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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数86

全86件 1~20 1/5ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.86: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

木挽町のあだ討ちの感想

これは傑作!とても感動の読書でした。多くの方にオススメです。
技巧的な小説としての面白さ、人情ものとしての物語・内容の良さ、そしてミステリ模様、どれも素晴らしく個人的に大満足の作品でした。

2023年度のミステリのランキングで目にしていたのですが、正直なところ、あまりピンとこない表紙とタイトルで見逃しておりました。作者は歴史・時代小説で活躍されている方なのでミステリー作品としては意識していませんでした。しかし、世間の高い評価を知り、改めて注目して手に取ることにしました。

物語の舞台は江戸・木挽町。時代ものと人情小説の要素を持つ作品です。ミステリーとしては、過去の仇討ちを再調査するという構成になっています。
調査の過程では、関係者への聞き取りを中心に進むのですが、その一つひとつが単なる事件の断片ではなく、人情小説として深みのある短編のような物語として描かれている点がとても良かったです。さらに特徴的なのは、全編が関係者の独白のみで構成され、地の文が一切ない点です。再調査のために訪ねた登場人物たちのセリフだけで物語が紡がれるという、非常に技巧的な文章も見どころでした。

時代小説というと難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、本作は非常に読みやすく、その心配は不要です。全編が現代的なセリフで構成されているため、内容も把握しやすくスムーズに読めます。読みやすさの中にも、当時の文化や表現について学べる場面がしばしばあり、知的な楽しさも味わえる一冊です。さらに、物語にはユーモアや人間味あふれる温かさが多く描かれており、感情の振れ幅がとても豊かです。心に響くシーンが多く、読んでいて気持ちが良い内容なのも大きな魅力でした。

非常に満足度が高い作品で、万人におすすめしたい作品です。
木挽町のあだ討ち
永井紗耶子木挽町のあだ討ち についてのレビュー
No.85: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

Q eND Aの感想

素晴らしいデスゲーム作品でした。(☆8+好み)
雰囲気はマンガアニメ系ですが、ギャンブル・ミステリー系の仕掛けが盛り込まれた作品。

デスゲーム×クイズ×異能力バトルもの。
ゲームの参加者はそれぞれ異なる特殊能力が与えられており、クイズのラウンドごとに誰かが持つ異能力が明かされる。
クイズに負けるか、誰かに自分の異能力を当てられると死となる。

最上位の能力が「クイズの答えがわかる(Answerアンサー)」という設定がまず面白い。答えがわかるため、早押しクイズにおいてはチート級で有利かと思われますが、早く答えすぎると誰かにアンサー能力者だと指摘されてしまい死となる。このジレンマがゲームの戦略に効果的に使われています。

序盤はよくあるデスゲームものの展開で進みますが、早押しクイズの特性や、この世界ならではの展開が見事であり、現代的な要素も取り入れた独自性のあるデスゲーム作品となっているのが見事でした。

終盤の熱い展開も素晴らしく、デスゲーム作品における結末の描き方も好みであり、非常に満足度の高い作品でした。
デスゲーム好きにはおすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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Q eND A (角川ホラー文庫)
獅子吼れおQ eND A についてのレビュー
No.84: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

遊廓島心中譚の感想

2024年度の江戸川乱歩賞受賞作。
凄く好みの作品でした。雰囲気がとても好きです。(☆8+好み)

舞台は幕末。実在した横浜の『港崎遊郭』を背景に、遊女の愛の物語を描いた作品です。『愛』がテーマと感じられる作品でした。
物語は1860年と1863年、二つの時代を生きる遊女たちの視点で進行し、史実を絡めたミステリーだからこそ描ける愛の形が浮かび上がります。作者が描きたかったのはこのような愛だったのかと驚きました。
歴史物や時代物が好きな方には特におすすめです。歴史に少し苦手意識がある方も、後述するポイントを押さえてから手に取ると、さらに楽しめると思います。

本書をより楽しむためには、幕末の時代背景を知っておくと良いです。物語は歴史的な知識があるのを前提に進行していきます。
実のところ、私自身は歴史ものが苦手で、初読の序盤は内容を把握するのが難しかったです。一度読み進めるのを止め、当時の出来事をWikiで調べ、史実を理解した上で再び本書に向かいました。そのおかげで、より深く楽しめました。この点について少し補足します。

まず『港崎遊廓』をwikiで調べるとよいです。これを見ておくだけで本書の物語がとても把握しやすくなります。

1859年、日本が鎖国を終え、横浜が開港されると、多くの異人(外国人)が訪れるようになりました。それに伴い、現在の横浜公園の場所に外国人専用の遊郭が建設されました。ここが本書の舞台となる『遊郭島』です。表現が適切か分かりませんが、外国人の現地妻、もとい妾という職業としての遊女が本書の女性の登場人物となります。ただし、本書では悲観的に遊女になるのではなく、目的をもって遊女になる姿が描かれているのが好感でした。この辺りは、学校では学ばない歴史として興味深く、物語を楽しむ一因となりました。

