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マリオネットK さんのレビュー一覧

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レビュー数78

全78件 1~20 1/4ページ

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No.78: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ミステリ版『鬼滅の刃』

本格ミステリでは近年稀に見る大ヒットとなった本作を遅ればせながらようやく読みました。
感想としては「読みやすいしそこそこ面白いし割と綺麗にまとまってる、一般大衆から支持を受けたのもまぁわかる。だけど別に滅茶苦茶面白いわけでも斬新なわけでも完成度高いわけでもないし、ここまで大ヒットしたのはなんかタイミングとかいろいろ運よくハマって分不相応に流行った感あるな」と言った所。

まさにミステリ版『鬼滅の刃』(私は鬼滅好きですよ、いくらなんでもあんなにヒットしたのは分不相応すぎると思うだけで)

▼以下、ネタバレ感想
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屍人荘の殺人
今村昌弘屍人荘の殺人 についてのレビュー
No.77:
(7pt)

シートン動物記を久々に読みたくなりました

この作者おなじみの、実在人物や有名文学作品を二次創作(?)的に本格ミステリ作品として生まれ変わらせるシリーズの一作。
今回の探偵役は日本でも『動物記』で有名なアーネスト・トンプトン・シートン氏と、彼に関わった動物たちで、短編七作で構成されています。

今作でのシートンは、動物の生態調査で養った観察眼をもって、かのシャーロック・ホームズよろしく、人間の行動に関しても抜群の観察眼と推理力を発揮して数々の事件を解決するという役回りですが、もちろん彼が主役なのですから全ての事件に動物も登場して重要な役割を果たし、またその動物は『狼王ロボ』を始め全て元のシートン動物記にも登場したものとなります。
なので子供の頃などにシートン動物記を読んだ人の方が当然楽しむことができ、また動物記を読み返したくなるような一冊でしょう。

文章は、誰の翻訳版を意識しているのかはわかりませんが、いかにもな海外翻訳物っぽい淡白な文章な一方で、どこか大げさで芝居がかった登場人物の言動などが表現されており見事だと思いました



▼以下、ネタバレ感想
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シートン(探偵)動物記
柳広司シートン(探偵)動物記 についてのレビュー
No.76: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

金田一耕助ではなく2人の女性が主役の物語

金田一耕助シリーズの中で所謂代表作と呼ばれるような作品よりは評価・知名度ともに一段劣る作品でしょうが、古い小説ながら読みやすく、終始ダレない展開で面白かったです。

今作の時代設定は昭和26年。
終戦後何十年も経ってから産まれた身からすると、まだまだ戦争の爪跡の濃い時代……というイメージがあるのですが、『獄門島』や『犬神家』などまさに終戦直後で戦争の爪跡が事件にも影響している作品に比べると、そういった影響はなく日本がようやく「戦前」の生活水準を取り戻した様子が感じられる作品でした。
(なのでむしろもっと古い、戦前の江戸川乱歩の作品などをどこか連想してしまう雰囲気・描写がありました)

▼以下、ネタバレ感想
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女王蜂 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
横溝正史女王蜂 についてのレビュー
No.75: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

それほど出来が良いとは言えないけれど、私は好き

県有数の富豪の家で一人の婦人が不審な死を遂げ、それからも一回忌、三回忌、七回忌……と法事の日の度に家の少女たちが無残に殺されていく……といういかにもな舞台で起こるいかにもな殺人事件というまさにコテコテの本格推理小説。
清清しいほど本格推理以外の要素を持たない作品で、本格推理小説である以上の意味もドラマもテーマもメッセージもそこにない小説。
なのでまず本格推理小説ファン以外にはオススメはできませんし、本格推理小説としても、名作・傑作とはお世辞にも言えないですが私はこういうの好きです。

