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マリオネットK さんのレビュー一覧

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レビュー数347

全347件 21~40 2/18ページ

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No.327: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

平成にまで残された、昭和最後の一週間

わずか一週間で終わった昭和64年に発生した未解決誘拐殺人事件、通称「64(ロクヨン)」は、遺族や警察をはじめ多くの事件関係者たちに新しい時代、平成にも深い遺恨を残していた。そして時効まで残り一年を迎えた平成14年、様々な人々の思いが交錯する中、再び事件は動き出す……

私はミステリの中でも警察小説はあまり好きではない、特に事件そっちのけで警察内の派閥だ面子だでグダグダするような話は不快になるため嫌いであり、この小説はまさにそういう話なのですが、やはり横山秀夫氏の作品だけは例外です。決して読んでいて愉快なストーリーではないのですが、楽しく読めました。

主人公が警察関係者の中でも、直接事件を捜査する刑事ではなく、マスコミとの仲介役となる広報官という設定がまず斬新です。
マスコミからも刑事部からも板ばさみになる葛藤が存分に描かれ、主人公の広報官側に感情移入すると「マスコミも刑事部も勝手な事ばかり言いやがって」という感想が沸くのですが、結局はどの人間も自分の置かれている立場で物事を言っているにすぎず、ふと離れた視点から見ると、名前を出す出さないだ、誰に抗議文を出すだ出さないだ、いい大人たちが大勢揃ってどうでもいいことにこだわり、誰も得しない非生産的な争いをしている滑稽な構図に見えてきます。
こんなことよりも重要なのは誘拐された子供の命(それはもう奪われてしまった)と犯人逮捕だろ?と途中から感じてしまいましたが、結局直接の被害者以外にとっては、目の前の自分の立場や面子こそが一番重要なのが現実なのでしょう。しかしその中に確かにあるそれぞれの人間個人の譲れない感情や矜持というものが表れ、まさに『人間』というものがこれでもかと描写されていた作品と感じました。

そのように未解決誘拐事件そのものよりも、マスコミとの駆け引きや警察内でのゴタゴタがメインの前半は少し間延びした印象でしたが、再び64(ロクヨン)が大きく話に絡むようになり、同時に次々と真相が判明していった終盤の展開は驚きの連続で目の離せないものとなりました。



▼以下、ネタバレ感想
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64(ロクヨン) 上 (文春文庫)
横山秀夫64(ロクヨン) についてのレビュー
No.326: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

決して出来が悪くないだけに漂うチープさがもったいない

吹雪に閉ざされた山荘を舞台に、多重人格の殺人鬼による連続殺人が行われる、サイコサスペンスにして倒叙にして本格推理作品でもあるミステリ。

刹那的で軽い性格の殺人鬼の性格を描写するためか、はたまた元々は「作者当てクイズ」という趣旨もあり元の文章のクセを隠すためか、文章がラノベ的というか非常にチープさやB級感が漂っている作品です。
しかし面白い趣向が複数試みられ、展開もよく練られており決して出来が悪くないだけに正直もったいないと感じてしまいました。(密室トリックとアリバイトリックはしょぼいけど)
性的描写が必要以上に多いのも、無駄なエログロナンセンス感があって人を選んでしまうなぁという感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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白銀荘の殺人鬼 (カッパ・ノベルス)
彩胡ジュン白銀荘の殺人鬼 についてのレビュー
No.325: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

駄作……というわけじゃないですが肩透かし感が

この作者で鳴風荘事件なんてタイトルの時点で「館もの」好きとしては期待せざるを得ないのですが、結果としては肩透かし。
鳴風荘は大して魅力のある館ではないですし、「館もの」として直球としても変化球としても中途半端です。
状況設定を整えるのために不自然に脚を怪我した人だらけにするのも、推理小説というより、単なる推理クイズを読んでいるような安っぽさを感じてしまいました。
方程式なんてのも正直大げさすぎで名前負け、単なる算数レベルです。

▼以下、ネタバレ感想
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鳴風荘事件 殺人方程式II (講談社文庫)
綾辻行人鳴風荘事件 についてのレビュー
No.324:
(4pt)

