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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数347件
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自動車で旅行中、山火事に巻き込まれ下山不可能となったクイーン親子は、山頂付近の大きな山荘へと身を寄せる。
しかしその山荘に集まった人々の中で殺人事件が発生し、他に鑑識も指紋係も一切いない中、クイーン親子は二人だけの事件捜査を余儀なくされることとなった。 そしてその間も山火事は鎮火するどころか強まり続ける一方で、火の手は徐々に山荘へと迫ってくるのだった…… そんなクイーン作品の中では珍しいクローズドサークル作品です。 国内ミステリでクローズドサークル作品の定番シリーズである『学生アリスシリーズ』の第一作目である『月光ゲーム』でも今作が紹介されています。 山で自然災害に巻き込まれたことで下山できなくなった上に、その状況下で殺人が起こり、連続殺人と自然災害の二重の脅威にさらされる。そしてやがて殺人犯人まで運命共同体となり、推理と平行してサバイバル展開が描かれるというプロットは、この作品をオマージュとして『月光ゲーム』が書かれたと考えていいでしょう(ちなみにクローズドサークルという言葉自体を日本で定着させたのがこの『月光ゲーム』であるという説もありますね) 外部からは入れない、外部へは出られない。 限定された空間と人物のみで構成された舞台で殺人事件が発生する”クローズドサークル”というジャンルのミステリーの代表的作品は、何といってもクリスティの『そして誰もいなくなった』 そして、しばしば世界初のクローズドサークルミステリとして扱われるのが同じくクリスティの『オリエント急行殺人事件』ですが、実際はこの作品の方が一年早く発表されており、おそらく世界初のクローズドサークルミステリ作品と言えるでしょう。 (探せばこれより先にもある可能性は否定できません。また、ミステリの定義次第ではそれこそギリシャ神話にある、ミノタウロスの迷宮の話などもクローズドサークルミステリと言えなくもないですね) ではなぜこの作品はクリスティのその二作ほどの地位を得られなかったのかと考えると、身も蓋もないことを言えばその二作があまりにも名作すぎたからなのですが、他にも理由を考えてみますと、まず、シャム双生児という奇形を題材に扱ったことが一般向けではなかったというのがあると思います。 (もっともこの作品は決してシャム双生児という異形の怪異や悲劇性を押し出している話ではないのですが) また、作者のクイーンの考えるこの作品の特異性は、あくまで外部からの科学捜査の介入の一切の排除であったようで、この作品は後のクローズドサークル作品では定番となる、殺人犯と一緒の空間に閉じ込められている恐怖や危機感というものが殆ど描写されません。 殺人犯以上に山火事の方が脅威だからという理由もありますが、この点においてはせっかくのクローズドサークルの魅力を、草分け的存在の作品ゆえに作者も理解できていなかったのかもしれません。 単純に作品の出来としてはクリスティの二作や、同作者によってこれの前年発表された名作4作などには及ばないとは思いますが、他の作品にはない物理的な危機に追い詰められるクイーン親子という展開が緊迫感があり面白かったことと、クローズドサークルファンとしては、世界初のクローズドサークル本格ミステリ作品に敬意を評したいということで、贔屓目の点をつけちゃいます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイトルのとおり将棋が題材のミステリです。正確には”詰め”将棋です。
前作の『囲碁殺人事件』は正直ミステリとしても単純にストーリー部分だけ見ても大して出来がいいとも面白いとも思えませんでしたが、それでも”囲碁”という変わった題材を使った独創性は評価できる作品でした。 それに対してこちらは、元々”将棋”を題材にしたミステリは他にも多数存在し、そこまで独創的でないことに加え、前作と違い将棋を絡めた必然性からしてよくわかりませんでした。 将棋よりも二体の遺体が埋められた都市伝説の追求の方が謎のメインに添えられており、テーマがブレブレに感じましたし、それに加えそもそもなぜ主人公たちが必死に都市伝説の謎を追うのかが理解できず、全くストーリーに入り込めませんでした。 また、相変わらず主人公の天才だけれど無邪気な可愛い少年という記号的なキャラ付けが不自然で、前作以上にハナにつきました。 真相も納得いかないもので、正直読むだけ時間の無駄だったと感じた作品です。それほど長くなかったのだけが救いです。 将棋のうんちく部分だけは将棋好きなので少しだけ面白かったですが、それは将棋自体の魅力であり、別にこの作品や作者の魅力というわけではないですね。 |
