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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数71件
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タイトルや雰囲気作りは抜群に面白かったです。ただ、勿体なさを感じた作品でした。
『二人一組になってください』という、学校で馴染みのある言葉をタイトルにしたセンスがとても良いです。卒業式直前のデスゲームのルールも、"誰とも組めなかった者は失格" というシンプルで分かりやすく、読者が手に取りやすい作品で巧いなと思ったのが最初の感想でした。作品序盤の出席名簿やカースト表を見せる演出も好感で期待が高まりました。 文章も読みやすく、デスゲーム特有の理不尽なペナルティが発生する序盤のパニック感や心理描写も良いので最後まで一気読みで、面白く楽しめた……はずなのですが、なんというか結果は何も残らない作品でした。 デスゲームものとしての感想ですが、頭脳戦要素は皆無でした。最初に示されたルールから読者なら思いつきそうな戦略もまったく描かれず、登場人物たちは場の流れに身を任せるばかり。考え方の刺激や登場人物の悔しさも伝わらず、ただ死んでいくだけの展開が続いたことで、死の重みが軽くなってしまっていたのが残念でした。結果として大事なテーマや内容の印象が残りにくく、達成感や結末への感情移入もしづらかったため、終盤に至ってもどこか醒めた視点で物語を見てしまいました。 テーマ性について。 「いじめ」がテーマという話が序盤で示されているのですが、正直なところ、根底に「いじめ」があったという事は最後まで隠しておいた方がよかったような気がします。物語の導入で、いじめがあったからデスゲームが行われたと提示されるので、読者にいじめについて考えさせる狙いがありそうな気がしますが、それがあまり伝わってきませんでした。というのも、描かれているエピソードの多くは思春期の女子高生たちの悩みに重きがある為、「いじめが理由でデスゲームに巻き込まれた」という必然性に共感しづらかったからです。むしろ、最初は「なぜデスゲームに巻き込まれたのか?」という理不尽さと緊張感を前面に出し、最後に「実はいじめが背景にあった」と明かすほうが、より印象に残る展開になったのではないかと思います。 文章や雰囲気はとても読みやすく魅力的だったのに、デスゲームといじめのテーマの描き方がチグハグで、もっと良くなりそうな惜しさを感じる作品でした。女子高生たちの空気感や、生徒たちの悩み、友人関係の各エピソードはそれぞれ面白かっただけに、最後は何も残らなかったのが正直勿体ない作品に感じました。 最終章の最後の2行みたいな要素がもっと全編に欲しかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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幽霊となった完全犯罪請負人と、両親を殺された小学生・音葉。それぞれ個では無力だが復讐を目的に協力するバディもの。
古典ミステリへのオマージュが随所に散りばめられ、二転三転ではすまない多重解決模様の物語は圧巻でした。読後感も良く、ミステリ要素が満載の一作です。 作品としては素晴らしいのですが、個人的な事情から点数は控えめになりました。 本作品は文章密度が高く、450ページに及ぶ大ボリュームです。このボリュームを楽しめたかというと、前半は良かったのですが後半になるにつれて、内容の把握が難しく読書が少し大変に感じられました。小説の終わりどころを見極める難しさはあると思いますが、本作では「気持ちよく終わった」と思った瞬間にまだページが続いているという感覚を何度も味わいました。大長編作品が好きな方にとってはプラス要素かもしれませんが、個人的には少しマイナスに感じた部分です。 特に多重解決ものは、スピード感とともに一気に読むことで連続的な意外性の爽快感が生まれると思うのですが、本作では残りのページ数の多さからか、今読んでいる推理や結末は後で覆る「ダミー」案の間違えを読まされている感覚になってしまい、爽快感ではなく面倒な気持ちになりました。内容を把握する気持ちが得られず「読みたい」ではなく「読まなくちゃ」と使命感で読書していたような気持ちでした。 他にも、印刷された文章の密度や文字の大きさの影響か、「音葉」が「音楽」に見えてしまうなど、読書中に引っかかることが多く、気持ちが入りづらい読書体験でした。読みやすい講談社文庫化されたら改めて再読したいと思います。また文字サイズを調整でき、残りページ数が見えない電子書籍版で読むのも良さそうです。 本作は要素が盛りだくさんで面白いのですが、個人的にはどこか名作になりきれなかったような勿体なさを感じる作品でした。 |
