摩天楼の怪人



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長編小説

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摩天楼の怪人 (創元推理文庫)

2009年05月30日 摩天楼の怪人 (創元推理文庫)

ニューヨーク、マンハッタン。高層アパートの一室で、死の床にある大女優が半世紀近く前の殺人を告白した。事件現場は一階、その時彼女は34階の自室にいて、アリバイは完璧だったというのに…。この不可能犯罪の真相は?彼女の言うファントムとは誰なのか?建築家の不可解な死、時計塔の凄惨な殺人、相次いだ女たちの自殺。若き御手洗潔が摩天楼の壮大な謎を華麗に解く。 (「BOOK」データベースより)




書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.67pt

摩天楼の怪人の総合評価:7.83/10点レビュー 23件。Bランク


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全3件 1~3 1/1ページ
No.3:
(8pt)

またも奇想のオンパレード

島田荘司氏、数年の沈黙を破っての大作。文庫版670ページ強を費やして語られる事件は御手洗シリーズの新作を待望していた読者の渇きを癒すのに十分な内容だ。
なんせ事件がすごい。

舞台はニューヨークのアパート、セントラルパーク・タワー。物語の導入部で語られる元女優が死の間際に話したたった15分のうちに34階の部屋から停電中に1階の住民を拳銃で殺して戻ってくる不可能状況から始まり、スーツを着た骸骨の顔を持った男が、ロックされたゲートを通り抜けて住民を射殺する事件。

さらに物語は53年前に遡り、そこで起こる不可解な連続殺人事件。3つの密室内で自殺したとしか思えない事件。さらに時計塔の大時計の長針の針を利用しての演出家の断頭殺人。そしてハリケーンの夜に突如起こったアパートのほとんどの窓が爆発した最中の建築家の転落死。貨物用エレヴェータに佇み、奇声を発する骸骨。それらの事件の陰に蠢くファントムという名の仮面を付けた怪紳士。
往年の島田氏のセンス・オブ・ワンダーが溢れんばかりに盛り込まれた奇想の応酬である。

そして本書に登場するのは若き日の御手洗潔。まだ石岡と出逢う前の、アメリカのコロンビア大学に留学していた頃の彼だ。
従ってここに出てくる彼は全知全能の神ではない。不可能状況・夢幻としか思えない奇妙な現象に惑わされ、思考する一個の探偵なのだ。石岡が主役を務める『龍臥亭事件』、『龍臥亭幻想』やレオナが主役を務める『ハリウッド・サーティフィケイト』などのスピンオフ作品に電話のみで登場して全てを解き明かしてヒントを与えるような超天才型探偵でまだないところがいい。

したがって非常に若々しい。『眩暈』までの作品でよく見られたフィールドワークに嬉々として没頭する彼の姿がここにはある。
なんとも嬉しいではないか。やはり御手洗はこうでないといけない。

さらに本書では舞台であるマンハッタンに纏わる様々な都市伝説が開陳される。マンハッタンの摩天楼が巨大な岩盤に作られていることは有名だが、その摩天楼が出来るに至った高層ビル競争の歴史、その地下には摩天楼に勝るとも劣らない巨大空間が広がっている都市伝説、そしてセントラルパークに纏わる逸話の数々。歴史の浅い国アメリカの中で最も急激に発展し、ロンドン、パリをも凌ぐ大都会となったマンハッタンという特殊な都市の秘密がストーリーに絡めて語られていく。
これこそ島田ミステリの真骨頂。本当に久々の本家御手洗シリーズを堪能した。

特にマンハッタンの地下王国についてはかなり信憑性が高いようで、マンハッタン界隈のホームレスの数が年々減っているようだ。しかもこれについては『モグラびと』なる本も出版されており、それに詳しく記載されている。

さて島田作品には従来からシャーロック・ホームズの影響が強く見られるのは知られているが、もう1つ特徴的に見られるのは乱歩の影。
今回は特に連続殺人事件の1つ、セントラルパーク・タワーの大時計の長針を利用した断頭殺人は乱歩作品でも幾度となく使われた殺人方法であった。

