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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数15件
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これは傑作!とても感動の読書でした。多くの方にオススメです。
技巧的な小説としての面白さ、人情ものとしての物語・内容の良さ、そしてミステリ模様、どれも素晴らしく個人的に大満足の作品でした。 2023年度のミステリのランキングで目にしていたのですが、正直なところ、あまりピンとこない表紙とタイトルで見逃しておりました。作者は歴史・時代小説で活躍されている方なのでミステリー作品としては意識していませんでした。しかし、世間の高い評価を知り、改めて注目して手に取ることにしました。 物語の舞台は江戸・木挽町。時代ものと人情小説の要素を持つ作品です。ミステリーとしては、過去の仇討ちを再調査するという構成になっています。 調査の過程では、関係者への聞き取りを中心に進むのですが、その一つひとつが単なる事件の断片ではなく、人情小説として深みのある短編のような物語として描かれている点がとても良かったです。さらに特徴的なのは、全編が関係者の独白のみで構成され、地の文が一切ない点です。再調査のために訪ねた登場人物たちのセリフだけで物語が紡がれるという、非常に技巧的な文章も見どころでした。 時代小説というと難しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、本作は非常に読みやすく、その心配は不要です。全編が現代的なセリフで構成されているため、内容も把握しやすくスムーズに読めます。読みやすさの中にも、当時の文化や表現について学べる場面がしばしばあり、知的な楽しさも味わえる一冊です。さらに、物語にはユーモアや人間味あふれる温かさが多く描かれており、感情の振れ幅がとても豊かです。心に響くシーンが多く、読んでいて気持ちが良い内容なのも大きな魅力でした。 非常に満足度が高い作品で、万人におすすめしたい作品です。 |
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素晴らしい作品でした。そしてとても感動した作品で大満足です。(☆9+好み)
過度に期待されると思っていたのと違うという評価なりそうなので最初にターゲット読者をお話しますと、本書はライトノベルやファンタジーが好きな人向けです。 ジャンルもミステリの手法を用いた勇者の物語という所です。ミステリとしての仕掛けに期待するお話ではありません。ただタイトルにある通り『誰が勇者を殺したか』という謎から始まるミステリー要素の扱いが巧く、とても惹き付けられる読書でした。ミステリーを用いていますがその効果がミステリ作品としてではなく、勇者物語を深める為の目的に使われているのが巧い作品でした。 物語は魔王が倒された後のお話。勇者は魔王を倒したと同時に帰らぬ人となった。かつて仲間だったパーティーに勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。誰が?何故、勇者は死んだのか。という流れ。 本書の巧い所はインタビュー形式による群像劇と再検証ものの構成。インタビューワーと読者が同じ目線になっており、各人物達の視点から徐々に勇者の姿が見えてくる構成が面白い。そして語り方や描き方の文章が巧くて心に響くポイントが豊富でした。本書あとがきに著者のコメントがありましたが、本書の根底にある著者の熱い想いがしっかりと込められているのを感じました。作中にあるセリフ1つ1つに心を動かされる理由がわかりました。これはある種の気持ちの比喩の物語であり見事に作品に昇華されています。 表紙や挿絵も作品に適していて良かったです。 ラノベレーベルだと変に読者に媚びいったものがあったりして外で読むとき開き辛かったりするのですが、本書はそういう事はなく表紙含む作品の世界を引き立てるイラストとしてとても良いものでした。 元々はなろう系のWEB小説だったと知り読みに行きました。比較すると本書にて追加された最後のエピソードがより一層作品を良いものにしています。素晴らしいエンディングで本当に大満足の読後感でした。ラノベ系のミステリーやファンタ―ジー好きにはとてもオススメです。 中身の感想はネタバレで。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは圧巻。