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作者の『逆転美人』の好評を受けて、『逆転シリーズ』としてシリーズ化した第三弾。
この本は帯やあらすじで「紙の本ならではの仕掛け本」と謳われており、ネタバレではなく、あえてその点を伝える宣伝PRがされています。しかし正直なところ、このPRが評判を落とす結果につながるような不安を感じました。 シリーズであるため、読者はすでに驚きの要素についてある程度把握している状況で読み進めることになります。しかし、PRが過剰に期待を煽り、さらに仕掛けの内容をほぼ明かしてしまっているため、実際の内容がその期待に応えきれていない印象です。そのため、評判も控えめなものになってしまうでしょう。 また、想定される読者を驚かせようと仕掛けに凝った工夫が施されていますが、そのためか、真相が明かされても少し分かりづらく、面白みに欠ける印象を受けました。こだわりすぎて伝わりにくい作例になってしまったように感じます。 そのため、仕掛け自体にはあまり面白さを感じませんでしたが、物語の本筋であるショートショートには、作者のネタ帳のような小ネタが満載で、楽しんで読むことができました。気軽に楽しめるショートショート集として手に取ると良いと思います。 |
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前作『星くずの殺人』に登場した真田周が主人公となる本作。前作はあれで完結していたと思っていたので、まさかの続きとなるお話に驚きました。
ただ、続きものとは言っても大きな関連性はないので本作から読んでも問題ありません。 前作の宇宙を舞台にしたお話から一転、今回はその宇宙旅行から帰ってきた真田周の高校生活から始まります。事件に巻き込まれた者への好奇心からの街頭インタビューやSNSでの攻撃、YouTuberによる突撃取材などの迷惑行為に巻き込まれていきます。ネット上の"炎上"と言葉を合わせる形で、京都市内での放火事件("炎上")が描かれているストーリーです。 扱うテーマの要素が結構重苦しく、毒親やカルト、被害者と加害者問題など、社会派小説となります。著者のデビュー作からの流れを考えると、武侠、SF、社会派という流れで色々な作品が描ける方なんだなと感じました。今作は社会的なテーマがしっかりと描かれている為、これまでの作品の中では最も江戸川乱歩賞らしい内容だと感じました。過去の作品を真田周を主人公としたシリーズとしてリメイクしたものではないかと感じます。 社会派ミステリーとしてのテーマは興味深かったのですが、個人的にはいくつか気になる点がありました。 例えば、放火事件で名所が次々と炎上する場面では、警備やセキュリティの存在が感じられず、リアリティに欠ける違和感がありました。事件自体の映像は華やかですが、どこか都合よく描かれており、実現性が低く感じられました。さらに、京都や関西に関する雑談が多く、話が脱線してしまい、大切なテーマが散漫になってしまった印象を受けました。事件の構造に無理を感じる為、読んでいる最中に何度か引っかかり、テーマやミステリーを純粋に楽しめなかった次第でした。 |
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んー……個人的に期待し過ぎてしまった。。。という気持ちです。
