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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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難病・余命ものの恋愛小説。
死期が近づくと体が発光する発光病というものが存在する世界。余命わずかな彼女と青年の物語。 発光病という設定について何かしら意味があるかと言われれば余りなく、現実的に例えると癌と変わらない。本書は設定どうこう言ったり既視感を述べて比較するものではないと感じます。余命ものでよくある話と感じてしまうのですが、本書の良さは雰囲気というか話の流れの切なさがとても沁みる作品でした。 MW文庫で電撃小説大賞作品より。ターゲット層にとても合った作品です。発光病の扱いも映像にしたくなる要素です。 主人公が余命わずかな彼女の為に何でも実行してくれる流れはピンと来なかったのですが、最後まで読んで主人公の心情を知ってみると思春期の危うさ、儚さ、葛藤、など、複雑な心を感じられて悪い事は言えない感じになりました。 雰囲気や流れがとても綺麗なので、中高生に向けた余命ものの恋愛小説として楽しみました。 |
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著者の切ない話を集めた短編集。
本作に収録されている作品は『未来予報』『手を握る泥棒の物語』『フィルムの中の少女』『失はれた物語』の4編。個人的に楽しめたのが『手を握る泥棒の物語』と『失はれた物語』の2作でした。 この2作は短編集『失はなれる物語』にも含まれています。この2作を読みたい場合は本書よりもそちらを手に取るとよいです。 著者はあとがきが面白く、そこには『未来予報』と『フィルムの中の少女』は生活の為に出版社から依頼されたテーマで書かれた作品であると書かれていました。まぁ、そんな気はします。面白くないわけではないですが、切ないテーマや怖いテーマを感じる事もなく、綺麗に描かれたシーンはありますが重苦しい読書でした。あまり心に残りませんでした。 以下は、『手を握る泥棒の物語』と『失はれた物語』の感想を。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『13・67』の時に感じていましたが短編のクオリティが物凄く高い。またまた贅沢な作品です。
正直な所、表紙とタイトルが凄く難解そうなイメージを与えます。私自身、手に取り読む気持ちがなかなか芽生えませんでした。が、読んでみると大変読みやすくミステリ初心者からオススメできる素晴らしい作品集だと思い改めます。色々な味が楽しめるのでとてもオススメです。 本書は『13・67』のような連作ではなくバラバラの短編集です。本格ミステリはもちろんの事、ホラー、スリラー、SF、世にも奇妙な作品と様々なジャンルが17作品収録されています。ジャンルとしてはバラバラですが、どれもこれも一筋縄ではいかない結末に魅了されます。いやもう、『13・67』が凄かったというより、もともとの作品の作り方からして基本が驚かせて楽しませる作風なんだと感じました。 本書300ページ台なのに17作品なのです。1作品短いもので10ページ台。たったそれだけのページなのに、惹き付けるストーリーを描き、事件等のイベントが発生し、驚愕の真相を与える作品が何作もあります。これは長編で読むような仕掛けでは……と思いつつも贅沢な読書を満喫できるのです。ページ数が少ないのでちょっとの合間に読むだけでも充実した気分になります。 まず最初の『藍を見つめる藍』。40ページ。ネットストーカー・SNS犯罪を扱います。現代的なサスペンスだなと思いつつ読むわけですが、結末を読む頃にはすっかりと本書に魅了され、次の短編も期待に胸を膨らませる事でしょう。掴みはバッチリです。 『見えないX』は推理小説をテーマとした大学の授業。授業に紛れ込んでいるXの正体を暴けという内容でしたが凄く面白い。こんな授業を受けてみたいと思いつつ、本格ミステリを堪能しました。 この『藍を見つめる藍』、『見えないX』は群を抜いたミステリ作品。『作家デビュー殺人事件』『いとしのエリー』『時は金なり』も好み。『習作1~3』と言った練習作品も収録されており、著者のアイディア作りの一端が見れたようで楽しいです。 改めますが、表紙とタイトルから受ける堅物印象とは違い、大変読みやすくバラエティ豊かな作品集です。とてもオススメ。 |