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・本格ミステリ大賞(第5回 (2005)小説部門 大賞)
・週刊文春ミステリーベスト10 2004年版(2位) ・本格ミステリベスト10 2005年版(1位) ・このミステリーがすごい! ベスト10 2005年版(1位) という堂々たる受賞暦を持ちながら、どうもみなさんの評価は芳しくない模様なこの作品。 かくいう自分もあまり面白いと思えなかった口です。 元来このシリーズは比較的短めでテンポ良く話が進む作品が多いだけに、シリーズ10作目に当たる500ページ超のこの作品はさぞスケールが大きく盛りだくさんな大作だろうと嫌でも期待してしまったのですが、実際にメインの首斬り殺人が起こるまでが長く、その後第二の殺人が起こるわけでもなく、間延び感がありました。 それにも関わらず、人物描写も特に丁寧とも思えず、ラストはカタルシスもなくあっさり終わってしまい、総じて見ると小粒な事件という印象です。 読み返せば序盤から沢山伏線が張られていたことが判るようですが、正直わざわざもう一度読み返す気がおきません。 300ページくらいにコンパクトにまとまっていればまた評価も違った気がするのですが。 文庫版のあとがきの対談で貴志裕介氏がその出来の良さを解説してくれているように、本格ミステリのプロットとしてはよく出来た作品なのかもしれませんが、単純に話としてあまり面白くないのが我々一般読者に評価されない要因でしょうか。 あるいはなまじ賞などを取っているからこそ「期待はずれ」と辛い評価を貰うことになってしまうのかもしれませんね。 あと『なめくじに聞いてみろ』とかけた結果なのでしょうが、タイトルや表紙がおどろおどろしい割には内容に合っていないのも読者の期待を裏切ってしまったかもしれません。 最初からもうちょっと芸術性や論理性を前面に押し出したタイトルであれば誤解も生じなかったのではないでしょうか。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイトルから最初は江戸時代あたりが舞台のホラー作品なのか?などと想像してしまいましたが、現代日本を舞台にした、シュールな中にどこかリアルさを感じさせるホラー短編集です。
作中で明確に主人公に悪意を向けたり危害を加えてくる人物はいないのですが、どこか胡散臭くて、本当に身を任せても大丈夫なのだろうかと思ってしまう病院の不気味さは、現代日本に住む人間なら誰もが多かれ少なかれ共感できるのではないでしょうか。 独特の世界観や、読みやすさは抜群な点は評価できますが、全体的にただわけがわからないだけで、正直全然怖いと思いませんでした。 ホラーに論理的な理屈や答えは求めませんが、オチぐらいはちゃんとつけてほしいです。 (それゆえこの本の中でもしっかりオチがついてた『開けるな』は面白いと思いました) 綾辻氏は「推理作家」としては国内では私の中で一番と言っていい作家なのだけれど「ホラー作家」として見るとどうも相性が良くないようです。(『Another』は好きですけど) さらに言えば、私のような本格ミステリに趣向が偏りがちな人間は、何もかもに理屈や説明を求めすぎてホラーというジャンルそのものと相性が悪くなってしまうのかもしれませんね。(ホラーテイストな本格ミステリは大好物なのですが) |
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『学生アリスシリーズ』では現在唯一となる短編集作品。
長編では毎回旅先で連続殺人事件に巻き込まれる、クローズドサークルがお約束のシリーズですが、短編集の今回は江神部長やアリスらEMCのメンバーによる日常の謎の解決などが中心となっているほか、他愛ないミステリ談義や大学生らしい日常が描かれています。 しかし一部の話では短編とはいえガッツリ殺人事件を扱っていたり、はたまた誘拐事件や、メンバーの執筆したミステリに挑む作中作などもある、バラエティに富んだ内容です。 作中の時系列的には アリスの入学・入部~月光ゲームの後~マリアの入部。 というアリス入学の最初の約一年のEMCを書いている形式で、作者の実質的なデビュー作である『やけた線路の上の死体』から、書き下ろし作品『除夜を歩く』までが収録され、実に二十七年という歳月をかけて完成した短編集ですが、その辺の違和感は特になく読めます。 (作中でも触れられている、江神さんが二十七歳、クイーンが名作を四連発した年齢も二十七歳というのはただの偶然でしょうか?狙ったのでしょうか) 『学生アリスシリーズ』のファンなら必読と言える一冊ですが、シリーズを未読の人はまず長編の方を読んでキャラに愛着を持ってから読んで欲しいかなと感じる作品です。 以下個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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安楽椅子探偵ものの古典の名作短編集。
