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黒い塔



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黒い塔の評価: 6.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(6pt)

厚い上に細かすぎる描写は読者を選びます。

本作もCWA賞受賞でジェイムズ初期の代表作とされている。前回同賞を獲った『ナイチンゲールの屍衣』から名作『女には向かない職業』を間に挟んで発表された本書で再度受賞だから、この頃のジェイムズはまさに油が乗り切っていたと云えるだろう(ちなみに原書刊行は75年)。

今回もダルグリッシュは静養先で事件に巻き込まれる。よく休む警部だなぁと思われないよう、ジェイムズは一応ある設定を施しており、それはダルグリッシュが死の宣告を受けていたというもの。悪性の白血病に侵され、余命わずかと云われ、治療に専念していたら誤診だったという、なんとも滑稽な導入部である。療養休暇が余ったので、知り合いの神父から相談事があるとの依頼を受けて彼が勤める身体障害者の療養所へ向かい、そこで事件に巻き込まれるというのが本書のあらすじ。日本人だと誤診と解った時点で休暇を取止め、職場復帰するのだが、英国人は折角貰った休日だから有難く活用させていただこうと休むんだなあ。御茶の時間なども大切にするし、これが英国人と日本人の人生における余裕の持ち方の違いか。
で、件の神父は死んでおり、なんだかきな臭いものを感じたダルグリッシュはそこに留まり、色々調べると、そこで疑わしい死亡事故が頻発していることが解ってくる。しかもそこにはその施設の創立者が閉じこもって、餓死したといわれる黒い塔があり、さらに経営者の病気を奇跡的に治したと云われるルールドの水なるものも登場する。なんだかカーの作品みたいな曰くつきの伝承が語られるのが今までのジェイムズ作品に無い特徴だ。この舞台設定を意識してか、物語の語り口もどこか幻想味を帯びているような感じがし、なんだか靄がかかっているかのような雰囲気で進む。

しかしこれが非常に私には苦痛だった。かねてより何度も書いているがジェイムズの文体はうんざりするほどの情報量にあり、今回は登場人物もさらに多く、おまけに特殊な舞台設定でもあるので、人物の説明、描写、舞台の説明、描写がもうページから文字がこぼれんばかりに書かれている。初めから終わりまで全て見開き2ページが真っ黒だった記憶がある。しかもさらにページ数は増し、ポケミス刊行当時、最も厚い本であったらしい。その後、ジェイムズの作品は長大化し、この記録を自ら打ち破っていく。
とにかく陰鬱で重く、しかもなかなか進まない話に私はなんども本を投げ出そうかと思った。その後も色んな本を読んできたが、特にこの本は苦痛が先立ったのを肌身で覚えている。

ただ救われたのは意外な真相だったこと。それとダルグリッシュが犯人によって命を奪われそうになり、本書のモチーフとなる黒い塔に救われるシーンだ。ここで前半描写されたある特徴が一助となり、ダルグリッシュが難を逃れるのだが、こういう布石が最後にちゃっかりと活かされる小説というのを私は非常に好むのだ。
ずっと陰鬱だが、最後はなんだか明るい幕切れで、通常ならば終り良ければ全て良しと前面肯定的になるのだが、本書の場合は本当に気がめいる読書で、読み終って本当にほっとした作品だった。

Tetchy
WHOKS60S

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