そして題名、連続殺人事件に現れては消える謎の存在ファントム、さらには物語の中心となるのが女優であることから容易に連想されるある有名な作品がある。そうガストン・ルルーのあの名作だ。これは島田流『オペラ座の怪人』なのだ。
ただあとがきにも述べられているが、本家が怪人と美女との悲恋の物語であるのに対し、本書はあくまでも不可能趣味、怪奇趣味を前面に押し出していること。従ってファントムが恋焦がれて止まないジョディ・サリナスなる女優がそれほど生涯を賭して守るほどの愛らしさ、崇高さを備えているとは思えなかったきらいはある。

とはいえ、さすが島田氏、最後に忘られぬ驚愕の真相を用意してくれる。
確かに摩天楼を形成するビルの頂上にはガーゴイル像など意匠を凝らした装飾が成されているのは映画でもよく見られたが、これを更に一歩押し進めたこの島田の奇想はなんともロマンティックだ。

そして物語全体に散りばめられた謎は今回も御手洗の閃きによって暴かれるが、果たしてこれを本格ミステリと呼んでいいものか疑問が残る。
確かに手掛かりとなる暗号もあれば、事件現場の見取り図も読者に提示されている。が、しかしそれでもこの真相を看破できる読者は皆無であろう。

また今回のメインの謎とされるたった15分間―その後物語が進むにつれてそれは10分間と更に短縮されるが―で1階から34階までいかに移動して殺人を成しえたかという謎の真相もまたある専門知識、いや薀蓄を知っていないと解けないものだ。唯一おぼろげながら真相が解ったアパートの窓が一斉に爆発した謎の真相もまた専門知識が必要であり、門外漢には全く解けないものだろう。

こうして振り返ってみると、もはや御手洗シリーズは読者との推理合戦の領域を超越し、作者の奇想の発表の場になってしまったのだなと一抹の寂しさを感じる。
しかしその作者の奇想が読者の予想をはるかに超え、実にファンタスティックである故に、私のような固定ファンがいつまでもいるのだ。この作風が許せる島田氏はやはり日本の本格シーンの中では唯一無二の別格的存在だといえよう。

久々の重厚長大の御手洗シリーズ。本作は往年の物と比べると勢いはやや劣る物の、その豪腕ぶり、斬新な奇想はまだまだ健在だと証明するに十分すぎる作品だ。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

摩天楼の怪人の感想

けっこう島田氏の作品は読んできた。読み疲れといった部分もあると思う。だから読んでいる途中でもあまりワクワク感は感じなく読んでいた。出だしは34階にいた人物が1階にいた人物を殺害したと告白する。わずか10分の犯行時間。
物理的に不可能なこの告白に御手洗潔はどのような答えを出すのか。そして都市の成り立ちや文明との係わりによって変貌していく過程が著者視点のウンチクをもって語られる。ネタのバックボーンとなる建築物がこの物語のすべてであるが
挟まれるひとつひとつの謎はそう興味を惹かない。窓に見えた怪人、姿が透けて見える怪人、どう解釈するのかと思ったらそのへんかといったところである。動機は端的にいえばそれでも良い。だから停電の夜34階にいて1階の人物をわずか10分
でどう殺害する。その答えを知りたくて最後まで読んだ。ひとつの都市伝説がミスリードの役割で抽入されているがこれは著者のいつもの手だ。鮮烈なデビューから数十年が経った。あの頃のドキドキはもう無い。
私にとって島田荘司は龍臥亭事件まででした。

ニコラス刑事
25MT9OHA
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

摩天楼の怪人の感想

提示される謎はスケールの大きなものばかりで、序盤は非常に心引かれるものでした。
しかし、著者の真骨頂が「奇想」にあるにしても、さすがにこれは納得がいかない。
非常に興味をそそられる複数の謎で読者の気を引きながら、
回収方法がそのスケールに見合っていないというか、
トリックと言えるのかすら疑問ですし、そもそもこれが何十年も誰も真相を暴けなかった謎だったのかというのが率直な感想です。
また謎解明に至るまでのロジックも不親切な気がしました。
「何故それでわかったの?御手洗さん」
みたいな。

「回収されず放置プレイされたあの章」に関しては、
ミスディレクションを狙ったもののようですが、あとがきを読んでも、その効果の程が理解できませんでした。

梁山泊
MTNH2G0O
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未読の方はご注意ください

No.20:
(4pt)

紳士な御手洗潔も良いものです

海外ではいたって常識人な御手洗氏ですが振り回されるキャラはやはり必要なようで、石岡君の偉大さがわかります。
もちろん石岡と出会う前のお話ですから無茶なのですが。
マンハッタンの情景が浮かぶような文章はさすがです。
やはり実際に住んでいないと書けない文章だと思いました。
Kindle版で出ていれば星は5つでした。
摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)Amazon書評・レビュー:摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)より
4488012078
No.19:
(5pt)

御手洗潔

どんでん返しで思いもつかない犯人とトリックでした。ドキドキワクワクの連続でした。御手洗潔の推理は全部読みます。
摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)Amazon書評・レビュー:摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)より
4488012078
No.18:
(4pt)

600ページは長いよ!

