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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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5,6冊分ぐらいの警察小説を読んだ気持ち。良い意味でお腹いっぱい。充実過ぎる極太のハードボイルド小説でした。
冒頭より始まる手首を切り落とされた殺人事件から始まり、その被害者女性の夫の殺し屋、姿なき犯人、警察の三つ巴戦。この3つが大まかな区分であり、それぞれのストーリーでは、殺し屋やヤクザの背景、猟奇的な異常心理の殺人にまつわる話、警察側は現場や公安の組織の物語という具合で話がとてつもなく広がっていきます。思いつく警察小説におけるテーマがこれでもかってぐらい入ってます。著者コメントより6年掛けて2000ページ書き上げて1700ページにまとめた代表作とありますが、十分に納得できる密度と質が高い作品でした。 豊富な読み所の中で、読後に一層引き立つのはやはり主人公大河内刑事の物語。上司と部下の関係、刑事の仕事、家庭の悩み。猟奇的な事件の刺激に負けない、人間ドラマが描かれていました。 点数について。作品の質としてはもっと高いのですが、意外な驚きがない中での大長編なので、長かったという気持ちからこの点数で。見方の問題で、意外がなくとも王道で安心できる良さもあるので、ホントここは好みの問題です。 綺麗に話が終結し読後感もよい為、警察小説が好きなら外せない1冊かと思います。 |
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青い薔薇の温室。小窓はあるが室内の壁一面が薔薇の蔓が張り巡らされているという目張りされた密室の属性。首だけの被害者と謎のメッセージ。密室の情景が美しくとても魅力的でした。ミステリとしての仕掛けと物語の作りは非常に濃厚。読後感は凄く複雑な内容を作り上げる凄さを感じました。
読み終わってからの感想はとても良いのですが、そこへたどり着くまでの読書中はどうかというと、個人的な問題なのですが、あまりのめり込めなかったです。。。 本書は前作からの続きのシリーズとなりました。その為、時代設定がパラレルワールドの80年代。ちょっとSFが入る不思議な世界です。青薔薇におけるDNAや科学的の解説。「実験体七十二号」という怪物のような存在を感じさせる本書において、どこまでが現実的に解き明かせるミステリなのか?空想もの?読書中は判断が付かずで頭を悩ませてしまった次第。世界情勢も不明でU国やJ国という表現。登場人物名はカタカナの海外ミステリ模様。物語を楽しむ前段階で意図しない混乱をしてしまった次第です。本書はパラレルワールドの必然性は感じず、シリーズ故に引き継がれた設定が読みにくくしている難しさを感じました。作品はとてもよいのですが、好みの問題でこの点数で。 1-2作読んで傾向が分かったので3作目はちゃんと把握できると思います。しっかりした濃いミステリなので次回作も楽しみです。 言葉遣いが悪いけど特徴的なマリアと、丁寧な漣のコンビは中々よいです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは斬新で傑作。 大興奮の読書体験でした。
非現実世界での本格ミステリ。特殊設定のミステリはSFやらファンタジーやらで色々ありますが、本書はタイトルから察する内容のパニックホラーと結びつける事で斬新な内容に仕上がっています。読んでいてめっちゃ楽しかったです。 ホラー作品としての状況ならありがちというかド定番なのですが、ミステリを融合して見ると斬新なクローズドサークルものになっている事に驚きます。なんというか盲点で、ありそうでなかった。そしてただの思いつきのネタで終わるわけではなく、ロジック&トリックを絡めて、しっかりとハウダニット、フーダニット、ホワイダニットを検証していくコテコテの本格物なのが読んでいてテンション上がります。やっている事は懐かしいのに条件設定が新しいおかげで解が見えない。とても好み。 こんなに楽しめたのはアイディアだけじゃなくて、文章の読みやすさや、推理パートでの検証や謎の提示が巧くて先が気になる展開だからだと思う。 また、登場人物の作りがとても親切。人数が多くても把握しやすい。何故かというと例として、ホームズの愛称は明智恭介。