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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数370件
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7歳で引き取られた妾の娘・かな子の成長を描くサバイバル小説のような歴史ドラマの大作。
2024年度の各紙ミステリランキングで上位に入った話題作。800ページ近い骨太長編のため読むのを躊躇していて積読状態でした。時間が取れたのでやっと手に取った次第。結果、とても充実した読書で大満足でした。内容の密度が非常に濃いため、時間が取れる時に腰を据えて読むのがおすすめです。 物語は、富豪一族の当主の妾の娘・かな子(7歳)が、一族の屋敷に引き取られるところから始まります。母を亡くし、父も倒れ、味方のいない幼い少女。正妻の子ではないゆえに、やっかい者として迎えられるなか、彼女がどう生き抜いていくか――。かな子の成長を描くサバイバル小説の側面を持った歴史ドラマとなります。 ミステリーとしての知名度はありますが、殺人事件やトリックを期待する物語ではなないです。 ではどのような点がミステリーとしての面白さがあるのか。それは、富豪一族のそれぞれの腹の内や思惑、そして会話の裏に潜む駆け引きです。セリフの1つ1つが巧妙です。登場人物たちは皆、頭の回転が速く、上流階級ゆえの遠回しな言葉を操ります。一見普通の会話が読み進めるうちに緊張感ある心理戦へとなっている。その意味は数ページ後に解説と共に気づかされるのですが、それらによって恐ろしさと凄さを味わいます。主人公視点で気づかない所で進行している根回しや政略的活動、立場ある者・悟られない為の発言。そうした細かく設計された構成がミステリーとしての魅力になっていると感じました。 中盤、かな子が成長していき、交友関係も増えてくる400ページ過ぎあたりから、面白さがさらに加速していきました。本作にて物語としては一区切りがついていますが、このボリュームを読み切ったうえでなお、まだまだ序章と感じさせる結末が凄い。それだけ魅力的でこの先の物語も知りたくなる力を持った作品でした。 本書の注意点としては非常に頭を使う内容なので、気楽に物語を楽しみにたい人には少し難しく感じるかもしれません。じっくり時間を取れるときの読書をおすすめします。歴史ドラマや時代もの作品が好きな方にオススメです。 |
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SNSで話題となり、口コミで広がっている注目作。その流れに乗って読みましたが、話題になるのも納得の面白さでした。
まず本作は海外ミステリが苦手な人に手に取ってもらいたい作品です。海外作品で人物や地名の把握が苦手な人でも大丈夫。なぜなら舞台は家周辺。そして登場人物は5名だけです。海外ミステリーならではのスリルと展開が味わえます。 物語は裕福な家庭に住み込みのハウスメイド(家政婦)として雇われるところから始まります。前科持ちで仮出所したばかりのミリーは住む場所もなく絶対に仕事を失いたくない立場。そこへ舞い込んだ裕福な家庭のハウスメイドとしての仕事。待遇は良い。ただし雇い主からは理不尽な扱いを受けていきます。内容は読んでいてイヤミス模様で心苦しいです。理不尽さが凄く、頭がおかしいんじゃないかと雇い主の行動に嫌悪する読書でした。それでも仕事を辞められないミリーの境遇に、読者も一緒にやるせない気持ちを味わうことになります。嫌な気持ちを共有しながらの読書でした。 翻訳はとても読みやすくページがどんどん進む読書でした。内容的には重苦しい場面は多いものの不思議と読む手が止まりませんでした。ただ正直な所、序盤は「これはSNSで話題になるほどのものなのか?」という疑問の読書でした。ただ止められない読書であるのと、物語の全貌が見えてきた所からはさらに加速しての一気読み。後半は「そうきたか。」と唸る展開で話題になるのも納得。とても充実した読書体験でした。物語の終わり方も素晴らしく続編が読みたい気持ちでいっぱいでした。 本書は海外ですでに3作が刊行されている人気シリーズで近日映画公開も予定されています。2作目の翻訳も年内発売との事でかなり楽しみなシリーズに出会えたという気持ちでした。海外ミステリをあまり読まない人ほどオススメです。海外ミステリを読み慣れていると既視感を感じると思うのですが、それでも楽しかったので個人的に満足の作品でした。 |
