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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数745

全745件 61~80 4/38ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.685:
(6pt)

贋物霊媒師 櫛備十三のうろんな除霊譚の感想

著者の作品は幽霊や怪異が存在する事が前提のミステリーの作品が描かれます。本作もその系統の1つ。死者が見える霊媒師が主人公のミステリー。
短編集であり、1話で解決していくスタイルなので気軽に読めました。著者の作品のよい所はちゃんと題材となる幽霊が存在する事を活用したミステリー仕掛けをしてくる事。特殊設定ものとして新しい謎解きや仕掛けが楽しめました。
幽霊が見えるだけでなく、会話ができ、事件の概要を直接聞ける。そんな状況なら謎なんてないじゃないと思う所なのですが、各話巧いミステリー作りをしていたのが良かったです。

キャラクターとして胡散臭い主人公の性格はあまり好みではなかったのですが、洞察力を用いた推論を一気に語るセリフは好みでした。相棒となる助手の美幸の存在もよくコンビものとして良かったです。著者の那々木悠志郎シリーズが怖いホラーよりで、こちらは気軽に読めるライトな幽霊ミステリーといった所です。
シリーズ2作目が既に発売していて気になるのですが、PHP文芸文庫の値段がちょっと高めなので内容に対してこの値段設定は購入を悩むのが正直な気持ちかな。
贋物霊媒師 櫛備十三のうろんな除霊譚 (PHP文芸文庫)
No.684:
(7pt)

一線の湖の感想

メフィスト賞受賞の『線は、僕を描く』の続編。前作は必読。本作は完全に非ミステリの青春小説です。

前作同様、文章の表現力が凄まじく素晴らしい読書体験でした。
物語の好みとしては良い面と悪い面があり、ちょっと悩ましい方が強かったのが正直な気持ちです。

1作目はサクセスストーリーの展開でゴールが綺麗に決まっていた為、その続きとなる本書はどう始まるのだろうと手に取りました。あらすじにありますが序盤は主人公の苦悩が描かれたスタートでした。進路に悩み優柔不断な主人公の姿が描かれます。正直な気持ちとして、読んでいてあまり良い気持ちではありませんでした。ウジウジした主人公の姿を見て、一作目のあの姿はどこに行ったんだと思う次第。きっと1作目で盛り上がったゴールを描いたので、一度その雰囲気をリセットする為に主人公を逆境に立たせたんだろうという構成の都合を感じてしまった次第。1作目と2作目の物語の繋がりが弱く、急に逆境だったから変に感じたのかもしれません。その感覚だった為、終盤近くまではどんよりした気持ちを感じながらの読書でした。1作目のような水墨画での新しい知的好奇心は得づらく刺激を変える事が少ない為、読者は最初に得た気分のまま読み進めるんじゃないかなと思いました。

と、気になる事はありましたが、その苦悩が伝わるぐらい文章表現が巧い。関わる人のちょっとした全てを語らないセリフや想いなど、読書体験としては素晴らしかったです。好みと合わない点は多いのですが作品の水準はとても高いです。逆境からスタートである構成も相まって終盤の力強いシーンは圧巻でした。揮毫会や水墨画家達の大団円も見事で映像化が期待されます。

主人公の決断は好みと違うものだったり、ラストから感じる画家たちとの関係性もなんだかピンと来ないので、個人的には物語は1作目で完結な気持ちでした。
一線の湖
砥上裕將一線の湖 についてのレビュー
No.683: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

鏡の国の感想

まずは小言を。帯や宣伝コピーが意図しない内容で過剰です。
「反転」やら「伏線」やらそういうのを期待して読むと思っていたのと違うという感想になりますのでご注意を。
売る為とはいえ作品が不当な評価に繋がるので残念な気持ちになりました。作品に罪はないので評価はちゃんと別扱いです。

正しい作品のテーマをお伝えすると、本書は身体醜形障害という自分が醜いと思い込んでしまう精神障害を扱った青春ミステリです。SNSの誹謗中傷により自分がブスで醜いと思い込んで悩む姿が描かれています。アイドル活用やSNSや動画配信など、顔を出す活動の現代的な要素を絡めていきます。
物語は大御所ミステリ作家の遺稿を読むという作中作の構成であり、遺稿では何を伝えたいのかが読者に考えさせる謎となります。ミステリーとして上記のテーマをちゃんと絡めた内容であったのが見事でした。

