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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数738

全738件 441~460 23/37ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.298:
(7pt)

眠りの牢獄の感想

地下に監禁され、出してほしければ過去に起きた事を示せと閉じ込められるパート。ネットで知り合った2人が交換殺人を行うパート。大きくはこの2つが同時進行するお話です。

この2つがどんなミステリ模様となるのかは、なんとなく想像出来てしまいますが、ちゃんと複数のひねりがある本格ものになっており楽しめました。

作中に出てくる作家の言葉より
『ミステリマニアが読めばネタが割れてしまうような分かりやすい伏線の方が、普通の読者にはウケがいいと思うんで、』に始まり、気になる所はわかっていて書いているんだよと伝えられた点は好感でした。

短い小説の中で、巧いストーリーになっているのが見事でした。
終始、どよ~んとした重い空気な所は合わず。

▼以下、ネタバレ感想
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眠りの牢獄 (講談社文庫)
浦賀和宏眠りの牢獄 についてのレビュー
No.297: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

闇に香る嘘の感想

個人的な乱歩賞のイメージ通りの作品。メッセージ性の強い社会派でありながら、あれやこれらが伏線として繋がり、終盤は綺麗に回収されている事に驚きました。

盲目の老人が主人公。白杖を携え街を歩く事、対人との表情の見えない会話、点字の学習、孫に何か残してやれないかといった家族への想いと葛藤が描かれます。そしてテーマはこれだけではなく、盲目作品といえば疑心暗鬼もの。本書も目の前の兄は本当に自分の兄なのだろうか?と疑問が生まれ、生い立ちの回想から戦時の中国残留孤児に関するテーマが追加され、さらなる話へ移っていきます。

テーマが多いのは人それぞれの好みかと思いますが、個人的にはお腹いっぱい。説教ではないけどメッセージが強くて堅い小説を読んだ印象でした。主人公も何だかネガティブで口うるさくて共感できない。老害と呼ばれてしまうぞ。。という思いであまり気乗りしない読書です。小説を読んで情景を想像する事は盲目の老人と同じ印象を得た気持ちでありましたが、1点どうも想像できないのが、主人公や年上の方々がアクティブ過ぎる事。70歳超えてますよね?老人には無理でしょと思うアクションシーンや、あの時よく生きてられたね。という非現実感が好みではなかったです。

とはいえ、終盤は様々なエピソードが綺麗に繋がる幕引きで加点です。
読書中は辛いけど、最後は面白いものだった。と、個人的にいつも思う乱歩賞の作品でした。


あと余談ですが、審査員の作家の方々が、元のタイトル『無縁の常闇に嘘は香る』に難色を示す話が面白かったです。そこまで悪くは感じませんでしたが、出版された本書の『闇に香る嘘』の方が確かに素晴らしいので、審査した作家の指摘と編集の技術を感じました。


▼以下、ネタバレ感想
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闇に香る嘘 (講談社文庫)
下村敦史闇に香る嘘 についてのレビュー
No.296:
(6pt)

鸚鵡楼の惨劇の感想

オウムを漢字で表記したタイトル『鸚鵡楼の惨劇』。このおどろおどろしい文字の雰囲気はいいですね。
ただ、期待した怖さや嫌な雰囲気はあまり感じず、心理面はあっさりしていました。
宣伝キャッチのフジコを超える"戦慄"とか、 担当編集のコメントで使われている単語や、"惨劇"とか"イヤミス"とかのPRに期待してしまうと、ちょっと肩すかしな印象です。ただ、女性向けの商品作りとしては釣針が豊富で巧いなーと感じる内容でした。
作品内に出てくるエッセイストさんのセリフと読むと、仕事の為や読者サービスの原稿作りの考え方は、作者の気持ちが出ているように感じました。

ミステリ模様は終盤になってやっと発生しますが、それまでのエピソードを絡めて読者をミスリードする技は巧いです。やられた!というものではなくて、作品の作り方が巧いな~と感じる内容でした。文章が読みやすいのもよいです。