どっかで見たようなのの流用感はあるものの、各殺人ごとにそれぞれトリックを用意しているのも個人的に好きですね。
特に第一の串刺し殺人は、島田氏の秘蔵っ子だけあり、島田氏に通じるような馬鹿……もとい大胆なトリックが見れます。
(細かいところはともかく、なんとなく予想がつくとこも含め)

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十三回忌 (双葉文庫)
小島正樹十三回忌 についてのレビュー
No.74: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『暗闇坂』や『水晶のピラミッド』が面白かった人なら間違いなく面白い

もう御手洗潔シリーズに『占星術』や『斜め屋敷』のような作品を期待してはいけないと最初から思いながら読んだ作品。
そしてもう明らかに『暗闇坂』『水晶のピラミッド』の系譜を継ぐ作品だということが読み始めてすぐにわかったので、期待するべきところは期待し、期待できない所は期待せずに読んだ結果。見事に良くも悪くも期待を裏切らなかった作品でした。

まさに『暗闇坂』『水晶のピラミッド』同様、あるいはそれ以上に、実際のページ数でも、世界規模の舞台設定も、作品に設けられたさまざまな仕掛けという意味でも非常にスケールの大きな作品であり、エンターテイメントとしては一級品、本格ミステリとしては「ちょっと待て」と言いたくなる、壮大なるバカミス作品でした。

まず序章となる、吸血鬼と呼ばれた実在する女性エリザベート・バートリーの物語だけで約200ページとこれだけでも長編小説と言えるだけの分量があり、正直「別にここ読み飛ばしてもあんま本筋に問題ないんだろうな~」と思いつつも、滅茶苦茶面白かったので(正直ここが本編より面白かったかも)不満なく読むことが出来ました。

全体としてはツッコミ所満載なのですが、1000ページ近い長さが苦にならず一気に読めてしまう面白さはやはり認めざるを得ないです。





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アトポス (講談社文庫)
島田荘司アトポス についてのレビュー
No.73: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

決して出来が悪くないだけに漂うチープさがもったいない

吹雪に閉ざされた山荘を舞台に、多重人格の殺人鬼による連続殺人が行われる、サイコサスペンスにして倒叙にして本格推理作品でもあるミステリ。

刹那的で軽い性格の殺人鬼の性格を描写するためか、はたまた元々は「作者当てクイズ」という趣旨もあり元の文章のクセを隠すためか、文章がラノベ的というか非常にチープさやB級感が漂っている作品です。
しかし面白い趣向が複数試みられ、展開もよく練られており決して出来が悪くないだけに正直もったいないと感じてしまいました。(密室トリックとアリバイトリックはしょぼいけど)
性的描写が必要以上に多いのも、無駄なエログロナンセンス感があって人を選んでしまうなぁという感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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白銀荘の殺人鬼 (カッパ・ノベルス)
彩胡ジュン白銀荘の殺人鬼 についてのレビュー
No.72:
(7pt)

いろんな意味で70年近く前だから許される作品

1950年発表の神津恭介シリーズ第二作目(三作目とも)
過去、信仰の力を持って富と財をなした一癖も二癖もあるような人物ばかりの旧家で、血塗られた予言に見立てられながら連続殺人事件が起こるという
どちらかと言えば横溝御大のようなカラーの、それ以上にカーやヴァン・ダインからの影響が多分に感じられる作品ですね。

犯人に翻弄されるように、舞台に居合わせながら次々と殺人を許してしまう神津が正直ふがいないです。
連続殺人を防ぐことが出来ない探偵というのは金田一耕助もそうですし、ある意味お約束ではあるのですが、神津はなまじ完璧超人の格好いいキャラクター像を与えられているだけに、かえって情けなく見えてしまうのが否めません。

また、読者への挑戦文が挟まれる作品ですが、もはや挑戦というより挑発的な文章で
「わからないって?困りますね、そんな勘が悪くちゃ」とか「ここまで書いてわからないようじゃ、頭がどうかしています」とか今の作家がやったら冗談でも許されないレベルで酷いです(笑)
あと当たり前のように『グリーン家殺人事件』の犯人の名前挙げるのも酷いです。(私は幸い向こうを先に読んでたけど)

