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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数126件
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読後に知りましたが、シリーズものの3作目でした。
ただ、メインの登場人物が続投してる程度なので本作単体で読んでも大丈夫です。 好みの評価に関しては非常に悩ましい点数でした。 480ページのボリュームの中、残り数十ページの終盤までは何が起きているのか、何が大事な話なのかよく分からず退屈だったのが正直な気持ちです。読書中の気分は3~4点ぐらいがホンネ。面白くない。色々と事件が起きているのですが、把握したり真相を読み解くのは難しいでしょう。ただ、全ての理由や繋がりや真相が明かされる終盤は圧巻であり驚かされました。これまでのエピソードの数々が大いなる伏線となり、意味も変わり真相に帰結するのです。これは本当に凄かった。本格ミステリとしての鮮やかさを久々に体験しました。そして最近の作者の作品の持ち味となる後味の悪さも良い意味で健在。真相と心に残る読後感は9~10点の傑作でした。なので平均でこのぐらいの点数で。 物語の読み物としては好みに合わなかったのですが、ミステリとしては傑作です。 |
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2023年度の鮎川哲也賞 優秀賞作。
死に戻りによって残された余命の中で事件が展開する、特殊状況下のミステリーです。 おすすめな読者はミステリーを読み"慣れていない"人向け。90年代のミステリーが盛り上がった頃の作品が味わえます。 個人的に悩ましく感じた理由は、設定が多いミステリーであるため、人物や物語の広がりが限定的に感じられた点です。ある程度ミステリーに慣れている読者にとっては、「こういう展開になるのだろう」と結末が予想の範囲内に収まりやすく、結末が見えることで設定作りの意図も逆算的に読めてしまいます。その結果、驚かされるはずが「やっぱりな」という感覚に落ち着いてしまうのではないでしょうか。また展開が強引に感じられる部分もやや気になる点でした。 本作を読んで感じたのは、90年代ごろの尖ったアイディアが詰まったミステリーを読んでいるような印象でした。見慣れてますが好きなので読んでいて楽しいです。そのため細かいことは気にせず、物語がどのような結末を迎えるのかという気持ちでの読書。ただ、結末の描き方も90年代当時に見られたネタに近く、なんというか本書はその当時に盛り上がった設定が集まってできた作品であると感じました。おそらく著者もこの時代のミステリーを愛する方なのでしょう。作者名"小松立人"は岡嶋二人(おかしなふたり)みたいな感じで、小松立人(困った人)と命名していますし、先人のアイディアを多く感じる内容でした。ポジティブに考えると好きなもので作られた作品です。 気軽に楽しめるミステリーとして、わかりやすい構造は好みでした。ただ真相の明かされ方やネガティブな思考の描写は、読んでいてあまり気持ちの良いものではなく、読後感が悪くなってしまいました。そのため人に薦めづらい点が残念でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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フランス革命期を舞台にした歴史ミステリ。
当時の背景や環境が巧みに活かされた物語です。 読む前は「もしかして、カーの『三つの棺』に関連するのかな」と期待する方がいるかもしれませんが、そういった作品ではありません。 科学捜査が存在しない時代。犯人は襲撃現場を目撃されていたものの、容姿がそっくりな三つ子の1人だったため、誰が犯人か特定できないという事件です。しかし、物語はこれだけでは終わらず、二転三転する展開が見事でした。 また、時代の雰囲気を再現するため、作中には当時の服装や銃器の写真が挿絵として掲載され、立派な地図も添えられるなど、雰囲気づくりにもこだわりが感じられる点は良かったです。 ただ難点は、文体まで当時の雰囲気を模したためか、非常に読みにくく感じました。著者の作品はいくつか読んでおり、読みやすい作品もあることは知っているのですが、本書の序盤は読むのに苦労しました。 最後まで読み終えた結果、とても面白く、この時代背景だからこそ成立するミステリを堪能できた点はよかったです。 ただ、文章が合わなかった事と、その先の物語の展開がある程度予想の範囲内だったこともあり、少し好みとは違うものだったのが正直な気持ちでした。 |
