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マリオネットK さんのレビュー一覧

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レビュー数347

全347件 181~200 10/18ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.167: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

やっとこ、さっとこ、つかまえた♪

妻の殺害容疑をかけられた男のアリバイを唯一証明するのは、その日一夜限りを一緒に過ごした名も知らぬ女。
しかしその女のことを第三者は誰も「そんな女は見ていない」と証言し、女の存在はまるで幻のように消えてしまう。
死刑の判決を受けた男を救うため、彼の親友が立ち上がり「幻の女」の行方を追う……

有名な海外古典の中ではクリスティ作品と並んで抜群の読みやすさだと思います。
無駄の無い緊迫感のある展開の連続、意外な犯人と驚愕の真相。
時代を超えて読み継がれるべき名作でしょう。

私が読んだのはハヤカワ文庫版ですが、日本語訳もセンスが良かったと思います。
ようやく幻の女の足取りを掴んだ時の「やっとこ、さっとこ、つかまえた。やっとこ、さっとこ、つかまえた」が秀逸ですね。




▼以下、ネタバレ感想
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幻の女〔新訳版〕
ウィリアム・アイリッシュ幻の女 についてのレビュー
No.166:
(6pt)

21世紀のクローズドサークル

有栖川氏のクローズドサークル作品と言えば『双頭の悪魔』や『孤島パズル』など江神二郎が探偵役の『学生アリスシリーズ』が有名ですが、これは火村英生が探偵役の『作家アリスシリーズ』の中では珍しいクローズドサークル作品です。

本来日本に生息しない大鴉の群れが舞う孤島といういかにもな舞台設定ですが、昭和から平成に移り変わろうとしている時代が舞台の『学生アリスシリーズ』とは異なり、こちらは紛れも無い21世紀の時代設定なので、携帯電話もインターネットも存在する世界観です。
それらは結果的に使用不能になり外界から孤立した状況にはなるのですが、単にクローズドサークルという設定には邪魔なものを排除したというわけではなく、話に後々それが絡むことになるのが、作者のまさに現代ならではのクローズドサークルを書こう、という意気込みが伝わってきた作品でした。

他にもホリ○モンがモデルのキャラが登場したり、ES細胞によるクローン技術が話の一つのテーマになっていたりと、作品発表当時(2006年)にホットだった内容を題材にしている作品なのですが、10年以上が経過した今はすでに少し時代を感じてしまいます。

最初から良い意味で古臭い『学生アリスシリーズ』の作品の方がやはり何十年も先まで読み継がれる作品になりそうだと感じました。



▼以下、ネタバレ感想
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乱鴉の島 (新潮文庫)
有栖川有栖乱鴉の島 についてのレビュー

No.165:

鴉 (幻冬舎文庫)

麻耶雄嵩

No.165: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

これはちょっと自分には許容範囲外

弟の失踪と死の謎を追い、彼が生前滞在したという地図にない村を目指した青年は、突如鴉の大群に襲われ意識を失う。
目を覚ますと彼は目的の村の、一つの屋敷に匿われていた。
その村は現代日本でありながら、深い山奥で外界から隔離され、村内で神と崇められる「大鏡様」が絶対的な権力を持つ、封建的な時代がそのまま残ったような場所だった。
青年は村で弟の情報を求めるが、そこで連続殺人事件が発生する……

ある程度の規模を持った村という本来クローズドサークルの舞台としては不適合な状況ながら、警察の捜査や法律などが一切介入しない治外法権的な設定から、紛れも無いクローズドサークル的な作品となっています。

麻耶氏らしい驚きのトリックやどんでん返しが仕込まれている作品ですが、この作品の真相や結末は「フェアかアンフェアか」「非現実性をフィクションと割り切って楽しめるか」の観点で、ミステリとして見ると個人的にはちょっと「許容範囲外」です。
ちょっと納得がいかないし、無理がありすぎると思いました。

話の雰囲気そのものは嫌いじゃないのですが、オチに全く救いが無く、後味が悪いこともあり、楽しく読めたとも言い難いです。
この作者の作品の傾向は判っていたので最初からハッピーエンドなんてのは期待していなかったはずなのですが、話の真相やトリックに納得がいかないとせめて大団円で終わらせてほしいという心理が沸いてしまうのでしょうか。