もうちょっと棘がある作品を期待してしまったので、個人的に普通なミステリの印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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鸚鵡楼の惨劇
真梨幸子鸚鵡楼の惨劇 についてのレビュー
No.295: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

その可能性はすでに考えたの感想

すべてのトリックが不成立である事を立証し、奇蹟を証明する物語。
購買欲としては、タイトルと設定の新しさで勝ちですね。

過去に起きたとされる、ありえない現象を推察する話は島田荘司を彷彿しました。こんな事起きるはずない、でも何が起きたんだろう?奇跡の真相を楽しみにしながら読みました。

こんな事が起きたのでは?というトリックの内容は奇想天外もの。
正直、突拍子もなさ過ぎてついていけない気持ちでした。ただ、地味な仕掛けをいちいち検証してページ数を割くのではなく、読者が想定していないトリックを手短に楽しませるという意味ではアリなのかもと納得する事にしました。衒学やキャラ物の内容が多かったのですが、これよりもっと多くの可能性を見たかったのが正直な所です。なんとなく他にも方法が残っているんじゃないの?と感じてしまう物足りなさがありました。
また、これは奇跡だ!と、どう納得させられるものを見られるのかと興味津々だったのですが、肝心のそこはちょっと期待外れだったのが正直な感想です。

帯のコメントが麻耶雄嵩でしたが、読後に意図が分かってクスっとしました。

▼以下、ネタバレ感想
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その可能性はすでに考えた (講談社文庫)
井上真偽その可能性はすでに考えた についてのレビュー
No.294:
(6pt)

犯罪の感想

200P台の本に11の作品が含まれた短編集。1つ辺り20Pちょっとで登場人物も少ない為、海外作品に苦手意識がある人にも読みやすい作品。ページ数が少ないとはいえ、中身に無駄がなく濃密な文章を得た気持ちでした。

ただこの作品、謎解きや仕掛けがあるミステリではないので、好みが分かれそうです。
弁護士視点から依頼者の犯罪を聞き、その犯罪の結果だけでなく、その人の人生模様を感じる文学作品となっています。私は、作品に気持ちが入りこむことはなく、様々な人生を眺めるような読書でちょっと物足りませんでした。

好みは『エチオピアの男』です。
『エチオピアの男』はなんといっても読後感が良い事。そして犯罪者とされる人物の人生が短いページ中にぎゅっと詰まっていてよい作品でした。

『犯罪』というタイトルから感じるオドロオドロしさはなく、寧ろ爽やかにも感じた本書。
嫌な気持ちにならずに様々な話を楽しめた不思議な作品集でした。
犯罪 (創元推理文庫)
No.293: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

100人館の殺人の感想

100人の容疑者。これだけで手に取ってもらえる作品のキャッチとしてはアリですね。

パーティ開催中に殺人事件が発生。その舞台に集められていた人数は総勢100名。100人の容疑者という、読む前から把握できるのかと不安を感じる本書ですが、それは杞憂です。探偵やアシスタント、メイドや警察や殺し屋など、主要人物は特徴的に描かれているので、多くの容疑者は気にせず読書可能でした。

その場合、100人の意味はあるのかと考えると商業的なキャッチが主で、物語の必要性としては弱く感じました。50人でも80人でも変わらない気がしました。ただ、何故こんなに人がいる中で殺人が行われたのか?という考え方は面白かったです。

橋は爆破されて交通不可。なんで爆弾なんてあるんだよというツッコミや、よくある少人数のクローズド・サークルでは閉じ込める事に意味が見い出せるが、100人の規模の意味は何か。姿をくらませるから?でもそれなら犯人も逃げられないし、閉じ込める必要ないじゃん。などなど、舞台ならではの推論が考察されるのが面白い。