いろんな意味で1950年という時代だから許されているような作品で、いろいろ物申したい部分はありますが、今じゃとても読めないという意味では面白い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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呪縛の家 新装版 (光文社文庫)
高木彬光呪縛の家 についてのレビュー
No.71: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

『星を継ぐもの』の続編作品

SF作品でありながら、ミステリ作品としても非常に評価が高く、このサイトでも海外作品総合2位(私も10点満点つけました)のいわずと知れた有名作にして超傑作である『星を継ぐもの』の正当なる続編。
……にも関わらず一作目から評価・知名度はグッと下がり、実際ここでレビューを書かせていただくのは私が一番乗りというこの作品。
その理由は決してこの作品がつまらないとか、出来が悪いからではなく、前作と違い、謎の提示と解明はあっても、あくまで普通(?)のSF作品の範疇に収まってしまっているからでしょう。

単純にストーリー性、娯楽面から見れば、前作がほぼ謎の提示と解明に終始しただけの作品であるのに対し、今作は実際に地球人たちが異星人たちと接触し、その交流が描かれるなどより展開に動きがあり、物語としてはこちらの方が面白いぐらいではないかと思います。
そして今作にもしっかり大きな謎とそれに対する驚きの回答が用意されてはいるのですが、やはり前作の謎の解明の際のインパクトとカタルシスには遠く及ばないですかね。

言うまでもないことですが、今作は前作の『星を継ぐもの』の真相に関わる、超重要部分がネタバレされているので、絶対にこちらを先に読まないようにしてください。

▼以下、ネタバレ感想
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ガニメデの優しい巨人【新版】 (創元SF文庫)
No.70:
(7pt)

夏目漱石の『坊っちゃん』を読み返せば2倍楽しめる?

日本の文豪、夏目漱石の書いた超有名作である『坊っちゃん』の世界観と登場人物をそのままに、あの親譲りの無鉄砲でいつも損ばかりしている「坊っちゃん」が探偵役となり、殺人事件を解決するというユニークな作品。

まずなんと言っても感心するのは、夏目漱石の『坊っちゃん』の文体をそのまま再現していること、そして主役の坊っちゃんをはじめ、登場人物の言動も完全に再現されており、まるで『坊っちゃん』の続編のようで、まさにこれは”贋作”なのだと感じました。

また20世紀初頭という時代背景を上手く実際に『坊っちゃん』の作中で起きた事件とも絡め、作中で新たに起こる殺人事件に絡めて行く手法も見事で、社会派ミステリとしての側面も持っています。(その反面肝心の殺人事件に関するトリックや犯人当てには少し物足りなさや、強引さを感じましたが)

またこの作品を読んで改めて感じたのは、夏目漱石の作品の中でも特に『坊っちゃん』という作品が大衆受けしたのは、この「坊っちゃん」の無鉄砲で喧嘩っぱやく、しかし一本気なキャラクターが非常に主人公的な魅力に溢れ、好まれるからだと言う事です。
『坊っちゃん』が発表されてから、日本は二つの世界大戦を経て、世の中の多くの価値観が大きく変動したにも関わらず、大衆に好かれるキャラクターというのは平成も終わろうとしている今日においても変わらないというのが面白いと思いました。

こんなふうに言いながら私はこの作品を読む前に元ネタの『坊っちゃん』がどんな話だったかは殆ど忘れていたのですが、思い出しながら、あるいは完全に未読でも楽しめる。あるいはこちらを読み終えてから改めて『坊っちゃん』を読み直しても楽しめる。もちろん、事前に『坊っちゃん』をしっかり読んでいても楽しめる。いずれにせよ夏目漱石の『坊っちゃん』を読めば2倍(2回)楽しめる作品ということです。

