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マリオネットK さんのレビュー一覧
マリオネットKさんのページへレビュー数66件
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一言で説明すると不老不死の技術が実現した時に日本はどうなるのか、という設定の元描かれたSF小説。ミステリ、推理小説の枠組みには入らないと思います。
上下巻でそこそこの分量があり、作中で50年以上の時間が経過する壮大なストーリーですが基本はエンターテイメント小説なので読みやすいです。 ほぼ全ての日本人が成人年齢を超えるとHAVIと呼ばれる、不老不死になる処置を受けるという世界。ただし法律で100年後には強制的に安楽死させられる。 本当に永遠に個人が生き続けたら人口はパンクしてしまいますので少し考えれば子供でもわかる当然の処置です。 どのみち普通に人生を送って120歳まで生きることはほぼ不可能ですし、仮にその年齢まで生きたとしてもその間の老いの悩み・問題からは逃れられません。 だから当然100年後に死ななければいけないと判っていても作中の人間はほぼ全員がこの処置を受けますし、この作品を読んだ読者もほぼみんな「自分も受けたい」と思ったのではないでしょうか。 そんなまさに全人類の夢が実現したような世界なのですが、正直個人レベルで見ても全体レベルで見ても、人々は全く幸せそうには見えず、どちらかと言えば夢のない世の中が広がっています。 そして「まぁ実際この技術が実現したら、こんな感じになるだろうね」と思わされてしまうものでした。 それはひとえにこの作品が個人レベルでも全体レベルでも「人間とはこういうもの」という描写が上手く、説得力があったからだと思います。 個人的にこの作品を見て感じたのは、本来生物というものは全体がまた一つの生き物のようなもので、種全体の存続、繁栄のためには個は細胞が新陳代謝を活発にするように適度に入れ替わらないと、全体として停滞、それどころか逆に「老化」してしまうものなのだなということです。 人は有限だからこそ、老いるからこそ今を大切に生きられるなどという言葉は、普段はなんか説教臭くて嫌いなのですが、この作品を読むと理屈と感情双方で納得が出来るような気がしました。 また読んでいて面白いと思ったのは他の人の感想にもありますが、この作品は自分の意思でHAVIを受けていないケン以外の人間はみな外見的には20代のはずなのですが、思い浮かぶイメージが実年齢通りのヨボヨボのおじいさんおばあさんまでは行かないまでも、いい意味では大人の貫禄のある、悪い意味では疲れの見えた40代・50代ぐらいの見た目なってしまうことです。(ある意味歌野氏の例の作品の逆バージョン的なものを感じますw) これは実際作者も意図している所で、この作品の実写版をケン役意外は全員20代の若手役者で作ったら面白そうと思う反面、叙述トリック作品並に映像化せずあくまで文字で想像する作品だからいいのではないのかとも思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『学生アリスシリーズ』や『作家アリスシリーズ』のようにシリーズ化はされていない、有栖川有栖氏の初期作品。
ロジック重視で、大掛かりなトリックを弄した作品はあまり書かない印象の作家ですが、今作は鉄道ダイヤトリック、双子入れ替わりトリックなど本格ミステリの王道とも言える複数のトリックが仕掛けられた一冊です。 時刻ダイヤトリックを扱った作品は正直「なんとかしてなんとかしたんでしょ」って感じで、真剣に考える気もおきないしあまり好きではないのですが、この作品はそれ以外の部分にも仕掛けられたトリックが面白く、出来も良いと感じました。 作中のアリバイ講義も面白かったです(私は基本はこういう単に作者が自分の趣味を語りたいだけのパートは嫌いなんですけどね) 極めて王道な本格推理小説であると同時に、この作品そのものが「本格推理小説」というものをそのままテーマにした作品というか、「本格推理小説」というもののテーゼであるかのように感じました。 作中に出てきた「トリックというもの自体が面白すぎる」「本格推理小説というジャンルが面白すぎる」という言葉。 私のような人間にとってはまさにその通りだと思います ▼以下、ネタバレ感想 |
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全く無駄のない構成の、非常に完成度が高い作品だと思いました。
