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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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率直に言うと嫌いな本ですね。
もう、出てくる人物達との感性が全く合わない。その為、本書はより一層他人事な気持ちであり傍観して物語を眺めていました。 とすると誰にも感情移入できない為、可哀想とも怒りも起こらずです。日本推理作家協会賞なので何か面白い仕掛けがないかなという期待を求める読書をしていました。それも叶わずでした。 ま、内容が嫌いとはいえ本書の物語はとても読み易かったのが好感。 世の中のニュースで飛び交う事件の数々。人相や雰囲気、凶悪犯罪者のテロップ。読者がやっぱりねと感じさせる加害者の悪い過去の表現たち。凶悪犯罪者は本当に凶悪な犯罪者なのか?そんな外見の印象の裏にある内面や人との関わりの複雑さが描かれていました。 正直な所、他人はあくまで他人で本心なんて分かりません。 本書の物語にしても皆の願いが叶ってハッピーエンド!としても別に良いですし、何も救われないでバッドエンド。。どちらでも捉えられるわけです。 明確的な解答を示すのではなく、物語に触れて読者はどこにどう感じるかお任せですね。好きなキャラクターがいればその視点で幸か不幸か示されるのですが、全員嫌いなタイプな為に勝手にすれば状態でした。 日々垂れ流される事件のニュースの1つに過ぎず、何も記憶に残らず通り過ぎる物語でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ物の倒叙ミステリ。ページ分量に対する質が高い。面白かったです。
なんというか舞台内容はとても現実的で、何か特徴的な派手さがあるわけではない。一見地味に思える内容でも楽しめるのは、登場人物達の質の高い会話と心理模様が巧く描かれているからだと思う。このシリーズの良さが本作でも健在でした。 現場検証パートにおける可能性の模索は非常にざっくりしていて、読者視点から見たら結末は2つ。犯人が特定されてしまう道筋があるのか?疑われた人が犯人なのか?だけに焦点をあてているのですよね。他の登場人物達が犯人の可能性はあるのか?などはカットです。必要ない人物と主要人物の差が目立ちました。事件後の模様を想像すると警察による現場検証で直ぐに犯人が特定できてしまいそうな犯行の粗をとても感じる読書でした。 が、たぶんそれはそれで良いのだと思います。読後に納得できました。本書のポイントは彼女の恐ろしさですから。 ラストの幕引きも見事でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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奇妙な味作品。頭を使って読むのではなく、雰囲気の不気味さ、妖しさ、非現実感を味わう作品。
本書は日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した『玩具修理者』と、奇妙な話の中に時間SFを盛り込んだ『酔歩する男』の2作が収録されています。 ■玩具修理者 あらすじとしては、何でも直してもらえる玩具修理者の存在の噂話と、重症を負わせてしまった幼児の弟を直してもらおうと噂にすがり玩具修理者の元へ向かう話です。本書の魅力は物語の設定ではなく、不気味な雰囲気の文章。 『ようぐそうとほうとふ』『くとひゅーるひゅー』と言った平仮名の単語が不気味に目立つ。噂では玩具修理者の叫び声らしいが、こういう意味不明な単語を不気味に感じさせ不安になる文章が凄かった。また、日常的な文章とグロい文章での会話文の混ぜ方が凄い。同じ時間軸上の2つの表現を混ぜ込んで進行したような文章が異様かつ魅力的であり不気味でした。この感覚は読まないと伝えられない。小説として意味のある作品でした。 ■酔歩する男 『つかぬことを伺いますが、もしや、わたしを覚えておいでじゃありませんか?』と全く心当たりのない男性から話しかけられた事から始まる奇妙な物語。 パラレルワールド、タイムトラベルを扱った時間SF作品です。自分を知っている世界、知らない世界。時間跳躍、波動関数の収束・発散、観測する事で決まる事象などのお話。世のタイムトラベル系の作品群の中での本書の位置は、その能力を活用して何かをするのではなく、この能力に巻き込まれて、物事が不確かで曖昧で存在とはなんだろうと精神がおかしくなるような話。時間SF作品において、恐ろしく不安な気持ちを味わった珍しい作品でした。90年代の作品なので、その後に生まれた時間SF物を味わっていると、概念的な話の作りが時代を感じさせます。不思議な物語として楽しみました。 2作合わせて200P台なので手軽に読めます。ホラー・SF・ミステリーが混ざった奇妙な作品として印象に残る作品でした。 |
