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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数745

全745件 141~160 8/38ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.605:

QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ

佐藤究

No.605: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

QJKJQの感想

2016年度の江戸川乱歩賞受賞作。
乱歩賞は新人の賞ではありますが、著者はペンネームを変えての再デビューなので他の乱歩賞のような初々しさはなく、個性的な作品でありかつ異質を放っている作品だと感じました。

猟奇殺人鬼の一家に生まれた主人公。自身も父も母も兄も殺人鬼。ある日部屋で兄の惨殺死体が発見され、しばらくすると消失する謎が発生する。殺人鬼として狙う加害者側から一変、主人公は被害者側となり、死体消失の謎によるミステリ模様が始まるする流れ。
本書を手に取る前のイメージは、猟奇殺人ものなのでドロドロなグロなものを想像していましたが、そういう気分にさせるのは序盤ぐらい。主人公の家族に何が起きたのか?という謎を追う流れで、本筋は"殺人"について、歴史、考察、哲学などの思考を巡らす物語。

なんとなく読んでいて、内容は違いますが夢野久作の『ドグラ・マグラ』を感じました。「ゴオォゥン――ゴオォゥン……」とか、現実の話なのか虚構や幻想の話なのかごちゃごちゃになるような展開。奇書と感じるのも分かります。

本書は個性的な作品。一つの物語として完成されています。
ただそれが好みかどうかは人それぞれでありまして、個人的にはあまり楽しめなかった作品でした。
QJKJQ (講談社文庫)
佐藤究QJKJQ についてのレビュー
No.604: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件の感想

シリーズ3作目。本作も面白かったです。
シリーズの特徴は怪異が存在する事を前提とし、何が、何故起きるのか?をミステリ模様で展開されるのが面白いシリーズ。
本作の怪異は『崩れ顔の女』という、顔を見たら失明し死に至る怪異。一般に有名な『口裂け女』に近いイメージを設定して読書が怪異を想像しやすくしている点がよく、非現実的なオカルトものなのに読み易かったのが好感です。

シリーズ3作目にして、共通キャラクターである那々木悠志郎の最初の事件が舞台。
シリーズものとして大事な過去編を扱った物語。作品の良し悪しでシリーズの今後が決まるとも言われそうな設定ですが、見事に面白い物語が描かれており個人的に満足でした。単純に過去の回想を描くのではなく、作中作を用いて描かれる過去は、作品内の読み手と読者がシンクロして徐々に怪異に飲まれつつ、また明かされていく展開。これはオカルトとミステリの見事な融合だと思いました。

シリーズものとして、怪異だけでなく登場人物の那々木悠志郎と他キャラクターの人物設定に深みが増しています。
過去エピソードで登場したあのキャラは今後の作品に登場するのかなと、そういう楽しみも増えました。

▼以下、ネタバレ感想
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忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件 (角川ホラー文庫)
No.603: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

真相は読者が考えて解く仕掛け本

『いけない2』が話題なので1作目を予備知識なしで手に取りました。
普通のミステリとは違う為、これは少しどういう本か予め知ったうえで手に取るとよいです。

ネタバレなしであらすじの範囲で説明しますと、各短編の最後の1ページに写真があり、その写真を見ると真相が推理できるという仕掛け本です。注意点としては写真を見れば全てが理解できてあっと驚くような快感が得られるわけではなく、あくまで【最後に推理のヒントが得られる】作り。最後の得られたヒントを元に、もう一度読み直しながらセリフや状況を分析して真相を自分で解き明かす構造です。ひと昔前のゲームブックを思い出しました。
個人的な難点は、最後にヒントが得られる構成の為に初読では叙述トリック作品のように何かが隠された物語の描き方で内容の把握が難しく、かつ読みづらく感じたのが本音です。

本書は自分で推理をしたい&問題を解きたいという人にオススメな本。
真相は分からずモヤモヤする人には不向きです。この点を踏まえて手に取ると良いでしょう。

物語の雰囲気は初期の頃の道尾秀介の作風で、ちょっと暗く嫌な気持ちにさせられました。真相がわかっても気持ちが晴れるわけではなく、むしろ気分はどんよりと沈むような気持です。

