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殺しのパレード



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殺しのパレード  (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

2007年11月27日 殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

ケラーが今回依頼されたターゲットは、メジャーリーグの野球選手。球場へ足を運んだケラーは、その選手が通算四百本塁打、三千安打の大記録を目前にしていることを知る。仕事を逡巡するケラーがとった行動とは?上記の『ケラーの指名打者』をはじめ、ゴルフ場が隣接する高級住宅地に住む富豪、ケラーと共通の趣味をもつ切手蒐集家、集団訴訟に巻き込まれる金融会社役員など、仕事の手筈が狂いながらも、それぞれの「殺し」に向かい合うケラーの心の揺れを描いた連作短篇集。 (「BOOK」データベースより)




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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

9・11を経た殺し屋稼業の意味に迷う心の振幅が興味深い

殺し屋ケラーの第2短編集。彼は今回も依頼された仕事を遂行するため、そしてそのついでに趣味の切手を買うために軽快に全米を飛び回る。

「ケラーの指名打者」ではケラーはターポンズの指名打者フロイド・ターンブルの暗殺を依頼される。
メジャーリーグの指名打者がターゲットと野球好きのブロックらしいネタで幕を開ける。大記録を目前とした大打者がターゲットである理由が正直解らないのがこの話のミソだ。
ケラーへの依頼は斡旋人のドットを通じてくるわけだが、ドットもまた仲介人を経て依頼を受けるため、目的については不明。ケラーは野球観戦で知り合った野球通の男から聞いた話からターゲットになった理由を推理するが、実際にこんな選手はいるのだろうと思わされるから面白い。

2番目の「鼻差のケラー」は一風変わった趣の作品だ。
しかしなぜかケラーは観戦場でよく話しかけられるものだ。そんな雰囲気を纏っているのかもしれない。

ここまでの作品は正直これまでの作風と変わりないが、次の「ケラーの適応能力」はあの9・11が前面に出た作品であり、本書の中で最も多い120ページの分量で語られる。
9・11を経てヴォランティアに参加して、救助隊員へ食事を配ったり、またそれまでに行った仕事の犠牲者に思いを馳せるなど、実に“らしくない”感傷的なケラーが語られる。
作品のトーンはこれまでと同様なのだが、かかれる内容は明らかにこの前に書かれている2作とは趣が異なる。特に仕事を成し終えた後、オレゴンからニューヨークに戻る道中で寄り道をしてジェシー・ジェイムズやジョン・ディリンジャーらの西部開拓時代の悪党たちの博物館に立ち寄って、彼らの人生を殺し屋稼業の自分と重ねあわせているケラーがいる。そしてケラーは引退を決意する。かつて同様の決心をしたがそれよりも強い意志で。

そんな過程を経て次の「先を見越したケラー」では殺しを自分で営業するケラーが登場する。
作中でドットが述べているように本作はケラー版『見知らぬ乗客』。帰りの飛行機で隣り合わせたビジネスマンに殺したい人物がいると持ちかけられ、ケラーは顔を知られていながらもその依頼を受けることになる。
前作で引退のために残りの余生の軍資金稼ぎのためにしばらく殺し屋稼業を続けることにしたケラーだったが、いきなりその顔を知られた相手の依頼を飛び込みで受けるとは大胆。しかしそれを伏線として皮肉な結末に持ってくるのがブロックの上手さ。
9・11を経てもやはりケラーはこうでなくちゃならない。

ケラーの犬好きは作中でもしばしば語られるが「ケラー・ザ・ドッグキラー」はそのタイトルが示す通り、ケラーに犬殺しの依頼が舞い込む。
犬殺しと云うショボイ依頼から思わぬ展開を見せる本書はそのシチュエーションが実に面白い。
自分の大切な飼い犬を殺された夫人2人からそれぞれ別の殺しを依頼される。一方は共同出資者の片割れを、もう一方は自分の夫を。
そうでいながら陰惨さがまるでない。本当に不思議な味わいのあるシリーズだ。

次の「ケラーのダブルドリブル」はインディアナポリスでの殺しの依頼を受ける。
今回のケラーは投資会社が仕掛けた株価操作に巻き込まれ、しかもケラー自身もその標的になるという異色の作品。
また本作では幼少のケラーのバスケットに対するトラウマについても描かれており、それもまた興味深い。

株取引は次の「ケラーの平生の起き伏し」でも続いており、ドットの趣味にもなってしまっている。
今回のケラーは同好の士の殺人。依頼を受けた時は有名な切手収集家シェリダン・ビンガムで顔を見知っている程度だったが、切手展の会場で図らずも接触してしまい、意気投合してしまう。そしてケラーは初めて彼を殺せるのかと自問自答する。しかしこれをどうにか克服するケラーのドライさと感情のスイッチの切り替え方には思わず感心してしまった。
しかしそれまでの彼は標的を殺害した後は独自のメンタル・コントロールで記憶を雲散霧消してしまっていたが、今回は記憶に留めることにしたようだ。ケラーにも徐々に変化が起こってきている。