時代物・歴史ものとしての雰囲気の面白さは然ることながら、序盤からミステリとしての期待と興味をそそられる展開が光ります。
主人公・伊佐の物語では、行方不明の父が遺骸となって発見されます。その遺骸は燃やされており、さらに父には町娘を殺した容疑がかけられていました。しかも、町娘の首が見つかっていないという状況は、ミステリ好きの心をくすぐる魅力的な謎として提示されます。伊佐は父の無実と真相を確かめるべく、遊女となって遊廓島に乗り込むという流れです。

2つの時間軸を描く物語の構成は、終盤どう繋がるかが作品の醍醐味です。本書では、終盤にてミステリとテーマの『愛』の姿が浮かび上がり、その展開が見事でした。詳細な感想はネタバレ側で記述します。

他、表紙のイラストや、本書の見返しに描かれた遊郭島の地図など、書物全体が時代物の雰囲気を醸し出していてワクワク感がとても感じられました。また、帯に書かれている『二人の愛はどうなった。』というコピーも、読後の余韻に浸れます。とても良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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遊廓島心中譚
霜月流遊廓島心中譚 についてのレビュー
No.83: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

アンデッドガール・マーダーファルス 1の感想

予想以上にかなり好みの作品でした。(☆8+好み)
吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの人造人間など異形のものが存在する世界での怪奇小説であり、しっかりとした推理を行う本格ミステリでもあり、バトルあり、落語のような笑いありと、いろいろ混ぜ込んでいながら破綻せず面白い物語になっている独特な作品。

第一章吸血鬼については、銀の杭に貫かれた吸血鬼夫人殺害の謎。
読書前はライトノベルのファンタジーものくらいの気持ちで手に取ったのですが、手がかりや推理をするロジックなど、本書の題材を用いたしっかりとした謎解きミステリであることに驚かされました。本書がミステリであることに気づき、期待以上の面白さに嬉しい悲鳴でした。

『怪物専門の探偵』と名乗る『鳥籠使い』という二つ名もカッコよく、かつ今まで体験した事がない探偵設定なのが個性的でよい。探偵役と戦闘担当というコンビも、怪物相手の物語においてバトルの見せ所が生まれるなどで見所が豊富でした。今後も期待のシリーズです。
アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)
No.82: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

地雷グリコの感想

これは面白かった!読んでいて楽しい読書でした。

伝えやすいので他作で例を挙げると福本伸行『カイジ』や迫稔雄『嘘喰い』といったギャンブル&頭脳バトルの学園ものです。
著者自身も公言しており、これらの作品が好きで自身のオリジナルゲームを小説で描いたとの事。
私自身もこれらの漫画が好きなのですが、それぞれの作品に対してちゃんとリスペクトされているのが感じられました。この系統が好きで読み慣れた人にも満足できるクオリティのゲーム&頭脳バトルになっているのが見事です。さらには文章としての小説でちゃんと内容やルールが理解できてイメージできるのが素晴らしい。個人的にこの手のジャンルの小説としては頭一つ抜けているクオリティの作品に感じます。

じゃんけんグリコ、坊主めくり、だるまさんがころんだ。と言った馴染みのあるゲームを用いる事で読者はすんなりゲームに入り込める作り。そしてそんな馴染みのあるゲームが著者の味付けによって豊富な頭脳戦や騙し合いやトリックが渦巻く作品に仕上がっているのが凄い。わかりやすいゲームゆえ、「こんな仕掛けかな~」なんて想像しながら読むと思いますが、そんな考えの斜め上行く展開は嬉しい刺激でした。5編の連作短編集はどの作品も面白く、1作目、2作目、3作目……とどんどん面白さが上がるのもよい。ルールや仕掛けを読者に認識させる手順が巧すぎます。最初から最後まで気持ちが上がっていく読書でした。

学園ものとしても面白いです。交友関係や成長物語など、キャラクターも良いですし、次々と現れる強者のステップアップも面白い。
デビュー作から学園ミステリを描いている事もあり、この雰囲気はお手の物でとても心地よいです。先に挙げた漫画や学園ギャンブル系だと『賭ケグルイ』と言った作品がありますが、本作はそれらの殺伐とした雰囲気とは違い、どこか青春小説のような明るく穏やかな心地よさを感じます。この雰囲気を備えているのが著者の優しさであり特徴である気がします。
例えばギャンブル漫画ですと敗者の悲鳴や絶叫、絶望、暴力や怒りなど強烈な負の感情を描いて読者にインパクトを与えてたりします。ですが本書の場合はそういう負の状況は抑えてあります。敗者の雰囲気1つとっても嫌な気持ちにならない描き方であり、小説としての文章により、勝利へ向けての爽快感や仕掛けの面白さで読者を魅了させています。読後感もとてもよい作品でした。続巻希望です!

