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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへ書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点6.60pt |
レビュー数738件
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作者の野宮有は2025年度の江戸川乱歩賞受賞作家です。すでに商業作品が出版されているという事から本書を手に取りました。
本書を読む限り、今年の乱歩賞作品に期待が高まりました。 本書は能力者が集まる学園を舞台とした詐欺師の物語です。レーベル通り雰囲気はライトノベルです。 主人公は異能が使えない一般人。無能力者にも関わらず、ある目的の為に学園に潜入し、詐欺と策略で異能学園の戦いを勝ち進む下剋上ものの物語。 シリーズものではありますが、1巻だけでも物語としてのまとまりがあり、しっかりと楽しめました。 ミステリーのような大仕掛けを期待するタイプの作品ではありませんが、ライトノベルという枠組みの中では、仕掛けも十分に楽しめました。不自然に凝りすぎることもなく、内容が簡単に把握しやすいギミックなので気軽に楽しめます。 主人公とヒロインの性格や関係性もいい塩梅で読んでいて楽しいので、キャラクターものとしても良かったです。心理戦や詐欺にまつわる駆け引きも、コンゲーム小説としてしっかりと描かれており、そうした知的な読みどころも面白く感じました。 ライトノベルとして設定だけを見ると、アニメやラノベでは見慣れた印象もあり、突出した個性があるわけではないため、映像映えもやや難しく、ジャンルの中での立ち位置は少々曖昧ですが、文章や語り口や心情などは面白いので確かに一般小説で読んでみたいなと思わせる感覚で個人的には好みで楽しめました。 文章は読みやすく、詐欺師の騙し合いの内容も面白かった為、乱歩賞を取った『殺し屋の営業術』という文芸作品がどのようになっているか楽しみになりました。 |
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海外の文庫で600ページを超える長編ということもあり、話題作と知りながらも、手に取るまで躊躇していた作品でした
しかし実際に読み始めてみると、翻訳の美しさに引き込まれ、情景が詩のように鮮やかに思い浮かぶため、その長さを感じさせませんでした。 本作にはミステリーの要素はありますが、それ以上に、少女の成長や自然の描写が印象的な、文学的な作品でした。 一方、予備知識なく人気作という事で読み始め、ミステリー要素に期待して手に取ってしまった事もあり、そこは少し好みと外れた結果となってしまったのが正直な気持ちです。ただミステリーとしてわざとらしく考察すると巧みな設計が行われているとも感じた為、その感想をネタバレ側で書きます。 文学小説として非常に完成度が高く、とても素晴らし作品でした。きっと多くの読者が、主人公カイヤに心を寄せるはずです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『奇岩館の殺人』に続くシリーズ2作目。本書は1作目の読書を前提とした作りの為、前作の読書は必須です。
前作に続くリアル・マーダー・ミステリーを題材にしたミステリ作品。 マーダー・ミステリーを用いている為、事件の構造レイヤーが多層的で面白い。事件現場、それを演じる層、etc...といったかなり凝った作りになっているのが特徴。舞台の新しさだけでなく、そうした形式を巧みに活かした見事なミステリとして、とても面白く読むことができました。 一方で、やや複雑な内容であるうえに、事件の見立てに海外古典ミステリが題材として使われているため、これらにあまりなじみのない方には難しく感じられ、楽しみにくいかもしれません。かなりマニアックな要素もありますが、作中で取り上げられている海外古典ミステリを読んでいる方には、思わずニヤリとする見立てがあり、より深く楽しめる内容となっています。 帯にあるので書きますが題材は『Xの悲劇』 『黒死荘の殺人』 『ナイルに死す』に見立てた殺人です。 一番感銘を受けたのは、ネタバレ感想であっても古典作品の重大なネタバレになる為に書けない、ある題材が用いられていることです。気づかれなくても作品として問題はなく、古典読者にだけ気づける要素という遊び心で、それが何かは明言できないもどかしさがあります。何故この作品群を選んだのか。作中で脚本を手掛けた田中(もしくは作者)のこだわりの想い、ちゃんと気づけたと思います。作品内の登場人物達にミステリ好きの想いを語らせていますが、そのマニアックさがちゃんと活かされている構成が見事。ラストの真相も素晴らしいです。自分の好みに非常に刺さる、大変満足度の高い一作でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2024年度の宝島社の『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
