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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数745

全745件 81~100 5/38ページ

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No.665: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

でぃすぺるの感想

ちょっと個人的に読み方を間違えた感がある為、点数については恐縮な所ですが合わなかった作品でした。
真相についても好みが大分別れそうな気持です。

ミステリーとしてどうかというと本書はルールが不明確な苦手なタイプ。謎を楽しませる場合は前提条件がなんなのか読者に感じさせてほしい次第。この作品内のルールが巧く伝わらなかった為、何でもありに感じてしまい楽しめなかったのが正直な気持ち。

ミステリー抜きにした物語としてはどうかと言うと、少年探偵団模様で友達と協力して事件を調査する様子は面白かったです。ただ小学生にしては行動力や発言や思考回路が大人びている為、高校生ぐらいな印象を感じます。調べる事件の内容も小学生向けではないのでちょっとチグハグ感がありました。
七不思議を扱いレトロな雰囲気を描いているかと思いきや、現代的なSNSが突如活用したりとなんだか巧く噛み合っておらず、場の情景が浮かばない説明を読んでいるような読書した。例えば読後に七不思議はそれぞれどんな話だった?と振り返っても思い出せないぐらい設定が盛り込んであって一言で言い表せない。そういうのってリアルなオカルトとしても伝承し辛い為、七不思議として違和感があるのです。その為、私的には七不思議の各話は統一されたオカルトというより異なる短編を平行しながら読書をしなければならず混乱の読書だった次第です。低点数で失礼。

▼以下、ネタバレ感想
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でぃすぺる
今村昌弘でぃすぺる についてのレビュー
No.664: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

悪い夏の感想

世の中のレビューに多くある通り、後半までは凄く面白くて夢中で楽しい読書でした。
その分、期待させておいての結末が非常に物足りなさを感じたというのが正直な気持ちです。

文庫版の著者あとがきにて、本書は悲劇と喜劇を描いたとありました。
登場人物達は悪い人達ばかりで、悪い方向へ人生が転落していく悲劇の物語は抜群に面白かったです。社会問題を描きつつも暗くなり過ぎない雰囲気のバランスが巧く、とても読み易い読書でした。群像劇として複数視点の物語を楽しみ、物語が交差していく楽しみもあります。ただほんと最後の最後の喜劇としての描き方が好みに合わなかった次第でした。喜劇が悪いわけではなく雰囲気の描き方がどうも馴染めなくて読後感が残念な気持ちでした。ほんと最後だけが悩ましい所で、作品は面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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悪い夏 (角川文庫)
染井為人悪い夏 についてのレビュー
No.663: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]   ネタバレを表示する

アリアドネの声の感想

ドローンを用いた災害救助小説。
障害者×災害救助×ドローンを用いつつ、「無理」という言葉の重みや前向きな行動に光を灯すような作品でした。面白かったです。

物語の舞台は地下に建設された障害者支援都市。ITを用いたインフラが整う空間で、目が見えない・耳が聞こえないと言った人々が暮らしやすい都市開発が行われている場所。そこで巨大地震が発生し「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障害をもった人が取り残されてしまったという災害救助の作品です。どこにいるか声が出せないのでわからない、呼びかけても聞こえない、地下に閉じ込められている為見つけても目が見えないで出口へ誘導もできないという救助が不可能状況です。

さて最初に小言を言いますが本書の宣伝方法について。
帯や書店ポップやSNSにて「どんでん返し」「2度読みミステリー」と言った言葉でその手の読者を釣ろうとPRしていますがそういう作品ではないです。誤解を与えますし、それを期待して読むとまったく関係ないので不当な評価を得てしまう事でしょう。版元の宣伝方法には正直疑問です。発売前後の世の中のレビューはそういう感想が溢れていますが、そういう宣伝活動がされたんだなと察してしまう次第でして悪い印象ですね。作品に罪はないのでちょっと思う次第でした。

改めますが本書は災害救助の物語でミステリー要素は極小。そしてもう一つのテーマが主人公の内面に存在する「無理」という言葉。「無理だと思ったらそこが限界」という言葉に捕らわれた主人公の物語です。障害者のできる・できない。救助のできる・できない。難しい局面やそこでのあきらめない気持ちなど考え方がとても読ませられました。

欲をいうと災害小説なのでもっと緊迫した状況やパニック感が欲しかったです。遠隔でドローンを用いて救助する人達の視点なので読者は安全地帯から見守る読書となります。その為危機感が描き辛いのでドキドキ感が弱くなってしまう。救助小説のラストは緊迫感や絶望感が深いほどエンディングの開放感が輝くのですが、それが本書は弱い為ちょっと物足りなさを得ました。

