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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数745件
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小学生のひと夏を描いた作品。
この著者はライトな雰囲気にミステリ仕掛けを取り入れる作風ですね。1作目は七不思議で本作も不思議な伝説が出てきて少しファンタジー寄り。それらを踏まえて素敵な青春物語を描いています。1作目同様に終盤のまとめがとても惹き込まれました。 個人的好みとしては、中盤までは小学生の夏休みの生活に大きな起伏がない為に少し退屈でした。ただ、後半からの結末と読後感が良いです。これは1作目と同じ。著者の傾向が分りまして他の作品も読もうと思います。好みです。 本書は殺伐さがない小学生が舞台なので、小中学生向けのライトなミステリとしても紹介できます。 夏休みらしい友達との思い出。楽しさと切なさ含めて綺麗にまとまった作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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これは傑作。
ルポルタージュを用いたミステリとして素晴らしい完成度でした。報告文学のミステリを体験したい場合、本書は非常におすすめです。 『出版禁止』シリーズとして2作目となりますが、前作を読む必要はありません。本書単品で楽しめます。 シリーズ共通項は、"作者の長江俊和が実在する事件のインタビュー記事や資料をまとめて世に出した。"という体裁の作品です。1作目の『出版禁止』では報告書を読んでノンフィクションの事件を体験する怖さを味わえるのですが、真実が結局わからずモヤモヤするリドルストーリー作品でした。面白い試みでしたが、読者が深読みしてどれだけ楽しめるかという読み手の行動に委ねられる作品でもありました。そんな訳で2作目は敬遠していましたが、世の中の評判から読んでみると当たり。前作の不満点が解消され、真相が書かれていなくても、全てを読むと真実が見える作りとなっています。このバランスが巧いです。 個人的好みですと最終章『渡海』はカットするか袋とじにした方が謎の難易度が上がってより話題になっただろうなと思いました。ただ著者ファンを広げるにあたり、普段ミステリを読まない読者層を視野に考えると優しいぐらいが丁度良いかもしれないとも思う悩ましい匙加減を最後に感じました。 というわけで、前作読んでいるが結末が好きになれず2作目を躊躇している方は手に取って損はないです。 ルポルタージュ形式について。本書は必然ある作りに唸らされます。 小説における、作者=神の視点で正しい真実が書かれる約束が、他人の記事をまとめたもの設定により信憑性が薄まるのです。前作はノンフィクションを装う効果が主体でしたが、今作はそれプラス、ミステリの楽しさに繋がっています。読者はいくつかの記事を読んでいくと書かれていない繋がりに気づく事でしょう。作者=神の視点ではなく、読者=神の視点となる作品なのです。読んだ方はわかると思いますが、この感覚が非常に面白くて、どんどん謎が頭の中で繋がる感覚を得る為、読むことが止められず一気読みでした。 また、視点を変えて本書のルポ形式について感想を述べると、単体のルポだけでは真実が見えない危うさを感じます。世の中のTVや新聞で垂れ流されている日々の事件のニュース。それ単体は偏った報告であり真実とは限らないのです。そういう風刺も感じました。 雰囲気としては事件の記事なので重いです。そこだけは万人に薦められるものではないですが、必然的なルポ形式で完成されたミステリは他にパッと思いつかないのでこの手の作品を体験したい方へは非常におすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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人工妊娠中絶と監禁拷問を扱い、独特な生と死の世界観を描いた作品でした。
