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龍臥亭事件



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龍臥亭事件の評価: 7.71/10点 レビュー 7件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.71pt

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No.1:6人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

ノンフィクションとフィクションの狭間で

これは新たなる島田氏の代表作だと云っても過言ではないだろう。『秋好事件』のノンフィクションタッチがこの作品でいかんなく発揮されており、島田氏がただ単純にノンフィクションを書いたのではないことも判った。
巨匠にして新たなる手法を生み出す、この貪欲さは新本格第1期組の、最近新作を出さない輩共に見習って欲しい姿勢である。

『津山30人殺し』をモチーフに、というかそのものを題材にかの御手洗潔のパートナー、石岡和己を主人公にして陰惨な連続殺人事件を繰り広げるというこの設定からして斬新だ。最初は単なる横溝正史へのオマージュだと思っていたが、いやいや、やはり島田氏、オリジナリティー溢れる作品となっており、島田作品以外何物でもない。
上巻に高木彬光へ、下巻で彼の生んだ名探偵神津恭介に賛辞を表しているが、これはこの作品そのものが彼の作品に対するオマージュではなく、恐らく当時彼が亡くなられたことによるものだろう。

今回特徴的なのは下巻の中間で都井睦雄の30人殺しへ至る経緯がその生涯と共に語られており、しかもそれが物語の謎の中心であるが故、フィクションとノンフィクションの境がぼやけ、真にあったかのように錯覚させられることだ。『秋好事件』でもそうだったがこういうノンフィクションを語らせると島田氏は抜群に上手い。臨場感と睦雄の人となり、そして事件の引き金となった経緯が非常に説得力を持って語られるのだ。
そういった中でも大トリックを仕込んでいるのが非常に嬉しいし、また、菱川幸子の殺害方法が運命の皮肉さを伴っているのが単なる推理ゲームに堕してなく、小説として余韻を残してくれるのがプライドを感じて嬉しい。

連続殺人が続くのも、最後の最後まで御手洗を登場させず、石岡という凡人に解決させることにより、不自然さが無い―よく名探偵がさんざん人が死んでおきながら犯人は貴方だ!と誇らしげに指摘する厚顔無恥さがこの作品には無い。昭和初期の殺人事件に基づいて連続殺人が成されたというのも島田氏がこだわる日本人論、昭和論をほのめかしており、しかも忘れ去られるであろう事件を再認識させてくれたのも作者の真面目さだと思う。
あと最後の最後であっと云わされるミチの正体。こういう演出が心憎い。

島田氏の創作意欲は衰えを知らず、毎年新作を発表している。恐らくこの作品はその口火となったように記憶している。読んでみてやはりこの作品は新生島田荘司の誕生を高らかに宣言しているように感じた。
本当に素晴らしい作家だ、島田氏は。

Tetchy
WHOKS60S

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