広告に釣られて予想と違う作品でしたが、「無理」の言葉の考え方には得るものがありましたし読後感も良い作品で面白かったです。

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アリアドネの声
井上真偽アリアドネの声 についてのレビュー
No.662: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

夏へのトンネル、さよならの出口の感想

表紙のイラストとタイトルに惹かれて手に取りました。
SFの『夏への扉』に合わせたタイトルを感じる通りタイムトラベルを扱う作品です。

序盤は主人公男子の生活が悲観的で、家庭や学校の問題が憂鬱な気持ちにさせるどんよりとした物語のスタート。章のタイトル"モノクロームの晴天"がなかなか良いセンスだと感じます。そんな日々のある時に都市伝説となるトンネルの発見と変わった女子の転校生により物語が変わっていくという流れ。
転校生の花城あんずのスタンスが面白く、学校や主人公へ変化をもたらしていく序盤はかなり面白く読めました。トンネルの発見と協力して謎を解き明かしていこうという展開も面白い。

ただ4章でガラッと何かあまり求めていない設定やら情報を読まされるような流れになってしまったのが残念な気持ち。ただ5章の緊迫感は時間もののSFをとても感じて良かったです。

序盤が良かっただけに何かが足りないようなスッキリしない読後感でした。
夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)
八目迷夏へのトンネル、さよならの出口 についてのレビュー
No.661: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

夜の道標の感想

2023年度の日本推理作家協会賞受賞作。
異なる登場人物達のエピソードが平行して進む群像劇。
それぞれの物語が社会的なテーマを扱っており、読み進めて行く事で社会問題を知る流れとなっています。
扱う物語が人によっては心苦しい物語の読書となる為、好みが分れる作品。ただそういった心苦しい複数の物語を群像劇として絡み合わせて作られた本書のドラマは圧巻でした。率直な感想はよくこういう物語を思いついて描けるなという小説家の凄さを感じた次第です。

暗いテーマなのですが先が気になり目が離せない読書。作品の面白さとして☆8。個人的な好みとして-1という事でこの点数で。

▼以下、ネタバレ感想
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夜の道標 (単行本)
芦沢央夜の道標 についてのレビュー
No.660:
(8pt)

ストーンサークルの殺人の感想

2019年のCWA受賞作。
以前から気になってはいましたが海外もので580ページのボリュームに躊躇して積読状態でした。
読み始めてみると躊躇していた気持ちは杞憂でした。翻訳はとても読み易く、冒頭からは猟奇殺人模様が描かれ一気に作品に惹きこまれました。
読み終わってみるとページ数の多さは納得のボリューム。各キャラクターの魅力や警察組織模様、飽きさせない連続殺人、社会的な問題、などなど魅力的な要素が豊富であり、かつそれらが絡み合った本作の物語は圧巻の内容でした。海外ミステリの警察ものとしては個人的にオススメ。ただ注意事項としては陰鬱な事件内容なのでそういうのが苦手な方はご注意を。最後の終わり方も好みで満足でした。本書単体で完成されているのですがシリーズとして続きもあるのですね。どうなるのだろう。気になるシリーズになりました。
ストーンサークルの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.659:
(6pt)

死神と天使の円舞曲の感想

知念実希人の死神シリーズ3作目。シリーズは順番に読んだ方がよいです。
タイトルが『円舞曲(ワルツ(3拍子))』とある事から3を用いた作品作りを意識されていると感じました。

猫のクロ視点での物語と犬のレオ視点の物語。久々のシリーズ本である事もあってか前作までのキャラが続投です。
久々の読書でしたがクロもレオも変わらず良いキャラで楽しい読書でした。犬と猫が共闘して事件を解決する様は良いと思います。

一方このシリーズで毎度思う事なのですが、本シリーズはハートフルで動物キャラは優しい雰囲気なのですが事件内容が結構シビアなのですよね。作品内としてはギャップを描いているのかもしれないですが、表紙の雰囲気含むハートフルな物語を期待する人に薦め辛い内容なのが個人的に思う所です。
ちょっと軽めで癒し系のようなライトミステリを読みたい方には事件が合わないと思うし、ミステリを期待する人にもちょっと違う気がするという印象です。私自身も死神キャラは好きなのですが人間側のキャラや事件内容が合わなかった為、面白かったとは言いづらい感想でした。