帯で感じるような一発ネタの仕掛けを楽しむ作品ではなく、障害を含むルッキズムをテーマとして扱い、それがどのようなものかを読者に伝え、悩みや希望ある物語へ変化していきます。読後感は良く面白い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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鏡の国
岡崎琢磨鏡の国 についてのレビュー
No.682:
(7pt)

僕が君の名前を呼ぶからの感想

『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』のスピンオフ作品。
別の並行世界を描いた作品であり、SFやミステリ成分は特になく物語の補完的位置づけです。

3作品を通して一番印象に残り良かったポイントは、別の並行世界の幸せを描いた事だと思いました。
世の中にこの手の作品は豊富にありますが、これ系の愛読者には隠しテーマが存在します。それは並行世界の恋愛もの作品もしくは恋愛アドベンチャーゲームにおいて、選ばれなかった側はどうなるのかという事です。作品によっては選ばれなかった側の不幸を描いたり、メタ要素で読者やプレイヤーを悩ませる作品の方が世に多い中、全てをハッピーエンドのように描いているのは中々の特徴的な要素だと思いました。著者の優しさかと感じます。
小説2作品と映画も観てから本書を読みました。描かれなかった所を優しい雰囲気で補間された内容です。新たな展開というのは無いのでシリーズ作品が気に入った人向けの作品。本書だけや最初に読むのはオススメしません。
3作どれも面白く物語を堪能しました。良かったです。
僕が君の名前を呼ぶから (ハヤカワ文庫JA JAオ 12-5)
乙野四方字僕が君の名前を呼ぶから についてのレビュー
No.681: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

あなたが誰かを殺したの感想

んー……個人的に期待し過ぎてしまった。。。という気持ちです。

仮に著者の名前や加賀さんの名前を隠すか変えて読まされていたら平凡で評価し辛い作品になるのではないかと。著者の名前補正で面白く感じるような。。
文章の読み易さはさすが東野圭吾といった印象でスラスラ読めました。ただ著者を感じるのはそのぐらいでした。

本書は解答編がちゃんとあります。
タイトルから『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』を想起させます。未読の方に簡単に説明しますと、この2作は最後の謎解きを読者に推理させる作品として当時話題になりました。解答編を読めないように袋とじにするなど面白い試みだったのです。本書はタイトルが似ていて同シリーズな為、過去作を知る人程、その再来、もしくは読者に対して何らかのアプローチがあるのではないかと期待をさせる本なのです。ですが本書にはそういったアプローチはありませんでした。勝手に期待していた個人的な問題ではあるのですが、そういう思わせぶりで無いのは残念でした。解答を書かない事や読者に考えさせる本は今の時代に合わないと判断されたのでしょう。そして本書は世の中や読者層からは評価が高いので、著者はちゃんと求められているものを描いているわけです。私のようなものを期待する人は少数派と感じました。

物語は良い意味で古き良き時代のミステリです。90年代の感覚での最新刊という所。富豪の集まる別荘での連続殺人です。何となくですがドラマの脚本をイメージされているような見せ場が用意されています。古き良き著者作品のトリックや殺人事件の異常性や深みがあるテーマというものはありませんでした。あるものは映像化した時の映え。芸能人に合うキャラ設定、別荘宅や調度品、プレゼントの高級な品、高級レストランでの食事のシーンなど、映像用かなと思うシーンが強く印象に残った次第です。本作は映像化前提を意識しすぎてしまった作品に見えました。ドラマ化する上での妥当なプロモーションとして加賀シリーズが選ばれたような気持ち。小説としての加賀シリーズらしさは特に感じない作品でして、加賀さんである必要もなかったです。最後の最後の場面だけ思い出したような加賀シリーズの一文があったという所でした。
東野作品の中では万人向けの汎用的ではありますが、これと言った心に残る特徴がない作品だったというのが正直な気持ちです。
あなたが誰かを殺した
東野圭吾あなたが誰かを殺した についてのレビュー
No.680:
(8pt)

僕が愛したすべての君へ/君を愛したひとりの僕への感想

並行世界の存在が実証された世界におけるSF恋愛小説。☆8(+1好み)

2つの作品『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』で1セット。上下巻という意味ではなく、どちらから読んでも楽しめる作品です。
私の読書順序は『僕愛』→『君愛』の順で読んだ後、→もう一度『僕愛』を読みました。