古き良きミステリの仕掛けが現代的に昇華されていて新鮮な読書体験でした。 読みながら何度も唸らされました。違和感とそれの隠し方、後で気づかされる衝撃の連鎖が本当に巧い。 そして読後感が良く、人に薦めたくなる万人向けの作品であるのも〇。本当に素晴らしい作品でした。 まず、デスゲームの構造を就職活動のグループディスカッションに当てはめているのはとても凄いアイディアだと思った。 集められた6名の男女、内定という報酬、疑心暗鬼、発言の慎重性による心理模様、などなど。確かに言われてみれば就職活動という舞台は今後の人生を大きく左右されるものであり、その年齢の子たちにとって、不採用は人生の目標を失う死を意味する場合がある。第一志望ならなおさらだ。 本書は青春小説と就職活動という社会的テーマの一般小説としても面白く読める。そこにミステリ仕掛けが加わり、何が起きてこの先どうなるのか、緊張・焦り・不安・発言の慎重性などなど、面接を受けて体験するような感情の数々が、ミステリ要素の疑心暗鬼で読者へ追体験させているかのように錯覚させている。この緊迫感が凄かった。これは文章が読み易い為、スラスラと違和感なく物語に没入できた為だと思う。 そして実はこれだけでは終わらない、この先どうなるかは読んでからのお楽しみ。 これから就活を迎える高校・大学生にも読んでもらいたいし、大人にも読んでもらいたい。社会人になって就職活動という場を会社の中から見た人では印象が変わるでしょう。読む時期に対して得るものが変わるのは名作の証。情報社会の表と裏、採用する側とされる側など、表裏が見事に描かれておりテーマ性も抜群。登場するエピソードに無駄がないのも凄い。何かにちゃんと使われている。意識されて設定されている凄さを感じました。 久々に個人的に非の要素がなくベタ惚れな感想で恐縮です。本当に面白かった。 好みは人それぞれなのですが、これは万人に薦めたくなる作品。オススメです。 ※余談。 表紙絵について。石持浅海の碓氷優佳シリーズを彷彿とされる社会人ミステリですね。 イラストレーター名が書かれていないので同一人物の作絵かは不明ですが、書影作りの企画として意識されてますよね。そういう細かい雰囲気作りも好感に映り良かったです。知らな人にはとっつき辛いかもですがそんな感想も得ました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは傑作。一つの到達点的な作品でした。
"本格ミステリ"と言えば?思いつくシチュエーションや要素がふんだんに盛り込まれています。 クローズドサークルの館を舞台に怪しい面々が集い密室殺人が発生する。 テンプレートのようなコテコテ要素。こういうのが好物な方はもちろん。そんなの今の時代見慣れたよという方へも一筋縄ではいかない展開が待ち受けています。 本書の好みの別れ所として、数々の先人たちの実在する作品名がミステリマニアよろしくの如く挙げられていきます。 綾辻行人の館シリーズが…島田荘司や探偵は御手洗潔がうんぬん…アガサクリスティやエラリークリーンやホームズ…etc... 悪く言えば他作に便乗していたり、衒学的なノイズを感じられる為、この点は少し読んでいて気恥ずかしい印象を受けます。ただ読み終わってからの印象は好感でした。先人たちのミステリを引用し継承して生み出された本作は、数学の証明が解き明かされたような歴史をも感じました。数学の証明は過去に解明された証明の積み重ねにより未解決問題を解き明かします。そのような歴史の受け継がれている様を模しており、ミステリの過去作を用いてここ数十年のミステリの歴史の集大成を感じた次第です。 あと、やはり優れている点は文章の読み易さです。以前から著者の本は読み易い。 ネタバレ無しなのであまりここでは書きませんが、本当にいろんなミステリ要素が盛り込まれています。企画として色んなものを詰め込もうというのは誰でも発想できますが、それらが煩雑にならずに綺麗に作品として混ざり合えているのは本当に凄いと思いました。 斬新やら驚きを求める人にはちょっと期待外れになってしまいます。 そうではない所で本書は凄い事をしています。今の若い世代に対しては新本格ミステリが登場した頃の衝撃を味あわせたい。これを読んでもっとミステリの深みにはまって欲しいという思い。古くからのミステリ読みには懐古的にも楽しめるように要素を豊富に混ぜ込んでおく。そんな意図を感じられた作品でした。 例えば著者は今までライトミステリの方向で読者を掴んでいます。それらの読者が今回の本格ミステリを楽しみ、作中に登場する作品たちに興味がわけばミステリにハマって行くわけです。 綾辻行人の『十角館』を気に入り、作中に出てきたエラリークイーンやカーを読んでみたくなる。そういう読者の未来への影響も取り入れ考えられているのでしょう。既存の作家の方々を巧く巻き込んだ一冊という事も感じられた作品でした。ミステリ界で話題になってしまう事も想像できます。書店にしてもこの本が売れれば他の本も売れる期待値が秘めているので話題になります。