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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数34件
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1929年発表のまさに古典。
私は戦前の海外古典を読む際は、今読んだら目新しさはないのはもちろん、読みにくくてつまらないのを覚悟して読むのですが (なんでつまらないと思っているものを読むのかと言われれば、ミステリファンを名乗る上での義務感や現代のオマージュ作品の元ネタを知っておくためというのが正直なところです) この作品はとても読みやすかったですし、長編にしてはページ数が少ないながらも非常に密度が濃く、無駄のないテンポの良さに終始楽しんで読むことが出来ました。 複数人の素人探偵による推理対決、アンチミステリというジャンルの草分け的な存在の作品であり、後世の作品への影響力もさることながら、この作品の中においても、惜しげもなく何通りもの推理回答が次々と提示されるのには見事だと思いました。 個々の推理自体は現在のミステリファンならばわりと容易に予想できる範疇ではありますし、細かい部分ではロジックが甘いと感じる部分も多いですが、そういう点はむしろ、ミステリ初心者や、昨今の複雑化しすぎ、奇を衒いすぎな推理小説に疲れた読者にもおススメできる一冊なのではないかと思いました。 総合的に見て、間違いなく傑作です。 今でも十分有名作ですけど、個人的にはまだ過小評価されてるんじゃないかと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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クリスティ作品では(おそらく)最長となる作品。
しかしメインプロットそのものはそこまでボリュームがある大作というわけではなく、他のクリスティ作品と変わらないと思います。 この作品の特徴は他のクリスティの作品は、良くも悪くも純粋な本格推理小説の色が濃く、余計な要素は極力排している印象が強いのですが、今作は登場人物の描写が入念でドラマ性に重視が置かれているという点で女史の作品の中では異色感がありました。 また、舞台がタイトルの通りエジプトのナイル川の遊覧船ということで、作者自身がエジプトを訪れた際の感動がペンに乗っており、エジプトの魅力や雰囲気を存分に感じ取ることが出来る一作となっています。 なので第一の殺人が発生するまでもかなりページ数を要し、その点はクリスティ作品の、すぐに殺人が起こって、そのままひたすら推理パートが進んでいく正統派ストロングスタイル(?)の本格推理小説が好きな人は少し焦れるかもしれません。 かくいう私も基本はそういうタイプなのですが、この作品に関しては被害者をとりまく人間ドラマに非常に惹きつけられたため、退屈はしませんでした。 この作品ももう80年以上前に描かれた、古典の有名作となっていますが、エジプトの4500年の歴史と比べればミステリというジャンルが生まれたのはまだつい最近のことなんだなぁと思わされますね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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世間一般の評価でも私個人の評価でも、『十角館の殺人』と並ぶ、シリーズの最高傑作でしょうか。
単純なインパクトや新本格ブームへの貢献度などといった面では十角館より落ちるものの、作品の完成度やドラマ性という面ではこちらが遥かに優れていると言っていいでしょう。 この度10年ぶり、3度目ぐらいの読み直しをしましたが、細部の伏線や説明がしっかりしている作品ということを再認識し、メイントリックそのものはトンデモですが非常に整合性が取れてかつ、フェアな作品に仕上がっていると感じました。 また、108個の時計が時を刻む”時計館”を舞台に、仮面の殺人鬼が出没し、中に閉じ込められたメンバーを次々と殺害していく描写・展開に非常に緊迫感があり、本格ミステリ作品だけでなく、ホラー・サスペンス作品も数多く手がける綾辻氏でありますが、彼の作品の中でホラー・サスペンス作品という観点で見てもこれが№1なのではと思ってしまいます。 あまり魅力がない探偵と言われがちな島田も、この作品あたりから段々キャラクターの一人歩きが見られるように感じますね。 新装改訂版では上下巻に分かれるなど少しボリュームのある作品ですが、読みやすく展開も終始ダレることがないので初心者にもおススメできる一作だと思います。 (最低、先に『十角館』『迷路館』は読んでから読むべきでしょうが) ▼以下、ネタバレ感想 |
