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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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タイムループ×人格転移のミステリ。
設定や緻密な構造、真相の仕掛けはとても面白い。 が、読んでいて楽しかったのかというと辛かったのが本音です。 小説としては複雑な構成で新鮮なのかもしれないですが、これはアドベンチャーゲームですね。 プレイヤーが異なるキャラクターを操作して、それぞれの場面を見ながら真相に迫っていく。イヴリン嬢が殺されたらゲームオーバーでやり直し。もしくは誰かに自分が殺されるかもしれない。そういうアドベンチャーゲームを小説にした印象でした。 ゲームの『やりなおし×別キャラクター操作』を『タイムループ×人格転移』という売りにしてPRしている作品です。 本書の評価は割れそうです。 要素要素はとても面白いのです。ただそれを小説にした本書は複雑というより状況の表現が分り辛く、楽しむのではなく理解する事を強いられる為に読書が辛い。悪い意味で2度読み必須な内容でした。設定の構造で評価する人。読み物で評価する人。どこに注目するかで感想が分れそうです。好きなテーマだっただけに期待し過ぎたのかもしれません。ちょっと合わなかったです。 |
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著者初読み。
最初の見開き2ページで惹き込まれました。文章はめっちゃ好み。舞城王太郎を感じさせる文章の圧力がとてもいい。 女子高生の主人公が喋り続ける文圧が魅力のライトミステリ……ん。これミステリ?いや、ミステリっぽい展開で駆け抜ける良い意味で不特定ジャンルになる作品という感じ。 主人公が大大大好きな沙紀ちゃんは冒頭で首無し逆さ吊りで発見される。しかも密室。ミステリ好きな展開。首無しと言えば入れ替わり含めて被害者が誰だかわからない。そんな事を思わせた所で、いやいや~首がないからって大好きな友達間違えないっしょ。とバッサリな主人公。 ボケとツッコミで例えると、ボケがミステリ的な要素。ツッコミが現実的な考え。設定だけ書くと東野圭吾の『名探偵の掟』を思い出します。ただ、学園もので女子高生の百合っぽく明るい雰囲気かつ文圧感じる喋りで展開されるととっても新鮮で面白い。ひとまず、彼女を救う為に推理開始!ん。死んでるのに救う? ぶっ飛んだ展開と設定云々も然ることながら、ミステリを用いた女子高生の駆け抜ける喋りの文章が魅力的。 小説として楽しめた一冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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深水黎一郎作品は1作ごとに個性的なテーマを感じます。本作は『読者が犯人を決める』というもの。
事前にネット上で問題編を公開し、誰を犯人にしたいか投票を行った企画作品です。 誰が犯人かを読者が考えるのではなく、投票された人物を犯人にする為に作者はどのような物語を作るのか?という趣旨。 誰でも犯人にできるという事から本書は7つの解決編が収録されています。 一昔前なら多重解決ものと呼ばれる作品ですね。そこを読者参加型にする事で新しさを生み出しています。SNSが一般的になった今の世だからできた作品であり、その着眼が見事です。 講談社は昔から読者を巻き込む企画が多く、金田一少年の犯人当てや最近のメフィスト賞なら木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』でもWEB投票をしています。読者に犯人を決めてもらうという応募企画と作品の実現は版元と著者が見事にマッチした結果だと感じました。 一方この企画に参加していない人。本書単体で楽しむ人にとっては、誰でも犯人になる事からミステリにおける推理や驚きを楽しみ辛い作品となります。一番のネックは、各解決編はご都合主義が多く、ルールに沿った上で何でもアリだと感じてしまう所。指定の人物を犯人する物語を書けばよいので追加設定が多いのが敬遠されそうです。