▼以下、ネタバレ感想
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贋作『坊っちゃん』殺人事件 (集英社文庫)
柳広司贋作『坊っちゃん』殺人事件 についてのレビュー
No.69: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

本格好きの自分の好みではないけれど、東野圭吾という作家の実力を改めて感じた一冊

手軽に読めるのが一つの売りでもある東野圭吾氏の作品にしては800ページ超のかなりの分量なのに加え、本格好きである私は数ある同作者の作品の中でも評価の高い一冊でありながら読むのを大分後回しにしてしまった作品です。
真相・結末に大きなトリックやどんでん返しが用意されているわけではなく、また私のような明確な「答え」「結末」というものを求めたがる人間には少し相性が良くない作品でしたが、ミステリというより純粋にストーリー性の高い小説であり、東野圭吾という作家の引き出しの広さや深みというものを感じさせられた一冊でした。

亮司と雪穂、男女二人がストーリーの中心となり彼らの20年近い半生を、昭和から平成への時代の移り変わりを振り返るように、主役である彼らの心情は一切描写されず、周囲の人間視点で綴られていく壮大なストーリーですが、元々は連作短編として連載されていただけあり、彼らに関わっていた人間たち個々のエピソードだけ見ても質の高いものを感じました(それだけに読んでいる途中で「あれ、あの人たちもう出てこないの?」と何度も思わされましたが)


▼以下、ネタバレ感想
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白夜行 (集英社文庫)
東野圭吾白夜行 についてのレビュー
No.68: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

初級問題と中級問題に分かれていたような感じ?

『国名シリーズ』の第三弾にして、シリーズ内でも名作として名高く、作家クイーンの評価を一気に高めた作品でしょうか?
もはや説明不要な徹底したロジカルさが特色のクイーン作品の中でも、とりわけその傾向が強い、まさに大作パズル問題のような一作です。

ストーリーは事件が発生した病院内での捜査にほぼ終始し、余計なドラマやサスペンス要素などは差し挟まない、非常に正統派かつストレートな推理小説となっています。
(まだヴァン・ダインの影響が強かった頃のためか、台詞まわしにやや衒学趣味が強いのは個人的にややハナにつきますが。あとクィーンと少年給仕のジェーナのBLっぽいやり取りは、今ではそういう層の人に目をつけられそうです)

第一の殺人に関する靴のロジックによる犯人の絞込みは大抵の読者が答えに到達できるでしょうが、第二の殺人の戸棚のロジックは難易度が高く、作中内で初級問題と中級問題に分かれていたような印象を受けました。ちなみに私は初級はクリアしましたが中級でつまずきました。

余談ですが、メモ用に余白が取られていた章で本当にメモ取った人なんているんでしょうか?
しかもあの部分、さして重要じゃないクイーン警視の誤った推理でほぼ埋まっていた気がするのですが、むしろどうでもいい部分だから暇つぶしに落書きでもしてろっていうジョークなんでしょうかね。


▼以下、ネタバレ感想
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オランダ靴の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンオランダ靴の謎 についてのレビュー
No.67: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

「文学」と「絵画」という二つのジャンルの橋渡しになっているかのような作品

今作は殺人や犯罪を扱ったミステリではなく、実在した不遇の天才画家アンリ・ルソーが描いたとされる、幻の作品を所有する大富豪に招かれた2人の男女が、それぞれの背後にさまざまな人物の事情や思惑を背負いながら、作品の真贋をめぐって論評対決するという独自ジャンルの作品です。

作者が本職のキュレーターでもあったというだけあり、絵画に対する知識と情熱がリアリティを持って伝わってきました。
かと言ってその分野に明るくない読者を置いてけぼりにするようなことはなく、キュレーターという職業やルソーと言う作家の絵画史における位置づけなどが非常にわかりやすく説明されており、物語にすんなりと入り込みついていくことができました。
ミステリ界に溢れている、作者に中途半端な知識しかないゆえに逆に単なる知識のひけらかしになっているような衒学趣味の強い作品に見習って欲しいものだと感じます。