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まるでジョン・ディクスン・カーが現代日本に蘇ったがごとく、21世紀の世において、あざといまでの古典的本格ミステリの魅力溢れる世界を展開する、シャルル・ベルトランシリーズ第二弾。
今回の舞台は題名の通り、巨大な監獄が建てられた孤島というクローズドサークル作品。 上下巻合わせて1000ページ超の大長編です。 名探偵として名高いパリ警察予審判事ベルトランは、脱出不可能と言われる孤島内の刑務所にて大きな陰謀が渦巻いているという内部告発を受け、調査チームを結成し島へと乗り込む。 そこにはかつてベルトランが逮捕した凶悪天才犯罪者ボールドウィンを初めとして、一筋縄ではいかない犯罪者たち、そして一筋縄ではいかない看守たちが待ち受けていた。 そしてそこでボールドウィンの脱獄騒動が起こったのを口切りに、次々と謎と驚愕に満ちた連続殺人事件が発生する…… 前作の『双月城の惨劇』も「こういうのが好きなんだろ?」と言わんばかりのあざとさがたまらない作品でしたが、今作はそんな前作をさらにパワーアップ、ボリュームアップさせたような一作。 上下巻合わせて1400ページ近い、クローズドサークル作品としてはおそらく『人狼城』と『暗黒館』に次ぐぐらいの超大作なのですが、その長さに相応しいだけの密度とバラエティに富んだ中身で、決して間延び感や水増し感を感じさせない内容です。 この作品は作中で殺人事件が二桁近く起こります、死にまくりです。 しかしそれに加え、その殺人事件のほぼ全てにそれぞれ、密室や人間消失というなんらかの不可能状況が付随しているというとんでもない作品。 その結果作中で登場するトリックは細かく数えれば両手で数えても足りないのではというレベルです。 もっとも数は多くても、どれも「どこかで見たようなトリック」「使い古されたようなトリック」の流用感は否めないのですが、ここまでやられるともうそのチープさやお約束ささえも逆に魅力と感じてきます。 それだけたくさんの殺人劇とトリックだけでもお腹いっぱいになれるのですが、主人公と因縁のある天才犯罪者の脱走劇や、刑務所内の陰謀の謎、真相の二重三重のどんでん返しなどが用意されており本当に豪華な作品ですね。 2つ3つの作品にも出来たであろうプロット、ネタを惜しげもなくつぎ込んで一つの大作にしたことを何より評価したいと思います。 (ある意味2つ3つの6,7点の作品が合体することで9点の作品になったような感じでしょうか) ただはっきり言ってこの作品はB級感プンプンです。 先述したトリックの流用感もそうですし、既存の作品のパクリかオマージュか……とギリギリに感じるラインのネタが多く感じました。 (その作品を実際に作中やあとがきで名前を挙げているのが「あくまでオマージュ、リスペクトですよ」と言い訳してるっぽい) そして気になったのは、前作に比べて文章が下手になってないか?という点です。 前作はあえて、海外翻訳物のように淡白な雰囲気を出したような文章と感じたのですが、今作は書きなれていない新人のような文章と感じました。 特に気になるのは、特定の登場人物に対し「傲岸不遜な~」という表現が作中で10回以上は使われたのではないかと思える所で、実際、その人物が傲岸不遜なキャラであったのは事実ですが、ここまでしつこく書かれると、むしろ記述者キャラの方が性格が悪く思えてしまいます。 加えてそのように記述者はそのキャラに悪感情を持っているのですが、同時に「この時ばかりは彼に同意した~」という表現も作中に再三にわたり登場し、「いや、この時ばかりはこの時ばかりはって、お前この数日で何回こいつに同意してんだよ」と突っ込みたくなります。 というわけで総合すると、決して出来が悪いわけではないのですが、良くも悪くも本格ミステリのエンタメ要素に振り切ったチープなB級感漂う作品のため、気取ったミステリ通や、ミステリにミステリ以上の文学的価値を求めるようなお堅い読者には薦められないです。 人によっては「子供だまし」と断じたくなるような作品かもしれませんが、それでも私はこういうのが大好きです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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それぞれ双子の片割れを当主とする二家族が、一つの屋敷の中央対角線部分を壁で分断し、結果二つの三角形が組み合わさった状態で別々に住むこととなった異形の建物「三角館」
