン・ポールとの対決でもこの問題が一番のテーマになるのではと想像する。 しかし,この二人との再会はかなりあっけないものだ。詳述はしないが,主人公の罪と罰を定めてくれるはずのルツィアはあっさりと死んでしまう。メインテーマは主人公の(従って現代人全員の)心の問題から,発展途上国での虐殺によって先進国でのテロが防がれている,というマクロな問題へと変わってきてしまう。 まあ,これはこれで良いのかも知れないが,私としては主人公の繊細微妙な罪の,あるいは疎外状況の問題が,かなりおおざっぱな国家レベルの利害のような問題にすげ替えられてしまったようで残念である。 作者が50歳くらいになり,円熟の味が出てくると一層良い作品が生み出されるのではと期待したい所だが,それも叶わぬ夢になってしまった。 | ||||
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核戦争後の近未来を舞台に、アメリカ情報軍の暗殺屋シェパード大尉を語り手として、アメリカの独善・覇権主義への揶揄を背景に、商業的戦争が起こるメカニズムをサスペンス風に仕立てた作品。シェパードは虚無的で、ストーリーはまるで異なるのに、文体のせいか、サリンジャー「ライ麦...」を想起させる。近未来を意識してか、remote RFIDやfinger printに基づくDBでの人間識別、カタカナ専門用語・英略語の多用等、業界の人間からすれば単なるハッタリとしか思えない記述が多く鼻に付くが、必要悪と言う事だろう。 物語は、ジョン・ポールと言うBeatlesファンが聞いたら怒りそうな名前を持つテロ扇動家をシェパード達が追跡すると言う体裁で進む。だが、作者の社会観・戦争観が一般のそれと変わる所が無い上に、シェパードの行動ではなく、思索面を中心に描いているため、物語の迫真性に欠ける。抽象論に走り過ぎているのだ。シェパード達が監視するポールの愛人ルツィアの描写も感傷的に過ぎて、サスペンス性を盛り下げるだけ。冷徹な殺し屋の筈のシェパードがルツィアに抱く恋情を描いてどうするのか。ポールが唱える言語理論・遺伝子決定論も胡散臭さしか感じない。作者が洒落ていると思っているらしい会話・文学的引用も平凡で面白みに欠ける。また、シェパードは度々、亡母が住む「死者の国」と対話するが、これもP.S.ビーグル「心地よく秘密めいたところ」を思わせ、本当に新規性のある小説なのか疑念が湧く。言葉を「器官」と捉えている点が新しいのだろうか ? 無辜の人々を「虐殺する器官」と。あるいはespionageの中に、言語理論、進化論、認識論、神学等を盛り込んでいる点が新しいのか ? 虚しい。 冒頭でサスペンス小説と書いたが、実態は理屈を捏ね回しただけの半可通小説と言った趣き。これが新しい世界観の構築に繋がるとは到底思えなかった。 | ||||
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9・11事件以降、世界の先進諸国は個人情報認証による厳格な管理体制を整え、 後進諸国にはテロの更なる泥沼化を引き起こし、巨大な溝を生み出した。 米国情報軍、特殊検索群i分遣隊に所属するクラヴィス・シェパード大尉は 他国の戦争を介しながら「虐殺を引き起こす文法」という禁断の技術を目の辺りにする。 2001年9月11日に事実として起こった米国同時多発テロ事件後の、国家の在り様とテロとの戦い。 それに伴う国軍の変質と傭兵派遣会社のPMFの台頭、経済成長。 未だ続く宗教対立による内戦の裏に絡む先進国の利他行為。 近未来の世界をリアルに描いた作品です。 SFでありながらミステリ要素と、人間が放つ言葉に脳が齎す「感情」という物への探求が書かれている。 政治や戦争、脳医学や精神学等、広い視野と知識が無ければ書けない一冊。 伊藤 計劃氏の筆力に敬意を抱くと共に、氏の早世を惜しまずにはいられない。 | ||||
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悪い意味でリアリティがない。曖昧で中途半端な世界観。ゲームの脚本じゃないんだからこれは痛い。 | ||||
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まず著者が、すでに故人であることは非常に残念です。これからもっと成熟した、完全度の高い作品が世に出る筈だったのは間違いないでしょう。 作品の感想は、知識の浅い自分にはちょっと難しい箇所がいくつもあった。本当の事か想像か、判断つかない知識が随所に見られた。 裏を返せば、それほどのリアリティーがあるんです。アクションにしてもテンポ良く、最近観た映画「グリーン・ゾーン」よりもリアルな戦場を感じるほど、緊張感とリアリティーがあった。 しかし、随所にあるトリビア的な知識が、良いテンポを止めちゃってるのは残念でした。それでも難しい小説が苦手なバカな自分に、最後まで飽きさせず読ませる文章力は魅力的です。 著者の作品は少ないですが、他の作品も手にしたくなりました。解説で少し著者について知りましたが、本当に無念だったでしょうね。ご冥福をお祈りします。 | ||||
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