テンポの良さ、読みやすさ、人物描写、ドラマ性、テーマ性、そして結末。 全てにおいてほとんど非の打ちようのない素晴らしい一冊だったと思います。 純粋に物語の出来の良さを評価すればもっと高得点でも良かったのですが、この点数どまりなのは、やはり私は何も悪くない子供が死んで、その親の苦悩が描かれるような話は読んでて辛くて、楽しくは読めなかったからです。(なのでおススメは押したけど、お気に入りは押していません) いずれ再読したい、その価値はあると思う作品ですが、何時になるでしょうかね…… ▼以下、ネタバレ感想 |
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一年以上の断筆期間を経て発表された本作は乱歩御大の代表作の一つであると同時に、これまでの乱歩の集大成的作品でもあります。
この作品の後にも『孤島の鬼』や『少年探偵団シリーズ』など数々の有名作は生み出されており、彼の創作史全体を通せばむしろまだ初期の部類の作品にはなるのですが、それでもここで乱歩はこれまでの作家としての自分の総決算的な意味を込めてこの作品を書いた、一つの区切りとなっている作品なのは間違いないと思います。 まずこの作品は乱歩本人がモデルと思われる二人の作家が話の主役となります。 この二人の作家は表面的な性格や作風は対照的なのですが、どこかお互いに意識しあう、まさに乱歩の二面性が表現されている気がします。 なお、話の主軸となる作家二人が乱歩がモデルというのは読者が抱く印象であり、乱歩本人はあくまで自身がモデルなのは奇妙な作風で人間嫌いの春泥の方のみで、本人も作風も常識的な語り手である寒川は甲賀三郎氏がモデルとしているようですが、私はどちらかと言うと、作品の世界から離れた乱歩は社交的な常識人であり、春泥のような異常性に惹かれている(あくまで本人は正常)のが彼だったのではないかと思います。 さらにこの作品は『屋根裏の散歩者』『パノラマ島奇談』『二銭銅貨』などの乱歩のこれまでの代表作のセルフオマージュなどがふんだんに用いられているので、これらの作品を先に読んでいた方が楽しめることは請け合いでしょう。 こうした乱歩のこれまでの集大成となった作品は、さすが数ある彼の作品の中でも代表作の一つに選ばれているだけあり高いクオリティを持っており、終始飽きさせない展開と今日までの日本の推理小説に大きな影響を与えただろう衝撃的な結末が用意されています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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わずか一週間で終わった昭和64年に発生した未解決誘拐殺人事件、通称「64(ロクヨン)」は、遺族や警察をはじめ多くの事件関係者たちに新しい時代、平成にも深い遺恨を残していた。そして時効まで残り一年を迎えた平成14年、様々な人々の思いが交錯する中、再び事件は動き出す……
私はミステリの中でも警察小説はあまり好きではない、特に事件そっちのけで警察内の派閥だ面子だでグダグダするような話は不快になるため嫌いであり、この小説はまさにそういう話なのですが、やはり横山秀夫氏の作品だけは例外です。決して読んでいて愉快なストーリーではないのですが、楽しく読めました。 主人公が警察関係者の中でも、直接事件を捜査する刑事ではなく、マスコミとの仲介役となる広報官という設定がまず斬新です。 マスコミからも刑事部からも板ばさみになる葛藤が存分に描かれ、主人公の広報官側に感情移入すると「マスコミも刑事部も勝手な事ばかり言いやがって」という感想が沸くのですが、結局はどの人間も自分の置かれている立場で物事を言っているにすぎず、ふと離れた視点から見ると、名前を出す出さないだ、誰に抗議文を出すだ出さないだ、いい大人たちが大勢揃ってどうでもいいことにこだわり、誰も得しない非生産的な争いをしている滑稽な構図に見えてきます。 こんなことよりも重要なのは誘拐された子供の命(それはもう奪われてしまった)と犯人逮捕だろ?と途中から感じてしまいましたが、結局直接の被害者以外にとっては、目の前の自分の立場や面子こそが一番重要なのが現実なのでしょう。しかしその中に確かにあるそれぞれの人間個人の譲れない感情や矜持というものが表れ、まさに『人間』というものがこれでもかと描写されていた作品と感じました。 そのように未解決誘拐事件そのものよりも、マスコミとの駆け引きや警察内でのゴタゴタがメインの前半は少し間延びした印象でしたが、再び64(ロクヨン)が大きく話に絡むようになり、同時に次々と真相が判明していった終盤の展開は驚きの連続で目の離せないものとなりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今邑彩女史のデビュー作。
