カササギ殺人事件



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カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

2018年09月28日 カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は小さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。燃やされた肖像画、消えた毒薬、謎の訪問者、そして第二の死。病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理は――。現代ミステリのトップ・ランナーによる、巨匠クリスティへの愛に満ちた完璧なオマージュ作品!(「BOOK」データベースより)




書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.79pt

カササギ殺人事件の総合評価:6.81/10点レビュー 198件。Sランク


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(10pt)

ミステリ小説をミステリするミステリ小説

2018年末の各ランキングで1位を攫った本書は一躍ホロヴィッツの名を有名にした。そしてこの次に刊行された『メインテーマは殺人』もまた同様に2019年末の各ランキングで首位を獲得する快挙を成し遂げた。
今やホロヴィッツは海外本格ミステリの旗手と呼ぶに相応しい作家と云えよう。

そんな鳴り物入りの本書を期待せずに読むなというのが無理だろう。そしてその期待に本書は見事に応えてくれた。

開巻して数行読むなり、これは傑作だと直感する作品があるが、本書はまさにそれだった。

まず開巻して作中作『カササギ殺人事件』について編集者が賛辞している前書きが載せられているが、これが今思えば日本のミステリ界における本書の高評価を予見しているように読めるのだ。

曰く、“この本は、わたしの人生を変えた”

まさにこの一文は作家ホロヴィッツ自身に当て嵌るだろう。

さらにその後に創元推理文庫の装丁を模したアラン・コンウェイという架空のミステリ作家の『カササギ殺人事件』の扉が挟まれ、実に心憎い演出がなされており、それを開けばそこには海外小説特有の、作品を称賛するあらゆるメディアや作家たちの賛辞が載せられている。しかもそれらは全て実在する新聞紙や作家―イアン・ランキン!―によるものなのだ。

そんな読書通の胸を躍らせる遊び心に満ちた本書は云うなれば“ミステリ小説をミステリするミステリ小説だ”。
この謎めいた評価も本書を読めば実に腑に落ちることだろう。とにかくとことんミステリに淫しているのだ。これについては後ほど詳しく語ろう。

本書は実に面白い構成になっている。

まず前半部分はアラン・コンウェイなるミステリ作家が書いた名探偵アティカス・ピュントシリーズの最新作『カササギ殺人事件』というミステリ小説がまるまる入っている。

そして後半はその原稿を読んだ出版社≪クローヴァーリーフ・ブックス≫の編集者スーザン・ライランドの『カササギ殺人事件』とその作者アラン・コンウェイを巡る物語が繰り広げられる。

これがそれぞれ上巻と下巻を成しており、この配分が絶妙に読者の読書欲をそそらせる、実に心憎い演出となっているのだ。
さらにそれに加え、読書通を、ミステリ読者を身悶えさせつつも先へ先へと気になる展開が待ち受けている。

まず前半部の作中作『カササギ殺人事件』はイギリスはバースの片田舎サクスビー・オン・エイヴォンで起きた2つの殺人事件を脳腫瘍によって蝕まれ、残り3ヶ月の命となった名探偵アティカス・ピュントが解き明かすミステリで、これが実に読ませる。

1955年のイギリスの、何かが起こればすぐに村中のみんなに知れ渡る閉鎖的な片田舎を舞台にした見事なコージー・ミステリとなっているのだ。
本書に当たる前に否が応でも目に入っていた雑誌やWEBでの書評や感想に散見されたのはクリスティのパスティーシュという言葉だ。私はクリスティを読んだことがないが、この作中作の雰囲気はクリスティのミステリを想起させるらしい。

まずこの手のコージー・ミステリには登場人物たちの魅力がきちんと描かれているかが必要不可欠な要素として挙げられるが、これは見事にクリアしている。

まず事件の起きる片田舎サクスビー・オン・エイヴォンにあるパイ屋敷なる豪壮な住宅に住むのはマグナス・パイ准男爵で彼は傲慢で不遜な、村中の皆から嫌われている人物だ。その妻フランシス・パイもまた上流階級であることを鼻にかけ、村民たちを常に下に見ており、また年上のマグナスには愛想を尽かして投資家のジャック・ダートフォードという愛人に逢いにロンドンに通っている。

そしてその屋敷の家政婦として住み込みで働いているメアリ・ブラキストンはいわば村の事情通とも云うべき人物で、なぜかいてほしくない時にそこにいる存在で、他の人が知らない村民たちの側面を知っている女性だ。