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社会的な風刺があるエログロ系ではない方の大石作品。
物語はビルを吹き飛ばす程の爆弾がプレゼントされたらあなたはどうするか?という話。複数人に配られた爆弾を受け取った者達の姿を描く群像劇。まずは疑心暗鬼に始まり、はなから悪戯だと信じない者、警察に届ける者など様々。社会への不満、格差による嫉妬、幸せな奴らを吹き飛ばしたい悪意など、負の感情が渦巻く姿を描くのはいつもの作者の持ち味で楽しめました。 爆弾が爆発するシーンや社会が混乱する所など、世の中を描くシーンは作者には珍しい場面で新鮮でした。いつもは個対個や犯人や被害者の異常性を読むことが多いので珍しいと思った次第。作者の作品は人には薦め辛い内容なのですが個人的に好みが多い。なかなか面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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あらすじやタイトルから感じる期待感と中身が合ってないと感じました。
発売月が11-12月なのでその時期に合わせたタイトルとしてクリスマスにしたのかなという印象。たしかにクリスマスの奇跡ととらえる事もできる内容ですが、ちょっと安易な気がしました。 物語は4人の若者がドライブ中に交通事故で人を殺してしまうという始まり。夜で誰も見ていない為、事故を隠蔽し4人の秘密とします。それから数年後、10年ごとのクリスマスの日に何故か轢き殺してしまった男性が生きて姿を現します。一体何が起きているのか。という物語。 著者の作品は読みやすい為、物語に没入できるのが良かったです。事故を起こしてしまった不安や何故か現れる男性の姿によるパニック。不安な気持ちによるホラー模様で序盤は楽しめました。ただ中盤以降や真相についてはちょっとアンフェアに感じます。良い意味では予想外の物語へ展開したとも言えますが、悪い意味では突然の設定変更みたいな気持ちで腑に落ちませんでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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小説を用いた新しい読書体験作りを感じた一冊でした。
『いけない』シリーズでは最後のヒントとして写真画像を見せて読者に真相を推理させる話となっていましたが、本作はそれの動画バージョンです。小説中にYoutubeへのURLが書かれたQRコードがあり、そこからYotubeにて最後の手掛かりとなる音を聴くわけです。 ちょっと悩ましい所は音を聴けばすぐに真相がわかるという訳ではありません。あくまで最後のヒントとなるもので、音を聴いてそこから読者が真相を推理する必要があります。ゲームブックや謎解きゲーム/イベントに参加している感覚なので自分で謎を解くのが好きな人向けです。言い換えると『いけない』シリーズと同様に真相は描かれていないので、結末が分からずスッキリしない作品でもあるのでそれが好みではない人には不向きです。 他、普段読書をどこでするのかが影響する作品です。私は電車移動中や外出先で読書をする事が多い為、外では結末の音が聴けず家に帰ってから動画を見るという手順だった為、没入感が途切れました。『いけない』シリーズだと読書のまま画像が見れたのですが、本書は動画を再生する必要があるので悩ましい所でした。本書は家でじっくり読むのに適してます。 5作の短編集ですが、個人的には『ハリガネムシ』が一番良かったです。本書の音に関する物語と仕掛けがマッチしていますし、抑揚のある音声を聴いたからこそわかる真相や心情が見事です。物語の内容は作者らしく重苦しいのがちょっと苦手ではありますがミステリと本書の音のテーマには一番マッチしていると感じました。 その他本書のおもしろい所はYoutubeの再生数ですね。ある意味読者数の集計ができるわけです。出版部数に対しての再生数の動きをちゃんと解析していけば、読者の広がり、中古や図書館での読者数、著者のファン数の推測値、文庫化した時の動きなど、分析に活用できるなと思いました。 |
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読後に感じたのはミステリの仕掛けを施した技巧本という印象でした。こういう作り方の物語だったのかという感覚。技術的な視点で見ると面白い構成なのですが、物語としてはあまり好みではなかったです。