▼以下、ネタバレ感想
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地雷グリコ
青崎有吾地雷グリコ についてのレビュー
No.81:
(9pt)

小説の神様の感想

かなり好みの作品でした。念のためお伝えしますと本書はミステリーではなく青春小説です。

映画化や漫画化などマルチ展開されている為、どれに最初に触れているかで印象が変わりそうです。原作となる本書にて初めて物語に触れましたが、自分は物語を楽しむ以上に、著者の内面に潜む想いと、世に解き放つべく爆発させたエネルギーをとても強く感じた読書で好みでした。
読者の好みが、物語としてどう見るかなのか、描かれている想いをどう感じるかなのか、どこに注目するかで本書の好みが変わると思います。

私が勝手に感じた感覚ですが、主人公の売れない小説家である千谷一夜は著者自身の現実的な負の一面で、ヒロインの小余綾詩凪は理想や希望となる存在、その男女の対比を用いて小説や創作に対する考え方を熱く描かれた内容に感じました。
小説作りにおいて、純粋に好きで創る気持ちと、生活面などにおいて現実的なお金の問題など、好きなだけでは創り続ける事ができないという、創作における『作品』と『商品』の葛藤がとても描かれていました。クリエイティブの仕事においてはずっと付きまとう問題です。小説家としての著者の代弁を主人公とヒロインを通して熱く語られており、個人的に興味深く読んでいた次第です。

本書の物語が小説家を描くという事から、文章の描写もあえてかなり緻密に行われていると感じました。あえて描いていて気に入っているシーンは、序盤のヒロインを見る主人公の緻密な描写からの「卑猥な目で見ないでもらえる?」の展開。これは著者ならではお約束の笑いで面白い。本書刊行前の作品よりも文章が読みやすくかつイメージしやすい描き方になっており文章の変化点的な作品をも感じます。他、2人が描こうとしている創作の内容が『medium』を感じさせたり、シリーズの続編が出なくて物語が紡がれない悩みは『マツリカシリーズ』の事かと感じるなど、主人公は著者自身を表していると感じました。それゆえに語られるセリフの一つ一つがとてもリアルでして、悲観的な事も、本当にやりたい事も、とても痛切に響いてきます。この想いを吐き出す点は物語を楽しみたい読者にとってはノイズに感じるかもしれませんが、私はこういうリアルな感情を爆発させている内容は商品ではなく意味のある作品としてかなり好感でした。

主人公・ヒロイン以外のキャラクターも良い味をだしてる。河埜さんは本書のリアルな担当編集の人なのかな。文芸部の部長の九ノ里は特にいいキャラ。主人公の周りには悪意がなく見渡せばよい人たちに囲まれているのではないでしょうか。ホントなんというか、本書は著者の内面を描いた作品に見えた次第でした。『小説』という媒体が好きな人には触れてもらいたい作品でした。
小説の神様 (講談社タイガ)
相沢沙呼小説の神様 についてのレビュー
No.80: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

誰が勇者を殺したかの感想

素晴らしい作品でした。そしてとても感動した作品で大満足です。(☆9+好み)

過度に期待されると思っていたのと違うという評価なりそうなので最初にターゲット読者をお話しますと、本書はライトノベルやファンタジーが好きな人向けです。
ジャンルもミステリの手法を用いた勇者の物語という所です。ミステリとしての仕掛けに期待するお話ではありません。ただタイトルにある通り『誰が勇者を殺したか』という謎から始まるミステリー要素の扱いが巧く、とても惹き付けられる読書でした。ミステリーを用いていますがその効果がミステリ作品としてではなく、勇者物語を深める為の目的に使われているのが巧い作品でした。

物語は魔王が倒された後のお話。勇者は魔王を倒したと同時に帰らぬ人となった。かつて仲間だったパーティーに勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。誰が?何故、勇者は死んだのか。という流れ。

本書の巧い所はインタビュー形式による群像劇と再検証ものの構成。インタビューワーと読者が同じ目線になっており、各人物達の視点から徐々に勇者の姿が見えてくる構成が面白い。そして語り方や描き方の文章が巧くて心に響くポイントが豊富でした。本書あとがきに著者のコメントがありましたが、本書の根底にある著者の熱い想いがしっかりと込められているのを感じました。作中にあるセリフ1つ1つに心を動かされる理由がわかりました。これはある種の気持ちの比喩の物語であり見事に作品に昇華されています。

表紙や挿絵も作品に適していて良かったです。
ラノベレーベルだと変に読者に媚びいったものがあったりして外で読むとき開き辛かったりするのですが、本書はそういう事はなく表紙含む作品の世界を引き立てるイラストとしてとても良いものでした。

元々はなろう系のWEB小説だったと知り読みに行きました。比較すると本書にて追加された最後のエピソードがより一層作品を良いものにしています。素晴らしいエンディングで本当に大満足の読後感でした。ラノベ系のミステリーやファンタ―ジー好きにはとてもオススメです。