『鏡の中は日曜日』のおまけみたいなもん

『鏡の中は日曜日』に登場した名探偵・水城優臣が登場する番外編。
それゆえに『鏡の中は日曜日』より先に読んでしまうと重大なネタバレをくらうことになります。
現在は『鏡の中は日曜日』の文庫版に同時収録されているのでこちらの単体本はあまり出回ってないとは思いますが。

試みは面白いですけど、トリックもプロットもしょぼいです。
まさにおまけって感じでした。
樒・榁 (講談社ノベルス)
殊能将之樒/榁 についてのレビュー
No.323:
(8pt)

謎解きの難易度としては非常に低いけれど、質は高いデビュー作

今邑彩女史のデビュー作。
まさにタイトルどおり「卍」の形に作られた館で発生する連続殺人事件。

謎解きの難易度としては非常に低いです。本格ミステリファンどころか、『金田一少年』や『名探偵コナン』が好きな人レベルでも察しがつきそうです。
ただし、かといって自分はこの作品の評価は落としません。むしろとことんフェアゆえの難易度の低さとも言えますし、バリバリの本格ではありますが、登場人物たちの恋愛ドラマとして見ても面白かったです。
デビュー作としては非常に完成度の高い作品だと思います。

奇妙な館での殺人事件という内容も好みですし、好みの作家さんということもあり少し甘めの点数です



▼以下、ネタバレ感想
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卍の殺人 (中公文庫)
今邑彩卍の殺人 についてのレビュー
No.322:
(6pt)

いくらなんでも人はここまで醜くない!……と思いたい

他人の心を読む事が出来る超能力者である主人公の少女七瀬。彼女は住み込みのお手伝いとしてさまざまな家庭を転々とし、その能力で各家庭の裏側を覗いていくという連作短編。

あらすじだけでも想像がつく通り、人間の心の醜さがまざまざと描かれている作品ですが、一見円満そうな家庭がそれぞれの心の中では……と言えるような話は最初の一話だけで、残りの話はもう直接口には出さないだけで、最初から目に見えて壊れているような家庭の話ばかりに思えました(また、一見仲が悪そうで実は愛し合ってる、なんて逆バージョンのいい話なんてのは当然ありません)それでも決してワンパターンとは感じない所が流石筒井氏なのですが、いくらなんでもこうも出てくる人間、出てくる家族みんな酷いなんてありえない。いくらなんでも人はここまで醜くないと思ってしまいました。

しかし、普段はフィクションなんだからむしろ性格の悪い人間がいっぱい出てきて醜い争いを繰り広げる話の方が好きな私がこんなふうに感じてしまうのが逆に、この作品に嫌なリアリティがあることの証明かもしれません。
家族八景 (新潮文庫)
筒井康隆家族八景 についてのレビュー
No.321:
(7pt)

いろんな意味で70年近く前だから許される作品

1950年発表の神津恭介シリーズ第二作目(三作目とも)
過去、信仰の力を持って富と財をなした一癖も二癖もあるような人物ばかりの旧家で、血塗られた予言に見立てられながら連続殺人事件が起こるという
どちらかと言えば横溝御大のようなカラーの、それ以上にカーやヴァン・ダインからの影響が多分に感じられる作品ですね。

犯人に翻弄されるように、舞台に居合わせながら次々と殺人を許してしまう神津が正直ふがいないです。
連続殺人を防ぐことが出来ない探偵というのは金田一耕助もそうですし、ある意味お約束ではあるのですが、神津はなまじ完璧超人の格好いいキャラクター像を与えられているだけに、かえって情けなく見えてしまうのが否めません。

また、読者への挑戦文が挟まれる作品ですが、もはや挑戦というより挑発的な文章で
「わからないって?困りますね、そんな勘が悪くちゃ」とか「ここまで書いてわからないようじゃ、頭がどうかしています」とか今の作家がやったら冗談でも許されないレベルで酷いです(笑)
あと当たり前のように『グリーン家殺人事件』の犯人の名前挙げるのも酷いです。(私は幸い向こうを先に読んでたけど)