またバカミスのように笑って誤魔化せるような軽い雰囲気で描かれるので好みが分れる事でしょう。 プラス面でみれば、各解決方法は人物の性格が様変わりしミステリの趣旨も変化するのが凄まじい。よく考えられており、かつ作り上げる技巧の凄さが味わえます。先程、追加設定が多いのが気になると書きましたが個人的にはアリです。 過去作の多重解決もの『ミステリー・アリーナ』の作者側の視点に読者を立たせた作品であるとも感じます。著者は過去作でもクラシックのオペラにおける解釈の多様性を述べていることから、1つの物語の中にいろんな可能性を生み出す事に一貫していると思います。これはとても好みです。 という感じで、本書はミステリを読み慣れた人向き。さらに著者の過去作品に触れている程楽しめる作品です。 初めて触れる方でも、どの結末が自分の好みであるかで好きな作品傾向が分る性格判断テストになっているのが面白いと思います。自分は開陽界の意外な流れや玉衡界の〇〇ものになる流れが好きでした。今回選択肢がなかったですが個人的には建物が犯人みたいなトンデモ話が好きなので、自分が想像していない所から答えがくる刺激がやはりミステリの面白さだと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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日本の90年代の本格ミステリを彷彿させる作品。学園&青春ミステリ。
事件は雪の降る校舎での足跡なき殺人です。 華文ミステリと言えど雰囲気は日本の学園ミステリを読んでいる感覚でした。 足跡問題や雪密室など日本のミステリでは近年見なくなりましたが、中国から新本格のリニューアルな感覚で刊行される世の流れは面白いです。本書はハヤカワポケットミステリでの出版ですが、いつものポケミスの表紙と雰囲気が違います。日本の青春もの・ライト層の出版物な印象。雪を扱うミステリは古いかなと思われる所、この表紙のおかげで美しい雪の情景をイメージさせるプラスの効果を感じました。 本書の難点を述べると登場人物の名前です。人物名:馮露葵、 顧千千、 姚漱寒……。 海外ミステリのカタカナ名以上に見慣れない漢字名なので読めません。 おそらく版元もこの難点は感じており細かな対策が見られます。本書付属のしおりには登場人物一覧を記載。章ごとに人物名が現れる時はルビを再掲載させる。という具合。 ただそれでも読書中に都度名前を確認するのは集中力が途切れますし、もうこの人は男なのか女なのかもわからず、何となく全員女性キャラとして読んでいました。女の子同士がキャッキャする百合な雰囲気も感じるのでそれで問題ないかなと。 他の著者との比較で恐縮ですが、同じ華文ミステリで好きな作家の陳浩基の作品の登場人物は混乱しないのです。何でだろうと思って見直すと、名前をカタカナにしたり場面に登場するキャラが少ない為、把握しやすくなっていました。 もし今後も作品が出版される場合、人物がもっと把握しやすくなれば良いなと思います。本格ミステリと登場人物達や場の雰囲気はとても好みなので。ただこれは個人の問題であり中国名に慣れればよいか。。。そんな事を思いました。 |
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作品自体はとても圧倒的。超骨太の濃い作品でした。
終戦間際の戦争小説において、舞台が北海道であるあまり経験した事がない作品。 この本のおかげで、北海道でのアイヌや朝鮮との関係、民族問題や差別、特高警察といった知識を得る事ができました。ミステリを読んで新たな知識を得られるのはとても嬉しいです。 一方、点数について。 好みの問題なのですが、本書は社会・歴史の教科書を読んでいる気分でした。 密度も濃い作品な為、1文1文がとても大事。なので物語を楽しむ前に、内容を把握する事に集中しなければいけない読書でした。人物や場所や状況、時代背景など頭の中で構築していかないと物語に置いてけぼりになる為、読むのが辛かったです。なのでこの点数で。 それにしても著者の作品のクオリティはどれも高い。 好みはあれど、どの作品も緻密な情報と作品への昇華に圧倒されます。改めて思いました。 |
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異世界転生×本格ミステリ。
