メインテーマは殺人



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初公開日(参考)2019年09月
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長編小説

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メインテーマは殺人 (創元推理文庫)

2019年09月28日 メインテーマは殺人 (創元推理文庫)

自らの葬儀の手配をした当日、資産家の婦人が絞殺される。彼女は殺されることを知っていたのか?作家のわたし、アンソニー・ホロヴィッツは、テレビ・ドラマの脚本執筆で知り合った元刑事のホーソーンから連絡を受ける。この奇妙な事件を捜査する自分を描かないかというのだ……。かくしてわたしは、きわめて有能だが偏屈な男と行動をともにすることに……。7冠制覇『カササギ殺人事件』に続く、ミステリの面白さ全開の傑作登場!(「BOOK」データベースより)




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メインテーマは殺人の総合評価:7.48/10点レビュー 73件。Aランク


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No.7:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ホロヴィッツ受難の始まり

2018年の海外ミステリランキングを総なめにした『カササギ殺人事件』はフロックではなかったことを証明したのが本書である。本書もまた2019年の海外ミステリランキングで4冠を達成した(因みに『カササギ殺人事件』は7冠)。

本書の最たる特徴は作者アンソニー・ホロヴィッツ本人が登場することだ。
しかもカメオ出演などではない。作者と同姓同名の探偵などでもない。
ホロヴィッツが作者自身として登場するのだ。従って読んでいるうちに奇妙な感覚に囚われていく。

果たしてこれはドキュメントなのかフィクションなのか、と。

まず物語の発端でホロヴィッツはこの事件に関わったのがコナン・ドイル財団から依頼されたホームズの新作長編『絹の家』を書き終えた頃となっている。元々ホームズの熱烈なファンであることもさながら、それは少年冒険小説作家から脱却しようと考えていた時のオファーだったことでよい起爆剤になると思ったのも依頼を受けた理由の1つだったとされている。それは年齢的に子供向けの小説を書くのが困難になってきた事もあり、少年スパイ、アレックス・ライダーシリーズもそろそろ幕引きの頃合いだと考えていたとある。

そしてそのタイミングでスティーヴン・スピルバーグがプロデューサーとなり、ピーター・ジャクソンが監督で『タンタンの冒険2』の企画が進行しており、ホロヴィッツがその脚本家に抜擢されて打合せしたりする。

しかもその打合せの場にホーソーンが乱入して、ホロヴィッツを被害者の葬儀に駆り出す。

被害者の1人、俳優のダミアン・クーパーが通っていた王立演劇学校でホロヴィッツは『刑事フォイル』の主人公フォイル役を務めたマイケル・キッチンの役作りのエピソードもあれば、本書に登場する俳優の1人は『パイレーツ・オブ・カリビアン』でオーランド・ブルームが射止めたウィル・ターナー役を惜しくも逃したと話す。

このように作家自身が登場し、更に自身が手掛けたドラマのアドバイザーの元刑事と共に事件を追う本書はそんな現実とも創作とも判断の着かない世界の狭間を行ったり来たりするような感じで物語は進んでいく。これが読者に実話なのかもと錯覚を引き起こさせるのだ。

特に作者が死体を目の当たりにするシーンなどは実にリアルだ。
例えば殺されたばかりの死体が死後硬直が進むにつれて声帯も硬直し出して呻き声のような音を発するといった描写は実に生々しいし、実際に見てきたかのような迫真性がある。

従って本書の探偵役を務める元ロンドン警視庁の刑事で今は顧問をしているダニエル・ホーソーンも実在しているのか、もしくは作者による創作なのか、終始曖昧なままで進む。

何しろホーソーンと知り合ったのはホロヴィッツが脚本を手掛けたドラマ『インジャスティス』のアドバイザーになった時だ。
このドラマは実在するため、ホーソーンも果たして実在するのか?