美人な星川麗花。山荘オーナーの息子は七宮兼光(親の七光り)。山荘管理人は管野唯人。と言った具合で、キャラクターと登場人物名が一致しているので、この人誰だっけ?という心配が皆無。没入感を妨げず物語にどっぷりハマれるのが良かったです。 よくあるミステリはこうなるよね。というのを多く感じさせ、その展開を少しずらして新しくしているのも新鮮。 "斬新"という言葉を多く書いてしまいましたが本書はその要素の一発ネタではなくて寧ろ1つの要素なだけ。ミステリの舞台装置を整え魅力的な謎と丁寧な伏線や推理展開で楽しめる本格ミステリです。楽しいミステリを堪能できました。オススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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単行本と文庫で表紙とタイトルが変更されましたが、これにより作品の印象が大分変りました。
『死と呪いの島で、僕らは』として読むと序盤のホラーからして一転、ラストの結末への展開は若い世代向けのライトな青春小説とも感じます。 一方、『死呪の島』として読むと、呪いで閉鎖的になった島での不可解な怪奇現象に挑む、昔からなじみのあるホラー小説を感じます。 本書は6章ある構成で、各章ごとに、怪奇現象⇒プチ結末⇒新たな怪奇現象⇒プチ結末⇒・・・と続いていきます。章ごとに話の系統が変わる展開なのですが、色々なホラー小説を読んでいる気分になり、飽きさせない面白さになっています。個人的には2章目に出てくる『顔取り』が雰囲気含めて好み。漂流した首なし死体と、蘇る死者のホラー展開は、何が起きているんだ?という困惑と恐怖が楽しめました。4章ぐらいまでが好みだったのですが、終盤は全く予想外な話になっていき、ちょっと好みが逸れました。 読後に俯瞰して思う事は、1章~6章への各エピソードが、昔ながらのホラーから現代ホラーへと時代を駆け抜けて表現していると思いました。 科学が進化した現代では、呪いや超常現象的な恐ろしさを描こうとしてもホラー作品ではなく、「異世界ファンタジーもの」にされてしまう悲しさがありますが、本書は昔ながらのホラーから描いていく事と、全体を締める結末作りで一風変わった作品になっていると思いました。 そんな事を思ったので、改めて表紙とタイトルを見直すと、前半は『死呪の島』として感じる昔ながらのホラー、後半は『死と呪いの島で、僕らは』で感じる青春小説というわけで、人の好みによって本書は評価が変わるだろうなと思います。 他の方のレビューでもありますが、文章は読みやすく、いろいろ詰め込んだ物語なのに300P台でまとまっているのが凄いです。現代的な読みやすさでホラーが楽しめたという所は好みでした。終盤のなんでもアリ感はちょっと好みから外れたのでこの点数で。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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美術+コンゲーム。
投資詐欺に合い借金を抱えたそれぞれの男女。そこへ知恵者担当の協力を得て、借金返済の為に本書表紙になっているゴッホの『ガシェの肖像』を盗み出すという展開。 本書の面白い所はこの展開の中に史実として日本のバブル期の話を混ぜている所。 『ガシェの肖像』をWikiで調べれば実際にオークションで日本人が125億で落札している事が分かります。何故その時代に絵画が高騰して取引されていたか、土地や株の代わりに扱われた絵画の存在や、絵画に関わる富豪や画商などの美術関係者の話がとても面白く読めてかつ勉強になりました。銀行にて土地と同様に担保として扱われた絵画が倉庫に眠ったままとか、何故行方知れずになっている絵画があるのか感覚的に知る事ができた読書でした。 コンゲーム小説としても、詐欺模様が見えやすい所と隠す所が巧く、終盤の繋がりは大きくて面白かったです。 大仕掛けでパーっと気持ちが高揚した後、解説的な展開が数十ページ続いて熱がおさまり長く感じましたが、綺麗なラストで楽しめました。 絵画の価値は絵の内容や巧さの物についてではなく、その作品に関わる歴史に基づくものだと改めて感じた作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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楽しいエンターテインメント作品でした。終盤は、そうきたかと笑えてきました。
