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egut さんのレビュー一覧

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書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.60pt

レビュー数758

全758件 1~20 1/38ページ

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No.758: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

傲慢と善良の感想

累計部数が電子含めて100万部を突破しているという人気作品。作者の作品を久々に手に取りました。

物語は、彼女がストーカー被害に遭ったことをきっかけに同棲が始まり、ほどなく婚約に至ったものの、その彼女が突然行方不明になってしまう――というところから始まります。彼女はどこへ消えたのか。ストーカーは誰なのか。行方不明の彼女を探す、男性主人公の視点から始まる物語です。文庫のあらすじでは"恋愛ミステリ"と書かれていますが、ミステリー要素は失踪もの作品という扱いぐらいで、ミステリー要素は低めです。

扱われる内容は、30代後半の未婚男女の実情や、婚活模様、アプリでの出会いなど、現代における恋愛感が描かれています。そして自分や相手の"傲慢さ"、そして"善良"に生きてきた人々の価値観などが描かれていきます。読み進めるうちに、読者自身がハッとさせられる一面があり、多くの気づきを得ることになるのではないでしょうか。一方で、こういう感想を抱くこと自体が傲慢さゆえに起きている次第だなと、少し言葉を選びたくなる読後感を得る気持ちでした。

作品中では、傲慢と善良といった言葉で男女の考えを示していますが、結局のところ、この表現は相手にレッテルを貼って距離を取っているだけな気もします。婚活の売れ残りと表現している人々も相手を品定めして距離を置いているだけな気がしました。相手の思考を汲み取ったうえで、傲慢と突き放すのか、許容とするかは人それぞれの解釈だなと感じます。

ストーリーとしては2章まではとても面白かったのですが、3章からはやや脇道に逸れたような印象でした。心境を改める大事な場面転換ではありますが、間延びしてしまった印象を受けました。
作品はよくできていて8点ぐらい気持ちなのですが、内容の好みの問題でこの点数で。
傲慢と善良 (朝日文庫)
辻村深月傲慢と善良 についてのレビュー
No.757:
(5pt)

白魔の檻の感想

山奥にある温泉湖近くの病院が舞台。災害により病院一帯は濃霧と温泉区域による硫化水素ガスが発生。
硫化水素は空気よりも重いため、すぐに吸い込む事はないが、徐々に足元から上がってくるタイムリミット状況。ガスによるクローズド・サークルの状況設定に新しさを感じた作品でした。

前作が面白く本作も本格ミステリとして描かれ、斬新なクローズド・サークルの環境設定に期待値が高まりました。しかし結果としては個人的にはやや合わなかった印象です。
本書はデビュー前のストック的な作品でしょうか。前作では感じない文章の質で、今回は内容が把握し辛い読書でした。

小説冒頭のミステリのワクワク感として、病院内の見取り図はとても好感でした。一方、登場人物紹介の方法がやや難点でした。病院ゆえに患者の登場人物だけで70名以上います。主要な登場人物も19名と多く、人物の把握に苦労します。そして主要登場人物の肩書も「外科部長」や「薬剤師」や「看護師」という特徴的な要素で簡潔に示せるところを「更冠病院薬剤師」 「更冠病院新館三階看護師」というフル名称で並べるため、圧迫感といいますか把握し辛さを強めている気がします。共通項はグループ分けで整理すればより良いと思います。もしかすると、あえて意図的に人物は把握しないで読んでもらいたいという狙いがあるのかもしれないのですが、私は登場人物表の段階で少し挫けそうになりました。

登場人物の把握以外にも、突然の回想や、ローカルネタのような知っていて当然のように扱われる用語が多く、内容が散漫に感じました。ただし医療現場の描写や専門的な説明は解説付きであり、前作同様にリアルに描かれたシーンは魅力的でよかったです。見知らぬ時事ネタが同じトーンで差し込まれる箇所はやや違和感が残りました。

ミステリとしての骨格や医療問題を通じた社会的なテーマは印象に残り、意図自体は好感です。今回は構成や文章が合わなかったのですが、シリーズとしての魅力は十分。また、城崎医師がシリーズとして登場しているのはとても良く、彼の性格や行動は個性的で作品の強みになると感じます。その点でも今回は少し役割が少なかった印象。などなど気になり楽しみな点も多い為、今後のシリーズも出れば手に取りたいと思います。
白魔の檻
山口未桜白魔の檻 についてのレビュー
No.756: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