さらにその二家族は双子の父親にあたる先代の残した「一日でも長く生きた方に全財産を譲る」という奇妙な遺言のため、長年にわたる確執を持っていた。 そして双子の片方の死期が近いとなった時、とうとう遺産を巡りこの二家族の間で血塗られた殺人劇が幕を開ける…… 奇妙な館で奇妙な遺言のせいで殺人が起きるという、お約束ながらもうそれだけで面白い本格ミステリの黄金パターンを扱った本作。 それほど長くはないコンパクトな分量とシンプルな構成の中に、しっかりとしたフーダニットとホワイダニットが用意され、トリックやドラマも仕込まれた無駄のない完成度の高い作品だと感じました。 ミステリ初心者はもちろん、やたら真相を捻りまくる昨今の本格ミステリに疲れたような人にも勧めたい、純粋に本格ミステリ本来の魅力が味わえる一冊です。 本作はロジャー・スカーレットが1932年に発表した海外古典の『エンジェル家の殺人』を原作として舞台を日本に焼きなおしたとされる作品で、実は私はそちらは読んでいないのですが、おそらく当時は「影響を受けて下敷きにしたあくまで別作品」として発表したけれど、いくらなんでもプロットも何もかも丸パクリだったために、現代では乱歩が翻訳した作品みたいな扱いに後からしたんだろうなと邪推してしまいます。(っていうか多分間違いなくそう) というわけで高得点をつけましたが、あくまで原作の『エンジェル家殺人事件』の方に捧げたい点数ですかね。 (ただ正直私は全体に海外翻訳作品の味気ない文章がどうも苦手なので、翻訳版よりも乱歩が焼きなおしてくれたこっちを読んだおかげで楽しめたんだろうなぁなんて思ってしまうのも事実です) ▼以下、ネタバレ感想 |
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一筋縄ではいかない数々の事件を追う、F県捜査一課の三つの捜査班の活躍を描いた連作短編集。
捜査一課には一斑から三班までの三つの捜査班があり、それぞれの班長である、朽木、楠見、村瀬の三人は、各々性格も捜査方法もまったく違えど、上司である捜査一課長が彼らと同時期に現場刑事でなかったことを幸運に思わなかった日はないと思うほどの、各々が事件検挙率ほぼ100%という怪物たち。 しかし、同時に彼らはお互い激しい競争意識を持っており、常に一課での覇権を争う関係であるという、事件の犯人との駆け引き以上に、捜査一課内でのドロドロした対立も見所の作品です。 個人的に、ジャンルを問わず「それぞれタイプの違う強キャラたちの競演」というシチュエーションが大好きで、まず基本設定から好みでした。 短編でありながらどの話も長編のネタにしても良いような高密度で高水準の物語で、ミステリとしてもドラマとしても非常に質がよく、また面白い一冊です。 同シリーズは未単行本化の作品もあるようで、続編が強く望まれます! 以下、個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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殺人の汚名を着せられた人物の無実を証明し、真犯人を挙げるという典型的な法廷ミステリかと思いきや、この結末には衝撃を受けました。
発表された年代を考えても、これは国産のオールタイムベストのトップ10に入ってもいいのではないかと思います。 これほどのネタを下手に大作にせずに、長編にしてはコンパクトな分量に纏めているのも個人的には高評価ですね。 他の人の感想を読むと「文章が読みにくかった」というものがチラホラあり、私は全くそう感じなかったので驚いたのですが、人によって読みにくい文章というのは結構違いが出るものみたいですね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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自動車で旅行中、山火事に巻き込まれ下山不可能となったクイーン親子は、山頂付近の大きな山荘へと身を寄せる。
しかしその山荘に集まった人々の中で殺人事件が発生し、他に鑑識も指紋係も一切いない中、クイーン親子は二人だけの事件捜査を余儀なくされることとなった。 そしてその間も山火事は鎮火するどころか強まり続ける一方で、火の手は徐々に山荘へと迫ってくるのだった…… そんなクイーン作品の中では珍しいクローズドサークル作品です。 国内ミステリでクローズドサークル作品の定番シリーズである『学生アリスシリーズ』の第一作目である『月光ゲーム』でも今作が紹介されています。 山で自然災害に巻き込まれたことで下山できなくなった上に、その状況下で殺人が起こり、連続殺人と自然災害の二重の脅威にさらされる。そしてやがて殺人犯人まで運命共同体となり、推理と平行してサバイバル展開が描かれるというプロットは、この作品をオマージュとして『月光ゲーム』が書かれたと考えていいでしょう(ちなみにクローズドサークルという言葉自体を日本で定着させたのがこの『月光ゲーム』であるという説もありますね) 外部からは入れない、外部へは出られない。 