前半は海外文学が苦手な理由とされる要因のカタカナ用語が溢れます。このカタカナは人物名なのか地名なのか株式用語なのか、一方お金についてはドルやポンドなので感覚が掴み辛い。序盤は外れかも…… と思いましたが内容が分かればとてもシンプルな物語なので杞憂です。 補足しますと、 ・前半は大富豪の詐欺師ハーヴェイが石油会社の投資詐欺を行い富を得る流れ。 ・中盤以降は、騙された4名が団結してお金を取り戻す話。 これだけです。主要人物以外は登場人物リストにも載らない為、一時、誰が誰だか分からなくなりますが、メインの人物だけ把握して読んでいれば楽しめる作品です。 詐欺の内容や会話の雰囲気が軽妙でいて愉快で楽しいのが良かったです。 4名が行う詐欺は、詐欺と思われず相手の気分を良くしてお金を払わせるような内容なので、犯罪小説のような殺伐とした雰囲気はなく、愉快で温かみがあるのがよい。この雰囲気のせいか、だます対象の詐欺師ハーヴェイがそんなに悪役という感じもせず、実力派のよいおっちゃんに感じて憎めなくなってました。 ってか、思い返せば4人は実力派で地位もある方々なのに、思慮深さが微塵もなく、株で全力買いして騙されているのが笑えますね。騙されている時はどっちもどっちなのですね。 終盤の展開と読後感がよいので名作と言われるだけあるなと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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著者初読み。
最近の重版帯コピーより『ラスト30ページ、物語があなたに襲い掛かる―― 。直木賞受賞作』。 なんといいますか、終盤の締め方と読後の感想が『そりゃそうだよ』でした。 登場する人物や行動にまったく共感ができなかったのが好みの理由の1つでした。 就職活動の志以前に、なんで大学に通っているの?という印象でした。目的も弱くなんとなく過ごしていて就職活動になり、うまくいかない。自分の葛藤や本音をSNSへ発散している様。それを見る第三者が意識高い系とみるか、陽キャ・陰キャとみるか、心の拗ねた気持ちを読まされる読書でした。 本書の同じ境遇の人たちが繋がりを大事にして比較や格差を曖昧にして皆一緒だね。一緒に頑張ろうね。みたいなのは村社会というか日本っぽいと言われる姿なのかなとも感じました。氷河期の人間ですが、ハングリーに自己を形成して勝ち取るような行動力が身近だったので一緒にがんばろうみたいな精神が共感できませんでした。一方、SNSが流行っている現代だからこそ繋がってしまう息苦しさや匿名を渇望しているという視点で本書を見ると面白いかもです。どちらにせよ心苦しい気持ちというか共感できないモヤモヤが募り好みに合わずです。その為この点数で。 私の持つ感想は終盤に登場する面接官に近いのだろうな。と思うのと、そういう人向けのキャラ配置をしてくる作者の毒っ気が面白いなと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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お通夜に集まる参列者達の回想を群像劇に仕立てた作品。
読者は、それぞれの故人を想う回想を読み、断片となったエピソードが繋がるとある疑惑が浮かぶ体験ができます。 本書は手掛かりや伏線が非常に分かり易い。というか、あえて読者に伝えているのが分かります。 謎や仕掛けを隠して最後に驚かせるのではなく、手がかりとなるパズルのピースを伝えて、読者にピースを繋げる楽しさを与えているのでしょう。 正直な所、読書中はヒントがあからさま過ぎて答えをなぞるような感覚でした。その為、後半で二転三転しても驚くというより巧いつくり方だなという感覚の読後感でした。 ただ読後に知ったのですが、著者はお笑い芸人の方でした。それを知って非常に納得。本書の作り方は舞台の脚本ですね。 コント舞台の脚本みたいに、読者を置いてけぼりにさせず、常に楽しい刺激を与え続ける事に趣を感じます。その視点で本書を読み返すと中々親切で読者の事を考えられた作品だなと思いました。 読みやすくてユーモアもあるので、ミステリを読み始めの方にはお薦めです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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うぁぁぁ。。。。。なんちゅう物語を作るんだ……。これはヤバっ。