どちらから読むかの参考として
『僕愛』の方は作品の構造を曖昧とし、登場人物達のドラマをメインで楽しめます。
『君愛』の方は作品の構造が明確になり、世界設定を把握して楽しむ作品となります。

ミステリ―好きの人は『僕愛』→『君愛』の順序が良いかと思います。普段から序盤は謎で最後に真相がわかるような作品を読み慣れていますのでこの順序の方で問題なく楽しめます。一方、よく分からない事が苦手で全容がわかった上で作品を楽しみたい方は『君愛』→『僕愛』となります。

時間ものの恋愛作品において、本書の特徴として面白いなと感じたのは、並行世界が全員に認識されている事です。その設定で恋愛要素が含まれると、違う世界線での恋愛に抱く感情はどのようになるのかが興味深く読めました。今の時間軸の恋人と、違う時間軸の恋人を大切にした場合、並行世界を認識している恋人の視点からは嫉妬や羨みの感情はどのような形で納得するのかとか、夜の関係や結婚の瞬間に対してはどうかなど、なかなか踏み込んだSF作品として楽しめました。表紙はライトノベルっぽいですがしっかりと早川書房のSFだなと感じた次第です。

全てを読んだあとでハッピーエンドなのか、そうではないのか、読者に委ねられます。読者がどの世界やキャラをメインで考えるのかで変わる事でしょう。恋愛アドベンチャーゲーム(ある意味平行世界)やSF作品、特に某有名なSF映画の結末に近しいものもあるので、この手の作品はそういう所に落ち着くのかなと感じる次第でした。何はともあれこの手の作品は好みなのでとても楽しい読書でした。
単体でそれぞれ2作品の結末を楽しみ、両方を読むとその関係性をメタ的に俯瞰できる面白い試みの作品でした。
僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)
No.679: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

Ank: a mirroring apeの感想

圧巻の作品でした。
単純なパニック小説かと思いきや、人類の進化論に関する著者なりの説を描いた作品。
デビュー作の『QJKJQ』は好みに合わなくて著者の作品を敬遠してしまっていたのですが、その後数々の賞を受賞している事から改めて作品に触れた次第。著者の作品イメージが変わりました。凄く面白かったです。

ジャンルはSF+パニック小説から始まり、その原因に触れる一端として、チンパンジーの霊長類研究やAIの研究まで範囲を広げていく流れ。知識的欲求が降り注いでくる物語なので文庫600ページの厚い本ですが飽きさせない読書でした。ただ万人向けではなく人により好みが分れるかと思います。人によっては論文に近しい固い物語を読まされているように感じてしまうかもしれません。

ざっくり傾向を他作品で例えると、軽いライト向けの鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』のような著者なりの新説を伝える中、描き方はジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』の様に帰結するイメージ。ちょっと誇大かもしれませんが、少しでも興味を持ってもらえればと。そんな新説をミステリとして体験できた内容でした。

人類の進化はこのように起きたのではないか。今のなお人間の無意識に起きている反応はこういう事でないか。神話の物語は実はこういう事ではないのか。などなど、著者なりの説とそれを面白く体験できる物語が素晴らしかったです。
読んだら誰かに話したくなる。そんなエピソードでした。

▼以下、ネタバレ感想
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Ank : a mirroring ape (講談社文庫)
佐藤究Ank: a mirroring ape についてのレビュー
No.678: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

地雷グリコの感想

これは面白かった!読んでいて楽しい読書でした。

伝えやすいので他作で例を挙げると福本伸行『カイジ』や迫稔雄『嘘喰い』といったギャンブル&頭脳バトルの学園ものです。
著者自身も公言しており、これらの作品が好きで自身のオリジナルゲームを小説で描いたとの事。
私自身もこれらの漫画が好きなのですが、それぞれの作品に対してちゃんとリスペクトされているのが感じられました。この系統が好きで読み慣れた人にも満足できるクオリティのゲーム&頭脳バトルになっているのが見事です。さらには文章としての小説でちゃんと内容やルールが理解できてイメージできるのが素晴らしい。個人的にこの手のジャンルの小説としては頭一つ抜けているクオリティの作品に感じます。