限定された空間と人物のみで構成された舞台で殺人事件が発生する”クローズドサークル”というジャンルのミステリーの代表的作品は、何といってもクリスティの『そして誰もいなくなった』 そして、しばしば世界初のクローズドサークルミステリとして扱われるのが同じくクリスティの『オリエント急行殺人事件』ですが、実際はこの作品の方が一年早く発表されており、おそらく世界初のクローズドサークルミステリ作品と言えるでしょう。 (探せばこれより先にもある可能性は否定できません。また、ミステリの定義次第ではそれこそギリシャ神話にある、ミノタウロスの迷宮の話などもクローズドサークルミステリと言えなくもないですね) ではなぜこの作品はクリスティのその二作ほどの地位を得られなかったのかと考えると、身も蓋もないことを言えばその二作があまりにも名作すぎたからなのですが、他にも理由を考えてみますと、まず、シャム双生児という奇形を題材に扱ったことが一般向けではなかったというのがあると思います。 (もっともこの作品は決してシャム双生児という異形の怪異や悲劇性を押し出している話ではないのですが) また、作者のクイーンの考えるこの作品の特異性は、あくまで外部からの科学捜査の介入の一切の排除であったようで、この作品は後のクローズドサークル作品では定番となる、殺人犯と一緒の空間に閉じ込められている恐怖や危機感というものが殆ど描写されません。 殺人犯以上に山火事の方が脅威だからという理由もありますが、この点においてはせっかくのクローズドサークルの魅力を、草分け的存在の作品ゆえに作者も理解できていなかったのかもしれません。 単純に作品の出来としてはクリスティの二作や、同作者によってこれの前年発表された名作4作などには及ばないとは思いますが、他の作品にはない物理的な危機に追い詰められるクイーン親子という展開が緊迫感があり面白かったことと、クローズドサークルファンとしては、世界初のクローズドサークル本格ミステリ作品に敬意を評したいということで、贔屓目の点をつけちゃいます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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自分の中で史上最高の推理小説はこのサイトでも総合1位のクリスティの『そして誰もいなくなった』なのですが、それに対し史上”最大”の推理小説と言いたいのがこのサイトで総合2位のこの作品です。
もちろん大長編という意味ではなく、そのストーリーとミステリーとトリックの壮大さという意味での”最大”です。 こんなことを考えつく作者の想像(創造)力がまさに宇宙スケールだと感じました。 自分は本来SFというジャンルをミステリの枠に含めるのにはどうしても抵抗がある人間なのですが、この作品に関しては紛れもなくSFを題材とした本格ミステリです。 あるいはこの偉大すぎる作品のせいで、一部でSFがミステリと混同されてしまっている面もあるのかもしれないと思いました。 小説の体裁、構成としては賛否もあるようで、事実私も一部読んでいて退屈な場面はありましたが、自分の中で10点をつけたくなる作品とは粗や欠点のない「完璧」な作品ではなく、もはや点数化できないほどの驚きや感動を与えてくれた作品なのだなと改めて感じさせられた一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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廃村の跡と儀式に使用する拝殿だけが存在する孤島”鳥杯島”
そこは現在は特別な神事の際以外は無人島となっているが、人の代わりに烏のように真っ黒な巨大な鷲「影禿鷲」の住みかとなっていた…… そんな島で十八年前行われた神事”鳥人の儀”によって当時の巫女と島にいた五人の人間が消失するという怪異が起こった。 それは大鳥様と崇められる神が起こした奇跡なのか、はたまた鳥女と恐れられる化け物の所業か。 ……そして十八年後の今”鳥人の儀”が再び行われることとなり、主人公の言耶は五人の同行者とともに儀式の立会いのために島へと渡る。 それは奇しくも十八年前島にいた男女の人数と全く同じであった。 そうして行われた儀式の結果、またしても巫女の姿は島から消失し、さらにそれにとどまらず十八年前の怪異を再現するかのように、島を訪れた人間が一人、また一人と消えていく…… オカルトと本格ミステリが融合する『刀城言耶シリーズ』シリーズの第二弾はこのシリーズでは珍しく、孤島という閉ざされた空間で次々人が消えていくという「クローズドサークル作品」です。 