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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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第75回日本推理作家協会賞の『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』を含む短編集。
『アリバイ崩し承りますシリーズ』の2作目ですが、本作から読んでも問題ありません。前作同様に物語は"容疑者が特定できているがアリバイがある為に逮捕できない謎"を探偵役に相談するというアリバイ×安楽椅子探偵の短編集です。 個人的に著者の作品は物語よりもパズル的な謎解きに主立った印象を持っているのですが、本作も変わらずその傾向でした。大きく何か心に響く内容がないのが正直な所。その為、謎解きの問題が面白いかどうかが決め手となる次第。本短編集には5作品の短編があります。その中では推理作家協会賞を受賞した『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』と『時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ』の2作品が楽しめました。 『時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ』は500人が参加するパーティで目撃情報がある中でのアリバイもの。 『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』は2か所離れた所で起きた事件の容疑者がどちらも同じ。両方の犯人である事はありえないのだが。という変化球的な謎です。 どちらも謎解きのミステリとして楽しめました。 アリバイ崩しのミステリなので似たような仕掛けに感じるのが物足りなさを感じましたが、『二律背反のアリバイ』の方は一歩秀でて巧い仕掛けがあり受賞に納得の短編作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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第75回日本推理作家協会賞の『スケーターズ・ワルツ』を含む短編集。
短編集とはいえバラバラの内容ではなく、タイトル"五つの季節"が示す通り、主人公の高校時代、大学時代、社会人という具合でその時々での謎の物語を描いた作品です。ミステリとして派手さがあるものではないのですが、成長していく中での主人公の心情や人との接し方、探偵として謎を解く苦悩などが味わい深く描かれており印象的でした。受賞作品である『スケーターズ・ワルツ』も然ることながら個人的には『解錠の音が』がかなりお気に入り。 『解錠の音が』は防犯に絡めたミステリであり現実的な犯行の手口を物語にした作品。ミステリに興味がない一般読者もこの物語は防犯の意味で一読した方がよいような日常の謎が一品でした。他の作品も総じて面白かったです。 |
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メフィスト賞受賞作。コンビニを舞台としたミステリ。
先に2作目の『謎を買うならコンビニで』を読んでからの読書でした。その感覚だと2作目は大分読み易く物語も把握しやすくなっていたという印象でして、1作目の本書は物語が"複雑"という表現ではなく"粗削り"で書きたい事が雑然している印象でした。ただ良い所は沢山あり、本書はコンビニを舞台としてコンビニで働く者を主題とした本書ならではの個性的な作品で好感です。 著者自身が高校生からずっとコンビニ店員である実体験が活かされております。店員からの視点、バイト仲間、お客さん、起こり得る事件の範囲、レジやらお金の扱いなど、これらを活用したミステリであるのは面白く読めました。ただちょっと把握し辛いのは難かもしれません。 個人的にはミステリよりもコンビニ店員である事の感情の描き方が印象的でした。著者の想いが噴出しているのかもしれませんが、社会との距離、フリーター&バイトである事の後ろめたさと言った負の感情がリアルに感じました。いわゆる青春小説として同じ年代の仲間との交流や恋愛などの物語を学園で行わず、バイト先のコンビニを舞台で描いている様は、学園や社会人を遠い存在の憧れ(?)の様な距離で一線が引かれており、でも体験したい、自分もそうなりたいという感情によって本書の物語が生み出されているように感じました。 ネタバレではなく関係ない要素なのでここで書きますが、6章辺りの人を信じられない主人公の疑心暗鬼の様子も中二病やこじらせ系と言えばそれまでですが、でもそんな単純な言葉ではおさまらず、表向きでは他人との距離感を放ち、でも内面では仲間を信じたい気持ちもあるという反発する感情が描かれていたのが印象的。ミステリよりこの感情を溢す様が強く心に残る作品でした。 |