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ベースはひと夏の青春小説。そこに幽霊+プチミステリを加えた感じ。表紙買いでしたが中身は印象と違いちょっと重かったです。感動する評判を聞いていたのですが、個人的には総じて喪失感とやるせなさが纏う雰囲気でして、読後の気分は曇り空と言った所。
物語は仲良し5人組の中で一番のエースであるケイタが死んでしまった所から始まります。 残りの4人の喪失感がすさまじく、5人の人間関係の事、ケイタに言えなかった事、知りたかった事、後悔の気持ちが立ち込めています。そんな時に生前仲が良かった人にしか見えないというケイタにそっくりな幽霊が現れ、ケイタの最後の願いを叶えるべく皆で亡くなった現場となる山へ向かう流れとなります。 設定が巧いなと思った所として、幽霊は物理的なものを透かしてしまう為に電車に乗れない事。目的地へ向かうのに歩いて行く理由が出来ているのが巧いです。4人が歩いて向かう中でそれぞれの想いが独白されます。何となく恩田陸『夜のピクニック』を感じる流れです。構造は面白く読めました。 内容はよくあるような青春模様で可もなく不可もなくと言った所。後半のケイタの願いにおける真相は驚きましたがちょっと急展開過ぎるかな。そうきたか!という驚きや納得ではなく、なんか辻褄が合わないような疑問が増えてしまいモヤモヤ。世の評判通り最後は綺麗にまとまってはいますが、事実となる結果を想像するとやっぱり悲しいものではないでしょうか。ちょっと好みに合わずでした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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クローズドサークル×予言もの
前作同様に特殊な状況を本格ミステリに加えた作品となっています。 封鎖された空間で起きる事件と検証の連続。読んでいて非常に楽しい読書でした。大好きな本格ミステリに予言という要素の新たな使い方を加えて斬新さを生み出しています。 読書前の気持ちとして、実は予言という要素はミステリではそんなに珍しくないですし、予告殺人というジャンルもあり見慣れている為、ある程度を想定して身構えていました。 本書の予言の面白い所は、予告殺人のような人的要素ではなく、SFの超常現象のようなものとして扱われている所です。前作同様に非現実的な事があるかもしれないというのを前提条件に加えてのミステリな為、事件検証方法や登場人物達の思考や行動が斬新に映りました。 また、物語の雰囲気やキャラが良いです。比留子さん&葉村の支え合うような関係も目が離せません。真面目な所と抜けてる所が程よく読んでいて気持ち良いです。特殊設定ミステリという要素だけ捉えてしまうと過去にも多くの作家さんが描いていますが、学園ミステリのキャラ立ちしている中では珍しいのではないでしょうか。この点も非常に好きな要素。新本格時代のクローズドサークルでミス研メンバーが活躍する中で新たな特殊条件が加わるという好きな要素てんこもり。大興奮な読書で読後も満足。次回作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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下ネタに意味づけを行い本格ミステリとして昇華する稀有な作品。上木らいちシリーズ第4弾。シリーズものですが、1巻以降はどの巻から読んでも平気です。
今回はもう褒め言葉で変態。こんな奇想天外な物語を作り上げられる作者の想像力に脱帽。凄すぎる。 あらすじに偽りなく、前代未聞の真相。このネタがなんなのかはネタバレになるので紹介できないもどかしさがあります。 ま、ネタとして好みが分れる作品なので万人に薦められるものではないですが単純に個人的に好み。初めて体験したネタを加点して☆8+1で。 2匹の蛇の毒による密室殺人。第一印象は"蛇"で"密室"。紐かな?と古典を感じる。一方、シリーズ下ネタ系なので、2匹の蛇は隠語でアレかなぁとか勝手な妄想をする。が、全然違いまして猛省。本書はかなり特異な本格ものでした。 正直な所、真相はトンデモ話です。我に返ればこんな事起きないでしょ!って話ですが、島田荘司や京極夏彦のように、とんでもない世界観と真相を読者に納得させて読ませてしまうあの感じを体験した次第。