続く「ケラーの遺産」は前作のシェリダン・ビンガムの死を受けて、もし自分が亡くなった後の自分の持ち物の整理を斡旋人のドットに頼むところから始まる。それはケラーに何かが起こる不吉な前触れのように感じさせたが、ドットが持ちかけた身元不明のアルという人物からの依頼を引き受け、なんとほとんど日帰りで依頼をこなして帰って来てしまうという物。
そしてこのことがつまりケラーにある迷いを吹っ切ることになる。
本書は「ケラーの適応能力」に対するブロックが自身で見出した回答編となっている。従って本書についての感想は後述する事にする。

最後はたった4ページの小編「ケラーとうさぎ」。標的の許へレンタカーで向かっていたケラーがカーラジオを入れると前の使用者が忘れていったうさぎの物語の朗読が流れてくる。しかし次第にその物語に夢中になる自分に気付いたケラーは標的の許を訪れると続きが早く聴きたいがためにさっさと殺してしまう。
正直本当にこれだけの話なのだが、実はこの作品もまた書かれるべき作品だったのだと思わされる。これについては「ケラーの適応能力」と「ケラーの遺産」と合わせて後述する事にする。


殺し屋ケラーシリーズ3作目の本書は1作目同様の短編集で、始まりはそれまでのシリーズ同様の雰囲気だが、それまでのシリーズと決定的に違う所がある。
それは本書が9・11を経て書かれていることだ。

本書中最も多い分量の3編目「ケラーの適応能力」はケラー自身が9・11を通じた変化について語られる。そこにはケラーが物語の主人公として成立するためには非常に困難になってきた9・11以後のアメリカの姿が描かれている。

飛行機のチェックインで厳密に身分証明を求められるようになったため、ケラーはニューヨークからオレゴン州までレンタカーを借りて陸路で向かうのだ。
正直この時点でケラーシリーズは終わりを迎えたとブロック自身は思ったのではないだろうか。アメリカを横断する陸路で標的を殺しに向かうケラーが成立するのか。ブロックにとってこのようなケラーを書いてみることがある意味シリーズ存続の可否を占う一種の挑戦だったのではないだろうか。

そして9・11を経験したケラーは感傷的であり、9・11当時では偶然依頼のためにニューヨークを離れていたケラーはテレビで衝撃のテロを目の当たりにし、断続的に嘔吐する。殺しをしても標的を人間と故意に認識しないことで心から消し去っていたケラーが、テロによって不特定多数の人間の命が失われていく様を目の当たりにして、知らず知らずに精神的ショックを受けるのだ。
そしてそれがそれまでケラーが行った仕事の標的について語られ、ケラー自身が思いを馳せさせる。それはまるでシリーズの総決算のような趣を湛えている。

恐らくこれは『砕かれた街』同様、ブロックにとって9・11を消化するために書かなければならなかった作品なのだろう。“あの日”を境に変わってしまったニューヨークの、いやアメリカの中で彼が想像した人物たちがどう折り合いをつけて物語の中で生き続けているのかを確かめるために。

そして奇妙なことにドットの許に身元不明のアルと云う人物から殺しの依頼をされるが内容が不明のまま、前金のみ送付されるのみの奇妙な依頼が残されて終わる。

その後のケラーの物語はヴァラエティに富んでいる。
まずデトロイトの殺しは標的が逆に依頼人を殺害して実行前にキャンセルになり、帰りの飛行機で話しかけられた男が殺したいと思っている男の殺しを請け負うことになる。

更に犬殺しの依頼を受けたケラーは2人の依頼人がお互いに相手を殺したがっており、逆に2人と1人の浮気相手、更にターゲットだった犬の飼い主を殺害してしまう。

そして次の依頼では標的ではなく、殺し屋である自分をも殺そうと企んでいる依頼人を殺害して、逆に標的にそのことを教え、株の売買で報酬を得るというツイストを見せる。
更に顔見知りの切手収集家が標的になり、案に反して標的と親しくなってしまい、殺害すべきかどうか苦悶する姿もまた見せる。

つまりこれら一連の物語では単に依頼を引き受け、標的の生活や習慣を見守り、また彼・彼女が住む町に身体を委ね、じっくりと仕事を遂行してきたケラーに、自分の意志が仕事に介入して単純に依頼を遂行するだけではなく、全てを合理的に解決するために依頼以外の殺しを行ったり、また逆に依頼人を殺して標的を助けたりと、依頼の動機などまったく斟酌しなかったそれまではありえなかった感情が介入してくるケラーの姿が描かれるのだ。

依頼よりも自分の感情に左右されてしまうケラーは殺し屋としては失格であり、さらに自分の遺産整理をドットに頼むに至って正直これらの物語を最後にケラーは引退するかと思われた。

しかし「ケラーの遺産」でドットに訪れる依頼は「ケラーの適応能力」でドットの許へ前金のみ送ってきた正体不明の依頼人アルからの物で、ケラーはこの依頼を最速で遂行して帰ってくる。そしてそれが彼にある踏ん切りをつけらせることになる。