これは好みの作品でした。☆8+1(好み補正) 剣と魔法の世界へ転生した元警察官の主人公。平民出身ではあるが、前世の知識を活用し貴族が集う名門校に入り優秀な成績を収めます。その後、王妃や姫も出席する表彰式の祝典にて密室による不可能犯罪が発生。警察や捜査体制がない世界、そして魔法が存在する世界において、合理的な解釈と推理によって事件を解決できるか。という流れ。 本書には「読者への挑戦」が存在します。 これは著者がフェアなミステリを心がけている事を感じます。 本書の世界において、魔法とはどのような存在なのか。仕組みやできる事できない事が丁寧に書かれている為、ファンタジー作品ではありますが突飛さはなく世界観に馴染めました。 前半の異世界転生ものの定番である俺つえー物語から始まり、学園内での友達との生活は青春ものとしても面白い。圧倒的な貴族の主人公属性のレオや、いじめっ子なんだけど憎めなくなるボブ、ヒロイン的なキリオ。魔術師の校長先生のマーリンなど。キャラクターがとても分かりやすく良いキャラなのが読んでいて気持ちよい。頭の中ではハリーポッター補正していましたが、そんな雰囲気。異世界転生小説の軽いラノベではなく、ハリポタのような雰囲気の学園ものとして楽しめました。表紙をみれば心構えを感じますね。中身は結構硬派です。それでいて文章が読みやすいのも〇。他、名探偵の名前が"ゲラルト"なのが、ウィッチャーっぽくてクスっときました。 ファンタジーの世界でミステリという作品は他にもあります。が、本書の良い所は魔法や異世界転生の設定がミステリに密接に関わり必然的である事です。主人公の状況や物語を含めて、雰囲気だけではない世界観の構築が素晴らしかったです。異世界においての名探偵の存在理由やゲラルトが行う推理についても楽しめました。後半でヴァンが名探偵を模す心情が見事。名探偵とは何かというテーマも楽しめます。 続編があれば続けて読みたいシリーズですね。本作にて誕生~学園編は大分やり切ってしまった感じがする所ですが、タイトルに『異世界の名探偵"1"』とあるので2作目も検討中なのでしょう。どのような続編がでるのか楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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館ものの本格ミステリ。
落雷により山火事が発生し、館へ火の手が迫るタイムリミット模様。さらにカラクリ仕掛けの館、殺人鬼の存在、名探偵の対決、山火事に囲まれるクローズドサークルetc...と、ミステリのガジェット豊富でワクワクな設定でした。 ただ、本書のテーマは犯人当てやトリックというミステリではなくて、「名探偵の存在意義」に趣が置かれていると感じました。もちろん推理模様もありミステリを十分に楽しめますが、変わった展開で話が進行します。 山火事による時間の制約がある中、生存と真実どちらを優先させて行動するか。なかなか面白いテーマでした。 ちょっと思う所として名探偵の葛城とワトソン役の田所君。エラリークイーンみたいに悩みや葛藤を描きたいのか、作品内で成長する青春模様な結果からなのか、完璧そうで弱く、弱そうで強くなるなど、キャラがぶれぶれなのが気になりました。圧倒的な名探偵なら気持ちが良いのですが、凄い所と弱い所で相殺された普通の高校生でモブ化の印象。敗北や負け惜しみにも見える弱さ。それを狙っているのかもしれませんが、名探偵をテーマと感じる本書において、終盤この二人の魅力が減衰していく感じは後味が悪かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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館もの+数学のミステリ。堂シリーズ3作目。