じゃんけんグリコ、坊主めくり、だるまさんがころんだ。と言った馴染みのあるゲームを用いる事で読者はすんなりゲームに入り込める作り。そしてそんな馴染みのあるゲームが著者の味付けによって豊富な頭脳戦や騙し合いやトリックが渦巻く作品に仕上がっているのが凄い。わかりやすいゲームゆえ、「こんな仕掛けかな~」なんて想像しながら読むと思いますが、そんな考えの斜め上行く展開は嬉しい刺激でした。5編の連作短編集はどの作品も面白く、1作目、2作目、3作目……とどんどん面白さが上がるのもよい。ルールや仕掛けを読者に認識させる手順が巧すぎます。最初から最後まで気持ちが上がっていく読書でした。

学園ものとしても面白いです。交友関係や成長物語など、キャラクターも良いですし、次々と現れる強者のステップアップも面白い。
デビュー作から学園ミステリを描いている事もあり、この雰囲気はお手の物でとても心地よいです。先に挙げた漫画や学園ギャンブル系だと『賭ケグルイ』と言った作品がありますが、本作はそれらの殺伐とした雰囲気とは違い、どこか青春小説のような明るく穏やかな心地よさを感じます。この雰囲気を備えているのが著者の優しさであり特徴である気がします。
例えばギャンブル漫画ですと敗者の悲鳴や絶叫、絶望、暴力や怒りなど強烈な負の感情を描いて読者にインパクトを与えてたりします。ですが本書の場合はそういう負の状況は抑えてあります。敗者の雰囲気1つとっても嫌な気持ちにならない描き方であり、小説としての文章により、勝利へ向けての爽快感や仕掛けの面白さで読者を魅了させています。読後感もとてもよい作品でした。続巻希望です!

▼以下、ネタバレ感想
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地雷グリコ
青崎有吾地雷グリコ についてのレビュー
No.677: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

エレファントヘッドの感想

本書はあらすじや帯に書かれている通り、内容や展開の情報を伝える事が禁止されている作品。その為それ以外の所で感想をお伝えです。

まず本書はマニア向けの作品です。
ミステリをある程度読み慣れており、普通の謎では満足できず、新しい刺激を求めている人向け。話の整合性や多少展開がおかしくても気にせず、とにかく変なものが読みたい人に刺さります。一方、ミステリはあまり読んでいなくて普段は一般文芸をたしなみ、なんだか話題になっているからと著者の事を知らずに本書をいきなり手に取るような方には印象が悪い作品になるので要注意です。

本書を手に取った切っ掛けは『2024年度 本格ミステリベスト10』にて1位になった事からです。このランキングは一般文芸以上にミステリに重きが置かれるランキングです。著者の前作の『名探偵のいけにえ』に続いて1位な訳です。これは気になります。『名探偵のいけにえ』は白井智之作品の中では少し著者成分がマイルドで一般の方にも楽しめるような整ったミステリでした。続く本書はどういう傾向になったのかなと思いながらの読書でしたが、それは早々にいつもの白井智之作品と感じた次第(笑)。むしろ前作で抑圧されていたんじゃないかと思うぐらい、本書では大爆発しています。倫理感が欠如しており、ミステリの為なら何でも活用してしまおうという意気込みをとても感じた作品でした。※誉め言葉です。

万人には薦められないのですが、個性的なものが体験できる記憶に残る一冊でした。

▼以下、ネタバレ感想
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エレファントヘッド
白井智之エレファントヘッド についてのレビュー
No.676:
(5pt)

なれのはての感想

一枚の絵に魅せられ、その出所を調査していく中で当時の物語に触れていくという美術ミステリ×社会派小説。
あらすじにある通り一枚の絵から始まり、仕事について、家族について、当時の戦争や空襲について描かれていく物語。かなりの骨太の力作であり、どういう取材をしたらこういう物語を生み出せるのかと驚かされた作品でした。

序盤は報道局から左遷されてイベント部に異動する事になった主人公の仕事に関する物語。仕事に対する考えや仲間たちとの付き合いは面白く読めました。本作の中では現代編という感覚。一枚の絵をきっかけに物語が動きだす所はワクワクの読書でした。
一方、一枚の絵から調査を進め、その当時の物語となる過去の物語については戦争や空襲など重苦しい読書でした。登場人物たちも増えていき、その人物達は親戚達なので特徴的な切り分けができず、人物や状況が分からなくなる読書でした。