久しく忘れていたミステリの衝撃を味わいました。色んな意味で作者凄いわ。 文庫版あとがきより。 単体作品として終えていた前作『贖罪の奏鳴曲』を、出版社の強いリクエストによって続編化して生まれたのが本書との事です。 そこで感じるのが、ただ単に続編を作って商業的に作りました……ではなく、世界観・人物をきちんと掘り下げて意味のある続編にしている事。そして、読者を喜ばせようと、他シリーズである岬洋介のお父さんを対戦相手に添えたり、ここでは書けないあれやこれやが読者サービスやエンタメ性に繋がり、やれる事をやっちゃいました感がとても伝わる事が凄い。伝わり過ぎて愕然としました。。。 読みやすいのは相変わらず。 法廷ミステリの魅せ所もよく、検事vs弁護士の知的な戦いがよい。会話文で力量を感じさせるのも巧い。徐々に出てくる証拠や証言で読者が想像している事件模様が塗り替えられていく様も気持ちよい。もう、いろいろ凄い。 先人に習って『贖罪の奏鳴曲』→本書『追憶の夜想曲』と順番に読みましたがこれは必須で大事。 続編もあるんですね。楽しみなシリーズになりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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個性的なキャラクターが出てきましたね。
読後の解説より幾人かの登場人物が他作の『カエル男』に登場している事を知りました。 『カエル男』の登場人物はすっかり忘れていました。そういえば著者は作品間で他作のキャラを登場させる事が多いです。 ファンサービスを感じますが、これは作品に出てくる人物は使い捨てではなく、きちんと掘り下げた設定を与えて大事にしているのが伝わります。 さて、本書のシリーズ名になっている"御子柴礼司"弁護士もかなり特異な存在。名前が煌びやかなので輝いた弁護士をイメージしていましたが、序盤から犯罪者と思われるシーンやエピソードが連なり驚きます。犯罪テーマや社会問題を取り入れてくるのは著者の持ち味で巧い。ただそれ以上に本書はミステリや社会派というよりも色濃く"御子柴礼司"というキャラクターの紹介本だと感じました。このエピソードをどう楽しみ感じるかが人の好みかなと思いました。 あらすじに"どんでん返し"や"逆転"という言葉があると色々期待してしまいますが、ミステリとしては後出しの手がかりが多かったのが少し残念でした。裁判の場にて、意外な手掛かりが急に現れて困惑でした。主人公視点で読書体感していたつもりが急に傍聴席にいる一般人にされた気がしたので、謎解き目線だともう少し事前に何か手掛かりが欲しくなります。一方、これにより"御子柴礼司"の予測不能な魅力が引き立つのでこれはこれでアリなのかもと思う次第。 悪と善を持つ御子柴礼司の魅力が楽しめたので、続けて2作目を読んでみようと思います。 |
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リンカーン・ライムシリーズ4作目。
ページ数が多い作品は積読状態になってしまうのが悪い癖。 読めばやっぱり面白いシリーズで楽しみました。 1作目から順番に読んでますが、本作は内容がとても把握しやすく読みやすいです。 あらすじから社会派のような重い移民の話が感じられるのですが、事件の概要はシンプル。 密入国の移民船をゴーストが爆破。生き延びた移民を始末しようとゴーストが追いかける。 移民を殺されないように現場の手がかりを推理してゴーストを追いかける。というシンプルな物語。 この物語を軸に、1作目を彷彿する現場検証の楽しさ、アメリアとライムの関係、新登場の中国刑事のリーとライムの人間模様というキャラ展開が楽しめ、ゴーストの犯人視点や、逃げ延びる移民視点での展開を読ませて飽きさせない作りになっています。読めば一気読みの楽しさは流石。 見どころとして、中国人刑事のリーとライムの関係が良かったです。 米捜査視点では疑心状態のリーでしたが、異なる操作方法を認め、人間関係ができていく姿は心地よかったです。 酒の味を認め合う表現やライムがプレゼントするあたりのシーンは心にきました。 シリーズが進むごとに評判が良くなるので、引き続き追っかけてみようと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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言葉遊びのネタに特化した短編集です。短編4つの作品のテーマはそれぞれ