読者としても読んだ人同士で、ここの要素はあれだよねと非常に盛り上がるネタが豊富。などなど、気づくたびに作者の意図が感じられ驚かされた次第です。 改めて書きますがこれらの要素がちゃんとまとまって読み易い物語になっている作家の力が本当に凄い。ネタだけなら他作を浮かびますが本作はそのクオリティが本当に良かった。人により内容が好みに合わなかったとしても違和感なくサクサク読んでいる事でしょう。整った構成と文章力がないとできないと感じさせられます。 余談で点数について。 最初は8-9点ぐらいの気持ちであり、本作は万人向けではなく少しマニア向けで、オリジナルや斬新な物語ではなく他作品の影響力や身内ネタをよぎってしまう所が少しモヤモヤしました。特段震えるような驚きがあったわけでもなく、斬新な仕掛けを味わったわけでもないです。ですが著者のミステリが好きな気持ちをとても強く感じる所、読んだ後にじわじわと要素要素が蘇って話題に尽きなくなる豊富な点、これらが忘れられない1冊である事を考えて満点としました。 好みは人それぞれですが、ミステリが好きなら見逃せない一冊です。非常に印象的で満足な作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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凄く面白かった。というかクオリティが凄すぎた。満足でもっと読みたい。ミステリは壮大。人物も魅力的でもっとエピソードを読みたい。香港の歴史に触れられる。翻訳もよく読みやすい。海外ミステリという感覚がなかったです。
読書前は、海外ミステリだし、中国でより馴染みがないし、何か難しそう。そして警察小説で社会派で堅そう。なんてイメージで敬遠してましたが、多くの良い評判を耳にして手に取りました。いやーこれは凄い。ミステリ好きは読んで損はないですよ!先に書いた読書前の億劫な気持ちな人もいるかもしれないので払拭すべく紹介です。 6つの中編集であり、それぞれの作品の時代設定は2013年、2003年、1997年、……という具合に時代を遡る構成になっています。 最初の作品、2013年『黒と白のあいだの真実』は安楽椅子探偵もの。まず探偵の存在がぶっ飛んでます。 末期がんの為、人工呼吸器で繋がれて昏睡状態の老人。動く事も喋る事もできない名探偵。これはジェフリー・ディーヴァーの四肢麻痺のリンカーンライムを超えたかと存在に驚きました。昏睡状態のクワン警視は頭脳明晰、検挙率100%の実績があり、"謎解きの精密機械"、"天眼"の異名を持つ名探偵です。もう、この登場シーンだけで読書前の堅そうな作品イメージが払拭されていきました。ラノベではないですけど、キャラ物として面白そうと惹き込まれました。昏睡状態のクワン警視の病室に集められた事件の関係者達も寝たきりの老人をみて驚きます。どうやって事件を解決してもらえるのか?クワン警視の弟子にあたるロー警部が皆に告げた内容は、耳と脳は機能している、事件の概要を語りかけ、YESかNOか脳波を測定して名探偵の判断を仰ぐという事だった。って設定が凄い!2013年という時代設定は現代医学的な要素取り入れ、名探偵の末期から始まるのです。事件の真相は壮大であり、これで長編書けるのでは?というぐらい濃すぎる。 1作目から強烈な印象を読者に与えます。でもこれは本書の入口にすぎず、このクオリティがずっと続くよという挨拶でしたね。 2作目は2003年で10年遡り、まだ元気なクワンとローが関わった事件が描かれます。どんな話かは読んでのお楽しみです。 6つの物語は名探偵クワンを共通とした逆年代で進みます。各物語は本格ミステリとして非常に高密度。1作目が安楽椅子探偵もので、2作目、3作目と、各物語はミステリとして"○○もの"といった異なる趣向となっておりバラエティ豊か。そして各作品は大長編でも遜色がないぐらい壮大な仕掛けを施した本格ミステリであり贅沢三昧。中編に圧縮しているので、文章1つとっても無駄がない。事件の話以外にも香港の歴史、人物達の想い、ちょっとした会話のやりとりでどういう関係かが見えてくる面白さがあります。 年代を遡っていくので、人との出会いや、人生の教訓、人の変化がどこで起きたのか見えるのも面白い。ミステリだけではない物語が味わえる為、各エピソードが非常に心に残りました。 読み終わった人は、もう一度最初から読みたくなると思います。 これはトリックがあったという意味ではなく、逆年代構成で歴史を遡って読んだ事により、時代や人の想いの起点に触れた為、その後の人や時代の未来にもう一度触れてみたくなる為です。再読の1作目はクワンやローの回想や想いがより感じられる読書でした。 著者のあとがきより、作品構成の巧さを感じました。書きたい内容は、「ある人物とこの都市とその時代の物語」。