またこのシリーズは現在過去の複数の時系列、複数の人物の視点で物語が進むことが多く、それが魅力でもあり話をややこしくしているところでもあるのですが、この作品は珍しく、探偵役の言耶の視点のみで物語が進行していきます。 そのためか他の同シリーズに比べると少し短めの作品にはなっていますが、トリックの壮大さは同シリーズでも随一ではないでしょうか。 本格ミステリ オカルトテイスト 特殊な舞台設定 クローズドサークル 驚愕のトリック 自分にとっては好みのシチュエーションの数え役満のような作品だったため高得点をつけさせて貰いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本物の殺人が起きる前にまるで予告のように「人形」が殺されていくという奇怪な連続殺人という、興味が沸かずにはいられなくなる題材。
タイトルの通り「なぜ人形が殺されるのか」というホワイダニットのテーマ。 顔のない死体、アリバイト崩し、脱出、消えた死体、○○○○り、惜しげもなく散りばめられた数々の鮮やかなトリック。 まさに本格推理小説というジャンルの魅力の全てがつまったような作品だったと思います。 また、古い作品なので、随所に時代は感じるものの、文章はとても読みやすかったです。 ミステリファンなら早い時点で読んでおくべき名作と思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『西遊記』『三国志』『水滸伝』とならんで中国の四大奇書に数えられる、『金瓶梅』の世界を舞台にした異色の本格ミステリ。
『金瓶梅』自体が『水滸伝』のスピンオフ作品という位置づけなので、ある意味この作品はスピンオフのスピンオフの位置づけでしょうか? 明の時代の中国。豪商にして大好色漢である西門慶は正妻に加え七人の妾、さらには侍女なども含め多くの美女を邸内に抱え、乱れに乱れた性生活を送る……という 登場人物含めここまでの設定、あらすじは原作の『金瓶梅』を完全になぞるものになりますが、そこに女の愛憎・嫉妬・情欲が絡み合った数多くの傷害・殺人事件が発生することで、連作短編形式の本格ミステリ小説の体を成していきます。 原作の『金瓶梅』がそうであるように、設定上必然的に性的な場面が非常に多く、官能小説的な面も多分に含まれるため、人によってはそこをご注意(ご期待)ください。 これ一冊で”歴史小説”にして”推理小説”にして”官能小説”という極めて異色、まさに奇書のさらにその先を行った奇書という感想ですが、作中の各章で起こる事件はアリバイ崩しやホワイダニットなどが主眼となった想像以上に「まっとうに」本格ミステリしている作品でした。 最初は人物の名前が当然のことながら皆中国名なことをはじめ、読みにくいという雰囲気だったのですが、すぐに慣れ、むしろ50年以上前に発表された小説とは思えない読みやすさでした。 『忍法帳シリーズ』もそうですが、本当に山田風太郎御大の作品は、まるで現代の作者がタイムスリップしているのではないかと思うぐらい今読んでも文章・感性ともに古臭さを感じません。 それどころか現在からさらに50年後の人間が読んだとして、今をときめく作家の作品はその時、古臭いと言われても、彼の作品はそう言われないのではないかと思ってしまいます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイトルや表紙から、勝手に硬そうな小説という先入観を持ってしまった作品ですが
「死んだ人間がゾンビになって生き返る世界で、主人公すら途中で死に、ゾンビ状態で殺人事件の謎を追う」 という、独創的かつ非現実的な内容のSFミステリであり、ユーモア要素も強めな作品で、少し長いですが読みやすかったです。 しかし設定こそ荒唐無稽ではありますが、その特殊な世界観を十二分に活かし、また説得力のある形で話が組み立てられ、単に面白い発想だっただけでは終わらない、純粋に本格ミステリとして、非常に完成度の高い作品という感想です。 そうなったのもひとえに、死者が蘇るという現実の常識ではありえないSF設定を用いながらも、「人の生と死」という、極めて現実的なテーマに対し作者が真正面から向き合い、多くの参考文献を用いて入念に物語を練った結果だと思います。 舞台はアメリカであるため、土葬を始めとして日本とは死者の埋葬方法や宗教観などさまざまな違いがあるという点が話の大きなポイントとなっており、作中で語られるその面だけ見ても興味深く、勉強になったと感じる作品でした。 よくある「無駄な」衒学趣味ではなく、物語上、必然性がある知識は純粋に知的好奇心が満たされる上に、物語の深みも増すと感じますね。 キャラクターや展開はコメディチックな部分が多いものの、話のテーマと本筋自体は極めて真面目なストーリーであり、特にラストには少しホロリとさせられました。 可能であれば、欧米のミステリファンにも読んでもらって感想が聞きたいと感じる一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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日本ミステリ史に残る名作である前作『双頭の悪魔』から実に15年ぶりとなる『学生アリスシリーズ』の第四弾。
