火刑都市
※以下のグループに登録されています。
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点7.50pt |
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
| ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
意外な方向に話が進んだ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
島田節による社会派ミステリー。御手洗シリーズのような派手さはまったく無く、地味な現場叩き上げの中村刑事が靴の底を減らしてコツコツと聞き込みと検証をしていく捜査小説とも言える。もちろん、トレードマークとも言える少々の『強引さ』もチラホラはしてくれているのだが、それ以上に骨太なテーマと緻密で丁寧なプロットが凄い。序盤に描かれた描写が、終盤に新たな事実が判明した後に読み返すとまた違ったものが見えてくるという、事件は解決していないにも関わらず得られるこの爽快感に終始酔いっぱなしになり、また謎解きやトリックではなく『人間』の描写が常に中心にあり、文字通り一挙手一投足までも読み流せない濃密なヒューマンドラマが展開されている。真相は解明されなくとも、ずっと読み続けていたい素晴らしい作品でした。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
東京各所で発生する連続放火事件を扱った本書は、それまでの作品でも顔を覗かせていた島田氏の都市論、日本人論が前面に押し出された島田版社会派推理小説だ。本作で主人公を務めるのが中村刑事。御手洗シリーズの短編「疾走する死者」で登場し、さらにもう1つのシリーズ、吉敷シリーズにも登場している刑事だ。御手洗シリーズに出ていた刑事が主人公を務めるのはこの他に『斜め屋敷の犯罪』に登場した牛越刑事の『死者が飲む水』があるが、両シリーズに跨って出ているのはこの人物だけだったのではないだろうか(後にある作品では御手洗シリーズのある人物と吉敷シリーズのある人物が邂逅するが、それはまた別として)? | ||||
| ||||
|
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
この時代だから描けた綿密で丹念な物語、惹き込まれるように読破しました。 ストーリーは最初の事件からその解決までの1年以上にわたっていて、起伏が大きかったりどんでん返しがあったりといった派手さはなく、淡々と着実に真実に迫っていくストーリーになっています。 (以下ネタバレあり)島田先生の作品は本当に読ませる力があるのですが、こちらはある意味テロリスト的犯罪の犯人が、なぜそのような犯行に至ったかの内面描写はなく、なぜその当時の若い男性にそういう思想があり得たか、を理解出来た感じでした。1970年ぐらいの学生運動から十数年ぐらいは経ってはいっているものの、今の大学生とは全く違うメンタルを持っていたであろう犯人が反政府的なこのような思想を持つことについては充分に納得ができますし、何と言ってもこの話のヒロインは消えた女性なので、その女性の生い立ちや上京して転々とするに至る経緯の方が主流なのです。 しかしこの話の大黒柱は何と言っても往年の刑事の地道な捜査です。意味不明な縁故的人脈を持っていて都合よく情報が入ってくるジャーナリストなんぞは出てきません。自分の感じた違和感を放置せず、何かあると調べ続ける実直な刑事がいるのみです。ここに断然たる昭和作家のリアリティがあります。 相手が刑事だからして周りが協力的なのは然るべきですが、それにしても「そんな都合のいい偶然あるか」「なんで相手にメリットもデメリットもないのに情報提供受けられた?」といった違和感を全く感じさせません。犯人側には犯罪を成功させるための若干の都合の良さが感じられないこともないのですが、それを追う側には都合の良さ・棚ぼた・あの人が実はあの人で(そりゃないぜ)が全くないところが珠玉です。最後犯行現場を巡る偶然については、普通考えられない確率のことだと思いますが、この一点だけがそうなので全体に納得感が保たれた上でドラマティックなのであり、なんでもかんでも都合よくあてはめてしまう事例が昨今の小説には散見されることを実感するに至りました。だからこそ最後のすごい確率の偶然が、ヒロインが犯人を殺すという幕引きに至るところに偶然を通り越した必然にすら感じてしまうのです。 なのに、その感動的なラストに事後談や無駄なセンチメンタルな語りをくっつけることをせずに、サラッと終わるのも素晴らしく清々しいのです。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
島田荘司は、『島田荘司全集IV』の後書きの中で、『改訂完全版』としてリマスタするプロセスの中で、『夏、19歳の肖像』と『火刑都市』について、読み直してみて、自分の初期を代表する作品だと書いている。 この作品は、ホテルで缶詰ではなかったようだ。この前に書かれた『確率2/2の死』と、『サテンのマーメイド』・『夏、19歳の肖像』の3作は、出版社にホテルに缶詰にさせられて書いたらしい。ただ、この次の角川からリリースされた『消える上海レディ』は、御茶ノ水の山の上ホテルで缶詰になって書いた、と書かれている。 さて本作は、島田荘司の東京あるいは江戸についてのノウハウが随所に生きている。御手洗の短編集の中に『ギリシャの犬』というのがあるが、あれは『東京の橋』についてのノウハウが凄かった。あれと似たものを感じた。とても好きな作品です。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