いろんな意味で1950年という時代だから許されているような作品で、いろいろ物申したい部分はありますが、今じゃとても読めないという意味では面白い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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呪縛の家 新装版 (光文社文庫)
高木彬光呪縛の家 についてのレビュー
No.320: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『星を継ぐもの』の続編作品

SF作品でありながら、ミステリ作品としても非常に評価が高く、このサイトでも海外作品総合2位(私も10点満点つけました)のいわずと知れた有名作にして超傑作である『星を継ぐもの』の正当なる続編。
……にも関わらず一作目から評価・知名度はグッと下がり、実際ここでレビューを書かせていただくのは私が一番乗りというこの作品。
その理由は決してこの作品がつまらないとか、出来が悪いからではなく、前作と違い、謎の提示と解明はあっても、あくまで普通(?)のSF作品の範疇に収まってしまっているからでしょう。

単純にストーリー性、娯楽面から見れば、前作がほぼ謎の提示と解明に終始しただけの作品であるのに対し、今作は実際に地球人たちが異星人たちと接触し、その交流が描かれるなどより展開に動きがあり、物語としてはこちらの方が面白いぐらいではないかと思います。
そして今作にもしっかり大きな謎とそれに対する驚きの回答が用意されてはいるのですが、やはり前作の謎の解明の際のインパクトとカタルシスには遠く及ばないですかね。

言うまでもないことですが、今作は前作の『星を継ぐもの』の真相に関わる、超重要部分がネタバレされているので、絶対にこちらを先に読まないようにしてください。

▼以下、ネタバレ感想
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ガニメデの優しい巨人【新版】 (創元SF文庫)
No.319: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

作者の成長過程がうかがえる作品

『名探偵信濃譲二シリーズ』の三部作完結編と言うべき作品でしょうか。
正直私は、このシリーズは作者の歌野氏の後年の作品が好きなので読んでいるだけで、これ自体はお世辞にも出来が良いとも面白いとも思えず、特に褒める所のないシリーズと言った感想なのですが、三作目となる今作は前二作に比べると、まだ粗はあるものの後の同作者の名作に繋がる、成長の軌跡が感じられる作品だと感じました。
ミステリとしては特別トリックが良くできていたり真相がひねられてるわけでもないんですが、単純に前二作に比べると遥かにキャラクターが活きていてストーリーに引き込まれて「面白かった」です。

▼以下、ネタバレ感想
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新装版 動く家の殺人 (講談社文庫)
歌野晶午動く家の殺人 についてのレビュー
No.318: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

短編集というのは少し違う……作中作を題材としたホラー&本格ミステリとでも言うべき作品?

『作家シリーズ三部作』の二作目。
前作の『忌館 ~ホラー作家の住む家~』はホラーとしてもミステリとしても中途半端な上に、全てが消化不良ではっきり言って全く面白くもなければ納得もいかないと感じた作品でしたが、今作については点数にも表れているように、結論から言うと面白かったです。
しかしなんとも説明するのも、感想を述べるも、どう評価すべきかも非常に難しい作品だと感じました。

まず紹介ページのタイトルの後ろに(短編集)とついていますが、この作品そのものを短編集と分類するのは少し語弊があります。
この本の作中に出てくる”迷宮草子”という本が短編集の形式で出来ており、その一作一作の謎を主人公達が解き明かしていくという、作中作形式の話になります。(ややこしいですが)
ただ当然ながら”迷宮草子”はただのミステリ短編集ではなく、読んだ者の身に一話ごとに怪異が襲い掛かり、そしてこの本の謎を解かない限りその怪異が消えることはなく、さらには読んだ者はやがてその姿を消すことになる……という恐ろしい曰くを持ったもので、主人公達は日々襲い来る怪異に悩まされながら、命がけの謎解きを行っていきます。
そんなオカルトな題材を扱ったホラー作品でありながら”迷宮草子”の個々の短編の謎はあくまで「本格ミステリ」の形式がとられており、導かれる回答も極めて論理的という、まさにこの作者の代名詞でもある、ホラーと本格ミステリの融合を果たしている作品と言えます。
また作中作となる個々の話もいろいろな本格ミステリのジャンルやテーマをバラエティ豊富に取り揃えながら、それ単体でも十分楽しめるクオリティを携えており、上下巻のボリュームながら飽きることなく楽しませてくれる、まさに「力作」とも言える作品だと思いました。