前作発表時に小学一年生だった子供が今作のアリスやマリアと同じ大学三年生になっていると考えると感慨深いですね。 子供が大人になるほど現実世界ではブランクが空く形になりましたが、作中世界では前作から半年しか経っておらず、昭和から平成に移り変わり、バブルが終わろうとしている時期が舞台の作品です。 今作もこれまでのシリーズ作品同様、コテコテのクローズドサークル作品になりますが、新興宗教団体が建設した「城」という舞台が独創的です。 「城」に閉じ込められ、そこを脱出したとしても、宗教団体の息がかかった「城下町」がさらに待ち受けているという二重のクローズドサークル状態になっているのも面白いですね。 しかし最初の殺人が起きるまでが長いのをはじめとして、前半部分は冗長すぎる感が否めず、ちょっと退屈でした。後半、推理研メンバーたちが強引に「城」からの脱出を試み大立ち回りを演じるあたりからは一気に話が動いて面白くなりましたね。 (私はこの作品は読むのに五日もかかってしまいましたが、うち四日を前半部分に費やして、後半は一気読みでした) これまでのシリーズでは脇役に甘んじていた、モチとノブナガの先輩二人の見せ場があったのが良かったです。 また今作は前作の『双頭の悪魔』と共通するシチュエーションが多数用意されており、読者に15年ぶりのデ・ジャビュを感じさせるのが狙いか?などと思いました。 しかし個人的に『双頭の悪魔』以上に比較したくなる作品は、奇しくもこの作品の前年に発表された同作者の、やはりクローズドサークル作品となる『乱鴉の島』です。 こちらは『作家アリスシリーズ』の作品となり、発表はこの作品の前ですが、作中の年代設定は21世紀となり、携帯電話もインターネットも存在する時代において、クローズドサークルというジャンルにおいては、本来邪魔な異物的存在になるそれをいかに話に組み込むかということを試みたような作品でした。それに対して今作は1990年前後が舞台のため、作中でマリアが「一人一人が携帯できる電話があればいいのに……」と言ったり、アリスが「インターネットって何だ?」と言ったり、一種のメタ的なネタを仕込んでいるのは、前年度に発表した作品を踏まえたうえで作者の「やっぱりクローズドサークル作品にはこれらのものは無いほうがいい」という本音を見た気がしました(笑) 総合的に見て前作には及ばないかなという感想ですが、推理研のメンバーたちの変らないキャラと活躍が見れて楽しかったのでオマケして9点で。 次作が学生アリスシリーズの完結編となる予定のようですが、江神さんの家庭の問題や、アリスとマリアの恋人未満の関係の行く末などいろいろ気になり、待ち遠しいです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『学生アリスシリーズ』第三弾にして最高傑作とも名高い作品。
前二作同様クローズドサークルものですが、今回は半ば世間を捨てた芸術家たちの住む孤立集落という舞台設定や 川を挟んで二箇所で同時進行する殺人事件。それに伴いアリスとマリア交互の視点で進行する物語という構成も面白いです。 前作の最後に傷心の状態で推理研を去ってしまったマリアの再登場がまず嬉しかったですね。 随所に見える先輩の江神さんを頼りにしてなついている彼女の様子が非常に可愛いです。 でも、今回は川の向こうでアリスも江神さん抜きでがんばっていたので、彼の活躍も知ってあげてほしいと思いましたね(笑) 純粋な話の面白さ、キャラクターの魅力、真相の衝撃、物語の構成。 個人的に完璧に近い作品だと思うのですが、唯一惜しいと感じるのが、今作に限らずこのシリーズ通して言える点として、犯人を指摘する根拠が物証ではなくロジックに基づく消去法のみ、という所です。 これは否定されたら決定打に欠けるというか、それこそ他の人が「なんらかのトリック」を使った可能性もあるんじゃない?などと思ってしまい、納得行きかねる所があります。単に好みの問題とも言えるでしょうが。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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教え子である中学生に幼い娘を殺された教師の告白……