広義のミステリーゆえ、本格や謎解き推理を期待するタイプの作品ではなく、かなりライトな内容です。 個人的には小中学生向けの読者層が適していると感じました。安心して子どもに読ませられる児童書ミステリーとしておすすめできそうな作品です。そう考えると非常によくできた一冊だと思います。 大学生の主人公がアルバイトとして働くパン屋の描写は、温かさに包まれていて心地よく魅力的です。パンに情熱を注ぐ店長や、派手でイケてる先輩など、登場人物たちがつくる職場の雰囲気も非常に良いです。物語はパン屋を舞台とした「日常の謎」を扱っています。謎や推理そのものは正直やや簡単すぎてミステリーとしての重みはあまり感じられませんでしたが、児童向け作品として考えればちょうどよいレベルで前向きに評価できます。また読後に嫌な印象が一切残らない点も好印象でした。 手がかりがそろった際に使われる「思考が一気に膨らんだ」というパンにちなんだ表現は好みです。パン屋ならではの比喩として効果的でした。一方でミステリーとしてパン屋という設定が必然だったのかという点についてはやや物足りなさを感じました。テーマとの結びつきが弱く他の職業のバイト先でも成立しそうな内容です。パン屋という舞台は、あくまで表紙から感じられる温かな雰囲気や、パンを好む子どもたちに向けた空気感の演出に貢献しているにとどまっているように思えました。パン屋はミステリーのための舞台というよりは、作者自身の経験がベースになっているのかもしれません。漫画家を目指す主人公や、工学部に通う紗都美さんとの交流などからも、作者の実体験や思いが反映されていると感じられ、リアルに伝わってきました。 総じてミステリーというよりは物語として楽しめる一作でした。 正直な気持ちとしてミステリーとしては☆4-5ぐらい。小学生くらいの子どもが手に取るミステリー作品として良いと思った作品でした。 |
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2025年本屋大賞を受賞という事で手に取りました。作者の作品を読むのは今回が初めてです。
ミステリとは関係のない一般文芸かと思いきや、散りばめられた伏線や謎の隠し方がミステリーの技法であり驚きました。期待していなかったのもありますが、意表を突かれて強く印象に残った次第。作者の過去の作品を調べると、創元推理文庫から『金環日蝕』という作品があるので、ミステリー的な要素を取り入れる事もできる作家さんなのだと感じました。ただし、念のために付け加えると、本作はあくまで家族小説に近い作品であり、ミステリーを期待して読むものではありません。その技法が、物語の印象を深める演出として使われていたという印象です。 物語の主人公は、40代で法務局に勤める真面目な女性。夫から突然離婚を切り出され、心を通わせていた溺愛の弟は急死し、独り身の状態。弟の遺産整理や遺言状をめぐる手続きを進める中で、価値観の異なる弟の元恋人と出会い、彼女との交流を通じて主人公の内面に少しずつ変化が生まれていく――というお話です。 この作品は好き嫌いが分かれやすいと感じました。特に序盤の主人公は鬱屈した描かれ方をしており、読むのが少しつらくなるかもしれません。正直なところ、私は最初の方は苦手に感じました。しかし、物語全体の構造を見れば、主人公の変化を描くためにあえて序盤をマイナスの状態に設定していることが分かります。作品に対する評価は、物語の内容そのものを重視するか、それとも構成や演出の巧みさを評価するかによって分かれそうです。私は、後者の「作り方」に惹かれた次第です。 少し余談ですが、本屋大賞の傾向について。 ここ数年の受賞作には、弱い立場にいる女性やマイノリティの女性が主人公であり、彼女たちが自分らしく生き、成長や自立していく作品が目立つ印象を受けます。そのため、すでに自立していたり、現状の人生に一定の満足感を持っている読者にとっては、主人公と考え方や感情が合わず、距離を感じる場面があるかもしれません。そうした感覚が作品の「好き嫌い」に影響しているようにも思います。 個人的には物語の成長譚は好みに刺さらなかったのですが、読者の感情を揺さぶる為に発生している要所要所のポイントやミスリード的な構成には強く印象を受けました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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図書館を舞台としたミステリ。