主人公の医師は表と裏の生活があります。 表側は法的に問題ない殺人に近しい中絶を専門とする医師の生活。中絶をテーマに生き残った子と生まれなかった子の違いやその選別の考えを読ませます。裏側は医師の目に留まった被害者を監禁・拷問する話。表と裏の生活において、どちらも生と死のタイミングは医師に委ねられます。どちらも命を奪う行為ですがその違いは何なのか。中絶理由や被害者のエピソードを読むと妙に納得しながら読んでしまう。このバランス感覚が巧く、理不尽で異常な行動なのですが、殺人鬼の主人公に少し共感してしまったり、価値観が魅力的に見えてしまう怖さがありました。 扱われる内容の文章表現が淡々としている為、気持ち悪くもならず、むしろ爽やかさを感じる読みやすさ。 医師の意味通りの確信犯的行動に惹き込まれた読書でした。 生きているのも死んでしまうのも些細な切っ掛けやタイミングかもしれない。 殺人医師は殺人を犯すが、生き残った子には嬉しそうに生き延びてよかったと話すギャップが印象的。本書の捉え方や考え方によっては、生きている事は素晴らしい事で自由に行動できる良さを示しているのかもしれない。そんな解釈も感じました。 |
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非常に面白かったです。
科学が発達して情報がグローバルになった現代において、超常現象や妖怪を扱うホラー作品の存在意義が悩ましい中、本作はそんな思いを払拭する出来の素晴らしい作品でした。 全体像は妖怪のホラー作品なのですが、構成やミステリ的な伏線の繋がりが刺激的に配置されている為、ホラー×ミステリとも思えます。 3章構成になる本書。1章目は「ぼぎわん」という謎の存在との遭遇。まずこの「ぼぎわん」という単語の発明が巧いです。まだ未読ですがシリーズ作品のタイトル名を見ると「ずうのめ」「ししりば」「などらき」といった不気味に感じる単語が並びますが、こういう音を作るのが巧いのです。文章も読みやすく展開も早い為、不気味な存在で読者を不安にさせるホラー文芸を楽しめます。開始数ページで一気に惹き込まれました。1章目は面白いホラー作品の良いとこ取り。余計な説明なしで一気に疾走する面白さがあります。 2章目は視点を変えて物語を見つめなおします。この構造が新鮮でかつ発見的な為、違う魅力で惹き付けられました。 事件の真相を解明するミステリ小説のように、化け物の存在理由を解明したり、関わる人の内面を覗いたり、名探偵のように頼れる存在がでてきたりと、現代的なホラーは悪くないと思えた作品でした。 |
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アイゼイア・クィンターベイ。通称IQ。探偵役となるこの黒人青年は非常に魅力的でした。一見冷めた性格のようで内情は熱い一面もある。彼の行動を読む所はとても楽しめました。
個人的に馴染みのない黒人社会が描かれており、会話テンポのノリやラップ調なども含めて新鮮な世界観でした。ただ、文化的内容と事件が密接に絡んでくるかというとそういうのではないので、事件外の内容が楽しめるかが好みの別れどころかと思います。自身があまり興味を持てなかったのでノイズに感じたり頭に入らなくて楽しみ辛かったです。 シリーズ化を狙った1作目の為か、主人公の過去や伏線的に気になる内容が未解決で幕を閉じているのも気になるところ。1作で完結しているものが好きなので、色々と好みと逸れていた作品でした。 |
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「嘘」をテーマとした青春物語として大変良かったです。総じて優しさを感じる読書なので「嘘」という騙しを扱うとしても嫌な気持ちがない読書でした。成長物語+ちょっとミステリーぐらいな感覚で読むとよいです。☆8+1(好み補正)。