中身の感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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誰が勇者を殺したか (角川スニーカー文庫)
駄犬誰が勇者を殺したか についてのレビュー
No.79: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

線は、僕を描くの感想

これは傑作。

2019年度のメフィスト賞受賞作。
メフィスト賞作品ですがミステリーやファンタジー系統ではなく、文学寄りの作品での受賞。つまり優れた作品だったので賞を与えられて出版された作品であるとも感じます。

本書は水墨画を扱う青春小説。
事故で家族を失った大学生の主人公。孤独や無気力、ただ生きているだけの日々の彼が水墨画の世界に引き込まれていくという流れ。

まず本書の素晴らしい所は、文字だけの小説で白黒の水墨画をテーマにした内容なのに、読書中は鮮やかな感覚を得る読書である事。ものの見え方・表現の仕方が卓越しており素晴らしい読書体験でした。読後に著者自身が水墨画家である事を知って納得です。
水墨画の知識についても、主人公と読者の目線が合っているのがよいです。初めて触れる世界、水墨画とはどういうものか、道具は?描き方は?描き手の気持ちなど物語を通して体験できました。

また全体を通して悪意がなく登場人物達も魅力的で優しい世界。読んでいて心地よい。青春小説としての成長も得られて満足。さらに読後はネットで水墨画の作品や"描き方"を見たくなりYoutubeなどを巡回しました。作品を見る目も養われるといった次第で本当に素晴らしい読書でした。オススメです。
線は、僕を描く (講談社文庫)
砥上裕將線は、僕を描く についてのレビュー
No.78: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

炎の塔の感想

素晴らしい作品でした。傑作です。

著者が明言している通り映画『タワーリング・インフェルノ』のオマージュ作品。
映画を知っていても知らなくても十分に楽しめます。私は大分昔に映画を見ていた為内容を忘れていました。読後に映画と照らし合わせると所々の設定をオマージュとして残していた事に気づく楽しさがあります。では真似事の作品かというと全くそんな事はなく、優れた要素を継承した著者オリジナルの作品に仕上がっています。

500ページ台の本書。正直色々と重そうで読むのを躊躇していました。
同じような気持ちの方がいたらお伝えしたいのが、本当に読み始めたら止まらずあっという間に読めてしまう作品である事。内容が薄いという意味ではありません。ハラハラドキドキの緊迫感、先が気になる展開がずっと続いており夢中になるからです。

災害パニック小説の方向として混乱や醜態を描く作品がありますが、本書はそうではなく災害を解決するべく消防士の活躍が描かれる方向性の作品です。火災現場の緊迫感、チームとしての活動、救助模様、、、次々と起きる多くのトラブルに遭遇する展開は本当にやめ時が見つからない読書でした。

そして構成が素晴らしい。無駄がなかったエピソード。登場人物達の配役。様々な要素が考えられていて驚かされました。結末の切り方も好みです。この主人公の現場の物語のラストの安堵感としてはここでしょう。その後のエピローグを描かないのも好み。最初から最後まで大満足の作品でした。オススメです。
炎の塔 (祥伝社文庫)
五十嵐貴久炎の塔 についてのレビュー
No.77: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

シンデレラ城の殺人の感想

凄く楽しく好みの作品でした。※点数は大分好み補正で加点。

作品雰囲気はライトノベル寄りの法廷ミステリ。
『シンデレラ』のパロディで、ゲーム『逆転裁判』のオマージュを感じた童話題材のミステリ×法廷ものです。
『逆転裁判』が好きな人は特にオススメ。裁判中の展開がそのままです。

シンデレラの設定を用いる事で登場人物や雰囲気を説明する必要がない為すんなり物語に入れます。始まりは魔法使いにドレスアップされて舞踏会へという定番の流れ。王子の私室に訪れたシンデレラが目にしたのは王子の他殺死体。その場に訪れた兵士に現行犯逮捕され緊急的な臨時法廷で裁かれる事になりこのままでは死刑は確実。無罪を証明する為にシンデレラは推理の力で裁判に挑むという展開です。

ページの半分以上は法廷劇。
証人の証言から手がかりやおかしな点を指摘していくたびに事件模様や人物像が変わっていくのが面白い。魔法が存在する世界なので何ができて何ができないのか、ちゃんとロジカルな推理で真実が明かされていくのが良かったです。

これはもう知っている人が読めばキャラ違いの『逆転裁判』です。流石に「意義あり!」のセリフはでませんが、裁判長とのやりとり、証拠をつきつけたり証人をゆさぶったり、証人が発言する度に新たな展開が起きる作りがそう感じます。読書中、頭の中では追求BGMが流れていました。。人によっては真似事という評価になりそうなのですが、個人的には面白い所を巧く取り入れたオマージュに感じました。何よりも真似だけでは終わらずちゃんと物語として面白い作品になっている為です。結果が良ければ細かい事は気にならないという感覚。