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面白い試みの小説だと思いました。
本書は、作者の長江俊和がある事情から出版できなくなったルポルタージュの原稿を入手し、これは世に埋もれさせてはならないと感じ出版した本です。 ※というのは、まぁ設定で、個人的にはノンフィクションを装った作品かと思います。 現実にあってもおかしくない内容なので、読者に「これって本当の事?」と思わせる物語のバランスがとても巧いです。 届けられた原稿は2002年に起きたある男女の心中事件のもの。心中は未遂で終わり、生き残った女性を取材したインタビューが記載されています。 小説として現代の"心中"を扱う場合は、一昔前のサスペンスドラマにて多くの男女のもつれによる殺人や偽装の作品が世にでた為、読者はこれってこういう話なんじゃない?と疑った見方をしてしまう難点があります。 本書の巧い所は、現実にあった事件の取材原稿としている為、読者へ事件内容を疑わず史実として受け入れさせている所。さらに物語ではないので、取材に漏れがあるかもしれないですし、作者の考察が正しいとは限らないといった地の文の正確さの保証が無い小説となります。 この点が好みの分かれ所でして、ミステリとして読むか、こういう作品として認められるのかという心構えで評価は大きく異なるでしょう。 個人的な感想ですが、正直な所読んでいてまったく興味をそそられなかったのですよね。ミステリなら仕掛けを期待しますが史実設定なので他人の男女の死に興味が沸かないというスタンスでした。 ただ最後の閉じ方は印象に残りました。 表向きの考察と解答は作者の考えとして示されますが、それが真実とは限らず、もっと他の真相があるのでは?と読者に含みを与えて悩ませる深読み系作品ですね。なので読後感はモヤモヤしました。 読後にネットで著者を調べたら、放送作家の方で似たような番組を作られていたのですね。 これは非常に納得で、読者を虜にする仕掛けが巧いと思いました。 考察サイトを巡回しましたが、考察者は作者のアイディアや仕掛けを見つけ出す事を楽しんでおります。この動きを狙った商品として考えると非常に巧い仕掛け本だと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても面白かった好みのSFライトノベル。ループもの。
表紙やあらすじの印象に反してしっかりとしたSF。想いの人を助ける為に平衡世界や時間軸を超えてループを繰り返す。 著者コメントより、本書は『ロボットと女の子』がテーマの発端となった作品。はい、確かにそうでした。そうなのですが、"女の子"や"ロボット"から受けるインスピレーションから随分と良い意味で飛躍していく作品です。拡大する話の膨らませ方と綺麗に収束する展開が素敵。 本書をお薦めするターゲットは、ライトノベルに苦手意識がなく、量子力学やループ物が好きで、個性的な作品が読みたい人となります。 最初の物語は表紙の女の子『毬井についてのエトセトラ』。「人間がロボットに見える女の子」のお話。 この設定を見て勝手にアニメっぽい話かなとイメージしましたが、そう軽い設定ではない。人間がロボットに見えるという事をしっかりと考える。ロボットだから男女の判別が苦手、一方、あの人は足にローラーやバーニアが付いているから陸上部に向いていると才能や特徴が見抜ける。あーなる程、能力物として読む作品かな?と思えば、「赤」に関する考察で、私がみる赤と他人が見ている赤は同じなのか?という観測から、人間とロボットの違いは何なのか?結局の所、自分と他人が見ている景色が同じかどうかはわからない。その違いの差は?識別するのは目なのか脳なのか?と哲学や科学的な話に展開されます。 ふむふむと読んでいると猟奇的なバラバラ事件が発生します。TVのニュースで逮捕者が報道されますが、人間がロボットに見える女の子には、あの人が犯人ではありえないとロボットの特徴から断言可能なのです。