物語は過去のいじめの真相を追う話。鬱々とした話が続き、特に興味がわかない話の進み具合に退屈な読書でした。 終盤解説があるのですが読んでも凄いとか驚くとかそういう感情は沸かず、ただ分り辛いという気持ちでした。 本書が神がかった印象を受けるのは物語が著者の遺作設定である事が挙げられます。著者作品の特徴として自身の本名を登場人物として作品内に登場しますが本書もその1つです。著者の遺作としての設定の本書なので物語中で亡くなったのですが、現実に著者が急死してしまった為、本書の物語が虚構なのか現実の事なのかと奇妙な感覚を得る次第でした。 |
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5編の本格ミステリ。捜査資料として事件の概要を知り、追加の捜査や取り調べで得た情報から事件の構造がわかる警察小説を用いた本格ミステリでした。
率直な感想として、かなり丁寧な物語で細かい所まで気を使って描かれていると感じます。大きな派手さはなく、一発ネタの仕掛けで盛り上がるようなものでもないのですが、細かい手掛かりを元にちゃんと考えれば真相が見えてくる謎解きの面白さがある内容でした。 まぁ、、、個人的な好みの問題なのですが、地味かなと。キャラクターも事件もあまり印象に残らないというか、そういう風に描いているのでここは好みの問題です。なんというか丁寧で嫌な所がない上品な警察小説だなというのか個人的な感想でした。 |
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著者の作品に期待する通りではありましたが、本書の場合はただひたすらに陵辱シーンのエロを描いたという作品でした。著者の作品ラインナップによってはホラー/官能/暴力/テーマ性/の成分が振り分けられ、たまに名作になるバランスが存在するのですが、今回の作品に関しては暴力とエロです。
物語はあらすじ通り二部構成。 第一部はエリート医者の双子に監禁され陵辱されるという、ある意味安定のいつも通りの大石圭作品。ただ他の作品との違いとしては犯行に至るまでの過程や思考を描くのではなく、プレイ内容を主に描かれていると感じました。読み進めていく中で、あぁ今回の作品はそこを描くのがメインなのかと思った次第。そういう内容なのですが文章はサラッとしていて読み易く、そこまで具合悪くなるような気持ち悪い表現もないという、ここもいつも通りの著者の文章なので楽しめました。 ただ第二部からの復讐についてはちょっと残念でした。あまりにも上手く行き過ぎており、ターゲットも急に頭が悪くなるような感じで違和感です。恋は盲目なのかもしれませんが、ちょっと残念な展開でした。船上のシーンは著者が復活して目覚めたようなノリの良い展開で好みではあります。 ホラー小説における暴力等の嫌なシーンの対比ともなる、幸福となる食事のシーン。ここら辺のシーンがいくつかあり印象に残りました。なので本書のテーマは性欲や食欲、人間の内面に抑圧されている暴力的な欲求。「監禁」されているのは実はそういう暗黒面の欲求の事を比喩しているのではないか。とか勝手に深読みしながら著者の作品を楽しんだ次第でした。内容はアレなんですが謎の中毒性がある作家だなと感じます。 |
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著者の作品は幽霊や怪異が存在する事が前提のミステリーの作品が描かれます。本作もその系統の1つ。死者が見える霊媒師が主人公のミステリー。
短編集であり、1話で解決していくスタイルなので気軽に読めました。著者の作品のよい所はちゃんと題材となる幽霊が存在する事を活用したミステリー仕掛けをしてくる事。特殊設定ものとして新しい謎解きや仕掛けが楽しめました。 幽霊が見えるだけでなく、会話ができ、事件の概要を直接聞ける。そんな状況なら謎なんてないじゃないと思う所なのですが、各話巧いミステリー作りをしていたのが良かったです。 キャラクターとして胡散臭い主人公の性格はあまり好みではなかったのですが、洞察力を用いた推論を一気に語るセリフは好みでした。相棒となる助手の美幸の存在もよくコンビものとして良かったです。著者の那々木悠志郎シリーズが怖いホラーよりで、こちらは気軽に読めるライトな幽霊ミステリーといった所です。 シリーズ2作目が既に発売していて気になるのですが、PHP文芸文庫の値段がちょっと高めなので内容に対してこの値段設定は購入を悩むのが正直な気持ちかな。 |