檜垣澤家の炎上の感想

7歳で引き取られた妾の娘・かな子の成長を描くサバイバル小説のような歴史ドラマの大作。

2024年度の各紙ミステリランキングで上位に入った話題作。800ページ近い骨太長編のため読むのを躊躇していて積読状態でした。時間が取れたのでやっと手に取った次第。結果、とても充実した読書で大満足でした。内容の密度が非常に濃いため、時間が取れる時に腰を据えて読むのがおすすめです。

物語は、富豪一族の当主の妾の娘・かな子(7歳)が、一族の屋敷に引き取られるところから始まります。母を亡くし、父も倒れ、味方のいない幼い少女。正妻の子ではないゆえに、やっかい者として迎えられるなか、彼女がどう生き抜いていくか――。かな子の成長を描くサバイバル小説の側面を持った歴史ドラマとなります。

ミステリーとしての知名度はありますが、殺人事件やトリックを期待する物語ではなないです。
ではどのような点がミステリーとしての面白さがあるのか。それは、富豪一族のそれぞれの腹の内や思惑、そして会話の裏に潜む駆け引きです。セリフの1つ1つが巧妙です。登場人物たちは皆、頭の回転が速く、上流階級ゆえの遠回しな言葉を操ります。一見普通の会話が読み進めるうちに緊張感ある心理戦へとなっている。その意味は数ページ後に解説と共に気づかされるのですが、それらによって恐ろしさと凄さを味わいます。主人公視点で気づかない所で進行している根回しや政略的活動、立場ある者・悟られない為の発言。そうした細かく設計された構成がミステリーとしての魅力になっていると感じました。

中盤、かな子が成長していき、交友関係も増えてくる400ページ過ぎあたりから、面白さがさらに加速していきました。本作にて物語としては一区切りがついていますが、このボリュームを読み切ったうえでなお、まだまだ序章と感じさせる結末が凄い。それだけ魅力的でこの先の物語も知りたくなる力を持った作品でした。
本書の注意点としては非常に頭を使う内容なので、気楽に物語を楽しみにたい人には少し難しく感じるかもしれません。じっくり時間を取れるときの読書をおすすめします。歴史ドラマや時代もの作品が好きな方にオススメです。
檜垣澤家の炎上
永嶋恵美檜垣澤家の炎上 についてのレビュー
No.755: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

火喰鳥を、喰うの感想

最近映画化されたこともあり、書店でよく見かけるようになった一冊。『第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞』の受賞作ということで手に取りました。
少し背景をお話しすると、第39回から賞名に「ホラー」が加わり、『横溝正史ミステリ大賞』は『横溝正史ミステリ&ホラー大賞』へと改称されました。しかし初年度は「受賞作なし」。本作『火喰鳥を、喰う』は、名称変更後はじめての受賞作です。
そのため「ミステリなのか?ホラーなのか?」という点が大きな注目を集めた作品でした。

読んでみると、その境界は確かに曖昧で、良い意味でジャンルの掴みどころがない物語です。どちらとも言い切れない不穏な雰囲気と、予想外の方向へ進む展開には驚かされました。この「先の見えなさ」は見事だと思います。
一方で、個人的には非常に読みづらい文章で、内容も把握しづらい印象でした。今どうなっているのか、理解が追いつかないまま読み進める読書体験でした。結末の意外性は評価したいものの、ついていけないまま終わってしまい、「そういう結末にするのか」としか思えなかったのが正直なところです。

後味の悪さもホラーとしては正解かもしれませんが、私とは相性が合わなかった作品でした。
火喰鳥を、喰う (角川ホラー文庫)
原浩火喰鳥を、喰う についてのレビュー
No.754: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ハウスメイドの感想

SNSで話題となり、口コミで広がっている注目作。その流れに乗って読みましたが、話題になるのも納得の面白さでした。

まず本作は海外ミステリが苦手な人に手に取ってもらいたい作品です。海外作品で人物や地名の把握が苦手な人でも大丈夫。なぜなら舞台は家周辺。そして登場人物は5名だけです。海外ミステリーならではのスリルと展開が味わえます。