ミステリ要素となるのは、図書館で起きた火災事件と、その焼け跡から発見された焼死体、そして遺体が見つかった地下書庫における密室要素です。図書館関係者への聞き込みを主人公の刑事が担当するという王道の構成であり、正統派のミステリとして楽しめました。さらに現代では珍しくなった「読者への挑戦」付きの推理小説なのが好感でした。これがあるだけで、手がかりや推理がしっかり考えられて作っていることが伝わってきて、作者の意気込みを感じます。 本作は単なる謎解きだけでなく、「図書館」という場所に関わる人々の思いや姿が描かれていたのが印象的です。不登校の生徒の居場所となっていたり、地域の交流の場となっていたりと、利用者の視点だけでなく、運営側や司書、職場環境に至るまで、図書館を軸にした多面的な描写がなされていました。 事件やトリックに派手さはなく、やや地味に感じる面もありましたが、図書館という舞台とミステリ要素がしっかり結びついており、全体としてきちんとまとまった作品だと感じました。推理小説を読みたいけど古い作品が苦手という方や、ミステリ初心者にオススメしやすい作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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学園を舞台とした理系の「日常の謎」の物語。ミステリー要素は控えめで、科学を取り入れた青春小説です。
ミステリーの要素は控えめでしたが、作品全体に漂う心地よさや、物語の魅力がとても好みに合いました。高校生や学園ものが好きな方には、おすすめな一冊です。 まず、登場人物に嫌なキャラクターがいないのが良かったです。基本的に皆いいやつで、読んでいて気持ちがよい。理系の高校が舞台ということで、科学や数学に関する会話が登場しますが、その雰囲気も楽しく味わえました。物語は4月の入学から始まり、新入生と先輩たちの出会い、部活の勧誘といった、学園ものの王道の展開をたどります。そこに、理系ならではの「日常の謎」が加わり、独自の魅力を放つ作品となっています。 本書は『理学部ノート1』というタイトルからシリーズ化を見据えた作品のようですが、内容自体は本書単体でしっかり完結しています。あらすじ冒頭で高校生活のある結末を描いてますので完結している状態です。勝手な想像ですが、完成後に作品の出来が良かったため、出版社がシリーズ化を決めたのではないかと思うほどです。それほど本書単体でも満足感のある素敵な物語でした。またイラストも綺麗で可愛らしく作品の雰囲気にぴったりで、大事なシーンがより印象的に映りました。なかなか力の入ったシリーズになりそうな気配。次作も楽しみです。 |
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タイトルや雰囲気作りは抜群に面白かったです。ただ、勿体なさを感じた作品でした。
『二人一組になってください』という、学校で馴染みのある言葉をタイトルにしたセンスがとても良いです。卒業式直前のデスゲームのルールも、"誰とも組めなかった者は失格" というシンプルで分かりやすく、読者が手に取りやすい作品で巧いなと思ったのが最初の感想でした。作品序盤の出席名簿やカースト表を見せる演出も好感で期待が高まりました。 文章も読みやすく、デスゲーム特有の理不尽なペナルティが発生する序盤のパニック感や心理描写も良いので最後まで一気読みで、面白く楽しめた……はずなのですが、なんというか結果は何も残らない作品でした。 デスゲームものとしての感想ですが、頭脳戦要素は皆無でした。最初に示されたルールから読者なら思いつきそうな戦略もまったく描かれず、登場人物たちは場の流れに身を任せるばかり。考え方の刺激や登場人物の悔しさも伝わらず、ただ死んでいくだけの展開が続いたことで、死の重みが軽くなってしまっていたのが残念でした。結果として大事なテーマや内容の印象が残りにくく、達成感や結末への感情移入もしづらかったため、終盤に至ってもどこか醒めた視点で物語を見てしまいました。 テーマ性について。 「いじめ」がテーマという話が序盤で示されているのですが、正直なところ、根底に「いじめ」があったという事は最後まで隠しておいた方がよかったような気がします。物語の導入で、いじめがあったからデスゲームが行われたと提示されるので、読者にいじめについて考えさせる狙いがありそうな気がしますが、それがあまり伝わってきませんでした。というのも、描かれているエピソードの多くは思春期の女子高生たちの悩みに重きがある為、「いじめが理由でデスゲームに巻き込まれた」という必然性に共感しづらかったからです。むしろ、最初は「なぜデスゲームに巻き込まれたのか?」