そういう視点から事件が見えるのか、、、という感じでライトノベルのようなミステリのようなSFのようなと話の方向性が読めない面白さがありました。 ここまででも、まだまだ序盤の話ですが、1つの転換である『毬井の世界』の章に至っては、良い意味で展開に頭が追い付かず吐き気を催しながらの呆然展開。マネキンとか想像のさせ方が巧い。うーんそうきたか。表紙からこうなるとは想像できないぞと。 既視感ある設定は多々あれど、それらは良い意味で融合して300ページ台に収まっているのが凄いし、硬派なSF作品特有の読み辛さがなく、SFネタはライトノベル調で分かり易く受け入れやすい。キャラ視点でも毬井の「わ!わ。」と喋る会話文から感じるキャラがとてもかわいい。文章が巧いので綺麗にまとまり楽しめる。個人的に好みの作品でした。 |
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頭部がない死体、胴体がない死体、右手がない死体……と言う具合に遺体の一部が持ち去られる猟奇事件の警察小説。
小説内でも示されていますが、島田荘司『占星術殺人事件』を模した事件です。横溝正史ミステリ大賞を受賞した作品でありますので、単純に占星術殺人事件を使わせてもらっただけの作品ではない、何かある期待を感じた為の読書でした。 島田荘司の御手洗シリーズの初期の頃を読まれている方は、あの作品やあの作品を感じさせる話なのでオチが見えてしまうのが残念。見立ての元ネタのファンがターゲットに含まれているのですが、ファンには仕掛けが見えてしまうという、もどかしい気持ちを味わいました。ただ、社会派的なテーマを盛り込んだ現代警察としては、面白い立ち位置にいる作風だと感じます。堅くなく、捜査はそれとなく熟し、特徴的でわかり易いチームメンバー物の雰囲気が軽い警察小説です。 悪い意味では、捜査の苦労が見えなく、解決へも理論的でなく思いつきの発想で真相へ辿り着いてしまう根拠の無さが納得できない。物語背景も壮大なんだけど何か重みがなくて軽い設定を読んでいる感じがする。と、不満はいっぱいなのですが、作品は面白く感じる不思議。たぶん好きな系統で、不満はもっと面白くなりそうな期待の裏返しなんだと思います。今後の作品に期待。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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金田一少年の事件簿の小学生編が青い鳥文庫の児童書でスタート。
青い鳥文庫は全漢字にルビが振ってあり、ミステリ特有の殺伐とした雰囲気は抑えられていますので、子供が読んでも大丈夫なミステリとなります。 小学6年生の金田一一と七瀬美雪の幼馴染の距離感は相変わらず。というか昔からずっとなのですね。学校内での金田一のふざけている姿、ふとした1コマで見せる推理、テンプレのような展開がいつもの金田一で微笑ましい。児童書でミステリとなると日常の謎か、冒険物か、vs怪盗物かと思う所ですが、本作はストレートに冒険もの。金田一が所属する冒険クラブの担任が古い宝の地図を入手。夏休みに宝探しをしようとクラブ一行が合宿に行く流れ。 合宿先の蝶の形をした烏島(からすじま)にて宝探しのはずが、姥捨て山の伝承に似せた島姥の怪物が現れ島はパニック。児童書ではありますが、歴代金田一作風のおどろおどろしい雰囲気は、島姥の怪物で健在。島で何が起きているのか?を金田一くんが挑みます。 ミステリ好きの大人が読むと、特に真新しい要素や驚きがあるわけでは無いと感じますが、児童書・小学生向けのミステリとしては読み易くて分かり易く、冒険心、ちょっと怖い所、大団円の気持ちよさと扱うテーマのバランスはとても良いです。ターゲット層に合わせた作品作りだと思いました。 金田一好きとして残念なところは「読者への挑戦」がなかった事。 「謎は、すべてとけた。」の名セリフは健在ですが、金田一少年シリーズといえば真相が解けたタイミングで、読者へ謎の要点を問いかけ、事件を再考する幕間がありましたが、今回無かったのが寂しい。謎を列挙して「この島で何が起きたのか君は分かるかな?」ぐらいの出題ページが欲しかったです。 事件の真相より、宝の意味を含む、島姥伝説の解釈が面白かったです。 なにはともあれシリーズ続編楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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凄く面白かった。というかクオリティが凄すぎた。満足でもっと読みたい。ミステリは壮大。人物も魅力的でもっとエピソードを読みたい。香港の歴史に触れられる。翻訳もよく読みやすい。海外ミステリという感覚がなかったです。