仮に著者の名前や加賀さんの名前を隠すか変えて読まされていたら平凡で評価し辛い作品になるのではないかと。著者の名前補正で面白く感じるような。。 文章の読み易さはさすが東野圭吾といった印象でスラスラ読めました。ただ著者を感じるのはそのぐらいでした。 本書は解答編がちゃんとあります。 タイトルから『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』を想起させます。未読の方に簡単に説明しますと、この2作は最後の謎解きを読者に推理させる作品として当時話題になりました。解答編を読めないように袋とじにするなど面白い試みだったのです。本書はタイトルが似ていて同シリーズな為、過去作を知る人程、その再来、もしくは読者に対して何らかのアプローチがあるのではないかと期待をさせる本なのです。ですが本書にはそういったアプローチはありませんでした。勝手に期待していた個人的な問題ではあるのですが、そういう思わせぶりで無いのは残念でした。解答を書かない事や読者に考えさせる本は今の時代に合わないと判断されたのでしょう。そして本書は世の中や読者層からは評価が高いので、著者はちゃんと求められているものを描いているわけです。私のようなものを期待する人は少数派と感じました。 物語は良い意味で古き良き時代のミステリです。90年代の感覚での最新刊という所。富豪の集まる別荘での連続殺人です。何となくですがドラマの脚本をイメージされているような見せ場が用意されています。古き良き著者作品のトリックや殺人事件の異常性や深みがあるテーマというものはありませんでした。あるものは映像化した時の映え。芸能人に合うキャラ設定、別荘宅や調度品、プレゼントの高級な品、高級レストランでの食事のシーンなど、映像用かなと思うシーンが強く印象に残った次第です。本作は映像化前提を意識しすぎてしまった作品に見えました。ドラマ化する上での妥当なプロモーションとして加賀シリーズが選ばれたような気持ち。小説としての加賀シリーズらしさは特に感じない作品でして、加賀さんである必要もなかったです。最後の最後の場面だけ思い出したような加賀シリーズの一文があったという所でした。 東野作品の中では万人向けの汎用的ではありますが、これと言った心に残る特徴がない作品だったというのが正直な気持ちです。 |
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一枚の絵に魅せられ、その出所を調査していく中で当時の物語に触れていくという美術ミステリ×社会派小説。
あらすじにある通り一枚の絵から始まり、仕事について、家族について、当時の戦争や空襲について描かれていく物語。かなりの骨太の力作であり、どういう取材をしたらこういう物語を生み出せるのかと驚かされた作品でした。 序盤は報道局から左遷されてイベント部に異動する事になった主人公の仕事に関する物語。仕事に対する考えや仲間たちとの付き合いは面白く読めました。本作の中では現代編という感覚。一枚の絵をきっかけに物語が動きだす所はワクワクの読書でした。 一方、一枚の絵から調査を進め、その当時の物語となる過去の物語については戦争や空襲など重苦しい読書でした。登場人物たちも増えていき、その人物達は親戚達なので特徴的な切り分けができず、人物や状況が分からなくなる読書でした。 本書の雰囲気は美術ミステリやエンタメではなく、社会派小説&人物の伝記小説に近しいです。その為、重厚な作品ではありますが個人的には楽しむよりも社会科を勉強しているような苦手な読書でした。 ただ読み終えてみれば色々とスッキリする読後感であり、美術を用いた物語の繋げ方は見事。爽やかなエンディングが良かったです。 |
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人気小説家の監禁事件。ファンによる犯行かに思われたが……という始まり。
本書は小説家の狂気の物語。 あらすじや序盤にて何か良くない事が起きると読者には伝えられてある為、平穏な青春学園生活がおかしくなっていく不安感を持ちながらの読書でした。この気持ちはホラーやサスペンスとしての描き方で楽しめました。作中でスティーヴン・キングの名前が出てきた為、その著者の『ミザリー』を思い出す一面もありました。著者の気持ちを代弁しているかの様な小説に対する想いも楽しく読みました。 MW文庫なのでライトノベルのように軽い気持ちで読める作品ではありますが、描かれている内容はしっかりとしたホラー要素。その為、欲をいうともう少し重みがある文章だったり、登場人物の年代が少し高めだと狂気がより引き立つと思いました。軽い文章やキャラが若い年代なので、深みのある狂気というよりは若気の至りに近しい感覚になってしまったのが個人的に物足りなかった次第。 その他思う所として、宣伝方法が『予想外のラスト』『二転三転の衝撃』というPRなので過度な期待を持たせてしまうのが難点に感じます。思っていたのと違うという不本意な評価が得られてしまいそうですが、そういう作品ではないです。 『完璧な小説』というワードも強すぎる為、そこまで共感が得られなかったのが正直な気持ちでした。 |