なお、この作品はクローズドサークルタグが付いていますが、この作品自体は全くクローズドサークルではありません。
ただ、上にある作中作の短編作品の中にクローズドサークル形式の作品が含まれるほか、謎解きの際にもクローズドサークル談義(?)が交わされるので、クローズドサークル好きにもおすすめできる作品であると言えるでしょう。



▼以下、ネタバレ感想
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作者不詳 ミステリ作家の読む本 (上) (講談社文庫)
No.317:
(7pt)

夏目漱石の『坊っちゃん』を読み返せば2倍楽しめる?

日本の文豪、夏目漱石の書いた超有名作である『坊っちゃん』の世界観と登場人物をそのままに、あの親譲りの無鉄砲でいつも損ばかりしている「坊っちゃん」が探偵役となり、殺人事件を解決するというユニークな作品。

まずなんと言っても感心するのは、夏目漱石の『坊っちゃん』の文体をそのまま再現していること、そして主役の坊っちゃんをはじめ、登場人物の言動も完全に再現されており、まるで『坊っちゃん』の続編のようで、まさにこれは”贋作”なのだと感じました。

また20世紀初頭という時代背景を上手く実際に『坊っちゃん』の作中で起きた事件とも絡め、作中で新たに起こる殺人事件に絡めて行く手法も見事で、社会派ミステリとしての側面も持っています。(その反面肝心の殺人事件に関するトリックや犯人当てには少し物足りなさや、強引さを感じましたが)

またこの作品を読んで改めて感じたのは、夏目漱石の作品の中でも特に『坊っちゃん』という作品が大衆受けしたのは、この「坊っちゃん」の無鉄砲で喧嘩っぱやく、しかし一本気なキャラクターが非常に主人公的な魅力に溢れ、好まれるからだと言う事です。
『坊っちゃん』が発表されてから、日本は二つの世界大戦を経て、世の中の多くの価値観が大きく変動したにも関わらず、大衆に好かれるキャラクターというのは平成も終わろうとしている今日においても変わらないというのが面白いと思いました。

こんなふうに言いながら私はこの作品を読む前に元ネタの『坊っちゃん』がどんな話だったかは殆ど忘れていたのですが、思い出しながら、あるいは完全に未読でも楽しめる。あるいはこちらを読み終えてから改めて『坊っちゃん』を読み直しても楽しめる。もちろん、事前に『坊っちゃん』をしっかり読んでいても楽しめる。いずれにせよ夏目漱石の『坊っちゃん』を読めば2倍(2回)楽しめる作品ということです。

▼以下、ネタバレ感想
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贋作『坊っちゃん』殺人事件 (集英社文庫)
柳広司贋作『坊っちゃん』殺人事件 についてのレビュー
No.316: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

海外古典ながら抜群に読みやすく飽きの来ないテンポの良さ

1929年発表のまさに古典。
私は戦前の海外古典を読む際は、今読んだら目新しさはないのはもちろん、読みにくくてつまらないのを覚悟して読むのですが
(なんでつまらないと思っているものを読むのかと言われれば、ミステリファンを名乗る上での義務感や現代のオマージュ作品の元ネタを知っておくためというのが正直なところです)
この作品はとても読みやすかったですし、長編にしてはページ数が少ないながらも非常に密度が濃く、無駄のないテンポの良さに終始楽しんで読むことが出来ました。

複数人の素人探偵による推理対決、アンチミステリというジャンルの草分け的な存在の作品であり、後世の作品への影響力もさることながら、この作品の中においても、惜しげもなく何通りもの推理回答が次々と提示されるのには見事だと思いました。
個々の推理自体は現在のミステリファンならばわりと容易に予想できる範疇ではありますし、細かい部分ではロジックが甘いと感じる部分も多いですが、そういう点はむしろ、ミステリ初心者や、昨今の複雑化しすぎ、奇を衒いすぎな推理小説に疲れた読者にもおススメできる一冊なのではないかと思いました。