読書前は、海外ミステリだし、中国でより馴染みがないし、何か難しそう。そして警察小説で社会派で堅そう。なんてイメージで敬遠してましたが、多くの良い評判を耳にして手に取りました。いやーこれは凄い。ミステリ好きは読んで損はないですよ!先に書いた読書前の億劫な気持ちな人もいるかもしれないので払拭すべく紹介です。 6つの中編集であり、それぞれの作品の時代設定は2013年、2003年、1997年、……という具合に時代を遡る構成になっています。 最初の作品、2013年『黒と白のあいだの真実』は安楽椅子探偵もの。まず探偵の存在がぶっ飛んでます。 末期がんの為、人工呼吸器で繋がれて昏睡状態の老人。動く事も喋る事もできない名探偵。これはジェフリー・ディーヴァーの四肢麻痺のリンカーンライムを超えたかと存在に驚きました。昏睡状態のクワン警視は頭脳明晰、検挙率100%の実績があり、"謎解きの精密機械"、"天眼"の異名を持つ名探偵です。もう、この登場シーンだけで読書前の堅そうな作品イメージが払拭されていきました。ラノベではないですけど、キャラ物として面白そうと惹き込まれました。昏睡状態のクワン警視の病室に集められた事件の関係者達も寝たきりの老人をみて驚きます。どうやって事件を解決してもらえるのか?クワン警視の弟子にあたるロー警部が皆に告げた内容は、耳と脳は機能している、事件の概要を語りかけ、YESかNOか脳波を測定して名探偵の判断を仰ぐという事だった。って設定が凄い!2013年という時代設定は現代医学的な要素取り入れ、名探偵の末期から始まるのです。事件の真相は壮大であり、これで長編書けるのでは?というぐらい濃すぎる。 1作目から強烈な印象を読者に与えます。でもこれは本書の入口にすぎず、このクオリティがずっと続くよという挨拶でしたね。 2作目は2003年で10年遡り、まだ元気なクワンとローが関わった事件が描かれます。どんな話かは読んでのお楽しみです。 6つの物語は名探偵クワンを共通とした逆年代で進みます。各物語は本格ミステリとして非常に高密度。1作目が安楽椅子探偵もので、2作目、3作目と、各物語はミステリとして"○○もの"といった異なる趣向となっておりバラエティ豊か。そして各作品は大長編でも遜色がないぐらい壮大な仕掛けを施した本格ミステリであり贅沢三昧。中編に圧縮しているので、文章1つとっても無駄がない。事件の話以外にも香港の歴史、人物達の想い、ちょっとした会話のやりとりでどういう関係かが見えてくる面白さがあります。 年代を遡っていくので、人との出会いや、人生の教訓、人の変化がどこで起きたのか見えるのも面白い。ミステリだけではない物語が味わえる為、各エピソードが非常に心に残りました。 読み終わった人は、もう一度最初から読みたくなると思います。 これはトリックがあったという意味ではなく、逆年代構成で歴史を遡って読んだ事により、時代や人の想いの起点に触れた為、その後の人や時代の未来にもう一度触れてみたくなる為です。再読の1作目はクワンやローの回想や想いがより感じられる読書でした。 著者のあとがきより、作品構成の巧さを感じました。書きたい内容は、「ある人物とこの都市とその時代の物語」。「本格派」と「社会派」ひとつの小説で結合するとどちらかの味が強くなる為、6つの独立した「本格派」推理小説を描き、6つの物語をつなげると社会の縮図が見えてくる試みをしたそうです。いやはや、、、そうなってます。凄い。。個人的に苦手で敬遠しがちな社会派・警察小説・歴史物を意識することなく、名探偵の本格推理小説を楽しんでたら、いつの間にか社会派を味わって香港の歴史に触れていた。という感覚なのです。 あと、短編集というとハズレ作品が混ざっている心構えが起きるのですが、本書はハズレなしでどれも凄く、当り作品を6つ読んだ気分で大興奮でした。 なので本書のあらすじで、堅そうだな。難しそうだな。と敬遠していたら勿体ないです。好みは人それぞれですが、こういう作品は中々出会えません。非常にオススメです。 |
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戦争の特異性を活かした戦争ミステリであり、本書の状況だからこそ起きた事件という固性がある小説です。