本書の雰囲気は美術ミステリやエンタメではなく、社会派小説&人物の伝記小説に近しいです。その為、重厚な作品ではありますが個人的には楽しむよりも社会科を勉強しているような苦手な読書でした。
ただ読み終えてみれば色々とスッキリする読後感であり、美術を用いた物語の繋げ方は見事。爽やかなエンディングが良かったです。
なれのはて
加藤シゲアキなれのはて についてのレビュー
No.675:
(7pt)

金魚の泳ぐプール事件: 放課後ミステリクラブ1の感想

児童書向けの本格ミステリ。
子供達にミステリを読ませたい。推理を楽しんでもらいたい。そういうコンセプトの作品です。その思いに対する作品の品質はとても高いものでした。

扱うミステリは学校のプールに放たれた大量の金魚の謎。誰が何のために?というもので、小学生の3人組がこの謎に挑みます。
登場人物達のやりとりや、学校内での出来事が最後の謎解きに向けての手掛かりとして活用されています。本書には『読者への挑戦』があり、ちゃんと謎解きの推理が楽しめる作りになっているのが見事でした。
読み終わってみれば無駄がないエピソードで作られており、手がかりの散りばめ方がとてもうまく、児童に読ませる謎解き本としての完成度は高いものでした。他、表紙の主人公が海外ミステリを読んでおり、その作品紹介が巻末に掲載されています。この巻末紹介で次の読書へ繋げようとするなど、ミステリの読者層を広げようとする気持ちをとても感じました。イラストも豊富で絵柄はとても可愛いです。本書のイラストとデザイン力はとても高い為、手に取りやすいでしょう。この作品によって小学生読者が増えると良いなと思いました。

~~~
さて、以下は点数とは関係ない、個人的に気になる所です。

推理をする作品としての問題と解答はよかったのですが、問題自体の魅力が弱いのが難点に感じました。児童向けという事を理由に軽い謎では読後の心に残る作品にはなり辛いです。簡単な問題を解いたようなお話なので、シリーズとしてもっと続きが読みたい!という気持ちにはならなかったのが正直な気持ち。何か作品を象徴するぐらいのインパクトがあれば良いなと思いました。

小学校内の部活動のような設定について。
ミステリクラブとして学校の中に自由に使える部室がある設定ですが、小学校でこの設定は違和感です。中学生の部活動なら納得ですが、この設定は奇妙に映りました。もともと中学生のお話から小学校向けへと変わってしまったのでしょうか。あと、たまたまだと思いますがこの設定は青崎有吾の『体育館の殺人』という有名所と被ってしまっています。探偵役の名前も"天馬"で同じなので気になりました。

値段設定について。
これは版元の悩みになりますが、子供にミステリを楽しませたい気持ちは分かりますが、値段設定が1,210円(税込)というのは悩ましい価格設定です。講談社青い鳥文庫、角川つばさ文庫、集英社みらい文庫などの700-800円代の子供の為の価格設定を考えると、本書はちょっと商売っ気があります。児童書ミステリは他にも手ごろな価格で存在する中、本書がどこまで広がるのか気になる次第。可愛く今風なデザインにして本屋大賞にノミネートされるなど作品作りと営業販促は強そうなので本書がどのような立ち位置に行くのか今後の展開に興味を持った次第でした。
放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件(2024年本屋大賞ノミネート)
No.674:
(6pt)

カエルの小指 a murder of crowsの感想

1作目『カラスの親指』の続編。あの人達にもう一度会いたい。そんな方向けの作品です。
つまり1作目を読んでいるけど登場人物達を忘れてしまっている場合は、ちょっとでも前作を復習してからがよいです。

文章は読み易くキャラクター達も楽しい。著者の作品群の中では明るいエンタメ傾向なので、ドラマや映画を観ているような感覚で楽しめました。

▼以下、ネタバレ感想
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カエルの小指 a murder of crows (講談社文庫)
道尾秀介カエルの小指 a murder of crows についてのレビュー
No.673:
(9pt)

小説の神様の感想

かなり好みの作品でした。念のためお伝えしますと本書はミステリーではなく青春小説です。

映画化や漫画化などマルチ展開されている為、どれに最初に触れているかで印象が変わりそうです。原作となる本書にて初めて物語に触れましたが、自分は物語を楽しむ以上に、著者の内面に潜む想いと、世に解き放つべく爆発させたエネルギーをとても強く感じた読書で好みでした。
読者の好みが、物語としてどう見るかなのか、描かれている想いをどう感じるかなのか、どこに注目するかで本書の好みが変わると思います。