という理不尽さと緊張感を前面に出し、最後に「実はいじめが背景にあった」と明かすほうが、より印象に残る展開になったのではないかと思います。 文章や雰囲気はとても読みやすく魅力的だったのに、デスゲームといじめのテーマの描き方がチグハグで、もっと良くなりそうな惜しさを感じる作品でした。女子高生たちの空気感や、生徒たちの悩み、友人関係の各エピソードはそれぞれ面白かっただけに、最後は何も残らなかったのが正直勿体ない作品に感じました。 最終章の最後の2行みたいな要素がもっと全編に欲しかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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読後に知りましたが、シリーズものの3作目でした。
ただ、メインの登場人物が続投してる程度なので本作単体で読んでも大丈夫です。 好みの評価に関しては非常に悩ましい点数でした。 480ページのボリュームの中、残り数十ページの終盤までは何が起きているのか、何が大事な話なのかよく分からず退屈だったのが正直な気持ちです。読書中の気分は3~4点ぐらいがホンネ。面白くない。色々と事件が起きているのですが、把握したり真相を読み解くのは難しいでしょう。ただ、全ての理由や繋がりや真相が明かされる終盤は圧巻であり驚かされました。これまでのエピソードの数々が大いなる伏線となり、意味も変わり真相に帰結するのです。これは本当に凄かった。本格ミステリとしての鮮やかさを久々に体験しました。そして最近の作者の作品の持ち味となる後味の悪さも良い意味で健在。真相と心に残る読後感は9~10点の傑作でした。なので平均でこのぐらいの点数で。 物語の読み物としては好みに合わなかったのですが、ミステリとしては傑作です。 |
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2024年度の鮎川哲也賞受賞作品。
物語は救急医の元に搬送された溺死体が主人公に瓜二つであった事から始まる。彼は何者なのか? なぜ同じ顔をしているのか?ミステリとしての謎が魅力的であり、文章も読みやすく没入感がある作品でした。 作者は現役の女性医師である方。その為か医療現場の雰囲気や描写が専門的で面白く刺激になりました。特に救急現場のシーンは臨場感があって引き込まれました。そして作者が女性医師というのは、本書の評価において重要な要素の一つになっていると感じます。世のレビューにも多くみられますが、ミステリーとしての物語を作る為か、倫理感が独特だったり、嫌悪されるであろう要素がいくつか見られます。でもこの作者なら、理解した上で書いているのだと納得できる為です。一般的な男性作家だったら非難を受けていたかもしれません。予備知識がない方が楽しめる作品なので、どういう要素なのかはネタバレ側で後述しますが、小説というフィクションだから描ける社会問題を内包した作品です。 タイトルの作り方が巧みで、意味合いや印象も抜群でした。事件の結末や探偵役のキャラクターも魅力的で好みでした。後味は好みが分かれるかもしれませんが、強く印象に残るのは大きな魅力。シリーズ化されるなら次作も読んでみたいと思わせる作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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興味が湧くタイトルが一品。それを実現させる作品作りの意気込みが好感です。
ただ難点は期待値が高すぎるものになる為、「思っていたのと違った」と感じ、世の中の評判は控えめになってしまうのは避けられないかなと思いました。個人的には、こうしたテーマを持って作られている作品は好きです。 物語は過去の事件の再調査もの。 過去の事件現場を模した場所に集められた7名。「犯人以外は毒ガスで殺される」というデスゲームに巻き込まれる流れ。生き残るためには「自分が犯人だと認められなければならない」というひねりの効いた設定が面白い作品です。 自分が犯人になるために、事件のトリックや背景を自供する。しかし、その主張に対して他者が探偵役となり、矛盾を突いて反論していく。そんな巧妙な構造が展開される物語です。タイトルに偽りなく、変わったミステリーとしての面白さがありました。 一方で悩ましかったのは、真実か嘘なのかに関係なく「犯人にされるためのエピソード」が語られるため、内容の把握が難しく興味を持ちにくかった点です。後で覆されるかもしれない嘘の物語を、ちゃんと把握して読もうとは無意識で思えなかったからです。何か印象に残るトリックやキャラクターなど魅力が欲しかったのが正直な気持ち。内容ではなくタイトルが一番目立ってしまったのが残念に感じました。 似ている雰囲気のアニメやミステリー系のゲームやマーダーミステリーなどが思いあたるのですが、それらは強烈な個性のキャラやイラストで彩られ、面白く引き立てているなと改めて感じました。ライト系なら何でもアリな設定が誤魔化せますし。本作はリアル寄りのミステリに作者が挑んだという結果として意気込みは好感なのですが、やや地味に終わってしまったのが惜しく感じました。 |