まさにタイトルどおり「卍」の形に作られた館で発生する連続殺人事件。 謎解きの難易度としては非常に低いです。本格ミステリファンどころか、『金田一少年』や『名探偵コナン』が好きな人レベルでも察しがつきそうです。 ただし、かといって自分はこの作品の評価は落としません。むしろとことんフェアゆえの難易度の低さとも言えますし、バリバリの本格ではありますが、登場人物たちの恋愛ドラマとして見ても面白かったです。 デビュー作としては非常に完成度の高い作品だと思います。 奇妙な館での殺人事件という内容も好みですし、好みの作家さんということもあり少し甘めの点数です ▼以下、ネタバレ感想 |
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『作家シリーズ三部作』の二作目。
前作の『忌館 ~ホラー作家の住む家~』はホラーとしてもミステリとしても中途半端な上に、全てが消化不良ではっきり言って全く面白くもなければ納得もいかないと感じた作品でしたが、今作については点数にも表れているように、結論から言うと面白かったです。 しかしなんとも説明するのも、感想を述べるも、どう評価すべきかも非常に難しい作品だと感じました。 まず紹介ページのタイトルの後ろに(短編集)とついていますが、この作品そのものを短編集と分類するのは少し語弊があります。 この本の作中に出てくる”迷宮草子”という本が短編集の形式で出来ており、その一作一作の謎を主人公達が解き明かしていくという、作中作形式の話になります。(ややこしいですが) ただ当然ながら”迷宮草子”はただのミステリ短編集ではなく、読んだ者の身に一話ごとに怪異が襲い掛かり、そしてこの本の謎を解かない限りその怪異が消えることはなく、さらには読んだ者はやがてその姿を消すことになる……という恐ろしい曰くを持ったもので、主人公達は日々襲い来る怪異に悩まされながら、命がけの謎解きを行っていきます。 そんなオカルトな題材を扱ったホラー作品でありながら”迷宮草子”の個々の短編の謎はあくまで「本格ミステリ」の形式がとられており、導かれる回答も極めて論理的という、まさにこの作者の代名詞でもある、ホラーと本格ミステリの融合を果たしている作品と言えます。 また作中作となる個々の話もいろいろな本格ミステリのジャンルやテーマをバラエティ豊富に取り揃えながら、それ単体でも十分楽しめるクオリティを携えており、上下巻のボリュームながら飽きることなく楽しませてくれる、まさに「力作」とも言える作品だと思いました。 なお、この作品はクローズドサークルタグが付いていますが、この作品自体は全くクローズドサークルではありません。 ただ、上にある作中作の短編作品の中にクローズドサークル形式の作品が含まれるほか、謎解きの際にもクローズドサークル談義(?)が交わされるので、クローズドサークル好きにもおすすめできる作品であると言えるでしょう。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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愛する一人娘を殺された父親が、行きずりの変質者の犯行であるという警察の見解に疑いを持ち、独自に犯人を捜しだし、そして復讐を決行するという内容の手記から始まる作品。
人が憎しみ合って殺しあう話が大好きな私ですが、こういうタイプの話は非常に苦手で、あらすじの時点で読む気があまりせず、「もし出来が良くても二度読もうとは思わないタイプの話だろうなぁ」と考えながら読んだのですが、良い意味で予想を裏切られ、楽しく読めました。 内容はたしかにあらすじの通りですが、スピーディに進み、二転三転していく物語は非常に読みやすく、最後まで先が気になり、結末にもうならされ、いずれ再読もしたいと感じた作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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幻想的な童話と血塗られた犯罪……一見相反するこの2つがどう関わるのか。