作中の雰囲気もユーモアに溢れて軽いのが個人的に読みやすかったです。著者の経歴を見るとゲームプランナーだったので凄く納得。多少非現実的でも面白さを優先させるゲームシナリオを感じていました。

100人いた為か、あまりキャラクターに思い入れができないままの読書だったのが残念ですが、ミステリのパズル的な面白さが楽しめた本でした。

▼以下、ネタバレ感想
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100人館の殺人
山口芳宏100人館の殺人 についてのレビュー
No.292: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

多重解決もので名を刻む作品

とんでもない作品が出てきましたね。傑作です。

TV番組に集められたミステリ読みのプロ達が、早押し形式で事件の真相を言い当てる。
この仕組みが非常に効果的で、こんな事を思いつく作家の創造の凄さを感じました。

構成は、
問題編⇒早押し(回答編)⇒問題継続⇒早押し(回答編)⇒問題継続……
となっています。

問題編ではクローズド・サークルの舞台で殺人事件が起き、登場人物や手がかりが徐々に明かされる中、早押しで途中まで提示された手がかり+想像力で推理を組み立てます。ミステリ読みのプロ達の回答はどれも唸らされるものばかり。
些細な文章やエピソードから驚くべき想像力で事件の推理を組み立てるのですが、それが非常に面白い。間違えでもアリだと思わせる納得の推理。読者が想像しそうなミステリのお約束の回答をことごとく潰していく様も見事です。

問題編と回答編が進む中、新たな手掛かりで過去の文章やエピソードの内容が様変わりするのも面白く、何が正しくて、何が間違いだったのか、混迷してきます。細かい出来事がもれなく手がかりになっている作り。本書の全編が問題編でかつ推理パートでもある。ミステリ好きならワクワクする事、間違いなしです。楽しい読書でした。

また本書は、ミステリ読みならどこかで目にしている『後期クイーン的問題』も含まれています。全ての手がかりが保証されていない中での真相が真の解決とはならない。この問題を、クイズ形式+ミステリ読みのプロ(探偵役)の組み合わせで作品にしているのも見どころです。

多重解決ものは目まぐるしい推理に後半疲れてしまう傾向なので、好みが分かれがちなのですが、本書はこれでもかってぐらい要素を盛り込んでいるので、疲れはするけど面白さが勝り、記憶に残る作品となりました。
こんなにもの多重解決の整合性を保ちつつ遊び心が満載な作品を作れるのが凄まじい。
著者の作品は、作品に対して何かしらテーマを盛り込み特化させているのが本当に素晴らしいです。今後の作品も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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ミステリー・アリーナ (講談社文庫)
深水黎一郎ミステリー・アリーナ についてのレビュー
No.291: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(2pt)

RPGスクールの感想

作者と担当編集者の方は、過去2作と違う人でしょうか?そんな風に思うほど違う印象。
今までと違い、話のテイストを変え、今作では趣味全開のノリノリで描く作者の楽しそうな姿が見えます。キャラや会話のテンポは良いのですが、独特な世界観の情報が不足で、頭の中に情景が浮かび辛い作品でした。編集の整え方が過去と違うのかと思うぐらい読み辛いのも難。
私はゲームもRPGもミステリも好き。ライトノベルも問題なし。だけど本作は合わなかったです。商業作品というより作者の趣味本であると思いました。
章タイトルから感じるスクエニ系のゲームネタや、ゲーム・アニメの定番のセリフなど、クスっときました。超能力ネタなどミステリとして活用されているよさもあります。ただなんというか、全体としてピタっと結びつく考えられたものというより、ネタの詰め合わせの印象です。
過去2作はミステリの根底を大事にしつつ悪ふざけのノリを小出しにしてましたが、本作は逆の作りで趣味全開でした。

期待とのギャップでの点数となりますが、合いませんでした。
ただ作品は気になる作家さんなので、今後も期待で買ってしまう魅力があります。
RPGスクール (講談社ノベルス)
早坂吝RPGスクール についてのレビュー
No.290: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