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やり直しがきかない裁判とタイムリープを組み合わせた異色作。
"タイムリープ"を扱う作品の印象から軽めの法廷作品かと思って手に取ったのですが、中身はどっぷりと法律を扱う社会派小説でした。 予想と違う本でしたが読み辛さはなく、日常で馴染みのない法律について確かな知識を物語を通して学べて為になったというのが読後にまず思った感想です。 有罪判決のあとに冤罪の可能性がでてもやりなおす事ができない日本の法。裁判官という仕事の特性。普段馴染みのない法曹の話がリアルに描かれており楽しめました。事件内容や捜査模様、推理の流れといった小説の展開がミステリとも警察小説とも違ってリアルな法律にそっているのが特徴的。これは著者の持ち味だと感じます。 著者のデビュー作『法廷遊戯』より読み易く楽しめたのが好感。中身の法律を主軸にした話展開は同じなのですが、登場する人物の心情が多く描かれているので法律知識だけではなく物語としてちゃんと楽しめました。 "タイムリープ"という言葉に目が行きますが、読んだ感覚としてはアドベンチャーゲームでした。 1つの物語を違う選択肢から眺めて手がかりとなる情報を得て最後にトゥルーエンドへ向かう。ゲーム系と違うのは中身がリアルな法律と事件を扱う事。小説の構造はライトで事件内容が重い。これは悪い印象ではなく、今後もこうした形で難しいと感じる法律のイメージを物語を通して払拭し学べるならいいなと思いました。 |
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これは傑作でした。☆8(+1好み補正)
SNS、特にTwitterで話題になっている本書。9月発売後の一か月間での口コミの広がりが凄く評判も良い。 正直購入予定はなく特に意識をしていなかった本書だったのですが、ネタバレを受ける前に話題に釣られて購入した次第。結果は大満足でした。 物語はクローズド・サークルを舞台としたミステリ……というよりサバイバルもの。 災害で地下に閉じ込められた男女数名。浸水により水没までのタイムリミット。 一人を犠牲にすれば脱出できる。そんな状況で殺人が……という流れ。 本書の傑作足らしめる点が終盤における小説としての終わり方だと感じます。 物語の終わりとなる締め方や演出が完璧でした。その為素晴らしい衝撃と余韻が味わえます。 一発ネタにかけるような作品ではなく物語の構成や演出といった小説づくりの技術的作品であり、結果が最高な形で締めくくられていると思う次第。話題になるのも納得の作品です。 詳細はネタバレ側に書くとして、本書の内容は分かりやすくもあるのでミステリ初心者からおすすめの作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本格ミステリ作家を集めた館を舞台にした雪の山荘クローズド・サークル作品。
本書は久々のシリーズもの以外での長編作品。シリーズ固有の設定に縛られずに、自由に好きなミステリを書いたと感じる要素満載で良かったです。 特に登場人物達によるミステリを描く考え方が楽しく読めました。 例えば日向寺というキャラ。濫造な作品を量産しているが結果として読者が好み、売れて、出版社の売り上げに繋がるというのは商品として大事な要素。横暴な態度なキャラですが締め切りがあるので執筆の為部屋に戻るなど真面目な一面も印象的。 対象には黒巻というキャラ。偽本格ミステリを許せず本物をもとめ分厚い本を描き、誰が買うんだと言われてしまう。これらは商品と作品の考え方の違いで物作りにおいて見られる意見の違い。などなど今の時代で本格ミステリを描く事の意味などを述べているのが面白い。 密室、見立て、館もの、etc...ミステリ要素が満載なので、ミステリ初心者にとって本書は贅沢に感じる作品。一方読み慣れている方には定番を行う事による毒気も楽しめる作品。あえてやる事の意味やテーマを感じる面白さがありました。 著者の作品を多く読んでいる程、ニヤリとする場面が多いと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは面白かったです。