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知念実希人の死神シリーズ3作目。シリーズは順番に読んだ方がよいです。
タイトルが『円舞曲(ワルツ(3拍子))』とある事から3を用いた作品作りを意識されていると感じました。 猫のクロ視点での物語と犬のレオ視点の物語。久々のシリーズ本である事もあってか前作までのキャラが続投です。 久々の読書でしたがクロもレオも変わらず良いキャラで楽しい読書でした。犬と猫が共闘して事件を解決する様は良いと思います。 一方このシリーズで毎度思う事なのですが、本シリーズはハートフルで動物キャラは優しい雰囲気なのですが事件内容が結構シビアなのですよね。作品内としてはギャップを描いているのかもしれないですが、表紙の雰囲気含むハートフルな物語を期待する人に薦め辛い内容なのが個人的に思う所です。 ちょっと軽めで癒し系のようなライトミステリを読みたい方には事件が合わないと思うし、ミステリを期待する人にもちょっと違う気がするという印象です。私自身も死神キャラは好きなのですが人間側のキャラや事件内容が合わなかった為、面白かったとは言いづらい感想でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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クローズド・サークルの館を舞台としたミステリで雰囲気はとても好みでした。
不思議な雰囲気模様な作品でして、登場人物達が「これがミステリだったらこうなるよね。」というメタ的な思考を持って動いていると感じるのが面白かったです。ある程度本格ミステリを読み慣れた方が、事件現場はこうだよね、演出や犯人はこうなるというお約束で期待する展開を作中内のキャラは理解しており、読者が期待する動きを自覚して行動していると感じます。 タイトルにある『殺人に関する各人の視点』と表現している通り、ミステリという事件模様を読者がどう感じるかを登場人物達が代弁しているような雰囲気を持つ作品です。ただ残念な点は各人の視点とあるのですが実際の所登場人物達の半分の視点しかなく、さらには各人の視点で得られる情報がミステリの仕掛けになることもなく、驚きの真相を得られるというものでもない事。ワクワク期待する要素が豊富なのですが、期待すればするほど終盤はあっさりに感じる為に読者の期待と結果が合いづらくて好みが分れそうな作品だと感じました。 表紙やタイトルや作中の雰囲気はとても好み。ただ肝心の事件や真相のミステリ部分はとくに印象に残らない為、消化不良なのが正直な気持ちです。この感情は作中の二ノ宮と読者をあえて合わせている企みなのかもしれませんね。なんか読後感がスッキリしないのが残念でした。 |
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2023年度の江戸川乱歩賞受賞作。
表紙やあらすじの雰囲気から歴史もので難しそうな印象を受けますが、中身は大正時代の少年探偵もので堅苦しくなく楽しめました。 著者の出身地である鳥取県を舞台にしており、実在する鳥取県の作家田中古代子と田中千鳥(子供)を主人公とした物語です。江戸川乱歩の少年探偵に出てくる怪盗21面相の参考になったとされる、実在する作品『兇賊ジゴマ』も用いており、乱歩の少年探偵の雰囲気をとても感じた読書でした。著者は名探偵コナンの脚本家でもあるという売り出しをされていますが、読んでみるとなるほどと思いました。よくよく考えてみたらコナンも乱歩の少年探偵をモチーフにしていますので、著者の鳥取愛と乱歩作品の想いが十分に盛り込まれて生み出した作品であるととても強く感じます。 ミステリとしての乱歩賞を期待すると個人的にちょっと違う感覚だったのですが、乱歩を感じさせる著者の物語として楽しめた作品でした。 また終盤はとてもコナンを感じました。7歳の千鳥の小さな名探偵模様や、ピンチの時や犯人との対峙シーンなど、頭に浮かぶ画が正にコナン模様でニヤリとしました。良い意味で安心の演出。 読後は田中千鳥の詩をWEBサイトで拝見。実際に子供の時の詩の作品が残っているのかと驚いた次第でした。 |
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怪異が存在する異世界が舞台の医療ミステリー。