まさに題名通りの一作です。 作中冒頭で発生した殺人事件を主人公の刑事が捜査し、解決までが描かれるという内容の、物語の構成はいたってシンプルであり、結末も特別大きなどんでん返しがあるわけでもない作品ですが、それだけにごまかしの利かないものを見事にまとめた完成度の高い一作と感じました。 もう古典の域に入るかと思いますが、本格推理小説のお手本となる、本格ファンを名乗るなら必読の作品の一つと言って良いと思います。 余談ですが私の手に入れた新装版は表紙が大人しいのが残念です。 怖い女の子が表紙のやつが欲しかった(笑) ▼以下、ネタバレ感想 |
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戦後の推理小説の大家・高木彬光のデビュー作にして、日本三大名探偵の一人・神津恭介の初登場作。
背中に妖艶な刺青を背負った美女が密室でバラバラ死体となり発見され、しかしその死体は刺青の彫られた胴体部分が消失していた。 そしてそれに触発されるかのように、第二、第三の殺人が…… という、エログロ要素や怪奇趣味を織り交ぜながらも多くのトリックが用いられたバリバリの本格推理小説。 発表当時はまさに日本は終戦直後であり、作中でもその時代の日本の空気を感じさせられる一冊ですが、70年前の作品でありながら文章に古臭さは感じず、非常に読みやすいです。 また”刺青”という禁忌の中に美しさを持つ、当時から今日に至るまで日本人にとっては拒絶を覚えながらも一方でどこか惹かれてしまう、そんな題材が魅力的なストーリーを生んでいました。 そしてそれは”殺人”という最大の禁忌を題材にした本格ミステリというジャンルを今日まで愛好する人間が多くいることにも共通する点かもしれません。 本格ミステリ部分に関しては、現在の複雑化・洗練された作品を多く読んでしまっている読者からすると粗や物足りなさを感じる面が多々あるかもしれませんが、戦後の日本の本格ミステリをリードし後世に多くの影響を与えた作品なのは間違いないでしょう。 何より、個人的には謎解きよりも世界観と題材に惹かれ、評価したいと感じた作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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精魂込めて書き上げた作品を盗まれた男と盗んだ男の、殺人事件にまで発展する緊迫した狂気に満ちた駆け引きの物語。
終始テンポが良く読みやすく、常に続きが気になる構成で一気読みしました。 割と賛否分かれそうな作品かと思いますが、私は楽しませてもらいました。 主人公に感情移入して、作品を盗まれ悔しく感じたり、逆に反撃に転じた時はスッキリしたり出来たのがその理由ですかね。 ……しかし読み返してみると一回目とは全く違う世界が広がりそうな作品です。 いくらなんでもこんな偶然が重なるわけないだろうっていうご都合主義は多々感じましたが、この作品は素直に、現実ではありえないようなことを書くのが創作です、と割り切れるタイプの話でした。 気になった点は”『倒錯のロンド』っていうタイトルがセンスがいい”とか作中で自画自賛しちゃうのは正直どうかと思いました。 他にもあとがき部分含めちょっと作者の自己主張が強い面が多々見え、それが面白い所の一つとも言えるのですが、人によっては拒否反応が出るかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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梵貝荘と呼ばれる法螺貝のように螺旋構造に作られた奇妙な館で起こった殺人事件。
その事件は名探偵によりすでに解決され、『梵貝荘事件』として小説にもまとめられたが、十五年の時を経て現代の名探偵により事件の再検証が行われる…… 本格ミステリというジャンルや名探偵という存在に対する皮肉や問題提示、過去の有名作を思い起こさせるパロディやメタネタ、作中作という特殊形式。 まさにこれでもかというアンチミステリ的な要素が詰め込まれており、所謂『三大奇書』の要素を全部合わせながらも、短く読みやすくまとめたような作品という印象です。 また参考・引用文献に、当時までに発表されていた綾辻氏の『館シリーズ』が全部並んでいるなど、同シリーズを連想させるネタも随所に仕込まれており、まさに「新本格」を象徴するような作品です。 しかし個人的にこの作品そのものは本格ミステリではなく「本格ミステリ」というジャンルを題材とした、サスペンス、あるいは独自ジャンルの作品だと思いました。 盛りだくさんの仕掛けに何度も驚かされ、楽しませてもらえましたが、惜しいと思うのは作中作となる『梵貝荘事件』が単独の作品として見たら、駄作としか思えなそうな所です。 あれでは、作者が解決部分まで書き上げながら発表しなかった理由は「駄作すぎて世に出すのが恥ずかしくなったからだろ」とみんな判断するでしょう。 (もし『梵貝荘事件』が独立した作品として存在して私がレビューしていたら、★2つぐらいで「トリックも人物描写もショボすぎ!真相も納得できない。内容もボリュームも薄っぺらな割に衒学趣味だけは過剰で辟易」とか酷評してるでしょうね) 作中作に、それだけをそのまま出してもいいクオリティを求めるのは酷かとは思いますが、ここは「それだけを単独で読んでも面白い」と言わせてほしかったです。 余談ですが私は『樒/榁』が同時収録の文庫版を読んだため、てっきり500ページ超の作品のつもりで読んでいたら400ページほどで終わってしまい 「あれ?終わっちゃった」と最初面食らってしまいました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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片田舎には不釣合いと言えるほど万人に認められる美女である主人公。しかしその顔は度重なる整形手術で手に入れたもので、かつては畸形的と言えるほどに醜い顔を持ち、地獄のような青春期を過ごしていた……
女にとっていかに容姿が重要視され、醜い女性がどれほどそのことで苦しむのかという、誰もが理解していながら、どこか目を背けている現実をまざまざと突きつけられる作品です。 顔が醜いというだけで極めて悲惨な人生を送る主人公には多かれ少なかれ読者の誰もが心を痛め、読んでいて辛さを感じる話ではないでしょうか。 しかしそれでも先が気になってしまい、一気読みさせるパワーのある作品だと思います。 あまりの悲惨さに一回りして笑えてしまう、もはや一種のブラックユーモアと思ってしまう所もありました。 しかし、ただ暗くて重い話というだけではなく、個人的に主人公が少しずつ整形することで段階を踏んで容姿が磨かれていき、それに伴い自信や収入も次第に増していくという展開は、出世物語やサクセスストーリー的な爽快感もありました。 最初あらすじを読んだ時は「いくら整形したって凄いブスから凄い美人になれるわけないじゃん、整形して美人になれたら苦労しないし世の中美人だけになるわ」と所詮フィクションだろうと侮っていたのですが、まずは目の小さい手術から徐々に段階を踏み、少しずつ顔を変えていく経緯にリアリティと説得力がありました。 また、リアルで整形依存になってしまう人がそうなように、途中でやめておけばいいのに、整形のしすぎでまさに「モンスター」になってしまう話なのかとも思いましたが、主人公の整形以外の部分での努力を惜しまないのも含め、「客観的な美人」を追及、維持し続けるスタンスもいい意味で予想外でした。 リスクなどはしっかり提示した上で、決して整形に批判的な話ではないですね。 また、男性作家がこういった作品を書くと、男の心情描写はリアルでも女の目線にリアリティが欠如するのが懸念されますが、自分の周囲では女性からの評価も高く、男女双方の視点から上手く書けている作品なのだなと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『学生アリスシリーズ』では現在唯一となる短編集作品。
長編では毎回旅先で連続殺人事件に巻き込まれる、クローズドサークルがお約束のシリーズですが、短編集の今回は江神部長やアリスらEMCのメンバーによる日常の謎の解決などが中心となっているほか、他愛ないミステリ談義や大学生らしい日常が描かれています。 しかし一部の話では短編とはいえガッツリ殺人事件を扱っていたり、はたまた誘拐事件や、メンバーの執筆したミステリに挑む作中作などもある、バラエティに富んだ内容です。 作中の時系列的には アリスの入学・入部~月光ゲームの後~マリアの入部。 というアリス入学の最初の約一年のEMCを書いている形式で、作者の実質的なデビュー作である『やけた線路の上の死体』から、書き下ろし作品『除夜を歩く』までが収録され、実に二十七年という歳月をかけて完成した短編集ですが、その辺の違和感は特になく読めます。 (作中でも触れられている、江神さんが二十七歳、クイーンが名作を四連発した年齢も二十七歳というのはただの偶然でしょうか?狙ったのでしょうか) 『学生アリスシリーズ』のファンなら必読と言える一冊ですが、シリーズを未読の人はまず長編の方を読んでキャラに愛着を持ってから読んで欲しいかなと感じる作品です。 以下個別ネタバレ感想です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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いかにもな雰囲気の舞台、猟奇的な連続見立て殺人、奇抜すぎるトリック、名探偵二人の推理対決、どんでん返し、過去の名作のオマージュやパロディ……