レインツリーの国の感想

個人的な事ですが、昔を思い出しながらの読書体験でした。
ネットで知り合う。となると今では出会い系、SNS、といった単語が返されるのですが、15年以上前の90年代では、パソコン通信やniftyフォーラムとか、ネットができる一部の人がテーマを掲げて交流していました。なんというか誰でもネットが出来たわけではないので、ネットが出来る人同士の不思議な仲間意識があった気がします。
本書のように個人サイトがあり、管理人にメールして交流するというのは自然と行われてました。相手の年齢・性別・容姿などは分からないまま、というより気にせず、ただ興味が近い人同士でメールで交流したものです。オフ会も何度もしました。本書の登場人物の方も、私生活では閉じこもり人と会わないけれど、オフ会だけは出てくる人もいました。

そんな経験があるもので、本書の出会い方やメールでのやり取りは微笑ましいものを感じました。他人のメールのやりとりを覗いているようで、くすぐったかったです。
今の世の中ではこういう出会いはし辛くなっていて、実名制のFacebook等、内面だけでなく、人柄、姿、所属など情報量が増えた条件で出会う事になっているのかなー?とか考えました。なので、本書のやり取りは、個人的には昔を思い出すのですが、現代の子達にはピュアに映るんではないかと感じます。

ところで正直な所、伸の発言や行動に共感できない事が多かったです。。。いろんな恋愛観があるんだなと感じました。結局な所、伸は第一印象重視で、ナルシストな印象でした。たまたま好きな本で繋がった、ひとみの内面から惹かれるわけですが、、出会ってみてうまく行かないだけで怒るシーンがありますが、もう失礼極まりない。もともとこういう性格なのかな。事前に出会っているナナコも最初の印象が悪かっただけで、相談してみるとその子の本質が少し見えて、実はいい子かと考えを改めたりと、性格が悪く感じてしまうのが凄く気になりました。うまくいえませんが、伸との性格の不一致でモヤモヤしてました。

作品テーマの障害を伝える事に対して、恋愛物に創り上げているのはとても巧いなと思いました。ページ数も手ごろで、映画化もされるので、若い世代にも見られる事でしょう。
こういうエンターテイメントの構築はこの作家さん凄くうまいと改めて感じました。
レインツリーの国 (新潮文庫)
有川浩レインツリーの国 についてのレビュー
No.289:
(7pt)

“文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)の感想

文学少女×ミステリというと、ビブリア古書堂シリーズが思い浮かびましたが、それよりも古くそしてライトノベルな作品。ただし中身はシリアスで結構重い。読書前と読後でイメージが異なった作品でした。

シリアスな雰囲気の中、文学少女の遠子先輩が総じて明るいキャラクターなのが良いです。よく喋る文学少女って意外とない設定かも。明るく博学で熱い想いがあるのが魅力的。
ただ、キャラ設定として拒絶反応が出そうなのが1点。この文学少女、本を食べるんですよね。びりっとページを破って食べる。甘い甘いお話が食べたいとか、悲しい話で変な味~とか。これだけはちょっと合わなかったです。

そんな訳なので、この本をどう読んでよいか序盤迷いました。真面目に読むか、不思議現象も考慮する作品なのか?と。お伝えしておきますと、本を食べるエピソード以外は真面目に読んで大丈夫です。

物語は太宰治の人間失格を活用した学園ミステリが進行します。
太宰治の作品は暗いとか、合う人合わない人がいるのは共感の度合いとか、落ち込んでいる時に読むと取り込まれるとか、何気ない太宰治作品の解説が読後に全体像と巧く結びついてくるのが見事です。

結末も予想していなかった展開で、シリアスだけど最後は爽やかに終わる、意外な作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)
No.288: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ドミノの感想