物語は裕福な家庭に住み込みのハウスメイド(家政婦)として雇われるところから始まります。前科持ちで仮出所したばかりのミリーは住む場所もなく絶対に仕事を失いたくない立場。そこへ舞い込んだ裕福な家庭のハウスメイドとしての仕事。待遇は良い。ただし雇い主からは理不尽な扱いを受けていきます。内容は読んでいてイヤミス模様で心苦しいです。理不尽さが凄く、頭がおかしいんじゃないかと雇い主の行動に嫌悪する読書でした。それでも仕事を辞められないミリーの境遇に、読者も一緒にやるせない気持ちを味わうことになります。嫌な気持ちを共有しながらの読書でした。

翻訳はとても読みやすくページがどんどん進む読書でした。内容的には重苦しい場面は多いものの不思議と読む手が止まりませんでした。ただ正直な所、序盤は「これはSNSで話題になるほどのものなのか?」という疑問の読書でした。ただ止められない読書であるのと、物語の全貌が見えてきた所からはさらに加速しての一気読み。後半は「そうきたか。」と唸る展開で話題になるのも納得。とても充実した読書体験でした。物語の終わり方も素晴らしく続編が読みたい気持ちでいっぱいでした。

本書は海外ですでに3作が刊行されている人気シリーズで近日映画公開も予定されています。2作目の翻訳も年内発売との事でかなり楽しみなシリーズに出会えたという気持ちでした。海外ミステリをあまり読まない人ほどオススメです。海外ミステリを読み慣れていると既視感を感じると思うのですが、それでも楽しかったので個人的に満足の作品でした。
ハウスメイド (ハヤカワ・ミステリ文庫)
フリーダ・マクファデンハウスメイド についてのレビュー
No.753: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

なりすましの感想

『戸籍』をテーマとした社会派ミステリー。
書店で多く並べられているのを見かけ、そして帯にあった『松本清張以来の社会派ミステリーの復活』というコピーに惹かれました。最近、社会派小説を読んでいなかったこともあり手に取った次第。久々の社会派の体験という事もありますが、内容がしっかり根付いた物語と読みやすい文章で夢中になった読書でした。良い意味で80年代の社会派小説を彷彿させます。テーマはしっかりとある骨太で事件内容も重めです。ただ昔の作品と違って文章は現代的で理解しやすく読みやすい。帯の言葉に偽りなしです。満足度の高い一冊でした。

物語は、妻が惨殺され、さらに妻が戸籍を偽っていたという事実から始まる悲劇。
しかし主人公自身も戸籍を偽る「なりすまし」であった――というお話です。戸籍を偽る背景や、偽らざるを得ない社会的事情、戸籍売買や無戸籍児といった社会問題を物語を通じて知れました。妻が何者なのか調べる主人公の行動、そして進むごとに明かされる新たな事実や障害などミステリーとしての緊張感や構成の巧さを堪能できました。

社会派ゆえに内容は重く、悲しみを帯びた物語なので好みが分かれる所ですが、久々に濃いミステリーを読んだ充実した読書でした。
終わり方も良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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なりすまし (ハルキ文庫 こ 16-3)
越尾圭なりすまし についてのレビュー
No.752: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

殺し屋の営業術の感想

2025年度の江戸川乱歩賞受賞作品。
江戸川乱歩賞はこれを受けてデビューという事が多い為、新人賞というイメージが強いのですが、実際は他でプロとして活躍している方も応募可能です。本作の作者である野宮有もすでに活躍している方で、プロによる受賞作となりました。
ここ数年の乱歩賞で思う事は、かつてのような社会派で重厚な作品というより、ライトで読みやすい作品が増えた印象があります。本作もその流れにあり、すでに実力を持つ作者だけあって、新人賞特有の読みにくさはまったくなく、非常にスラスラと読みやすい読書でした。乱歩賞は読み辛いという負のイメージを払拭しています。作者の過去の作品をいくつか読んでいますが、本作はそれ以上に文章が読みやすくなっており、かつミステリーとして面白い作品でした。

物語は営業のトップセールスマンが営業先で殺し屋の現場に遭遇してしまう――という巻き込まれ型の作品。
殺し屋に殺されないように、生き残るために営業テクニックを駆使する序盤から一気に引き込まれました。相手をその気にさせる思考やセリフの数々は心理テクニックが活用されており、小説でありながら実用書のノウハウ集を読んでいるかのような面白さがあり、読んでいて勉強にもなる感覚でした。
巻き込まれ型作品ゆえ、先が進むごとにどのような展開になるかは読んでからのお楽しみとなりますが、個人的な最大の評価ポイントは小説の終わり方が完璧だったという点。どんでん返しとかそういう意味ではなく、物語の閉じ方がとても巧く「うぁ...すご」っと思わず声がでた読後感でした。