五感を表現したという五角形の五覚堂。そこで起きた密室殺人。 冒頭で示される館の機構は、「館は動き」そして「回転する」という事。講談社から出版される館もの作品の傾向として、3作目は動く事が多いのでそれに沿ったテーマだと感じます。この奇妙な館と壮大な仕掛けが本作の面白さです。そしてそこに数学を絡めたミステリとしてとてもワクワクします。前作までの評判で苦手とされていた数学話も今作ではエッシャーやフラクタルと言った専門科目ではなく高校・大学辺りで触れるものなので大変読みやすくなっています。個人的にはどちらも好きな話だったので本作は苦なく楽しめました。 惜しい点としては、トリックや犯人特定の消去法について、とても凝った仕掛けを行っているのですが、伏線がないというか唐突に明かされる為に衝撃度が弱く、読者の記憶に残る名作になりそうでなり辛い勿体なさを感じます。仕掛けだけみたら島田荘司の御手洗潔シリーズみたいな大仕掛けで同じ傾向なのに名作にならない。本書の十和田も御手洗潔も変人なのに魅力度が違う。この感覚は何だろうと思う次第。キャラの心の問題だろうか。十和田は数学でドライな感じで近づきがたいからかな。そんな事を思いました。 とはいえ、減点的な考えでは色々気になる事が多い本シリーズですが、加点的に考えればミステリの面白さや魅力が豊富に盛り込まれていて大変好物。続きも読んでいきます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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全人類が記憶障害になり、長期記憶が出来ない世界になった話。
非常に面白かったです。あまり経験のない新しい読書体験でした。 序盤は斬新な災害もの小説としての混乱が描かれます。 突然記憶が保てなくなる世界。何かおかしいと感じても、その感覚すら忘れてしまう。また、全人類が同時に記憶障害になると、そのおかしさを指摘できる者もいなくなる。災害小説としての斬新な発想と、そうなった世界では何が起きるかのシミュレーションとしてのリアルさを感じました。 中盤からは記憶が保てなくなった世界。長期記憶を補う為に、脳と外部記憶メモリを繋げた未来が描かれます。人間の記憶が外部メモリ化された世界では、どのような問題が発生するのか。また違法な犯罪が行われるのか。短編集のようにいくつかのパターンの物語が描かれます。これらも総じて面白い。個人的には、SFやミステリというより人間の心は何処にあるのか?という哲学を感じました。肉体と記憶が分離できる場合、人の死とは何なのか、肉体が滅んだ時?記憶メモリが破壊された時?と言った具合に考えさせられます。 著者の本は少し読み辛く苦手なイメージがあったのですが、本書は扱うテーマが難解ではあるものの設定や世界観が分りやすいので読みやすかったです。 |
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元々は東日本大震災を対象としたチャリティアンソロジーの為のショートショート。その話を元に長編化された作品。
その為、震災の被害の辛さ、大事な人を亡くした悲しみ、家族の絆と言ったテーマを根底に感じました。その点は非常に惹き込まれます。 本書パラレルワールドの面白い特徴は、異なる世界を同時に観測し行動できる人物がいる点です。世界にずれがあれば、ずれを同時に見聞きできてしまう。一人の人物が二人重なって見える状態です。 震災により父を亡くした世界。母を亡くした世界。その両方の世界に存在する息子。息子を介して父は別の世界の母と会話できる状態です。この設定は震災で突然亡くした大事な人へ伝えられなかった後悔や、亡くした人は別のどこかで幸せになって欲しいという希望や救済を感じられる内容だと感じました。 本書は二部構成。 第一部が上記震災と家族の話。第二部からは様変わりします。 長編化にあたり、小説として起承転結を構成する為に作られたと思われる第二部の事件については、著者の持ち味の時間SFを活かした内容でした。異なる世界と言わず、亡くした人との会話なら幽霊小説でも良いわけです。そうではなくパラレルワールドが意味のある内容となっているのは面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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敬老の日を切っ掛けに老人が主人公の話を読書。