著者作品はデビュー付近の作品を読んでいます。2017年度ミステリランキングで久々に名前がでたので手に取りました。 久々に読みましたが率直な感想として気軽に読めなくて難解になっていると感じました。特徴ある戦争色が強くでた内容で、作品を楽しむには戦争・組織・国の情勢の知識が必要、またはそれらに興味が無いと頭に入ってきません。ビルマ戦線、重慶軍、中国政権など、単語や当時の情勢のイメージが沸かず、自分には状況を楽しむ以前の問題でした。時代や軍隊など無駄な解説がない200P台のコンパクトさは良いので、戦争ものが好きな人が楽しめるかと思いました。歴史小説や戦争小説が嫌いなわけではないので、本書は単純に合わなかった模様です。 人物像も浮かばず、淡々とした文章が状況だけ書かれているように感じ、当時のレポートを読んでいるような気分でした。 |
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現役医者の著者ならではの医療の話を巧く取り入れた恋愛ミステリ。
本作はとても面白かったです。そして相変わらず著者作品は読みやすい。 気になるのは宣伝方法。 あらすじや帯が過剰広告過ぎ。"どんでん返し"とか"2度読み"とかそういう宣伝もういいからと個人的に思ってしまう。それに期待すると本書は誤解されて良くない。 程よく気持ちよい恋愛小説。そこにミステリ要素をプラス。ぐらいな感覚が期待値として良いです。ま、結果として釣られて手に取ったのでそういう意味では宣伝は成功なのかもしれませんが、なんかモヤモヤ。 あらすじは、富裕層向けのホスピスに研修医としてやってきた主人公が脳に爆弾を抱える女性と出会い、その女性と打ち解けていく中で、己の悩み、心の呪縛が解きほぐされ、やがて恋愛小説模様で惹かれるが、ある事件が起きて混迷していくと言った流れ。 主人公と女性の距離感や考え方やセリフが程よく、ちょっぴり大人な20代の男女模様がとても楽しめます。 そのうちドラマや映画になりそうな気がします。イベント的な要素・内容・仕掛けが良いのは然ることながら、小説としての文章やセリフの雰囲気、現場状況の把握のしやすさが良かったです。 久々に恋愛ミステリを読んだ刺激で点数甘いかも。でも好みで面白かったのでこの点数で。 |
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元マル暴で現在警備員、警察組織との折り合いがつかず抜けてから3年、辞めた時にバツイチとなり孤独に自堕落な生活を過ごす日々。そんな主人公が警備業務中にヤクザに追われていると思われる2人の男女を助けた事から陰謀に巻き込まれつつも人生を見出していく。
この序盤の主人公の過去・現在そして希望の無い人生の哀愁漂う雰囲気から、物語が一転する様子が楽しめました。ぶっきら棒な様で実は照れ隠し、言葉は汚いけれど人思いの主人公の優しさと熱さが魅力的でした。100kg越えの強面のおっさんなのですが味があります。序盤はハードボイルド模様。 中盤以降は、あらすじにある様な敵との戦いとなりますが、これは派手なアクション映画のようなドタバタ模様となり、著者が好きなんだと思われる機械や軍事ものの専門用語が飛び交います。 前半は"静"で後半は"動"と雰囲気が違う作品です。好みとなりますが、前半は面白かったのですが後半は好みに合いませんでした。 ただ、最後の最後は落ち着く所に落ち着いており、よい読後感でした。 |
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著者初読書。シリーズ3作目の長編をいきなり読みました。
というのは、著者作品は気になる存在でしたが、作品は短編集ばかりであり個人的に没入感が途切れやすい短編集は苦手で見送っていたのです。 今回は長編なのでやっと手に取った次第。同じような方へお知らせしますと本書から読んでも大丈夫です。 少し補足すると、序盤は主キャラの"マツリカさん"の存在が幽霊なのか実在する人物なのか設定不明であり、本書がファンタジーなのかよくわからず混乱すると思います。読後に前作を調べた所、マツリカさんは元々そういう"謎の存在"の扱いらしいので、気にせず読めば本書からで問題ないです。 さて、本書は学園ミステリにおいて女子高生に異常なこだわりを魅せつつ、それが本格ミステリに結びつけられた面白い作品でした。