▼以下、ネタバレ感想
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死神と天使の円舞曲 (光文社文庫 ち 5-6)
知念実希人死神と天使の円舞曲 についてのレビュー
No.658:
(6pt)

私雨邸の殺人に関する各人の視点の感想

クローズド・サークルの館を舞台としたミステリで雰囲気はとても好みでした。

不思議な雰囲気模様な作品でして、登場人物達が「これがミステリだったらこうなるよね。」というメタ的な思考を持って動いていると感じるのが面白かったです。ある程度本格ミステリを読み慣れた方が、事件現場はこうだよね、演出や犯人はこうなるというお約束で期待する展開を作中内のキャラは理解しており、読者が期待する動きを自覚して行動していると感じます。

タイトルにある『殺人に関する各人の視点』と表現している通り、ミステリという事件模様を読者がどう感じるかを登場人物達が代弁しているような雰囲気を持つ作品です。ただ残念な点は各人の視点とあるのですが実際の所登場人物達の半分の視点しかなく、さらには各人の視点で得られる情報がミステリの仕掛けになることもなく、驚きの真相を得られるというものでもない事。ワクワク期待する要素が豊富なのですが、期待すればするほど終盤はあっさりに感じる為に読者の期待と結果が合いづらくて好みが分れそうな作品だと感じました。

表紙やタイトルや作中の雰囲気はとても好み。ただ肝心の事件や真相のミステリ部分はとくに印象に残らない為、消化不良なのが正直な気持ちです。この感情は作中の二ノ宮と読者をあえて合わせている企みなのかもしれませんね。なんか読後感がスッキリしないのが残念でした。
私雨邸の殺人に関する各人の視点
渡辺優私雨邸の殺人に関する各人の視点 についてのレビュー
No.657: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破するの感想

凄く好みの作品で楽しい読書でした。

ライトノベルやアニメ系が好きなミステリ読者にオススメです。
まず特徴的な要素として【事件の手掛かりは、すべて太字で示される。】という作りになっており、ミステリーや推理小説は難しいという読者に対して読み所が提示されています。なんでこんなネタ要素が太字?と思う箇所も、後の推理でちゃんと活用されるのが面白いです。新しい読者獲得の実験にも感じました。

こういう仕掛けがある事から本書は推理ものに特化している印象が強いのですが、実の所謎解きよりも学園ラブコメのハーレムものとして楽しい雰囲気を味わいました。
例えば事件現場にプールがあるのもミステリで必要な要素としてではなく、水着を描きたかったのだろうなと感じる次第でして、ミステリよりも学園ラブコメの楽しさが強い。でもちゃんと仕掛けは施されている塩梅です。ここら辺は読者の好みが分かれる所なのでラノベやアニメ系が好きな方にお薦めというワケです。

キャラクターがどれも可愛く明るくてよい雰囲気。読後感も気持ちよいので次巻も楽しみです。
シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する (MF文庫J)

No.656:

変な絵

変な絵

雨穴

No.656: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

変な絵の感想

前作はYoutube配信で話題になり動画で視聴。小説として読むのは今作が初めてです。
書店でとても盛り上がっていたので手に取りました。前作のようなちょっとした仕掛け本程度の内容だろうと期待はしていなかったのですが、読み終わってみるとミステリの仕掛けを豊富に練りこんだ作品で驚きました。

前作『変な家』は間取りから家の謎に迫る物語であり、本作も同じ傾向を感じさせる"絵"から読み解く謎解き物語となります。
ただこれはほんの序盤の導入だけで、その後は絵を用いながら奇妙な物語が展開されます。面白い所は読者の興味を惹きつける語りや構成。複雑ではない物語だけどなんかおかしいバランスがとても良く、スラスラと読めて先が気になる読書でした。一方あえて悪い表現で本書をとらえると小説としての中身が軽く、文章で表現するのではなく絵や挿絵で補完した小説とも言えてしまいます。ですので人により何を評価するかで好みが分かれるかと思いました。個人的には物語が面白く読めましたし、多くの読者がミステリを味わえる作品という事でとてもアリに感じました。

表紙とタイトルをもっと硬派な社会派ミステリの装丁にすると中身もそのような印象を受けるぐらいちゃんとミステリをしていました。面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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変な絵
雨穴変な絵 についてのレビュー
No.655: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