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『戸籍』をテーマとした社会派ミステリー。
書店で多く並べられているのを見かけ、そして帯にあった『松本清張以来の社会派ミステリーの復活』というコピーに惹かれました。最近、社会派小説を読んでいなかったこともあり手に取った次第。久々の社会派の体験という事もありますが、内容がしっかり根付いた物語と読みやすい文章で夢中になった読書でした。良い意味で80年代の社会派小説を彷彿させます。テーマはしっかりとある骨太で事件内容も重めです。ただ昔の作品と違って文章は現代的で理解しやすく読みやすい。帯の言葉に偽りなしです。満足度の高い一冊でした。 物語は、妻が惨殺され、さらに妻が戸籍を偽っていたという事実から始まる悲劇。 しかし主人公自身も戸籍を偽る「なりすまし」であった――というお話です。戸籍を偽る背景や、偽らざるを得ない社会的事情、戸籍売買や無戸籍児といった社会問題を物語を通じて知れました。妻が何者なのか調べる主人公の行動、そして進むごとに明かされる新たな事実や障害などミステリーとしての緊張感や構成の巧さを堪能できました。 社会派ゆえに内容は重く、悲しみを帯びた物語なので好みが分かれる所ですが、久々に濃いミステリーを読んだ充実した読書でした。 終わり方も良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2025年度の江戸川乱歩賞受賞作品。
江戸川乱歩賞はこれを受けてデビューという事が多い為、新人賞というイメージが強いのですが、実際は他でプロとして活躍している方も応募可能です。本作の作者である野宮有もすでに活躍している方で、プロによる受賞作となりました。 ここ数年の乱歩賞で思う事は、かつてのような社会派で重厚な作品というより、ライトで読みやすい作品が増えた印象があります。本作もその流れにあり、すでに実力を持つ作者だけあって、新人賞特有の読みにくさはまったくなく、非常にスラスラと読みやすい読書でした。乱歩賞は読み辛いという負のイメージを払拭しています。作者の過去の作品をいくつか読んでいますが、本作はそれ以上に文章が読みやすくなっており、かつミステリーとして面白い作品でした。 物語は営業のトップセールスマンが営業先で殺し屋の現場に遭遇してしまう――という巻き込まれ型の作品。 殺し屋に殺されないように、生き残るために営業テクニックを駆使する序盤から一気に引き込まれました。相手をその気にさせる思考やセリフの数々は心理テクニックが活用されており、小説でありながら実用書のノウハウ集を読んでいるかのような面白さがあり、読んでいて勉強にもなる感覚でした。 巻き込まれ型作品ゆえ、先が進むごとにどのような展開になるかは読んでからのお楽しみとなりますが、個人的な最大の評価ポイントは小説の終わり方が完璧だったという点。どんでん返しとかそういう意味ではなく、物語の閉じ方がとても巧く「うぁ...すご」っと思わず声がでた読後感でした。 その他のお知らせ事項として、乱歩賞で殺し屋作品だから重い小説を想像されるかもしれませんが、そういう重さはなく、個人的にはライトノベルやメフィスト賞に近い感覚を得ました。スラスラとテンポよく読める一冊です。過去作『嘘と詐欺と異能学園』のような相手を騙すコンゲーム的な要素もあり、シリーズ化も期待できそうな作品です。とても楽しい読書でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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現代設定ながら、90年代の本格ミステリを味わえた作品で大変好みでした。