表題作の何気ない短い文章から推理(推測?)が進み、展開していくストーリーは印象深かったのですが 正直どの話もニッキイの理屈がイマイチ納得できないものばかりに感じ、あまり面白いと思えませんでした。 シャーロック・ホームズの人物観察からの推理がこじつけとしか思えないのに近いものを感じます。 それ抜きにしても短編でありながら読みづらく、正直表題作以外はどんな話だったか殆ど印象に残りませんでした。 なので個別感想は書けないです。 |
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物語の時系列、ナンバリング上は『病院坂の首括りの木』が金田一耕助最後の事件とされていますが、実際に執筆、発表がされたのはこの作品が金田一耕助シリーズ最後の作品にして、横溝作品の長編としても最後となる、実質的な”遺作”とも言える作品です。
物語の舞台、雰囲気は『獄門島』。展開、仕掛けは『八つ墓村』を髣髴させる部分が多く、まさにシリーズの集大成感があります。 しかし正直前半部分があまりに冗長です。 『獄門島』や『八つ墓村』などのシリーズ初期の大人気作は、読者を飽きさせない無駄のない構成、テンポの良さも名作たる理由の一つだったと思うのですが、今作は内容そのものがそれらの作品より決して濃いわけでもないのに、不要に引き伸ばされ、結果薄められているような印象でした。 後半になるとテンポがよくなり、緊迫感のある展開の連続でストーリーとしては面白かったですが、今度は本格ミステリとしてはかなりお粗末かつ物足りない真相、結末でした。 横溝氏はこの作品完成当時すでに78歳という高齢。そしてその翌年にはお亡くなりになられているという事実を踏まえると、これほどの長編を執筆したこと自体が驚異的であり、賞賛に値するのですが、あくまで作品としての評価はオマケしてこの点数ですかね。 とはいえリアルタイムで横溝作品を追いかけてきたファンにとっては、約10年の休筆の後に、このような往年の名作を彷彿とさせる作品を読めたのは、それだけで感無量の、横溝氏が亡くなってから生まれた自分のような読者には理解できない思いがあったのだろうなと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『名探偵信濃譲二シリーズ』の二作目。
トリックが超見え見えだった前作『長い家の殺人』に比べれば、ミステリ作品としての完成度は上がったかもしれませんが、人物やストーリーはまだ前作の方が見るものがあったかなぁという印象です。 ”雪の山荘もの”であり奇妙な建物を扱った”館もの”でもあるという、ベタだけれどそれだけで魅力的な題材を扱っている作品なのですが、クローズドサークルというわけでもなく、せっかくのそのシチュエーションゆえの魅力が全く感じられない作品でした。 トリックは正直つまらないですし、探偵役を賢く見せるためなのか、登場人物がみんな大人とは思えない幼稚な言動なのが不愉快でした。 作者の歌野氏は私の好きな作家の一人なのですが、正直このシリーズに関しては初期の作品のためかお世辞にも出来が良いとは言えず、かといって若さゆえのパワーとか、光るものも特に感じられないです。 何よりこのシリーズだけの「売り」というものが特になく、正直あんま褒めるところがないシリーズですね…… ▼以下、ネタバレ感想 |
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いかにもな雰囲気の舞台、猟奇的な連続見立て殺人、奇抜すぎるトリック、名探偵二人の推理対決、どんでん返し、過去の名作のオマージュやパロディ……
あとがきの解説でも言われていましたが、まさに本格ミステリの読者が望む、面白くなる要素を全部詰め込んだような作品です。 読者を意識してと言うよりは、作者自身が自分の好きな要素を全部詰め込んで書いてみたデビュー作でしょうか? 若干21歳の時に発表された作品だと読み終えた後に知り衝撃を受けました。 いろんな意味でぶっ飛んでおり、賛否両論は必至の作品だと思いますが、自分はツボにはまったので大変面白かったです。 三大奇書の一つ、『黒死館殺人事件』のパロディ的な面が強い作品ですが、あっちと違って非常に読みやすくていいですね(笑) また海外の某有名シリーズのオマージュが事件に深く関わり、それを知っているか否かで面白さが段違いになってしまうため、実際に全部読みはしないまでも基本情報ぐらいは頭に入れた状態で読むことをおススメしたいのですが、シリーズの具体名を挙げてしまうとそれ自体が重大なネタバレになってしまいもどかしいです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ第五弾。