恐らく余生を過ごす軍資金を得て引退しても、ある時期が来れば何かすべきことが自分にはあるのではないかと思い始め、再びドットに電話して依頼の有無を確認する自分がいることに気付くのだ。つまり自分はやはり生粋の殺し屋であり、この稼業を辞めることはできないのだと悟るのだ。

そして最後の「ケラーとうさぎ」ではレンタカーで子供向けの物語の朗読CDに図らずも夢中になり、その続きが気になって早く聴きたいがために実に簡単に人を、しかも2人の子供を学校に送り迎えするごく普通の主婦が自分の都合で厄介払いしたくなった夫の依頼で始末され、ケラーは再び朗読CDの続きに思いを馳せるのだ。
つまりドライな殺し屋ケラーが最後に見事復活するのだ。

ブロックが選んだのは9・11を経てもケラーはケラーであることをケラーに気付かせることだった。本書にはブロックが模索しながらケラーを書いている様子が行間から浮かび上がってくるが、どうにか本当のケラーを見つけたようだ。
ケラーよ、お互い変わらぬ姿でまた次の作品で逢おうではないか!


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No.5:
(4pt)

殺しのパレード

寡黙な殺し屋のイメージとは違い、よくしゃべるし、
野球観戦や競馬にいったり、切手を集めたり、ボランティア活動をしたりと、
アクティブにいろんなところへ出かけていく殺し屋ケラー。
パートナーのドットとの掛け合いなどしゃべりすぎにも思えるんだけど
好きな人は好きなんだろうと思います。
伊坂幸太郎が推薦してるだけあって会話の雰囲気とかも似たものを感じるし、
本多孝好とか好きな人も惹かれるものがあるかもしれません。
殺しのパレード  (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)Amazon書評・レビュー:殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)より
4576072145
No.4:
(5pt)

祝! 続編発刊

長編だった前作から原点に戻って連作短編集。しかし危ぶむことなかれ、長編であろうが短編であろうが面白さは変わっていません。
あいかわらず洒脱な雰囲気は健在で、ケラーと共に旅をするうち、都市生活者の悲哀や寂寥や滑稽さに身を包まれ、殺し屋の話であるにもかかわらず、静かな酒場で一杯やっているような穏やかな気持ちになれます。

2001年に起きた世界的な事件が影を落としていて、空港のセキュリティが厳しくなりレンタカーで移動をせざるを得なくなったケラー。
第一作からつづく皮肉なユーモアがそこかしこに見受けられます。
人を殺したことではなく例の事件のショックで吐いてしまったり、あげくはグラウンドゼロで働く人たちのためにボランティア(笑!)に参加したり。

ラストのうさぎのエピソードがこの作品世界を端的に表現してます。善悪や倫理観を超えたところにある人間のおかしみや矛盾。次回作で終焉をむかえるのが本当に惜しい作品です。

待ち焦がれていた続編『Hit and Run(原題)』が来月発刊されるとのことで、うれしさついでにレビュー。お目汚し失礼しました。
殺しのパレード  (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)Amazon書評・レビュー:殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)より
4576072145
No.3:
(3pt)

シリーズ終わり?

面白いです。いつものことながら、ローレンスブロックの上手いストーリーテリング、楽々と書いているように思えます(本当はそうじゃないんだろうけど)。
 幅広い芸のある人だから、もうこの辺でこのシリーズやめて置こうかと思っても不思議じゃないなあと感じました。おなじみがいなくなるのはちょっと残念。
殺しのパレード  (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)Amazon書評・レビュー:殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)より
4576072145
No.2:
(5pt)

ケラー引退?

「殺し屋ケラー」シリーズ第3弾。
 連作短編形式で1冊の長編を成すスタイル。殺しの手口とか武器で読者を引きつけるのではなく、ウィットに富んだ会話、ストーリーの進行と並行して描かれるケラーの心象風景で読ませる。ハデなアクションものとは違い、じっくり読ませておおいによろしい。
 次作でケラー・シリーズ終了との噂もあるが、本当なら、きわめて残念。
殺しのパレード  (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)Amazon書評・レビュー:殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)より
4576072145
No.1:
(4pt)

おちゃめなケラー

短編集。いつもどおり彼特有の善悪の基準に従って、殺し屋稼業を続けるケラー。この作品ではケラーの少年時代のちょっと悲しいエピソードが明かされる。自分が社会病質者ではないかと戸惑ったり、話し相手を欲しがっていると自分に気付いたり、今回は今までにも増して、殺しそのものよりも彼の心の動きがメインになっている。
 少しホロリとくるけど、ドットとの掛け合いや、自分の心の暗部(?)を解決するために彼がとる一風変わった手段には、思わず笑ってしまう。
 1,2番目が競馬と野球に絡んだ話で、自分にはわかりづらかったため、星4つ。
殺しのパレード  (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)Amazon書評・レビュー:殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)より
4576072145



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