医療もののミステリーとなりますが、物語のメインは異世界を舞台にしたファンタジーです。 シリーズものの1巻目の為、人物や舞台説明などが主体に感じました。 序盤は真面目な固い雰囲気のファンタジーでしたが、登場人物達が「お互い敬語は無しで」みたいな雰囲気になってからは会話が軽くなり文章含めて著者らしいライトノベル模様でした。 異世界での怪異を現代医療で解決するとはいえ、読者が同じ目線で推理する類ではなく、医者目線の医療知識をもって解決する傾向です。 世の中の他のレビューにもありますが、同じ新潮文庫nexから出版されている知念実希人の天久鷹央シリーズを現代版とするなら、今作がファンタジー版という印象をとても感じました。同じ担当編集なのかな。同じ客層をターゲットにしていると感じます。 怪異の認知設定も城平京の虚構推理シリーズ模様であり、パロディとも違うので、本書の特色が見え辛いのが正直な気持ちでした。表紙や雰囲気は好みです。シリーズ1巻目でまだまだ続巻もでているシリーズなので、今後どのように展開されているのかなと思う次第です。 |
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とても個性的な作品でした。
メフィスト賞受賞作である本書。ミステリーとしてではなく個性的な物語としての受賞であると感じます。 あらすじにある通り、アメリカで実在したハランベ事件をモチーフにした物語です。タイトル『ゴリラ裁判』が示す通り、読書前の印象は裁判ものだと思っていたのですが、読み終わった現在では違う印象を持ちました。 裁判ものというより、SF作品の宇宙人と地球人との違いみたいな人種問題を扱った作品の印象です。「人間とは何か?」を問いかける物語を宇宙人でなく親しみやすいゴリラを用いて行われています。 読書中の気分はハヤカワの海外SFを読んでいるようでした。文章が海外翻訳の本を読んでいるような感覚であり、登場人物もゴリラ含めてカタカナ名かつ舞台も海外なのでより強く感じた次第です。良し悪しや好みの意味ではなく、単純に文章が海外作品っぽいと思っただけです。物語はイメージしやすく読み易かったので好感。 本書のテーマとなっている所は社会派模様なのと後半の裁判の説得の仕方があまり共感できなくて好みと合わなかったのが正直な気持ち。ただ序盤のカメルーンでのゴリラの生活物語はワクワクして楽しみました。個性的な物語を描くのでデビュー後の作品にも期待。 |
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科学捜査もの。推協賞にノミネートされていたので手に取りました。
元科学捜査研究所にいた風変わりな鑑定人が探偵役。確かな技術力をもって弁護士や判事から依頼を受けて事件の真相を暴くというもの。作風はリアルで硬派なので扱う事件も重苦しい部類です。ただ読み辛いという事はないです。 でてくる単語が専門用語寄りなので、理系や科学捜査ものが好きな方向けの作品です。 1話目『遺された痕』 読者を掴む1話目で扱う事件は性犯罪です。最初にこの事件を配置しているあたりで本書は軽いミステリではなくて硬派な作品なのだなと気を引き締めた次第。本書は楽しく読む作品ではなく事件を真摯に科学を通して見つめる作品だと雰囲気を感じ取りました。 2話目『愚者の炎』 ベトナム人技能実習生による放火事件。これは社会派ミステリ模様でした。1話目2話目と読み進めるとフィクションの小説というより現実の事件の捜査模様を体験するような感覚を得た次第。 3話目『死人に訊け』 少し気を抜いたエピソードがあり緊張感が解れるラストが面白い。鑑定人土門誠の技術ではなく人としてどういう人なのかちょっとだけ感じられた内容。 4話目『風化した夜』 それまで匂わせていた過去のエピソードが繋がる物語となっています。 作品の雰囲気は重苦しく真面目な内容。全体を通して感じる事は、真実は人間のアナログ的な感情で左右される事無く科学的な証拠に基づいてきちんと導きだす事。そして隠さず暴く事という正義を感じました。数年前のミステリで真実を暴く事で不幸になる場合があるという探偵の悩み問題がありましたが、それに対する真摯の想いを感じた作品でした。 |
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要素盛り沢山な所が面白くもあり、複雑に感じる所でもありというのが率直な感想でした。