最初に読んだのがノベルス版だったので読み終わった後に知ったのですが、前作の『鉄鼠の檻』よりさらにブ厚い、シリーズ最長作品とのこと。 (次作の『塗仏の宴』を二作セットで考えればそちらがさらに長いですが) 真相部分に二作目の『魍魎の匣』に関する内容が含まれているため、ネタバレとまではいかないですが、先にそちらを読むべきでしょう。 前作の『鉄鼠の檻』の舞台が山寺という男の世界を描いていたのの対となっているのかはわかりませんが、今回の舞台はミッション系の女学園や代々女系の一族の屋敷といった華のある舞台です。しかし綺麗な華には棘が……というのもお約束です。 相変わらずこのシリーズはキャラクターが抜群に魅力的です。 今作のメインゲストキャラは女性中心ですが、いずれも「強い」女たちで、対する男性ゲストキャラは全体的に矮小な印象で押されぎみです。 しかし、そんな強い女たちに対しても、レギュラーキャラの京極堂、榎木津、木場はやはり別格の存在感ですね。(この三人は各々別ベクトルで無敵感があります) 特に自分は榎木津が大好きです。もう1000ページぐらい彼がひたすら暴れるだけの話でもいいと思うぐらい。 木場は前作までは正直粗暴すぎる印象であまり好きではなかったんですが、今作で好感度が上がりました。まさに作中で三女の葵が当初は木場の粗野な態度に眉をひそめたけれど、ただ男というだけで威張りたがるような連中とは違う、彼の公平で気取らない態度を見直したのに近い感想です。(まさに正しい意味で「男らしい」んですね木場は) 今作は、ジェンダー論的なテーマとキリスト教関連の薀蓄が特徴ですが、個人的には「男性の女性らしさに憧れる気持ちと、それを否定される苦悩」に触れていた部分が印象的でした。結局人間誰しも男性的な部分と女性的な部分があるわけで、女性を蔑視、軽視することは生物学上の女性だけではなく、男性の中の女性性も否定される問題であるのではないかと考えさせられました。(「女々しい」という言葉は女性を蔑視する言葉であると同時に、実際には男性を攻撃するために使われる言葉だな、などともふと思いました) ミステリ部分に関しては、真犯人をロジックで導くのは不可能に近いですし、犯行方法も現実的とは思えずあまり評価できないのですが、そもそも前作を読み終えた時点でも感じていたことですが、このシリーズは所謂「本格」の括りで考えて読むものではないというのを改めて思いました。(三作目の『狂骨の夢』あたりは紛れもなく本格だと思いますが) この世界観やキャラクター、溢れる薀蓄会話などを楽しむ、もはや独立した「こういうジャンル」なのがこの『百鬼夜行シリーズ』ですね。 余談ですがこの作品をモチーフにした『桜花の理』という曲を『陰陽座』という和風へヴィメタルバンドが発表しており、楽曲のレベルも高く、この作品を知っている人ならニヤリと出来る歌詞なので興味がある方は聞いてみてください。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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雪深い山奥の古城を舞台に発生する連続殺人事件を扱った作品ですが、作中の年代が18世紀というのが特徴的です。
当然科学捜査はおろか、まともな警察組織が成立していないので、城から全く出入りできない所謂クローズドサークル作品ではないのですが、それに近いような素人探偵による単独調査によって事件の真相を追うような形式となります。 またそのような時代背景なので、なかなか真相にたどり着かない探偵に業を煮やした城内の権力者が、平気で魔女裁判のようなことも行ってしまうといった展開も特殊でした。 そのように、題材としては面白いものだったと思うのですが、ミステリの内容としてはお世辞にも出来がいいとは言えず、文章や人物にも魅力を感じませんでした。 キャラクターがみな記号的で(”盲目の少女”とか設定を付けたはいいけれど、何一つ活かせていないし必然性もない)、この表現はあまり好きじゃないのですが典型的な「人物が書けていない」作品と言う感想です。 探偵役とワトソン役が無駄に反目しあったりするのもなんだか見ていてイライラしました。 |
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ドイツの古城を舞台にしたクローズドサークル作品。