あとがきの解説でも言われていましたが、まさに本格ミステリの読者が望む、面白くなる要素を全部詰め込んだような作品です。 読者を意識してと言うよりは、作者自身が自分の好きな要素を全部詰め込んで書いてみたデビュー作でしょうか? 若干21歳の時に発表された作品だと読み終えた後に知り衝撃を受けました。 いろんな意味でぶっ飛んでおり、賛否両論は必至の作品だと思いますが、自分はツボにはまったので大変面白かったです。 三大奇書の一つ、『黒死館殺人事件』のパロディ的な面が強い作品ですが、あっちと違って非常に読みやすくていいですね(笑) また海外の某有名シリーズのオマージュが事件に深く関わり、それを知っているか否かで面白さが段違いになってしまうため、実際に全部読みはしないまでも基本情報ぐらいは頭に入れた状態で読むことをおススメしたいのですが、シリーズの具体名を挙げてしまうとそれ自体が重大なネタバレになってしまいもどかしいです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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美貌の双子姉妹を主に持つ、ライン川渓谷にたたずむ古城”双月城”を舞台に繰り広げられる、人間の手には不可能と思われる奇怪な連続殺人と、第一次世界大戦時にはフランスとドイツに分かれ軍人として火花を散らした好敵手である二人の探偵による推理対決を描いた本格推理作品。
国内作家の作品ながら1930年代のドイツが舞台で、登場人物もみなヨーロッパ人。 文章も、意図的かはわかりませんが全体的に翻訳物のような固さと淡白さがあり、ジョン・ディクスン・カーの翻訳作品だと言われたら信じてしまいそうになる一作です。 個性的な建物、怪奇趣味、密室、首なし死体、連続見立て殺人、双子入れ替わり、アリバイ崩し、推理対決…… 本格における”美味しい”題材のフルコースのような作品で「こういうの好きなんだろ?」と言わんばかりのあざとすぎる作品でしたが、悔しいですがこういうの大好きです。 しかし決して私のような読者をシチュエーションで釣るだけのB級作品ではなく、終始魅力あるストーリーと高い完成度を感じた、「本格ミステリ」の良作だと思います。 一つ一つにはそこまで目新しさを感じないものの、作中通して数えると二桁に上るのではないかというほどの多彩なトリックが用いられるのも、トリック好きには嬉しいポイントです。 とりあえず「こういうのが好き」という方には読んで損をさせない一冊だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ジョン・ディクスン・カー氏の代表作の一つです。
私が今日まで読んでいる同氏の作品の中ではこれが最高傑作だと思います。 ただし、彼「らしさ」はない作品ですね。 長編作品としては比較的コンパクトな分量で、話の筋もシンプルで無駄がなく非常に読みやすく、判りやすい作品なので初心者にもおススメです。 クリスティ女史が「このトリックには私も脱帽した」と絶賛したことで有名な作品ですが、彼女自身も以前に似たようなプロット、トリックの作品を発表しているにも関わらずそう発言しているのは、発想そのものを評価したのではなく、その料理の上手さに感心したのでしょうね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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一体いくつあるのかもわからない『そして誰もいなくなった』をインスパイア、モチーフとしたミステリの一つですが、その中でも個人的にはかなりのお気に入りです。