謎解きが大好きな学生2人の主人公が宿泊型の脱出ゲームに参加したところ、演出ではなく本物の殺人事件に巻き込まれてしまうという流れ。 読者にも脱出ゲームを体験させようと実際に謎解きクイズが掲載されているのが面白い試みで新鮮でした。 読む前はクイズを題材にした軽い小説かと思っていたのですが予想以上にしっかりしたミステリで驚かされました。謎解きクイズはあくまで雰囲気づくりの一要素で読者を悩ませて読書を止める事はないです。謎は作中人物たちが解いていく形式なので、脱出ゲームを知らない人にちょうど良い体験かと思われます。そして、この脱出ゲームの体験がミステリの謎解きの考え方に関わってくるのが見事です。ロジカルな推理模様と発想のヒントが伏線的に巧く合わさっていると感じました。 本書の解説にありましたが、作者自身が脱出ゲーム好きとのことで、その体験が巧みに作品へ活かされています。本作で特に本格ミステリとしての魅力を感じたのは、「謎を解くための手がかりの提示が巧い点」です。私自身もいくつか脱出ゲームを体験していますが、最初に解いた問題や、何気ない仕掛けが後半の鍵になることが多くあります。その感覚が小説の伏線として見事に昇華されており、古き良き推理をする本格ミステリを感じた次第でした。 主人公の2人も好印象でした。 意見がすれ違ったり互いを補ったりと良い雰囲気です。男女にせず男同士なので友情的な感覚で見守れます。今後の成長も気になりますね。 個人的には非常に好みの作品ですが、人に薦める際に少し悩む点があるとすれば動機の設定でした。扱っている題材に対してもう少し社会派的な重みが必要に思えます。本作のライトな謎解き作品の中に入れるには後味がやや重く感じました。シリーズ化した場合、本作が第1作目となるため、ここから読まざるを得ない点も少し気になります。 とはいえロジカルな推理と丁寧な伏線が光る本格ミステリとして、学生二人のコンビが織りなす青春らしさも魅力的で、読後は非常に満足しました。シリーズ化希望の続編を読みたい作品です。 |
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海外作品ならではの良質なミステリーを味わえました。大変面白かったです。
舞台はペンシルヴェニアの小さな町。3つの視点による、倒叙+群像劇を用いた人々の罪を描く作品。 登場人物は少なく、内容はとても把握しやすいので、カタカナ人物名が理由で海外作品が苦手な人でも大丈夫。また、罪を題材にし、葛藤や教訓や愚かさというテーマ性を感じますが、読み心地はそれらのワードから連想されるような重さはなく、むしろ爽やかで軽快に読める雰囲気なのも良いです。 3人の視点切り替えの構成がとてもうまく、先が気になり、最後まで飽きずに夢中になった読書でした。残り僅かなページ数になっても、どういう風な結末になるか、まったく予想できなかった点も良かったです。おすすめ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ3作目。全3巻ものなので完結。
全3巻で完結。もともと3巻構成での企画ではなく、途中で打ち切られたかのような形での完結に思えました。舞台となる異能学園や敵との戦いの設定は、もっと広げられそうな余地があったため、そのように感じたのかもしれません。 ただし本作は、まとめ方が非常に巧みでした。主人公とヒロインの結末、仲間達や敵との関係性、異能学園へ乗り込んだ目的など、当初の目的や真相をスッキリ解決させている点は見事。要点が充実した『異能学園編』として楽しめたシリーズでした。著者の人気が高まればアニメ化も期待できそうな作品かと思います。 ラスボス戦のトリックは大技過ぎて、一般文芸のミステリ的に見ると、ちょっと成立するのか怪しい気がしますが、ライトノベルの世界観だからこそ成立する強引さとも言える気がします。が、、、その勢いも本シリーズの魅力としてアリかなという感覚で納得させた読書でした。主人公だけでなくヒロインの成長を感じられ、結果的には2人のバディものとしてとても良い物語でした。 また、本作のあとがきの著者コメントで「ミステリの書き方に自信がついたので、次回作はミステリを書きます。」というような文章があるのですが、それが2025年度の江戸川乱歩賞受賞に繋がっているのだと考えると、著者の強い意気込みが伝わってきた次第でした。異能バトルものとして楽しいシリーズでした。 1巻、2巻、3巻の主人公とヒロインのイラストについて。 巻を追うごとに、二人の表情や、距離感というか、雰囲気が関係性を見事に表しているのが、なんかいいなと思いました。 |
