誰も死なないミステリーを君に
- クローズド・サークル (178)
- 予知能力 (5)
- 孤島 (123)
- 死なないミステリ (100)
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点6.00pt |
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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死ぬ人が分かる少女と、その能力を参考に人を死なせないように行動する僕のお話。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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ほどよく制約の付いた予知能力持ちのヒロインがよき理解者である探偵役な青年の協力の下、ふたりで奮闘する「人の死なないミステリ」ならぬ「人を死なせないミステリ」です。 「人を死なせない」が具体的になにかと問われれば、事件が起こる前に要因を探り出して事前に予防するからだったりします。一般的なミステリの、事件が起こってから犯人探しをする体裁に則っていません。 いってしまえば主客転倒ですが、このようにわりと斬新なプロットこそが本作の特徴なのでしょう。 で、さっそくですがみなさま。このタイトルと表紙なら悲愴な雰囲気を期待するじゃないですか? ところが本作、翳だけが目立つわけではなく主人公の「佐藤くん」と「志緒さん」のとぼけた掛け合いも魅力なんです。いわゆる特殊設定ミステリですが、ユーモア・ミステリの素養もあるのかもしれません。 もっとも、作中で被害者候補に迫る死の影自体は本物なのですけれど。 「日常の謎」路線とは要素は被りますが、間違いなくそれそのものではありません。 でも、ムードとしては軽快なのです。バディ主人公の名前が「砂糖」と「塩」とかかっている通り、志緒さんは佐藤くんに塩対応ですし、対する佐藤くんの方も砂糖のように甘いのですがそれだけではなくて……。 ……このふたり、性別の組み合わせは二歳差の男女なのに、恋愛とはほど遠いというか。少なくとも友人であることは間違いないのですが、名状しがたい関係性なんですよ。簡単に言ってしまえばヘンテコです。 ふたりの会話からは絶妙に緊張感が抜け落ちているのでした。でも「放置すれば人が死ぬ」という情報と切迫感はきっちり共有されています。それでいて会話そのものは知性的でユーモラスなのが不思議だったり。 本人たちは(たぶん)真面目なのになぜか生まれる脱力感、それが読者に伝播するのはほぼ間違いないことでしょう。書き方を変えれば、主人公の過去を軸にもっと痛々しい雰囲気にできたと思うんですけどね。 しかしあえて作者はこう書きました。主人公コンビ(特に佐藤くん)の奇妙に図太く、たくましい姿勢から読者諸氏は勇気をもらえます。ならば、人が死ぬかもしれない事件の真相を共に追いかけていきましょう! ところで志緒さんの特殊能力について改めて触れておきますと、人の死の予兆を視覚で感知できるというものです。具体的には顔に走る黒い線「死線」を介して死亡時期を段階的に推測できるわけです。 冒頭で申し上げた通り限定的な予知能力ですね。死亡時期は読めますが、死因はわかりません。 この場合、寿命(老衰など)以外なら適切な対処さえすれば死の可能性を回避できるようです。 もっとも事故か自殺か、あるいは他殺か……!? と、いったレベルから探り当てないといけませんが。 とは言え「死」の原因という変動パラメーターも、共通項を見つければ何とか対処も可能になるもので。 そんなわけで、今回の事件では同じ高校の文芸部のメンバーだった四人が一気に死ぬ可能性が浮上します。 (※その前に基本ルールを説明するチュートリアルな短編もありますが、そちらもいい話でした。) カギを握るのは数年前に発生した文芸部員転落死事件、こちらの死因も不明です。真相はどうであれ、過去の事件とこれから起こるであろう事件、ふたつの事件が密接に関係していることは間違いなく……? ところで話は変わりますが、展開の幅を広げるために、創作作品ではお金持ちをメインキャラに入れておけというセオリーがあるそうですね。 よって、実はお嬢様な志緒さんと実はビンボーな佐藤くんが共同でたくらみます。人を死なせないための箱庭として孤島を用意します。かつての文芸部の面々は揃って、ここに招待されます。これで「5W1H」のうち最初のふたつ「いつ(When)」「どこ(Where)」は我々のものです。作者読者共々喝采しましょう。 冗談はさておき。可能性を広げるのは前途有望な若者にとっては好ましいことですが、死の可能性についてはなるたけ狭めた方がいいに決まっています。これはきっと妙手ということでした。 