変わった雰囲気のシンデレラも好感。継母や姉達と仲が良い設定もよく、作品全体で嫌な気持ちになる点がない。純粋に楽しい作品が読めたという気持ちで大満足でした。
シンデレラ城の殺人 (小学館文庫)
紺野天龍シンデレラ城の殺人 についてのレビュー
No.76: 8人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

方舟の感想

これは傑作でした。☆8(+1好み補正)

SNS、特にTwitterで話題になっている本書。9月発売後の一か月間での口コミの広がりが凄く評判も良い。
正直購入予定はなく特に意識をしていなかった本書だったのですが、ネタバレを受ける前に話題に釣られて購入した次第。結果は大満足でした。

物語はクローズド・サークルを舞台としたミステリ……というよりサバイバルもの。
災害で地下に閉じ込められた男女数名。浸水により水没までのタイムリミット。 一人を犠牲にすれば脱出できる。そんな状況で殺人が……という流れ。

本書の傑作足らしめる点が終盤における小説としての終わり方だと感じます。
物語の終わりとなる締め方や演出が完璧でした。その為素晴らしい衝撃と余韻が味わえます。
一発ネタにかけるような作品ではなく物語の構成や演出といった小説づくりの技術的作品であり、結果が最高な形で締めくくられていると思う次第。話題になるのも納得の作品です。

詳細はネタバレ側に書くとして、本書の内容は分かりやすくもあるのでミステリ初心者からおすすめの作品です。

▼以下、ネタバレ感想
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方舟
夕木春央方舟 についてのレビュー
No.75: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

プロジェクト・ヘイル・メアリーの感想

凄く楽しい読書体験でした。傑作です。

SF海外翻訳で単行本上下巻。
発売当初から書店や出版系メディアで大盛り上がりだった本書。ただ手に取るのを躊躇っていました。
難しいかも……、翻訳合わないかも……、上下巻で費用もかかるし合わなかったら嫌だな。という事で見送っていました。が、世の中の読者やレビューが増えた近頃の評判もよい。そしてよくある感想が、予備知識無しでネタバレされる前に読んだ方が良いというアドバイス。
という事で手に取った次第。

結果は大満足!
雰囲気はユーモアある文章で状況に反して明るい読書で読み易い。
記憶喪失で目覚める所から始まり、読者と主人公の目線は同じ、何が起きているのか?から始まる。
そして科学的な謎と検証と行動を繰り返して一歩一歩進む展開が面白くて読書の止め時を見失い一気読みでした。
読書前に懸念していた事が杞憂に終わりました。

科学や物理といった理系の話が沢山でてきますが、とても分かりやすくイメージしやすい表現で描かれています。そしてSF小説のネタが贅沢に詰め込まれているので、SFに馴染みがない人程、新鮮な読書体験が得られると思いました。
おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
No.74: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

俺ではない炎上の感想

SNSを用いた現代的なミステリ。傑作でした。

誰かが自分になりすましたTwitterで殺人を投稿。特定班により実名、勤務先、自宅住所まで拡散されて冤罪被害を受けるという始まり。
本書は現代的な要素の使い方が大変巧い。社会要素としてはSNS被害。人間的な要素として世代間ギャップを巧く扱っています。20代、30代半ば、50代のセグメントを用いた、物事の考え方、仕事の取組み、ITリテラシー。それぞれの感性の繋ぎ方が物語を面白くさせていました。

インターネットを普段から使い、フェイクニュースもなんとなく嗅ぎ分けられると感じられる方は多いと思います。私も何となく直ぐには騙されないぞと裏取りをする手順がありますが、本書ではそういう方こそ騙されてしまうパターンの物語が存在する。という内容を題材にしているのが見事です。著者の物語の作り方に唸らされました。

身に覚えのない冤罪により、自宅が狙われたり犯人扱いされて襲撃される可能性など、世の中が敵となる不安と逃亡劇の物語が抜群に面白い。
そしてネットを用いた仕掛けと驚きの結末が見事。今の時代を表したミステリとして大変オススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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俺ではない炎上 (双葉文庫 あ 71-01)
浅倉秋成俺ではない炎上 についてのレビュー
No.73: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君にの感想

これは凄く面白かった。☆8(+1好み補正)
純愛小説を用いたミステリとしてかなり巧妙な作品でした。

本書は下調べせず、予備知識は無い方がよいです。なので中身とは違う視点で感想を。

純愛小説を用いたミステリについて。
大きく2つに区分するなら、長期間における想いを描くもの(例:『秘密』『容疑者Xの献身』)と、まだ初々しい恋愛初心者を用いる作品(例:『イニシエーション・ラブ』)の想いや経験の長さで区分できます。
本書は後者寄り。
初々しさによる盲目がミステリとして活用されています。
この系統の作品はライトノベルで多く、ミステリ要素も弱めで印象に残り辛いのですが、本書はかなり刺激的でグサッと心に突き刺さるミステリでした。
『イニシエーション・ラブ』とは違う方向性なのですが、好きな方はこの作品も刺さるかと思います。負けず劣らず違うやり方で個人的に名作扱い。 後味の良し悪し含めて心に残る作品でした。