作中ではルソーだけではなく、かの有名な天才ピカソも登場し、深く物語に関わってくるのですが、作中でも「この話はピカソが主役になってしまうんじゃないか」という台詞が出てきたとおり、どうしてもピカソが登場すると、ピカソの方が存在感が強くなってしまった気がします。
日本の大河ドラマや歴史小説で、本来の主役とされた人物より結局、織田信長や豊臣秀吉が目立ってしまうのに似たようなものを感じました。
とはいえ、この作品を読むまで恥ずかしながら名前ぐらいしか知らなかったルソーという画家の人生と作品に大きく興味を抱かされ、機会があれば彼の作品を実際に目にしてみたいと感じさせられた一作です。
作中のように画家やキュレーターや研究者がいかにルソーの評価を世間に見直させようとしても、私のような人間の耳には一切入って来なかったでしょうか、小説というジャンルを通すことで普段その分野に興味の無い人間にもルソーと言う画家の人生と作品が伝えられるというのは、素晴らしいことだと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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楽園のカンヴァス (新潮文庫)
原田マハ楽園のカンヴァス についてのレビュー
No.66:
(7pt)

全てのミステリ翻訳家は乱歩を見習うべきと思ってしまう

無二の親友と思っていた相手に妻を寝取られた主人公の執念の復讐物語。

幸福の絶頂から一気に突き落とされる主人公。生きながら埋葬された恐怖と苦痛と絶望。最愛の者たちに裏切られたという筆舌に尽くしがたい怒り。そして彼らへ壮絶なる復讐計画と実行……
始まりから終わりまでインパクトの強い展開の連続で非常にテンポよくストーリーが流れ、読みやすく飽きさせられない作品でした。
主人公に狂気を感じるとともに感情移入もしてしまう所がこの作品の魅力でしょうか。

海外作品の『モンテ・クリスト伯』の翻訳小説である黒岩涙香氏の『白髪鬼』をさらに乱歩が独自のアレンジで翻訳しなおした作品(とされています)
それゆえ日本を舞台にするのには正直いろいろ不自然や無理を感じる設定や展開もありますが、まぁそれもご愛嬌でしょう。

個人的にこの作品に限らず乱歩の海外作品の翻訳とされてる作品は本当に最初から翻訳というつもりだったのか、ほとんど海外作品のパクリと見なされたようなものを後から翻訳扱いにしたのではないかと常々疑わしく思ってしまっているのですが、しかし私としては決して乱歩を非難したいのではなく、むしろ乱歩が翻訳し、彼のカラーが大いに出た文章は古い時代の海外翻訳は言うに及ばず、現代の海外作品の翻訳と比べても圧倒的に読みやすくて面白いと感じるんですよね。
本来翻訳家というものに求められる仕事は元の作品になるべく忠実な翻訳であるべきことが第一とされるのが当然で、元の作品を殺さぬために自分を殺すことが求められる職業なのかもしれませんが、あまりに退屈で読みにくい翻訳の文章を見るたびに私は「乱歩を見習え」と思ってしまうのです。

▼以下、ネタバレ感想
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白髪鬼 (江戸川乱歩文庫)
江戸川乱歩白髪鬼 についてのレビュー
No.65: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

幻想的で官能的な作品に仕掛けられた綿密なトリック

ダム開発のために沈むことになった寒村を舞台に、複数の男女の思惑と愛欲が絡み合う物語。

推理小説というよりは純文学的な印象を受ける、どこか幻想的な雰囲気で綴られる文章を読み進めていくうちに読者は「ん?」と違和感や謎を次々と抱えることになり、そのまま作品の世界に本格的に引き込まれていく……そんな一冊です。
しかし、そこには最後まで読み進めると全ての謎が一本の線に繋がる、緻密なトリックが仕掛けられています。