▼以下、ネタバレ感想
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鴉 (幻冬舎文庫)
麻耶雄嵩 についてのレビュー
No.164:
(9pt)

内容が重そうなので敬遠していたが、ブラックユーモアが効いていて非常に面白い

教え子である中学生に幼い娘を殺された教師の告白……

というあらすじを見て、見るからに重そうで暗そうで胸糞悪そうで敬遠してしまっていたのですが、読んでみたら面白いこと面白いこと。
ニヤニヤ笑いながら一気読みしてしまいました。

実際の所、内容は確かにあらすじの通りの重い話なんですが、終始作品に漂うブラックユーモアが非常にセンスが良く、全く胸糞とか後味が悪いとかそういう気分にはならず、むしろ私の嫌いな人種がことごとく否定されるような台詞や展開の連続に非常にスッキリした気分で読めた作品でした。
この辺は作者と私の価値観や波長がよく合ったということでしょうかね。

何より良かったのは予想していた「娘が生きていた時の幸せだった生活」とか「少年法に守られて裁かれない犯罪者たち」みたいな読んでるだけで辛くなるようなシーンはなく、もう序盤から一気にカタルシスが沸く展開に転んでくれたのが嬉しかったですね。
(幼い娘が殺される経緯のシーンだけはやはり読んでて少し辛かったですが)

この作品のせいでもう「ウェルテル」って見るだけで笑えるようになってしまい、どうしてくれんだって感じです。
読みやすさも抜群でしたし、限りなく10点に近い9点です。
いやー、面白かった。

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告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
湊かなえ告白 についてのレビュー
No.163:
(3pt)

番外編というのは言い訳になっていない駄作

『密室殺人ゲームシリーズ』の第三弾ですが、率直に言って傑作だった前二作に泥を塗るような駄作という感想です

まずボリュームが前二作の半分程度なのは、番外編だから目をつぶるにしても、内容そのものが著しくクオリティが落ちているのは番外編というのは言い訳になっていません。
前作までは、むしろ長編のメイントリック、プロットにしてもいいぐらいの内容を惜しげもなく盛り込んでいたのに対し、今作はどれも「没ネタにしてもひどい」とい言いたくなるようなトリックやプロットばかりです。
大オチだけは及第点でしたが、やはり短編レベルかと。

正式なシリーズ三作目があるなら期待したい所ですが、今日に至るまで続編はないということは、残念ながらこのシリーズはもうネタ切れで、今作は出がらしにすぎなかったのかなと言わざるを得ないですね。

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密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社文庫)
歌野晶午密室殺人ゲーム・マニアックス についてのレビュー
No.162: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

交わされる四枚のカードと四つの殺意

「夢の島」「イクル君」「カネゴン」「りさぴょん」などのニックネームが出てきた途端、「なんだこいつら、『密室殺人ゲーム』でも始めるのか!?」と思いましたが、彼らは遊びじゃない真剣な人殺しの相談者達でした。
もはや通常の二人の間だけの交換殺人では足がつくとばかりに、トランプを用いて四人の間で行われる交換殺人という題材で、犯人各々の事情、思惑が絡み合う、言わば群像劇倒叙ミステリーと言える作品です。

四人の犯人と四件の殺人、これだけで事件の複雑化は必須ですが、まったく無駄のない構成で冗長にならず綺麗にまとまった話になっています。
綿密なロジックの元に導き出される結末はクイーン的なものを感じさせられました。

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キングを探せ (講談社文庫)
法月綸太郎キングを探せ についてのレビュー
No.161: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

ミステリというよりは青春群像劇?

学園祭最終日、一人の生徒が校舎の屋上から飛び降り自殺をした。
それから三ヶ月ほどが過ぎたある雪の日、8人の高校生たちはいつものように登校するが、学校に彼ら8人以外は生徒も教師も姿は見えず、さらに彼らは校舎の中から出られなくなってしまう。
明らかに現実の校舎とは異なるその中で、生徒たちは学園祭最終日のクラスメイトの自殺に再び向き合うことになると同時に、時間の経過とともに一人ずつ姿を消していく……
という、少しホラー調のミステリ。
校舎に閉じ込められるというSF的な設定は、媒体は違いますが楳図かずお氏の『漂流教室』ですとか『涼宮ハルヒシリーズ』の閉鎖空間的なものを連想しました。