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シリーズ2作目。前作は必読で続きものです。
主人公&ヒロインは異能学園の中において、能力を持たない無能力者。その事実を隠し、あたかも異能を持っているかのように演じながら、騙し合いやトリックを駆使してバトルに挑んでいく物語です。 全3巻を読み終えての感想となりますが、本作の2作目が一番騙し合い&トリックが面白い作品でした。 巻を重ねるごとに相手陣営も強力になり、バトル難易度が上がっていく点が熱い。そして本シリーズの魅力は、主人公陣営だけでなく、敵陣側も詐欺を仕掛けてくるところ。こちらが仕掛けたと思ったら、逆に相手のトリックに嵌められ、、、と思いきや知略で再び盤上をひっくり返す――そんな二転三転するスリリングな展開が大変面白かったです。 若干難を言えば、ライトノベル特有の雰囲気や文章が好みの分かれる所かもしれません。個人的には文章の相性の問題か、若干読みづらく、異能バトルの描写を把握しきれない部分もありました。とはいえ、主人公&ヒロインの関係性や、バトルの目的はシンプルで分かりやすいので、途中の細かい所は気にせず十分に楽しめました。登場人物それぞれが裏を隠しながら繰り広げる頭脳戦はなかなか見どころでした。 |
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ミステリーではなく一般文芸の青春小説です。本屋大賞作品で文庫化されたことで書店にたくさん並んでいたので手に取りました。
読んでみると話題になるのも納得でした。短編集なのでサクサク読めますし、成瀬というキャラクターの魅力に引き込まれ、楽しく読み進められる作品でした。 成瀬は人生における憧れの姿の1つの道を体現していると感じます。 人の目を気にせず、自分の思うままに行動する姿は爽快で、その行動力はお化けですが、「こんなふうに行動してみたかった」という、読者の願望をかなえているような姿が心に響きます。また、成瀬自身が完璧なキャラクターかというとそうではなく、隙のある身近な存在として描かれている点も魅力であり、愛着が湧いてくるキャラクターなのも良かったです。 本屋大賞は書店員の投票により決まります。近年の大賞作品の傾向は、自分らしく生きる女性像を描いたものが多く、本作もその流れの中で多くの書店員の心を捉えたのだと感じました。 |
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書店や映画化で話題になっているホラー作品。
SNSでの評判では、単行本と文庫で内容が異なるもので、先に単行本推奨という情報を得たため、まずは単行本から読書しました。単行本が面白かったので、続けて文庫も手に取り両方を読み比べました。 結果として、取材内容は共通しているものの、関わる人物と物語の解釈・結末が大きく異なる作品となっていました。 過去に話題になった知名度の高い作品で例えると『ひぐらしのなく頃に』が個人的に近しい感覚でした。 ・単行本が『鬼隠し編』(問題編) ・文庫 が『目明し編』(解答編) という感覚です。上記を知っている人には伝わると思いますが、それぐらい大分違います。 単行本が話題になり、多くの考察が盛り上がったのも納得です。世代を変えて同じ感覚の熱量の盛り上がりが再び生まれたのだと感じました。 本書は予備知識がない方が楽しめる作品です。 物語が進むにつれて少しずつ手掛かりが見えてきて、不気味さと奇妙さが増していく過程を味わえます。 単行本では怪異に触れてしまった不気味さのホラーを味わいました。散文された内容から、「もしかしたらこれって、これと繋がるの?」という具合に考察的な面白さや解釈で深読みできる面白さがありました。 一方、文庫版では単行本で散文的に提示されていた情報が、1つの解答や意味を分かりやすく繋げ、ミステリー的な収束をさせる作品に感じました。ちゃんと物語をスッキリさせたい人は文庫を手に取ると良いでしょう。 ちょうど今、映画が公開されているのですが、この単行本と文庫の構成から勝手に想像すると、映画版はまた別の結末で作っているのではないかと思いました。ひとつの物語を表現を変えて、単行本・文庫・映像化と形を変えて広げていく手法には、現代的な商業戦略の巧みさを感じた次第でした。 単行本と文庫を両方読みたくなるぐらい、個人的に楽しめた作品でした。 |