その他のお知らせ事項として、乱歩賞で殺し屋作品だから重い小説を想像されるかもしれませんが、そういう重さはなく、個人的にはライトノベルやメフィスト賞に近い感覚を得ました。スラスラとテンポよく読める一冊です。過去作『嘘と詐欺と異能学園』のような相手を騙すコンゲーム的な要素もあり、シリーズ化も期待できそうな作品です。とても楽しい読書でした。

▼以下、ネタバレ感想
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殺し屋の営業術
野宮有殺し屋の営業術 についてのレビュー
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(8pt)

魔女の館の殺人の感想

現代設定ながら、90年代の本格ミステリを味わえた作品で大変好みでした。
謎解きが大好きな学生2人の主人公が宿泊型の脱出ゲームに参加したところ、演出ではなく本物の殺人事件に巻き込まれてしまうという流れ。

読者にも脱出ゲームを体験させようと実際に謎解きクイズが掲載されているのが面白い試みで新鮮でした。
読む前はクイズを題材にした軽い小説かと思っていたのですが予想以上にしっかりしたミステリで驚かされました。謎解きクイズはあくまで雰囲気づくりの一要素で読者を悩ませて読書を止める事はないです。謎は作中人物たちが解いていく形式なので、脱出ゲームを知らない人にちょうど良い体験かと思われます。そして、この脱出ゲームの体験がミステリの謎解きの考え方に関わってくるのが見事です。ロジカルな推理模様と発想のヒントが伏線的に巧く合わさっていると感じました。

本書の解説にありましたが、作者自身が脱出ゲーム好きとのことで、その体験が巧みに作品へ活かされています。本作で特に本格ミステリとしての魅力を感じたのは、「謎を解くための手がかりの提示が巧い点」です。私自身もいくつか脱出ゲームを体験していますが、最初に解いた問題や、何気ない仕掛けが後半の鍵になることが多くあります。その感覚が小説の伏線として見事に昇華されており、古き良き推理をする本格ミステリを感じた次第でした。

主人公の2人も好印象でした。
意見がすれ違ったり互いを補ったりと良い雰囲気です。男女にせず男同士なので友情的な感覚で見守れます。今後の成長も気になりますね。

個人的には非常に好みの作品ですが、人に薦める際に少し悩む点があるとすれば動機の設定でした。扱っている題材に対してもう少し社会派的な重みが必要に思えます。本作のライトな謎解き作品の中に入れるには後味がやや重く感じました。シリーズ化した場合、本作が第1作目となるため、ここから読まざるを得ない点も少し気になります。

とはいえロジカルな推理と丁寧な伏線が光る本格ミステリとして、学生二人のコンビが織りなす青春らしさも魅力的で、読後は非常に満足しました。シリーズ化希望の続編を読みたい作品です。
魔女の館の殺人 (ハーパーBOOKS+)
三日市零魔女の館の殺人 についてのレビュー
No.750: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

9人はなぜ殺されるの感想

タイトルが一品で興味が沸きました。ただ少し期待値が高すぎたのもありますが合わない作品でした。

同じ著者の『そしてミランダを殺す』は大変読みやすく好みであり、翻訳者も同じの創元推理文庫であったのですが、本書は読み辛く内容の把握が難しくて楽しめませんでした。後述しますが、本の構成として、読みやすくする工夫はあると思うのですが、本書はその丁寧さが欠けている気がします。

物語は、アメリカ各地の9人に、自分の名を含む9つの名前だけが記されたリストが郵送されます。差出人も意図も不明。そのリストの人物が殺されていくという事件。9名の繋がりは何なのか、なぜ殺されるのか、といったミッシングリンクもののサスペンスです。

■内容の把握が難しかった理由について。

第一に膨大な登場人物です。主要9名に加えて一時的な登場人物も現れるため、誰が誰なのか混乱しがちでした。しかも人物表にすべて載っているわけではなく、「この人は誰だろう?」と思って確認しても見つからないこともあるわけです。
登場人物表にはまず主要9名が描かれ、さらにそれぞれに関わる人達が一覧で並んでいますが、それぞれが誰に絡む人物なのかが分かりづらく、画が浮かぶような特徴のあるキャラではないので、カタカナ名の把握が困難でした。
改善してほしい点としてはサブキャラは2段組や複数ページでも良いので全員を一覧に載せ、主要キャラに対して絡むサブキャラを余白や区切りで分けて掲載するなどして、人物を把握しやすくしてほしかったです。