2017年の本ですが、もっと知名度があっても良さそうだし、ミステリのランキングに入っていないのは勿体ない。
内容については好みが分かれると思われるので万人向けではないのですが、恋愛ミステリが好きな方へはオススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に (祥伝社文庫)
No.72: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

同志少女よ、敵を撃ての感想

早川書房の第11回アガサ・クリスティー賞受賞作品。
今までの受賞作品はこの賞の名前から連想するイメージとは違い、メフィスト賞のような広義のミステリを感じていました。ただ今回は納得の素晴らしい作品。"早川"の"アガサ・クリスティー賞"という名前の印象に相応しく、本書の存在によってこの賞の格を上げたと言っても過言はない出来だと感じます。傑作でした。

内容は第二次世界大戦の独ソ戦を描く戦争小説もの。村が襲われ村人や母親が惨殺され焼かれる中、救助されて生き残った少女セラフィマ。復讐心を宿し女性狙撃兵となり戦争に踏み込んでいくという流れ。

まず本書はとても読み易いのが好感。
戦争ものなのと海外小説の雰囲気から苦手意識で敬遠する読者が一定数いるかと思いますが、そのような悪い印象や分り辛さはありません。登場人物は少人数でかつ特徴的であり、場面転換も少なく状況が分かりやすいです。
読者の視点は戦争とは無縁の村の少女から始まる為、その視点から戦争の悲劇を体験していく流れは掴みやすくかつ物語に没入しやすくなっています。

戦争小説としての両国の思想、戦争犯罪、悲劇や復讐の連鎖など描く所は描きつつも、表現は嫌悪されないように大分気を使ってマイルドに描かれているので、多くの人に薦められる作品となっております。
なにか仕掛けや謎解きなどの驚きがある話ではありません。
史実として存在した女性狙撃兵。狙撃兵の主人公というアクション・エンタメ性を備えつつ、"戦争"と"女性"という面から今の世に適した差別やジェンダーなども取り入れられており、物語の展開、結末に至るまで惹きこまれた読書でした。傑作です。
同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)
逢坂冬馬同志少女よ、敵を撃て についてのレビュー
No.71: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

デスゲームの構造を就職活動のグループディスカッションに割り当てた万人向けミステリ

これは圧巻。

古き良きミステリの仕掛けが現代的に昇華されていて新鮮な読書体験でした。
読みながら何度も唸らされました。違和感とそれの隠し方、後で気づかされる衝撃の連鎖が本当に巧い。
そして読後感が良く、人に薦めたくなる万人向けの作品であるのも〇。本当に素晴らしい作品でした。

まず、デスゲームの構造を就職活動のグループディスカッションに当てはめているのはとても凄いアイディアだと思った。
集められた6名の男女、内定という報酬、疑心暗鬼、発言の慎重性による心理模様、などなど。確かに言われてみれば就職活動という舞台は今後の人生を大きく左右されるものであり、その年齢の子たちにとって、不採用は人生の目標を失う死を意味する場合がある。第一志望ならなおさらだ。

本書は青春小説と就職活動という社会的テーマの一般小説としても面白く読める。そこにミステリ仕掛けが加わり、何が起きてこの先どうなるのか、緊張・焦り・不安・発言の慎重性などなど、面接を受けて体験するような感情の数々が、ミステリ要素の疑心暗鬼で読者へ追体験させているかのように錯覚させている。この緊迫感が凄かった。これは文章が読み易い為、スラスラと違和感なく物語に没入できた為だと思う。

そして実はこれだけでは終わらない、この先どうなるかは読んでからのお楽しみ。

これから就活を迎える高校・大学生にも読んでもらいたいし、大人にも読んでもらいたい。社会人になって就職活動という場を会社の中から見た人では印象が変わるでしょう。読む時期に対して得るものが変わるのは名作の証。情報社会の表と裏、採用する側とされる側など、表裏が見事に描かれておりテーマ性も抜群。登場するエピソードに無駄がないのも凄い。何かにちゃんと使われている。意識されて設定されている凄さを感じました。

久々に個人的に非の要素がなくベタ惚れな感想で恐縮です。本当に面白かった。
好みは人それぞれなのですが、これは万人に薦めたくなる作品。オススメです。

※余談。
表紙絵について。石持浅海の碓氷優佳シリーズを彷彿とされる社会人ミステリですね。
イラストレーター名が書かれていないので同一人物の作絵かは不明ですが、書影作りの企画として意識されてますよね。そういう細かい雰囲気作りも好感に映り良かったです。知らな人にはとっつき辛いかもですがそんな感想も得ました。

▼以下、ネタバレ感想
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六人の嘘つきな大学生 (角川文庫)
浅倉秋成六人の嘘つきな大学生 についてのレビュー
No.70: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