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まさかのシリーズ3作目。
1作目で物語としては完成されており、2作目はファン向けの後日談的な印象だったので、3作目が出るとは思ってもいませんでした。1作目が好評ゆえの続刊だろうか、蛇足にならなければいいなと半信半疑で手に取ったところ、これが意外にもきちんと続編として物語となっており驚きました。そしてシリーズ設定を用いた見事なミステリーでもありました。 本作はシリーズ読者向けで、1作目だけは必読です。 物語は1作目の後の時系列ですが、回想もの。魔王討伐後、勇者がかつて訪れたリュドニア国の姫と再会し、当時起きた事件を回想するという流れです。当時の事件内容は、リュドニア国から依頼を受けた魔王軍の内通者探し。どんな姿にも変わることができるという存在が噂されている魔物が絡んだ事件。いわゆるスパイ探しものですが、本書ならではのファンタジーで構築しているミステリーとなります。 なるほど。過去を振り返る形式なら、シリーズ続編で作品が作りやすく面白いシリーズになると感じました。 世界観がとても良いのは、「勇者」についての物語がシリーズ根幹に根付いている事。その想いがしっかり土台としてある上で、勇者に関わった人々の物語が描かれており、さらにその物語がミステリー仕立てになっているのが大変好みでした。スパイ探しの事件だけでなく、シリーズタイトル通り『誰が勇者を殺したか』の問いかけが発生する物語が健在しており、その真相は前作とは違った趣きとなるのが見事でした。 |
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作者の野宮有は2025年度の江戸川乱歩賞受賞作家です。すでに商業作品が出版されているという事から本書を手に取りました。
本書を読む限り、今年の乱歩賞作品に期待が高まりました。 本書は能力者が集まる学園を舞台とした詐欺師の物語です。レーベル通り雰囲気はライトノベルです。 主人公は異能が使えない一般人。無能力者にも関わらず、ある目的の為に学園に潜入し、詐欺と策略で異能学園の戦いを勝ち進む下剋上ものの物語。 シリーズものではありますが、1巻だけでも物語としてのまとまりがあり、しっかりと楽しめました。 ミステリーのような大仕掛けを期待するタイプの作品ではありませんが、ライトノベルという枠組みの中では、仕掛けも十分に楽しめました。不自然に凝りすぎることもなく、内容が簡単に把握しやすいギミックなので気軽に楽しめます。 主人公とヒロインの性格や関係性もいい塩梅で読んでいて楽しいので、キャラクターものとしても良かったです。心理戦や詐欺にまつわる駆け引きも、コンゲーム小説としてしっかりと描かれており、そうした知的な読みどころも面白く感じました。 ライトノベルとして設定だけを見ると、アニメやラノベでは見慣れた印象もあり、突出した個性があるわけではないため、映像映えもやや難しく、ジャンルの中での立ち位置は少々曖昧ですが、文章や語り口や心情などは面白いので確かに一般小説で読んでみたいなと思わせる感覚で個人的には好みで楽しめました。 文章は読みやすく、詐欺師の騙し合いの内容も面白かった為、乱歩賞を取った『殺し屋の営業術』という文芸作品がどのようになっているか楽しみになりました。 |
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海外の文庫で600ページを超える長編ということもあり、話題作と知りながらも、手に取るまで躊躇していた作品でした
しかし実際に読み始めてみると、翻訳の美しさに引き込まれ、情景が詩のように鮮やかに思い浮かぶため、その長さを感じさせませんでした。 本作にはミステリーの要素はありますが、それ以上に、少女の成長や自然の描写が印象的な、文学的な作品でした。 一方、予備知識なく人気作という事で読み始め、ミステリー要素に期待して手に取ってしまった事もあり、そこは少し好みと外れた結果となってしまったのが正直な気持ちです。ただミステリーとしてわざとらしく考察すると巧みな設計が行われているとも感じた為、その感想をネタバレ側で書きます。 文学小説として非常に完成度が高く、とても素晴らし作品でした。きっと多くの読者が、主人公カイヤに心を寄せるはずです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『奇岩館の殺人』に続くシリーズ2作目。本書は1作目の読書を前提とした作りの為、前作の読書は必須です。