総合的に見て、間違いなく傑作です。
今でも十分有名作ですけど、個人的にはまだ過小評価されてるんじゃないかと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)
No.315: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

本格好きの自分の好みではないけれど、東野圭吾という作家の実力を改めて感じた一冊

手軽に読めるのが一つの売りでもある東野圭吾氏の作品にしては800ページ超のかなりの分量なのに加え、本格好きである私は数ある同作者の作品の中でも評価の高い一冊でありながら読むのを大分後回しにしてしまった作品です。
真相・結末に大きなトリックやどんでん返しが用意されているわけではなく、また私のような明確な「答え」「結末」というものを求めたがる人間には少し相性が良くない作品でしたが、ミステリというより純粋にストーリー性の高い小説であり、東野圭吾という作家の引き出しの広さや深みというものを感じさせられた一冊でした。

亮司と雪穂、男女二人がストーリーの中心となり彼らの20年近い半生を、昭和から平成への時代の移り変わりを振り返るように、主役である彼らの心情は一切描写されず、周囲の人間視点で綴られていく壮大なストーリーですが、元々は連作短編として連載されていただけあり、彼らに関わっていた人間たち個々のエピソードだけ見ても質の高いものを感じました(それだけに読んでいる途中で「あれ、あの人たちもう出てこないの?」と何度も思わされましたが)


▼以下、ネタバレ感想
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白夜行 (集英社文庫)
東野圭吾白夜行 についてのレビュー
No.314:
(4pt)

はっきり言って駄作……だけど最低限読めるのは流石と言うべきか

マイナーながら単独で一冊になっている長編では金田一耕助シリーズの中では最短作品ということで、割りと早い段階で読んでいた話ですが、はっきり言って駄作です。
中々に想像力を沸き立たせる禍々しさのあるタイトルではありますが、百唇譜とは結局ちょっと悪趣味なゆすりのネタ帳でしかなく、はっきり言って肩透かしでした。頭にとってつけたような”悪魔の”という部分も安っぽさを助長してます(最初のタイトルはただの『百唇譜』だったようですが)

終戦直後のまだ戦争の爪跡が残る日本という時代背景が活かされていた同シリーズの代表作・有名作に対して、高度経済成長期が舞台となる今作はなんというか「時代に置いていかれた」感が漂う、この時期の横溝氏の低迷を象徴しているような作品と感じました。

とはいえ腐っても(失礼)横溝御大とは言うべきか、長編にしては短い作品というのもありますが、駄作とはいえ読むのが苦痛になって途中で投げ出したくなるということはなく、とりあえず読ませてしまうだけの筆力はあるのは流石だと思いますね。


悪魔の百唇譜 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
横溝正史悪魔の百唇譜 についてのレビュー
No.313: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

初級問題と中級問題に分かれていたような感じ?

『国名シリーズ』の第三弾にして、シリーズ内でも名作として名高く、作家クイーンの評価を一気に高めた作品でしょうか?
もはや説明不要な徹底したロジカルさが特色のクイーン作品の中でも、とりわけその傾向が強い、まさに大作パズル問題のような一作です。

ストーリーは事件が発生した病院内での捜査にほぼ終始し、余計なドラマやサスペンス要素などは差し挟まない、非常に正統派かつストレートな推理小説となっています。
(まだヴァン・ダインの影響が強かった頃のためか、台詞まわしにやや衒学趣味が強いのは個人的にややハナにつきますが。あとクィーンと少年給仕のジェーナのBLっぽいやり取りは、今ではそういう層の人に目をつけられそうです)

第一の殺人に関する靴のロジックによる犯人の絞込みは大抵の読者が答えに到達できるでしょうが、第二の殺人の戸棚のロジックは難易度が高く、作中内で初級問題と中級問題に分かれていたような印象を受けました。ちなみに私は初級はクリアしましたが中級でつまずきました。