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シリーズ3作目。単体では楽しめないのでシリーズを読んできた人向けです。
本作は、通常のミステリでは扱いづらい非現実的な密室トリックを次々と繰り出す作品です。 作中では登場人物のセリフを通じて、読者の心情を代弁するような呆れた反応も示されており、それも作者の計算のうちでしょう。 細かい現実性にとらわれず、純粋に奇想天外なトリックを楽しむ作品です。 そうした視点で読めば、堪能できます。 トリック以外の要素には特に重きが置かれていません。 登場人物の名前も分かりやすく記号的で、ストーリーや舞台もあくまでトリックを引き立てるためのもの。 物語として何か深く感じ取るような内容ではなく、純粋に仕掛けを楽しむ作品です。 内容とは別に、2作目から急に値段が上がっている点が残念でした。ファンなら購入することを見越した価格設定ですし、それ自体は理解できます。ただ本作はトリック重視でストーリーの面白さを求める作品ではないため、価格に対してやや割高に感じてしまうのも否めません。とはいえ、不思議と次回作も手に取ってしまう魅力があるシリーズなのが悩ましいところです。 |
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コロナ禍を背景に、他人の転落人生を描いた作品です。
複数の視点で展開される群像劇となっており、場面が適度に切り替わるため、テンポよく読めて最後まで飽きることなく楽しめました。 群像劇の構成は、仕掛けミステリーを狙ったものというより、読者がスムーズに読み進められるよう工夫されたものです。なおミステリー要素はあまりありません。 転落人生や不幸を描いた作品なので、あまり気持ちの良い読書ではないです。なのでそういうのが苦手な方は事前にご注意を。 個人的に本書で感じた感想は、コロナ禍で孤立した人々への救済物語です。 コロナ禍で人との接触が減り、一人で孤独や不幸を感じていた人に、他人の強烈な不幸を描いた物語を届けることで、共感や「自分はまだマシ」と感じたり、少しでも前向きに生きるきっかけを与えたい。そんな思いも込められているように感じました。 さらに、不幸に陥る人物たちのパターンや、浅はかな思考が描かれる様子は、ある意味で半面教師的な教訓としても受け取れる部分があります。そのため、若いうちに読んでもらいたい作品とも思えました。 |
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ネットでの出会い系トラブルを題材とした現代ホラー作品です。
インターネットが一般に普及し始めた2001年の作品であり、当時の時代背景を巧みに取り入れた作品だと感じます。 ネットや出会い系といった要素や設定自体は特に特別なものではありませんが、読ませる文章に引き込まれた読書でした。 今読んでも古臭さを感じさせない面白さには驚きました。携帯やネット環境などの話は昔のものですし、ネットトラブルを用いた作品は世に沢山あり見慣れてしまっているのですが、古臭さを感じず惹き付けられます。なんといいますか、変に奇を衒わない王道のホラーとして無駄のない話構成で高い完成度を感じた次第。主人公やリカの人物像も現実にいそうなリアルさがあり、身近で現実的な怖さをジワジワ感じる魅力的な作品でした。 幻冬舎文庫版では、ラストに結末が追加された完全版となっています。この追加エピソードが、物語の結末をさらに際立たせており、ホラー作品としてよい後味でした。 シリーズ化されていますが、本作内に無理にシリーズ化を狙ったような伏線はなく、この一作目だけで無駄なく完結している点に好感です。 |
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幽霊となった完全犯罪請負人と、両親を殺された小学生・音葉。それぞれ個では無力だが復讐を目的に協力するバディもの。