私が勝手に感じた感覚ですが、主人公の売れない小説家である千谷一夜は著者自身の現実的な負の一面で、ヒロインの小余綾詩凪は理想や希望となる存在、その男女の対比を用いて小説や創作に対する考え方を熱く描かれた内容に感じました。
小説作りにおいて、純粋に好きで創る気持ちと、生活面などにおいて現実的なお金の問題など、好きなだけでは創り続ける事ができないという、創作における『作品』と『商品』の葛藤がとても描かれていました。クリエイティブの仕事においてはずっと付きまとう問題です。小説家としての著者の代弁を主人公とヒロインを通して熱く語られており、個人的に興味深く読んでいた次第です。

本書の物語が小説家を描くという事から、文章の描写もあえてかなり緻密に行われていると感じました。あえて描いていて気に入っているシーンは、序盤のヒロインを見る主人公の緻密な描写からの「卑猥な目で見ないでもらえる?」の展開。これは著者ならではお約束の笑いで面白い。本書刊行前の作品よりも文章が読みやすくかつイメージしやすい描き方になっており文章の変化点的な作品をも感じます。他、2人が描こうとしている創作の内容が『medium』を感じさせたり、シリーズの続編が出なくて物語が紡がれない悩みは『マツリカシリーズ』の事かと感じるなど、主人公は著者自身を表していると感じました。それゆえに語られるセリフの一つ一つがとてもリアルでして、悲観的な事も、本当にやりたい事も、とても痛切に響いてきます。この想いを吐き出す点は物語を楽しみたい読者にとってはノイズに感じるかもしれませんが、私はこういうリアルな感情を爆発させている内容は商品ではなく意味のある作品としてかなり好感でした。

主人公・ヒロイン以外のキャラクターも良い味をだしてる。河埜さんは本書のリアルな担当編集の人なのかな。文芸部の部長の九ノ里は特にいいキャラ。主人公の周りには悪意がなく見渡せばよい人たちに囲まれているのではないでしょうか。ホントなんというか、本書は著者の内面を描いた作品に見えた次第でした。『小説』という媒体が好きな人には触れてもらいたい作品でした。
小説の神様 (講談社タイガ)
相沢沙呼小説の神様 についてのレビュー
No.672:
(5pt)

完璧な小説ができるまでの感想

人気小説家の監禁事件。ファンによる犯行かに思われたが……という始まり。

本書は小説家の狂気の物語。
あらすじや序盤にて何か良くない事が起きると読者には伝えられてある為、平穏な青春学園生活がおかしくなっていく不安感を持ちながらの読書でした。この気持ちはホラーやサスペンスとしての描き方で楽しめました。作中でスティーヴン・キングの名前が出てきた為、その著者の『ミザリー』を思い出す一面もありました。著者の気持ちを代弁しているかの様な小説に対する想いも楽しく読みました。

MW文庫なのでライトノベルのように軽い気持ちで読める作品ではありますが、描かれている内容はしっかりとしたホラー要素。その為、欲をいうともう少し重みがある文章だったり、登場人物の年代が少し高めだと狂気がより引き立つと思いました。軽い文章やキャラが若い年代なので、深みのある狂気というよりは若気の至りに近しい感覚になってしまったのが個人的に物足りなかった次第。

その他思う所として、宣伝方法が『予想外のラスト』『二転三転の衝撃』というPRなので過度な期待を持たせてしまうのが難点に感じます。思っていたのと違うという不本意な評価が得られてしまいそうですが、そういう作品ではないです。
『完璧な小説』というワードも強すぎる為、そこまで共感が得られなかったのが正直な気持ちでした。
完璧な小説ができるまで (メディアワークス文庫)
川崎七音完璧な小説ができるまで についてのレビュー

No.671:

幻夏 (角川文庫)

幻夏

太田愛

No.671: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

幻夏の感想

冤罪事件をテーマとした社会派ミステリー。
これはとても圧巻の作品でした。「面白い」以上に「凄い」と思ったのが率直な感想。緻密なストーリー、社会的なテーマ、そしてミステリー仕立ての構成。完成度の高さに唸らされます。素晴らしい作品でした。

読後にシリーズ作品で2作目である事を知りましたが問題なく楽しめました。2作目から読んだ為、どの人物に対しても先入観なく疑いながらの読書。序盤は行方不明者の人探しから始まり、23年前に起きた事件に関係してくるのですが、ここら辺はまだ序の口。どこに着地するのか先が見えない展開が続き500ページ近い本なのに一気に読めた次第。1作目、3作目も上下巻の凄いボリュームで躊躇しますが早めに追っ掛けようと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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幻夏 (角川文庫)