2022年度の江戸川乱歩賞受賞作品。 地球に小惑星が衝突し滅びる定めとなった終末もの。主人公はそんな世界の中で自動車教習所に通い運転を学んでいる。という始まり。 世界崩壊を舞台になんで教習所?というチグハグさがまず印象的でした。 江戸川乱歩賞は昨年『老虎残夢』の特殊設定ミステリが受賞した事から、今年も特殊設定ミステリを採用しエンタメ系の流行に乗る変わり種かと思った次第です。 ですが先に伝えておきますと、中身は災害小説としての日常や社会的テーマも絡めた堅実な本格ミステリでした。 災害小説における死体が道端に転がっているなどの非現実的要素が日常化されており、生きる希望を失った者、最後まで生き抜こうとする人々のドラマを感じる物語。教習中の車に乗り不慣れな運転で街を移動する様はロードノベルのような味わいも感じられました。主人公は著者と同じ23歳の女性。社会に出たての者の不安や、弟の面倒を見る姉としてしっかりしなくてはいけない気張った心境など主人公の等身大が描かれているのが印象的でした。 総じて文章が大変読み易く情景が浮かびやすいのでドラマや映画を見ているような気分にも感じた次第です。 ミステリとしては大きなインパクトがある訳ではないのですが、作り方が巧いと感じる所が多くてそれでこうなっているのか~と印象に残る所がしばしばありました。 終末ものと自動車教習の組み合わせは最初不思議でしたが、読み終わってみれば納得。 結末&読後感も良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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凄く楽しい読書体験でした。傑作です。
SF海外翻訳で単行本上下巻。 発売当初から書店や出版系メディアで大盛り上がりだった本書。ただ手に取るのを躊躇っていました。 難しいかも……、翻訳合わないかも……、上下巻で費用もかかるし合わなかったら嫌だな。という事で見送っていました。が、世の中の読者やレビューが増えた近頃の評判もよい。そしてよくある感想が、予備知識無しでネタバレされる前に読んだ方が良いというアドバイス。 という事で手に取った次第。 結果は大満足! 雰囲気はユーモアある文章で状況に反して明るい読書で読み易い。 記憶喪失で目覚める所から始まり、読者と主人公の目線は同じ、何が起きているのか?から始まる。 そして科学的な謎と検証と行動を繰り返して一歩一歩進む展開が面白くて読書の止め時を見失い一気読みでした。 読書前に懸念していた事が杞憂に終わりました。 科学や物理といった理系の話が沢山でてきますが、とても分かりやすくイメージしやすい表現で描かれています。そしてSF小説のネタが贅沢に詰め込まれているので、SFに馴染みがない人程、新鮮な読書体験が得られると思いました。 おすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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コンビニエンスストアを舞台としたミステリ。
サクッと気軽に日常の謎でも読もうかなと手に取ったのですが、読んでみると謎やテーマがしっかりとした本格寄りのミステリでした。 物語はコンビニのトイレで起きた店員の不審死をアルバイトとして潜入調査をしていく流れ。 大筋の謎を置きつつ、アルバイトとして働く中で生まれた小規模の謎を短編集のように散りばめられているので飽きる事無く楽しめました。ミステリに用いられる謎の要素はコンビニ特有のもの。レジなどの設備。店員と客。クレーム問題など。コンビニの舞台裏が豊富に描かれており、テーマが一貫してコンビニに合わせているのが新鮮でした。 ミステリの中では変化球的な作品で、館もの・限られた登場人物のシチュエーションをコンビニ(見取り図付き)・店員と客で表現しているのが面白い。雰囲気はミステリの館内で推理しているのを感じます。それでいてちゃんと今いる場所はコンビニなんだと読者に再認識させる為に会話文で時折「いらっしゃいませ~」と入るのも巧いと思いました。 少し難点として感じた事は、文章力なのか説明不足なのか情景や展開が読みにくかったです。ミステリの謎やテーマ性、青春ミステリ模様、主人公の成長とラストの結末まで内容はとても面白い。コンビニに特化した物語を描く気持ちはとても感じるので、今後は惹きこまれる文章に期待。 表紙について。 コンビニ愛に溢れる作品ですが、主人公が行儀悪くレジ棚に座って足を載せているのはどうなのかなと思いました。作品内では店員の真面目な姿を描いたり、クレーム問題の社会的テーマを描いている中で、この表紙は"コンビニ探偵"の印象でキザっぽく描いてしまっていてミスマッチに感じました。 コンビニエンスストアの要素に特化させたミステリというのは新鮮で、不満点以上に面白さが勝りました。 シリーズものとして期待できる終わり方なので、続編希望です。 |
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特殊な能力を持った名探偵達が「聖遺物」をかけたゲームに参加するという話。