表紙の第一印象から、重く華がなさそうな硬派な話かと思いましたが、読んでみたらユーモアあふれるテンポの良い話でした。 まず話のストーリーがわかりやすいのが良かったです。 87歳の爺さんが戦友の見舞いに行った所、臨終の言葉として宿敵の相手が生きている事。そして財宝を持っている事が伝えられます。目的がハッキリしていて宿敵と宝探しです。この目的の話の中に不可解な殺人事件が発生する流れ。 本書の面白い所は主人公のバック・シャッツの爺様。皮肉や老人ネタをふんだんに盛り込んだセリフ回しが痛快。老人設定うんぬんではなく、文章が面白いので小説として意味のある所が魅力でした。キャラクターや主人公の人生物語を十分に堪能できましたね。 ミステリ的な点。特に殺人事件については心残り。理詰めでこちらから解決を見出すというより、事件に巻き込まれて、うまく乗り越えて解決してしまう。犯人は誰なんだろう?という分らなさは良かったのですが、犯人は何でそんなに目立つ事しているの?という行動が現実的にしっくりこなかったです。もうちょっと犯行の説明や犯人を割り出す面白さが欲しかった所です。 とはいえ、総じて面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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凄い傑作でした。
帯コピーは『すべてが、伏線』の強気な一文のみ。発売したてなのにネットで絶賛ばかりの評判。実は宣伝活動やステマを懸念していました。でもここまでされると気になります。 美麗な表紙に惹かれて購入。きっと版元も自信あるのでしょう。という気持ち。 結果、疑念も払拭される超絶面白い本格ミステリでした。 予備知識が無い方が楽しめるので、軽い感想を。 著者の本はマツリカシリーズを読んだ程度ですが、その感覚と大分違い、重い雰囲気の真剣な本格路線です。そこへ男性が好みそうな女性キャラ城塚翡翠が登場しライトな雰囲気を加えます。キャラも推理も読んでいて楽しい。文章もとても読みやすく、何故か苦手意識が芽生えていた著者作品への印象を改めました。 とはいえ、所々に現れる制服やふとももetc...著者らしさもバッチリ。特に何かは読書前に印象を与えてしまうので述べませんが、読後に思う事は著者の今までの要素の集大成で構築されたミステリです。 本書単体作品なので、初めて著者の本に触れる方も大丈夫。 近年珍しくなったコテコテの本格ミステリが楽しめます。本格好きならおすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイトルに名推理とありますがミステリ成分はほんのわずか。少女漫画のような青春恋愛小説です。
世界一のパティシエを目指すイケメン王子。学校では女性に冷たい態度。そんな彼にたまたまケーキ屋で出会った女子高生の未羽。彼女はケーキ大好きっ子。ケーキの事なら良い所も悪い所も熱く語れる。そんな二人の出会いとストーリー。 ちょっとした謎や疑問でも、王子が解いて語ればキラキラと鮮やかで頭良く見えます。乙女からは名探偵に見えるわけですね。タイトルの印象はその感覚でした。特段ロジカルな推理というわけでもないのでミステリを求める方には物足りないです。 一方、青春ものとしてはとても面白い。あらすじや設定はベタに感じますが、読書中の雰囲気がとても気持ちよい。デザート話で甘い。王子と未羽の青春模様も甘い。甘々な話ですけど悪くなく楽しい。話の起伏でピンチな状況もある。例えば学校一のイケメン王子と仲良くすればファンの女子からは嫉妬を買い陰湿なイジメになりかねない。そんな状況を読者の嫌になりすぎない絶妙な分量と感覚で描かれ解決する。これは悪い状況の描き方が巧い。読者は甘いだけでなくピンチや解決も体験してより良い気分になるというわけ。読後感も良かったです。 王子と未羽、二人ともキャラクターが良くて読んでいて楽しい。そのうちドラマ化しそうだと思いました。 |
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1作目読書後、文庫化待ちしたまま手に取る機会を失っていました。今年シリーズが完結したとの事で読書。
改めて本格の雰囲気はいいですね。奇人変人、探偵、奇妙な館が舞台、そしてその中で起きる事件。好物です。 本書の難点としては衒学的に数学の話が多く語られている事です。 個人的には数学好きなのでそこも楽しめて美味しい限りですがやはり分量が多い。これは文庫あとがきの著者コメントで自身も気にしている事が書かれています。文庫化にあたって削ろうか迷ったが、本書は数学者の物語である為に残したそうです。確かにまったく無くなってしまっては読みやすそうだけど個性がなくなりそうです。さらにコメントでは多少数学の話は読み飛ばしても物語の大勢に影響はないと書いてあるので、数学の長話の点で敬遠していたら気にせずミステリ部分を楽しみましょう。 ミステリとしては新しい大仕掛け……みたいなのはなく、どこかで見たような話なので物足りなく感じるのが前作と同じ心境。ミステリの雰囲気や舞台の感覚は好きなので今後のシリーズの展開でどうなるのか期待。 |