蒼天の鳥の感想

2023年度の江戸川乱歩賞受賞作。

表紙やあらすじの雰囲気から歴史もので難しそうな印象を受けますが、中身は大正時代の少年探偵もので堅苦しくなく楽しめました。

著者の出身地である鳥取県を舞台にしており、実在する鳥取県の作家田中古代子と田中千鳥(子供)を主人公とした物語です。江戸川乱歩の少年探偵に出てくる怪盗21面相の参考になったとされる、実在する作品『兇賊ジゴマ』も用いており、乱歩の少年探偵の雰囲気をとても感じた読書でした。著者は名探偵コナンの脚本家でもあるという売り出しをされていますが、読んでみるとなるほどと思いました。よくよく考えてみたらコナンも乱歩の少年探偵をモチーフにしていますので、著者の鳥取愛と乱歩作品の想いが十分に盛り込まれて生み出した作品であるととても強く感じます。

ミステリとしての乱歩賞を期待すると個人的にちょっと違う感覚だったのですが、乱歩を感じさせる著者の物語として楽しめた作品でした。
また終盤はとてもコナンを感じました。7歳の千鳥の小さな名探偵模様や、ピンチの時や犯人との対峙シーンなど、頭に浮かぶ画が正にコナン模様でニヤリとしました。良い意味で安心の演出。

読後は田中千鳥の詩をWEBサイトで拝見。実際に子供の時の詩の作品が残っているのかと驚いた次第でした。
蒼天の鳥
三上幸四郎蒼天の鳥 についてのレビュー
No.654:
(4pt)

偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理の感想

交番のおまわりさんが探偵役となる、犯人視点の倒叙ミステリの連作短編集。
泥棒やら詐欺やらの犯罪をどのような言動から見抜くのかという物語。
日本推理作家協会賞受賞作の短編『偽りの春』を含む作品集である事から手に取りました。

正直な感想としては好みの相性が違った作品でした。
読み易い作品でしたが雰囲気が暗くて馴染めませんでした。個人的な読書の心構えの問題だったと思いますが、交番のおまわりさんが探偵役での街中の犯罪ものにしては登場人物達が総じて陰気な雰囲気を醸し出しており、物語やセリフなど読んでいて気が重い読書でした。また犯人の言動から推理するというより、犯人側が取り調べに狼狽えて余計な事を喋ってしまったようなミスが手がかりに感じられた為、推理ものとしても好みと違うものでした。
偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理 (角川文庫)
No.653:
(7pt)

ちぎれた鎖と光の切れ端の感想

昨年の乱歩賞作家の2作目。前作が好みだったので手に取りました。
表紙の雰囲気が似ていますが、前作とは違うお話なので本書単体で楽しめます。

今回の物語の序盤は孤島を舞台にした倒叙ミステリ。
復讐計画を企てる犯人視点。ただし自分の意図しない殺人事件が発生。別の殺人者がいる状況。さらには第2、第3の殺人が起き、被害者は決まって前の殺人の第一発見者が襲われる――。というミステリ。
90年代の新本格模様をとても感じた序盤でした。孤島の連続殺人でワクワクしながらの読書。第一発見者が決まって襲われるという問題も面白く、ミステリとして古き良き要素を入れつつ、現代的なテーマも盛り込んだ作品となっております。

事件を魅せつつも本書で感じたのは人の業(カルマ)を感じました。業なんて単語は本書には出てきていないのですが、善悪の行いによって未来の自分へ廻るという物語を感じた次第。タイトルにある、ちぎれた鎖はこういう悪しき連鎖を断ち切り希望を見出す光を意味している気がしました。

▼以下、ネタバレ感想
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ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかねちぎれた鎖と光の切れ端 についてのレビュー
No.652:
(7pt)

数学の女王の感想

江戸川乱歩賞受賞の『北緯43度のコールドケース』に続くシリーズ2作目。
1作目は読書必須。主人公の背景、警察組織での人間関係など前作を踏まえた深みがでてくる内容となっております。

世の中多くの警察小説がありますが、本作によって他とは違う警察小説の特徴が表れたと感じました。
一番に感じるのは"女性のキャリア"のテーマが根幹に感じます。1作目、2作目、両方とも通じてます。
博士号を持つ主人公。教授や研究者を目指すのではなく警察になった背景。男性社会での女性の立場。作品内に一本の筋としてしっかり入っており、伝えたい想いをとても感じました。ミステリーの描き方についても事件が主体ではなく、人を描く肉付けとして事件を加えているという印象でした。はっきりとした特徴が見えるので他の警察小説とは違う新鮮な感じでとても面白い読書でした。