本書を作るにあたり、真相のネタから思いついたのか、エロネタなのか、蛇のネタから考えたのか、どこからか分かりませんが、無駄なく全部繋がっている物語構築は本当に凄かった。 本書、他人が真似できない唯一無二の作品でした。 余談として。黒太郎の作家エピソードより。 自身はサドではない。サド小説なんて書きたくないんだ!という独白は、著者の下ネタに対しての事かなと感じました。著者は下ネタが好きで悪活用しているわけではないのですよね。デビュー1作目は仕掛けに必要な要素としての下ネタでしたし、3作目、4作目もテーマや真相の為に必須な事として下ネタが使われています。 世に望まれるなら下ネタを使う。ただしきちんと本格ミステリに組み込む。そんな志を作者から勝手に感じた次第です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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閻魔堂沙羅の推理奇譚の第5弾。
相変わらずの読みやすさと安定した物語で面白い。。。のですが、今回は厳しめでこの点数。 正直な所、第1弾で楽しかったミステリ要素はもうないですね。テンプレート化した話の流れが悪いわけではないですが、ミステリとしての伏線やら社会的メッセージなどまったくなく単純な他人のドラマを読む小説になったと感じました。良く言えばサクッとライトに楽しめる。悪く言えば中身がないです。心に残る何かがありませんでした。 1話目、2話目とも、推理ではなく、思いつきでかつそれが正しい前提で解決していきます。手がかりや謎もクイズ問題みたいで新鮮さは皆無。読んでいて新しい刺激を得る事がなかったです。 登場するキャラクター達の意識の高さは良くて好みですが、他のエピソードと被ったキャラ造形で新鮮さもない。 例えば本書3話目の土橋昇と2巻3話目の浦田俊矢は同じ社長設定で思考がほぼ同じで書き分けが感じられないです。2巻目はこの性格も含めて意味のあるストーリー展開でしたが、今回は必要性が特になく、なんとなくさを感じます。 刊行ペースが速いのはドラマ化など狙って話数を増やしているのかなと感じてしまいます。ミステリ要素はどんどん薄味になっているのは残念ですが、個々のストーリーは面白いのでそこは作者の手腕で見事。メディア化狙いや売り上げの為に量産が大事なのは今の出版状況から察する所ではありますが、著者には内容の濃いデビュー以降の代表作を作り上げてほしいなとも感じる次第でした。もっと面白い作品ができるはずと期待します。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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異色な警察官物語。著者初読書。
交番勤務のシド巡査。自分のいる街で知らない事があるのは気に入らない。住人の生活スケジュール、給与明細までなんでも情報は欲しい。同僚には一歩間違えれば犯罪者のストーカーと言われる。そんな人物が主人公。設定も面白いが、場の表現や語り口調が面白い。雰囲気はコミカルなのですが扱う事件はサイコホラーや怪奇小説に近い。事件と表現の温度差を楽しく感じました。 読んでいて感じる雰囲気は、平山夢明の狂気や江戸川乱歩の幻想をシド巡査のコミカルさで包んでマイルドにした感じ。 9つの短編集の中では『新生』が好み。ただ、単品として楽しめたという分けではなく、順番に読んでシド巡査や場の雰囲気を捉えたうえで読む『新生』は狂気や虚無感を感じました。真相もちゃんと現実的にまとまっているのでわかりやすい。 幻想的で結局なんだったのか分からないエピソードもあるので、好みが分れる作品だと思う。個人的には新鮮な読書で楽しめました。 |
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歯医者さんミステリ。
お仕事系・日常の謎作品が得意な著者作品は読んでいて心が温まります。 物語は、過去のトラウマで歯医者が大嫌いな女子大生が、親戚が務める歯医者で受付のアルバイトをする事になってしまった話。お仕事ミステリとして巧いのは、知識のない読者と主人公を合わせている所にあります。歯医者さんには医者と受付の他に、どんな人がお仕事しているのか?アルバイトとして入った主人公目線で現場が見えるのが面白い。そして登場人物達が基本優しく、とても雰囲気がよい職場なので読んでいて癒されます。 ミステリとしては訪れる患者さんの行動・心理を紐解いていく感じです。カウンセリングに近いかもしれません。行動や発言などから、患者の悩みや状況を察してケアするような感じです。 読んでいて嫌な気持ちにならないミステリというのは万人に薦めやすい。この路線の著者の作品はどんんどん読んでみようと思います。 |