というあらすじを見て、見るからに重そうで暗そうで胸糞悪そうで敬遠してしまっていたのですが、読んでみたら面白いこと面白いこと。 ニヤニヤ笑いながら一気読みしてしまいました。 実際の所、内容は確かにあらすじの通りの重い話なんですが、終始作品に漂うブラックユーモアが非常にセンスが良く、全く胸糞とか後味が悪いとかそういう気分にはならず、むしろ私の嫌いな人種がことごとく否定されるような台詞や展開の連続に非常にスッキリした気分で読めた作品でした。 この辺は作者と私の価値観や波長がよく合ったということでしょうかね。 何より良かったのは予想していた「娘が生きていた時の幸せだった生活」とか「少年法に守られて裁かれない犯罪者たち」みたいな読んでるだけで辛くなるようなシーンはなく、もう序盤から一気にカタルシスが沸く展開に転んでくれたのが嬉しかったですね。 (幼い娘が殺される経緯のシーンだけはやはり読んでて少し辛かったですが) この作品のせいでもう「ウェルテル」って見るだけで笑えるようになってしまい、どうしてくれんだって感じです。 読みやすさも抜群でしたし、限りなく10点に近い9点です。 いやー、面白かった。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とある遊郭で、戦前・戦中・戦後の三つの時代にそれぞれ三度、延べ九度にも渡り発生した連続身投げ事件。
それは遊郭に人知れず潜むという「遊女」ならぬ「幽女」の仕業なのか…… 女の苦界、遊郭という異色の場を舞台とした壮大なホラーミステリー。 物語は13歳(当時は数えですので、現在で言えば11,2歳でしょうか)で遊郭に売られた少女を中心に、戦前は彼女の視点、戦中は遊郭の女将の視点、戦後は事件の謎を追う作家の視点でそれぞれ当時発生した身投げ事件に向き合いながら物語が進んでいき、最終章が探偵による謎解きとなる四部構成の大作です。 奉公人の少年を中心に描かれていた同シリーズの『首無しの如き祟るもの』の遊女の少女版のような作品、という捉え方も出来るかもしれません。 序章は身売りした少女の日記による独白という形で、遊郭での生活が描かれるのですが、100ページ以上進んでも最初の事件も起こらないどころか、ミステリの雰囲気すらなく「あれ?自分なんの小説読んでるんだっけ……」とすら思えてきます。 しかし決して退屈というわけではなく、遊女の生活と心情がリアルに描かれた物語に、生々しくも大変惹かれ、読み進める手が止まりません。 章が進むと前述したとおり、時代も物語の語り手も換わっていくのですが、終始ストーリーの魅力は衰えず、長大ながら一気に読み終えてしまえる面白さでした。 扱っているものの題材が題材のため、必然的にエログロ描写も含まれ、人によっては苦手なシーンなどもあるかもしれませんが、非常に完成度が高い小説だと感じました。 ただし、それは物語そのものの評価で、推理小説として期待すると物足りなさや不満はやや生じるかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これまでの同作者の『城シリーズ』は才能は感じさせたものの、正直独りよがりで物語として破綻してるようなお世辞にも出来がいいと言いがたい作品だったのですが、今作は見事作者の持ち味を残したまま、わかりやすく面白い、完成度の高い作品として仕上がっていると思います。
雪の降り積もる孤島の古城に集められた探偵たちという、もう最初からいかにも『そして誰もいなくなった』的な展開になりそうな設定で、そのことを登場人物たちすら予感するシチュエーションの中、案の定起こる連続殺人事件。 登場人物個々のキャラが非常に立っており10人以上の人物が集まっても混乱することなく非常に覚えやすいです。 また長編推理小説としては決して多いページ数ではない中で、凄い勢いで人が殺されていくハイテンポな展開はまさに『そして誰もいなくなった』的です。 その読みやすさ、分かりやすい面白さという面では間違いなく初心者向きなのですが、集められた人間たちが最初から探偵ということで、当然のようにミステリ議論が始まり、殺人が起こればやはり当然のように推理合戦が起こり、推理小説のお約束を時に皮肉り、時に裏切り、時に忠実になぞるようなメタミステリ的な側面もあるのに加え、『そして誰もいなくなった』は言うに及ばず、『十角館の殺人』や『殺しの双曲線』をはじめ、無数の東西のミステリの名作の小ネタやオマージュが仕込まれており、「クローズドサークルもの」や「館もの」を中心とした過去の名作をある程度読み終えてから読んだほうが楽しめるのは間違いない作品だと思います。 (個人的にホラー映画の『スクリーム』の推理小説版という印象を受けました) とにかくクローズド・サークルミステリが好きな人には無条件で面白い作品ではないかと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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