伯爵と三つの棺
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フランス革命期を舞台にした歴史ミステリ。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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毎回新作を楽しみにしてるが、この本が現時点での最高傑作。 なぜこの時代でなければいけなかったかに気づいたときに震えた。 ミステリーを読む楽しさはこういう作品にあると思う。読めてよかった。 | ||||
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ミステリは必然性の文学といえます。 なぜその舞台設定でなければならなかったのか。ここが突き詰められていると自然と物語に説得力が出てきます。たとえば、戦国時代が舞台の作品で刀で殺人が行われ犯人を暴く。こんなことは現代の包丁でも可能なわけで、わざわざ戦国時代を舞台にする必然性はありません。戦国時代を舞台にするならその時代でしかありえないこと(たとえば国同士の争いなど)をうまく作品に組み込まなければなりません。 「この舞台でしかありえない、これ以外では成立しない!」ここに拘っている作品は明らかにオーラが違います。 確かに本作は謎の魅力という点では少し弱いかもしれません。銃撃事件があり、容疑者は3人の誰か。トリックはほぼなしでハウダニット的面白さはなし、連続殺人でもない。ロジカルな推理もありますがそこまで分量は多くなく、アクロバティックな論理が飛び交うわけでもありません。 そう、この作品は事件だけを取り出せば短編で事足りる内容なのです。それを水増しして長編にしただけなのでは?そう思われる向きもあるかもしれませんが、とんでもない。これだけの分量が必要だと納得させられるのが凄いところです。 というのは前述した必然性、すなわちフランス革命期を舞台にした必然性に徹底的に拘っているからです。当時の身分制の揺らぎ、犯罪捜査の鷹揚さ、貴族の美徳と背徳、自由平等への渇望とその終点たるナポレオン戦争の破局、これらがもたらした時代の偶然こそが本作の核です。この時代でしかこの物語は描けないのです。そしてこの時代にのめり込むためには長編でなければならなかったのです。 できれば時間をかけてじっくり読んでいただきたい。私は1ページ1ページ文字を飛ばすことなく読みました。読み終えて本を閉じ、タイトルの意味を考え余韻に浸る楽しさ。あたかも自分が老境にさしかかり過ぎ去った時を懐かしんでるかのような感覚。物語に没頭する最高の読書体験でした。 謎と論理を土台としてここまで豊かな物語を描けるとは……推理小説の可能性と懐の深さに感動します。間違いなく本年度の時代ミステリの収穫でしょう。潮谷験氏は本作でさらに一皮剥けたと思います。 | ||||
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タイトルからカーぽさを感じたので読んでみた。ロジックもしっかりした上質な歴史本格ミステリで面白かった。歴史に翻弄される兄弟の話も熱くて、ページをめくる手がとまらなかった。海外の小説が苦手でも楽しめたので、そこもよかった。 | ||||
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(※犯人の正体は伏せているが話の筋のネタバレあり) 装画が好みでジャケ買いした一冊。ハードカバー版「スイッチ悪意の実験」ギラギラ箔押し表紙でも思ったけどこちらの作者(もしくは編集者や発行元)は凝った装幀が大きなマーケティング効果を発揮できること、読者をより惹き付ける魅力を持っていることを信じているようでそれは今回の本でも有効に機能してる。カバーをめくった先の内張り紙が黒。目次ページの用紙も黒。そしてカバーを外した本体は赤。朱色の栞紐は白いページを垂れ落ちる血の一筋のようで読了後、手に持って本を読んでいたはずがその本の手のひらの上で転がされていたような感がある。 物語は、フランス革命が起きた時代前後を背景に進行していく。 と或る吟遊詩人が某貴族のご令嬢を孕ませてしまい三つ子の男児を生ませる。生まれてからずっと醜聞が付きまとう私生児として肩身の狭い思いをしながら生きてきた三兄弟は「城持ち」の身分を目指し自分たちの才覚と努力、友人の口利きによってD伯爵が所有する四つ首城の改修を任される立場までのし上がった。 前途洋々これから明るい未来を切り拓いていくはずが突如そんな彼らのもとに失踪していた父親の元吟遊詩人から「面会したい」という連絡が来る。 三つ子とその父親が対面するはずだった当日、D伯爵と偶然四つ首城に居合わせた人たちが目撃したのは非情に射殺される元吟遊詩人と凶弾を放った犯人。犯人の顔は三つ子のいずれかだったが三兄弟は見分けが付かないそっくりさんなので三つ子の誰かなのかがわからない。 自領で発生した殺人事件を解決するためD伯爵と彼の配下たちは捜査を進めていって、というのが主なあらすじ。 帯にある「ミステリ・レクイエム」というキャッチフレーズが言い得て妙だ。序文より先に出てくる6ページ目に「近年発掘された遺構の調査結果記録」が記されており「地中に埋め込まれていた石棺を五点発見」し、その中から「四名分の人骨」が確認されたとわかるけどこの時点で最初の引っかかりを覚える読者。本のタイトルは「三つの棺」なのに発見された石棺は五点?それに遺構で見つかった人骨(四名分)の数とも整合してない。 このように各所へ散りばめられた不協和音の伏線が終盤に向かって調和・回収されて悲愴な旋律に変わっていく様子はまさしく鎮魂曲だった。 肝心のトリックと終章の後に判明する真相自体はさほど目新しさを感じない。厳しいことを言わせてもらえばミステリ好きだと問題の記述が出てきた時点でまず気付くので。自分は探偵物の推理物というより歴史物の人間ドラマとして読み進めた。 物語の核にあるのは「フランス革命」であり、この革命の影響が欧州各国に波及していった末の悲劇。自由を求めて蜂起した民衆の行動が遠く離れた国に生きる人々の人生に波及し彼らに絡まって徐々に狂わせていく。このあたりのフォーカスの仕方が実に自然で巧み。 文体は読みやすく、中盤まではところどころにコミカルな場面も出てくる。「待て待て待て」と口走る探偵(正確には公偵)をライトミステリ分野ではともかくこういった本格ミステリでは初めて見た。しかし事件が解決したあとの顛末、第5章から終章までは語り手の淡々としていながら冴え渡る筆で新たな惨劇が綴られる。 被害者一名の「殺人事件」から犠牲者二百四十名の「戦争」へ。 大量殺人が公然とおこなわれる戦争においては名探偵も真相も必要とされていない。殺人事件が解決された後であるからこそ、その対比が恐ろしい。 登場人物たちの約半分の名前が開示されていないのも今作の面白いところ。事件を解き明かす側であるD伯爵、政務書記、首席公偵、次席公偵のフルネームはわからず愛称や略称、役職名がわずかに判明するのみ。逆に事件へ巻き込まれる側である三兄弟や犠牲者、目撃者といった関係者の名前はわかるし彼らの趣味や嗜好、過去や生き様も明記されている。 本来、歴史に名を刻むことも無く生きてただ消え去っていく人たちの名前のほうをあえて書き残した。 語り手がこの物語を通して伝えたかったことの一端はここなのかも。 なお、自分が今作で特に秀逸だと感じたのは本のタイトル「伯爵と三つの棺」に込められた意味。 【最期、そこに在ったのは三つの棺と 誰 だったのか】 ネタバレするならば3行で済む。 だけど、この余韻は311ページ読んだあとで無ければ得られない。 蒸し暑過ぎる夏の夜、人の業の薄ら寒さを感じた一冊でした。 | ||||
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