作中に『これが男性作家が書いた推理小説だったら、その作家はただの変態ではないか』という自虐的な地の文がありますが、これは特徴的要素なのでプラス。"学園ミステリ"として単純な高校生の物語ではなく、必然的な学園の設定を活かした内容が好感かつ面白かったです。 扱う事件は女子制服盗難事件。盗まれた制服がトルソーに着せられた状態で密室で発見されます。死体ではなくトルソーなので、人が死なないミステリを好む読者にもよいです。そしてこの密室をどうやったら実現できるかを、全10章のうち半分以上の各章において、各人の推理を披露・検証する推理合戦となっているのが見所でした。 主人公の男子は、うじうじしている情けないキャラなのでちょっと苦手でもどかしかったです。周りには一緒に考え相談したり、励まし合ったりできる仲間に恵まれているので、自信を持って周りと接する成長をしてほしい所ですね。みんなでわいわい相談している様は青春だな~と感じて微笑ましかったです。 気になる所としては、犯人がかなり面倒で綱渡りな行動をしており、何故そんな事をしているのだろう?というのが、何度か読み直してやっと納得出来る所。実際これって調べればバレバレじゃない?とか、やれるの?とか、もっと巧い方法があったのでは?とか余計な所で違和感が多く残りました。 まさかな着眼点からロジカルな推理を展開して犯人を特定する所など、見せ所豊富で面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ライトノベルの作風で描くミステリのメタフィクション。
かなりトンデモナイ内容なので人に薦め辛い。この本が面白いというと白い目で見られそうな扱い注意本なのですが、かなり個性的かつ他を寄せ付けない狂気の怪作である事が印象に残りこの点数としました。 孤島に赴任してきた先生は強姦魔。表紙に描かれている少女を犯せば文芸部全員分達成となる具合。まず本書で目に付くのは"強姦"の文字。1ページに何回書かれるんだというぐらい頻繁にでてくる。それに関連した下品で低俗で卑猥な言葉を乱発し続ける。先生の頭の中は終始その事だけで続くので、まず下品な話が苦手な人は本書を避けるべきです。一方、実際の行為は行間で略されて描かれないので猟奇やエロを求める人にも不向き。官能的でもなく卑猥な言葉はライトノベルテイストで軽く描かれているので、読後冷静になって見渡すと単純な記号として扱っているんだなと思いました。 対する表紙の少女の「比良坂れい」はミステリ脳の推理少女。すべての物事には理由があり伏線として活用されるんだと、ある種ミステリ好き読者を揶揄するような造形です。先生に好意を持っており先生の犯罪は勘違いの噂か何か理由があるべき行動なのだと名探偵ばりに都合のよい解釈で論じていきます。が、実際に犯行をしている先生は、んなわけないだろ!と推理を否定したりします。 まとめると、終始、性的思考の犯罪者と犯罪者だと思いたくない迷探偵の推理の掛け合いが展開される話です。 上記の下品な内容や読み辛く勢いだけとも感じる散文な文章が障壁となりますが、それを乗り越えられる人は現代的なミステリのメタフィクションを楽しめます。 物理トリック、心理トリックの可笑しさ、孤島のシチュエーション問題、叙述トリックの扱われ方というミステリの小道具の話。古典ミステリが嫌い、何故ミステリは古典を知らないと馬鹿にされるのか、過去に同じ仕掛けがあるとか言われても読んでませんし、新しい作品を純粋に楽しんでいいじゃないですかという読書側の話。罪が重いのは殺人の方なのに強姦ばかり嫌悪され、子供の虐殺はよく性表現は禁じられるという表現の問題。 などなどミステリに関する著者の面白い視点の指摘を楽しめました。なので強姦やラノベ的表現など敢えて強烈にやっている事もわかりますし、最後の話の閉じ方も読者が求めるミステリ的な結末にはしませんよ。するならこんな風ですかね。という事前告知で表現しているのがワザとだと感じました。 そしてそして、こんな風に前向きに考えてしまう事や文脈を拾って色々解釈してしまう行為は、迷探偵のミステリ脳と同等の扱いを受けている事に気づき慄いてしまいました。 本書の評価について、多くの人は投げ本になると思いますのでお薦めしませんが、ラノベ耐性と寛大さと冒険心で触れるのもまた経験な気もします。 個人的には2010年代の奇書扱いとなりました。こういう頭がおかしい作品(褒め言葉)は好みです。 |
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著者3作目の読書。