クローズドサークルにも分類されるのでしょうが、誰かの「精神世界」という舞台のため、常識などは通じない「何でもアリ」の世界観であり、ロジックで犯人を導き出すような本格ミステリとは赴きが異なるでしょう。

デビュー作でありながら1000ページ越えの大作であり、校舎に閉じ込められた8人の高校生のキャラクターの内面描写が非常に丁寧です。
しかし、正直に言って登場人物は4~6人程度に減らすなどして、もう少しコンパクトにまとめるべきだったのではないかと思います。

また閉じ込められた生徒たちは県一番の進学校に例年以上の倍率を潜り抜けて合格した、それだけでも立派なもんな生徒たちであり、さらにそれに加えて、その中でも特待生だったり、容姿にも恵まれていたり、スポーツも出来たり、芸術面でも評価されていたり……などハイスペックな面々にも関わらず、揃いも揃って内面が卑屈だったり自虐的な人間ばかりであまり共感が沸きません。人物描写が薄っぺらとは言いませんが、偏っているなぁと思いました。
あと、ちょっと登場人物の自殺率(未遂含む)が高すぎだと思いました。

この作者の思想や人間観が合う人にとっては面白い作品だったと思いますが、個人的にはあまり合わなかったですね。

▼以下、ネタバレ感想
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冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)
辻村深月冷たい校舎の時は止まる についてのレビュー
No.160: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

剣と魔法の世界の本格ミステリ

中世ヨーロッパに近い世界観で、現実には存在しない魔法や種族などが登場するガチガチのファンタジー世界で起こった殺人の調査を行う本格ミステリ作品です。

「ファンタジー世界で本格ミステリ」という発想そのものはおそらくそこまで突飛で斬新なものではなく、多くの作家が「書いてみたい」と考えているシチュエーションだと思います。
しかし本格ミステリは現実及び先人の作品による捜査方法や事件解決にいたるまでのノウハウが構築されているからこそ、後世の作家は完成度の高い作品を書けるという実情があるため、ファンタジー世界では設定レベルでプロットを一からに近い形で練らなければいけないという点で実際に書いてみるのは非常に難しいでしょう。
よって大抵の作家は断念するか、書いても見向きもされない駄作となってしまう中、このような完成度の高いものを書き上げた作者の、構成力と発想力の高さが伺える作品だと思います。

戦争パートもそれ自体は緊迫感があって面白かったのですが、きわめてまっとうに本格ミステリしている作品なだけに、どちらか一方に集中した方が良かったのかな、と思わなくも無いです。

また、登場キャラクターが非常に多いですが、個性的なのであまり混乱することなく読めました。
続編も期待したい作品ですが、書くにしても思いっきり今作のネタバレになってしまいそうなのがネックですね。


▼以下、ネタバレ感想
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折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
米澤穂信折れた竜骨 についてのレビュー
No.159: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

序盤と終盤は面白かったが中盤が退屈すぎる……

・数十年前に断頭台に送られ処刑された毒殺魔「マリー・ドーブリー」の写真を見て語り手は驚愕する。彼女は彼の妻と同じ顔を持っていた……
・ある富豪が毒殺された夜。彼の部屋から謎のドレス姿の女の姿が現れ、壁に向かって幽霊のように消えた……
・事件の真相の追究のため、毒殺された死体の墓を夜中暴くと、完全に密閉された空間であるそこから死体が消えていた……

ホラーな謎がいきなり三連発で最初の100ページは「これは面白くなりそうだ」と期待したのですが、そこから約150ページはグダグダと話が進まない退屈な展開でくじけそうになりました。
再び面白くなったのは探偵役のゴーダン・クロスがようやく登場してからでしたね。

消えた女の姿のトリックも、消えた死体のトリックも正直今読むと物足りなかったです。
細かい部分はともかく両方「まぁこんな感じなんだろうな」と薄々見当がついてしまい、その通りだった感じです。

ただ終盤に入っての怒涛の展開と真相には驚かされました。

▼以下、ネタバレ感想
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火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-20)
ジョン・ディクスン・カー火刑法廷 についてのレビュー
No.158: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