前作に続くリアル・マーダー・ミステリーを題材にしたミステリ作品。 マーダー・ミステリーを用いている為、事件の構造レイヤーが多層的で面白い。事件現場、それを演じる層、etc...といったかなり凝った作りになっているのが特徴。舞台の新しさだけでなく、そうした形式を巧みに活かした見事なミステリとして、とても面白く読むことができました。 一方で、やや複雑な内容であるうえに、事件の見立てに海外古典ミステリが題材として使われているため、これらにあまりなじみのない方には難しく感じられ、楽しみにくいかもしれません。かなりマニアックな要素もありますが、作中で取り上げられている海外古典ミステリを読んでいる方には、思わずニヤリとする見立てがあり、より深く楽しめる内容となっています。 帯にあるので書きますが題材は『Xの悲劇』 『黒死荘の殺人』 『ナイルに死す』に見立てた殺人です。 一番感銘を受けたのは、ネタバレ感想であっても古典作品の重大なネタバレになる為に書けない、ある題材が用いられていることです。気づかれなくても作品として問題はなく、古典読者にだけ気づける要素という遊び心で、それが何かは明言できないもどかしさがあります。何故この作品群を選んだのか。作中で脚本を手掛けた田中(もしくは作者)のこだわりの想い、ちゃんと気づけたと思います。作品内の登場人物達にミステリ好きの想いを語らせていますが、そのマニアックさがちゃんと活かされている構成が見事。ラストの真相も素晴らしいです。自分の好みに非常に刺さる、大変満足度の高い一作でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2024年度の宝島社の『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
広義のミステリーゆえ、本格や謎解き推理を期待するタイプの作品ではなく、かなりライトな内容です。 個人的には小中学生向けの読者層が適していると感じました。安心して子どもに読ませられる児童書ミステリーとしておすすめできそうな作品です。そう考えると非常によくできた一冊だと思います。 大学生の主人公がアルバイトとして働くパン屋の描写は、温かさに包まれていて心地よく魅力的です。パンに情熱を注ぐ店長や、派手でイケてる先輩など、登場人物たちがつくる職場の雰囲気も非常に良いです。物語はパン屋を舞台とした「日常の謎」を扱っています。謎や推理そのものは正直やや簡単すぎてミステリーとしての重みはあまり感じられませんでしたが、児童向け作品として考えればちょうどよいレベルで前向きに評価できます。また読後に嫌な印象が一切残らない点も好印象でした。 手がかりがそろった際に使われる「思考が一気に膨らんだ」というパンにちなんだ表現は好みです。パン屋ならではの比喩として効果的でした。一方でミステリーとしてパン屋という設定が必然だったのかという点についてはやや物足りなさを感じました。テーマとの結びつきが弱く他の職業のバイト先でも成立しそうな内容です。パン屋という舞台は、あくまで表紙から感じられる温かな雰囲気や、パンを好む子どもたちに向けた空気感の演出に貢献しているにとどまっているように思えました。パン屋はミステリーのための舞台というよりは、作者自身の経験がベースになっているのかもしれません。漫画家を目指す主人公や、工学部に通う紗都美さんとの交流などからも、作者の実体験や思いが反映されていると感じられ、リアルに伝わってきました。 総じてミステリーというよりは物語として楽しめる一作でした。 正直な気持ちとしてミステリーとしては☆4-5ぐらい。小学生くらいの子どもが手に取るミステリー作品として良いと思った作品でした。 |
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2025年本屋大賞を受賞という事で手に取りました。作者の作品を読むのは今回が初めてです。
