■スポンサードリンク


メインテーマは殺人



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
メインテーマは殺人 (創元推理文庫)

メインテーマは殺人の評価: 8.00/10点 レビュー 7件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ホロヴィッツ受難の始まり

2018年の海外ミステリランキングを総なめにした『カササギ殺人事件』はフロックではなかったことを証明したのが本書である。本書もまた2019年の海外ミステリランキングで4冠を達成した(因みに『カササギ殺人事件』は7冠)。

本書の最たる特徴は作者アンソニー・ホロヴィッツ本人が登場することだ。
しかもカメオ出演などではない。作者と同姓同名の探偵などでもない。
ホロヴィッツが作者自身として登場するのだ。従って読んでいるうちに奇妙な感覚に囚われていく。

果たしてこれはドキュメントなのかフィクションなのか、と。

まず物語の発端でホロヴィッツはこの事件に関わったのがコナン・ドイル財団から依頼されたホームズの新作長編『絹の家』を書き終えた頃となっている。元々ホームズの熱烈なファンであることもさながら、それは少年冒険小説作家から脱却しようと考えていた時のオファーだったことでよい起爆剤になると思ったのも依頼を受けた理由の1つだったとされている。それは年齢的に子供向けの小説を書くのが困難になってきた事もあり、少年スパイ、アレックス・ライダーシリーズもそろそろ幕引きの頃合いだと考えていたとある。

そしてそのタイミングでスティーヴン・スピルバーグがプロデューサーとなり、ピーター・ジャクソンが監督で『タンタンの冒険2』の企画が進行しており、ホロヴィッツがその脚本家に抜擢されて打合せしたりする。

しかもその打合せの場にホーソーンが乱入して、ホロヴィッツを被害者の葬儀に駆り出す。

被害者の1人、俳優のダミアン・クーパーが通っていた王立演劇学校でホロヴィッツは『刑事フォイル』の主人公フォイル役を務めたマイケル・キッチンの役作りのエピソードもあれば、本書に登場する俳優の1人は『パイレーツ・オブ・カリビアン』でオーランド・ブルームが射止めたウィル・ターナー役を惜しくも逃したと話す。

このように作家自身が登場し、更に自身が手掛けたドラマのアドバイザーの元刑事と共に事件を追う本書はそんな現実とも創作とも判断の着かない世界の狭間を行ったり来たりするような感じで物語は進んでいく。これが読者に実話なのかもと錯覚を引き起こさせるのだ。

特に作者が死体を目の当たりにするシーンなどは実にリアルだ。
例えば殺されたばかりの死体が死後硬直が進むにつれて声帯も硬直し出して呻き声のような音を発するといった描写は実に生々しいし、実際に見てきたかのような迫真性がある。

従って本書の探偵役を務める元ロンドン警視庁の刑事で今は顧問をしているダニエル・ホーソーンも実在しているのか、もしくは作者による創作なのか、終始曖昧なままで進む。

何しろホーソーンと知り合ったのはホロヴィッツが脚本を手掛けたドラマ『インジャスティス』のアドバイザーになった時だ。
このドラマは実在するため、ホーソーンも果たして実在するのか?

そしてこのホーソーンは一言で云うならば、マイペースなイヤなヤツだ。正直云って自ら進んで関わり合いたいと思わない人物だ。ホーソーンと共に行動する主人公の作家ホロヴィッツの心の動きが面白い。

例えば彼の元同僚でクーパー夫人殺しの事件の指揮を執るメドウズ警部はホーソーンがロンドン警視庁の中でも一匹狼であり、一緒に仕事できる刑事はいなかったと述べる。そして彼は独自の勘と捜査方法で勝手に進め、結局最終的に彼のやり方が正しかったことを思い知らされるのだと。

そしてまだこの犯罪実録を書こうか迷っているところにホーソーンは1冊目のタイトルは何にするかとシリーズ化まで考えていることを話し、今後もこんな仕事をさせられるのかとゾッとする―ちなみに題名の付け方についてホロヴィッツが007シリーズのタイトルの付け方が一級品であるとイアン・フレミングを称賛しているのが興味深い―。

更にホロヴィッツは途中で他の作家と組んでりゃ良かったとまで貶される。ホーソーンが複数の作家に自分の自伝を書く企画を持ち込んだが悉く断られたことを明かすのだ。

しかしそこまでされてもホロヴィッツは彼が有能で頭の切れる人物であると認めている。

頭の回転の速さ、正直者と思われた掃除婦がこっそり夫人のお金を盗んでいたことを見抜き、消えた猫についての推察も見事だ。
それはまさに長年積み上げてきた刑事の観察眼とそれを結び付ける直感に長けているからだ。