それと「クローズド・サークル」を事前に事件を防ぎたい探偵役が用意するという逆転の発想については、作中においてもすてきな諧謔が弄されています。ここでは私はノーコメントということで。 とりあえず、裏表紙に書かれたあらすじの範囲内でネタバレに抵触せず本書の内容や雰囲気について紹介すると以上となりました。以下の記述ではネタバレが混じりますので、ここでひと呼吸おきます。 ・ ・ ・ さて。 現在「誰が四人を殺そうとしているのか?」、過去「誰が“彼”を殺したか?」。 前述の事件ふたつが明確に「殺す/殺した」と断言され→「じゃあ、犯人はだあれ?」というお題が一同に提示されます。話だけ聞けば唐突ですが、読めば腑に落ちる実際の流れはご自身の目でお確かめください。 とまれ、設定されたシチュエーションの巧みさもあってか「佐藤くんたちを含めた招待客」=「程度の差こそあれ転落事件に関わった面々」は、全員推理ないしは罪の告白を強制されることになってしまいました。 関係者たちの仮説がぶつかり合い、ミッシングリンクが明らかになり徐々に真相に迫っていくとして。 現状迫りつつある死の予兆との因果関係も不明な中、あえて志緒さんは身を隠します。 推理が披露されるたび事態は刻一刻と移り変わり、最後の手番として取り出される志緒さんの告白も虚しく響く中、佐藤くんが最後に披露した、苦さよりむしろ甘さとしょっぱさが両立した推理の行く先は――? 以上。 推理小説としては、不可解状況を活かし、なぜ“彼”が死に至ったかを巡る物語性に焦点を当てています。 併せて、キャラクター然としてライトな文体を活かしつつも、主要人物の内面をしっかり掘り下げることで物語に深みを与えてくれました。 先述した掛け合いにしても、それによって速やかに状況把握と情報整理を進めてくれる側面もあるので、けして冗長ではないところも魅力です。主人公コンビを含め、事件に関わる面々を「七人」に絞った上で、しっかり特徴づけて好きにさせてくれるのは実にフレンドリー、読みやすくってたまりません。 また、少なくとも状況説明力に関しては、昨今のミステリの中でも相当上位に入ると愚考する次第でした。 加えて、遊びのエピソードを多数用意し無法図に話を広げたようでいて、全体を見渡すとほとんど無駄がなかったりします。結末めがけ収束させた構成力の高さも見逃したくないですね。 最後に二重三重と重ねる結末の上塗りは忙しくも、さまざまな角度から救いをもたらしてくれて心強い。 それから佐藤くんと志緒さんはバディを組んで長いと明言されていますが、今回の事件は改めてふたりの出会いを見つめ直し、原点(オリジン)に迫るという性質を持っていたりします。 結果として「ボーイ・ミーツ・ガール」を描くエピソードゼロを、いきなり持ってこれたのは心憎い。 後知恵ですが、蓋を開けてみるとシリーズ第一作にしてこの出し惜しみのなさというのは頼もしいですね。 反面、謎解きは組み合わせの妙といった感じなので万人が認めるような劇的さや盛り上がりには欠けているかなとも思いました。与えられた材料がカチッと噛み合う快感は間違いなくミステリでしたが。 また、一見すると通り一遍な会話から紡がれる、確かなユーモアセンスはミステリならでは感満載だったりも。本作は、キャラクター小説とミステリ小説が高次に両立しているといってもいいのかもしれません。 ゆえに、謎解きはフェアですし、難易度もいい意味でそこそこですかね。 不可解状況がなぜ発生したかについての情報は読者にはきっちり提供されていますし、未読の方にはぜひとも挑戦していただきたいところです。私の場合はギリギリ当てられたと思うのですが、ちと至らずでした。 では本当に、最後にネタバレを言っておくと本書はハッピーエンドです。 このワードはネタバレ防止の観点から本当は持ち出したくはなかったのですが、感想としても紹介としてもこの言葉を抜きには語れないので、あえて「ハッピーエンド」と豪語しておきます。 もっとも、過去の事件がまごうことなく「死」で締めくくられていることは確かです。死は、関係者の心に少なからず傷跡を残しました。だから茶化しを抜きに、真正面から真摯に向き合うことを迫られる。 それらを踏まえて佐藤くんは、残されたものの心を救う形で真相にまつわる言葉をほどいていったのです。 と、まぁ。あまり身構えて本作を読むのもなにかなと思ったので、レビューの前半ではウリとしてユーモラスなところを持ち出させていただきました。それらも間違いなく、この作品の本領であるは確かですし。 だからと言って、そちらのムードに安住せずオンオフをしっかり付けられたはお見事、というわけで。 続刊では塩対応な志緒さんの、死線にまつわるルールの深掘り、あとふたりの天然ムーブがさらに冴え渡ります。よってご興味が惹かれた方は振るって二巻、三巻へとお進みくださいましたら幸いです。 -HAPPY END- | ||||