真相がわかないとモヤモヤする為、何度か本を読みなおしました。2章がスッキリしませんが最終章および1,3章はこういう話だなと理解できたような読後感です。個人的には手に取る気持ちの準備不足とタイミングが悪かったのもありますが、謎も物語もスッキリしない気持ちが少し好みに合わずでした。
著者作品をみると『いけない2』や『N』のような、本として意味がある事や読者を楽しませる仕掛けを考えた作品でしてとても好感でした。自分で謎を解きたくなったら『いけない2』を手に取って見ようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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いけない (文春文庫)
道尾秀介いけない についてのレビュー
No.602:
(7pt)

金色機械の感想

2014年度の日本推理作家協会賞受賞作品ということで手に取りました。読んでみた所、"推理作家協会賞"の推理ものとしてではなく"エンターテイメント"としての面白い物語としての受賞を感じました。
時代は江戸。金色様という謎の存在(ロボット)。相手の殺意が読める男。手で触るだけで殺せる女。不思議な設定が織りなす壮大な物語。

普段なじみがない小説でして、面白く読めたのですが何がどう面白いかが伝えづらく、異世界の物語に呑み込まれたという感覚でした。知らない世界を体験したような読書。
江戸時代にいるロボット、不思議な能力者達、そこに生きる者それぞれの物語が交差して繋がる様。派手さはなくて、なんとなく表紙の雰囲気にあるどんよりと灰色の物語。"金色機械"という文字も金にせず白文字なのが良い。物語中も金色様だけが何故か色を持ったような存在を感じました。

日本推理作家協会賞ということで、ミステリを期待すると違う作品。物語としては不思議な体験で面白かったです。
金色機械 (文春文庫)
恒川光太郎金色機械 についてのレビュー
No.601: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

invert II 覗き窓の死角の感想

シリーズ3作目。今回も面白かった。 ☆7(+1好み補正)
本シリーズは1作目から順番に読むことを推奨します。
本書は『生者の言伝』と『覗き窓の死角』の2編からなる中編集。どちらも倒叙ミステリです。

『生者の言伝』は倒叙ミステリドラマの古畑任三郎の一話目『死者からの伝言』のタイトルオマージュ。
犯行が行われた洋館に豪雨で立ち往生した翡翠と真が訪れるという始まり。この導入は古畑任三郎と合わせてありますが中身は別物。
倒叙の作風は行き当たりバッタリな犯人の慌てふためく様が楽しめるユーモアミステリ調。ユーモア&ドタバタのまま終わるかと思いきや、しっかり手がかりを得て推理して真相に到達する様が見事でした。明かされていない問題の癖の解答についてはネタバレで後述。

『覗き窓の死角』
「翡翠ちゃんかわいい」と言ってる場合じゃなく感じる程、城塚翡翠の内面を掘り下げた物語でした。
※これも次回以降に向けて読者をミスリードさせたキャラ作り……と言われたらショックですが(汗)
倒叙ミステリなので犯人は明確なのですが、どのような犯行だったのかは伏せられているのが面白い。提出されている手がかりを元にロジカルに推理した結果、犯行方法が明らかになるのが見事でした。倒叙ミステリというより本格的な倒叙推理小説であり、推理をする楽しさが堪能できました。

どちらもミステリとしての楽しさは然ることながら、キャラクターの良さ、翡翠と真のユーモアあるやり取りの緩急が面白く読んでいて楽しい読書でした。続編も楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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invert II 覗き窓の死角
相沢沙呼invert II 覗き窓の死角 についてのレビュー
No.600: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

#真相をお話ししますの感想

日本推理作家協会賞受賞の短編『#拡散希望』を含む短編集。
ネットやSNSなど、現代要素を活用したミステリでとても面白かったです。

短編集として5つの物語がありますが、個人的に全て面白く読めました。
人に薦める時の懸念点としては、真相がわかりやすくて結末が見えすぎる事です。人によっては驚きがなくて物足りないという感想になると思いますが、個人的には良い方向で感じてまして、現代的な内容を扱った本書はミステリ初心者や本をあまり読まない人にとても刺さる内容だと思いました。
タイトルに組み込まれているハッシュタグ然り、若者を対象としたSNSでバズリ易い本であるとも感じます。最近の若い読者はネタバレを許容する傾向があり、先に真相を知って安心してから物語を楽しむ層が一定数いる為、そういう層にも好まれる本という姿を感じました。