主人公は嘘が分る青年。彼の視点では世の中は嘘だらけ。相手の偽りの言葉を目にしてしまう人生から少し卑屈になり、他人とは距離を置いた生活を過ごしています。そんな彼が気になる子は全く嘘をつかない少女。その少女から友人の自殺の真相を知りたいと相談を受けます。手がかりを握るのは学園のアイドル。ただし、彼女の言葉は嘘ばかり……。その彼女の言葉から真実を見つけようと行動していく流れ。 出版レーベルやラノベの雰囲気から、能力ものだったり賑やかなラブコメを予感させますが、そんな事はなく文学寄り。副題に"攻防戦"とありバトルを想像していましたが全く関係なし。実際は嘘をテーマとした現実的なちょっと重めなストーリー。嘘が見抜ける事で父親との面と向かった会話ができなくなっている家庭の悪い状況や友人との距離感といった暗澹たる心情を読ませます。そこから、嘘をつく/つかないヒロインと関わることで「嘘」についての色々な一面を学んでいきます。嘘が分る話なのに、相手の心の中の真実が見えない。登場人物達の心情の描き方がよくて惹き込まれました。事件の真実が徐々に見えてくるのと並行して、登場人物達の心情も見えてくる展開が良い。 葛藤や心苦しいエピソードなど、何度かわだかまりを残したままのエンディングを予感させつつ、大団円へ到達する流れも良い。これは恋愛アドベンチャーゲームのトゥルーエンドに到達したような読後感した。終わり方が素晴らしく好み。 ファミ通文庫からという事で、その層向けのイラストもよく、恋愛アドベンチャーも青春ミステリも好きな方へは特におすすめです。 |
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著者作品は初めての読書。デスゲームなのに非常にサッパリした作品。
命のやり取りなのに鬱屈さはなし。どちらかというとギャグ・エンタメ寄り。頭脳・心理戦も軽い感じです。 だからと言って物足りないわけではなく、これはこれで面白い物語。設定がどうこう言うのではなく物語のテンポと展開を楽しむ感じでした。 デスゲーム内容は非常にシンプル。誰もが知るババ抜きです。ルールで読者が置いてけぼりになる事はありません。イカサマありのババ抜き。勝てば大金、負ければ死。この設定ですと、相手との頭脳戦や心理戦を楽しむ話かなと思う所なのですが、ゲーム内容の描写はほとんどなくパパっと決着がつきます。攻防に期待すると肩透かしをくらいます。なのでゲーム内容を楽しむというよりゲーム参加者の物語が見所になります。なぜゲームに参加するのか。各々の目的は何なのか。そこが見所です。 "女王ゲーム"の名前通り、女性側がなかなか個性的で良かったです。特に主人公の恋人役の今日子が面白いです。この子が関わると何が起きるのか。どう話が進むのか。そっちの方が気になって楽しみました。 デスゲーム系は好みで、著者作品はサクッと読める事がわかったので他の作品も手に取ってみようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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アリバイ崩しに特化した7つの物語の短編集。
200ページ台の本なので1話辺り30ページ程度。サクサク読めます。 本書は、著者の特性と時代の隙間産業的な戦略が見事にマッチした作品というか商品に見えました。 どういう意味かと言いますと、まず著者の作品は物語よりもトリックや仕掛けが主立っている傾向にあります。30ページ代の短い短編の中には、登場人物の紹介は無し、動機や舞台背景もなし、事件と容疑者の状況説明が書かれたシンプルな問題文章。そして、隙間産業というのはアリバイもの小説が近年減っているというかほぼない状態である事。そんな市場でアリバイ崩しに特化させた作品を世に出したタイミングが巧いと思いました。 さて、個人的にアリバイもの作品は好みではありません。 時間軸における登場人物の居場所を把握したり、数分程度の時間を頭に入れて読むことを求められるので疲れるのです。一昔前の時刻表トリック含む、アリバイを扱う作品ってなんだか古臭いイメージがあるのです。 ですが本書の良い所は、アリバイものが把握しやすい短編であり、短編なので著者のトリック主体が活き、さらに探偵役は女の子となっており、ラノベ風...もとい現代風になっていて読みやすい事。ここは好感です。 …という具合でして、難を敢えて言うとトリック集です。深みを感じたり強烈な驚きを与える事はありません。解答編も推理ではなく答えを直接提示される感覚です。人によっては物足りなく感じると思います。ここらへんが好みの別れどころになります。個人的に印象に残る作品がなかったのが残念。 |