作風なのか当りを引いているだけなのか分からないですが、本作も温かく爽やかに終わる読後感が気持ち良かったです。 謎を追いかけるミステリという作品ではなく、断片的なエピソードが終盤繋がる群像劇作品に近いです。 護送車が襲われ受刑者が脱走した話が始まり、その脱走したと思われる男の物語。事件を追う警察やその男と過去に接点がある人達のエピソードを読んでいくと、今時珍しいぐらいな男気設定で面白く読めました。なんというか少年漫画の主人公みたい。ご都合主義で巧く事が運びますが、それはそれで分かり易く楽しめる作品として良いです。 本書のあらすじが"連続殺人鬼"や"サンタクロース"なんて単語を使ってますが、猟奇的のイメージは全くないですし季節感の必要性も弱い為、ターゲットがずれた勿体ない宣伝かと思います。ミステリだけど陰鬱ではなく爽やかなヒューマンドラマを求めている人に好まれる作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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冬の別荘地。クリスマスパーティーの気分から一転、殺人鬼が襲い掛かる。岡嶋二人によるサバイバルホラーです。
岡嶋二人作品の好きな所は主題以外の無駄を省きシンプルに楽しめる事。本書は殺人鬼が襲い掛かる恐怖と、生き残るべく知恵を使う戦い。これだけ。 "殺人鬼もの作品" はホラー特性の演出の為に残虐で気持ち悪いシーンを描く事が多いですが、本作にはそういうグロい表現が無いのが特徴だと思いました。 死の表現はあっさり。死んだら退場。登場人物は殆どいないので名前が覚えられないといった余計な心配はなし。 雪の為、視界不良で下山は困難。電話線は切らて助けを呼ぶこともできない。とにかく逃げて、考えて、戦っての連続。スピーディーな攻防の連続で一気読みでした。 ま、ちょっと古い作品なので各所のイベント事は今となってはド定番で新鮮さが無いかもしれません。結末も予想の範囲で驚きはありません。ただそれは安心に繋がり読了感は悪くないので、雪の山荘を舞台としたシンプルなホラーを楽しむにはよい作品でした。 |
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本書は"ループもの"や"幽霊もの"ではなく、記憶障害を持つ恋人との青春物語です。
あらすじやタイトルで誤解しやすいというか、わざとな商業戦略なのかもしれませんが、こういうのは印象が悪いです。 ただ、望んでいた内容とは違いましたが、1つの物語として楽しませてもらいました。 記憶障害作品ですが、話の重さはなく、非常にライトで楽しめます。 中高生男子のラノベ色が強く、ちょっと訳あり主人公が、美人なヒロインにモテモテな設定。完全に男子向け作品です。 現実的に、恋人や友人や家族や身の回りに起こるであろう事を考えると、本書はとても都合がよい展開で、ツッコミ所は豊富でキリがありません。 なので、そういうのは一旦おいておいて物語として楽しむとすれば、全体はとても綺麗な小道具や言葉で描かれいるので、中高生向けの青春恋愛小説としてよく出来ていると思いました。主人公とヒロインの考え方には共感できないのですが、世の中の恋人の思考は人それぞれなので、1つのハッピーエンドでしょう。 さくっと読める読みやすさと、彼女の日記を間に挟む物語の構成など、作り方はとても綺麗でした。終盤の一言を配置するページの気配りなど、細かい所をよく考えられているのも好感。ライトな仕掛けのサプライズがあったり、 不思議な恋の物語としては中々面白かったです。 で、読み終わってから表紙を見ると、記憶障害の作品にしては綺麗な絵柄かつ意味深でタイトルも巧いなと思いました。 色々とわだかまりが残るのですが、全体的に綺麗にまとまっている事で好感が持てる不思議な作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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"密室物の名作"だったり、当時ミステリマガジン連載のみで書籍がなく入手困難で"幻の傑作"と言われていた本書。読む機会が出来たので読んでみました。