第二に、視点の切り替え方です。
9人の視点を行き来する構成自体は面白いのですが、章の冒頭には「日時」だけが記され、誰の視点なのかは本文を読み進めないと分かりません。そのため「これは誰の視点だろう?」と確認してから冒頭に戻って再読するという、テンポの悪い読み方を強いられました。せめて視点人物の名前を章頭に明示してくれれば、ずいぶん読みやすくなると思った次第です。

さらには、事件の区切りに挟まる、9名のリストの扱いです。
物語の節目にリストが挟まれ、人数が減っていく演出自体は効果的ですが、英字で9人の名前が並ぶだけなので被害者の把握が困難で効果的ではありません。例えば「名前はカタカナ表記」にし、事件で「亡くなった人物には打消し線を引く」などの工夫があれば、読者はより物語を追いやすくなったと思います。
英字や死亡者の表記に何か意味がある演出なのかと思いきや、特になかったので、ただ素材を載せるだけでなく、読者が楽しめるように丁寧に処理をしてほしかった心境です。

というわけで、内容そのものよりも「読みづらさ」が強く残ってしまいました。同じ著者・翻訳者でも、編集者が違うのでしょうか。ここまで印象が変わるのかと考えさせられる一冊でした。内容についても最後まで読んでよかったかというと、肩透かしな印象なので、好みに合わない作品となりました。

▼以下、ネタバレ感想
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9人はなぜ殺される (創元推理文庫)
ピーター・スワンソン9人はなぜ殺される についてのレビュー
No.749: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

罪に願いをの感想

海外作品ならではの良質なミステリーを味わえました。大変面白かったです。

舞台はペンシルヴェニアの小さな町。3つの視点による、倒叙+群像劇を用いた人々の罪を描く作品。
登場人物は少なく、内容はとても把握しやすいので、カタカナ人物名が理由で海外作品が苦手な人でも大丈夫。また、罪を題材にし、葛藤や教訓や愚かさというテーマ性を感じますが、読み心地はそれらのワードから連想されるような重さはなく、むしろ爽やかで軽快に読める雰囲気なのも良いです。

3人の視点切り替えの構成がとてもうまく、先が気になり、最後まで飽きずに夢中になった読書でした。残り僅かなページ数になっても、どういう風な結末になるか、まったく予想できなかった点も良かったです。おすすめ。

▼以下、ネタバレ感想
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罪に願いを (集英社文庫)
ケン・ジャヴォロウスキー罪に願いを についてのレビュー
No.748:
(7pt)

嘘と詐欺と異能学園3の感想

シリーズ3作目。全3巻ものなので完結。

全3巻で完結。もともと3巻構成での企画ではなく、途中で打ち切られたかのような形での完結に思えました。舞台となる異能学園や敵との戦いの設定は、もっと広げられそうな余地があったため、そのように感じたのかもしれません。
ただし本作は、まとめ方が非常に巧みでした。主人公とヒロインの結末、仲間達や敵との関係性、異能学園へ乗り込んだ目的など、当初の目的や真相をスッキリ解決させている点は見事。要点が充実した『異能学園編』として楽しめたシリーズでした。著者の人気が高まればアニメ化も期待できそうな作品かと思います。

ラスボス戦のトリックは大技過ぎて、一般文芸のミステリ的に見ると、ちょっと成立するのか怪しい気がしますが、ライトノベルの世界観だからこそ成立する強引さとも言える気がします。が、、、その勢いも本シリーズの魅力としてアリかなという感覚で納得させた読書でした。主人公だけでなくヒロインの成長を感じられ、結果的には2人のバディものとしてとても良い物語でした。

また、本作のあとがきの著者コメントで「ミステリの書き方に自信がついたので、次回作はミステリを書きます。」というような文章があるのですが、それが2025年度の江戸川乱歩賞受賞に繋がっているのだと考えると、著者の強い意気込みが伝わってきた次第でした。異能バトルものとして楽しいシリーズでした。