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自殺サイトを介して集団自殺を目的に廃病院に集まった12人の少年少女。自殺を実行しようと思う矢先、予定外となる13人目の少年の死体が発見される。
彼は何者?何故死んでいるの?自殺なの?殺されたの?このまま集団自殺してよいのか?...と議論していく流れ。 最初の印象は映画『十二人の怒れる男』ですね。そのパロディで日本では『12人の優しい日本人』という作品があります。本書もこの流れを汲んでいる1作となります。これらの作品が好きな人は全体像や結末を感じながらの読書となります。予想や流れを知っている事については良し悪しありますが、それ系の作品です。 本書の難点を先に述べると、12人の登場人物および舞台の把握がし辛い事。序盤は誰が誰で何処に何があってというのが頭に入らなくて大変でした。 映画では人物と舞台が視覚的に認識できるので12人ものの把握がし易いのですが、それが小説となると著者の力量や苦労を感じますね。近々映画化されるという事なのでそれは良い流れで面白そうだと思います。 本書はミステリ的な推論・議論が展開されますが、そこがメインというわけではなく、集まった少年少女の葛藤やドラマを感じる青春小説の印象を受けました。自殺をしたくなる程追い詰められた少年少女。学校という閉鎖空間で相談や頼れる人物が得られず、独り悩み苦しんでいる者達の集いです。予期せぬ死体の発見を切っ掛けに、想いを少しづつ吐出し、どうせこの後死ぬんだからと悩みもぶちまける。それぞれの死にたい悩みを聞いた反応は12人もいるので、同情する人、そんなことで?と呆気にとらえる人物も出てくる。隣の芝を青く感じたり、客観的に見えたり、価値観の違いを感じさせてくれます。12人の多人数設定が活かされる巧い作りだと思いました。同年代付近の学生の読者には、悩みの捉え方、考え方、こういう例もあるんだよと感じさせられるでしょう。ミステリ的な死体の議論と共に、少年少女の苦悩の議論を重ね合わせた構成がなかなかでした。 読後感は良かったのですが、中盤までしっくりこず。もっとドロッとした深みや感情むき出しの展開が欲しかったかな。少年少女の若い世代ゆえか素直な展開でした。 |
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学園ミステリ。
正直な所、これと言った特徴がなく感想が書き辛い。可もなく不可もなくという所。 主人公+男+女2の仲良し4人組が文化祭の実行補佐に命ぜられ学園の事件を解決する話。 仲良しメンバーの女の子、"鋸りり子"は元名探偵。なぜ元なのかといった名探偵を辞めた過去のエピソードや主人公との関係性が紹介されます。本作はシリーズ化を狙った1作目として登場人物達の紹介を兼ねていました。 物語の中盤を過ぎてからメインの事件が始まります。皆で事件を解決しようとする推理合戦が展開されるのが見所。最後に導き出された真実によるカタストロフィもなかなかです。 学園もの新本格ミステリとして気軽に楽しめる作品でした。ただ、何か印象付ける個性が欲しかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『このミス』の紹介で知りました。無意識に一般文芸書として認識していたのか、今まで視界に入っていませんでした。
こういう作品でミステリのランキングに入らないのが勿体ない。そして作家さんの事を調べてびっくり。宣伝先や情報源や読者層が違うのだと思いました。 ミステリとして見事な作品。夢中で一気読みでした。 本書の構成は、AGE22とAGE32の2冊が上下巻ものとして1セットです。 1冊の本ではなく分冊しており、"上巻""下巻"と表記せずにAGEで分けている所は、読者が時代をハッキリ分けて認識させる効果を演出していました。 AGE22の物語は、就活に失敗した22歳の光太がホスト人生を歩む話。 就活失敗の嘆き、自分を落とした会社への不満、家庭のお金の問題、恋人や家族との関わり。負の心情が溢れ返ります。 光太はお金の為に働かなければならず、金の魅力からホストという未知の世界へ入り込みます。この様子は分りやすい動機と共に、視点が読者の目線と合って描かれる為、面白く読めます。 