作者としては珍しい地道な刑事物。事件は四谷で起きた自殺とも殺人とも取れる状況で発見された警備員の土屋の焼死体。殺人とも取れるのは(土屋が)結婚を約束していた同棲中の美人(「カンコ」とも「ユッコ」とも)が事件当夜以降、身辺整理の上、跡形もなく失踪しているからである。おまけに、土屋は極端な人嫌いで、2人の身辺調査は難航する。これを中村という刑事が執念深く追うというストーリー。 しかし、「カンコ」という愛称から中村が越後寒川に辿り着くのは流石に論理が飛躍し過ぎているだろう。美人の正体は渡辺由紀子。漁師だった由紀子の父親は既に亡くなっており、父親が半身不随で入院中に由紀子が産まれているので、由紀子は愛人の子供かも知れない。焼死体の話を聞いて母親が驚愕する辺りに事件の深層が潜んでいるのか。案の定、由紀子の実の父親は遊び人で焼身自殺したという。愛人の焼死という共通体験を母娘でしているのだ。しかし、由紀子は事件当夜のアリバイを主張し裏付けられる。そこへ、赤坂、虎の門と(密室状態での)放火魔による放火事件が起きる。四谷の事件もこの連続放火魔の仕業とも考えられるが、それではここまで由紀子を追って来た意味がなくなる。だが、発想の転換がある。由紀子が土屋を殺すために放火魔を利用したというものである。後は、放火魔の正体(は直ぐ分かる)、放火方法及び放火の動機である。そこへ、虎の門、新橋、有楽町、数寄屋橋、八重洲、大手町で放火事件が発生する。これらが江戸城のかつての外堀だった事は私でも分かる。放火魔の動機が東京の都市計画へのある種の狂信的抗議だった事が窺える。 密室のカラクリは詰まらないものでガッカリ。しかし、地道ながら焼身殺人(自殺)をテーマに、一族の因果と江戸の情緒とを丹念に織り込んだ佳作だと思った。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の犯罪』などを読んで、江戸川乱歩や横溝正史直系の子孫だと思っていた島田荘司が、松本清張らの社会派ミステリの遺伝子も合わせ持っていたことを示した作品。なるほど主人公の刑事が、容疑者リストに浮かびあがった謎の女をおって、雪と日本海の荒海にだかれた北の寒村を訪れるところなどは、清張の名作『ゼロの焦点』を彷彿とさせるものがあった。 都市論に根ざした劇場型で偏執的な連続放火事件に殺人事件をかさね、時間的にも空間的にも広く興味をそそる物語展開で、飽きさせることなく読ませる。また、人生の勝ち組をもとめるゆえの犯罪者という、ある種の社会派推理小説にありがちな類型的な殺人者に堕することのない、より繊細で深い人生の機微を感じさせる犯人像の造形にも成功していた。細かな意外性やトリッキーな部分まであり、味わい深い島田流・社会派ミステリの傑作になっていると思う。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
新作読書の合間に島田荘司の過去の名作を読むことが多くなりました。「改訂完全版 火刑都市」(島田荘司 講談社文庫)を読みました。 初出が1986年。初版で読んだ記憶がありますが、ディティールは忘れてしまっています。かつては、新刊を読むと即古本屋に持ち込み、売ってしまっていました。 東京、四谷でビル火災が起き、宿直のガードマンが焼死します。警視庁の中村刑事が事件を担当しますが、そのガードマンがいつもは使わない睡眠薬を飲んでいたことに疑問を持ちます。果たして、これは事件か、事故か、「殺人」か?亡くなったガードマンの恋人の存在が浮き上がり、その女性・由紀子がその痕跡と共にいなくなってしまっていることに気づきます。そして、唯一の手がかりから中村刑事は、日本海、「越後寒川」へと単独捜査に向かいます。島田荘司は奇想の作家ですが、「寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁」同様、日本ローカルの荒涼とした風景をリリカルに描いています。 そして、その四谷で起きた放火事件は、赤坂のホテル、虎ノ門のビル、「連続放火事件」へとつながっていきます。ここから、物語はもう一つ転調して、主役は刑事から都市「東京」へと受け継がれていきます。東京という「都市」を遡って描くそのロジックは、奇想でありながらも、パズラーとしての美しいアーキテクチャに裏打ちされています。そのことは、近頃、佐々木譲が描いたオルタネート・ヒストリー「抵抗都市」の東京の「地図」と相まって、東京という悪しき街の進化へと誘い、その幾重にも折り重ねられた「地図」は、現在の温暖化に苦悩する都市へとメタモルフォーゼを繰り返してきた証として、時の重さを体感させてくれるのだと思います。そういう意味では、このミステリは「予測」の書としてもその価値が高い。 失踪した女性・由紀子の存在も忘れがたい。昭和の時代、いい悪いはひとまず置くとして、このような「女性」の生き方が確かにあって、そのことを誰も責めることはできないと実感できます。使われる「愛」という言葉はとても気恥ずかしい語彙ですが、もしその語彙を使っていいのであれば、名声や資産や地位も一切かかわり合いのない場所にそれはあって、その「悲しみ」がこのミステリの底流に深く長く流れているのだと思います。それはまるで東京という都市の地下に流れていた多くの「掘割」のようだと思います。 未だにリーダビリティーの高い、島田荘司の「予測の書」としての傑作です。 1980年代当時、古本屋に何冊かの本を持ち込むと、顔なじみの店主は、私の顔をみて、いつもこう言ってくれました。 「それで、今日はいくらほしいですか?」 私が新刊の定価の7掛け*冊数分の金額を告げると店主は何も言わずにお金を渡してくれました。この小説の由紀子は「東京が怖かった」と言っていましたが、私はそのクールな東京にいて、下町に残る<人情>に何度も助けられていたような気がします。ありがとうございました。 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 13件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|