正直、期待値が高すぎた事や、70年以上前の作品である為か、今読んで面白いかと言われると首を傾げる次第。 前半はオカルトものです。交霊会が行われ、霊媒師が呼び出した死者と相続に関して真面目な会話が進みます。古い時代の作品なので仕方がないですが、今読むとなんか滑稽でした。その後、殺人事件や怪奇現象、雪に残る不可思議な足跡の存在が現れ、浮遊できる呼び出した霊でないと事象を説明できない状況が発生します。 "密室物"として名高くなった本所ではありますが、これは密室物ではないと思います。カーっぽいオカルト+不可能犯罪の状況です。まぁ雰囲気は好みでした。 事件解決方法やトリックについては、トンデモトリックで実際には無理でしょという机上の空論なのが残念。ただ、終盤の2人による舞台の裏側の背景は良かったのでそこだけ印象に残り加点です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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要所要所のネタは凄く面白いのに、B級ホラーのようなネタだけが目立って深みが弱い作品でした。文章表現が軽くてイメージが沸き辛いので絵付きの漫画かアニメ向きかも。小説というより仕掛けを楽しむ作品という感想でした。
舞台は廃墟がそびえ立つ無人島。ここに廃墟番組撮影のスタッフ9名が訪れた所、次々と人が死ぬ事件が発生します。このシチュエーションは好物です。 そこにホラー要素として、事件の予言の動画の存在が加わります。これは5年後の未来から主人公の元へ、未来を変えるべく犯人を暴いてほしいという動画で、動画には全身怪我を負い記憶を失くしたミイラ男が映っており、その人物の不気味さがあります。 生き残ったミイラ男は誰なのか?犯人は誰なのか?などなど、面白そう!と思う要素は豊富なのですが、なんだろう、、、読んでいて惹き込まれませんでした。 真相の仕掛けも面白かったので、アイディアは良いのですが煮詰まっていない勿体なさを感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ゲーム『逆転裁判』のオリジナルストーリー。著者は討論が魅力のルヴォワールシリーズを手掛けた円居挽。小説を過去に読んだ事があるので、言い争う逆転裁判の小説化の担当としては面白そうな組み合わせだと思いました。ゲームは逆転裁判1~4をプレイ済み。『逆転検事シリーズ』はプレイしていません。
その上での感想としては、とても逆転裁判を再現していて文句なしです。読んでいて画やBGMが浮かびました。シナリオの進行の仕方、敵役の証拠の隠し方とその暴き方の展開、セリフ回しなど、逆転裁判が好きな人は納得の出来だと思います。キャラ物として面白かったです。 一方、逆転裁判を知らない人が、ミステリや小説単品として見るとどうか?と思うと、非常に厳しい作品かもしれません。法廷ミステリでもあるのですが、展開はゲーム的なノリそのままなので、シリーズが好きな人は楽しめ、知らない人は何だこのふざけている裁判は?となるかと思います。 大きな主軸となる謎はタイムマシンが存在するのかどうか? 密室内に被害者と共にいた被告人。タイムトラベルをしたとしか思えない状況の数々。この非現実的な内容を謎として捉えられるかどうかがポイントです。 原作はゲーム作品だから、霊媒やらタイムマシンの存在もアリなんじゃないかと思えてくるわけで、違和感なく楽しめたかどうかが評価に繋がると思います。 個人的にはミステリも然ることながら、ファンサービスが強い印象でした。懐かしいキャラクターが多く登場したのが楽しかったです。 何故、被害者は死の寸前、密室内に閉じこもり助けを呼ばなかったのか?この解法は本書ならではの理由で唸りました。 タイムマシンネタも、一般ミステリでは扱い辛いので、逆転裁判と結びつけたのはある意味巧いなと思います。 点数について。 ゲームだと相手の証言を崩すべき、おかしな所を試行錯誤して論破するのが楽しい魅力ですが、小説だと解答への一本道な為、おかしな証言はそのままおかしいまま読まされるだけなので、検察側の理不尽な証拠隠しが目立ち、なんだこのふざけた裁判は?という印象でした。文章は正に逆転裁判なのですが、小説の一本道だと違和感がありますね。同じ文章や雰囲気でもゲームと小説での印象は大分違う難しさを感じました。手放しで面白いと言えない難しさが残った感想です。シナリオそのまま、本書をゲームとしてプレイしてみたいと思いました。 |
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