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昨年の話題作『方舟』に続く旧約聖書の言葉をタイトルとした『十戒』。
本書単体でも楽しめますが読書する場合は『方舟』を先に読んでからを推奨します。 孤島を舞台としたクローズド・サークルもの。 携帯も自由に使える現代的な状況ですが、犯人の指示する十の戒律を破った場合は島ごと爆弾で爆破させるという縛りが一品。助けを読んだり勝手に脱出できないなど、行動が規制される状況を生み出しているのが巧いです。状況設定やミステリの要素は面白かったのでそこを評価する人には良い作品です。 一方個人的に点数がそぐわない理由について。 文章や表現が分り辛いというか煮詰まっていなくて内容の把握が困難でした。 人物については誰がどんな人なのか分り辛かったです。人数が少ないクローズド・サークルものなのに誰が話して何をしているのかイメージが沸きませんでした。この人は男なのか女なのか分り辛い人もいて名前が認識し辛い記号的でした。 内容については十の戒律に従うキャラ達の動きが何だか不自然で滑稽でした。そんなに簡単に従うの?もうちょっと抗おうよとか、投票で犯人に考えが正しいか確認するところにおいては、そこで何か抵抗して捕まえたりできないの?などなど状況のリアルさが感じられず皆不自然な動きです。要素や設定だけ並べているような文章でして、もう少し読者が納得し得る状況が伝われば良いなと思う次第。『方舟』で感じた文章の妙は弱く、この状況において緊迫感や恐怖というものが感じられないのが残念です。会話文も練られていないのではないでしょうか。色々と不自然でした。 『方舟』が売れたので1年後に向けて急遽2作目の本書を出版したかのような煮詰まっていない文章を感じました。 ミステリ要素は面白いので、文庫化の時は加筆調整してもっと魅力的な作品になればよいなと思う気持ちでした。 終盤のとある理由から3作目も期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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表紙のイラストとタイトルに惹かれて手に取りました。
SFの『夏への扉』に合わせたタイトルを感じる通りタイムトラベルを扱う作品です。 序盤は主人公男子の生活が悲観的で、家庭や学校の問題が憂鬱な気持ちにさせるどんよりとした物語のスタート。章のタイトル"モノクロームの晴天"がなかなか良いセンスだと感じます。そんな日々のある時に都市伝説となるトンネルの発見と変わった女子の転校生により物語が変わっていくという流れ。 転校生の花城あんずのスタンスが面白く、学校や主人公へ変化をもたらしていく序盤はかなり面白く読めました。トンネルの発見と協力して謎を解き明かしていこうという展開も面白い。 ただ4章でガラッと何かあまり求めていない設定やら情報を読まされるような流れになってしまったのが残念な気持ち。ただ5章の緊迫感は時間もののSFをとても感じて良かったです。 序盤が良かっただけに何かが足りないようなスッキリしない読後感でした。 |
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新装版の雰囲気に惹かれて手に取りました。
読後の気持ちとして、帯にあるようなミステリーを期待すると肩透かしを受けると感じました。 本書はミステリーとしてではなく、旅先で体験した非日常の出来事ぐらいの感覚で楽しむお話です。 舞台はハワイにある一見さんのみ宿泊可能なホテルのお話。ハワイの雰囲気がとてもよく描かれていて旅行気分を味わった作品でした。 旅先で出会う人たち、その場の縁、ある意味ドライな関係性はリアルに感じました。旅先で出会う人にそんなに深入りはしない為、どんな事情があっても他人事な感覚になります。あえて悪い印象で表現すると、どうでもいいかなと言うような気持ちのエピソードになる為、その気持ちが本書の物語への惹かれ具合となった次第。 ハワイの晴れやかな雰囲気とは対象的に後ろめたさやじめじめしたエピソードな為、あまり好みの物語ではなかったのが正直な気持ちです。 |
