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災厄の町



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災厄の町の評価: 7.00/10点 レビュー 5件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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(9pt)

クイーンシリーズ本丸への入口

第3期クイーンシリーズで後期クイーンの代表とされるいわゆる「ライツヴィルシリーズ」の第1弾が本作。
第1の事件として架空の町ライツヴィルの創設者となったライト家に起きた妻毒殺未遂事件を扱っている。

題名の『災厄の町』とはすなわちライツヴィルを指している。但しこの町に悪党共が巣食い、荒廃しているとか、基幹産業が斜陽になり、過疎化が進んでいるとかそんな類いのものではなく、町の著名人であるライト家に起こった妻毒殺疑惑事件について、町中の人間が伝聞からあらぬ噂を掻き立て、それが歪んだ憎悪を生み、容疑者のジム・ハイトのみならず、被害者のライト一家へも誹謗・中傷を浴びせていくという、1つの事件が町に及ぼす狂気を謳っているのだ。

扱う事件は妻殺し。夫であるジムは金に困り、飲んだくれ、しかも殺人計画を匂わす手紙まで秘匿していた、と明々白々な状況証拠が揃っていながら、当の被害者である妻が夫の無実を信じて疑わないというのが面白い。そしてその娘婿の無実を妻の家族が信じているというのも一風変わっている。
この実に奇妙な犯人と被害者ならびにその家族の関係が最後エラリイの推理が披露される段になって、実に深い意味合いを帯びてくる。

そして特徴的なのはエラリイが敢えて真相を語るのを先送りにし、今までの作品と違い、ごく限られた人物にしか明かさなかったことだ。

『スペイン岬の秘密』でも見られた、真相を明かすこと、犯人を公の場で曝すことが必ずしも正義ではないのだというテーマがここでは更に昇華している。
知らなくてもよいこと、気付かなくてもよいことを知ってしまったがために苦悩している。興味本位や己の知的好奇心の充足という、完全な野次馬根性で事件に望んでいたエラリイが直面した探偵という存在の意義についてますます踏み込んでいる。

さてこの幸せに見えた新婚夫婦の、知られざる狂気と殉教精神が故に起こった悲劇というモチーフはロスマクの諸作を連想させる。
私はそれが故に今までのロジックの妙で驚きを提供していた作品よりも余韻が残る思いがした。

もう1つだけ本書に関して付け加えよう。今回は『中途の家』以来となる法廷シーンが挿入されている。この辺の内容はけっこう手馴れた物で読み物としての面白さがある。通常法廷物であれば法廷シーンで一発逆転劇が繰り広げられるのだが、クイーンの場合は逆に容疑者が更に苦境に追い込まれていく模様が書かれており、逆に危機感を煽り立てるところに特徴がある。
クイーンが法廷シーンを盛り込んだのは当時人気を博し、ドラマにもなったE・S・ガードナーのペリー・メイスンシリーズの影響を受けたからではないだろうか。出版社の要望もあったのかもしれないが、あくまで真相は法廷シーンではなく、古くから一同を集めて館で披露するスタイルを固執しているのがクイーンらしい。

しかし今なおミステリ評論家の間で俎上に上る後期クイーン問題。ようやくその入口に立った喜びは確かにある。
さて悩める探偵クイーンの道程を一緒に辿っていこう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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