この、どちらかと云えば村民たちにとっても好ましくない2人、メアリ・ブラキストンとマグナス・パイが死ぬことで村に波紋が広がる。

葬儀を預かる町の牧師ロビン・オズボーンはメアリがある日勝手に教会のキッチンにいるのを発見して、見られてはいけないある品を見られたのではないかと危惧しており、更に昔から愛していた森をマグナスが新興住宅地に開発しようとしているのを聞いて激怒する。

町の医師エミリア・レッドウィングはメアリとは懇意にしており、時に患者のプライベートにギリギリ触れるか触れないかの相談をしたり、または困りごとを相談をしている仲で、メアリに自分の診療所から紛失した毒の壜の捜索を依頼していた。

その夫でアマチュア画家のアーサーは誕生日にと頼まれたマグナスの妻の肖像画がズタズタに切裂かれ、焚火にくべられていたのを発見して意気消沈している。

メアリの遺体の第一発見者のネヴィル・ブレントは父親の代からパイ家に仕える庭園管理人だが、人遣いが荒い上に、給金が一向に上がらない雇い主に不満を抱いていた。

ロンドンで空巣稼業を行い、刑期を務めた後に逃げるようにサクスビー・オン・エイヴォンに流れて骨董商を営んでいるホワイトヘッド夫妻はメアリの死の直前に確たる証拠を握られていた。

死ぬ直前に罵倒を浴びせたことでメアリ殺害の嫌疑を村中の皆から掛けられ、恋人のジョイがピュントに助け舟を求めるきっかけとなったメアリの息子ロバート・ブラキストンは重い過去を背負った人物だ。幼少期に弟を亡くし、そのことで父親が家を出て孤独な少年期を過ごし、マグナス・パイの取り計らいで整備工場で働くようになり、ある日事故で担ぎ込まれたレッドウィング医師の診療所で働く事務員のジョイ・サンダーリングと出逢い、付き合うようになる。しかしその母親はジョイのことを気に入らず、結婚を妨害しようとしていた。

更にマグナス・パイの双子の妹でたった12分出生が遅れたことでイギリスの独特な限嗣相続制度でパイ家の正統な相続人になれなかったクラリッサ・パイは教師として周囲に認められながらも名家の出とは思えないほど侘しい住まいで独身生活を続けている。更には死の直前にマグナスから亡くなったメアリの代わりに家政婦として住み込みで働かないかという屈辱的なオファーを受けていた。

そして彼女は後にマグナス兄妹を取り上げたレッドウィング医師の父レナードから死の間際に衝撃の事実を明かされる。

とこんな風にそれぞれのキャラが立っており、しかもそれぞれに被害者に対して何らかの動機を持っているといった古典ミステリの王道を行く設定なのだ。

そしてそれらの事件に挑む探偵役のアティカス・ピュントの造形もまた見事だ。ギリシャ人とドイツ人との間に生まれ、警察官となった後、ユダヤ系であったため、戦争中に収容所に入れられながら、イギリスに渡って探偵業を始め、数々の事件を解決し、イギリス中に名探偵の名を広めるまでになっている。
そしてシリーズ9作目の『カササギ殺人事件』では頭蓋内腫瘍で残り3ヶ月の命とされている。

そして物語はこれら誰もが何らかの不平不満、憤りを故人に抱いていた、もしくは弱みや秘密を握られていた村人たちそれぞれが不審な行動や不可解な状況、意外な人物による意外な行動、秘めていた過去への悔恨などが積み重なり、表向きは平凡で牧歌的だった田舎の村に潜む悪意がピュントによって暴かれていく。
そして上巻ではマシュー・ブラキストンが妻メアリを殺したのだとピュントが呟いて閉じられる。

作中作の『カササギ殺人事件』でも十分に面白いのに下巻から始まる作家アラン・コンウェイを巡る物語は更にページを繰る手を休ませなくさせる。

スーザンの許に飛び込んできたのはなんと作者アラン・コンウェイ死亡のニュースなのだから。

それまで連れ添った妻と息子に別れを告げた後に購入した、“恋人”のジェイムズ・テイラーという役者崩れの若者と一緒に住んでいたアビー荘園と呼んでいる屋敷にある塔から落ちて亡くなったのだ。その死の直前に出版社CEOの許に届けられた手紙には自分が癌で余命幾許もないことが書かれており、先短い自分の人生を儚んで自殺したと思われていた。