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SNSや書店で話題になっていたので手に取りました。
表紙の絵柄とコロナ禍も相まって口元を隠す帯の作りは巧いな思います。ブックデザインが印象的。 帯やポップなどで、どんでん返しものとしてPRされているのですが、読後の感覚ではそれを期待するものではないと思いました。過剰な宣伝により読者が期待するものと違った読後感になり、不当な評価に繋がってしまいそうです。 本書はイヤミス系統。通り魔により家族を失い不幸になった者の視点で描かれる異常者の物語です。 ミステリーというより文学的な要素の組み合わせが面白い作品でした。タイトル『レモンと殺人鬼』からして何故にレモン?と興味を引く要素のセンスが巧いです。 家族経営の洋食屋。レモン。父と娘のエピソード。その他もろもろ、個々のエピソードが良く考えられており面白い。ただそれを仕掛けあるミステリーにするべく捏ね繰り回した後半は過剰な展開に思えた次第です。 あとがきにて著者が本書で描いたのは「ヤバい人」とあったので納得。ヤバい人の物語を期待して読むとその通りな作品。ただ異常犯罪ものだとしても個人的には何か突き抜けたものが無くてあまり印象に残らなかったのが正直な気持ちです。最後のシーンは好みでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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図書室を主な舞台とした青春ミステリ。
著者初期の古典部や小市民シリーズを感じさせる新たな学園もののビブリオミステリーです。 短編集なのでサクサク読み易い。“図書本"の特徴を用いた日常の謎。各話はミステリとして暗号やアリバイ、意外な〇〇ものなどバラエティを兼ね備えており楽しめました。 ただ個人的な好みとして、日常の謎の短編で青春小説というのは特に刺激もなく何か心に残るようなものが得られ辛かったのが正直な気持ちです。 短編集の中では『ない本』が好み。ビブリオミステリとして推理のとっかかりが巧く、学園ミステリとして登場人物の背景に至るまでよい塩梅でした。 |
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著者の作品は毎回違ったテーマを用いており、本作も新しい種類の物語を世に出してきたのが凄い。本作は現代のコロナ禍を舞台としており、かつ自殺をテーマにした作品。
自殺の肯定派と反対派の若者がネットメディアにて討論会を行う。この討論会の終盤から徐々に参加者の思惑が見え隠れしていき、その不明瞭な謎がミステリーとして展開していく。 ただ謎を追いかける話ではなく、自殺の考え方から、残るもの・残されるもの・残すものなど、登場人物達を通して著者の考え方に触れた読書。 人にオススメするようなエンタメ小説ではなく、自殺をテーマとした著者の創作物としての作品。好みとは違うものでしたが、著者の本は読み易いので自分にはない考え方に面白く触れさせてもらったような読書として楽しめました。 |
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2016年度の江戸川乱歩賞受賞作。
乱歩賞は新人の賞ではありますが、著者はペンネームを変えての再デビューなので他の乱歩賞のような初々しさはなく、個性的な作品でありかつ異質を放っている作品だと感じました。 猟奇殺人鬼の一家に生まれた主人公。自身も父も母も兄も殺人鬼。ある日部屋で兄の惨殺死体が発見され、しばらくすると消失する謎が発生する。殺人鬼として狙う加害者側から一変、主人公は被害者側となり、死体消失の謎によるミステリ模様が始まるする流れ。 本書を手に取る前のイメージは、猟奇殺人ものなのでドロドロなグロなものを想像していましたが、そういう気分にさせるのは序盤ぐらい。主人公の家族に何が起きたのか?という謎を追う流れで、本筋は"殺人"について、歴史、考察、哲学などの思考を巡らす物語。 なんとなく読んでいて、内容は違いますが夢野久作の『ドグラ・マグラ』を感じました。「ゴオォゥン――ゴオォゥン……」とか、現実の話なのか虚構や幻想の話なのかごちゃごちゃになるような展開。奇書と感じるのも分かります。 本書は個性的な作品。一つの物語として完成されています。 ただそれが好みかどうかは人それぞれでありまして、個人的にはあまり楽しめなかった作品でした。 |
