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11枚のとらんぷ



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11枚のとらんぷの評価: 5.89/10点 レビュー 9件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.89pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

11枚のとらんぷの感想

短編集でもないのに一冊で何度楽しめることやら、手品を好きでない人にはそうでもないかもしれません。


▼以下、ネタバレ感想

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mkaw11
HAAP6CBX
No.1:7人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

画期的且つ先駆的ミステリ

島田氏の作品で当時の本格ミステリに目覚めた私は早速彼の推薦する新進の新本格ミステリ作家の綾辻氏、法月氏、我孫子氏、歌野氏の諸作に手を伸ばしたのは先に述べたとおりだが、その延長線上で各所ガイドブック等で調べていくと、東京創元社も同様のムーヴメントを起こしている事実に行き当たった。当時同社が独自に編纂した『鮎川哲也と十三の謎』という叢書は、全く未知の作家の本格作品を続々と発表しており、しかもそれが世のミステリシーンに好評をもって迎えられているらしい。その筆頭は有栖川有栖氏、北村薫氏であったわけだが、この二者に興味を持たないはずがなく、私の次のターゲットはまもなく東京創元社のミステリ作家達に決まった。確かその頃はまだ乱歩や横溝正史、小酒井不木など、戦前戦後の推理作家の全集として気味の悪い人形の絵が描かれた分厚い文庫が刊行されたばかりで、今では創元推理文庫の棚にずらりと並んだベージュの背表紙の日本人作家の文庫はさほどではなかった。そしてそこに着目した私は有栖川氏と北村氏両氏の文庫版を探したのだが、全くなく失望してしまう。今では改善されてはいるが、東京創元社の単行本作品が文庫落ちするスパンは他社が3~4年であるのに対し、非常に長く、また作品によってまちまちであった。確か私が当時のミステリシーンに着目した当時は既に『~十三の謎』が刊行されてから6年くらいは経っていたと思うが、その時点でもまだ両氏の文庫作品は出ていなかった。で、その数少ない創元推理文庫の日本人作家の諸作で目に付いたのが泡坂氏の『11枚のとらんぷ』だった。当時既に泡坂氏はミステリ作家として名を馳せており、ミステリ初心者の私にとっては雲の上のような存在であり、多分かなり作品もあるだろうから、ということで敬遠していたのだが、日本の本格ミステリに飢えていた私はそこで線を引く事になる。せめて創元社で刊行される泡坂氏の作品だけでも読んでいこうかと。その栄えある第1作が本作であった。

とかなり前置きが長くなったが、本作はまず街の文化会館で行われるマジックショーの風景が描かれる。地元のマジック同好会による公演の模様は自身マジシャンである泡坂氏の独壇場とも云える臨場感があり、一気に物語世界に引き込まれた。そうこうしているうちに殺人が起き、ミステリの定石に倣えばそこから警察の介入、現場検証、容疑者への事情聴取となるわけだが、本書ではなんとそこから『11枚のとらんぷ』と名づけられたショートショート集へと移る。つまり本書は『11枚のとらんぷ』という長編の中に作中人物が自主出版した『11枚のとらんぷ』という題名のショートショート集が織り込まれている作中作ミステリなのだ。そしてその内容も1編1編マジックに纏わる謎とオチがきちんと付けられたれっきとしたショートミステリになっているのも素晴らしい。今思えば、この中の作品は北村薫氏に先駆けること何年も前の日常の謎系ミステリではないだろうか。
そのショートショート集が終ると解決編に移るわけだが、世間の評判ではこの解決編で明かされる真相があまりよろしくない。特に本作の主眼となっている、被害者の女性の死体の周辺に置かれたアイテム類がそれぞれショートショート集『11枚のとらんぷ』で取り上げられたマジックの小道具であること自体が容疑者を限定してしまうことにこだわる声が多いようだ。さらに動機が弱い、という声もあった。
しかし私の中では本書は燦然と煌いている。これはミステリに、小説に何を求めるかという個人個人の趣向によると思う。ミステリならば驚愕のトリック、美しさを感じるまでのロジックの妙が占めるウェートが高いだろう。小説ならば魅力ある登場人物、涙を誘うストーリー、芳醇な物語世界、その類いであろう。しかし私はこれに作家の遊び心を付け加えたい。作品としての出来を損なってでも、誰もが考えなかった工夫や趣向が凝らしている作品に私はこの上ない魅力を感じるのである。その先駆者こそがこの泡坂氏である。その後私が出逢った『しあわせの書』、『喜劇悲奇劇』、『生者と死者』といった作品は彼だけしか成し得ない作品だった。作品の出来云々よりもこういう稚気を私は買う。改めてその死が惜しまれる。
で、本作を読み終わった後、開巻前の打算的な考えは消し飛んでしまう。その日から私の泡坂全作品捜索の旅が始まったのだった。

Tetchy
WHOKS60S

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