面白い作品なのですが、一言で売り文句になるような言葉が見つからないのがもどかしいです。"警察小説"、"女性のキャリアもの"が良いと言っても読者へ響かないでしょう。勝手な解釈ですが、読者へ分かりやすいPRワードとして、爆弾や数学という言葉で印象付けを狙ったのかなと感じました。タイトル『数学の女王』については巧いワードではなかったのではと感じる所でして、ここだけが勿体ないかなと思いました。学長を強烈に印象付けすると効果でそうですが。。。詳しくはネタバレ側で。

シリーズ作品として今後も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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数学の女王 道警 沢村依理子 (講談社文庫)
伏尾美紀数学の女王 道警 沢村依理子 についてのレビュー
No.651:
(6pt)

幽世の薬剤師の感想

怪異が存在する異世界が舞台の医療ミステリー。
医療もののミステリーとなりますが、物語のメインは異世界を舞台にしたファンタジーです。
シリーズものの1巻目の為、人物や舞台説明などが主体に感じました。
序盤は真面目な固い雰囲気のファンタジーでしたが、登場人物達が「お互い敬語は無しで」みたいな雰囲気になってからは会話が軽くなり文章含めて著者らしいライトノベル模様でした。

異世界での怪異を現代医療で解決するとはいえ、読者が同じ目線で推理する類ではなく、医者目線の医療知識をもって解決する傾向です。
世の中の他のレビューにもありますが、同じ新潮文庫nexから出版されている知念実希人の天久鷹央シリーズを現代版とするなら、今作がファンタジー版という印象をとても感じました。同じ担当編集なのかな。同じ客層をターゲットにしていると感じます。
怪異の認知設定も城平京の虚構推理シリーズ模様であり、パロディとも違うので、本書の特色が見え辛いのが正直な気持ちでした。表紙や雰囲気は好みです。シリーズ1巻目でまだまだ続巻もでているシリーズなので、今後どのように展開されているのかなと思う次第です。
幽世の薬剤師 (新潮文庫)
紺野天龍幽世の薬剤師 についてのレビュー
No.650:
(7pt)

波濤の城の感想

シリーズ2作目は『ポセイドン・アドベンチャー』のオマージュ作品となる豪華客船を舞台としたパニック小説。
1作目未読でも本書単体で楽しめます。相変わらずの面白さでありました。
ただ期待し過ぎてしまったからなのか、1作目が素晴らしかったからなのか、やっている事は前作と同じような展開な為に新しい刺激があまり感じられなかったのが正直な気持ちです。

登場人物達の役割、悪い人、現場に詳しい人、男女、年配の方、といった配役の設計が前回と似ています。船長や国会議員の上の存在が原因となる事故模様。テンプレート感が良い意味では安心して楽しめるのですが、悪い意味では同じものを読んだ感覚となってしまう次第。
事故原因となった船長や議員についても、私欲や自己保身による理不尽な内容なので読んでいて気分が悪かったです。前作の『炎の塔』では経営者側のバックグラウンドや役割がちゃんと描かれていたので、それぞれがちゃんと仕事をしている上での事故という多少の納得があったのですが、今作はそれが感じられなかったので理不尽な気持ちになる読書となった次第。ただこれは著者あとがきにある海難事故における事例が示す通り理不尽なものをあえて描いているのかもしれません。

台風接近の海洋事故の脱出もので主人公は消防士。という条件で本書が描かれたのは中々凄いなと感じました。消防士が主人公なら敵は炎となりますが、台風で大雨のシチュエーションな訳で火事の見せ所が描き辛いのです。そんなわけで船内の救護活動や迷路のような脱出劇、炎が生まれる小道具など、作り方の面白さの方が目に留まりました。定期的に船の中で起きている物語だと忘れさせないように、船内が傾いている状況が描かれたり、群像劇として外の台風や海洋の様子を描いたりなど、小説家の巧さを感じます。

前作からの期待値が高すぎてしまった故の感想となってしまいましたが面白さは確かです。三部作ということで次巻も楽しみです。
波濤の城 (祥伝社文庫)
五十嵐貴久波濤の城 についてのレビュー
No.649:
(5pt)

