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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数738件
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世にも不思議な日常の謎。ブラックユーモアな短編集です。
最初の作品『宙の鳥籠』は、プロポーズ前の男女が二人の将来の為に解決しておきたい事があると、観覧車の中でとある出来事の話を始めます。観覧車1周の短い時間の密室の中で、男女の関係を推理・解決していく流れは、意識の中でタイムリミット、話を逸らせない緊迫感などを感じられて、コンパクトにまとまった短編ならではの良さを楽しみました。 その次の作品『転校』に至っては、全寮優等生学校で起きている、とある出来事を体験。これは1作目と雰囲気変わってブラックネタであり、全てを明かさずともラストで読者に意味が分かる黒いユーモアのさじ加減は絶妙です。個人的にベストです。 この序盤の2作品を読んで本作品の扱う物語が、「男女」、「ブラックネタ」が根底にあると感じました。 といいますか、これらは作者の過去作品から感じる要素でもあるので、作者らしさを感じます。 その他、自殺しようと現場に着いたら先客がいた『心中少女』。 家の中で殺虫剤を撒いたら化学薬品であったパニックもの&夫婦を描く『黒い方程式』。 が面白く読めました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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分類はミステリというより青春小説。
謎や驚きがなく、言葉を発せず解錠師となった主人公の成長を描く、ティーンエイジャー向けの物語。 本書は翻訳物ですが、とても読みやすかったです。 登場人物が、主人公、彼女と、その父親。あとは犯罪者数名ぐらいで少なく、カタカナ名でも人物把握は容易です。場面も主人公の身の回りなので混乱せず物語に没頭できました。 金庫破りの師匠ゴーストが、金庫は女として扱え。金庫を無傷で開けられるお前は芸術家だ。と、金庫破りの思考や、センスある表現を愉快に描かれているのが魅力的でした。原題もロック・アーティストと言うのが良いです。 若い主人公が他の犯罪者とタッグを組んで仕事をする時も、危険な目に合わず信頼をおいてもらえるのは、確固たる技術のおかげ。口がきけない、小僧といった弱みになりそうな点も確固たる能力があれば自信を持って立ち回れる姿に、何か感じる所がありました。 どんな鍵でも開けられる。でも声を発しない少年自身の心は閉ざされたまま。 なんとなくベタなのですが、それがとても把握しやすく安心して読める要素にもなってます。 ミステリとして読むと物足りなさを感じますが、 海外文学で青春物が読みたい方へは、とてもよい作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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個性的な自衛隊ミステリ。
自衛隊ならではの視点で戦争やそこに住まう人たち、民間との関わり方を触れていき、 そこで起こった事件を、謎の魅力、方法、調査、舞台の背景を知る、といった流れをミステリの様式でまとめてます。 事件は、射撃訓練中で起きた小銃の紛失ミステリで、人が死なないミステリとして読めます。 備品管理に徹底した場において、どうやったら小銃を無くせるのか、また何でそんな事をするのか。と、自衛隊特有の思考や場の状況で事件を考えて行くのが新鮮でした。 調査班の朝香二尉と野上三曹は、さながらホームズとワトソンの関係で、野上三曹の視点で朝香二尉の飄々した行動やここぞとばかりに魅せる知性に触れる点も楽しめます。 派手さも爽快さもなく、淡々と進むのですが、その流れが自衛隊の中の人々の描き方や緊張感にマッチしていて魅力的で好みです。ミステリ要素がメインではなく、それがきっかけで、そこに集う人々の気持ちに触れる事ができる不思議な印象を得られる作風です。 2001年の作品を今読んだわけですが、尖閣問題や朝鮮との関わりなどにも触れていたりと、今の世でも考えさせられるメッセージが生きているのに驚きました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作の双頭悪魔を読んだのは10年以上前で久しぶりのシリーズ読書。
間が空きましたがアリスやマリアが属する推理小説研究会の面々は相変わらずで、懐かしさと嬉しさがこみ上げました。 前作はマリアが幽閉、今作は江神部長が幽閉された?と研究会のメンバーが宗教団体の本部へ向かいます。次回作はアリスが行方不明かな。なんて思いながら読みました。 宗教団体の本部という日常とは違った空間で、信仰心や宗教独特のルールを用いた事件は興味をそそります。 UFOネタは今の現代では非科学的でミステリの謎にもならないですが、宗教と合わせる事で不思議な舞台を作っていると感じました。 過去の密室事件との絡みや、終盤の『読者への挑戦』付きのロジックによる解決は楽しいのですが、 そこに至るまでの上下巻のボリュームが個人的に長かった気持ちでした。 なんとなく印象に残るトリックや犯人などの真相があるわけではなく、いろいろな要素がまとまった感じでした。推理小説研究会の面々の活動が見れたのが楽しかったので、本作単品で読むというより、シリーズを読んできた人が楽しめる作品となっている気がします。 ※余談ですが、作者がPSPゲーム「トリックxロジック」に参加した作品「Yの標的」も宗教団体が舞台ですが、 本作の宗教団体の構想が活かされたのかなと思いました。ゲームの「Yの標的」は好きな作品なので、ふと思い出しました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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クラスメイトと共に修学旅行に向かう途中、急に場面転換。謎の空間に閉じ込められる。