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特殊な能力を持った名探偵達が「聖遺物」をかけたゲームに参加するという話。
大きく分けて二部構成で、前半は名探偵達の紹介エピソード。後半があらすじにある物語。 個人的には前半がとても面白かったです。 超人的な名探偵達は、AIを駆使する者、思考速度が常人の数倍ある者、五感が優れている者。という具合に驚異の能力を用いて瞬時に事件を解決する者達。短編集の様な短いエピソードの中で、それぞれの名探偵達の活躍が読めるのは贅沢な作りで良かったです。 一番印象的なのは思考速度が速いボグダンというキャラ。思考速度が速いという事を文章で表現する為に括弧書きを駆使した文章となっており、この表現は小説らしさがあってよかったです。 後半についてはあらすじにある事件が起きるのですが、これだけ凄い名探偵達が集まっているにも関わらず、話や推理の進展が悪い為に超人感が薄れてしまったのが残念。超人たちを集めている状況がミステリに活用されているかというと必然的には感じませんでした。 なんとなく読んでいて感じたのは作者が好きで自由に描いた作品である事。悪い表現で恐縮ですが読者からするとちょっと読み辛いし、不必要なギャグパートや大阪弁のノリが作品の雰囲気を崩して身内ネタに走っている傾向を感じました。そういうのを気にせず、好きな事、好きな要素、思いついた文章をどんどん描いて楽しんでいるのを感じた次第です。 それぞれの名探偵は個性的なので、スピンオフ作品などで舞台を変えてまた皆に会えたら面白いだろうなと思いました。 |
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シリーズ1作目『ナキメサマ』がホラーとミステリの見事な融合だったので続けて読書。ただ2作目の本書は少し期待し過ぎてしまった気持ちです。
全身骨が砕かれる死体の発見という怪異を扱う物語。 前作同様に地方の村を舞台としたホラーは雰囲気抜群で大変好み。前作から共通キャラクターとして参加の怪異譚蒐集家の那々木悠志郎は良い味を出しています。「作家の私を知らないのか?」という登場シーンが最高に好みです。 物語の中盤まではワクワクで楽しかったです。ただ今回好みに合わなかったのは、前作のようなミステリ仕掛けを施そうとした為か謎に関する要素は都合の良い展開が多かった事。そして怪異の現象が非現実的過ぎてしまい、ホラー&ファンタジーに感じてしまった事でした。 ホラーの要素が前作のように必然ではなく、過剰な演出なだけに感じられて好みに合わなかったのが正直な気持ちです。特に主人公以外はちょっとね。。。という感覚。 3作目も購入済みなので次に期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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見立て殺人がメインの本格ミステリもの。クローズド・サークル、館もの、次々に殺される招待客、絵画に見立てられた殺人。といった具合で設定は抜群に面白い。ですが好みにそぐわない理由として、雰囲気や情景が浮かび辛く読んでいて面白くなかったからです。
ミステリの仕掛けや見立て殺人をテーマとした中で、犯人が見立て殺人ができないように環境を破壊してしまいましょうといった偏屈した展開は楽しめました。探偵役のシズカの発言や行動は、連続殺人は100%起きるという前提の元に行われており、物語の中の人物というより外側のメタ視点で本書を眺めていると感じます。本書の面白かった所はこの探偵役の思考と行動でして、他のミステリでは味わえない新鮮さを感じました。 読み終えてから、以前シリーズ2作目にあたる『首無館の殺人』を読んでいる事を思い出しました。 2作目は切断される首がテーマで、犯人が首を切ろうとするなら切れないように対策しましょうと言った展開がなされるので、本シリーズの探偵の特徴が1作目から構築されていると感じます。ロジカルに推理するのではなく、連続殺人が前提の中で犯人の行動を抑制していくスタイルです。 シリーズ他本も気になる所ですが、評判の理由が同じ傾向なので少し様子見かな。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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西洋童話をモチーフとして、著者が再構築したオリジナルの物語です。
