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真鍮の家



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真鍮の家の評価: 6.50/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.50pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

最後の底力

クイーンはクイーンでも本書の主役はエラリイではなく、父親リチャード・クイーン警視だ。

まず驚きなのがリチャード・クイーン警視が結婚したという幕開けだ。退職した警視のお相手は『クイーン警視自身の事件』で慕うようになったジェシイ・シャーウッド!
いやあ、あの結末から7作目で結婚だとはまさに想定外。その間の作品でジェッシイとの付き合いが書かれていなかっただけに驚きだ。

その妻ジェシイにハネムーンから帰ったところに送られていた招待状。それは全く面識のない老富豪からの招待状だったという実に魅力的な導入から始まる。
一方のエラリイは世界中を股にかけた豪遊旅行中の身でトルコにいた。

この奇妙なシチュエーションの謎を解き明かそうとクイーン警視は退職警官の元同僚たちを雇って老富豪ブラス氏の素性調査を行う。ここら辺はさながらホームズのベイカー・ストリート・イレギュラーズを髣髴させる。
さてこのリチャード・クイーン警視とその仲間たちが挑む謎は3つ。

1つはヘンドリック・ブラス氏は何故面識のない6人の人物に遺産を相続しようと決めたのか?

2つ目はブラス氏が云った600万ドルの遺産とはいったい何処にあるのか?

3つ目は一体誰がブラス氏を殺したのか?

そして今回鳴りを潜めていたエラリイは最終章で登場し、一気に事件の真相と真犯人を突き止める。
『クイーン警視自身の事件』ではエラリイの登場無しで警視のみで解決していただけに今回も同趣向だと思っていただけにこれには驚いた。つまり作者はシリーズそのものをミスディレクションに用いたとも云える。
そう思うと本当にクイーンは本格ミステリの鬼だな。

さて本書のタイトル『真鍮の家』。原題では“House Of Brass”とそのままだが、実は色んな意味を含んだ題名である。題名通りまさに真鍮尽くしの物語なのだが、“brass”には本書の冒頭に引用されているように色んな意味がある。

さらに物語終盤、集められた人々の意外な一面が明かされる。そんな意味からもなかなか深いタイトルだと云えよう。

ただ識者による情報によれば本書もまた代作者の手による物らしい。『第八の日』、『三角形の第四辺』を手掛けたエイブラハム・デイヴィッドスンが書いたとのことだが、全く違和感を覚えなかった。
プロットはダネイを纏めているとはいえ、リチャード・クイーン警視を主役に物語を進める技量はよほどクイーンの諸作に精通していないと書けないだろう。特に『クイーン警視自身の事件』のエピソードを膨らませてクイーン警視が本作で結婚をするという長きシリーズの中でも大きなイベントがあり、しかも終章でようやくエラリイが登場して事件の真相を解き明かすという憎い演出など晩年期のクイーン作品の中でも非常に特徴ある作品だと思う。
また5Wで表現される各章の章題もまさにクイーンならではではないか。

個人的にこの作品は魅力的な導入部といい、エラリイでなくリチャードを物語の中心に据えているところといい、そして最後にエラリイが登場して一気に解決する演出といい、また事件や扱っているテーマ―特に最後解散せざるを得ない退職警官たちが直面している、働きたくても職がないという社会的側面なども含めて―から見ても、クイーン諸作の中でも上位に来る作品である。

もはやライツヴィルシリーズを読み終えてこれからの作品は全作読破に向けて、消化試合的読書になるかと思っていたが、こんな佳作があるからクイーンは全くもって侮れないと思いを新たにした作品だ。


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