情報量が多いというか詰め込み過ぎというか、読書が夢中になり辛かった為かもしれません。とはいえ面白い作品でした。 作品傾向は青春SFミステリー。 主人公は過去視。ヒロインは未来視。猫の瞳を通じてその二人が出会い、主人公が遭遇した銃殺事件を調査していくという流れ。事件はミステリパート。 2人の恋愛模様はパソコン画面でのリモート会話のような過去と未来で猫の瞳を通して接続される設定であり、今風の遠距離恋愛の物語を感じました。時間軸と猫の組み合わせなどSFの小ネタを感じる所が豊富。ミステリの小ネタも盛り沢山です。キャラクターの良さを描いた演劇部の活動内容も面白く読めました。 ただもどかしいのはどれも話のメインになるような設定のエピソードを300P台の本書に詰め込んでいる為か把握し辛い。密度が凄いとポジティブに捉える事もできますが読書のリズムと情報量が合わないと感じました。話が急展開になったり、感情移入する前に結果がでてきてしまったりと、凄い面白い事をしているのに味わい辛かったです。これは著者が好きな設定や展開をとにかく盛り込んだようにも感じて必然性が感じられなかったのも要因です。特に第四幕からは大事な魅せ所なのに驚きや感動を味わう間もなく次々と進めているような駆け足を感じます。間や演出があればもっと読者の心を掴めそうなのにと勿体なさを感じました。 一方、序盤の学園エピソードは惹きこまれます。キャラの濃い阿望先輩登場や演劇のエチュードは惹きこまれました。序盤は丁寧に描かれている為か学園箇所面白かったです。 表紙やヒロインも可愛くて絵柄や意味深なタイトルも好み。あと文章中で登場人物にすべてルビがふってあるのは読み易くて良かったです。この人なんて読むんだっけ?という煩わしさがありません。最初の登場シーンだけルビを振るのではなく、全ページで人物名のルビがあるので物凄く読み易い作りは好感です。最近の電撃文庫はこういうフォーマットにしたのかな。 と、良い所もそうではない所もいっぱい感じた作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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良い意味で個性的な作品でした。
あまり味わった事がない雰囲気で楽しかったです。表紙の雰囲気も新鮮。 まず特徴的な要素は全員既に死んでいる事。 何らかの事件に巻き込まれた者達が記憶を失った状態で天国屋敷に集ったシチュエーションです。 自分は誰なのか。何故殺されたのか。集まった人々の中に犯人はいるのか。というミステリーなのですが、本書は事件の殺伐さを描くのではなく、集まった者同士の交流をコミカルに描かれているのが印象的でした。既に死んでしまっているからか死の恐怖はありません。一緒に捜査して悩んだり、食事したり、息抜きに遊んだり、という和やかな雰囲気なので気軽に楽しめる読書でした。 新潮ミステリー大賞の候補作品ですが、この賞の候補作品が出版される事は珍しいです。そのまま埋もれさせてしまうのは勿体ないという気持ちを感じた次第でした。 ミステリーではありますが謎解きに期待するものではなく、ミステリー要素を用いた1つの映画やドラマ作品を体験するぐらいの気持ちで手に取ると楽しめると思います。読後感も良い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイトルと表紙の雰囲気に釣られて手に取りました。
『仕掛け』『島』というミステリ好きが好む直球タイトルです。既刊本に『館島』がありますが関連性は特にないので本書から楽しめます。 奇妙な館。孤島。プロローグで描かれる非現実な不思議な現象。新本格時代の要素がたっぷりのミステリは好感でした。 そこに著者の持ち味となるユーモアが加えられた作品です。ただこのユーモアについては好みに合いませんでした。 好みのお話ですが、ミステリはある程度のドキドキ・ハラハラや恐怖というか不安な雰囲気があってこそ解決時において開放感が得られ、読後スッキリとした味付けになると思うのです。本書の場合は雰囲気を和ませるボケやギャグが多く事件の緊張感がないので、なんというか場を眺めているような読書感覚でした。タイトルに掲げる通り仕掛けある物語ですが、その仕掛けが明かされた時も驚きではなくそうなんだ程度の感触しか得られなかった次第。完全に好みのお話で恐縮です。 いや、ちゃんと補足すると仕掛けは壮大かつ奇想なもので良かったのです。ギャグやユーモアも単体で見るとキャラが笑えて面白いのです。ただこの2つを組み合わせた本書のユーモアとミステリにおいてはそれぞれの良さが打ち消してしまい、ごちゃごちゃになってしまっているような印象でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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