夜のお仕事系のお話ではよくある展開ですが、読みやすさと嫌な感じがしない文章表現によって違った味が楽しめました。で、ホストの世界でとある事件が発生する流れ。 AGE32の物語は、その10年後の話。AGE22から順番に読みましょう。 上下巻もの作品は長くて苦手なのですが、本書は飽きる事無く楽しめました。その要因として謎と解決が何度も発生する事。大きな事件ではなく疑問や関係性の小規模な出来事なのですが、謎としての魅せ方や解決するテンポの良さが巧いのです。さらに、謎が明かされても気持ちが晴れる事なく、新たな謎に翻弄される展開がよい。いつの間にか社会の闇に触れているような怖さを感じました。AGE32を迎え、徐々に見えてくる人間模様や話の関連性は、ミステリ好きには伏線回収やどんでん返しといった姿として映る事になるでしょう。 必然性ある設定の数々が素晴らしかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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閻魔堂沙羅の推理奇譚の第4弾。シリーズものですが1巻読んだ後はどの巻から読んでも問題なしです。2018年で4冊一気に刊行したのは凄い。
今回の1話目『向井由芽編』は読者応募の犯人当てクイズが開催されました。 本シリーズの構成は問題編⇒推理編⇒解答編⇒後日談という構成なので問題編だけWEBに公開され、犯人当てクイズ企画が行われたのです。推理を楽しむ作品なので、読者への挑戦ものが好きならこのシリーズは楽しめます。 さて、今回クイズに応募した身でして、何度も繰り返し読んだので思い入れが強いです。正直な所、クイズとしてみると手がかりが希薄なのと、犯人特定のロジックが論理的ではなく登場人物の思いつきとそれが正しい前提なので納得し辛いです。詳しくはネタバレで書きますが、P75からの数行における容疑者選定は突然過ぎて後付けを感じてしまいます。推理の前提条件が被害者が知っている事からなのに対して、知っている情報ではなく推測の想像となっています。かつその想像が正しい前提で話が進むのです。これは深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』のような疑惑を感じる次第。。。 と、応募クイズとしてみると不満を感じる所ではありますが、物語としては面白くまとまっています。安定の面白さでした。 本書は短編2作+番外編(沙羅の日常)。いつもは短編3作なので少し物足りなさもあります。 番外編に関しては、沙羅の日常が見える楽しさとともに品が無くなっていく様に困惑ですが、沙羅のキャラはいいですね。ツンと優しさと説法の加減が魅力的です。 色々思う所を書いているわけですが、不満で文句というわけではなく、それだけ作品を楽しんでいるという事を誤解なくお伝え。推理が楽しめる小説は面白い。次回作も楽しみです。 ネタバレで自身の応募内容など書きます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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記憶ネタのホラーミステリ。
記憶を消すことができる新薬『レーテ』。その臨床試験の為に集められた被験者達が閉ざされた施設で7日間過ごす話。 各章は1日の出来事が描かれる。被験者は毎日記憶がリセットされる為、各章の初めは、同じような目覚め、同じような会話が繰り返される。が、そこで事件は起きる。そしてそれを眺める読者は前後日の不整合に違和感を感じていく……。 これは著者の持ち味が出ている作品で楽しめました。 デビュー作の『バイロケーション』のホラー&SFミステリから始まり『リライト』以降は繰り返しもの作品が世に出てきたわけですが『リライト』以降のシリーズ作品は分り辛く好みからどんどん逸れて行った為、著者作品を敬遠していました。 本作は単体作品なので久しぶりに手に取った次第。 読んでいて何が起きているのかわからない。記憶喪失者の毎日を眺めている読者。読者は全貌が見えている立場なのに前後の食い違いを感じ取り、読者自身も記憶が曖昧になる。なんだこれ?という良い意味で嫌な感覚が巧い。