1巻、2巻、3巻の主人公とヒロインのイラストについて。
巻を追うごとに、二人の表情や、距離感というか、雰囲気が関係性を見事に表しているのが、なんかいいなと思いました。
嘘と詐欺と異能学園3 (電撃文庫)
野宮有嘘と詐欺と異能学園3 についてのレビュー
No.747:
(7pt)

嘘と詐欺と異能学園2の感想

シリーズ2作目。前作は必読で続きものです。
主人公&ヒロインは異能学園の中において、能力を持たない無能力者。その事実を隠し、あたかも異能を持っているかのように演じながら、騙し合いやトリックを駆使してバトルに挑んでいく物語です。

全3巻を読み終えての感想となりますが、本作の2作目が一番騙し合い&トリックが面白い作品でした。
巻を重ねるごとに相手陣営も強力になり、バトル難易度が上がっていく点が熱い。そして本シリーズの魅力は、主人公陣営だけでなく、敵陣側も詐欺を仕掛けてくるところ。こちらが仕掛けたと思ったら、逆に相手のトリックに嵌められ、、、と思いきや知略で再び盤上をひっくり返す――そんな二転三転するスリリングな展開が大変面白かったです。

若干難を言えば、ライトノベル特有の雰囲気や文章が好みの分かれる所かもしれません。個人的には文章の相性の問題か、若干読みづらく、異能バトルの描写を把握しきれない部分もありました。とはいえ、主人公&ヒロインの関係性や、バトルの目的はシンプルで分かりやすいので、途中の細かい所は気にせず十分に楽しめました。登場人物それぞれが裏を隠しながら繰り広げる頭脳戦はなかなか見どころでした。
嘘と詐欺と異能学園2 (電撃文庫)
野宮有嘘と詐欺と異能学園2 についてのレビュー
No.746: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

成瀬は天下を取りにいくの感想

ミステリーではなく一般文芸の青春小説です。本屋大賞作品で文庫化されたことで書店にたくさん並んでいたので手に取りました。
読んでみると話題になるのも納得でした。短編集なのでサクサク読めますし、成瀬というキャラクターの魅力に引き込まれ、楽しく読み進められる作品でした。

成瀬は人生における憧れの姿の1つの道を体現していると感じます。
人の目を気にせず、自分の思うままに行動する姿は爽快で、その行動力はお化けですが、「こんなふうに行動してみたかった」という、読者の願望をかなえているような姿が心に響きます。また、成瀬自身が完璧なキャラクターかというとそうではなく、隙のある身近な存在として描かれている点も魅力であり、愛着が湧いてくるキャラクターなのも良かったです。

本屋大賞は書店員の投票により決まります。近年の大賞作品の傾向は、自分らしく生きる女性像を描いたものが多く、本作もその流れの中で多くの書店員の心を捉えたのだと感じました。
成瀬は天下を取りにいく (新潮文庫 み 73-1)
宮島未奈成瀬は天下を取りにいく についてのレビュー
No.745: 5人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

単行本と文庫で内容が異なります。

書店や映画化で話題になっているホラー作品。
SNSでの評判では、単行本と文庫で内容が異なるもので、先に単行本推奨という情報を得たため、まずは単行本から読書しました。単行本が面白かったので、続けて文庫も手に取り両方を読み比べました。
結果として、取材内容は共通しているものの、関わる人物と物語の解釈・結末が大きく異なる作品となっていました。

過去に話題になった知名度の高い作品で例えると『ひぐらしのなく頃に』が個人的に近しい感覚でした。
・単行本が『鬼隠し編』(問題編)
・文庫 が『目明し編』(解答編)
という感覚です。上記を知っている人には伝わると思いますが、それぐらい大分違います。
単行本が話題になり、多くの考察が盛り上がったのも納得です。世代を変えて同じ感覚の熱量の盛り上がりが再び生まれたのだと感じました。

本書は予備知識がない方が楽しめる作品です。
物語が進むにつれて少しずつ手掛かりが見えてきて、不気味さと奇妙さが増していく過程を味わえます。

単行本では怪異に触れてしまった不気味さのホラーを味わいました。散文された内容から、「もしかしたらこれって、これと繋がるの?」という具合に考察的な面白さや解釈で深読みできる面白さがありました。
一方、文庫版では単行本で散文的に提示されていた情報が、1つの解答や意味を分かりやすく繋げ、ミステリー的な収束をさせる作品に感じました。ちゃんと物語をスッキリさせたい人は文庫を手に取ると良いでしょう。