ミステリとは関係のない一般文芸かと思いきや、散りばめられた伏線や謎の隠し方がミステリーの技法であり驚きました。期待していなかったのもありますが、意表を突かれて強く印象に残った次第。作者の過去の作品を調べると、創元推理文庫から『金環日蝕』という作品があるので、ミステリー的な要素を取り入れる事もできる作家さんなのだと感じました。ただし、念のために付け加えると、本作はあくまで家族小説に近い作品であり、ミステリーを期待して読むものではありません。その技法が、物語の印象を深める演出として使われていたという印象です。 物語の主人公は、40代で法務局に勤める真面目な女性。夫から突然離婚を切り出され、心を通わせていた溺愛の弟は急死し、独り身の状態。弟の遺産整理や遺言状をめぐる手続きを進める中で、価値観の異なる弟の元恋人と出会い、彼女との交流を通じて主人公の内面に少しずつ変化が生まれていく――というお話です。 この作品は好き嫌いが分かれやすいと感じました。特に序盤の主人公は鬱屈した描かれ方をしており、読むのが少しつらくなるかもしれません。正直なところ、私は最初の方は苦手に感じました。しかし、物語全体の構造を見れば、主人公の変化を描くためにあえて序盤をマイナスの状態に設定していることが分かります。作品に対する評価は、物語の内容そのものを重視するか、それとも構成や演出の巧みさを評価するかによって分かれそうです。私は、後者の「作り方」に惹かれた次第です。 少し余談ですが、本屋大賞の傾向について。 ここ数年の受賞作には、弱い立場にいる女性やマイノリティの女性が主人公であり、彼女たちが自分らしく生き、成長や自立していく作品が目立つ印象を受けます。そのため、すでに自立していたり、現状の人生に一定の満足感を持っている読者にとっては、主人公と考え方や感情が合わず、距離を感じる場面があるかもしれません。そうした感覚が作品の「好き嫌い」に影響しているようにも思います。 個人的には物語の成長譚は好みに刺さらなかったのですが、読者の感情を揺さぶる為に発生している要所要所のポイントやミスリード的な構成には強く印象を受けました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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図書館を舞台としたミステリ。
ミステリ要素となるのは、図書館で起きた火災事件と、その焼け跡から発見された焼死体、そして遺体が見つかった地下書庫における密室要素です。図書館関係者への聞き込みを主人公の刑事が担当するという王道の構成であり、正統派のミステリとして楽しめました。さらに現代では珍しくなった「読者への挑戦」付きの推理小説なのが好感でした。これがあるだけで、手がかりや推理がしっかり考えられて作っていることが伝わってきて、作者の意気込みを感じます。 本作は単なる謎解きだけでなく、「図書館」という場所に関わる人々の思いや姿が描かれていたのが印象的です。不登校の生徒の居場所となっていたり、地域の交流の場となっていたりと、利用者の視点だけでなく、運営側や司書、職場環境に至るまで、図書館を軸にした多面的な描写がなされていました。 事件やトリックに派手さはなく、やや地味に感じる面もありましたが、図書館という舞台とミステリ要素がしっかり結びついており、全体としてきちんとまとまった作品だと感じました。推理小説を読みたいけど古い作品が苦手という方や、ミステリ初心者にオススメしやすい作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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学園を舞台とした理系の「日常の謎」の物語。ミステリー要素は控えめで、科学を取り入れた青春小説です。