古典ミステリへのオマージュが随所に散りばめられ、二転三転ではすまない多重解決模様の物語は圧巻でした。読後感も良く、ミステリ要素が満載の一作です。 作品としては素晴らしいのですが、個人的な事情から点数は控えめになりました。 本作品は文章密度が高く、450ページに及ぶ大ボリュームです。このボリュームを楽しめたかというと、前半は良かったのですが後半になるにつれて、内容の把握が難しく読書が少し大変に感じられました。小説の終わりどころを見極める難しさはあると思いますが、本作では「気持ちよく終わった」と思った瞬間にまだページが続いているという感覚を何度も味わいました。大長編作品が好きな方にとってはプラス要素かもしれませんが、個人的には少しマイナスに感じた部分です。 特に多重解決ものは、スピード感とともに一気に読むことで連続的な意外性の爽快感が生まれると思うのですが、本作では残りのページ数の多さからか、今読んでいる推理や結末は後で覆る「ダミー」案の間違えを読まされている感覚になってしまい、爽快感ではなく面倒な気持ちになりました。内容を把握する気持ちが得られず「読みたい」ではなく「読まなくちゃ」と使命感で読書していたような気持ちでした。 他にも、印刷された文章の密度や文字の大きさの影響か、「音葉」が「音楽」に見えてしまうなど、読書中に引っかかることが多く、気持ちが入りづらい読書体験でした。読みやすい講談社文庫化されたら改めて再読したいと思います。また文字サイズを調整でき、残りページ数が見えない電子書籍版で読むのも良さそうです。 本作は要素が盛りだくさんで面白いのですが、個人的にはどこか名作になりきれなかったような勿体なさを感じる作品でした。 |
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作者買いしている一人なので、新刊が出たことが素直に嬉しいです。点数には好み補正が入っています。
今回は「小説とは何か?」そして「読者」がテーマとなっている作品です。 作者はこれまでもテーマ性のある作品を多く手がけており、『know』では「知る」とは何か、『タイタン』では「働く」とは何かを描いてきました。本作では『小説』というタイトルで「読者」をテーマとして描かれています。『アムリタ』から『2』の頃は「創作」に関する作り手側の視点を描いていましたが、本作ではそれを受け取る側に焦点を当てた作品だと感じます。 本を読むことが好きな人ほど、心に刺さる言葉があるのではないでしょうか。 「そんなに本が好きなら自分で作らないの?」から受けるネガティブとか、「読むだけじゃ駄目なのか」という問いは、読み手側の心情を代弁しており、かつその問いに対して野﨑まど流の哲学的な考えが展開される物語です。今回も「解法」や「解放」となる考え方に触れることができとてもよかったです。小説に対する見え方が変わる一作でした。 |
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これは傑作!とても感動の読書でした。多くの方にオススメです。
技巧的な小説としての面白さ、人情ものとしての物語・内容の良さ、そしてミステリ模様、どれも素晴らしく個人的に大満足の作品でした。 2023年度のミステリのランキングで目にしていたのですが、正直なところ、あまりピンとこない表紙とタイトルで見逃しておりました。作者は歴史・時代小説で活躍されている方なのでミステリー作品としては意識していませんでした。しかし、世間の高い評価を知り、改めて注目して手に取ることにしました。 物語の舞台は江戸・木挽町。時代ものと人情小説の要素を持つ作品です。ミステリーとしては、過去の仇討ちを再調査するという構成になっています。 調査の過程では、関係者への聞き取りを中心に進むのですが、その一つひとつが単なる事件の断片ではなく、人情小説として深みのある短編のような物語として描かれている点がとても良かったです。さらに特徴的なのは、全編が関係者の独白のみで構成され、地の文が一切ない点です。再調査のために訪ねた登場人物たちのセリフだけで物語が紡がれるという、非常に技巧的な文章も見どころでした。 時代小説というと難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、本作は非常に読みやすく、その心配は不要です。全編が現代的なセリフで構成されているため、内容も把握しやすくスムーズに読めます。読みやすさの中にも、当時の文化や表現について学べる場面がしばしばあり、知的な楽しさも味わえる一冊です。さらに、物語にはユーモアや人間味あふれる温かさが多く描かれており、感情の振れ幅がとても豊かです。心に響くシーンが多く、読んでいて気持ちが良い内容なのも大きな魅力でした。 非常に満足度が高い作品で、万人におすすめしたい作品です。 |
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あまり期待せずに手に取った為か、予想以上にミステリーとして巧みに仕上がった物語に驚かされました。※誤解しないように言うと驚き系ではないです。