「オペラ座の怪人」を思い出させる内容とタイトル。詳しくは言えないものの、最後もそっくり。一種のオマージュのような作品ですね。

 内容も奇妙奇天烈なストーリー。まさに島田荘司にしか書けないプロットでしょう。これほどのケレンを思いつくのは、日本では彼以外にいない。おまけに舞台は大好きなニューヨーク。探偵御手洗潔は母校の助教授と来た。うんうん、嬉しいぞ。というわけで、最後まで十分に堪能致しました。

 しかし、それにしても…。600頁は長いよー。もうちょっと短く、コンパクトにならないかな。読み手のことを少しは考えてほしい作品です。
摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)Amazon書評・レビュー:摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)より
4488012078
No.17:
(4pt)

フルコースの島田ワールドをご堪能あれ

「幻想」「連続殺人」「建築史」「完全密室」「怪人(本作では『ファントム』)」「社会的不合理」「歴史」「風俗」などが随所にテンコ盛りですべてが伏線となる。もちろん主人公は「キヨシ・ミタライ」で最初から最後まで存分に純粋な推理小説を楽しむことができた。1か所だけ余計な幻想というか回想があったがこれも読者をいい意味で裏切るための技術であって残念感は残らない。

ブロードウェイの国民的大女優がいまわの際に突然告白を始めた殺人事件への関与は、はたして記憶の混沌がなせるわざだったのか?もし真実だったとしても物理的に移動が不可能(もちろんここに大トリックがあることは言うまでもありませんが)なのにどうしてそれができたのか?そして、その事件のどれもがニューヨーク・マンハッタンにそびえたつ超高層ビルという巨大な密室であり、各部屋にも建築上の細工があり窓の開閉は不可能。そのビルのシンボルである大時計での凄惨(このおどろおどろしさの描写も作者ならでは)な殺人、火薬も使わずに吹き飛ばされた窓ガラスのすべて、転落死してしまう設計者である建築家まで含めてすべての謎を一気に解決するこの小説はまさに「新・本格派」第一人者のプライドを感じずにはいられなかった。
摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)Amazon書評・レビュー:摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)より
4488012078
No.16:
(2pt)

主人公には共感するが、ミステリとしては?

島荘版というか御手洗版「オペラ座の怪人」である。
面白いか?と聞かれて、素直には応えにくい作品だ。
私には面白くなかった。

ミステリではある。
謎はある。
しかし、その謎の解明がストレートに犯罪の解決ということになっていない、というのがちょっと引っかかる。
ある意味ではマッハッタンの街が主役ともいえる。
いや、著者のことだし、かつて東京をさんざん作品で論じたことがあるのだから、本作でも街を論じたかったのかもしれない。

そう考えながら読むと、そこかしこに街のさまざまな顔が描写されていることに気づく。
本作は一人の女性をめぐる「怪人」の人生を描くとともに、都市を描いた作品なのである。

そして、摩天楼だ。
かつての日本人は、アメリカの摩天楼に憧れ、追いつき、追い越そうとした。
それが日本のエネルギーとなり、成長の糧だった。
その摩天楼が、実に見事に描かれている。
ああ、著者もまた、かつて摩天楼に憧れたひとりだったんだということに気づく。

そういう面白さはある。
ただし、本作はミステリとして書かれたものだ。
だから、素直にミステリとして評価すると、実はそう高い評価は、私にはできない。
犯罪はその裏に大きな悪意があってこそ、解決のカタルシスがあるのだと思う。
本作に悪意がない訳ではない。
しかし、どうしても読後に印象深いのは、善意のほうになってしまう。
だから、本作をミステリとしては、あまり高く評価しにくいのだ。
摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)Amazon書評・レビュー:摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)より
4488012078



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