担当編集者のスーザン・ライランドはこのアラン・コンウェイの遺作となった『カササギ殺人事件』をなんとしても刊行すべく、原稿探しに乗り出す。

社運を賭けた『カササギ殺人事件』の原稿探しと同時にスーザンは恋人のギリシャ人アンドレアス・パタキスからクレタ島でホテルを買ったので結婚して一緒にホテル経営をしてほしいと頼まれる。
更には社のCEOのチャールズ・クローヴァーからは自分が引退した後は社長になってほしいと頼まれ、彼女は結婚を採るかキャリアアップを採るかにも悩まされることになる。

そして彼女の遺稿を巡る探偵行は『カササギ殺人事件』の世界と同化していく。

恐らく下巻に書かれている作品のモデルとなった作家アラン・コンウェイの取り巻く世界は実際の作家でよくあることなのだろう。

私がいつも不思議に思うのは、なぜ作家というのは1つの人生しかないのに、これほどまでに色んな登場人物の人生を、まるで見てきてかのように、経験したかのように書けるのかということだ。
頭で描く他人の人生はどうしても想像の域を出なく、嘘っぽく感じるが、プロの作家は恰もそういう人がいたとでもいう風に写実的に描くところに感心させられる。

本書はその答えの1つを見つけることになった。

実際作中作の『カササギ殺人事件』は典型的なクリスティの作風を模したコージー・ミステリであるが、上に書いたようにそれぞれの登場人物の背景が詳細に描かれており、1人として無駄な登場人物は存在しない。

それほどまでに実在感を伴った人物が描けるのは作者の周辺にモデルとなる人物がいたからだ。

そう、スーザンの失われた原稿の捜索はいつしかアランの自殺が他殺ではないかという独自の捜査の色合いを濃くしていく。
つまり文書の捜索が人の死の真相の捜査へと変わっていくのだ。

そしてその捜査の道行でスーザンは『カササギ殺人事件』のモデルとなった人物や建物に遭遇し、そしてアラン・コンウェイの死によって作者自身の過去へも調査が及ぶに至り、恰も自身がアティカス・ピュントになったかのような錯覚を覚える。物語の舞台となった村は作者の住む村がモデルであり、作中に登場する教会や店、酒場もまた同じだ。

更には登場人物たちは作者を取り巻く人物たちが投影されているどころか、作者自身の過去、そして名前さえも似通っており、作中であまり読者の共感を得られない人物は私生活でも仲の良くなかった人物であることが判明するなど、作者が日常の鬱憤を作中の人物で晴らしているような節が見られる。

従ってスーザンはそれらモデルになった人物たちを『カササギ殺人事件』で自らが推理した犯人のように疑い、訊問するようになる。それはさながら創作物の舞台が現実世界を侵食していくかのような錯覚を及ぼすのだ。

しかしアンソニー・ホロヴィッツ、またもや同じ台詞で評さざるを得ない。
本当に器用な作家だ。
ドイル財団から依頼され、シャーロック・ホームズの正典の続編を、見事なドイル作品の高い再現率で著し、その後『モリアーティ』という異色のホームズ譚を発表した後、次はイアン・フレミング財団から007シリーズの“新作”を依頼され、現代ではなく、興盛時の1950年代を舞台にして忠実に007を再現した。

そのどちらにも共通するのはマニアであればあるほど琴線に触れるであろう、本家ネタの多種多様な引用で、それらはまさに“解る人なら解る。解る人のみ解る”ような一般的な内容とディープな内容がほどよくブレンドされている。

しかし本書を読むとそれらパスティーシュの習作は本書を書くための大いなる準備に過ぎなかったのではないかとまで思わされるほど、それまでのホロヴィッツ作品を凌駕した出来栄えである。

それまでの作品は本家の表現や雰囲気を忠実に再現し、尚且つ正典の登場人物や事件などのネタをふんだんに盛り込んだファン及び読書通を唸らす作品であった。
それだけでも本来ならば十分なのだが、本書はそれに加え、クリスティの作風の雰囲気と思考までをも上手く再現した作品をまるまる1つ作中に盛り込み、尚且つその作品を俯瞰する、もう1つの創作者、出版社、読者の側でのミステリを加味した多重構造になっているからだ。

つまり読者は作中作である『カササギ殺人事件』という名探偵アティカス・ピュントが登場するミステリと、作者アラン・コンウェイの死の謎を追う編集者スーザン・ライランドの物語という2つのミステリを愉しむことができるのだ。
まさに一粒で二度美味しいミステリなのである。