SF定番のパターンを本格定番のパターンに組み込んだ斬新な作品

西澤氏のお得意の現実の物理法則から乖離した特殊設定ミステリです。

「同じ一日を何度も繰り返してしまう」「その中で何とか誰かの死の運命を変えようとする」という話は、SFではよく見ますが、それを本格ミステリに組み込んだのは非常に斬新で、また完成度の高い仕上がりになっていると思います。

背景は遺産と情欲、さらには過去の確執も絡み合った一族が骨肉の争いの果てに、必ず死人を出すという『犬神家』や『グリーン家』のようなやはり本格推理では定番の金だけはあるロクでもない一族の物語なのですが、基本的にユーモアミステリで、喧嘩する様子も傍から見る分には笑えるもので、家族連中は主人公を除きやはりみんなロクでもない性格なのに、どこか憎めない方々です。
主人公は頭が悪いという設定になっていますが、名探偵とは言えないまでも、十分賢い範疇だと思いましたけどね。

同じ日を8回(9回?)も繰り返すのは、最後の方は流石にやや冗長な印象もありましたが、展開の変化は富んでおり楽しく読めました。


▼以下、ネタバレ感想
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新装版 七回死んだ男 (講談社文庫)
西澤保彦七回死んだ男 についてのレビュー
No.157: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『そして誰もいなくなった』オマージュの究極系?

タイトルの通り『そして誰もいなくなった』のオマージュ的作品です。
舞台は孤島ではなくクルーザーになりますが、その名前が「インディアナ号」なのをはじめ、招待者が「宇野(UNO)氏」だったり、随所に『そして誰もいなくなった』のオマージュが溢れ、あの作品が好きな人ならそれだけでニヤリとさせられてしまいます。

展開もまるで元ネタをなぞるかのように一人ずついなくなっていき、テンポの良い展開で物語りは進み、それだけである意味面白いのは約束されているわけですが、あくまで元となる作品あっての面白さかなぁ、と思うところはありますね。
しかし当然結末は違った形が用意されています。

▼以下、ネタバレ感想
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そして誰かいなくなった (徳間文庫)
夏樹静子そして誰かいなくなった についてのレビュー
No.156: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

このシェルターに残れるのは二人までです

巨大海橋(明石海峡大橋がモデルか)を支える巨大なブロック内に造られた「バルブ」と呼ばれるシェルター。
有事の際のその中での生活を想定した、テストシミュレーションのような形で実際にバルブ内で一定期間を過ごすこととなった、プロジェクトメンバーの男女たち。
しかし、突如システムが「緊急事態」を警告し、彼らは本当にバルブ内から脱出不可能となってしまう。
そしてその完全密閉された空間の中で殺人事件が発生し、一人、また一人と殺されていく……

というタイトルどおり、典型的な『そして誰もいなくなった』的なクローズドサークルミステリーです。

さらにこの作品の特徴として、盲目の天才科学者の弟で、多忙を極める彼の替え玉を普段から務めている弟と、そんな彼の世話係のような関係の女性の、やはり替え玉のような形で参加した容姿の酷似した妹という、ともに正体を偽った二人の男女を主役として、彼らの一人称が交互に語られる形で物語が進行して行きます。

クローズドサークル定番の閉ざされた空間の中での連続殺人というシチュエーションだけで私は興奮してしまうのですが、タイトルの通りこのままこの二人だけになってしまうのか?その場合どんな結末が待っているのか?と、先と結末が気になる作品でした。




▼以下、ネタバレ感想
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そして二人だけになった Until Death Do Us Part (講談社文庫)
森博嗣そして二人だけになった についてのレビュー
No.155:
(5pt)

絶対こいつらと一緒には閉じ込められたくない!

「お前たちが殺した」
4人の男女が閉じ込めたシェルターに残された不穏な言葉。
彼らは3ヶ月前崖から転落し死体で見つかった女性と関わりを持つ若者たちで、事故死と判断された娘の死に疑いを持った彼女の母親によって薬で眠らされ、核シェルターに監禁されたのだった。
協力してシェルターからの脱出を試みる一方で、否応なしに3ヶ月前の事件に再び向き合わされることになった彼らは、互いに疑心暗鬼の中で「誰が殺したのか?」を再検討していく。