『惨者面談』『ヤリモク』『パンドラ』の3作品は結末が読めやすいのでそこにどう導くのかを楽しみました。
『三角奸計』はリモート会議をネタとしたミステリ。これは現代的な仕掛けで面白い。
『#拡散希望』は第74回日本推理作家協会賞の短編賞受賞作品であり、その名に恥じない見事な真相の短編でした。この仕掛けは過去の作品や映画にもありますが、現代要素が効いていて見事な伏線回収と個性を生み出した作品でした。

本書は良い意味で現代要素を取り入れたミステリとなりますが、悪い意味では賞味期限があります。
SNSやアプリやネットの状況が50年後には変わったものになるからです。ただでさえITの状況は1年で移り変わりが早い為、本書で使われている内容がすぐに古臭くなってしまう事でしょう。
未来における名作として名を残すのは難しいかもしれません。ただ、2020年代の今のネタを取り入れた短編ミステリとしては丁度良いですし、巧く考えられた作品集ですので早めに読書推奨な作品です。
#真相をお話しします (新潮文庫 ゆ 16-3)
結城真一郎#真相をお話しします についてのレビュー
No.599: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

猫は知っていた 仁木兄妹の事件簿の感想

新装版が出たので改めて読書。

1957年の江戸川乱歩賞受賞作。本作が最初の公募作品の受賞作となります。

日本の推理小説の歴史における転換期となった作品とも言われており、本書が世に出るまでの探偵小説は陰惨で暗い作風が多く読者が少数だったのが、本書の柔らかい文体と兄妹の探偵役を描く様が大衆にヒットして探偵小説のブームを築いたとされています。
ブームとなった背景には著者の境遇も少なからず影響していると感じます。それは幼い頃から病気で寝たきり状態、学校教育は受けられず兄から勉強を教わり外の世界を読書で身に着けた事です。最初は本名で児童文学を書きそれから本書の推理小説が生まれました。本書が生まれた時も寝たきり状態でしたが、本書のヒットにより手術が受けらえるようになり、さらに歩けるようになったというエピソードもあります。

この背景をここで書いたのは、知っていると本書の印象が変わったからです。
実は自分が大分昔に本書を読んでいるのですがあまり良い印象に残っていませんでした。著者の事を知り改めて再読すると、作品内の二木兄妹のモデルが著者自身であり優しく頼れる兄の存在や、病院が舞台、児童文学のような柔らかい文章、海外黄金期におけるエラリークイーンやアガサクリスティのような事件の謎とトリックと解明の仕方などなど、本書の見え方が大きく変わりました。
本書単体の物語だけ見るとさすがに70年前の作品なので文章やミステリの仕掛けに古さを感じてしまいますが、上記のような著者と日本の推理小説の背景を感じるという意味では外せない一読の価値がある作品でした。
猫は知っていた 新装版 (講談社文庫)
No.598:
(7pt)

時計屋探偵の冒険: アリバイ崩し承ります2の感想

第75回日本推理作家協会賞の『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』を含む短編集。

『アリバイ崩し承りますシリーズ』の2作目ですが、本作から読んでも問題ありません。前作同様に物語は"容疑者が特定できているがアリバイがある為に逮捕できない謎"を探偵役に相談するというアリバイ×安楽椅子探偵の短編集です。

個人的に著者の作品は物語よりもパズル的な謎解きに主立った印象を持っているのですが、本作も変わらずその傾向でした。大きく何か心に響く内容がないのが正直な所。その為、謎解きの問題が面白いかどうかが決め手となる次第。本短編集には5作品の短編があります。その中では推理作家協会賞を受賞した『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』と『時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ』の2作品が楽しめました。

『時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ』は500人が参加するパーティで目撃情報がある中でのアリバイもの。
『時計屋探偵と二律背反のアリバイ』は2か所離れた所で起きた事件の容疑者がどちらも同じ。両方の犯人である事はありえないのだが。という変化球的な謎です。
どちらも謎解きのミステリとして楽しめました。

アリバイ崩しのミステリなので似たような仕掛けに感じるのが物足りなさを感じましたが、『二律背反のアリバイ』の方は一歩秀でて巧い仕掛けがあり受賞に納得の短編作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2
No.597:
(7pt)

五つの季節に探偵はの感想

第75回日本推理作家協会賞の『スケーターズ・ワルツ』を含む短編集。

短編集とはいえバラバラの内容ではなく、タイトル"五つの季節"が示す通り、主人公の高校時代、大学時代、社会人という具合でその時々での謎の物語を描いた作品です。ミステリとして派手さがあるものではないのですが、成長していく中での主人公の心情や人との接し方、探偵として謎を解く苦悩などが味わい深く描かれており印象的でした。受賞作品である『スケーターズ・ワルツ』も然ることながら個人的には『解錠の音が』がかなりお気に入り。