そしてその2つのミステリの同化は物語が進むにつれてどんどん加速していく。
それはつまりミステリという創作物の中の世界は実は作者を取り巻く環境をヒントにしており、つまり現実世界とは地続きであるのだということを悟らされるかのようだ。

更には『カササギ殺人事件』のみならず、アラン・コンウェイが著した未発表作品の純文学『滑降』やアティカス・ピュント物の別の作品『羅紗の幕が上がるとき』に加え、更に自分のアイデアを盗作したと主張するウェイター、ドナルド・リーの書いた小説『死の踊る舞台』まで盛り込まれている。

それらそれぞれがきちんと文体を書き分けて特徴づけている。
『カササギ殺人事件』はじめアティカス・ピュント物は古き良きコージー・ミステリのテイストで読み手の興味をぐいぐいと惹きつければ、純文学の『滑降』はまどろっこしい、勿体ぶった文章で退屈を誘えば、素人作家の文章はいかにも小説勉強中のアマチュア作家にありがちな凝った文章であるなど、類稀なる器用さを感じる。まさに職人作家だ。

一方後半部では出版業界の裏話もふんだんに盛り込まれている。

例えば編集者のスーザンは『カササギ殺人事件』の犯人を推理するがそれが読者視点と編集者目線の二方向で語られるのが面白い。

原稿の中に散りばめられた齟齬を挙げ、論理的に推理して特定する犯人もあれば、物語を盛り上げるならこの人物が犯人に相応しいだろう、私ならこいつを犯人に選ぶなどと宣う。

また人気作家ともなれば名うての作家たちからの、例えば本書ではアラン・コンウェイはP・D・ジェイムズから新作出版を祝す手紙が送られ、それを額に入れていたり、J・K・ローリングやはたまたチャールズ皇太子と一緒に撮った写真が飾られたり、一番驚いたのはアティカス・ピュント物のモデルとされているアガサ・クリスティの孫マシュー・プリチャードまで登場させ、しかも祖母の作品から色んなモチーフを散りばめているのも知っている、新作が出るたびに読むのが楽しみなんだと作中で賛美している始末だ。

このようにホロヴィッツは実在の人物を物語に絡めて恰もアラン・コンウェイが実在するかのような演出をどんどん放り込む。

その他ミステリに纏わる現代社会のエピソードもまた面白い。
例えば英国ミステリでは田舎の村が殺人事件の舞台になることが多いが、それは小さな村の住民はそれぞれの村人、特に新参者に対して過干渉であるかららしい。
始終監視されているような錯覚を覚えるほど、色々注文を付けてくるとのこと。つまり些細なことが揉め事になりやすいからこそ、殺人事件が起きてもおかしくないというわけだ。

そして昨今の刑事ドラマの多さについても何度か登場人物たちの口から語られる。特に私が面白いと思ったのはあまりに供給過多になって米国の平均的な子供は小学校を出るまでに約8000件の殺人事件を観ることになるとのこと。

このようにいわゆる出版業界並びに小説そのものの魅力がふんだんに盛り込まれた本書はやがて作家だけのみが知るミステリへと展開していく。

それはアラン・コンウェイというミステリ作家そのものの謎だ。

彼はなぜ好評を以て迎えられたアティカス・ピュントシリーズを9作で終えることに拘ったのか?

それは彼の作家性が孕む心の闇にあった。

人気シリーズを持つミステリ作家の中には寧ろそのシリーズキャラクターに嫌悪を、憎悪を抱く作家もいるという。
コナン・ドイルがシャーロック・ホームズシリーズを終わらせたくてホームズを死なせようとしたのは有名な話だし、ジェイムズ・ボンドシリーズで有名なイアン・フレミングもまたそうらしい。
またルース・レンデルもウェクスフォード警部シリーズは書きたくないが商業的に成功しているので書いているに過ぎないと公言している。
これら作家の抱く感情は人気シリーズの役を務めることでイメージが固定されることを嫌った俳優―ジェイムズ・ボンドを演じたショーン・コネリーが特に有名だ―が抱く心情と同じなのだろう。

また作中作の『カササギ殺人事件』も真相に至るまでに散りばめられた村の人々の隠された秘密や不審な行動、不可解な事実を全てここに記すにはかなりの紙幅を費やすので止めるが、とにかくそれら全てにきちんと説明が着き、全てが収まるべく所に収まる、まさに古き良き黄金時代のミステリの風格を備えた作品となっている。
久々に良質な本格ミステリを読んだ気がした。