ホテル・ピーベリーの感想

新装版の雰囲気に惹かれて手に取りました。
読後の気持ちとして、帯にあるようなミステリーを期待すると肩透かしを受けると感じました。

本書はミステリーとしてではなく、旅先で体験した非日常の出来事ぐらいの感覚で楽しむお話です。
舞台はハワイにある一見さんのみ宿泊可能なホテルのお話。ハワイの雰囲気がとてもよく描かれていて旅行気分を味わった作品でした。
旅先で出会う人たち、その場の縁、ある意味ドライな関係性はリアルに感じました。旅先で出会う人にそんなに深入りはしない為、どんな事情があっても他人事な感覚になります。あえて悪い印象で表現すると、どうでもいいかなと言うような気持ちのエピソードになる為、その気持ちが本書の物語への惹かれ具合となった次第。
ハワイの晴れやかな雰囲気とは対象的に後ろめたさやじめじめしたエピソードな為、あまり好みの物語ではなかったのが正直な気持ちです。
ホテル・ピーベリー<新装版> (双葉文庫)
近藤史恵ホテル・ピーベリー についてのレビュー
No.648: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

線は、僕を描くの感想

これは傑作。

2019年度のメフィスト賞受賞作。
メフィスト賞作品ですがミステリーやファンタジー系統ではなく、文学寄りの作品での受賞。つまり優れた作品だったので賞を与えられて出版された作品であるとも感じます。

本書は水墨画を扱う青春小説。
事故で家族を失った大学生の主人公。孤独や無気力、ただ生きているだけの日々の彼が水墨画の世界に引き込まれていくという流れ。

まず本書の素晴らしい所は、文字だけの小説で白黒の水墨画をテーマにした内容なのに、読書中は鮮やかな感覚を得る読書である事。ものの見え方・表現の仕方が卓越しており素晴らしい読書体験でした。読後に著者自身が水墨画家である事を知って納得です。
水墨画の知識についても、主人公と読者の目線が合っているのがよいです。初めて触れる世界、水墨画とはどういうものか、道具は?描き方は?描き手の気持ちなど物語を通して体験できました。

また全体を通して悪意がなく登場人物達も魅力的で優しい世界。読んでいて心地よい。青春小説としての成長も得られて満足。さらに読後はネットで水墨画の作品や"描き方"を見たくなりYoutubeなどを巡回しました。作品を見る目も養われるといった次第で本当に素晴らしい読書でした。オススメです。
線は、僕を描く (講談社文庫)
砥上裕將線は、僕を描く についてのレビュー
No.647: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

恋に至る病の感想

いじめ、サイコパス、自殺教唆を用いながらの歪んた恋を描いた作品。
MW文庫なので読者ターゲットは中高生。ここの世代にとても刺さりそうな作品だと感じました。

そして本書の面白い所は、深読み系の作品である事。考察が好きな人は尚良し。
読書後に実はこういう話だったのではないか?と深読みさせるように作られています。その為、読んだ人同士で感想を言い合ったり、中高生なら学校で友達に紹介し合うでしょうし、SNSでそれぞれの解釈や感想が広がる面白さを感じました。

この手が好きだったとしても、扱う内容がいじめや自殺なのでその内容の陰鬱さで好みが分れる事でしょう。私自身もこの点は好みではないです。深読みしてまで読み返したくなる内容ではないのが難点。ただ作品作りとしては面白く、所々ハッとさせられるセリフなど著者の想いが感じられるのも良かったです。

どう解釈したかはネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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恋に至る病 (メディアワークス文庫)
斜線堂有紀恋に至る病 についてのレビュー
No.646: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

盤上の向日葵の感想

白骨死体と共に埋められていた600万もの価値がある将棋の名駒。何故埋められたのか。白骨死体は誰なのか。将棋の駒を手がかりに事件の行方を追う。という始まり。

とても惹きこまれた読書で一気読みでした。
ただ正直な気持ちとして、終盤に関しては物足りなさで終わった読後感でした。
あらすじにある何故高価な駒が死体と共に埋められたのかという謎は終盤まで明されず、途中何度か読者に考えさせる演出がある為、そこにすごい仕掛けでもあるのかなと期待をさせるのですが、そういうものではなかったので物足りなく感じた次第。
とはいえ重厚な人間ドラマとしてはとても堪能しました。将棋の事がわからないでも本書は大丈夫です。
またあえて変わった視点で本書の構造を見ると、将棋の駒が主人公であり、駒(美術品)を取り巻く人や歴史を読者に感じさせる美術ミステリ模様をも感じました。
点数の好みとしては、重苦しく悲劇で嫌な気持ちになる事が多かった為この点数で。

▼以下、ネタバレ感想
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盤上の向日葵
柚月裕子盤上の向日葵 についてのレビュー