・同音異義語による聞き間違い ・日本語/英語の聞き間違い ・ワープロ誤変換 ・表現、印象操作 を扱ってます。 前2つはお笑いコントのような話。電話越しで「きせいちゅうです」と聞いた時、"寄生虫です""帰省中です"の誤読が生まれる。日本語は同音異義語が多い為、前後の文脈から言葉の意味を推測するわけですが、このネタをふんだんに盛り込んだ結果、勘違いのコントに仕上がっています。 どこで勘違いしているかが分かり易いので、ずっとボケ続けている様子を見るのはちょっとシラケ気味でした。ただ、多くの聞き間違いネタを披露している所は面白かったです。 3作目の誤変換を扱った『鬼八先生のワープロ』は、かなりトンデモ作品。 キーボードで入力した平仮名としては全く同じ文章なのに、 評論家の酷評文章が誤変換によって下ネタ小説になってしまう作品。 『ここ数年。恐るべき新人が…』⇒『ここ吸うねん。お剃るべき新人が…』という感じで変換されていく下ネタ小説。 もう、アホかとw これは変態作品(褒め言葉)。ある種の病気。苦労系のバカミスを感じながら、物語を楽しむよりこれだけ豊富な語彙がでてくる事に驚きを味わう作品。 短編集ですが、この作品が一番やりたい事かと勘違いする程に際立った作品でした。 4作目の表現印象操作は、TVの問題やそれに負けない文章を紡ぐ作家の思いを感じました。 そんなわけで、帯に"トリック"や"犯人"という誘い言葉がありますが、個人的にこれはミステリではない作品だと思います。 技巧系作品です。語彙が豊富でないとできない作品ですね。ほんとうに凄い。そしてチェックする校閲も凄い。実際どうだか分かりませんが、制作現場が気になった次第。 ミステリのミスリードや叙述トリックなんかは、この言葉遊びによる対読者への印象操作ですものね。普段から作家さんはこんな事を考えながら思いついてニヤニヤしているんだなと勝手に感じて面白く思いました。 |
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好みの内容でした。
ジャンルはSFミステリ+脱出ゲームもの。 NintentoDS用ゲームソフト『極限脱出 9時間9人9の扉』のシナリオを元に、黒田研二氏によって小説化された作品です。 ルールが面白いので少し説明します。 ---------- ・9人が閉ざされた空間に閉じ込められ、9時間以内に脱出しなければ死が待つ。 ・9人にはそれぞれ1~9の番号が割り振られている。 ・脱出する為の各所に番号が書かれた扉があり、扉を開ける為にはメンバーの数字の組み合わせによって生まれる「数字根」を合わせる事が必要。 この「数字根」を使ったルールが斬新でした。 ※数字根というのは、足し算後の各ケタの和を1桁になるまで求め、最終的に1ケタになった数の事。 例:1と5と7の数字根は、1+5+7=13⇒1+3=4 4の扉を開ける為には、1と5と7の番号の人が必要(2,4,7でもよい)。かつ、該当者以外は扉の中へ入れない。 という具合です。 ---------- どの組み合わせで扉に入るのか?扉の先に死体があれば犯行の可能性があるのは誰なのか? 途中途中、数字根を計算しながらこの人物が怪しいとか考えながら楽しみました。 コテコテの頭脳戦ものかと思えば、上記はルールの土台の1部なだけであり、中身はSF的な特殊状況を用いたシナリオになってます。 SF的な所は好みの分かれ所ですが、作品全体を通して意味があるシナリオ作りなので個人的には意表を突かれつつ楽しめました。 探偵役がスーパープレイ過ぎて、そんな手がかりあったっけ?と一気に解決する様が困惑でしたが、気にしなければデスゲームや脱出もの作品としてはクオリティ高い仕上がりで良かったです。結末も綺麗にまとまっていて、この手が好きな人へはオススメです。 難点は講談社BOXの値段が高い事。しかも上下巻。。。1冊の文庫で値段がお手頃ならもっと読まれると思いました。 ※余談ですが、ゲームもプレイしました。 ゲーム版で説明不足に感じる点は、後発の小説版の方が丁寧に説明されています。 謎解きの仕掛けはゲーム版の方がしっかりと作られていました。何故ここで、この問題なのか段階的に意味がある作りでした。 エンディングについては小説版がベスト。とても素敵な気持ちよさで終わるので小説版が真のエンディングでしょう。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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深水黎一郎作品の持ち味が輝いてますね。