硝子の塔の殺人の感想

これは傑作。一つの到達点的な作品でした。
"本格ミステリ"と言えば?思いつくシチュエーションや要素がふんだんに盛り込まれています。

クローズドサークルの館を舞台に怪しい面々が集い密室殺人が発生する。
テンプレートのようなコテコテ要素。こういうのが好物な方はもちろん。そんなの今の時代見慣れたよという方へも一筋縄ではいかない展開が待ち受けています。

本書の好みの別れ所として、数々の先人たちの実在する作品名がミステリマニアよろしくの如く挙げられていきます。
綾辻行人の館シリーズが…島田荘司や探偵は御手洗潔がうんぬん…アガサクリスティやエラリークリーンやホームズ…etc...
悪く言えば他作に便乗していたり、衒学的なノイズを感じられる為、この点は少し読んでいて気恥ずかしい印象を受けます。ただ読み終わってからの印象は好感でした。先人たちのミステリを引用し継承して生み出された本作は、数学の証明が解き明かされたような歴史をも感じました。数学の証明は過去に解明された証明の積み重ねにより未解決問題を解き明かします。そのような歴史の受け継がれている様を模しており、ミステリの過去作を用いてここ数十年のミステリの歴史の集大成を感じた次第です。

あと、やはり優れている点は文章の読み易さです。以前から著者の本は読み易い。
ネタバレ無しなのであまりここでは書きませんが、本当にいろんなミステリ要素が盛り込まれています。企画として色んなものを詰め込もうというのは誰でも発想できますが、それらが煩雑にならずに綺麗に作品として混ざり合えているのは本当に凄いと思いました。

斬新やら驚きを求める人にはちょっと期待外れになってしまいます。
そうではない所で本書は凄い事をしています。今の若い世代に対しては新本格ミステリが登場した頃の衝撃を味あわせたい。これを読んでもっとミステリの深みにはまって欲しいという思い。古くからのミステリ読みには懐古的にも楽しめるように要素を豊富に混ぜ込んでおく。そんな意図を感じられた作品でした。
例えば著者は今までライトミステリの方向で読者を掴んでいます。それらの読者が今回の本格ミステリを楽しみ、作中に登場する作品たちに興味がわけばミステリにハマって行くわけです。
綾辻行人の『十角館』を気に入り、作中に出てきたエラリークイーンやカーを読んでみたくなる。そういう読者の未来への影響も取り入れ考えられているのでしょう。既存の作家の方々を巧く巻き込んだ一冊という事も感じられた作品でした。ミステリ界で話題になってしまう事も想像できます。書店にしてもこの本が売れれば他の本も売れる期待値が秘めているので話題になります。読者としても読んだ人同士で、ここの要素はあれだよねと非常に盛り上がるネタが豊富。などなど、気づくたびに作者の意図が感じられ驚かされた次第です。
改めて書きますがこれらの要素がちゃんとまとまって読み易い物語になっている作家の力が本当に凄い。ネタだけなら他作を浮かびますが本作はそのクオリティが本当に良かった。人により内容が好みに合わなかったとしても違和感なくサクサク読んでいる事でしょう。整った構成と文章力がないとできないと感じさせられます。

余談で点数について。
最初は8-9点ぐらいの気持ちであり、本作は万人向けではなく少しマニア向けで、オリジナルや斬新な物語ではなく他作品の影響力や身内ネタをよぎってしまう所が少しモヤモヤしました。特段震えるような驚きがあったわけでもなく、斬新な仕掛けを味わったわけでもないです。ですが著者のミステリが好きな気持ちをとても強く感じる所、読んだ後にじわじわと要素要素が蘇って話題に尽きなくなる豊富な点、これらが忘れられない1冊である事を考えて満点としました。

好みは人それぞれですが、ミステリが好きなら見逃せない一冊です。非常に印象的で満足な作品でした。

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硝子の塔の殺人
知念実希人硝子の塔の殺人 についてのレビュー
No.69: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

リバースの感想

うあー。久々にやられました。
最後の1ページの高揚感が凄まじかったです。
実はこの系統の作品は個人的に大好物なのです。ただしこの系統と呼ばれる要素はミステリにおいてネタバレ扱いな為、世の中調べる事ができません。なので中々出会えない部類の作品なのです。そういう意味で出会えた事に興奮しました。☆8+1(好み補正)。

手に取った切っ掛けは、最後の1文が凄いという評判からです。著者の作品は個人的に苦手なイヤミスで敬遠していました。読んでみるとやはりその印象に近く、明るく華やかという印象はなく、どこか淡々と不安になるような足運びで物語が展開します。ただ、結末はどうなるのだろう。この物語の終着点は何になるのだろう?と先に進み辛い不安と早く知りたい気持ちの複雑な心境の中での一気読みでした。そして最後そうきたかと。。これは最後の1文が優れているのではなく、この結末を最初に決めてあり、そうなる為の事前の物語の構築が巧いのだと感じました。