だから幾度となくホーソーンの性格の悪さを、同性愛者に対する率直なまでの嫌悪を目の当たりにしてその場を立ち去ろうと、受けた仕事を断ろうと思うが、結局ホロヴィッツはその場に留まる。
彼は逡巡しながらも彼の追う、自らの葬儀の手配をしたその日に殺された資産家夫人の事件の捜査の過程と明かされる真相への興味に抗えないからだ。それはまさに作家としてのジレンマであり、性(さが)だろう。

そして彼はこう考えることにする。
この決して人好きのしない元刑事の為人を観察して理解しようと。
つまり探偵自身を探偵することを決意するのだ。

私は『カササギ殺人事件』を「ミステリ小説をミステリするミステリ小説」と評したが、やはりその観点は間違っていなかったとこの一文を読んだ時に確信した。

ホロヴィッツはミステリそのものに興味を持っているのだ。つまりミステリ自身が持つ謎を。
だからこそそれ自身について探偵するのだ。
『カササギ殺人事件』がミステリ小説そのものに対してであるのに対し、本書は探偵役そのものに対して。

また一方でホロヴィッツはミステリ作家の端くれとばかりに自身も事件について推理し、ホーソーンに先んじようとする。

犯人が判明してからはとにかく伏線回収の応酬だ。

ホロヴィッツの許を訪れたホーソーンが語る事件解決に至るまでの彼の推理で作者が周到に犯人を示唆する伏線と手掛かりを散りばめていたことが明らかになる。
この回収は『カササギ殺人事件』でも見られたが、毎度のことながら、よくもまあここまでと感心させられるし、読者が伏線・手掛かりと気付かないほどそれらはさりげなく物語に記述されているのが解る。

本格ミステリのケレン味を感じさせ、感嘆させられた。

登場人物の陰影などもしっかり描き込まれており、余韻を残す。

一方で『カササギ殺人事件』同様に読者が一定の教養を持っていないと解らない伏線もある。

私が本書を読み終わった時、正直年間ランキング2年連続1位獲得するほどの作品とは思わなかった。
確かに上に書いたように最後に畳み掛けるように明かされる伏線回収の美しさは海外ミステリ作家には珍しいほど本格ミステリの端正さを感じさせるし、ホーソーンとホロヴィッツが苦手意識を持ちながらも時に親近感を持ちながらやり取りし、事件解決に向けて関係者を渡り歩く様など昔ながらのホームズ&ワトソンコンビのような妙味もある。

しかしこのホームズシリーズの手法に則った本書だが作者自身が語り手を務めることに対して何か仕掛けがあるのではないかと思っていただけに、案外すんなりと物語が閉じられたことになんだか肩透かしを食らったような感覚を覚えてしまったのだ。

先にも書いたが本書は作者本人がワトソン役を務め、探偵を探偵するミステリである。つまりダニエル・ホーソーンとは一体何者なのかを明かすミステリでもある。

しかしそれだけでは何ともこの小説が年間ランキング1位を獲るだけのインパクトには欠ける。なぜ本書が斯くも賞賛を持って迎えられたのか?

それはやはり日本の書評家たちが自分たちの住まう世界の話が好きだからではないか。

『カササギ殺人事件』も英国のミステリ作家の世界を描いた作品である。実在の人物まで出演して物語に関わってくるし、そして何よりもクリスティ作品の良きオマージュとも云えるアティカス・ピュントシリーズ最終作が丸々1冊入っていること、そしてそれ自体が物語のトリックにもなっている事など実に精緻を極めた作品だった。

本書は英国ミステリ作家ホロヴィッツ自身が語り手を務めることで英国ミステリ文壇の内輪話や作家の創作方法や心情について生々しいまでに吐露されている。
こういう作家稼業の内輪ネタが日本の書評家には堪らなく面白いのだろう。それが本書が称賛を以て迎えられた大きな理由ではないだろうか。

しかし本書の一番の魅力はやはりこの一言に尽きるだろう。

この話、どこまで本当なの?

ホロヴィッツがこの質問をされた時、恐らくはニヤリと笑ってこう答えるのではないだろうか?

「それはみなさんの想像にお任せします。なんせ本書の『メインテーマは殺人』なのですから」

▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S
No.1:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

メインテーマは殺人の感想


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

氣學師
S90TRJAH

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!