舞台は東京駅。保険の契約ノルマで奮闘する人、俳句仲間のオフ会、男女のもつれ、オーディンションを受ける子役、爆弾犯、etc...
総勢28キャラが交差する物語。

サウンドノベルゲームの『街』『428』が好きなのですが、これに似た小説が読みたいと探した所、見つけたのが本書の『ドミノ』でした。ゲームを知っているなら同じ雰囲気を楽しめます。

本書の凄い所は、28もの登場キャラがいるのに混乱がない事です。
ゲームのように音や写真・イラストはなく、文章だけで書き分けて混乱させないのは凄いです。そして、それぞれのキャラ達は自身の物語が存在し、それぞれの主人公なのです。個々のストーリーを楽しみ、東京の舞台でそれぞれが交差し、あれがここで影響して、あの人の行動がこっちで影響して。。。という楽しさが最高でした。

サウンドノベルゲームの場合、プレイヤーが物語に介入して失敗すればバッドエンドが起きますので、誰かが死んじゃったり、悲惨な結末が起きる刺激がありますが、小説による偶像劇の場合はエンディングに向けて1本道を進むので、刺激的なアクセントが付け辛い難しさがあると思っていました。が、本書は爆弾事件や保険契約処理のノルマなど、タイムリミット系のハラハラ内容を複数設置することで、飽きさせない作りにしている点で成功しています。

悲惨な事件や複雑な仕掛けはなくて、サラッとしていますが、気軽に楽しみ充実できる良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ドミノ (角川文庫)
恩田陸ドミノ についてのレビュー
No.287: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

オルゴーリェンヌの感想

書物が駆逐され、水没しつつある世界が舞台の『少年検閲官シリーズ』第2弾。
前作は読んでおいた方が良いです。

デビュー作からファンタジー×ミステリの作風でしたが、その作風を着実に進化させた本シリーズはとても面白いです。城シリーズ序盤あたりの、ラノベファンタジー模様は、あまり好みではなかったのですが、ここまで来ると世界観に浸れて楽しめます。
また、思い返せば『瑠璃城殺人事件』でも図書館を舞台とした密室がありましたが、当時から作者の本とミステリに対する思いがずっと続いているのだと感じました。

ネタバレ以外での話として、このファンタジーの世界観を十分に活用した事件を行なっている点が凄く評価です。本作は前作以上の出来でしょう。

序盤のオルゴール職人が少女をオルゴールにするエピソードについても、残酷性はなく、ゆったりと静かな情景の中でひっそりと聞こえるオルゴールの音色のように悲しく神秘的な雰囲気に惹き込まれました。

オルゴール職人の集う孤島での連続殺人。
物理トリックや多重解釈といった本格ミステリ要素をファンタジーの世界観で包み、独自の個性を生み出しています。本作は十分に堪能できました。

その他余談として、
スピンオフ作品『ダンガンロンパシリーズ』における、事前に本書の仕掛けを匂わせる『黒の挑戦』の設定と、『少年検閲官シリーズ』の『ガジェット』の扱いが似ています。事件模様も解決模様も似ているので、この2つのシリーズ間は互いに刺激を与えあっていると感じました。
発売時期としては少年検閲官のガジェットが先で、その後、知名度が高いダンガンロンパを描いていく中で、ミステリ×キャラ×ファンタジーの描き方が培われて、オリジナル作品の少年検閲官シリーズである本書『オルゴーリェンヌ』へ昇華したと感じました。

シリーズ作品として次作を楽しみにしています。

▼以下、ネタバレ感想
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オルゴーリェンヌ (創元推理文庫)
北山猛邦オルゴーリェンヌ についてのレビュー
No.286:
(7pt)

一見、ただのライトノベルなんだけど……。

タイムトラベルもの。
一見、ただのライトノベルなんだけど、真相が明らかになった所でSFミステリに変容し、評価が凄くあがった作品です。

読書中の率直な感想としては面白くなったです。情景・状況が分かり辛い。表紙の印象からなのですが、どこまで現実的でアニメ設定なのかが把握し辛かった為、夢中になれませんでした。
ただ、ラストのまとめ方は凄いです。複雑なシナリオで見事。
アドベンチャーゲーム系の仕掛けで使われそうなネタを小説で体験したのは初めてかも。よくできていて驚きました。