ミステリーの要素は控えめでしたが、作品全体に漂う心地よさや、物語の魅力がとても好みに合いました。高校生や学園ものが好きな方には、おすすめな一冊です。 まず、登場人物に嫌なキャラクターがいないのが良かったです。基本的に皆いいやつで、読んでいて気持ちがよい。理系の高校が舞台ということで、科学や数学に関する会話が登場しますが、その雰囲気も楽しく味わえました。物語は4月の入学から始まり、新入生と先輩たちの出会い、部活の勧誘といった、学園ものの王道の展開をたどります。そこに、理系ならではの「日常の謎」が加わり、独自の魅力を放つ作品となっています。 本書は『理学部ノート1』というタイトルからシリーズ化を見据えた作品のようですが、内容自体は本書単体でしっかり完結しています。あらすじ冒頭で高校生活のある結末を描いてますので完結している状態です。勝手な想像ですが、完成後に作品の出来が良かったため、出版社がシリーズ化を決めたのではないかと思うほどです。それほど本書単体でも満足感のある素敵な物語でした。またイラストも綺麗で可愛らしく作品の雰囲気にぴったりで、大事なシーンがより印象的に映りました。なかなか力の入ったシリーズになりそうな気配。次作も楽しみです。 |
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2024年度の鮎川哲也賞受賞作品。
物語は救急医の元に搬送された溺死体が主人公に瓜二つであった事から始まる。彼は何者なのか? なぜ同じ顔をしているのか?ミステリとしての謎が魅力的であり、文章も読みやすく没入感がある作品でした。 作者は現役の女性医師である方。その為か医療現場の雰囲気や描写が専門的で面白く刺激になりました。特に救急現場のシーンは臨場感があって引き込まれました。そして作者が女性医師というのは、本書の評価において重要な要素の一つになっていると感じます。世のレビューにも多くみられますが、ミステリーとしての物語を作る為か、倫理感が独特だったり、嫌悪されるであろう要素がいくつか見られます。でもこの作者なら、理解した上で書いているのだと納得できる為です。一般的な男性作家だったら非難を受けていたかもしれません。予備知識がない方が楽しめる作品なので、どういう要素なのかはネタバレ側で後述しますが、小説というフィクションだから描ける社会問題を内包した作品です。 タイトルの作り方が巧みで、意味合いや印象も抜群でした。事件の結末や探偵役のキャラクターも魅力的で好みでした。後味は好みが分かれるかもしれませんが、強く印象に残るのは大きな魅力。シリーズ化されるなら次作も読んでみたいと思わせる作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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興味が湧くタイトルが一品。それを実現させる作品作りの意気込みが好感です。
ただ難点は期待値が高すぎるものになる為、「思っていたのと違った」と感じ、世の中の評判は控えめになってしまうのは避けられないかなと思いました。個人的には、こうしたテーマを持って作られている作品は好きです。 物語は過去の事件の再調査もの。 過去の事件現場を模した場所に集められた7名。「犯人以外は毒ガスで殺される」というデスゲームに巻き込まれる流れ。生き残るためには「自分が犯人だと認められなければならない」というひねりの効いた設定が面白い作品です。 自分が犯人になるために、事件のトリックや背景を自供する。しかし、その主張に対して他者が探偵役となり、矛盾を突いて反論していく。そんな巧妙な構造が展開される物語です。タイトルに偽りなく、変わったミステリーとしての面白さがありました。 一方で悩ましかったのは、真実か嘘なのかに関係なく「犯人にされるためのエピソード」が語られるため、内容の把握が難しく興味を持ちにくかった点です。後で覆されるかもしれない嘘の物語を、ちゃんと把握して読もうとは無意識で思えなかったからです。何か印象に残るトリックやキャラクターなど魅力が欲しかったのが正直な気持ち。内容ではなくタイトルが一番目立ってしまったのが残念に感じました。 似ている雰囲気のアニメやミステリー系のゲームやマーダーミステリーなどが思いあたるのですが、それらは強烈な個性のキャラやイラストで彩られ、面白く引き立てているなと改めて感じました。ライト系なら何でもアリな設定が誤魔化せますし。本作はリアル寄りのミステリに作者が挑んだという結果として意気込みは好感なのですが、やや地味に終わってしまったのが惜しく感じました。 |
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