といった内容の少し変則的なクローズドサークル作品です。

コンパクトな分量で綺麗にまとまっているとは思いましたが、評価の高さから期待していたほどの面白さは感じられませんでした。

登場人物が殺された女も含め、好きになれない性格の人間ばかりで読んでいて嫌になります。
個人的に、クズやキチガイばかり出てくる話はむしろ面白くて好きなんですけど、この話の登場人物の場合、みんな悪人とまではいかないけど一番中途半端で嫌な気分にさせるネチっこく性格の悪いキャラで、延々と繰り返される「あんたがやったんだろ」→「自分じゃない」のやり取りだけで少しうんざりしてきました。

しかし結局この作品が私にとって一番好みでなかった点は、シェルターという脱出不可能な状況で起こる連続殺人、という典型的なクローズドサークルものを期待してしまったので、過去の一件の死の謎を再検討するだけで、シェルター内で新たな事件が起こるわけではないという構成に肩透かしを食らってしまったというのが大きいかもしれません。
そういうお約束が読みたければいくらでも他にあるだろ、なんですが、結局私はそういうお約束なミステリが好きなんですよね。



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そして扉が閉ざされた 新装版 (講談社文庫)
岡嶋二人そして扉が閉ざされた についてのレビュー
No.154: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

『そして誰もいなくなった』 と 『十角館の殺人』の間に

鉄道トラベルミステリー作家としての地位が固まる前の西村京太郎氏の名作。
クリスティの名作中の名作『そして誰もいなくなった』に挑んだ作品で、今日に至るまで同作のオマージュ作品は無数に存在していますが、それの草分け的存在として、本作もまた『十角館の殺人』などの多くの作品に影響を与えた作品であると思います。

『そして誰もいなくなった』の「孤島」と並ぶ、もう一つのクローズドサークルの大定番「雪の山荘」を舞台に、招待された客たちが一人、また一人と殺されていくまさに王道展開ですが、この作品の大きな特徴として、一番最初に「双子の入れ替わりがメイントリックとして使われている」と明かされていることがあります。
しかしそんな重要な部分が予め作者によってネタバレをされていても実際の犯人やトリックを見破るのは一筋縄ではいかない(むしろより混乱する?)巧みな構成となっています。
また、雪に閉ざされた山荘での連続殺人が起きているのと時を同じくして、東京の街でも奇妙な双子の強盗事件を警察が追うパートが同時進行し、一見無関係な二つの事件が物語の中でどう交差するのかという疑問も読者に投げかけられます。
(この「閉ざされ舞台」と「開かれた舞台」が平行してやがて交差する構成は後の『十角館の殺人』に受け継がれた手法と感じました)

まさに日本のクローズドサークルミステリの名作古典であると言ってよいと思いますが、ちょっと今読むと言葉遣いなどに古臭ささを感じて辛い所もありました。
あと『そして誰もいなくなった』の真相部分を完全にネタバレしてしまうのは、当時はまだそういう配慮があまりされなかったということでしょうかね。


▼以下、ネタバレ感想
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新装版 殺しの双曲線 (講談社文庫)
西村京太郎殺しの双曲線 についてのレビュー
No.153: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

狼が来る……

一年前のクリスマス。建物全体が完全な密室状態となった洋館「金雀荘」の中で6人の男女がまるで童話の「七匹の子ヤギ」を見立てるかのような他殺死体が見つかった。
さらにその6つの死体は、最初に殺した者を次の者が殺し、その者をまた次の者が……と順番に殺し合ったかのような痕跡が残るまさに怪事件であった。
その謎の解明のために犠牲者の従兄弟にあたる面々は事件の起こった金雀荘に集まるが、そこで今年また新たな事件が起こる……!?
という、複数の時系列で構成される、ホラー、サスペンス要素の強めの本格推理小説です。

トリックやロジックの一つ一つは既存の作品の流用・応用感があるのですが、作品全体の組み立てが非常によくできていると感じました。
過去の事件の検証段階はちょっと退屈な感じでしたが、徐々に現在進行形の脅威が迫ってくる流れになると緊迫感があって良かったです。
読み終えてから、また冒頭の序章を読み返すとその意味が理解できるという構成も洒落ていますね。


▼以下、ネタバレ感想
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金雀枝荘の殺人 (中公文庫)
今邑彩金雀枝荘の殺人 についてのレビュー
No.152: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