同じ事を繰り返している筈なのに何かがおかしい。『リライト』で味わった奇妙な感覚が、記憶喪失ネタの本作でも味わえます。 この奇妙な味わいを作風とみるか、文章力とみてしまうかで好みが分れる次第ですが、本作はなかなか楽しめました。 大仕掛けがあるわけではない。読み終わってしまえば理解しやすい単純な話。でも読書中はさっぱり意味不明で混乱。記憶ネタのホラーミステリとして面白い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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個人的に作者買いの一人。不思議な世界観と男女の心情や世の中との距離感を素敵な文章で紡いでいく小説としての良さがあり好み。本作も健在でとても素敵な作品でした。
記憶改変できる世界での恋のお話。 舞台は、サプリメント摂取のように薬を飲むことで架空の記憶を移植できる世界。楽しかった事、嫌な事、これらは記憶の中の思い出による感情であり、記憶の追加・削除により人生を豊かにしたり、欠落した虚無感を補える世の中となっています。記憶がテーマとした土台の上で、世の中から距離を持った青年視点の物語となっています。 偽物の記憶であるはずの幼馴染の彼女が現実世界に現れた謎はありますが、読みどころは青年の心模様。人を信じられない卑屈な動きにヤキモキしますが、極端な例により孤独感や拠り所となる彼女の存在をとても感じます。登場人物については基本的に孤独で悲観的で心のどこかが欠如している傾向があります。人生を謳歌していてウェーイ!という感じな人にはまったく刺さらなそうな作風なのですが、寂しさや心に傷を持ったりした時には染み渡る独特の中毒性があります。 相変わらずの他人から見たらバットエンド模様だけど当事者にはハッピーエンド…のような絶妙な物語。『三日間の幸福』とは違ったアプローチで、生き方や考え方を感じさせられました。 著者作品はアイディアも然ることながら独特の世界観とそれを表現する文章が好きです。 過去作を読んできてますが、今作は伝えたい大事な想いは前後に空白行を入れて強調したり、会話文をあえて増やしたり、または無くしたり、改行を取っ払って溢れ出す思いを描いたりと、多様な表現が目に留まりました。技術的な事はわからないですが、文章やセリフ回しが読みやすく毎回不思議な世界観に浸れる読書が心地よいです。 あと表紙の女性も綺麗。作中には出てきていない永遠の愛を意味する桔梗を持つ儚い女性。著者の作品に出てくる女性ってこういう脆さを感じる雰囲気でマッチしていますね。 久々の新作で早川レーベルになった影響もあるかもしれませんが、色々と洗練されより深く心に残る作品でした。よかったです。 |
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ゲーム世代のミステリ好きへはとてもおすすめです。
本作品は2016年にKindleで初刊行され今年2018年に加筆修正され書籍化したものです。Kindle版の初版時は誤字脱字が多かったみたいですが、書籍版を読んだかぎりでは気にならなかったので修正済みかと思います。ミステリの年末ランキングに載ってもおかしくない出来なのですがレーベル的に埋もれてしまいそうな勿体なさを感じます。これはとても好みの作品。☆8+好み補正+1。 ウィザードリー、ドラクエ等のRPGの世界を舞台とするミステリ。 空に浮かぶ天空城にて魔王討伐の為に集められた7名の見初められし者達。戦士、格闘家、魔導師、法術師、鑑定士、盗賊家、魔物使い。RPGお馴染みの4人パーティーを結成すべく、7名から勇者に同行する3名を選抜する試験を行う所、殺人事件が発生してしまうという流れ。空に浮かぶ天空城へのアクセスとなる魔法陣は機能が失われ空の孤島となるクローズド・サークル舞台。動機は?そして犯人は誰か? 本作の特徴的な点は各職業の能力と装備可能武器の設定を活かしたミステリであるという事。 ・戦士は全ての武器が使えるが魔法が使えない。 ・格闘家は武器が装備できず拳のみ。打撃可能。 ・盗賊家は短剣は装備できるが、剣や棍と言った重い打撃系武器は装備できない。 といった具合。 