官能的なシーンが多い作品でそこは人を選ぶかもしれませんが、個人的にはこれは俗な所謂「濡れ場」的なものではなく、作品に必要なシーンと受け取りました。

好みは別れそうな作品だと思いますが、『11枚のとらんぷ』とも『乱れからくり』とも(もちろん『ヨギガンジーシリーズ』とも)雰囲気も趣きも異なる泡坂氏の引き出しの多さを改めて感じさせられた一冊と感じます。

▼以下、ネタバレ感想
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湖底のまつり (創元推理文庫)
泡坂妻夫湖底のまつり についてのレビュー
No.64: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

10年は時代を先取りしていたIT犯罪小説の名作

作中で時代を分けて発生する2つの誘拐事件が、物語の主軸となるミステリです。
そして2つ目の誘拐事件の犯人は、他ならぬ最初の誘拐事件でさらわれた子供であり、今度はかつて自分が誘拐された事件の犯人たちへの復讐の意味を込め、完璧な計画の元、犯罪を実行するという内容です。
最初の誘拐事件では被害者の視点、二つ目の誘拐事件では犯人の視点で物語が進行する形になりますが、個人的に誘拐ミステリは犯人視点の倒叙形式の方がずっと好みですね。

そしてこの作品のもう一つの大きな特徴として、犯人は優れたIT技術者であり、その知識と技術を最大限活かして、当時の最先端と言うべきIT犯罪を行います。
この作品が発表されたのは30年前になり、作中で「パソコンっていうとデパートで売っているような奴ですか?」なんて台詞が出てくるほど、一般にITの知識は浸透していない時代背景です。今では当たり前に使われている用語にもいちいち説明を入れなければいけないような有様で、流石に「古臭さを感じさせない」とは言えないです。今読むとバリバリに時代を感じてしまいます。
しかしそれは実際30年前の作品で、この30年でIT分野は目覚しい発展を遂げたのだからそれは責めることはできないでしょう。
むしろ当時としては間違いなく10年は時代を先取りしていた小説であり、リアルタイムで読んでいた人はさぞ驚き、感心した内容だと思います。
(もし私がリアルタイムでこの作品を読むような世代だったら、もっと高得点をつけていたのではないかと思います)

▼以下、ネタバレ感想
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99%の誘拐 (講談社文庫)
岡嶋二人99%の誘拐 についてのレビュー
No.63: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

御手洗潔という男がよくわかる一冊

『御手洗潔シリーズ』の短編シリーズ第一弾。
四作いずれも短編でありながらそれぞれにトリックとドラマ、そして御手洗潔の魅力的な活躍が用意されており、実際のページ数以上のボリュームを感じる内容の濃い短編集です。

これを読めばとりあえず御手洗潔という男が如何に個性的で魅力的かということがわかる、まさに御手洗潔からの”挨拶”と言える一冊ですね。


以下個別ネタバレ感想です。

▼以下、ネタバレ感想
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御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)
島田荘司御手洗潔の挨拶 についてのレビュー
No.62:
(7pt)

当時の読者はどういう感想を持ったかに想像が膨らむ、最初期の推理小説

推理小説の父、エドガー・アラン・ポーの描いた本格短編推理小説の一作です。
『モルグ街の殺人』などで有名な世界初の名探偵オーギュスト・デュパンとは別の探偵役が登場します。

殺人事件が発生し、あらゆる状況が一人の人間を犯人と示しており、そのまま無実の罪を着せられそうになるが、探偵が謎を解き真犯人を挙げる……
という今日に至るまでの推理小説の定番パターンの始祖となった作品でしょう。

今の読者ならば真犯人は見え見えなのですが、当時の人間としてはこれまでに前例がなかったであろうこの物語をどのように読んでいたのかが気になった作品です。
そしてあまりに直球なタイトルですが、読み終えればこれ以外の上手いタイトルが思いつかないですね。

▼以下、ネタバレ感想
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No.61: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