昆虫の話と著者の好きなクラシック音楽の薀蓄が面白い。それらが単なる衒学小説にならずにミステリと絡んでくるのが好み。 本作はいじめや少年犯罪のテーマを掲げている為、雰囲気がちょっと重いのが好みから逸れて薦めづらいかかも。 同梱されている短編『シンリガクの実験』は本作の初稿かな。 勝手な想像ですが、生徒の心理模様を扱うミステリとして始まった企画で、昆虫に例えると、短編が幼虫で五声が成虫として進化されている様を感じました。姿形が変わって別作品となってます。どちらも面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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著者の作品は、何かしらテーマを決めて他作では真似し辛い特異な作品作りをするので好みです。
本作はタイトルにある殺し方(ハウダニット)をテーマとした特異な存在となっております。他で真似できないような仕掛けの2つの物語です。 正直な所を申しますと衒学的な小説でした。専門知識の紹介が伏線となったり段階をおって読者を惹き込めればそれなりの仕掛けと驚きを得られそうな印象なのですが、短編なので心構えができないまま急に出てきた仕掛けに困惑します。これはかなり好みが分かれる作品かと思いました。 1作目『不可能アイランドの殺人』 何が起きているか分からない超常現象の作品。オカルト?ファンタジー?何なのコレ?と、心構えが分からず、どう感じたらよいか困惑の読書でした。読み終わると、あ、そういう事なんだ。一応ミステリだし、ハウダニットもなるほどな。と置いてけぼりを受けながら納得した読書でした。☆4点。 2作目『インペリアルと象』 前作でちゃんとミステリをするという事が分かったので心構えができての読書。ただ中身はクラシック音楽の薀蓄が披露されます。 クラシックは好きなので、私的には好みで楽しめました。ただ、これって興味ない人には目が滑る読書になるかと思います。。。 この2作目はとても好みでした。薀蓄もトリックに結び付きますし、音楽ミステリとしては作者の知識が披露された濃い作品となっています。 個人的には長編で読みたかった作品でした。☆7。 一般向けではない、ちょっとマニアックな作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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魅せ方や構成がとても巧い。面白かったです。
読後に全容を見直してみれば、とてもシンプルな事件としてよくある構図だと思います。ですが、こうも気持ちが深入りしてしまうのは読者への伝え方が巧いからですね。発生した事柄はシンプルですが、それを取り巻く気持ちの伝え方が巧い。著者の技だと思います。 法廷ものは裁判の結末はどうなるのか?というゴールが焦点となりがちですが、本作は読者を事件の当事者の一員かの如く、深い所へ心情を巻き込む事に成功していると思いました。正義への姿勢、組織へのやるせなさ、事件に関わった人達の心情など、色々な気持ちを痛切する作品でした。 事件模様の他にシリーズ1作目だからか検事と弁護士の紹介の為のエピソードが含まれています。この内容も組織や関係者の感情を得るためには必要となる要素として活用されているのが凄い。300P台で収まっているので無駄を削いだ密度の高い作品だと思います。 好みとして哀愁漂う読後感なのでこの点数で。裁判の終盤模様がとても面白かったので次回作も期待。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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たまに変態小説を読みたくなる、そんな時に手に取る平山作品。
