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泥棒は野球カードを集める



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泥棒は野球カードを集めるの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

予想外の美しいロジックの本格ミステリ

泥棒探偵バーニイ・ローデンバーシリーズ第6作。なんと前作から11年ぶりの作品だ。
ブロックによれば彼の中にはいつも登場人物が住んでいるらしく、彼らが時々現れて新たな物語を教えてくれるとのことだ。久々にマット・スカダーシリーズの新作と殺し屋ケラーシリーズの新作を出したが、それも彼に云わせればまだ彼らが生きていたからだろう。

さてそんな久々のシリーズ作品は日本人にはほとんど馴染みがないが、アメリカでは株や絵画の売買や不動産以上の投資効果があると云われる野球カードに纏わる物語だ。

といっても物語は単純明快のようで複雑に展開する。密室殺人あり、偽装殺人ならぬ偽装窃盗ありと、案外本格ミステリど真ん中の設定と新たなヴァリエーションを加えられて物語は進む。

演劇を観に不在になることが確実な裕福な夫婦の邸宅に忍び込むはずが、結局適わず、夜中に1本の電話を掛けるだけで終わる。しかし何の因果か、キャロリンと別れて家路に向かう途中で出くわした美女にしばらく海外旅行に行っている夫婦がいることを知らされて、そこに忍び込んで大金をせしめるが、その家のバスルームに死体を発見してしまう。
通常ならばそこでバーニイに殺人の濡れ衣を着せられるのだが、本作では電話を掛けた裕福な夫婦がコレクションしている貴重な野球カードが盗まれており、その容疑がバーニイに掛かって逮捕されるのだ。
さらに忍び込んだ先で出くわした死体はそのコレクターから野球カードを盗み出した当人だと以前出くわした美女に教えられる。しかし野球カードコレクターは実はカードは盗まれてなく、自分が売り払った後に盗まれたと証言して保険金をせしめたのだった。

とまあ、このように物語は二転三転、四転五転していく。登場人物の相関関係が複雑に絡み合い、これらが綺麗に繙かれるのかと心配するが、ブロックは最後の大団円で、バーニイは関係者を集め、推理を開陳する段になって、全てが鮮やかに解き明かされる。

それはなんとも美しいロジック。特にこのシリーズの前作や前々作ではこの本格ミステリ趣向を全面に押し出そうとしたせいか、却ってプロットが複雑になり過ぎて、読了後も煙に巻かれたような思いが残って釈然としなかったが、本作では実にシンプルに解き明かされ、カタルシスをも感じた。
ただエラリイ・クイーンらとは違うのは彼が直感的に推理を紡ぎ出しているところもあるところだが、それは許容範囲だろう。

また野球カードに熱狂するアメリカ人の心情は以前なら理解し難かったが、今ならば日本人もトレカ、つまりトレーディング・カードで同様な行為をしている人々もいるので、全く別の世界の話とまでには刊行当初の1994年に比べてはなっていないだろう。
とはいっても私はトレカも門外漢なので本書のように何万ドルもの価値のあるトレカがあるのかどうかは解らないのだが。

さて古書店主になってからのバーニイのシリーズでは本に纏わる薀蓄、特にミステリに関する小咄が多くて海外ミステリファンの心をくすぐるのだが、本書ではスー・グラフトンの作品に集中しているのが興味深い。
特に彼女の代表作であるキンジー・ミルホーンシリーズの『アリバイのA』に代表されるアルファベットをモチーフにした題名をパロディにしたやり取りが実に面白い。これは当時アメリカミステリ作家クラブか何かでスー・グラフトンとかなり親しくなったのだろうか?とにかく出てくる、出てくるパロディのオンパレード。最初から最後までこのキンジー・ミルホーンシリーズの題名をパロッたやり取りが繰り返される。

さて今までのこの泥棒探偵シリーズはバーニイが泥棒でありながら、アルセーヌ・ルパン張りに殺人を犯さず、しかも仕事の後は仕事の前と変わらぬように部屋を片付けて出ていく、スマートさを信条にした泥棒であり、その彼が図らずも殺人事件に巻き込まれて、窃盗以外の罪を着せられそうになるのを防ぐために自ら事件解決に乗り出すのが物語の必然性になっていた。
しかし本書では恒例のように盗みに入った先で死体を発見し、さらに彼に常に疑いを持つ刑事のレイ・カーシュマンに逮捕はされるものの、保釈金を払って出所してからは、彼に危難と云う危難は訪れず、寧ろ野球カードに纏わる人々たちに請われる形で盗みに関わっている。そして今までのシリーズの中で最も盗みを働いた作品でもある。
つまり野球カードの在処は判明し、もはやルーク殺害事件からは全く関係のない立場に置かれたバーニイはなぜか目の上のタンコブであるレイ・カーシュマンがその事件に執着していることを聞いて、事件解決の場を設けるのである。この辺は一見犬猿の仲に見えながらも奇妙な友情がバーニイとレイには介在するのかと思わされてしまった。

11年ぶりに書かれたこのシリーズもこの結末を読めば、もうこれで打ち止めかと思われるのだが、まだこの後も続編が作られた。これは嬉しい限り。

さあ、二見書房が『獣たちの墓』を(映画化のためとはいえ)新訳刊行したのだから、このシリーズもポケミス版のみの作品もぜひとも文庫化をお願いしたいものだ。頼みますよ、早川書房。


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Tetchy
WHOKS60S

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