私の場合、元ネタとなる作品が好きすぎるので、もうその時点である程度面白く読めるのは必然なのですが、これは決して他人のふんどしで相撲を取った作品ではなく、『そして誰もいなくなった』を題材としながらまったく独自の良作に仕上がっていると思います。 まずこの作品は所謂クローズド・サークルではなく、舞台は女子高で、そこの学園祭で上演される『そして誰もいなくなった』の演劇の最中、実際に殺人が発生し、当然劇はその場で中止されるのですが、その後も『そして誰もいなくなった』のストーリーをなぞらえて、配役どおりに一人、また一人と死んでいくというストーリーです。 マザーグースの歌詞による連続見立て殺人である『そして誰もいなくなった』の見立て殺人という、いわば”見立て殺人の見立て殺人”ということになります。 ページ数的にはそこまで長い作品ではないですが、元ネタ同様次から次へと人が死に、ジェットコースター的な展開の連続で読者を飽きさせない構成です。 (この作品に限らず『そして誰もいなくなった』を題材としている作品は流石そのへんの本家の魅力を理解しているものが多いと思います) まさ終盤にさしかかるとさらに驚きの展開の連続で、人によっては「つめこみすぎ」「ひねりすぎ」「強引すぎ」との感想を抱くかもしれませんが、個人的にはとても楽しめ、また完成度も高いシナリオだったと感じます。 流石にこの作品は『そして誰もいなくなった』を事前に読んでいることは前提に書かれているのかな、と思いましたが犯人や真相部分はちゃんとネタバレしないように伏せてるんですね。 それでも絶対に事前に元ネタ作品を読んでいた方が面白いと思いますが、ふと、この作品を読んでから本家の方を読んだらどんな感想になるのかな……ともう絶対に叶わない好奇心をふと覚えました。 あと仮に殺人が起こらず、無事に『そして誰もいなくなった』の劇が進行していたらどんな演出となっていたんだろう、とそんな部分まで興味がわいた作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『御手洗潔シリーズ』の長編作第5弾。
前作『暗闇坂の人喰いの木』も事件が戦前から戦後の時代、さらに舞台が日本とスコットランドを股にかける壮大な作品でしたが、今回は前作をさらに時間的にも空間的にも、そしてドラマ的にも全てにおいてスケールアップさせたような壮大な物語です。 まず作品構成からしてかなり独特で、序盤は古代エジプトを舞台にナイル川に住んでいた少女と若きファラオの物語と、1914年・大西洋に沈む運命のタイタニック号の船上での様子が交互に進行します。 まず冒頭200ページ読んだ時点では誰も『御手洗潔シリーズ』とわからない。それどころかミステリーとさえわからないような作りです。 この時点で人によっては「御手洗潔シリーズが読みたいんだよ!」「本格推理小説が読みたいんだよ!」と拒否反応が出るかもしれませんが、私としてはどちらも独立して魅力的なストーリーであったため楽しむことができ、またこの2つの物語と現代の御手洗潔がどう交わっていくのか序盤から作品に引き込まれました。 200ページを越えた所でようやく、物語は20世紀のアメリカに時代と場所が移り、前作に引き続き、シリーズのヒロイン役となるレオナが登場します。 このレオナも割りと好き嫌いが別れそうなキャラクターかなと思いますが、個人的には好きです。 強気でプライドが高く、ともすれば自己中心的で高慢な女性に映るのですが、実は結構Mっぽい所が好みですね(笑) 今回の事件の本当の主要舞台となるのはアメリカ南部のとある岬に建てられた、エジプトの最も有名で巨大な「クフ王のピラミッド」を上半分を透明にした上で実寸大で再現して作ったという、とんでもない建物。 (本当にアメリカ国内にそんなものが建てられたら、本物のピラミッドに劣らぬ観光名所になっちゃいそうですが) 宗谷岬の「流氷館」も個人が建てたものとしては極めてユニークで凄い建物でしたが、流石アメリカはスケールが違うと感じてしまいます(笑) そして、そこで奇怪な殺人事件が発生し、地元警察はもちろんアメリカの探偵も皆お手上げの状態となった所で、事件に巻き込まれたレオナが助けを求める形でようやく御手洗が登場するのは、400ページを越えてから。しかも鬱病での登場です。 しかしいざ動き出せば相変わらずのスーパーマンっぷりです。 事件現場のアメリカに向かうのはもちろん、その前に「本物」のピラミッドを見るためにエジプトにも向かい、前作に続き御手洗一行の旅行記も楽しむことが出来ます。 極めて壮大で豪華な作品なのですが、悪い部分も多々あり、人によっては(特にあくまで本格推理小説として見れば)駄作と断じられてやむなしと感じる作品ですが、個人的には単純にエンターテイメントとして見るなら最高に面白かったです。 (その点も前作をさらにパワーアップさせたような作品という感想です) ただその面白さも「ピラミッド」「タイタニック」そして「御手洗潔シリーズ」という元々あった魅力的な題材のブランドイメージのおかげという側面もあるかもしれませんね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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