そして私が本書を素晴らしいと思うのは通常本書のように小説が現実を侵食していく、つまり虚構と現実の境が曖昧になっていく作品はホラーや幻想小説のような展開を見せるが、本書はミステリに徹しているところだ。
きちんとどちらも結末が描かれ、そして腑に落ちる。
これぞミステリの醍醐味だろう。

とにかく感想がいくらでも書ける作品だ。読んだ人と色んな話をして感想を分かち合いたくなる作品だ。

作中作である『カササギ殺人事件』はきちんと結末が着けられ、その内容は黄金期の本格ミステリ、即ちクリスティが生きていた時代のミステリとしても内容・質ともに遜色ない。
しかしこの作品をいつものようにアティカス・ピュントをポワロにしてポワロシリーズの続編として書いたなら、いつものホロヴィッツの巧みな仕事として終わっただろう。

しかし本書はクリスティの意匠を借りつつ、架空のアティカス・ピュントシリーズを創作し、そこで水準以上の本格ミステリを紡ぎながら、更にそのミステリ小説をミステリの題材として別のミステリを著し、有機的に密接に繋いだことでそれまでのホロヴィッツ作品よりも一段高いレベルの作品を生み出すことに成功したのだ。
つまりホロヴィッツは確実に本書で一皮剥けた、所謂“化けた”のだ。

いくつか疑問は残るものの、そんな疑問が吹き飛ぶほどのミステリを読む醍醐味を本書はもたらせてくれた。

21世紀も20年が経とうとしている中、こんなミステリマインドに溢れた本格ミステリど真ん中の、いやそれらを土台にした新しい本格ミステリが読めること自体が幸せだ。
歴史は繰り返す。
もしかしたらこれからは21世紀の本格ミステリの黄金期が始まるのかもしれない。ホロヴィッツの本書はそんな楽しい予感さえも彷彿させる極上のミステリであった。

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Tetchy
WHOKS60S
No.13:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
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カササギ殺人事件の感想

やはり今回も海外モノとの相性の悪さは解消できなかったようです.
BBCのドラマで見かけるような殺人事件,精密であることは認めるけれど,あまりにも偏執的というか人工的な感じの謎解き...どうも入り込めない.
魅力的なキャラも見当たらないし...
アイデアの部分が評価されて,色々な賞を総なめにしたのでしょうが,私はそこまでマニアではないということなのでしょうね.
この人の他の作品を是非読んでみたいとは,残念ながら思いませんでした.

マー君
S2HJR096
No.12:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ずっと読みたかった一冊

やっと読めました。
でも、期待が大きかったせいか、「絶賛!」というものではありませんでした。
非常によく考察されたミステリーではあるのですが、「策士策に溺れる」ではないですが
もう少しシンプルな方が良かったのでは?!

一度読むと犯人も動機もわかる、それでももう一度最初から読んでみたい・・・この範囲ではなかったです。
個人のし好が分かれるところでしょうが、私が好きな小説のタイプではありませんでした。

ももか
3UKDKR1P
No.11:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

カササギ殺人事件の感想

面白い構成であったが、読む前から期待が大きかったせいか、ストーリー自体は物足りなさを感じでしまった。

松千代
5ZZMYCZT
No.10:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

『MAGPIE MURDERS』 真のミステリ好きの描いた恐るべき良作

後になってようやく理解した。この作品の大体の書きたかったことを‥‥。
完成度が言葉にできないほど素晴らしい。
アラン・コンウェイの書いたとしている作品も読みたくて仕方がない。(存在しません。)
後書きが的を射ていて、そのままここに載せてしまいたい。が、それはやめておこう。
読むべし。

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フェルマーを愛する一人
BQY6QLCN
No.9:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

そっちの話しかい!