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メディアワークス文庫はライト傾向ながらもミステリ好きが好む仕掛けを入れてくる作品がたまにある。そんな本を引き当てると嬉しく思う。本書はそんな1冊。
どういう系統の本なのか、実は帯や裏表紙に書かれてしまっている。Amazonの表紙画像には書かれていない。そこがメインとして印象に残る人もいればそうじゃない人もいるので、版元としてはネタバレではなく敢えてPR材料として明記して宣伝している模様。 あらすじは、死の瞬間を幻視してしまう主人公と、幻視によってもうすぐ死ぬことになる女性の2人が、幻視の運命を変えようと行動し人助けをする話。 幻視の設定がユニークで面白い。死が訪れる現場で被害者だけの動きが映像でリピート再生されます。まだまだ未来の死の場合は映像が半透明で薄く、死が近い程色濃く現実的に映る。横断歩道で映像が見えれば交通事故と想定できる感じです。この特性を手がかりにどんな死が訪れるのか想像し先回りして対処する流れです。 男女の出会いから始まり、誰かの死を回避する為に共闘する姿は青春模様でよい。 まぁなんというか読書中は、女性の鈴さんがとても良い人で万能過ぎるし、主人公は鬱屈してたり会話が寒く感じて、キャラまわしはラノベっぽいというかレーベル通りなどなど、ひっかかる点が多かった。ですが、読み終わってみれば気になる点がプラスに転じる。総じて面白く楽しめました。特に事故回避シーンの緊迫感は文章の筆が乗っているというか勢いあって惹き込まれました。 仕掛けに関しては話のメインではないのですが、ある程度想定していたのに、そうきたか!と意表を突かれました。ただこれは少し反則技では、、、でも有名なミステリ作品でも似たような前例があるからアリなのか。もう少し設定の補強があればよかったのになと思う次第。ここら辺はネタバレで書きます。 結末もよいので、ライトノベルも許容範囲のミステリ好きにはおすすめな作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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なかなか変態(誉め言葉)な作品でした。
ジャンルはミステリに分類されるかな。精神が崩壊した人物達の物語を中二病&ラノベテイストで繰り広げつつ、誘拐監禁虐待の重い雰囲気を混ぜ込んだ中で恋愛ヒロイン要素もプラス。というような感じ。 シリーズ化されていますが、本書1巻で完結しています。 癖のある文章とラノベ雰囲気が好みの別れ所。世の評判としても賛否両論で感想がバラバラですね。 語り手のみーくんについては西尾維新の戯言シリーズに出てくるいーちゃんを彷彿させました。西尾維新を読んでいる方はその雰囲気の方へ意識を持っていかれます。とても上手く活用されています。 ラノベ雰囲気がなければ、精神異常者の物語としてサイコ物やホラー小説とも感じられます。という事で設定だけみるとどこかで触れた事があるような作品とも思えるでしょう。本書の味は多少乱雑で中二病的な文章で描かれた異常者達の物語であり、文章と設定が相乗効果で上手く混ざり現代的な奇妙な味と感じる作品でした。 続巻のあらすじを見ると引き続きミステリの展開が予想されて楽しみではあるのですが、文章に癖があり読むのに気力が消費されるので時間をおいて手に取れたらと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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お仕事系・日常の謎作品が得意な著者による和菓子ミステリ。