太田愛幻夏 についてのレビュー
No.670:
(7pt)

ラブカは静かに弓を持つの感想

音楽教室を舞台としたスパイもの。主人公は音楽著作権連盟の職員。教室での状況を調べるべく上司の命令により潜入していく流れ。
スパイ小説としての立ち位置は、戦略や頭脳を描く作品ではなく、スパイとなった主人公の苦悩や成長を描く作品となります。

物語は実在した音楽教室著作権裁判をモチーフにしている内容であり、音楽教室から使用楽曲の著作権料を徴収を示した出来事は数年前ニュースになりましたので記憶に新しい出来事です。それぞれの名称を微妙にずらして書かれていますのでわかる人にはわかる内容です。

主人公が若手の社員で上司の指示に従いスパイになるというバランス感覚が良かったです。
まだ会社に染まり切っておらず、多くの悩みを抱え、社会と自身の葛藤を抱えており、考え方や行動も若さゆえの動きとして描かれていました。明かせない素性や幼少のトラウマなど心が深海の闇に染まっている姿が描かれているのもよいですし、人や音楽との出会いにより気持ちが揺れ動く様子も良かったです。

音楽小説ですが演奏シーンがまったく描かれずスキップされているのが印象的でした。そこが描きたい所ではないという事でしょう。
著作権についてのそれぞれの正義の考え、会社としての考え、個人としての考え、なかなかと拾うポイントが多く楽しみました。

▼以下、ネタバレ感想
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ラブカは静かに弓を持つ (集英社文庫)
安壇美緒ラブカは静かに弓を持つ についてのレビュー
No.669: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

十戒の感想

昨年の話題作『方舟』に続く旧約聖書の言葉をタイトルとした『十戒』。
本書単体でも楽しめますが読書する場合は『方舟』を先に読んでからを推奨します。

孤島を舞台としたクローズド・サークルもの。
携帯も自由に使える現代的な状況ですが、犯人の指示する十の戒律を破った場合は島ごと爆弾で爆破させるという縛りが一品。助けを読んだり勝手に脱出できないなど、行動が規制される状況を生み出しているのが巧いです。状況設定やミステリの要素は面白かったのでそこを評価する人には良い作品です。

一方個人的に点数がそぐわない理由について。
文章や表現が分り辛いというか煮詰まっていなくて内容の把握が困難でした。
人物については誰がどんな人なのか分り辛かったです。人数が少ないクローズド・サークルものなのに誰が話して何をしているのかイメージが沸きませんでした。この人は男なのか女なのか分り辛い人もいて名前が認識し辛い記号的でした。
内容については十の戒律に従うキャラ達の動きが何だか不自然で滑稽でした。そんなに簡単に従うの?もうちょっと抗おうよとか、投票で犯人に考えが正しいか確認するところにおいては、そこで何か抵抗して捕まえたりできないの?などなど状況のリアルさが感じられず皆不自然な動きです。要素や設定だけ並べているような文章でして、もう少し読者が納得し得る状況が伝われば良いなと思う次第。『方舟』で感じた文章の妙は弱く、この状況において緊迫感や恐怖というものが感じられないのが残念です。会話文も練られていないのではないでしょうか。色々と不自然でした。

『方舟』が売れたので1年後に向けて急遽2作目の本書を出版したかのような煮詰まっていない文章を感じました。
ミステリ要素は面白いので、文庫化の時は加筆調整してもっと魅力的な作品になればよいなと思う気持ちでした。

終盤のとある理由から3作目も期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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十戒 (講談社文庫)
夕木春央十戒 についてのレビュー
No.668: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

誰が勇者を殺したかの感想

素晴らしい作品でした。そしてとても感動した作品で大満足です。(☆9+好み)

過度に期待されると思っていたのと違うという評価なりそうなので最初にターゲット読者をお話しますと、本書はライトノベルやファンタジーが好きな人向けです。