そしてこのホーソーンは一言で云うならば、マイペースなイヤなヤツだ。正直云って自ら進んで関わり合いたいと思わない人物だ。ホーソーンと共に行動する主人公の作家ホロヴィッツの心の動きが面白い。

例えば彼の元同僚でクーパー夫人殺しの事件の指揮を執るメドウズ警部はホーソーンがロンドン警視庁の中でも一匹狼であり、一緒に仕事できる刑事はいなかったと述べる。そして彼は独自の勘と捜査方法で勝手に進め、結局最終的に彼のやり方が正しかったことを思い知らされるのだと。

そしてまだこの犯罪実録を書こうか迷っているところにホーソーンは1冊目のタイトルは何にするかとシリーズ化まで考えていることを話し、今後もこんな仕事をさせられるのかとゾッとする―ちなみに題名の付け方についてホロヴィッツが007シリーズのタイトルの付け方が一級品であるとイアン・フレミングを称賛しているのが興味深い―。

更にホロヴィッツは途中で他の作家と組んでりゃ良かったとまで貶される。ホーソーンが複数の作家に自分の自伝を書く企画を持ち込んだが悉く断られたことを明かすのだ。

しかしそこまでされてもホロヴィッツは彼が有能で頭の切れる人物であると認めている。

頭の回転の速さ、正直者と思われた掃除婦がこっそり夫人のお金を盗んでいたことを見抜き、消えた猫についての推察も見事だ。
それはまさに長年積み上げてきた刑事の観察眼とそれを結び付ける直感に長けているからだ。

だから幾度となくホーソーンの性格の悪さを、同性愛者に対する率直なまでの嫌悪を目の当たりにしてその場を立ち去ろうと、受けた仕事を断ろうと思うが、結局ホロヴィッツはその場に留まる。
彼は逡巡しながらも彼の追う、自らの葬儀の手配をしたその日に殺された資産家夫人の事件の捜査の過程と明かされる真相への興味に抗えないからだ。それはまさに作家としてのジレンマであり、性(さが)だろう。

そして彼はこう考えることにする。
この決して人好きのしない元刑事の為人を観察して理解しようと。
つまり探偵自身を探偵することを決意するのだ。

私は『カササギ殺人事件』を「ミステリ小説をミステリするミステリ小説」と評したが、やはりその観点は間違っていなかったとこの一文を読んだ時に確信した。

ホロヴィッツはミステリそのものに興味を持っているのだ。つまりミステリ自身が持つ謎を。
だからこそそれ自身について探偵するのだ。
『カササギ殺人事件』がミステリ小説そのものに対してであるのに対し、本書は探偵役そのものに対して。

また一方でホロヴィッツはミステリ作家の端くれとばかりに自身も事件について推理し、ホーソーンに先んじようとする。

犯人が判明してからはとにかく伏線回収の応酬だ。

ホロヴィッツの許を訪れたホーソーンが語る事件解決に至るまでの彼の推理で作者が周到に犯人を示唆する伏線と手掛かりを散りばめていたことが明らかになる。
この回収は『カササギ殺人事件』でも見られたが、毎度のことながら、よくもまあここまでと感心させられるし、読者が伏線・手掛かりと気付かないほどそれらはさりげなく物語に記述されているのが解る。

本格ミステリのケレン味を感じさせ、感嘆させられた。

登場人物の陰影などもしっかり描き込まれており、余韻を残す。

一方で『カササギ殺人事件』同様に読者が一定の教養を持っていないと解らない伏線もある。

私が本書を読み終わった時、正直年間ランキング2年連続1位獲得するほどの作品とは思わなかった。
確かに上に書いたように最後に畳み掛けるように明かされる伏線回収の美しさは海外ミステリ作家には珍しいほど本格ミステリの端正さを感じさせるし、ホーソーンとホロヴィッツが苦手意識を持ちながらも時に親近感を持ちながらやり取りし、事件解決に向けて関係者を渡り歩く様など昔ながらのホームズ&ワトソンコンビのような妙味もある。

しかしこのホームズシリーズの手法に則った本書だが作者自身が語り手を務めることに対して何か仕掛けがあるのではないかと思っていただけに、案外すんなりと物語が閉じられたことになんだか肩透かしを食らったような感覚を覚えてしまったのだ。

先にも書いたが本書は作者本人がワトソン役を務め、探偵を探偵するミステリである。つまりダニエル・ホーソーンとは一体何者なのかを明かすミステリでもある。

しかしそれだけでは何ともこの小説が年間ランキング1位を獲るだけのインパクトには欠ける。なぜ本書が斯くも賞賛を持って迎えられたのか?

それはやはり日本の書評家たちが自分たちの住まう世界の話が好きだからではないか。

『カササギ殺人事件』も英国のミステリ作家の世界を描いた作品である。実在の人物まで出演して物語に関わってくるし、そして何よりもクリスティ作品の良きオマージュとも云えるアティカス・ピュントシリーズ最終作が丸々1冊入っていること、そしてそれ自体が物語のトリックにもなっている事など実に精緻を極めた作品だった。

本書は英国ミステリ作家ホロヴィッツ自身が語り手を務めることで英国ミステリ文壇の内輪話や作家の創作方法や心情について生々しいまでに吐露されている。
こういう作家稼業の内輪ネタが日本の書評家には堪らなく面白いのだろう。それが本書が称賛を以て迎えられた大きな理由ではないだろうか。

しかし本書の一番の魅力はやはりこの一言に尽きるだろう。

この話、どこまで本当なの?