『解錠の音が』は防犯に絡めたミステリであり現実的な犯行の手口を物語にした作品。ミステリに興味がない一般読者もこの物語は防犯の意味で一読した方がよいような日常の謎が一品でした。他の作品も総じて面白かったです。
五つの季節に探偵は (角川文庫)
逸木裕五つの季節に探偵は についてのレビュー
No.596: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

真夏の方程式の感想

個人的に人気がある本は何故か疎遠になってしまう傾向があり、本書もその感覚のシリーズ作品でした。
読んでみるとやはり安定していて面白かったです。

著者の作品はミステリや謎が主体というのではなく、人や家族の物語を描くと感じていますが、本書は特にテーマが「子供」だと感じました。人としての子供を描き、ミステリとしての子供、さらには子供嫌いの湯川との関わり方でシリーズに面白味を持たせるなど、要素の絡み合わせ方が絶妙で見事な作品でした。

一方、過去の物語が合わなかったのが正直な気持ち。

▼以下、ネタバレ感想
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真夏の方程式 (文春文庫)
東野圭吾真夏の方程式 についてのレビュー
No.595:
(6pt)

コンビニなしでは生きられないの感想

メフィスト賞受賞作。コンビニを舞台としたミステリ。
先に2作目の『謎を買うならコンビニで』を読んでからの読書でした。その感覚だと2作目は大分読み易く物語も把握しやすくなっていたという印象でして、1作目の本書は物語が"複雑"という表現ではなく"粗削り"で書きたい事が雑然している印象でした。ただ良い所は沢山あり、本書はコンビニを舞台としてコンビニで働く者を主題とした本書ならではの個性的な作品で好感です。

著者自身が高校生からずっとコンビニ店員である実体験が活かされております。店員からの視点、バイト仲間、お客さん、起こり得る事件の範囲、レジやらお金の扱いなど、これらを活用したミステリであるのは面白く読めました。ただちょっと把握し辛いのは難かもしれません。

個人的にはミステリよりもコンビニ店員である事の感情の描き方が印象的でした。著者の想いが噴出しているのかもしれませんが、社会との距離、フリーター&バイトである事の後ろめたさと言った負の感情がリアルに感じました。いわゆる青春小説として同じ年代の仲間との交流や恋愛などの物語を学園で行わず、バイト先のコンビニを舞台で描いている様は、学園や社会人を遠い存在の憧れ(?)の様な距離で一線が引かれており、でも体験したい、自分もそうなりたいという感情によって本書の物語が生み出されているように感じました。

ネタバレではなく関係ない要素なのでここで書きますが、6章辺りの人を信じられない主人公の疑心暗鬼の様子も中二病やこじらせ系と言えばそれまでですが、でもそんな単純な言葉ではおさまらず、表向きでは他人との距離感を放ち、でも内面では仲間を信じたい気持ちもあるという反発する感情が描かれていたのが印象的。ミステリよりこの感情を溢す様が強く心に残る作品でした。
コンビニなしでは生きられない (講談社文庫)
秋保水菓コンビニなしでは生きられない についてのレビュー
No.594: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

幻告の感想

やり直しがきかない裁判とタイムリープを組み合わせた異色作。
"タイムリープ"を扱う作品の印象から軽めの法廷作品かと思って手に取ったのですが、中身はどっぷりと法律を扱う社会派小説でした。
予想と違う本でしたが読み辛さはなく、日常で馴染みのない法律について確かな知識を物語を通して学べて為になったというのが読後にまず思った感想です。

有罪判決のあとに冤罪の可能性がでてもやりなおす事ができない日本の法。裁判官という仕事の特性。普段馴染みのない法曹の話がリアルに描かれており楽しめました。事件内容や捜査模様、推理の流れといった小説の展開がミステリとも警察小説とも違ってリアルな法律にそっているのが特徴的。これは著者の持ち味だと感じます。

著者のデビュー作『法廷遊戯』より読み易く楽しめたのが好感。中身の法律を主軸にした話展開は同じなのですが、登場する人物の心情が多く描かれているので法律知識だけではなく物語としてちゃんと楽しめました。