古城ならではの雰囲気や仕掛けが存分に活かされておりエンターテイメント性の高い一冊です。 シリーズの中でもスケールの大きい舞台のためか、映画の『ドラえもん』とか『クレヨンしんちゃん』に通じるような豪華さを感じます。 活発ながら捕らわれのヒロイン役もつとめる晴美、剣や斧を手にして中世の騎士さながら大暴れの石津、頼りないながら〆る所は〆る片山、おなじみのキャラクター達の個性も特に際立つ作品でした。 古城に閉じ込められ、血塗られた連続殺人が起こるというそれだけなら陰惨なストーリーも、赤川氏の手にかかれば相変わらず全編通してユーモアに溢れた明るい作風で安心して読めますし、小中学生にもおすすめですね。 (食事を用意していた使用人が殺された直後、大食漢の石津が「食事はどうなるんでしょう……」と心配するなどはもはやブラックジョーク寸前ですが) このシリーズで最高傑作と言えば間違いなく一作目の『推理』なんでしょうけど、単純に面白いかどうかで言えば個人的にはこれが一番で、小学生の頃何度か読み返した一冊です。(このたびは20年ぶりぐらいに再読しました) 昔から私はクローズドサークルが好きだったんだと改めて感じましたね。 |
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美貌の双子姉妹を主に持つ、ライン川渓谷にたたずむ古城”双月城”を舞台に繰り広げられる、人間の手には不可能と思われる奇怪な連続殺人と、第一次世界大戦時にはフランスとドイツに分かれ軍人として火花を散らした好敵手である二人の探偵による推理対決を描いた本格推理作品。
国内作家の作品ながら1930年代のドイツが舞台で、登場人物もみなヨーロッパ人。 文章も、意図的かはわかりませんが全体的に翻訳物のような固さと淡白さがあり、ジョン・ディクスン・カーの翻訳作品だと言われたら信じてしまいそうになる一作です。 個性的な建物、怪奇趣味、密室、首なし死体、連続見立て殺人、双子入れ替わり、アリバイ崩し、推理対決…… 本格における”美味しい”題材のフルコースのような作品で「こういうの好きなんだろ?」と言わんばかりのあざとすぎる作品でしたが、悔しいですがこういうの大好きです。 しかし決して私のような読者をシチュエーションで釣るだけのB級作品ではなく、終始魅力あるストーリーと高い完成度を感じた、「本格ミステリ」の良作だと思います。 一つ一つにはそこまで目新しさを感じないものの、作中通して数えると二桁に上るのではないかというほどの多彩なトリックが用いられるのも、トリック好きには嬉しいポイントです。 とりあえず「こういうのが好き」という方には読んで損をさせない一冊だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ジョン・ディクスン・カー氏の代表作の一つです。
私が今日まで読んでいる同氏の作品の中ではこれが最高傑作だと思います。 ただし、彼「らしさ」はない作品ですね。 長編作品としては比較的コンパクトな分量で、話の筋もシンプルで無駄がなく非常に読みやすく、判りやすい作品なので初心者にもおススメです。 クリスティ女史が「このトリックには私も脱帽した」と絶賛したことで有名な作品ですが、彼女自身も以前に似たようなプロット、トリックの作品を発表しているにも関わらずそう発言しているのは、発想そのものを評価したのではなく、その料理の上手さに感心したのでしょうね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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売れない物書きで、明日も知れない貧乏生活の傍ら、空想の中に自分の理想郷を描く日々を送る主人公の男。
彼はある日、自分に瓜二つの大金持ちの知り合いの死を知り、彼に成り代わる計画を立て、それを実行する。 莫大な資力を手に入れることになった彼は、自分の夢に描いていた光景を現実のものとするため、とある小島に理想郷の建設を始める…… 形式としては一応倒叙ミステリに分類されるのでしょうが、物語の本質はあまりミステリ寄りではないかもしれません。 この物語を楽しめるかどうかは、日々現実逃避とも言える己だけの空想にふけりながら、それをとうとう実現させた主人公にどれだけ感情移入できるか。 そして、文章によって情景が描かれる、パノラマ島の光景をいかに自分の中に描けるかだと思います。 どちらをとっても、読者各々の想像力が問われていると言える作品なのではないでしょうか。 しかし作品発表当時はともかく、それから100年近くが経った現在。 