「本格派」と「社会派」ひとつの小説で結合するとどちらかの味が強くなる為、6つの独立した「本格派」推理小説を描き、6つの物語をつなげると社会の縮図が見えてくる試みをしたそうです。いやはや、、、そうなってます。凄い。。個人的に苦手で敬遠しがちな社会派・警察小説・歴史物を意識することなく、名探偵の本格推理小説を楽しんでたら、いつの間にか社会派を味わって香港の歴史に触れていた。という感覚なのです。 あと、短編集というとハズレ作品が混ざっている心構えが起きるのですが、本書はハズレなしでどれも凄く、当り作品を6つ読んだ気分で大興奮でした。 なので本書のあらすじで、堅そうだな。難しそうだな。と敬遠していたら勿体ないです。好みは人それぞれですが、こういう作品は中々出会えません。非常にオススメです。 |
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これは凄く好みの作品。とても楽しい読書でした。☆9+好み1。
泥棒一族の娘が恋人の家族へ挨拶に伺うと……なんと警察一家の息子だった!この恋はどうなるのか!?土台としてのジャンルはラブコメである。家族紹介からとてもユーモアに描かれており、泥棒家族は豪快な父親やら峰不二子のような母親やらとても楽しい。登場人物が多いのにキャラ立ち抜群で分かり易い。雰囲気はユーモア溢れるドタバタ劇で、笑いあり涙ありで楽しませて貰いました。 では、ミステリとしてはどうかというと、殺人事件の被害者が泥棒一族の祖父であると判明し、この捜査の結末に至るまでが見事に決まり、ちゃんとしております。読後感がとても良くて、これは素直に素晴らしい作品だと思った。こういうの好みなのです。 点数については、ミステリとして事件解決の伏線が弱いなとか、驚きが少ないかな……とか、色々思う所もありますが、作品全体に流れる気持ちが良い雰囲気と、人に薦めたくなる本という事で個人的に満点で。 驚きとか推理に重きを置くのではなく、気軽で楽しいミステリをお求めなら、本作は万人にオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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素晴らしい作品でした。傑作。
いわゆる美術ミステリのジャンルなのですが、なんでしょう、薀蓄を語る系ではなく、自然と芸術世界の中に読者を連れて行ってくれるような万人向けの作品です。 絵画やクラシック音楽などの芸術作品は、その作品が作られた背景や作者の想いを読み解いていき、ミステリのように謎を明らかにしていく楽しみがありますが、事前に予備知識がないと楽しめない敷居の高さを危惧するところがあります。 ですが、それらは本書には杞憂で、美術を知らない人が読んでも楽しめる事に趣を感じます。 美術の知的好奇心くすぐる話も然ることながら、古書によるルソーとピカソの物語、織絵とティム2人の物語、ティム自身が上司になりすましたハラハラ感など、楽しみ所が豊富で夢中でした。これらが、堅そうな美術ミステリのイメージを払拭してくれます。 あとはなんと言っても美術に対する熱い想いがとても感じられる点。特に後半のピカソがルソーに投げかける言葉には熱いものが込み上げてきました。 さらに本書の素晴らしい所は、物語を読んで『はい、おしまい』ではなく、作中に出てきた絵画を知りたいと読者の未来の行動に影響を起こさせている点。今はネットがありますから作品名を検索してどんな絵画なのか調べてしまう事間違いなしでしょう。 物語を楽しみ、改めて絵画と向き合う。読者は本書と現実世界で再度体験できるわけです。これは凄い。 皆さんのレビューを見て、初めて手に取った作者でした。 よい作品を知り充実した読書でした。おすすめ。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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凄く好みで面白かった。テンションあがります。ライトノベルテイストの表紙で敬遠している読者がいそうな掘り出し物作品。