ちょうど今、映画が公開されているのですが、この単行本と文庫の構成から勝手に想像すると、映画版はまた別の結末で作っているのではないかと思いました。ひとつの物語を表現を変えて、単行本・文庫・映像化と形を変えて広げていく手法には、現代的な商業戦略の巧みさを感じた次第でした。

単行本と文庫を両方読みたくなるぐらい、個人的に楽しめた作品でした。
文庫版 近畿地方のある場所について (角川文庫)
背筋近畿地方のある場所について についてのレビュー
No.744:
(5pt)

異端の祝祭の感想

異界の存在が見えたり、操れたりする世界観で描かれる、奇妙な物語。角川ホラー文庫のレーベル作品で、ホラーの系統としては「恐怖」ではなく、「気味の悪さ」をじわじわ感じさせるタイプの作品でした。
怪異の正体や、潜入先で行われている不可解な出来事の謎に引き込まれた読書でした。その怪異の解明に心霊案件を扱う佐々木事務所が関わるという流れです。
民俗学や宗教の要素を絡めた構成は興味深く、霊能力者同士の力関係や、覆いかぶさるような絶望感も魅力的でした。ただ前半で抱いたワクワク感が後半でやや失速したことや、キャラクターについても闇が深すぎる人物ばかりで感情移入できず、自分の好みに合いづらい作品でした。
異端の祝祭 (角川ホラー文庫)
芦花公園異端の祝祭 についてのレビュー
No.743: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

ぼくの家族はみんな誰かを殺してるの感想

翻訳の問題か、原文の文体の特徴によるものかは分かりませんが、文章が自分には合わなかったというのが正直な気持ちです。作者の視点で語られる物語ということもあり、地の文の所々の描写が省かれているように感じました。そのため、内容が把握しづらく、読んでいる途中では「このあたりに何か仕掛けでもあるのでは?」と、つい深読みするという誤読をさせられました。終盤では物語の全体像が繋がっていく様子が明示されるものの、読書中は混乱が多く、あまり物語に没入できなかったのが残念です。

古典ミステリのルールにのっとった懐古主義を感じさせつつも、作者視点の文章によって「どこで誰が死ぬか」を序盤でページ数を明かしておいたり、途中でまとめを提示して読者の理解を助けるなど、現代的な工夫も見られ、そこは新鮮さと面白さがあってよかったです。ただ「ルールに沿ってますよ」と伝えながらも、解釈の違いによってはルール違反のようにも感じられ、なんとも煮え切らない印象を受けた作品でした。
面白かったというより、うまくまとめたなという感想が強く、個人的にはあまり相性の良くない作品でした。
ぼくの家族はみんな誰かを殺してる (ハーパーBOOKS)
No.742: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ババヤガの夜の感想

文庫版表紙にある通り、日本人作家として初めてCWA(英国推理作家協会)翻訳部門を受賞したことをきっかけに手に取りました。ページ数は200ページと手頃で、サクッと読めるのも魅力です。

物語は、暴力を唯一の趣味とする喧嘩屋のような女性が、ヤクザ社会に巻き込まれていくというもの。ボリュームが抑えられている分、予備知識なしで読んだ方が楽しめるタイプの作品で、あらすじ紹介も最小限にとどめられています。

読み終わってみると、海外でヒットする理由が分かる作品でした。
海外の人にとっては、日本のヤクザ社会、暴力シーンが新鮮に映りますし、とあるネタがまさに時代を反映しているというか、海外の人の方が反応するお話でした。日本のミステリ読者には見慣れた仕掛けではありますが、海外向けの作品としては非常に効果的だった印象。ただ、個人的にはやや強引に感じた部分もありました(詳しくはネタバレ感想にて)。

▼以下、ネタバレ感想
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ババヤガの夜 (河出文庫 お 46-1)
王谷晶ババヤガの夜 についてのレビュー
No.741: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

誰が勇者を殺したか 勇者の章の感想

まさかのシリーズ3作目。
1作目で物語としては完成されており、2作目はファン向けの後日談的な印象だったので、3作目が出るとは思ってもいませんでした。1作目が好評ゆえの続刊だろうか、蛇足にならなければいいなと半信半疑で手に取ったところ、これが意外にもきちんと続編として物語となっており驚きました。そしてシリーズ設定を用いた見事なミステリーでもありました。
本作はシリーズ読者向けで、1作目だけは必読です。