タイムトラベル作品において、本書の個性的な設定は『肉体』と『精神』を別に考え、過去に戻る際『精神が他人の肉体へ宿れる』事です。

過去に何かしらの過ちを犯してしまった『僕』が、死後の世界で"案内人"と呼ばれる存在の力を借りて過去に戻ります。『僕』はいったいどの人物で、どんな後悔する罪を犯したのか?過去の他人の肉体に宿り、自分の犯行を止めようと試みる、"しなおし"の物語です。

読書中、もっと惹き込まれる何かがあれば、凄くおすすめしたくなる作品だと感じた、ちょっともどかしい作品。
かなりややこしい構造なので、ネタバレで解説を記述しておきます。

▼以下、ネタバレ感想
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シナオシ (富士見ミステリー文庫)
田代裕彦シナオシ についてのレビュー
No.285: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

卵をめぐる祖父の戦争の感想

傑作。久々に濃密で爽快な読書体験でした。

海外作品なのに読みやすく、かつ戦争物は堅苦しいというイメージを払拭するユニークな作品です。

正直、本書は意味不明なタイトルと戦争小説のイメージから記憶に留めていませんでした。
きっかけはハヤカワ・ポケット・ミステリの情報を調べていた時に、2010年のリニューアル第1弾として本書が選ばれている事を知り注目。何かが変わる時の作品は関わる人々の強い思いが込められた物になっているだろうと言う点と、世の評判が良かったので手に取りました。

祖父から当時の戦争の様子を語ってもらうシーンで物語は始まります。

舞台はレニングラード包囲戦。第二次世界大戦、ドイツ軍が大都市レニングラードを包囲し食糧の供給が断たれた飢餓地獄の街。食べ物が無い為、図書館キャンディと称する本を口にして糊付けに含まれる蛋白質を補給して栄養を取ったり、人が死んでいれば死体の持ち物を物色するなど凄まじい状況が描かれています。

主人公の青年が仲間と共にドイツ兵の死体から所持品を物色していたところ、運悪くソ連の秘密警察に見つかり略奪罪として捕まってしまう。射殺されてもおかしくない状況で、秘密警察の軍の大佐から5日後に行われる娘の結婚式にケーキを作ってやりたいから卵を1ダースもってこい。と命令を受ける。

卵はもちろん鶏も犬猫もいない飢餓状況の重苦しい状況において、ケーキを作るというなんとも皮肉でユーモアな目的が描かれているのが面白いです。邦訳のタイトルが逸品で本書はこの卵をめぐる冒険小説となります。
(全然違うのですが、『走れメロス』のタイムリミット感や『宝島』のワクワク感のようなものを感じました。)

道中は超お喋りな青年コーリャと旅をするわけですが、このコーリャがとても良い味をだしています。詩の引用をふりまいたり、思春期の男の子なので、女の事や下ネタ話など思うがままに喋りまくる。そしてこの会話文が非常に楽しく絶妙です。舞台設定は非情な戦争背景を描いていながら、物語の進行は主人公とこの青年コーニャのおかげで、とてもユーモアに仕上がっています。

戦争背景、残酷な描写、ハラハラドキドキな冒険、青年達の成長、バカ騒ぎ、ロマンス、活劇、etc……。これらが軽妙な文章で描かれていまして、小説ならではの面白さを堪能しました。しゃれた翻訳が素晴らしかったです。

死の緊迫状況があれど祖父が語る昔話なので、祖父はちゃんと生きているという安心感が根底にあるのも良いです。ミステリとしてどうなのか?と言われると、これは広義のミステリーですね。ポケミスが良質なエンタメ作品を扱っていくという思いや、質の高さを改めて感じました。

▼以下、ネタバレ感想
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卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)
No.284: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