前作の時も感じましたが、昔話の内容について新解釈を述べるものではなく、キャラクターや世界観を活用した創作となっており、題材となる昔話の設定に必然性がないミステリなのが好みと違いました。 『ヘンゼルとグレーテル』に関してはお菓子の家ならではの仕掛けがあり、この短編はミステリとして楽しめました。 それ以外は人物や世界観の設定を用いたファンタジーを読んだ程度の印象で特に何か印象に残るものはなく、普通に楽しめた読書でした。 物語やミステリの仕掛けに対して、童話の世界観にする必然性が弱いのが物足りないです。逆にそこが補完されて、だから赤ずきんなのか!だからシンデレラを採用したのか!という驚きと納得の気持ちになれれば今以上に良い作品に化けると思いました。 幅広い層に読ませる商業的な商品戦略としては巧い商品という印象です。 |
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著者の作品は好みに合わないのだけど、今度は面白くなっているかも?と期待して手に取る。他にはない個性が好みではある次第。
エログロ系+ミステリの作風なのですが、んー……正直な気持ちとしては今回も好みに合わず。 "そして誰も〇〇〇"という名作タイトルをもじり、表紙もとても良いのですが、それに対する内容が期待にそわず名前負けかなと。 エロも艶やかなエロではなくただの下品。グロも感情を掻き立てるグロではなく文字の羅列。前半は☆3ぐらいな感想。 ただ、後半からミステリへちゃんと変容しているのは見事。 舞台設定やグロを用いて特殊な世界観でちゃんと新しいミステリを作っている。この雰囲気もそうだし本書ならではの仕掛けは個性があるのでそこは好感でした。 後半のミステリ模様は☆8ぐらい。なので、半分で☆5かなという感覚。 2017年の某特殊設定ミステリを著者風にしたらどうなるか。本書の企画アイディアはそんな基点から生まれたのだろうと感じる読書でした。貴志祐介の某作の影響を受けてそうだと感じます。新しいミステリを生み出そうという気持ちは〇。注目はし続ける作家さんです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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作品テーマや物語の構造はとても素晴らしかったです。ただ好みでいうと何とも言えない気持ちになる作品でした。
2020年度のメフィスト賞受賞作。最近のメフィスト賞からイメージする緩さはなく硬派な社会派作品でした。 タイトルから感じる通り法廷ミステリの部類。そして特徴的なのは、事件を主軸に争う法廷ミステリというより、法律自体がメインとなっている作品。法律の紹介、その法律に従い動く者たちの姿が強く印象に残りました。 読書中の正直な気持ちとしては好みではなく楽しめませんでした。 なんというか、事件の報告書を読んでいる気分。登場人物達が曲者で好きになれない為、誰にも感情移入できません。なので俯瞰して物語を眺めますが、事件模様の描き方がエンタメという起伏ある魅せ方というより、淡々と何が起きたのか描かれているような感覚。それでいてミステリとする為に出来事を小出しにしている為、全体像が掴めず物語が良く分からなくて退屈という気持ちでした。 終盤はそれまでに散らばった各エピソードが意味を持って繋がり全体像に驚きます。ただその全体像が見えた時はなんとも言いようのないイヤミスのような嫌な印象でした。本書の紹介帯では『感動、衝撃の傑作ミステリ』とありまして、確かに言葉の意味通り感情が動かされた"感動"となりますが、印象は悪い意味でどんよりさせられました。ミステリとしては巧いです。 これは人により好みが分れるかと思います。 読者に身近な事件を扱い、それによる負の連鎖、冤罪や贖罪を体感する作品としては傑作なので社会派好きにはオススメ……かも。ただ個人的にはちょっと合わない作品でした。 |
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