個人的にとても新鮮な読書でした。 正直、和菓子については無知なのと、デザートはケーキなど洋菓子の方が好きなので興味が湧かなかったのです。和菓子と言えば、大福、羊羹、餡子なイメージ。"上生菓子"は見た事・食べた事ありますが、この"上生菓子"なんて単語は日常で使った事がないレベルでした。 本書の類似傾向としては美術ミステリに近いです。著者の解説にありますが、暗号のような菓子名、基礎知識がないと来歴すらわからない菓子。色・形・技法で季節を感じたりと、和菓子の世界は見立てや言葉遊びに溢れておりミステリ模様です。 本書、和菓子を知らない読者程、面白いと思います。 主人公のアンちゃんはちょっぴり太めで食べるのが大好きな女の子。アルバイト探しでピンと来たのがデパ地下の和菓子店での販売員。和菓子の事は初めてで、その業界の店長や職人さんや奇妙なお客さんと関わり、和菓子の世界に触れていく流れです。つまり、和菓子を知らない読者と主人公が同じ目線なのです。主人公と同じように和菓子の仕事で分からない事が日常の謎として悩み、解決していく流れとなります。 ま、ミステリとしては非常にライトです。謎解き主体でもありません。ミステリを求めると何もなく感じてしまい、ただの漫画か仕事本じゃんとなるので、その期待値は無い方が無難。 お仕事の裏側や、仲間達との感じのよい雰囲気が楽しめます。殺伐さは皆無で子供からも楽しめるでしょう。 読後は上生菓子を検索して食べてみたくなり、デパートへ買い物へ行きました。パクっと食べるとやっぱり餡子な印象なのですが、本を読んだおかげで餡子も色々ひき方、練り方があるんだなとか教養が増えて良かったです。 ミステリを通して新しい分野を知るのはやっぱりよいです。そういう効果がある作品でした。 |
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学園青春小説+プチミステリ。
主人公は共感覚にて相手の声から発言の感情が読み取れる。それが嘘だったり、後ろめたさだったり、怒りだったり、遠慮だったり。相手の本音が見えてしまう為、人の顔を見て話す事を避けている。そこへ言葉が喋れない女の子と芸大課題の映像制作をする事になる流れ。 著者作品3作読みましたが、どの作品も青春の1コマを綺麗に描きます。本書は芸大が舞台。変態の先輩に付き合わされての映像制作。でもそれが嫌じゃない立ち位置。声の出ない女の子との出会い。主人公の内面の感情。などなど青春模様を楽しみます。中盤まで学生生活が続くので青春小説の印象が強いです。終盤でミステリ的に事件やまとめに入るのは毎回の事で面白い。ただ終盤に期待する作品でもないです。主人公と女の子の物語。結末も綺麗にまとまるのは好みでした。 余談。 やはり1作目が抜きん出ている。2-3作目は最後で楽しい。1作目のように序盤からイベントや盛り上がるポイントを散りばめれば2-3作目もより良くなり人気がでそうなもどかしさを感じます。全作品文章は綺麗で青春模様や結末の作りも好き。次の作品早くでないかな。 |
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小学生のひと夏を描いた作品。
この著者はライトな雰囲気にミステリ仕掛けを取り入れる作風ですね。1作目は七不思議で本作も不思議な伝説が出てきて少しファンタジー寄り。それらを踏まえて素敵な青春物語を描いています。1作目同様に終盤のまとめがとても惹き込まれました。 個人的好みとしては、中盤までは小学生の夏休みの生活に大きな起伏がない為に少し退屈でした。ただ、後半からの結末と読後感が良いです。これは1作目と同じ。著者の傾向が分りまして他の作品も読もうと思います。好みです。 本書は殺伐さがない小学生が舞台なので、小中学生向けのライトなミステリとしても紹介できます。 夏休みらしい友達との思い出。楽しさと切なさ含めて綺麗にまとまった作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは傑作。
ルポルタージュを用いたミステリとして素晴らしい完成度でした。報告文学のミステリを体験したい場合、本書は非常におすすめです。 『出版禁止』シリーズとして2作目となりますが、前作を読む必要はありません。本書単品で楽しめます。 シリーズ共通項は、"作者の長江俊和が実在する事件のインタビュー記事や資料をまとめて世に出した。"という体裁の作品です。1作目の『出版禁止』では報告書を読んでノンフィクションの事件を体験する怖さを味わえるのですが、真実が結局わからずモヤモヤするリドルストーリー作品でした。面白い試みでしたが、読者が深読みしてどれだけ楽しめるかという読み手の行動に委ねられる作品でもありました。そんな訳で2作目は敬遠していましたが、世の中の評判から読んでみると当たり。前作の不満点が解消され、真相が書かれていなくても、全てを読むと真実が見える作りとなっています。