部屋の荒らされた状況から打撃系の道具を扱える者が容疑者であると推測したり、殺害方法から刃物が使われていると推測される為、刃物が使えるのは誰なのか?他に方法がないのか?と言ったミステリ模様の推理・検証をしっかり行われているのが面白いです。 また良い所はミステリ要素だけでなく、キャラクターも印象に残ります。文章量にして数ページだけなのですが、各キャラクターの背景・心情の入れ方が巧いです。主人公はもちろんの事、特に女格闘家のエピソードは心に残りました。連続殺人事件が記号的に扱われるのではなく、人を感じ、物語としても魅力的になっているのが良かったです。さらにRPGにおける世界平和とは何なのかを示したエピソードが心に残りました。 あえて難を言うなら、ミステリとしては後出し設定が多い事。完璧なミステリを求める人には手がかりが後で出てくる流れが引っかかると思います。RPGの世界だから何でもあるっちゃあるけどモヤモヤ。。。というのは多少あるでしょう。評価もミステリとしてみるか、物語としてみるかで評価は分かれそうです。自分は気になる所はありますが、RPG舞台でのミステリの面白さが純粋に楽しく、細かい事はおいておいて満足できました。終盤の展開と結末も見事です。 続巻の方も評判が良いので書籍化したら手に取りたいなと思います。ゲーム世代のミステリ好きへはとてもおすすめです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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非ミステリ。青春SF小説でした。
書店で積まれて目に止まったのと、広報・帯で泣ける!という宣伝につられて購入。 中身はそういう泣ける話ではなかったので、期待と結果がそぐわない過剰な広告で残念な気持ちを得つつも、物語は面白かったのでそういう本との出会いもいいかなと思う。表紙綺麗ですね。 物語は人間の神経と直結して五感を再現できるデバイスが存在する世界。空間上に配置された物体はそこにあるように見え、触れるし、食べれるし、味も再現可能、そのように脳が認識する。その原理となる説明も大規模演算するのではなく、入力と出力のデータベースを用いて再現しているだけという近未来でできそうな設定も巧い。ほんの少しだけの近未来という感覚がよく、舞台となる現代の街の漁港と重なってもそんなに違和感なくイメージできました。舞台作りはとても良いです。 一方、SF・ゲーム・アニメ的な感覚がないと、文章を読んでもスフィヤやデバイス操作など細かい表現はないので、想像し辛い内容であると思いました。アニメ映画で見てみたいです。 本書、実は恋愛ものではなく、〇〇物だったという流れは帯とは違うじゃん!という気持ちでいっぱいなのですが、ここ数年における世界の流れに合った作品ともいえます。夏の物語の定番は、主人公の成長物語。出会いと別れ。今とは違う所への旅立ち。これらの要素が近代SFのオリジナルな世界観でうまく描かれ楽しめました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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トレーラーハウスに閉じ込められた男女9名に襲い掛かる罠。シチュエーションは面白い。よくある孤島や洋館に閉じ込められるのとは違い、各自は何処かへ行くことができず、まとまった状況を作り出せる。ここまでは良い。
ただ、狭苦しい室内で罠を仕掛ける作品を作る事を考えると、打撲系なら物が落下、刺傷なら画鋲という具合に扱える道具が限られており、かなり地味になる印象が拭えない。ホラー作品なら、水攻め・毒ガス・感電・虫・襲い掛かる刃物でバッサリ。なんて具合で痛さや恐怖を演出して惹き込めますが、本作品はホラー的な恐怖はまったくなく、地味で罠もぬるい為に緊張感がありませんでした。罠については、手足を洋服や小物でくるんでみたり、針なら叩いて潰せば回避できるんじゃない?とか読者が回避方法を色々想像できてしまう内容。そういう事が出来ない状況設定や説明が本書にはないので、作り手が意図しない方向へ読者が勝手に想像してしまう誘導ミスの粗が多く気になりました。 読んでいて作者が違うのかな?と感じる次第。ただ、突然な動機設定や企業エピソードを盛り込んでくるのは著者らしさを感じますのでやっぱり本人かと思う次第。んー。。。この当時、忙しかったのかな。そんな事を感じる作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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メフィスト賞受賞作。かなり尖がっている奇抜な作品でした。