"タイムリープ"という言葉に目が行きますが、読んだ感覚としてはアドベンチャーゲームでした。
1つの物語を違う選択肢から眺めて手がかりとなる情報を得て最後にトゥルーエンドへ向かう。ゲーム系と違うのは中身がリアルな法律と事件を扱う事。小説の構造はライトで事件内容が重い。これは悪い印象ではなく、今後もこうした形で難しいと感じる法律のイメージを物語を通して払拭し学べるならいいなと思いました。
幻告 (講談社文庫)
五十嵐律人幻告 についてのレビュー
No.593: 8人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

方舟の感想

これは傑作でした。☆8(+1好み補正)

SNS、特にTwitterで話題になっている本書。9月発売後の一か月間での口コミの広がりが凄く評判も良い。
正直購入予定はなく特に意識をしていなかった本書だったのですが、ネタバレを受ける前に話題に釣られて購入した次第。結果は大満足でした。

物語はクローズド・サークルを舞台としたミステリ……というよりサバイバルもの。
災害で地下に閉じ込められた男女数名。浸水により水没までのタイムリミット。 一人を犠牲にすれば脱出できる。そんな状況で殺人が……という流れ。

本書の傑作足らしめる点が終盤における小説としての終わり方だと感じます。
物語の終わりとなる締め方や演出が完璧でした。その為素晴らしい衝撃と余韻が味わえます。
一発ネタにかけるような作品ではなく物語の構成や演出といった小説づくりの技術的作品であり、結果が最高な形で締めくくられていると思う次第。話題になるのも納得の作品です。

詳細はネタバレ側に書くとして、本書の内容は分かりやすくもあるのでミステリ初心者からおすすめの作品です。

▼以下、ネタバレ感想
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方舟 (講談社文庫)
夕木春央方舟 についてのレビュー
No.592: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

月灯館殺人事件の感想

本格ミステリ作家を集めた館を舞台にした雪の山荘クローズド・サークル作品。

本書は久々のシリーズもの以外での長編作品。シリーズ固有の設定に縛られずに、自由に好きなミステリを書いたと感じる要素満載で良かったです。

特に登場人物達によるミステリを描く考え方が楽しく読めました。
例えば日向寺というキャラ。濫造な作品を量産しているが結果として読者が好み、売れて、出版社の売り上げに繋がるというのは商品として大事な要素。横暴な態度なキャラですが締め切りがあるので執筆の為部屋に戻るなど真面目な一面も印象的。
対象には黒巻というキャラ。偽本格ミステリを許せず本物をもとめ分厚い本を描き、誰が買うんだと言われてしまう。これらは商品と作品の考え方の違いで物作りにおいて見られる意見の違い。などなど今の時代で本格ミステリを描く事の意味などを述べているのが面白い。

密室、見立て、館もの、etc...ミステリ要素が満載なので、ミステリ初心者にとって本書は贅沢に感じる作品。一方読み慣れている方には定番を行う事による毒気も楽しめる作品。あえてやる事の意味やテーマを感じる面白さがありました。

著者の作品を多く読んでいる程、ニヤリとする場面が多いと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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月灯館殺人事件 (星海社FICTIONS)
北山猛邦月灯館殺人事件 についてのレビュー
No.591: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

此の世の果ての殺人の感想

これは面白かったです。
2022年度の江戸川乱歩賞受賞作品。

地球に小惑星が衝突し滅びる定めとなった終末もの。主人公はそんな世界の中で自動車教習所に通い運転を学んでいる。という始まり。

世界崩壊を舞台になんで教習所?というチグハグさがまず印象的でした。
江戸川乱歩賞は昨年『老虎残夢』の特殊設定ミステリが受賞した事から、今年も特殊設定ミステリを採用しエンタメ系の流行に乗る変わり種かと思った次第です。
ですが先に伝えておきますと、中身は災害小説としての日常や社会的テーマも絡めた堅実な本格ミステリでした。

災害小説における死体が道端に転がっているなどの非現実的要素が日常化されており、生きる希望を失った者、最後まで生き抜こうとする人々のドラマを感じる物語。教習中の車に乗り不慣れな運転で街を移動する様はロードノベルのような味わいも感じられました。主人公は著者と同じ23歳の女性。社会に出たての者の不安や、弟の面倒を見る姉としてしっかりしなくてはいけない気張った心境など主人公の等身大が描かれているのが印象的でした。
総じて文章が大変読み易く情景が浮かびやすいのでドラマや映画を見ているような気分にも感じた次第です。