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人の死が分かるヒロインとその力を信じて知恵を絞る主人公のお話です。タイトル通り2人で"誰も死なない"状況を作ろうと奮闘します。ミステリー作品=人が死ぬを覆すテーマですがその過程がとてもおもしろく書かれていました。 事件や謎はしっかりとしているので質の高いミステリーだと感じました。次巻も読んでみたいと思える作品です。 | ||||
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ネタバレ注意です。志緒が金持ちであることを決定づけるエピソードがあれば、尚良かったと感じる。佐藤が「派手な展開でなくていい、死人を出さずに丸く収まるように」といった保険をかけていた。その点が斬新だった。結末が佐藤の言った通りになるのかは、是非読んでいただきたい。すんなりと頭に入ってくる淀みの少ない文章で良かったです。 | ||||
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怖い、難しい、ややこしい、そんな理由はこのミステリーには当てはまりません。 登場人物の描写や丁寧な文体、想像しやすい話の進み方で、ミステリーを楽しめます。 どちらかと言うと上品な感じなので、普段ミステリーをあまり読まない人はもちろん、女性に特におすすめだと思います。 佐藤と志緒の二人が誰も死なないように奮闘するお話です。 本作は「誰も死なないミステリー」をと堂々とタイトルに持ってきているので、 ではミステリーが好きな人向けに、 人が死なない話だと刺激にかけるのでは?と思うのかもしれませんが、 その刺激の代わりの、「ちゃんと死なないのか」、「ちゃんと死なないように持っていけるのか」、 「ではどうやって?」、のハラハラ具合が刺激となり十分手伝ってくれます。 主人公の佐藤と志緒が、「ちゃんと死なないように」、 丁寧に(時には全力で)日々をつづるのを見させてもらっている感じです。 普段あまりミステリーは読みませんが、人が次々死ぬ話や、猟奇的な話は たくさん読んでいると辟易してくるのですが、そんな話にももちろん人の情はあり、 その情との犯行の落差がクライマックスの楽しみの一つでもあります。 この作品は死なないように奮闘する二人の人間性、そして落差というよりは情に、犯行そのものではなく人間に、 フォーカスが強めになっている印象で、より温かさを感じました。 普通のミステリーっていや、どんなに理由があっても殺してますやん・・・的な ほっこりはできないものを垣間見せられますが、それが非現実を楽しむということでもあるのですが、 本作はそういったベクトルではなく、 読者も、「ちゃんと死なないようにできるのか?」を見守ることで得られる楽しさがあります。 もちろんミステリー自体の謎を推察するのも楽しいのでそれは当然として・・・ 知り合いや伏線が唐突〜と書いている人もいますが、 現実から抜け出ててこの物語に入り込めば全然、気になりません。 むしろお話ってそういう面白さがないとな〜とも思うので、 いかに現実に起こり得そうかを基準に読んでいる人には向かないかなと思います。 そういった意味で、感情移入しやすい女性にはやはりおすすめかな! 人の死期が予兆できる志緒のミステリアス(本人に自覚があるかは別として)でもまっすぐな所、 そんな志緒のそばにいる佐藤の、志緒次第では何をしでかすかわからないところ(本人に自覚があるかは別として)、 まだまだ見たいので続編が読んで見たいです。 事件が起こったように見えない?のに、誰も死んでない?のにミステリーになりえるのか、 という読む前の疑問はどこへやら、読後しっかり楽しめました。 そういった意味でも目からウロコ的な面白さです。 | ||||
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著者の「きみの分解パラドックス」が好きで読みました。 誰かが死ぬのが分かってしまう少女と共に、そんな人たちを陰ながら救っていく少年の物語。 ミステリーとして新しいと思ったのは、主人公が犯人さえも救いたいと思っているところ。 犯人にも同情する部分があって、主人公たちは犯行を防ぐことで救おうとします。その気持ちがすごく優しい。 中盤からは意外にもスリリングな展開で一気読み。 最初から張り巡らされた伏線が丁寧に回収されていくのが心地よかった。なるほどなーって思いました。 「誰も死なないミステリーを君に」というタイトルですが、本当に誰も死ななかったのか。 最後のモノローグは感動。でも読後感はとても爽やかでした。 何度も繰り返して読みたくなる作品です。 | ||||
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