物語は1作目の後の時系列ですが、回想もの。魔王討伐後、勇者がかつて訪れたリュドニア国の姫と再会し、当時起きた事件を回想するという流れです。当時の事件内容は、リュドニア国から依頼を受けた魔王軍の内通者探し。どんな姿にも変わることができるという存在が噂されている魔物が絡んだ事件。いわゆるスパイ探しものですが、本書ならではのファンタジーで構築しているミステリーとなります。
なるほど。過去を振り返る形式なら、シリーズ続編で作品が作りやすく面白いシリーズになると感じました。

世界観がとても良いのは、「勇者」についての物語がシリーズ根幹に根付いている事。その想いがしっかり土台としてある上で、勇者に関わった人々の物語が描かれており、さらにその物語がミステリー仕立てになっているのが大変好みでした。スパイ探しの事件だけでなく、シリーズタイトル通り『誰が勇者を殺したか』の問いかけが発生する物語が健在しており、その真相は前作とは違った趣きとなるのが見事でした。
誰が勇者を殺したか 勇者の章 (角川スニーカー文庫)
駄犬誰が勇者を殺したか 勇者の章 についてのレビュー
No.740:
(4pt)

マッド・バレット・アンダーグラウンドの感想

犯罪街である特別自治区、通称<成れの果ての街>を舞台に、異能力者たちが激突する犯罪劇。
表紙に描かれた2人の主人公による“バディもの”としても楽しめます。そして、どちらも論理も感情も欠いた狂人であり、狂った世界で狂った者同士が繰り広げる異能バトルは見応えがありました。
キャラクターや世界観には独特の魅力があり、ミステリー的な意外性もあって、設定面は楽しむ事ができました。
ただ正直なところ、作者のデビュー作である為か、文章は荒削りで、読みにくさが気になりました。読書中、頭の中に浮かんでいたイメージは、文章から直接得たものというよりも、セリフ回しや設定から連想された他のアニメやマンガ作品に頼って補完していた感覚でした。挿絵のない場面では、どんなシーンかうまく想像できない事も多く、物語に入りこめなかったのが残念でした。先に本作の3年後に出版された『嘘と詐欺と異能学園』を読んでいたのですが、そちらでは読みにくさは感じなかったため、作家さんの成長を感じる作品とも思えました。
マッド・バレット・アンダーグラウンド (電撃文庫)
No.739: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

テスカトリポカの感想

ひさびさに、すさまじい読書体験でした。

メキシコ、麻薬密売人、バイオレンス、臓器ブローカー、アステカの歴史、生贄、という具合に刺激の強いテーマが次々と押し寄せる内容で、苦手な人には薦め辛い作品となりますが、言い換えれば、読書の醍醐味である日常では想像もつかない非日常に触れられるという作品であるため、大変素晴らしい読書体験となります。
一文一文が無駄なく、知的好奇心を容赦なく刺激してくるのも圧巻です。麻薬に絡む犯罪模様、麻薬単体の良し悪しではなく、何故世界に大きなマーケットとして広がり犯罪が連鎖しているのか、ITが絡んだ世界の犯罪、という具合に世界の体験が刺激的でした。

文章表現も独特で印象に残ります。たとえば漢字に振られたルビがスペイン語やナワトル語になっており、「心臓」には〈コラソン〉や〈ヨリョトル〉といった語があてられています。場面の空気に合わせてルビを変えることで、読者を巧みに物語世界へ引き込み、リアリティと臨場感を生み出していました。そして何より暴力描写の迫力がすさまじい。目を背けたくなるような残酷さがある一方で、緊張感から目を離すことができず、ページをめくる手が止まりませんでした。

この物語がどのような結末を迎えるのか――読んでいる間はまったく想像がつきませんでした。しかし、あまりにも刺激的な展開の連続に慣れてしまったせいか、ラストはややあっさりと終わったようにも感じました。それでも読後には、アステカの歴史や神話への関心が強く湧き、自分なりに調べてみました。するとバルミロの4人兄弟の設定とか、アステカ神話を下敷きにしたモチーフで描かれている事に気づき、髄所の設定の緻密さに驚かされます。物語としての刺激だけでなく、背景にある文化や神話の奥深さに触れられるなど、多方面から刺激を受けた一冊でした。
テスカトリポカ (角川文庫)
佐藤究テスカトリポカ についてのレビュー