話題になっている本ではあるけれど、ネットのレビューとか一切見ないで予備知識なしで読みました。
文庫本上・下の二冊になっていて、読み始めると上巻は面白かったんです。階段の上から掃除機のコードを足に絡ませて
転落したように見える家政婦の死体。館に入るには窓を割って入るしかない状態。その家政婦は詮索好きでいろいろと人の秘密を知っていた様子。
出てくる人物は誰もが思わせぶりなモノローグで怪しさに満ちている。そして館の主の殺人事件が起きる。雰囲気といいバラエティに富んだ登場人物たちといい
読みながらのワクワク感はどんどん膨らんでいく。しかし、下巻になるとそのカササギ殺人事件を書いた作者が死亡する。自殺か事故かそれとも・・・・・・。
といった展開で作者の死と作品の中の犯人捜しの双方を読者は追っていくことになるという趣向。
ミステリのネタはいろいろとバラ撒かれており手が込んでいる。しかし、ネタそのものが本国ならともかく日本の読者ではちょっと付いていけないと思う。
人名のことやらなんやら英語に詳しくないこっちにはそんなことはピンと来なかった。ミステリとしてのお遊びが言語の違うこちらにはダイレクトに響かないのがもどかしいとなるんですよね。
作者の人となりも周りの人物が云うように好人物とはいいがたい人間のように作られているのもどうなのかと思う。
そんな人物では自殺なのか事件なのか熱を持って調べるのもおっくうになる感じで、下巻では一言一句目を凝らして読み進むということがしんどくなってきた。
つまりは上巻のまま物語が進みミステリとしての醍醐味を味わいたかった。
仕掛けそのものはミステリファンには受ける趣向だろうけれど、個人的にはちょっと違っていて残念な感じが大きい。

ニコラス刑事
25MT9OHA
No.8:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

ごめんなさい。私には合わない。

うーん、書評で「謎解きミステリーの最高峰」「英国探偵小説の黄金時代の醍醐味」とか言われてもピンと来ない。
読みながらあくびが出ちゃった。
最後まで読み終えた自分に、評価10ポイントをあげますね(笑)
途中のワクワク感や緊張感が全くないので、要するに、この手の小説はこういうものなんだなと納得です。
私には合わなかったということでしょう。
元々、翻訳本は小説の現場や時代に馴染みが無いので、慣れないと楽しむのは難しいと感じます。
犯人探しが全く違う設定で2か所あり、そういう構成は斬新でいいなと感じたのですが、それぞれが緊迫感なく終わったので残念でした。

マッチマッチ
L6YVSIUN
No.7:
(9pt)

大変おもしろかった。

緻密なミステリーでした。

わたろう
0BCEGGR4
No.6:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

美味しい

 
 上巻にて作中作「カササギ殺人事件」著:アラン・コンウェイが展開される。 クリスティのオマージュのような英国古典ミステリはラストに大きな謎を残し・・・。
 下巻にて「カササギ殺人事件」を読み終えた編集者の私はアランの残した謎と現実世界での事件の解決を試みる。 古典と現代の上下巻のミステリの結末は・・・?

 一粒で二度美味しいです。 結構バカなことやってます。 ★は8つ。

りーり
9EDFH0HC
No.5:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

容疑者が多過ぎる・・・

2018年の各ミステリーランキングでトップを独占しただけでなく、本屋大賞も受賞し、翻訳ミステリー界の話題を独占した作品。アガサ・クリスティへのオマージュと言われるだけあって、英国伝統の本格謎解きミステリーである。
上下巻2冊に別れ、上巻はアラン・コンウェイという作家の「カササギ殺人事件」という小説、下巻は同作品の担当編集者がコンウェイの死の謎を解くというダブルのフーダニット構成である。そして、それぞれの謎解きが極めて緻密に精緻に構成されており、まさに古き良きイギリスの探偵小説の王道を行く作品である。ただ、それ以上のものではない。
アガサ・クリスティに代表される古典的謎解きミステリーのファンには絶対のオススメ作品だ。

iisan
927253Y1
No.4:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

一冊で二度美味しいストーリー

一冊で二度楽しめるというのもありますが、海外ミステリーの楽しさと面白さが凝縮された一冊に思いました。登場人物が出てくるごとに怪しげに見えてきて、誰を犯人にしてもおかしくなく、それでいて犯人が提示されると、ある程度の納得感もあり。強いて言えば、アラン殺害の動機がちょっとどうかなぁ、いろいろ怪しく見せた割にはややあっけなさを感じたくらい。訳も読みやすくて良かったです!あとは作中作とこちら側のストーリーのシンクロ感もうまく考えてるなぁと感心しました。

タッキー
KURC2DIQ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

カササギ殺人事件の感想

書き手の遊び心がひかる構成の作品。
残念ながら、カササギが日本の日常生活に馴染みがなく、表紙デザインもシンプル。
2018海外ミステリランキング4冠と聞かねば、手に取ってもらう魅力に乏しい。
必ず下巻を!

みやはら
TL5WJ5W1
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

カササギ殺人事件の感想


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なおひろ
R1UV05YV
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)
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カササギ殺人事件の感想


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氣學師
S90TRJAH
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