このバランスが巧いです。 個人的好みですと最終章『渡海』はカットするか袋とじにした方が謎の難易度が上がってより話題になっただろうなと思いました。ただ著者ファンを広げるにあたり、普段ミステリを読まない読者層を視野に考えると優しいぐらいが丁度良いかもしれないとも思う悩ましい匙加減を最後に感じました。 というわけで、前作読んでいるが結末が好きになれず2作目を躊躇している方は手に取って損はないです。 ルポルタージュ形式について。本書は必然ある作りに唸らされます。 小説における、作者=神の視点で正しい真実が書かれる約束が、他人の記事をまとめたもの設定により信憑性が薄まるのです。前作はノンフィクションを装う効果が主体でしたが、今作はそれプラス、ミステリの楽しさに繋がっています。読者はいくつかの記事を読んでいくと書かれていない繋がりに気づく事でしょう。作者=神の視点ではなく、読者=神の視点となる作品なのです。読んだ方はわかると思いますが、この感覚が非常に面白くて、どんどん謎が頭の中で繋がる感覚を得る為、読むことが止められず一気読みでした。 また、視点を変えて本書のルポ形式について感想を述べると、単体のルポだけでは真実が見えない危うさを感じます。世の中のTVや新聞で垂れ流されている日々の事件のニュース。それ単体は偏った報告であり真実とは限らないのです。そういう風刺も感じました。 雰囲気としては事件の記事なので重いです。そこだけは万人に薦められるものではないですが、必然的なルポ形式で完成されたミステリは他にパッと思いつかないのでこの手の作品を体験したい方へは非常におすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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人工妊娠中絶と監禁拷問を扱い、独特な生と死の世界観を描いた作品でした。
主人公の医師は表と裏の生活があります。 表側は法的に問題ない殺人に近しい中絶を専門とする医師の生活。中絶をテーマに生き残った子と生まれなかった子の違いやその選別の考えを読ませます。裏側は医師の目に留まった被害者を監禁・拷問する話。表と裏の生活において、どちらも生と死のタイミングは医師に委ねられます。どちらも命を奪う行為ですがその違いは何なのか。中絶理由や被害者のエピソードを読むと妙に納得しながら読んでしまう。このバランス感覚が巧く、理不尽で異常な行動なのですが、殺人鬼の主人公に少し共感してしまったり、価値観が魅力的に見えてしまう怖さがありました。 扱われる内容の文章表現が淡々としている為、気持ち悪くもならず、むしろ爽やかさを感じる読みやすさ。 医師の意味通りの確信犯的行動に惹き込まれた読書でした。 生きているのも死んでしまうのも些細な切っ掛けやタイミングかもしれない。 殺人医師は殺人を犯すが、生き残った子には嬉しそうに生き延びてよかったと話すギャップが印象的。本書の捉え方や考え方によっては、生きている事は素晴らしい事で自由に行動できる良さを示しているのかもしれない。そんな解釈も感じました。 |
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非常に面白かったです。
科学が発達して情報がグローバルになった現代において、超常現象や妖怪を扱うホラー作品の存在意義が悩ましい中、本作はそんな思いを払拭する出来の素晴らしい作品でした。 全体像は妖怪のホラー作品なのですが、構成やミステリ的な伏線の繋がりが刺激的に配置されている為、ホラー×ミステリとも思えます。 3章構成になる本書。1章目は「ぼぎわん」という謎の存在との遭遇。まずこの「ぼぎわん」という単語の発明が巧いです。まだ未読ですがシリーズ作品のタイトル名を見ると「ずうのめ」「ししりば」「などらき」といった不気味に感じる単語が並びますが、こういう音を作るのが巧いのです。文章も読みやすく展開も早い為、不気味な存在で読者を不安にさせるホラー文芸を楽しめます。開始数ページで一気に惹き込まれました。1章目は面白いホラー作品の良いとこ取り。余計な説明なしで一気に疾走する面白さがあります。 2章目は視点を変えて物語を見つめなおします。この構造が新鮮でかつ発見的な為、違う魅力で惹き付けられました。 事件の真相を解明するミステリ小説のように、化け物の存在理由を解明したり、関わる人の内面を覗いたり、名探偵のように頼れる存在がでてきたりと、現代的なホラーは悪くないと思えた作品でした。 |