ミステリとしては大きなインパクトがある訳ではないのですが、作り方が巧いと感じる所が多くてそれでこうなっているのか~と印象に残る所がしばしばありました。
終末ものと自動車教習の組み合わせは最初不思議でしたが、読み終わってみれば納得。
結末&読後感も良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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此の世の果ての殺人
荒木あかね此の世の果ての殺人 についてのレビュー
No.590: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

プロジェクト・ヘイル・メアリーの感想

凄く楽しい読書体験でした。傑作です。

SF海外翻訳で単行本上下巻。
発売当初から書店や出版系メディアで大盛り上がりだった本書。ただ手に取るのを躊躇っていました。
難しいかも……、翻訳合わないかも……、上下巻で費用もかかるし合わなかったら嫌だな。という事で見送っていました。が、世の中の読者やレビューが増えた近頃の評判もよい。そしてよくある感想が、予備知識無しでネタバレされる前に読んだ方が良いというアドバイス。
という事で手に取った次第。

結果は大満足!
雰囲気はユーモアある文章で状況に反して明るい読書で読み易い。
記憶喪失で目覚める所から始まり、読者と主人公の目線は同じ、何が起きているのか?から始まる。
そして科学的な謎と検証と行動を繰り返して一歩一歩進む展開が面白くて読書の止め時を見失い一気読みでした。
読書前に懸念していた事が杞憂に終わりました。

科学や物理といった理系の話が沢山でてきますが、とても分かりやすくイメージしやすい表現で描かれています。そしてSF小説のネタが贅沢に詰め込まれているので、SFに馴染みがない人程、新鮮な読書体験が得られると思いました。
おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
No.589:
(7pt)

謎を買うならコンビニでの感想

コンビニエンスストアを舞台としたミステリ。
サクッと気軽に日常の謎でも読もうかなと手に取ったのですが、読んでみると謎やテーマがしっかりとした本格寄りのミステリでした。

物語はコンビニのトイレで起きた店員の不審死をアルバイトとして潜入調査をしていく流れ。
大筋の謎を置きつつ、アルバイトとして働く中で生まれた小規模の謎を短編集のように散りばめられているので飽きる事無く楽しめました。ミステリに用いられる謎の要素はコンビニ特有のもの。レジなどの設備。店員と客。クレーム問題など。コンビニの舞台裏が豊富に描かれており、テーマが一貫してコンビニに合わせているのが新鮮でした。

ミステリの中では変化球的な作品で、館もの・限られた登場人物のシチュエーションをコンビニ(見取り図付き)・店員と客で表現しているのが面白い。雰囲気はミステリの館内で推理しているのを感じます。それでいてちゃんと今いる場所はコンビニなんだと読者に再認識させる為に会話文で時折「いらっしゃいませ~」と入るのも巧いと思いました。

少し難点として感じた事は、文章力なのか説明不足なのか情景や展開が読みにくかったです。ミステリの謎やテーマ性、青春ミステリ模様、主人公の成長とラストの結末まで内容はとても面白い。コンビニに特化した物語を描く気持ちはとても感じるので、今後は惹きこまれる文章に期待。

表紙について。
コンビニ愛に溢れる作品ですが、主人公が行儀悪くレジ棚に座って足を載せているのはどうなのかなと思いました。作品内では店員の真面目な姿を描いたり、クレーム問題の社会的テーマを描いている中で、この表紙は"コンビニ探偵"の印象でキザっぽく描いてしまっていてミスマッチに感じました。

コンビニエンスストアの要素に特化させたミステリというのは新鮮で、不満点以上に面白さが勝りました。
シリーズものとして期待できる終わり方なので、続編希望です。
謎を買うならコンビニで (講談社タイガ)
秋保水菓謎を買うならコンビニで についてのレビュー
No.588: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

推理大戦の感想

特殊な能力を持った名探偵達が「聖遺物」をかけたゲームに参加するという話。
大きく分けて二部構成で、前半は名探偵達の紹介エピソード。後半があらすじにある物語。

個人的には前半がとても面白かったです。
超人的な名探偵達は、AIを駆使する者、思考速度が常人の数倍ある者、五感が優れている者。という具合に驚異の能力を用いて瞬時に事件を解決する者達。短編集の様な短いエピソードの中で、それぞれの名探偵達の活躍が読めるのは贅沢な作りで良かったです。
一番印象的なのは思考速度が速いボグダンというキャラ。思考速度が速いという事を文章で表現する為に括弧書きを駆使した文章となっており、この表現は小説らしさがあってよかったです。