ジャンルもミステリの手法を用いた勇者の物語という所です。ミステリとしての仕掛けに期待するお話ではありません。ただタイトルにある通り『誰が勇者を殺したか』という謎から始まるミステリー要素の扱いが巧く、とても惹き付けられる読書でした。ミステリーを用いていますがその効果がミステリ作品としてではなく、勇者物語を深める為の目的に使われているのが巧い作品でした。

物語は魔王が倒された後のお話。勇者は魔王を倒したと同時に帰らぬ人となった。かつて仲間だったパーティーに勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。誰が?何故、勇者は死んだのか。という流れ。

本書の巧い所はインタビュー形式による群像劇と再検証ものの構成。インタビューワーと読者が同じ目線になっており、各人物達の視点から徐々に勇者の姿が見えてくる構成が面白い。そして語り方や描き方の文章が巧くて心に響くポイントが豊富でした。本書あとがきに著者のコメントがありましたが、本書の根底にある著者の熱い想いがしっかりと込められているのを感じました。作中にあるセリフ1つ1つに心を動かされる理由がわかりました。これはある種の気持ちの比喩の物語であり見事に作品に昇華されています。

表紙や挿絵も作品に適していて良かったです。
ラノベレーベルだと変に読者に媚びいったものがあったりして外で読むとき開き辛かったりするのですが、本書はそういう事はなく表紙含む作品の世界を引き立てるイラストとしてとても良いものでした。

元々はなろう系のWEB小説だったと知り読みに行きました。比較すると本書にて追加された最後のエピソードがより一層作品を良いものにしています。素晴らしいエンディングで本当に大満足の読後感でした。ラノベ系のミステリーやファンタ―ジー好きにはとてもオススメです。

中身の感想はネタバレで。

▼以下、ネタバレ感想
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誰が勇者を殺したか (角川スニーカー文庫)
駄犬誰が勇者を殺したか についてのレビュー
No.667:
(3pt)

シャーロック+アカデミー Logic.2 マクベス・ジャック・ジャックの感想

シリーズ2作目。前作は必読の続き物のシリーズです。
1作目は面白かったのですが本作については読み物として苦しいのが正直な気持ちでした。

孤島全体にホログラム処理され、見えるものが実在するのか映像なのか不明な状況で起こる事件。
ファンタジー小説なら幻惑魔法がかけられた状態。SFならVRなどゲーム内で起こる事件とイメージすればよいです。
アニメ化など映像化されれば映える画になると思うのですが、文章から現状がどういう状態なのかイメージがわかず辛い読書でした。おそらく著者の頭の中のイメージを勢いよく描いたと思われる文章であり、構成や校閲が煮詰まってなく感じました。状況把握が読みづらい為に事件が起きても盛り上がらず、登場人物達がどこで何をしているのか、今は誰の視点の文章なのかちんぷんかんぷんでした。

一方キャラは活き活きしていました。特に表紙左のフィオ先輩。というか本書はフィオ先輩の色々な側面を魅力的に描きたかった作品であるとも感じます。ライトノベル特有のエロ可愛もいい感じで、学園ものの主人公を狙うハーレム要素が面白さを期待させます。あとラストのとある人物の続投の構成は面白い。仮に本書を読まずに1巻→3巻と読んでも違和感がない登場人物構成になるのは見事でした。ただ言い換えると本書単体では突然の意外性を作ってみただけとも感じてちょっと雑で勿体ない。キャラや物語の内容は好みなので今後に期待です。

▼以下、ネタバレ感想
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シャーロック+アカデミー Logic.2 マクベス・ジャック・ジャック (MF文庫J)
No.666:
(8pt)

テロリストのパラソルの感想

有名な故に積読していた一冊。何となく内容を知ってしまっていた為読んでいなかったのですが、これはちゃんと読んで正解の一冊でした。

冒頭からの爆発事件がいきなりクライマックスかの如く盛り上がり、そこからどんどん謎や怪しい人物達が登場して先が気になる読書でした。キャラクターが本当によくて、主人公はもちろん周辺に出てくる人物達も人としてどんな姿かリアルに存在する感覚がとてもよい。
ミステリーとしての構造も世界の広げ方が想定外の所へ行くのも素晴らしいし、ちゃんと収束させる物語なのが見事。30年ぐらい前の作品ですが今読んでも楽しめます。

扱う内容がちょっと重めのハードボイルドなので好みが分かれそうな作品ではありますが優れた作品である事は確か。江戸川乱歩賞の作品群の中でも飛びぬけているなと感じます。とても面白かったです。
テロリストのパラソル (講談社文庫)
藤原伊織テロリストのパラソル についてのレビュー