ディズニーランドやUSJなどの大規模テーマパークを現実に目にしてしまっている現代人の我々にとって、いくら想像力と芸術センスのある男が金に物を言わせて作った理想郷といっても、所詮個人が作った人工物であるパノラマ島の光景を、仮に100%脳内に思い描けたところで感動を覚えることは難しいのではないかと感じてしまいます。 あるいはここで想像すべきなのは、作中のパノラマ島の光景よりも、主人公を自分の立場に置き換えた時、どのような自分の空想の中の理想郷を作成し、隣にいる魅力的な異性にそれを見せるだろうかということかもしれません。 低評価になったのは自身の想像力の乏しさのせいもありますが、それ以上に終盤の主人公の行動への反感からになります。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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自分の中で史上最高の推理小説はこのサイトでも総合1位のクリスティの『そして誰もいなくなった』なのですが、それに対し史上”最大”の推理小説と言いたいのがこのサイトで総合2位のこの作品です。
もちろん大長編という意味ではなく、そのストーリーとミステリーとトリックの壮大さという意味での”最大”です。 こんなことを考えつく作者の想像(創造)力がまさに宇宙スケールだと感じました。 自分は本来SFというジャンルをミステリの枠に含めるのにはどうしても抵抗がある人間なのですが、この作品に関しては紛れもなくSFを題材とした本格ミステリです。 あるいはこの偉大すぎる作品のせいで、一部でSFがミステリと混同されてしまっている面もあるのかもしれないと思いました。 小説の体裁、構成としては賛否もあるようで、事実私も一部読んでいて退屈な場面はありましたが、自分の中で10点をつけたくなる作品とは粗や欠点のない「完璧」な作品ではなく、もはや点数化できないほどの驚きや感動を与えてくれた作品なのだなと改めて感じさせられた一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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クリスティの『ABC殺人事件』、クイーンの『九尾の猫』などに代表されるミッシングリンクものの有名作の一つ。
当時は古き良き本格推理小説が戻ってきたような扱いで話題になったようですが、もう現在ではこれも古典の一つとなるでしょうか? 雪深いとある街を舞台に、下は8歳子供、上は老人まで、一見事故と思われていた死が、豚を意味する「HOG」を名乗る殺人犯の手によるものと、犯人自身より送られてきた手紙で判明する。 果たして犯人の正体と被害者を繋ぐものとは?殺人動機は?そして「HOG」とは何を意味するのか……? 真相は面白かったし、「HOG」の意味もなるほどと思いましたが、例にあげたクリスティやクイーンの有名作に比べると正直途中経過が退屈に感じた作品で、真相部分しか残らなかった感想です。 雪に閉ざされたそう広くない街で子供から老人まで無差別に殺害していく殺人鬼の恐怖みたいなのがもう少し煽られてもいいんじゃないかと思いましたね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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主人公は和製『ブラウン神父』とも言うべき、職業はカメラマンの素人探偵、亜愛一郎(「亜」が苗字。学生時代間違いなく出席番号一番だったでしょう)
そんな彼のユニークなキャラクターをはじめ、事件の様子がコミカルに描かれるユーモアミステリーとも言える短編集ですが、内容はれっきとした殺人事件を、トリックを解明したりフーダニットを突き詰め解決していく本格推理小説です。 また一話あたりいずれも40~50ページ程度と殺人事件を取り扱うには短編にしても短めですが、いずれも良質な出来で、さらに話のバリエーションも豊富でこれ一作でちょっとした本格推理の教科書のようです。 短い時間で一話ずつ読めるので、まとまった時間が取れない方にもお勧めですね。 しかし基本的に短編の域を出ておらず、特別感心したり面白いと言うほどのネタはありませんでした。 少し古臭さを感じる部分も多く、現代のミステリ好きが読むと少し物足りないと思うところもあるかもしれません。 一冊通して残った謎 ・顔が三角形の老婆は結局何者なのか……(てっきり最後の事件で何かオチがあるのかと思った) ・亜は結局ドジなだけで運動神経は抜群なんでしょうか? ▼以下、ネタバレ感想 |
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