後半についてはあらすじにある事件が起きるのですが、これだけ凄い名探偵達が集まっているにも関わらず、話や推理の進展が悪い為に超人感が薄れてしまったのが残念。超人たちを集めている状況がミステリに活用されているかというと必然的には感じませんでした。

なんとなく読んでいて感じたのは作者が好きで自由に描いた作品である事。悪い表現で恐縮ですが読者からするとちょっと読み辛いし、不必要なギャグパートや大阪弁のノリが作品の雰囲気を崩して身内ネタに走っている傾向を感じました。そういうのを気にせず、好きな事、好きな要素、思いついた文章をどんどん描いて楽しんでいるのを感じた次第です。

それぞれの名探偵は個性的なので、スピンオフ作品などで舞台を変えてまた皆に会えたら面白いだろうなと思いました。
推理大戦 (講談社文庫)
似鳥鶏推理大戦 についてのレビュー
No.587: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

機龍警察の感想

近未来警察小説。
警察小説によくある組織や立場の対立など描かれているのは前提とし、そこに近未来というフィクションを織り交ぜる事で、警察が雇う傭兵という新たな対立要素、搭乗兵器によるロボットアクションなどが新鮮に映った作品でした。

ハヤカワ・ミステリワールドに属する推理小説のシリーズに含まれる作品であったので、本書の設定ならではのミステリ的な仕掛けを期待してしまった所があり、そこは期待と違いました。推理小説というより新たな警察小説というニュアンスが正しく、その系統が好きな方はとても楽しめる作品です。

第一章の事件開始の導入はパニック感やスピード感があり抜群に面白かったです。中盤以降は雰囲気が変わり、人間模様、組織、事件の捜査、などがどっしりとした歩みで展開され、少し好みとは違いました。

シリーズを見越した作品であるので、本書単体だけですべてが丸く収まり解決するという事はありませんでした。各キャラクターの過去や組織の物語に謎を秘めたまま終わる為、悪い意味ではスッキリせず、良い意味では続巻が楽しみになる作りは好みの別れ所です。
個人的に重厚な作品で内容は好きなのですが、時間をかけて読み終わってもスッキリしない点が多いのは楽しかったよりも疲労を感じてしまい、続巻を手に取るのを躊躇してしまう気持ちが残りました。
機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
月村了衛機龍警察 についてのレビュー
No.586: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

九度目の十八歳を迎えた君との感想

ミステリ・フロンティアに属する作品ですが、ミステリというよりファンタジーを用いた青春小説でした。

物語は社会人となった主人公が、駅のホームで高校時代の同級生の女性を目撃する所から始まります。
ただし違和感がある所は、その女性は高校生の姿のままである事。他人の空似、見た目が若い、姉妹、というわけではなく、言葉通り18歳の高校生のままという事。本作品はこの状況を現実的な解釈を用いるのではなく、こういう世界であるとファンタジーな事象を日常の1コマのように捉えているのが面白いです。
ミステリとして見るなら「何故彼女は18歳の高校生のまま変わらないのだろうか?」という謎を起点とした物語となります。

ただ読書して感じた事は、ミステリを描いたのではなく"年齢"に着目したテーマや想いが主要である事。年齢という呪縛。同世代や異なる世代のずれ、年齢と共に忘れてしまった思いなどを強く感じました。
印象的な一文は「年齢というものは、その人間の性格よりも、能力よりも、本質よりもずっと手前に陣取っている憎いやつだ。」というもの。社会人となった主人公の悩み同様に、年功序列、能力社会といった社会的なテーマを感じた一幕でした。
当時のままの同級生という設定からくる物語は、姿だけでなく高校生の頃の想いを思い出させます。大人へのあこがれや希望、やりたい事の夢、そういった光に対して現実の闇を対比させて考えさせるテーマ性を帯びている為、本作品を読む読者の年代によって響く所が異なるのではないかと感じました。

一昔前ならタイムトラベルもの作品で同様なテーマが描かれそうですが、今の時代に合わせた内容や不思議な世界の描き方は現代的な作品となっていました。この描き方は著者の持ち味で面白いなと思います。
九度目の十八歳を迎えた君と (創元推理文庫)
浅倉秋成九度目の十八歳を迎えた君と についてのレビュー