本年度末の各誌ランキングにどう影響するか気になります。☆9+好み補正で。 過去の事件を孤島で再検証する話は『七人の証人』を思い出したり、賞金獲得の件は『インシテミル』、裁判討論は『ダンガンロンパ』や『逆転裁判』などのノリを感じ……というか好きな作品の要素を個人的に感じ取っていっただけなのですが、色々感じ取れるぐらいミステリの要素が豊富です。 孤島での1日は、事件概要→自由時間→裁判開始→議論→判決。と、ゲームシナリオの様な謎解き展開でテンポよく進みます。が、軽いだけでなく、ストーリーの根底には、裁判員制度、冤罪、量刑や罪の意識、死刑問題などのテーマがしっかりと根を張っています。 加害者・被害者それぞれの視点からの事件の見つめ方。法廷で推理した事件模様が真実であるとも限らない。視点を変えるだけで変化する事件の全貌。口達者で皆を説得すれば有罪・無罪が変化する特性。そもそもの裁判員制度の意味など。社会へのメッセージ性も高いのが凄い。 著者は元警察官であり、あとがきで事件の被害者と加害者両方に接していたエピソードが納得で、被害者や冤罪者の虚無感や異常心理も魅力でした。 いきなり急展開する真相解明やちょっと悪ノリした雰囲気は好みではない人が多いかもしれませんし、リアリティや推理の粗さを気にする人もいると思われ万人には薦め辛い。ただ、私の場合は細かい所は突かず、読んでいて楽しかった点。テーマがしっかりしている点。意外でインパクトがある真相。ラストのスッキリ具合。読み返すと初読と印象が変わる伏線の数々。などを踏まえ、殿堂入り作品でした。サクっと読めるゲーム系ミステリが好きでしたら、とてもオススメです。 各事件の感想はネタバレで。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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著者買いして作品一気読みなんて何年ぶりだろう。久々にハマってしまいました。
※本書の注意事項は、必ず過去作品を読む必要があります。 『[映] アムリタ』『舞面真面とお面の女』『死なない生徒殺人事件』『小説家の作り方』『パーフェクトフレンド』 これらの作品の続編をも意味するのが本書の『2』です。 『2』だけ読んでも意味が分からないですし、著者の作品の傾向に慣れておらず駄作に感じるかもしれません。 逆に言えば、ここまで順当に作品を読んできて著者の作品が気に入っているなら自ずと高評価になるものです。 デビュー作『[映] アムリタ』を読んで気になる作品だと思えば続けてくるでしょうし、 合わないなら本書に辿り着かず、途中で立ち止まっていると思います。 アムリタの作品の中で、 美しい糸で作った織物を、その状態を保ったまま糸にして、 さらに織物を作ったら、どんな美しいものができるでしょう? と言うフレーズがあるのですが、過去作が糸。それらを紡いだ作品が『2』なのでしょう。 デビュー作から本書のような事をやりたいイメージがあったのかもしれませんね。 過去作品を読んだうえで、やっと本書のカタルシス味わう準備ができるという、 本書の敷居の高さは問題なのですが、他の方の感想で頻繁にでるぐらい過去作読書は大事な事だと思います。 さて、ライトノベルの文体で軽妙に話が展開される中に、 『面白いとはなにか?』『美しいとは何か?』と、創作における哲学が述べられたり、 ミステリのようでそうでなくてファンタジーかもしれないけどSF?いや、恋愛? と他ジャンルに渡り、心地よく振り回され、斜め上を行く展開に放り投げられる楽しさは本当に凄い。 実の所、本書はやり過ぎ感が否めなず、アムリタの方が完成されていると思い、 8点ぐらいで感想を書こうかなと思っていたのですが、 本作や過去作の事を考えているといつの間にか夢中になって回想していて、 かなりハマってて好んでいる自分に気づいた次第でして、 『恐怖』も『笑い』も『驚き』もやり過ぎて『困惑』や『残念な気持ち』などなど、 それは、本書に出てくるキーでもある感動させられている事だと気づき、 これはもう、好みの上で満点大満足しかないと思った次第です。 ミステリ視点では破綻してめちゃめちゃで、オススメし辛い作品なのですが、 やり過ぎ感含めて、とても楽しい読書を得られた作品でした。 終わってしまったのが少し寂しい気持ちです。 中身についてはネタバレで。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今まで読んできた道尾秀介の作品は、
人の心の感じ方と受け取り方の歯車のずれの妙が印象的で好みだけど、 結末がずっしりの読了感に、少し苦手意識がありました。 しかし今作は、感動の結末も書けます。と、言わんばかりで、 読後感が気持ちよくまとめ上げており、著者の作風の幅を感じる凄さを感じました。 本書は詐欺師を扱った題材なので、インスピレーションから、 何かしら騙し騙される展開になるんだろうなと感じつつも、それに気づかない。 理想的な詐欺の内容でした。 また、仕掛けに強く目が行きがちですが、 仕掛けはあくまで、物語の登場人物達の気持ちを引き出し、 物語の要所要所で起伏を作るスパイス的なものに感じられ、 私の中での見どころは、その時その時の登場人物たちの心模様でした。 ずっしりと心に残る過去作も好きだけど、 気持ちよく打たれる今作はいろんな人に薦めたくなる作品でした。 |