ホロヴィッツがこの質問をされた時、恐らくはニヤリと笑ってこう答えるのではないだろうか?

「それはみなさんの想像にお任せします。なんせ本書の『メインテーマは殺人』なのですから」

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.6:
(8pt)

面白かったです。

オシャレ。

わたろう
0BCEGGR4
No.5:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ユーモラスにミステリーを

ホロヴィッツ氏の本は「カササギ殺人事件」「モリアーティ」に続き三作目です。
やっぱり私好みのミステリー作家に間違いなかった!
それぞれ面白いミステリーに仕上がっていますが、「カササギ殺人事件」は突出しているのではないでしょうか。あれは本当に素晴らしかった!年間ベスト5に入るでしょう。

「メインテーマは殺人」と同じ配役で続きがあるそうなので、そちらも楽しみです。
未読の方にはお勧めです。




ももか
3UKDKR1P
No.4:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

メインテーマは殺人の感想

なんというか、お手本のような綺麗なミステリ。
アガサクリスティのような雰囲気・サスペンスの展開。コナンドイルのワトソン&シャーロックホームズのコンビ模様。ミステリの古典作品を現代の世界観で楽しめた感覚でした。残酷な描写、心理的不快感もありません。万人向けです。

物語は自分の葬儀の手配をした当日に殺された資産家の事件から始まります。非公式で警察から依頼を受けている元刑事のホーソンと、そのホーソンから事件の模様を小説にしてほしいと依頼を受けた作家アンソニーを主人公として進みます。

正直な所、事件に奇抜さや惹き込まれるような特徴的な要素はありません。殺人事件が発生して、何が起きたのか?誰が犯人か?を捜査していく流れを作家の視点から綴られていく展開です。事件模様は地味なのですが、この作家視点は面白かったです。ホーソン主体で進む捜査に関わる心境。困惑する作者の頭の中。世の中や仕事の話。色々な思考が楽しめます。そもそも著者自身がTVや映画脚本などそれなりに実績がある方なので、自身の史実を踏まえた経験がリアルで面白いのです。

徐々に手がかりが得られるサスペンス感と作家の思考で、後半までは惹き込まれた読書でした。が、残り100ページの20章ぐらいからは駆け足で事件が収束してしまった印象でした。手がかりや真相も一気に溢れて解決してしまい、真相もあまり驚きがないものでした。なので、それまでどうなるのだろう?と気持ちがワクワクして期待値が上がっていただけに、なんだかスッキリしない読後感でした。

視点を変えれば、映像脚本として質が高いです。
手がかりを小出しにして視聴者を繋ぎ止めたり、作家主人公に同調できたり、映像に不快感がでない事件など。奇抜さはないが敵を作らない万人向け。その方向性だと感じました。翻訳もよく文章も読みやすかったです。

egut
T4OQ1KM0
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

メインテーマは殺人の感想

 作家である私「アンソニー・ホロヴィッツ」は紆余曲折を経て元刑事の「ダニエル・ホーソーン」と事件の調査を共にし、その顛末を小説として書き残すことになる。 自らの葬儀を手配したその日に殺害されてしまった老婦人、彼女は自分の死を予見していたのか? 取材を介して判明する被害者の過去。 フェアを追求した超本格。

 作者が主人公の犯人当てミステリ。 読者に誤解のないようにフェアな文体を意識した推理小説。 

りーり
9EDFH0HC
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

最近珍しい正統派ミステリー

いわゆる正統派ミステリーを堪能しました。内容はやや地味ではありますが、最近多い恋愛要素、サスペンス要素など一切なく、謎に対して一歩ずつ核心に迫っていき、終わってみれば伏線も回収されて、至ってシンプルでなるほど!と納得させられるミステリー。でも、評価が高いミステリーというのは分かる一方で、そこまでかなぁ?と思ってしまうのも、最近、奇抜さや驚きを求めるものが多く、この手の地道なミステリーが少なくなっているからかも、と皮肉にも思えてしまいました。

タッキー
KURC2DIQ
No.1:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

メインテーマは殺人の感想


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氣學師
S90TRJAH
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