大きく分けて二部構成で、前半は名探偵達の紹介エピソード。後半があらすじにある物語。 個人的には前半がとても面白かったです。 超人的な名探偵達は、AIを駆使する者、思考速度が常人の数倍ある者、五感が優れている者。という具合に驚異の能力を用いて瞬時に事件を解決する者達。短編集の様な短いエピソードの中で、それぞれの名探偵達の活躍が読めるのは贅沢な作りで良かったです。 一番印象的なのは思考速度が速いボグダンというキャラ。思考速度が速いという事を文章で表現する為に括弧書きを駆使した文章となっており、この表現は小説らしさがあってよかったです。 後半についてはあらすじにある事件が起きるのですが、これだけ凄い名探偵達が集まっているにも関わらず、話や推理の進展が悪い為に超人感が薄れてしまったのが残念。超人たちを集めている状況がミステリに活用されているかというと必然的には感じませんでした。 なんとなく読んでいて感じたのは作者が好きで自由に描いた作品である事。悪い表現で恐縮ですが読者からするとちょっと読み辛いし、不必要なギャグパートや大阪弁のノリが作品の雰囲気を崩して身内ネタに走っている傾向を感じました。そういうのを気にせず、好きな事、好きな要素、思いついた文章をどんどん描いて楽しんでいるのを感じた次第です。 それぞれの名探偵は個性的なので、スピンオフ作品などで舞台を変えてまた皆に会えたら面白いだろうなと思いました。 |
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近未来警察小説。
警察小説によくある組織や立場の対立など描かれているのは前提とし、そこに近未来というフィクションを織り交ぜる事で、警察が雇う傭兵という新たな対立要素、搭乗兵器によるロボットアクションなどが新鮮に映った作品でした。 ハヤカワ・ミステリワールドに属する推理小説のシリーズに含まれる作品であったので、本書の設定ならではのミステリ的な仕掛けを期待してしまった所があり、そこは期待と違いました。推理小説というより新たな警察小説というニュアンスが正しく、その系統が好きな方はとても楽しめる作品です。 第一章の事件開始の導入はパニック感やスピード感があり抜群に面白かったです。中盤以降は雰囲気が変わり、人間模様、組織、事件の捜査、などがどっしりとした歩みで展開され、少し好みとは違いました。 シリーズを見越した作品であるので、本書単体だけですべてが丸く収まり解決するという事はありませんでした。各キャラクターの過去や組織の物語に謎を秘めたまま終わる為、悪い意味ではスッキリせず、良い意味では続巻が楽しみになる作りは好みの別れ所です。 個人的に重厚な作品で内容は好きなのですが、時間をかけて読み終わってもスッキリしない点が多いのは楽しかったよりも疲労を感じてしまい、続巻を手に取るのを躊躇してしまう気持ちが残りました。 |
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ミステリ・フロンティアに属する作品ですが、ミステリというよりファンタジーを用いた青春小説でした。
物語は社会人となった主人公が、駅のホームで高校時代の同級生の女性を目撃する所から始まります。 ただし違和感がある所は、その女性は高校生の姿のままである事。他人の空似、見た目が若い、姉妹、というわけではなく、言葉通り18歳の高校生のままという事。本作品はこの状況を現実的な解釈を用いるのではなく、こういう世界であるとファンタジーな事象を日常の1コマのように捉えているのが面白いです。 ミステリとして見るなら「何故彼女は18歳の高校生のまま変わらないのだろうか?」という謎を起点とした物語となります。 ただ読書して感じた事は、ミステリを描いたのではなく"年齢"に着目したテーマや想いが主要である事。年齢という呪縛。同世代や異なる世代のずれ、年齢と共に忘れてしまった思いなどを強く感じました。 印象的な一文は「年齢というものは、その人間の性格よりも、能力よりも、本質よりもずっと手前に陣取っている憎いやつだ。」というもの。社会人となった主人公の悩み同様に、年功序列、能力社会といった社会的なテーマを感じた一幕でした。 当時のままの同級生という設定からくる物語は、姿だけでなく高校生の頃の想いを思い出させます。大人へのあこがれや希望、やりたい事の夢、そういった光に対して現実の闇を対比させて考えさせるテーマ性を帯びている為、本作品を読む読者の年代によって響く所が異なるのではないかと感じました。 一昔前ならタイムトラベルもの作品で同様なテーマが描かれそうですが、今の時代に合わせた内容や不思議な世界の描き方は現代的な作品となっていました。この描き方は著者の持ち味で面白いなと思います。 |
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SNSを用いた現代的なミステリ。傑作でした。