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読んで良かった。と思えた1冊です。
戦争を知らない若い世代=主人公と設定し、 『戦争を知らせる』のではなく、あくまで『祖父の生涯を知る』事にして 主題をずらし、読者を入りやすくしたストーリー構成は巧いと思いました。 自分自身、主人公と同じで祖父はどんな人だったのか。 ミステリ小説としてどんな仕掛けがあるのだろう? なんて思いながら本書を手に取り読み始めましたが、 ものの数十ページを読んで意識や考え方がガラリと変わりました。 良い意味で別物です。 ページが進むにつれて言葉でうまく言い表せない たくさんの気持ちが芽生えました。 読了後に自身の考え方や意識の持ち方まで 響いてくる作品です。 これは本当に良い作品でした。 |
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シリーズの2作目の『トスカの接吻』に書かれていましたが、
オペラの舞台は演出家の善し悪しで好みが決まる所があります。 その演出は定説通りの台本ではなく、解釈の多様性もありだと思われています。 本書はワーグナーのニーベルングの指輪を下敷きにしており、 北欧神話にでる「巫女の予言」を婆さんで表現した所から始まり、 藤枝和行をジークフリートと模した演出から乙女の存在、 最後の印象的な場面に至るまでオペラの内容を事細かく習って活用しています。 なので、これはもはや解釈の多様性を用いた 『現代版のニーベルングの指輪』を 著者は演出家として作り上げてしまったんだと感じました。 本書はミステリのジャンルでありながら、 ミステリの要素を表に出さずにオペラ歌手藤枝和行を視点とした オペラの舞台裏の物語になります。 この"舞台裏"という所が自分が感じたこの本の主たる印象で、 よくあるミステリに期待するものとは大きく外れた点が ミステリではないのに凄い作品だと気に入った所であります。 ミステリの要素とも言うべきロジックやトリックというものを 舞台裏に追いやってしまっており、 表に出すものと裏に追いやるモノの強調が逆になっているのも面白いです。 言いかえると分かり辛くとても捻くれた内容で、 期待するものが違うと肩透かしを食らうと思いますが、 その作り方の完成度はとても高く感じられ自分には圧巻の作品でした。 細かい事はネタバレで。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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月で発見された死後五万年の死体の謎を追うSF小説。
死体とともに発見された所有物に使われている物質から 年代や生活環境を推測したり、 手帳にある文字列から言語学者が言葉や数式の意味を推測したり、 生物学者が死体の骨格や生体から推理を試みたり、 月面調査の手掛かりを元にさらに謎の解決と新しい疑問が生まれたり・・・ と、 さまざまな分野のプロが不可思議な死体から 可能性を現実的かつ理論的に解明していく過程にとてもワクワクしました。 宇宙規模に視野を大きく広げ、物事の可能性を追う研究者の姿が とても気持ち良く読めました。 ラストの壮大な謎の解答もフィクションでありながら、 そうではないとも言えない神秘に触れた気がして、 他とは違う、なんとも言えない感動を味わいました。 普段SF小説をあまり読んでいないだけに新しく映りました。 宇宙は壮大な謎と魅力がたっぷりだなと再認識します。 タイトルも凄く良いです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(2件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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死神のキャラ作りがとても巧いし、
その作りが伏線になってたりしてちゃんと意味があるのも驚きです。 この人間に姿を変えている死神の言動がコミカルに添えられおり、 『死』を題材にしながら話は重くありませんでした。 実際にどういう死が訪れるかは描かれず、 その時がくるまでの数日に視点を置かれているのもいい感じです。 6つからなる短編集でありながら不出来な作品はなく、 どれも面白く楽しめました。 表題の「死神の精度」はシンプルでいて無駄がない一品ですし、 「恋愛で死神」はとても心に残りました。 もしかしたら・・・とか思いながら読んでたけど死神だからなぁ。。。 いやはや。おすすめの1冊です。 もっと読みたかった。 |
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