本書の作り方で巧いと思うのはミステリの事件模様でのドキドキ感は全くなく、登場人物達の内面から発する不安というか後ろめたさというか、そういう心理的なドキドキ感を読者に与えている事。読者への刺激の与え方が巧く、魅せたい所と隠したい所の表現がかなり優れており、分かりやすい言葉ではミスリード・伏線が凄い・そういう事に気づかされた読後感でした。

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リバース (講談社文庫)
湊かなえリバース についてのレビュー
No.68: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

かがみの孤城の感想

素晴らしい作品でした。所々で心に響き、惹き込まれた読書でした。

デビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』を彷彿させる青春ミステリを感じました。比べると、デビュー作はミステリ色や死の雰囲気が強かったですが、本書は青春物語にミステリの技法が盛り込まれているような作り。

まず、あえて少し違った視点で感想を挙げますが、ミステリ的な舞台設定はデスゲームもの。詳細はボカシますが、突然集められた男女。舞台のルール説明。1人だけ得られる報酬。この展開から起きる一般的な小説は疑心暗鬼で殺伐とした物語が多いのですが、本書は優しく温まり、心が揺れ動く話として描かれていた事が読書人生の中で新鮮に映りました。デスゲーム設定でこんな作品が作れるのかと驚いた次第です。

さて本書はミステリを期待して読む本ではないです。
そこに比重がおかれると少し物足りなく感じてしまうでしょう。
著者の描くファンタジー&青春物語の1作を読んでみる。程度の気持ちで読むのが丁度よい心構えとなります。

物語は、学校で悲痛な思いをし不登校になってしまった中学生の"こころ"(名前)。彼女の部屋の大きな鏡が輝き、吸い込まれるように中に入ると同じ年代の男女と城の中で出くわします。主人公含む7人の男女。それぞれ何か闇を抱え、最初はギクシャクしながらも、徐々に心を通わせていく――。という流れ。

主人公の名前"こころ"とある通り、本書は中学生の心模様をものすごく丁寧に描かれている作品だと感じました。学校に行けなくなった理由を単純に"いじめ"や"不登校"という短い単語でグループ化してしまうのではなく、人それぞれ、一言では語れない関わる人や場やタイミング、その時誰かが言ったセリフなど、1つ1つが丁寧に描かれ、その状況を読んでこそ悲痛な気持ちがより浸透していくような、感情が揺さぶられる読書体験でした。

終盤の展開はこうなるのだろうと想定の範疇でしたが、文章や展開に惹き込まれて感動しました。
10代の小中高生にはとてもオススメな作品です。素晴らしい作品でした。

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かがみの孤城 上 (ポプラ文庫 つ 1-1)
辻村深月かがみの孤城 についてのレビュー
No.67: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件の感想

異世界転生×本格ミステリ。
これは好みの作品でした。☆8+1(好み補正)

剣と魔法の世界へ転生した元警察官の主人公。平民出身ではあるが、前世の知識を活用し貴族が集う名門校に入り優秀な成績を収めます。その後、王妃や姫も出席する表彰式の祝典にて密室による不可能犯罪が発生。警察や捜査体制がない世界、そして魔法が存在する世界において、合理的な解釈と推理によって事件を解決できるか。という流れ。

本書には「読者への挑戦」が存在します。
これは著者がフェアなミステリを心がけている事を感じます。
本書の世界において、魔法とはどのような存在なのか。仕組みやできる事できない事が丁寧に書かれている為、ファンタジー作品ではありますが突飛さはなく世界観に馴染めました。

前半の異世界転生ものの定番である俺つえー物語から始まり、学園内での友達との生活は青春ものとしても面白い。圧倒的な貴族の主人公属性のレオや、いじめっ子なんだけど憎めなくなるボブ、ヒロイン的なキリオ。魔術師の校長先生のマーリンなど。キャラクターがとても分かりやすく良いキャラなのが読んでいて気持ちよい。頭の中ではハリーポッター補正していましたが、そんな雰囲気。異世界転生小説の軽いラノベではなく、ハリポタのような雰囲気の学園ものとして楽しめました。表紙をみれば心構えを感じますね。中身は結構硬派です。それでいて文章が読みやすいのも〇。他、名探偵の名前が"ゲラルト"なのが、ウィッチャーっぽくてクスっときました。

ファンタジーの世界でミステリという作品は他にもあります。が、本書の良い所は魔法や異世界転生の設定がミステリに密接に関わり必然的である事です。主人公の状況や物語を含めて、雰囲気だけではない世界観の構築が素晴らしかったです。異世界においての名探偵の存在理由やゲラルトが行う推理についても楽しめました。後半でヴァンが名探偵を模す心情が見事。名探偵とは何かというテーマも楽しめます。
続編があれば続けて読みたいシリーズですね。本作にて誕生~学園編は大分やり切ってしまった感じがする所ですが、タイトルに『異世界の名探偵"1"』とあるので2作目も検討中なのでしょう。どのような続編がでるのか楽しみです。

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異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件 (レジェンドノベルス)