ライトノベルではお馴染みの『異世界転生』ジャンルを用いたメタフィクション小説。作者・読者・現実世界・空想世界を認識し、影響まで起こせるような構造設定となっています。この世界観の作り方がとても巧い。 あらすじにある通り、主人公は小説投稿サイトに小説を投稿している作者。自分の作品世界と現実世界を行き来できる現象に出くわします。自分の作品のどの章からでも入れるというわけではなく、序章から時間軸に沿って転生できます。自分の書いた小説通りに話が進行するので未来がわかる神様視点の作者。姫と良い関係を築いている所で、姫の母親が黒騎士に殺されてしまうシーンを書いている事を思い出します。姫を悲しませないように、現実世界へ戻り小説投稿サイトの編集機能で内容の変更を試みるわけですが、ここの構成はSFやセカイ系作品でおなじみのタイムパラドックス・過去改変物なのです。 現代的な要素を用いて、やりつくされた感がある古典の再構築というのはとても素晴らしく刺激的でした。で、単純な過去改変作品というわけではなく、現実世界・小説世界を認識する作者。そして投稿サイトの存在や本書を読む読者の世界などなど、世界の階層構造が本書によって一体化するような不思議な作品だと感じました。メタ構成の作品は世の中いろいろありますが、本書は現代的な要素を用いた新しさを生み出しています。 正直な所、最初の数ページの文章の砕け具合を読んだ所では好みに合いそうにないと感じる読者は多いと思います。立ち読みでサラッと数ページ読んで違うと思って買われなさそう。そんな出だし。ラノベやファンタジーの「設定」に許容がある必要もあります。ただ、奇想の変わった作品に触れてみたい方にはアリかと思います。 その他思う所として、読書中は舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』を思い出しました。駆け抜ける世界のごちゃまぜと、細かい事を気にさせないで一気に収束させちゃう流れ。あんな感じをライトに楽しめた作品でした。好みは人それぞれですが、奇抜な『メフィスト賞』をとても感じさせる作品で記憶に残ります。なんだかんだで凄いものを読んだ気がして面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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分厚い本なので読むのを躊躇していました。読んでみると一気読みであっという間。
社会的な問題を盛り込んだ本書は一見難しそうに感じますが、ストーリー作りや読みやすい文章なので苦に感じません。著者の力量を感じます。 女性一人の人生を通して、家庭崩壊、貧困ビジネス、保険金、売春などなど、不幸と転落の数々を描いていきます。読書の良さとは人の人生を体験し学べる点がありますが、本書は数人分もの物語を体験した感覚でとても刺激的でした。特に保険金や貧困ビジネスについては仕組みの勉強になった気分でした。 社会的な側面がある一方、ミステリの物語として殺人事件を絡めてより飽きさせない作りにしているのは巧いです。著者の『ロスト・ケア』も好みですが、同様に読書中は社会問題を読ませる物語として楽しみ、読み終わってみると構造がミステリになっており作り方や技法に唸らされます。 総じて雰囲気が重い本ですし、ページ数も多めなので躊躇してしまいますが、ミステリ好きなら一読の価値があります。 社会派として扱うテーマが盛り沢山で、ミステリとしても伏線や構成の妙を楽しめる素晴らしい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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