誰かが自分になりすましたTwitterで殺人を投稿。特定班により実名、勤務先、自宅住所まで拡散されて冤罪被害を受けるという始まり。 本書は現代的な要素の使い方が大変巧い。社会要素としてはSNS被害。人間的な要素として世代間ギャップを巧く扱っています。20代、30代半ば、50代のセグメントを用いた、物事の考え方、仕事の取組み、ITリテラシー。それぞれの感性の繋ぎ方が物語を面白くさせていました。 インターネットを普段から使い、フェイクニュースもなんとなく嗅ぎ分けられると感じられる方は多いと思います。私も何となく直ぐには騙されないぞと裏取りをする手順がありますが、本書ではそういう方こそ騙されてしまうパターンの物語が存在する。という内容を題材にしているのが見事です。著者の物語の作り方に唸らされました。 身に覚えのない冤罪により、自宅が狙われたり犯人扱いされて襲撃される可能性など、世の中が敵となる不安と逃亡劇の物語が抜群に面白い。 そしてネットを用いた仕掛けと驚きの結末が見事。今の時代を表したミステリとして大変オススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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シリーズ1作目『ナキメサマ』がホラーとミステリの見事な融合だったので続けて読書。ただ2作目の本書は少し期待し過ぎてしまった気持ちです。
全身骨が砕かれる死体の発見という怪異を扱う物語。 前作同様に地方の村を舞台としたホラーは雰囲気抜群で大変好み。前作から共通キャラクターとして参加の怪異譚蒐集家の那々木悠志郎は良い味を出しています。「作家の私を知らないのか?」という登場シーンが最高に好みです。 物語の中盤まではワクワクで楽しかったです。ただ今回好みに合わなかったのは、前作のようなミステリ仕掛けを施そうとした為か謎に関する要素は都合の良い展開が多かった事。そして怪異の現象が非現実的過ぎてしまい、ホラー&ファンタジーに感じてしまった事でした。 ホラーの要素が前作のように必然ではなく、過剰な演出なだけに感じられて好みに合わなかったのが正直な気持ちです。特に主人公以外はちょっとね。。。という感覚。 3作目も購入済みなので次に期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ホラーとミステリの見事な融合。かなり好みの作品でした。
『横溝正史ミステリ&ホラー大賞・読者賞』の名にピッタリの作品です。 舞台は音信不通となってしまった知人の状況を探る為に訪れた村。 知人は23年に一度行われる『ナキメサマ』の儀式の巫女に選ばれた為、儀式開催の日までは誰とも会えないという事で、暫く村に滞在する事に。 滞在して間もなく異様な人影に遭遇したり、さらには無残な死体が発見されて……この村で何が起きているのか?という流れ。 田舎・集落を舞台にしたホラー作品ですが、よくあるホラーと違うのは怪異というものの存在の解釈です。 他作家を例に説明すると、三津田信三や京極夏彦の作品群ではそれが存在しているかどうかを曖昧にしたり、科学的、現実的に解明を試みたりします。本書の場合は現実には存在しない怪異というものが実在すると前提条件として決めており、その怪異はどんな特性なのか理論的に考えている様が新鮮でした。その為ホラー小説としての雰囲気や恐怖感を楽しみつつ、ミステリとしてのロジックや驚きまでも味わえる為、2度美味しく飽きさせない面白さでした。 賞の応募作なので出し惜しみせずやり切っている表現も好感。後半なんて正にそうで、ホラーとしての演出、後味、そしてそれがミステリとして機能させた着地など、物語の内容としては好みが分かれそうですが個人的には大好物でした。今後のシリーズ展開に期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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特殊な設定をきちんと活用した、斬新な本格ミステリを堪能できました。
あらすじにて予め提示されている通り、"異形の存在"による無慈悲な殺戮が発生する舞台での本格ミステリです。 読者の期待するシリーズの特性をちゃんと踏まえているのは好感。特殊な状況の面白さと、剣崎比留子と葉村譲の関係など期待する要素がちゃんと楽しめました。 ミステリとしてはとても面白かったのですが、難点としては内容の把握が困難でした。 1作目と反して人物が分り辛い。そして館が複雑な構造をしているので、誰が何処にいて今どんな状況なのかが分り辛い読書でした。登場人物一覧と館の見取り図を何度も見直しました。その為、没入感がとても薄れたのが残念でした。事件の状況やミステリ要素もかなり込み入っています。正直な気持ちとして、本書は推理したり登場人物と一緒に悩んだりドキドキしたりという感覚が生まれ辛く、監視カメラで話を傍観しているような読書感でした。