人情ドラマが折り重なりが、事件を解決へと導いていく

日本橋の江戸情緒の残る町で発生した殺人事件。
新たに着任した刑事・加賀恭一郎は老舗商店街を舞台に聞き込み調査を行うが、そこに住む下町気質溢れる人々の「人情」が捜査を一筋縄ではいかなくさせる。
そしてそこには、事件とはまた異なる一人一人の物語があった……

殺人事件の捜査のために主人公である加賀刑事が「煎餅屋の娘」「料亭の小僧」「瀬戸物屋の嫁」……各章ごとに町に住むさまざまな人々の話を聞いていくという流れですが、章ごとに見てもそれぞれ独立した短編として成立しているという形式が面白く、またそれらが繋がっていくことで一つの事件の解決に向かうという構成が秀逸でした。

通常のミステリだったら、あるいは現実の警察にとっても、事件解決の上で情報提供者とは情報提供者以上の意味や価値はなく、その個々人の人格や事情は無視されがちなのですが、一人の人間である以上、事件とは別に彼らの感情や人生がそこにあるということを思い出させてくれるような作品でした。
そして加賀刑事が目先の事件解決にのみとらわれ、それをないがしろにしなかったからこそ、解決した事件と言えるでしょう。

本格ミステリ、推理小説としては少し物足りなさを感じるかもしれませんが、各章のそれぞれ見ても完成度の高い人情物語や、作品通してのテーマなどの面を評価すべき作品と感じました。
しかし、人々の心を懐柔する一方で、論理的にもスルスルと謎を解いていく加賀がちょっと完璧超人すぎて逆に人間味を感じない気がしてしまったので、もう少し「人情」の壁に悩まされる彼の様子などが見たかった気もします。



▼以下、ネタバレ感想
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新参者 (講談社文庫)
東野圭吾新参者 についてのレビュー
No.60:
(7pt)

「顔のない死体」というテーマをシンプルにつきつめた一作

100ページ強の中編作品。
おどろおどろしさや、複雑な人間ドラマといった金田一耕助シリーズらしさからは少し離れ、「顔のない死体」という本格ミステリの定番の題材に的を絞った作品です。


▼以下、ネタバレ感想
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横溝正史〈2 犬神家の一族・黒猫亭事件〉 (1977年) (別冊幻影城・保存版〈no.8〉)
横溝正史黒猫亭事件 についてのレビュー
No.59: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

無理に長編にせず、短くまとめているのが好感を持てる作品

新興宗教の信者である五人の男女が、教団の指示で大規模爆破テロを起こし、同じく教団の指示で無人島に逃亡・潜伏したものの、そのまま教団にスケープゴートとしてトカゲの尻尾切りにされ、無人島に置き去り状態に。
このままでは島で餓死を待つばかり、しかし島から脱出した所でテロで大勢の命を奪った凶悪犯として極刑は免れないという絶望的状況で、さらに連続殺人事件まで発生する……
孤島の連続殺人事件という定番のシチュエーションを扱ったミステリですが、登場人物たちが何重にも「詰んだ」ような状況が面白いミステリです。

上記の通り、登場人物が語り手の主人公含め、無差別テロで大勢の命を奪ったような連中のため、正直誰にも感情移入できず、助かってほしいとも思えないのですが、かといってあまり共感・同情できる境遇だと可哀想すぎて読んでて辛くなりそうなので、個人的にはこれでよかったかと。

終始緊迫感のある展開でテンポよく読め、結末はそこまでの驚きや意外性はありませんが、まぁ無難にまとまっているかと思いました。
これが300ページくらいの長編作品でしたら、可もなく不可もなくといったところで6点ぐらいかな、というところですが、150ページ未満の中編の範囲でまとめた所を評価し、一点オマケして7点で。

▼以下、ネタバレ感想
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生存者、一名 (祥伝社文庫)
歌野晶午生存者、一名 についてのレビュー