余談ですが、メモ用に余白が取られていた章で本当にメモ取った人なんているんでしょうか?
しかもあの部分、さして重要じゃないクイーン警視の誤った推理でほぼ埋まっていた気がするのですが、むしろどうでもいい部分だから暇つぶしに落書きでもしてろっていうジョークなんでしょうかね。


▼以下、ネタバレ感想
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オランダ靴の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンオランダ靴の謎 についてのレビュー
No.312: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「文学」と「絵画」という二つのジャンルの橋渡しになっているかのような作品

今作は殺人や犯罪を扱ったミステリではなく、実在した不遇の天才画家アンリ・ルソーが描いたとされる、幻の作品を所有する大富豪に招かれた2人の男女が、それぞれの背後にさまざまな人物の事情や思惑を背負いながら、作品の真贋をめぐって論評対決するという独自ジャンルの作品です。

作者が本職のキュレーターでもあったというだけあり、絵画に対する知識と情熱がリアリティを持って伝わってきました。
かと言ってその分野に明るくない読者を置いてけぼりにするようなことはなく、キュレーターという職業やルソーと言う作家の絵画史における位置づけなどが非常にわかりやすく説明されており、物語にすんなりと入り込みついていくことができました。
ミステリ界に溢れている、作者に中途半端な知識しかないゆえに逆に単なる知識のひけらかしになっているような衒学趣味の強い作品に見習って欲しいものだと感じます。

作中ではルソーだけではなく、かの有名な天才ピカソも登場し、深く物語に関わってくるのですが、作中でも「この話はピカソが主役になってしまうんじゃないか」という台詞が出てきたとおり、どうしてもピカソが登場すると、ピカソの方が存在感が強くなってしまった気がします。
日本の大河ドラマや歴史小説で、本来の主役とされた人物より結局、織田信長や豊臣秀吉が目立ってしまうのに似たようなものを感じました。
とはいえ、この作品を読むまで恥ずかしながら名前ぐらいしか知らなかったルソーという画家の人生と作品に大きく興味を抱かされ、機会があれば彼の作品を実際に目にしてみたいと感じさせられた一作です。
作中のように画家やキュレーターや研究者がいかにルソーの評価を世間に見直させようとしても、私のような人間の耳には一切入って来なかったでしょうか、小説というジャンルを通すことで普段その分野に興味の無い人間にもルソーと言う画家の人生と作品が伝えられるというのは、素晴らしいことだと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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楽園のカンヴァス (新潮文庫)
原田マハ楽園のカンヴァス についてのレビュー
No.311: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

重くて暗くて読みにくそう……と思ったらいい意味で裏切られました

愛する一人娘を殺された父親が、行きずりの変質者の犯行であるという警察の見解に疑いを持ち、独自に犯人を捜しだし、そして復讐を決行するという内容の手記から始まる作品。

人が憎しみ合って殺しあう話が大好きな私ですが、こういうタイプの話は非常に苦手で、あらすじの時点で読む気があまりせず、「もし出来が良くても二度読もうとは思わないタイプの話だろうなぁ」と考えながら読んだのですが、良い意味で予想を裏切られ、楽しく読めました。
内容はたしかにあらすじの通りですが、スピーディに進み、二転三転していく物語は非常に読みやすく、最後まで先が気になり、結末にもうならされ、いずれ再読もしたいと感じた作品でした。



▼以下、ネタバレ感想
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頼子のために (講談社文庫)
法月綸太郎頼子のために についてのレビュー
No.310:
(7pt)

全てのミステリ翻訳家は乱歩を見習うべきと思ってしまう

無二の親友と思っていた相手に妻を寝取られた主人公の執念の復讐物語。

幸福の絶頂から一気に突き落とされる主人公。生きながら埋葬された恐怖と苦痛と絶望。最愛の者たちに裏切られたという筆舌に尽くしがたい怒り。そして彼らへ壮絶なる復讐計画と実行……
始まりから終わりまでインパクトの強い展開の連続で非常にテンポよくストーリーが流れ、読みやすく飽きさせられない作品でした。
主人公に狂気を感じるとともに感情移入もしてしまう所がこの作品の魅力でしょうか。