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探偵AIシリーズ2作目。1作目はとても好みだったのですが今回は相性が悪かったです。
1作目は短編集でAIネタとミステリを短編でサクッと楽しめ、かつ初登場のAI相以ちゃんの誕生と成長が楽しめる作品でした。 本作は前作を把握している前提での長編作品となります。その為、前作と読書間隔が空いていると登場人物達の相関図が把握し辛かったです。(これは個人の問題。)ただ相性が悪かったのはそれだけでなく、本作はシリーズ作品というより、いつもの著者の作品にAI要素というか調べたITネタを足した感覚が強い為であると感じます。過去に著者作品で相性が悪かった『RPGスクール』と同じ感覚でして、作品の中だけで盛り上がっていて、状況や情景がよく分からず、読んでいて楽しめませんでした。後半はAIネタが活用されますが、そこ至るまでは舞台設定やキャラクターの説明が多く、たまにITネタを挟む。という流れでシリーズでの必要性がわかりませんでした。AIの相以や以相の話が読みたいのに、登場人物の警察官僚達や右龍家の物語をずっと読まされた印象が強く、求めている物が違った作品でした。 |
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専門的な医療知識を活用した謎でありながら、雰囲気はライトかつキャラクターものとしてサクッと楽しめる医療ミステリ。医療モノの重い雰囲気はありません。シリーズ化しやすいですし、著者の読みやすい文章も後押して、これは人気出るだろうなと感じました。
個人的に思う所として、1話目の天久鷹央の印象から超人的で完璧な名探偵像を得て神格化していましたが、3話目『不可視の胎児』にて、完璧ではない一面が見えてしまったのはちょっと残念でした。ある意味人間的ですが医者かつ名探偵の立ち位置なら完璧な人にしておいて欲しかったです。4話目の『オーダーメイドの毒薬』は本書全体を通して綺麗に決まった作品でした。大きな驚きや刺激が得づらいのが物足りないですが、読みやすさとライトに楽しめる医療ものとして今後も期待な作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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作者のおちゃめな毒が緩和されており従来ファンは少し寂しい気もしますが、良い意味では大衆向けな優しいテイストで読後感も良い作品。
著者ファンなので過去作が頭によぎりながらの読書。 中盤まで読んで感じたのは、これって作者同じ?という気がかり。なんというか味が薄い。野﨑まど作品ってもっと尖がっているというか惹き付けて虜にさせる中毒があった気がしましたが、本作はなんかよくあるラノベ。いや、よくあると言ってしまいましたが、面白くないわけではない。でも"野﨑まど"の作品として期待すると違う気がする。そんな作品。 映画になる作品ですが、"野﨑まど"の原作を映画化するのではなく、映画化した話を"野﨑まど"が小説化した手順でしょうか。きっと後者で一般向けの為に成分が薄まった気がします。 さて、タイトルの『HELLO WORLD』。プログラム業界では新しい言語を習得する時に、最初に実行して動作確認するワードです。新しい世界へようこそ。本作は過去作の『know』に近しいSF世界を舞台とした青春恋愛小説です。映画原作という視点でみると、近年の『君の名は。』に近しい年代の青春恋愛物語にもう少し濃いSF要素を入れて別系統にした作品作りを感じました。また、野﨑まど作品と言えば終盤にひっくり返るどんでん返しのサプライズ。作品によっては裏目にでる程、雰囲気を変えて賛否両論を巻き起こす為どんな結末か不安を感じましたが、本作はいい具合のプラスなサプライズでした。要素としては恋愛要素に比重があります。