これぞまさに「乱歩ワールド」

江戸川乱歩の長編でも最高傑作と名高い評価を得ており、実際彼が最もやりたい放題やった、まさに乱歩の魅力がぎっしり詰まった一作だと思います。
ストーリーは大まかに二部構成になっており、前半は密室殺人と衆人環視の元の殺人という二つの不可能犯罪から大胆なトリックと意外な犯人が導き出される本格推理で、後半はその事件の裏に潜む黒幕との対決のために財宝の眠る島に向かうという冒険小説のような構成となっており、全体を通した流れを見ると荒唐無稽なのに加え、かなりあっちへ行ったりこっちへ行ったりの支離滅裂なストーリーなのですが、物語の面白さゆえにそれも魅力だと割り切れてしまえます。

全編を通して奇形やら同性愛やらタブー視されそうな題材の目白押しで、そりゃ戦中は検閲にひっかかるし、今は今でこんな話絶対無理だなぁという内容で、おそらく乱歩御大はこの時が一番作家として幸せだったんでしょうね。
物語後半の奇形人間がたくさん住んでいる島で、同性愛者の友人といろんな意味でハラハラドキドキの冒険宝探しという、少年の心を持った大人の読み物といった内容は、絶対に子供には見せられないような小説を書く一方で、後に児童文学でも日本を代表する作家となった江戸川乱歩という作家をまさに象徴している作品であると感じました。


孤島の鬼 (創元推理文庫)
江戸川乱歩孤島の鬼 についてのレビュー
No.151:
(7pt)

ポワロもヘイスティングスもクリスティも若い!

エルキュール・ポワロシリーズの第二作目です。
よく言われますがタイトルがセンスないですね。死体がゴルフ場にあったというだけで、作品の真相も特徴もゴルフ場やゴルフにはほとんど関係がなく、原題にしろ邦題にしろもうちょっとなんとかならなかったのでしょうか。

初期の作品ということもあり、特に目新しさや派手さはない小ぢんまりした話であろうと予想していたのですが、二転三転する真相に驚かされ、百年近く前に発表された作品ながら良い意味で予想を裏切られました。

ポワロの「這いつくばって足跡やら細かい証拠を探すのは犬のすること(意訳)」という偉大な先輩探偵をこき下ろすかのような挑発的な言動が面白かったです。そしてまさにその地面を這って細かい証拠を探す捜査方法を取る、ポワロのライバル的存在となるジロー刑事(日本人ではない)が登場しますが、読者目線ではもう最初から猟犬ならぬかませ犬にしか見えず、何も魅力を感じない正直失敗キャラでした。
そしてそんな男に対してポワロがそれなりに不機嫌になって対抗意識を燃やしたり、事件の解決に金を賭けたりするので、なまじ結果が見えているだけに逆にポワロの方も人間が小さく見えてしまうのが残念です。
二作目ということでまだポワロのキャラがあまり固まっていないのか、いい年して割と血気盛んさが目立つポワロは後のシリーズの、尊大さや皮肉屋な面はあるものの基本的に寛大な紳士という彼のイメージとは微妙に違うように感じました。

アンチホームズ的な発言が出た一方で、ホームズシリーズの二作目の『四人の署名』と同じくシリーズ二作目が、ワトソン役のヘイスティングスのラブロマンス作品でもあることは、一種のホームズリスペクトなのかな?と思いました。

しかしヘイスティングスはそれこそ十代の少年かという見境のなさで、気になる女のためなら部外者を勝手に現場に連れ込んで証拠品紛失のきっかけを作るわ、挙句の果てには彼女のために故意にポワロの邪魔までするわ大暴れです(笑)
無能どころか探偵の脚を引っ張る、ある意味二作目にしてワトソンを超えた男になっていますね。

当時の既存のミステリーに挑戦するかのような、他人に書けない作品を書こうというエネルギーを感じる反面、ただやはり後の作品に比べれば、まだ作りなれていない感もあり、この時はクリスティ女史自身も良くも悪くも若かったんだなと感じました。




▼以下、ネタバレ感想
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ゴルフ場殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティゴルフ場殺人事件 についてのレビュー
No.150: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

エンターテイメントとしては傑作、ミステリとしては駄作の評価が難しい作品

「人を殺して喰らう」という噂がある巨大な楠の生える豪邸にて起きた怪死事件に御手洗が挑むという、横溝御大っぽいタイトルの通りオカルトホラーテイストが漂う『御手洗潔シリーズ』第五弾。
このシリーズはまず五作目まで全てカラーの異なる作品というのが凄いですね。