序盤2,30ページ程は、言い回しとクセのある比喩が気になる文章が続く。読み辛くとも我慢して読書。 辛いのは最初だけで、途中から普通の文章になり読めました。 いつもながら変態設定な登場人物達が魅力的。 自分の子供の首を切断し何処かへ隠した母親。その首を欲する死に際の物語を集めるコレクター。首を探す主人公。犬を振り回す怪力男。などなど、クセが強い。 グロくて気持ち悪いけど、何故かユーモアがある所は表現の巧さというか、人それぞれの好みですね。 話はめちゃめちゃなのですが、全容が分かるとブラックユーモアな所が面白い。 ただ、メルキオールが登場したあたりから、ファンタジー色が強くなってしまったのが好みではありませんでした。 求めていたのは、現実にはないけれど、現実のどこかにありそうなアングラ世界のバランス。これはファンタジーでしたね。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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面白かった。
永遠の若さを手に入れられるが、人類の世代交代を促す為に100年後に死ななければならない。 この設定だけで特異な小説なのですが、内容が非常にリアルに描かれている為、違和なく没頭できました。 こんな事が現実に起きたらどうなるんだろう?と考えた時の可能性が、非常に練られたシミュレーションとなっているのが見物。 不老な為、年齢の関係ない自由恋愛や別家族を新たに作り直すファミリーリセットや、100年目を迎える人々の受け入れ方や反発心などの感情面、100年生きられると認識している場合、活動が怠惰になり経済面が衰退するなど、作中に出てくる未来を暗示したMレポートが本書自体のような錯覚を得ました。(作者名の宗樹レポートなんちゃって) 余談として、不老世界な為、絵面を想像すると皆20代付近の容姿なのが面白い。会話の言葉遣いで立場や貫禄を読者にイメージさせているのが作家の技だなと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「密室十二宮」完結。本作は単体では楽しめず、3~5巻を上中下巻と捉えた方が良いです。
振り返ってみれば、本格ミステリのトリックを十分に楽しめる作品でした。古典的トリックや有り得ないと思える仕掛けを、このゲーム的な世界観だからアリと思わせるバランスが良かったです。 個人的な難点は、3~5巻の発売が間延びしていたので、前後の関係や登場人物を忘れてしまった事です。せめて主要人物紹介のページは欲しい。この人誰だっけ?というのが多かったので作品に没頭し辛かったです。事件現場やトリックが豊富な所は楽しめますが、豊富過ぎてパズル・ミステリの問題集のように感じました。物語を楽しむというかトリックネタを眺める感覚でした。 3巻でアホキャラになりかけた五月雨が、本作ではちゃんと探偵として活躍していたのが良かったです。物語はどう進むのだろう。DSCナンバーもインフレしてしまっているし。。 次回作は1巻完結もので楽しめる作品だと嬉しいなと思う所です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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あらすじの設定はとても好み。ループ世界に閉じ込められ、脱出する方法が同じ境遇の仲間の誰かと恋人になる事。
脱出する為の条件が新鮮でした。どのような展開がなされるのか期待が高まっていたのですが、本作は好みに合わずです。 主人公には、元々告白しそびれた好きな人がいたのですが、ループ世界から抜けられずに暮らしていると他の人が気になり始めるわけです。この心理・恋模様を見せられるのですが、浮気のような"好き"の感覚が軽くて共感できず。そして、ループ世界の必然性がありません。この内容の恋愛話では、どこか遠くへ連れ去られてしまった境遇でもよさそうです。 確かにこの世界に長く滞在していた桜庭視点では世界観に意味が生まれるのですが、読者が追体験する主人公視点では浮気模様を読んでいるような気分でした。 主人公視点の魅せ方がとてもミスマッチ。ページの半分以上を桜庭視点で描いた方がもっと深く共感できる世界と物語になると思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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