本作はシリーズ第2作目ですが、単体でも十分に楽しめます。1作目はYoutubeネタでミステリーとして小粒な感じでしたが、本書はミステリとしてしっかりとした読み応えがあります。 不動産ミステリーというユニークなコンセプトのもと、間取りを題材にした謎解きと推理が見事でした。間取りの不自然な違和感を手掛かりに、そこに隠された意図をホラーやドキュメンタリーの雰囲気で描き出しています。解釈がやや強引な部分もありますが、ホラー調の緊張感が物語に深く引き込んでくれるので、読書中は不自然なく読めました。 本作は短編集の形式で、11編の物語から構成されています。 どの物語も適度な長さで、謎解きと推理がテンポよく進むため、間延びすることなく最後まで飽きずに楽しめました。 そして間取りを用いた図解ベースの構成になっているため、普段読書をしない人にも楽しみやすい構造になっているのが作品の大きな魅力だと感じました。サクサク読める面白さがあります。 さらに、あらすじや帯に書かれている通り、11の物語を読むと、それぞれの繋がりが見えてくる構造が一品。 「実はこういう話なのではないか」、「あれとあれが繋がって……」と、最終章がなければ、深読み・考察系の小説としてネットで話題になれることでしょう。本書は最後にその構造の真相が丁寧に明かされるため、読後感も非常にすっきりします。 多くの伏線も然ることながら、『間取り』という題材を見事に昇華したミステリーが素晴らしかったです。 期待値としてはパズラー寄りの内容で、ストーリーの面白さよりも、間取りを活用した各物語の繋がりや伏線を楽しんだ作品でした。 一般読者を多く生み出した話題作になるのも頷ける作品でした。 |
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2023年度の鮎川哲也賞 優秀賞作。
死に戻りによって残された余命の中で事件が展開する、特殊状況下のミステリーです。 おすすめな読者はミステリーを読み"慣れていない"人向け。90年代のミステリーが盛り上がった頃の作品が味わえます。 個人的に悩ましく感じた理由は、設定が多いミステリーであるため、人物や物語の広がりが限定的に感じられた点です。ある程度ミステリーに慣れている読者にとっては、「こういう展開になるのだろう」と結末が予想の範囲内に収まりやすく、結末が見えることで設定作りの意図も逆算的に読めてしまいます。その結果、驚かされるはずが「やっぱりな」という感覚に落ち着いてしまうのではないでしょうか。また展開が強引に感じられる部分もやや気になる点でした。 本作を読んで感じたのは、90年代ごろの尖ったアイディアが詰まったミステリーを読んでいるような印象でした。見慣れてますが好きなので読んでいて楽しいです。そのため細かいことは気にせず、物語がどのような結末を迎えるのかという気持ちでの読書。ただ、結末の描き方も90年代当時に見られたネタに近く、なんというか本書はその当時に盛り上がった設定が集まってできた作品であると感じました。おそらく著者もこの時代のミステリーを愛する方なのでしょう。作者名"小松立人"は岡嶋二人(おかしなふたり)みたいな感じで、小松立人(困った人)と命名していますし、先人のアイディアを多く感じる内容でした。ポジティブに考えると好きなもので作られた作品です。 気軽に楽しめるミステリーとして、わかりやすい構造は好みでした。ただ真相の明かされ方やネガティブな思考の描写は、読んでいてあまり気持ちの良いものではなく、読後感が悪くなってしまいました。そのため人に薦めづらい点が残念でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今年の横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作。
ホラーとミステリが巧みに組み合わされた、まさに賞の趣旨にふさわしい作品でした。 文章や扱われる言葉がオカルトや民俗・伝承の要素を取り入れた雰囲気のあるもので、とても魅力的でした。髪の毛を題材にした怪異的なホラー小説として存分に楽しめた一方で、単なる怪異ホラーにとどまらず、密室や死体の入れ替わりといった要素を取り入れた本格ミステリ寄りの構成も見事でした。 怪異的なホラー小説というジャンルが現代でどれほど通用するのか気になるところではありますが、本作においては、閉ざされた富豪の屋敷という舞台設定が非常によく考えられていると感じました。広大な屋敷内で展開される物語だからこそ、多様な条件や空間の存在に説得力が生まれており、納得感のある作品に仕上がっていると感じます。少し気になった点を挙げると、終盤の展開で事件の全容がやや分かりづらく、スッキリとした読後感が得られない部分もありました。ただ、これは私自身の読解力の問題かもしれません。 ホラー×ミステリー作品として雰囲気もライトで読みやすい作品でした。シリーズ化するなら次作も読んでみたいと思います。 |
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