トリックスターズの感想

『これは推理小説を模った魔術師の物語』

事件や謎が生まれて、魔術師や魔法が存在する世界なのですが、ミステリやファンタジーと区別ができない物語。ただ『本格ミステリ・ディケイド300』に掲載されていますのでミステリとして認識されている本ですね。当時ミステリとして不思議な影響を与えた作品なのだと思います。あまり見かけない特殊設定本です。

最初の事件は、学園の屋上で行われた顔を潰された被害者の謎。屋上へ向かった犯人の姿は監視カメラになく、被害者も一命を取り留めた。視線の密室や、何故とどめを刺さなかったのか?といった犯行理由の推測などミステリ模様は豊富。

読者は魔術が存在する世界の為、魔法で何かできるのではないか?と考えようとします。
ですが、その魔術が一体何なのか全貌が説明されていません。その為、魔術で出来る事・出来ない事が不明で、論理的に事件を考える事ができず、傍観者の気分になってしまうのが残念。

ただ、このモヤモヤした感覚は、終盤のある事柄に対して効果的なので、まったく悪いわけでは無いですね。ややこしい事をしているのに、雰囲気が軽いから、なんとも不思議な作品に仕上がってます。

文章は読みやすく、学園もので明るい作風は楽しめました。佐杏先生や主人公のキャラが特出していて良かったです。反面、他のゼミの子達の区別が分かり辛かったのが難点ではありますが。。。

変わり種で楽しめたので、続編も読んで見ようと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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トリックスターズ (電撃文庫)
久住四季トリックスターズ についてのレビュー
No.283: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

星読島に星は流れたの感想

好みの本でした。

こういうのが読みたかったと思えた作品。ミステリを読み始めた頃の懐かしさと新しさのバランスがうまく取れていて好みでした。
期待させると落胆させてしまいそうなのですが、ミステリの驚きや濃さとか人間味とか、そういうのを求めると浅いと感じられてしまうかもしれません。ただ、楽しいミステリってこういうのだよ。と改めて認識できた作品でした。

星読館という天体を観測する館。そこに住まう博士。孤島に集められた7名の男女。
好みのシチュエーションの中で起きる事件。何故事件が起きたのか。理由や動機は?これらミステリ模様は読んでいて楽しいです。ライトノベルの作者なのでキャラクターは軽めなのですが、おっさんやヒロインなど定番だけど分かりやすくてよい感じ。

読書前と後で印象が変わりました。ミステリ・フロンティアのレーベルだったこともあり、読書前は重いコテコテのミステリを想像していたらライトで違う。でも、これはこれで面白くて、最後は納得で綺麗にまとまるのが見事。

個々の要素は見知った定番ネタなのに、使い方と整え方が凄く綺麗です。天体観測や流れ星や願い事などの雰囲気もロマンチックで楽しめました。

▼以下、ネタバレ感想
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星読島に星は流れた (創元推理文庫)
久住四季星読島に星は流れた についてのレビュー
No.282: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

さよなら神様の感想

犯人は○○だよ。冒頭1ページに神様からの指摘で始まる連作短編小説。
ミステリ世界の中で絶対的な真相を提示する名探偵の枠を超えた神様と言う存在が凄まじいです。

通常ミステリで『偶然こんな事が起きたから、犯人は○○』と言われても納得できないのですが、『犯人は○○で確定。その為にはあの時偶然にもこんな事が起きなければならない』と、通常だと考えないような偶然をも考察するのが、本書ならではで面白かったです。

そんな展開で進む中の4作目『バレンタイン昔語り』は、本書の設定を活かした作品で一番好みです。この4作目以降は、設定に意味がある話作りで凄いなと思います。

小学生らしくない子供たちですが、サンタクロースを信じるように神様を信じさせる為には小学生の設定は必要なのでしょう。この辺りも最後まで読むとちゃんと作者の意図を感じられる為、特殊設定ミステリとして斬新で細部まで考えられた素晴らしい作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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さよなら神様 (文春文庫 ま)
麻耶雄嵩さよなら神様 についてのレビュー
No.281:
(6pt)