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アイゼイア・クィンターベイ。通称IQ。探偵役となるこの黒人青年は非常に魅力的でした。一見冷めた性格のようで内情は熱い一面もある。彼の行動を読む所はとても楽しめました。
個人的に馴染みのない黒人社会が描かれており、会話テンポのノリやラップ調なども含めて新鮮な世界観でした。ただ、文化的内容と事件が密接に絡んでくるかというとそういうのではないので、事件外の内容が楽しめるかが好みの別れどころかと思います。自身があまり興味を持てなかったのでノイズに感じたり頭に入らなくて楽しみ辛かったです。 シリーズ化を狙った1作目の為か、主人公の過去や伏線的に気になる内容が未解決で幕を閉じているのも気になるところ。1作で完結しているものが好きなので、色々と好みと逸れていた作品でした。 |
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「嘘」をテーマとした青春物語として大変良かったです。総じて優しさを感じる読書なので「嘘」という騙しを扱うとしても嫌な気持ちがない読書でした。成長物語+ちょっとミステリーぐらいな感覚で読むとよいです。☆8+1(好み補正)。
主人公は嘘が分る青年。彼の視点では世の中は嘘だらけ。相手の偽りの言葉を目にしてしまう人生から少し卑屈になり、他人とは距離を置いた生活を過ごしています。そんな彼が気になる子は全く嘘をつかない少女。その少女から友人の自殺の真相を知りたいと相談を受けます。手がかりを握るのは学園のアイドル。ただし、彼女の言葉は嘘ばかり……。その彼女の言葉から真実を見つけようと行動していく流れ。 出版レーベルやラノベの雰囲気から、能力ものだったり賑やかなラブコメを予感させますが、そんな事はなく文学寄り。副題に"攻防戦"とありバトルを想像していましたが全く関係なし。実際は嘘をテーマとした現実的なちょっと重めなストーリー。嘘が見抜ける事で父親との面と向かった会話ができなくなっている家庭の悪い状況や友人との距離感といった暗澹たる心情を読ませます。そこから、嘘をつく/つかないヒロインと関わることで「嘘」についての色々な一面を学んでいきます。嘘が分る話なのに、相手の心の中の真実が見えない。登場人物達の心情の描き方がよくて惹き込まれました。事件の真実が徐々に見えてくるのと並行して、登場人物達の心情も見えてくる展開が良い。 葛藤や心苦しいエピソードなど、何度かわだかまりを残したままのエンディングを予感させつつ、大団円へ到達する流れも良い。これは恋愛アドベンチャーゲームのトゥルーエンドに到達したような読後感した。終わり方が素晴らしく好み。 ファミ通文庫からという事で、その層向けのイラストもよく、恋愛アドベンチャーも青春ミステリも好きな方へは特におすすめです。 |
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著者作品は初めての読書。デスゲームなのに非常にサッパリした作品。
命のやり取りなのに鬱屈さはなし。どちらかというとギャグ・エンタメ寄り。頭脳・心理戦も軽い感じです。 だからと言って物足りないわけではなく、これはこれで面白い物語。設定がどうこう言うのではなく物語のテンポと展開を楽しむ感じでした。 デスゲーム内容は非常にシンプル。誰もが知るババ抜きです。ルールで読者が置いてけぼりになる事はありません。イカサマありのババ抜き。勝てば大金、負ければ死。この設定ですと、相手との頭脳戦や心理戦を楽しむ話かなと思う所なのですが、ゲーム内容の描写はほとんどなくパパっと決着がつきます。攻防に期待すると肩透かしをくらいます。なのでゲーム内容を楽しむというよりゲーム参加者の物語が見所になります。なぜゲームに参加するのか。各々の目的は何なのか。そこが見所です。 "女王ゲーム"の名前通り、女性側がなかなか個性的で良かったです。特に主人公の恋人役の今日子が面白いです。この子が関わると何が起きるのか。どう話が進むのか。そっちの方が気になって楽しみました。 デスゲーム系は好みで、著者作品はサクッと読める事がわかったので他の作品も手に取ってみようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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