海外作品の『モンテ・クリスト伯』の翻訳小説である黒岩涙香氏の『白髪鬼』をさらに乱歩が独自のアレンジで翻訳しなおした作品(とされています)
それゆえ日本を舞台にするのには正直いろいろ不自然や無理を感じる設定や展開もありますが、まぁそれもご愛嬌でしょう。

個人的にこの作品に限らず乱歩の海外作品の翻訳とされてる作品は本当に最初から翻訳というつもりだったのか、ほとんど海外作品のパクリと見なされたようなものを後から翻訳扱いにしたのではないかと常々疑わしく思ってしまっているのですが、しかし私としては決して乱歩を非難したいのではなく、むしろ乱歩が翻訳し、彼のカラーが大いに出た文章は古い時代の海外翻訳は言うに及ばず、現代の海外作品の翻訳と比べても圧倒的に読みやすくて面白いと感じるんですよね。
本来翻訳家というものに求められる仕事は元の作品になるべく忠実な翻訳であるべきことが第一とされるのが当然で、元の作品を殺さぬために自分を殺すことが求められる職業なのかもしれませんが、あまりに退屈で読みにくい翻訳の文章を見るたびに私は「乱歩を見習え」と思ってしまうのです。

▼以下、ネタバレ感想
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白髪鬼 (江戸川乱歩文庫)
江戸川乱歩白髪鬼 についてのレビュー
No.309: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

「本格」としてももちろん名作ですが、ドラマ性にも重点が置かれた作品

クリスティ作品では(おそらく)最長となる作品。
しかしメインプロットそのものはそこまでボリュームがある大作というわけではなく、他のクリスティ作品と変わらないと思います。
この作品の特徴は他のクリスティの作品は、良くも悪くも純粋な本格推理小説の色が濃く、余計な要素は極力排している印象が強いのですが、今作は登場人物の描写が入念でドラマ性に重視が置かれているという点で女史の作品の中では異色感がありました。
また、舞台がタイトルの通りエジプトのナイル川の遊覧船ということで、作者自身がエジプトを訪れた際の感動がペンに乗っており、エジプトの魅力や雰囲気を存分に感じ取ることが出来る一作となっています。
なので第一の殺人が発生するまでもかなりページ数を要し、その点はクリスティ作品の、すぐに殺人が起こって、そのままひたすら推理パートが進んでいく正統派ストロングスタイル(?)の本格推理小説が好きな人は少し焦れるかもしれません。
かくいう私も基本はそういうタイプなのですが、この作品に関しては被害者をとりまく人間ドラマに非常に惹きつけられたため、退屈はしませんでした。

この作品ももう80年以上前に描かれた、古典の有名作となっていますが、エジプトの4500年の歴史と比べればミステリというジャンルが生まれたのはまだつい最近のことなんだなぁと思わされますね。

▼以下、ネタバレ感想
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ナイルに死す (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティナイルに死す についてのレビュー
No.308: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

幻想的で官能的な作品に仕掛けられた綿密なトリック

ダム開発のために沈むことになった寒村を舞台に、複数の男女の思惑と愛欲が絡み合う物語。

推理小説というよりは純文学的な印象を受ける、どこか幻想的な雰囲気で綴られる文章を読み進めていくうちに読者は「ん?」と違和感や謎を次々と抱えることになり、そのまま作品の世界に本格的に引き込まれていく……そんな一冊です。
しかし、そこには最後まで読み進めると全ての謎が一本の線に繋がる、緻密なトリックが仕掛けられています。

官能的なシーンが多い作品でそこは人を選ぶかもしれませんが、個人的にはこれは俗な所謂「濡れ場」的なものではなく、作品に必要なシーンと受け取りました。

好みは別れそうな作品だと思いますが、『11枚のとらんぷ』とも『乱れからくり』とも(もちろん『ヨギガンジーシリーズ』とも)雰囲気も趣きも異なる泡坂氏の引き出しの多さを改めて感じさせられた一冊と感じます。

▼以下、ネタバレ感想
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湖底のまつり (創元推理文庫)
泡坂妻夫湖底のまつり についてのレビュー