密室殺人講座の感想

90年代の新本格物。たまたま検索していて見つけ、"密室"・"講座"のタイトルに釣られて購入です。

あらすじ通り、閉ざされた空間で連続殺人もの。誰が犯人で、どんなトリックで、目的は何なのか?と、コテコテの展開が楽しめます。お約束な展開そのままで隠れた名作なのでは……?と思いながら読みました。
ただ、300Pぐらいの本で、200P終盤まではワクワク・ドキドキ楽しめていたのですが、収束の仕方が盛り上がらず、残念な気持ちになりました。パズル小説としての展開は良かったのに妙に人間的になってしまったからでしょうか。キャラクターが無駄に不快になり、拍子抜けでがっかりでした。

"密室講座"も舞台の設定なだけで期待するようなものはありませんでした。

▼以下、ネタバレ感想
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密室殺人講座 (講談社文庫)
水野泰治密室殺人講座 についてのレビュー
No.280: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

鋼鉄都市の感想

ミステリの手法を使ったSFの名作という事で読書。
SFだからと言って難しい言葉はないですし、登場人物も少ない為、把握しやすいのが良い。
50年以上前の古典作品に分類されていますが、今読んでも分かりやすく楽しめました。

人々はドーム型のシティの中で生活しており、外気や日光は直接浴びず、食糧危機の影響により子供の出生数や食事の内容と量まで制限を受けている窮屈な世界。知能・技術に優れた宇宙人との交流や、ロボットの発達により人間の仕事が奪われてロボットが憎まれているなど、現代でも少し感じる所があり、SF作品として興味深かったです。
人々は皆、懐古主義者で、地球が唯一の世界であった時代を思い出すさまに哀愁を感じました。

これらの世界観を土台に宇宙人が何者かに殺された事件が起きます。
ロボット工学三原則により、ロボットは人に危害を与えられない。地球人も心理的理由から殺人を犯せない。本書のSF世界観ならではの謎で、作品を読んだ時に感じるテーマに沿ったミステリ要素が見事でした。

ミステリとして期待してしまうと斬新な驚きはないのですが、世界を味わう感じで読むと楽しめます。
希望に満ちた未来を感じる読後感も良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)
アイザック・アシモフ鋼鉄都市 についてのレビュー
No.279: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないの感想

不思議な読後感を得る作品です。重くもなく軽くもなく、何が心に残ったのかうまく言えないのですが、タイトル文を借りると謎の弾丸で撃たれた気持ちであるわけで、何かを受けた気持ちになっています。

結末は冒頭にて明かされており、その内容は単語としては悲劇なのですが、本書を読んだ後だと単純な悲劇だけでなく救済とも感じられます。が、この感覚は読者によって見え方が変わるでしょう。

他者の感想によって、本書の感じ方が影響を受けるわけでも無いと思います。何となくですが、作中にでてきた心理テスト同様に本書を読んでどんな感想を描くのかで心理面が覗かれそうな気持ちになりました。

私自身、作品を読んでどう思ったかと言うと、主人公の山田なぎさや、海野藻屑ともどもには、何とも思わずそういう世界に触れたのかなとか、義務教育を終えるまでは誰かに依存する事になり、自己や自由を手にする事ができない為、設定された環境の中でどう生きるか考える必要があるな。とか思っている次第でして、これは無関心や他人事のような心理を分析されたような気持ちになりました。

読む時期によって得られるものに変化が起きそうです。
同世代の学生なら、子からの視点で選択肢のない無力感を味わい、大人の視点では手段の知識を得ていても実現できない無力感を感じるのでしょうか。と、これも人それぞれの感想だと思います。

なんとも不思議な文学作品を味わいました。
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない  A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
桜庭一樹砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない についてのレビュー