映像映えしそうなシーンも多く改めて映画原作かつティーンエイジャーに好まれると思いました。 ヒロインは著者らしい女性キャラだなとか、狐面とか神の手とか、過去作を感じる所もあり、なんだかんだで楽しく読みました。本作から著者作品に入り気に入った方は、SF寄りなら『know』、青春寄りなら『[映]アムリタ』へと繋げていくと著者作品をより楽しめます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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内容は観覧車に閉じ込められた人達の群像劇。
観覧車をジャックして人質を取った犯人。ママの誕生日旅行で来ていた家族。伝説のスリ師の爺。etc... 籠に閉じ込められた面々の状況が切り替わりながら話が進みます。 タイトルや表紙から、誘拐ものの緊張する堅苦しい雰囲気、またはホラーを連想していましたが中身はコミカルでライトな傾向でした。知名度がある作品で例えると、恩田陸『ドミノ』やゲームの『428』の雰囲気に近いです。重くなく気軽に楽しめます。 群像劇作品の舞台は街の中やホテル等の大型施設にて交わる事が多いのですが、本作品は個々が観覧車の籠に閉じ込められており、交わり辛い状況です。どう話が交差するのか予測がつかない珍しいシチュエーションでした。 どういう話に転ぶかは読んでからのお楽しみ。 総じて面白く、最初と読後の印象の違い、ストーリー展開や繋げ方、分かりやすいキャラクター達、そして読みやすさ。と、ストレスなく楽しめて面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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アマチュア作家サークル内での事件。娘に、もう少し外に出た方がよいよと促されて訪れたサークルで事件に巻き込まれてしまった主人公のボブ。サークル面々とまだ深い関係がないのをいいことに、客観的立場で事件の相談を受ける事になる。
主人公と読者の視点が合っており、怪しい容疑者達との関りが面白い。著者の作品に出てくる登場人物は個性とユーモアがあるので殺人事件であれど雰囲気が重くならないのが好みです。 ミステリとしては犯人当てになります。どことなく古典作品を思わせる展開であり、少し言葉が悪いですが古い印象。大きな展開があるわけではないですが、丁寧な古き良きミステリといった印象でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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孤島のクローズド・サークル。児童養護施設内で起こる連続殺人事件。
犯人視点の倒叙ミステリでもある。いざターゲットを狙い部屋に忍び込むと既に何者かによって殺されていたというシチュエーション。自分以外にも殺人を犯すものがいる。 登場人物は胡散臭い面々。暴力団の子供、2重人格の子、探偵気取りの子供、などなど。館の見取り図まであって本格ミステリの雰囲気はバッチリでした。 80年代後半の新本格ミステリネタが豊富に盛り込まれています。初見なら大層びっくりするネタもある事でしょう。著者の本格好き健在です。ここでこのネタが来るとは思いませんでした。ただ新本格好きの既読者はこれが既視感と感じるかも知れない為、そこは好みの別れどころかと思います。うまく隠蔽していた為、巧さに感動です。 好みについて。児童養護施設内が舞台な為、登場人物達は小中高生です。殺人犯・殺人鬼と呼ばれる為の恐ろしさ、場の恐怖が感じられなかったのが残念でした。2重人格のキャラ含め、少しコミカルというか非現実的です。孤島のクローズド・サークルもので猟奇連続殺人ならもっと恐怖や緊迫感を感じたかった次第。著者の作品をいくつか読んできましたが恐怖や緊張・焦りなどの感情に響くようなものってまだないかも。版元違いで"殺人鬼"というタイトルなので、そういう雰囲気を期待してしまったのかもしれません。面白かったのですが、少し軽かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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