現在進行形の連続殺人事件と平行して戦前から残る人食い楠にまつわる怪死事件の謎に挑み、殺人事件だけでなく暗号解読や、はたまた飛行機に乗って舞台を海外のスコットランドに移すなど、非常にもりだくさんな内容で、分量がかなりありながら中だるみ一切なしの大作です。

真相を解明すればそれで良しとはしない、御手洗の単に変人なだけではない人間的な器の大きさが感じられることや、ヒロインのエレナの魅力などもあり(最初はあまり印象が良くないですが、徐々に奥ゆかしさや健気さが感じられるのがいいですね)
単純に「娯楽作品」としてのストーリーの面白さなら、ホラーテイストに加えてこれまでの同シリーズのいい所取りをしたような作品で、『占星術殺人事件』よりずっと面白いと言ってしまってもいいと思いました。
ただ、トリックの出来ですとか真相のロジックについては粗や不満点が多く、推理小説としては今までの同シリーズで一番出来が悪いと感じました。


▼以下、ネタバレ感想
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暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)
島田荘司暗闇坂の人喰いの木 についてのレビュー
No.149: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

オーソドックスで安心して読める作品

良くも悪くも王道な推理小説だと思いました。
特別目新しい要素はないものの、一つ一つがまさに方程式のように綺麗にまとまった、傑作ではないけど良作という作品という感想です。
トリックの解明には比喩ではなく題名どおり「方程式」が用いられますが特別な専門知識がいるといった内容ではありません。

血に弱い刑事の叶と、まるで少女のように天真爛漫な彼の妻・深雪の明日香井夫妻のキャラは、どこか『三毛猫ホームズシリーズ』の片山兄妹を思い起こさせました。
探偵役となるのはその叶の双子の兄の響で、犯人側ではなく探偵側が双子の入れ替わりトリック(?)を使うというのが面白く、綾辻氏の作品の中では珍しくユーモアミステリ要素も含まれているかなと感じました。

読みやすさも抜群なので、初心者におすすめだと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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殺人方程式 〈切断された死体の問題〉
綾辻行人殺人方程式 についてのレビュー
No.148: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

所謂「本格」とは少し趣きが異なるも、文句なしに面白かったです

とある遊郭で、戦前・戦中・戦後の三つの時代にそれぞれ三度、延べ九度にも渡り発生した連続身投げ事件。
それは遊郭に人知れず潜むという「遊女」ならぬ「幽女」の仕業なのか……
女の苦界、遊郭という異色の場を舞台とした壮大なホラーミステリー。

物語は13歳(当時は数えですので、現在で言えば11,2歳でしょうか)で遊郭に売られた少女を中心に、戦前は彼女の視点、戦中は遊郭の女将の視点、戦後は事件の謎を追う作家の視点でそれぞれ当時発生した身投げ事件に向き合いながら物語が進んでいき、最終章が探偵による謎解きとなる四部構成の大作です。
奉公人の少年を中心に描かれていた同シリーズの『首無しの如き祟るもの』の遊女の少女版のような作品、という捉え方も出来るかもしれません。

序章は身売りした少女の日記による独白という形で、遊郭での生活が描かれるのですが、100ページ以上進んでも最初の事件も起こらないどころか、ミステリの雰囲気すらなく「あれ?自分なんの小説読んでるんだっけ……」とすら思えてきます。
しかし決して退屈というわけではなく、遊女の生活と心情がリアルに描かれた物語に、生々しくも大変惹かれ、読み進める手が止まりません。
章が進むと前述したとおり、時代も物語の語り手も換わっていくのですが、終始ストーリーの魅力は衰えず、長大ながら一気に読み終えてしまえる面白さでした。

扱っているものの題材が題材のため、必然的にエログロ描写も含まれ、人によっては苦手なシーンなどもあるかもしれませんが、非常に完成度が高い小説だと感じました。
ただし、それは物語そのものの評価で、推理小説として期待すると物足りなさや不満はやや生じるかもしれません。



▼以下、ネタバレ感想
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幽女の如き怨むもの (講談社文庫)
三津田信三幽女の如き怨むもの についてのレビュー