何か複雑で大変な事をしているなという感覚で終わってしまった気分です。 誤解なく言うと、ちゃんと特殊な設定を用いたミステリとして素晴らしいです。ただ把握しながら読書できる人は多くはないだろうと感じた次第です。 映像で補完できる要素が多い為、もしかしたら映像化を狙った構成とも感じました。時期的に『ネメシスI』がドラマ化向けの描き方だったので、そのような文章になったのかもしれないかなと勝手に感じました。 ちょっと小言が多くなってしまいましたが、それだけ期待して楽しみなシリーズである事は変わらず。次回作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは凄く面白かった。☆8(+1好み補正)
純愛小説を用いたミステリとしてかなり巧妙な作品でした。 本書は下調べせず、予備知識は無い方がよいです。なので中身とは違う視点で感想を。 純愛小説を用いたミステリについて。 大きく2つに区分するなら、長期間における想いを描くもの(例:『秘密』『容疑者Xの献身』)と、まだ初々しい恋愛初心者を用いる作品(例:『イニシエーション・ラブ』)の想いや経験の長さで区分できます。 本書は後者寄り。 初々しさによる盲目がミステリとして活用されています。 この系統の作品はライトノベルで多く、ミステリ要素も弱めで印象に残り辛いのですが、本書はかなり刺激的でグサッと心に突き刺さるミステリでした。 『イニシエーション・ラブ』とは違う方向性なのですが、好きな方はこの作品も刺さるかと思います。負けず劣らず違うやり方で個人的に名作扱い。 後味の良し悪し含めて心に残る作品でした。 2017年の本ですが、もっと知名度があっても良さそうだし、ミステリのランキングに入っていないのは勿体ない。 内容については好みが分かれると思われるので万人向けではないのですが、恋愛ミステリが好きな方へはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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見立て殺人がメインの本格ミステリもの。クローズド・サークル、館もの、次々に殺される招待客、絵画に見立てられた殺人。といった具合で設定は抜群に面白い。ですが好みにそぐわない理由として、雰囲気や情景が浮かび辛く読んでいて面白くなかったからです。
ミステリの仕掛けや見立て殺人をテーマとした中で、犯人が見立て殺人ができないように環境を破壊してしまいましょうといった偏屈した展開は楽しめました。探偵役のシズカの発言や行動は、連続殺人は100%起きるという前提の元に行われており、物語の中の人物というより外側のメタ視点で本書を眺めていると感じます。本書の面白かった所はこの探偵役の思考と行動でして、他のミステリでは味わえない新鮮さを感じました。 読み終えてから、以前シリーズ2作目にあたる『首無館の殺人』を読んでいる事を思い出しました。 2作目は切断される首がテーマで、犯人が首を切ろうとするなら切れないように対策しましょうと言った展開がなされるので、本シリーズの探偵の特徴が1作目から構築されていると感じます。ロジカルに推理するのではなく、連続殺人が前提の中で犯人の行動を抑制していくスタイルです。 シリーズ他本も気になる所ですが、評判の理由が同じ傾向なので少し様子見かな。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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虚実混交による怪談ミステリ。
著者が小説新潮から怪談小説の執筆依頼を受けた所から物語が始まります。 新潮社がある神楽坂。そこから始まる怪談物語。 短編集の構造で、それぞれの短編は実際に2016年から『小説新潮』に掲載された短編たち。時系列や各人達の関り方が活用されており、現実と虚構を曖昧にしているのが面白い。 いつから企画構成が練られていたのかはわからないですが、実際の日常と共に怪奇に遭遇していく話の展開は面白く、巧い企画の作品だと思いました。 当時、著者のTwitterにて怪奇に悩む投稿があるなど演出が凝っています。 それぞれの物語は非現実的な怪談を扱ってはいるものの、起きている事象を論理的に解釈すると、怪奇とはいえどういった部類の怪奇現象なのかが導かれる為、その展開はミステリを感じました。謎と結末が怪談要素というのも良かったです。 これって本当の話?あの人やこの現象はどうなるの?といった一昔前のオカルト体験が楽しめます。ホラーにしてはサクサク読めるのも好感でした。 |
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