状況が分からない中、人工知能から指示されたルールに従い過ごし始める。 デスゲーム系の空間内にいる人々による頭脳戦やパニックを期待したのですが、それとはまったく違った内容でした。 そこに閉じ込められてしまった主人公が、ルールを無視して外れ者になり、タイトルの意味通り、物語の外側に属し、流れるままに過ごすクラスメイト達を皮肉に見つめていると感じました。 物語の人々と、それを見つめる読者の立ち位置の間に存在する、メタ視点の主人公。行われているゲームを無視して他の行動をしているのが斬新でした。 主人公の行動は、クラスの輪に入れない心理模様を感じさせたいのか、外れている自分カッコイイと自己陶酔させているのか、読んでて共感要素がなく、ダラダラとよくわからない読書でした。 アメリカ映画のような、災害時に勝手に行動した主人公が救われる。そんな印象を持った作品です。 人に言われた事に流され続けるのではなく、井の中の蛙、ゲームの舞台など、見えない外側の世界を想像し、見えてくる新しい世界の発見を感じよう。そんなテーマを感じてました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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今年の作品なのに読んだ気持ちは昔の古典作品を彷彿させます。
探偵学校の同窓会として集められた雪の山荘にて起きる連続殺人。クローズドサークルもの。 山荘の見取り図やメンバーの名前を見ながら状況を把握したりと、なんだか懐かしい気持ちで読みました。 なんというか、ド定番路線で、これといった個性を感じられず刺激がなかったのが残念。 この手の本格物は好みなのですが、古典以降いろいろなバリエーションが生まれた現代において、あまりにも直球だと物足りなくなった個人的な心情も感じました。 この本の立ち位置が難しい所で、ミステリを読み始めの人で、この手の本が読みたい場合は、既に存在する有名どころを先に読むでしょうし、ミステリを読み慣れた方だと可もなく不可もなく無難に終わってしまう気がしました。 そんな事を考えると、作者の本格が好きなんだろうな。という気持ちを強く感じ、自分で作品を作ってみた。と言う所に落ち着きました。 デビュー作との事で、この路線でまた2作目が出たら、なんだかんだでまた読むと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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脳死の病所や月明かりの夜のみに話せる死者の声、タイトルの水、と言った単語のインスピレーションが影響して物語は幻想的で不思議な読書でした。
ミステリとして見ると特出した好みがなかったのですが、文学的には読書中に感じる空気感が良かったのと、重いテーマなのに読後は悪い気持ちにならないのが良かったです。 本書はオスカー・ワイルド『幸福な王子』の体の一部を他人に与える様を、臓器提供として現代版の物語を作り上げている所が見事です。有名な童話なだけに、使用されているモチーフに気付きやすい点が読みやさに繋がりました。 序盤の暴走族の模様は正直、嫌な気分にさせられたのですが、ツバメの代用となる臓器を運ぶ為に警察の検問を掻い潜って滑走するバイクを演出して、アクション要素で物語の中に起伏を作る、必要な設定と感じて読後は個人的に納得しました。 |
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読み終わって、何だこれは・・・。と、放心。
あらすじにて最悪と銘打っていましたし、こんな事も起きるだろうなと思いつつも、読まされるとなかなかの衝撃です。 タイムトラベルもので、過去が変わってしまった所から始まり、同級生も謎の死を遂げていき、何が起きたのか?と、この手の本が好きな人にとっては見慣れた設定です。 ラベンダーの香りがする錠剤で時間を移動する設定など、筒井康隆『時をかける少女』を筆頭に、時間移動を扱う、いくつかの本を感じますが、それらとは違う独特の味がありました。 章区切りで、1992年、2002年、1992年、2002年…と時代を交差させて話が進みます。 小説で最後に収束するよくある構成と感じるのですが、本書の面白い所は冒頭より過去が変わってしまった謎を活かし、前後の話の辻褄が合わさっていないと感じる所です。読み進めても自分が理解していた設定と異なっている気がして、なんだか嫌な感じで混乱します。過去が変わっていく不安感を読者へ巧く体験させていると思いました。 伏線回収の良い点とは逆に、タイムパラドックスについて細かな設定や矛盾を感じる粗さがあります。 それを覆い隠すかのように勢いよく話を展開して力技で押し切られた気持ちもありますが、読了まで良い意味で呆然とさせられ記憶に残る作品となりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ハネムーン帰宅の飛行機内から夫が行方不明になってしまった。
仕方なしに帰宅して待つが夫の持ち物が消えている。警察に相談するも、虚言ではないかと疑われてしまう。 タイトルにある『存在しなかった男』と、夫がいなくなる導入は謎や葛藤が交差して面白いです。 実際問題、航空会社等で調べれば、席からいなくなったりする状況など調べてもらえそうだと想像しますが、 時系列のテンポもスピーディーなので、調査する余裕もなく焦る、主人公の奈々の行動がリアルに感じました。 ここからどんな事件への展望を遂げるかと期待したのですが、中盤からは社会派ミステリへ様変わりし、メッセージを帯びたものを読まされた印象です。 小説内でテーマを掲げそれを盛り込んだストーリーは好感触なのですが、訴え方が卑屈過ぎて、自業自得に思えてしまい共感できなくなってしまったのが個人的に好みに合わずでした。 初めて読んだ作家さんでしたが、社会的テーマ+ミステリを作る方なのですね。読みやすいので他の本も気になりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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過去作より、『花窗玻璃』での読者に与える文学表現や『ジークフリートの剣』を読んだ時の印象を融合して継承したような作品でした。作りが巧いです。
物語は将来を見出せない学生が単位取得を目的に高齢者向けのお弁当配達のボランティアを始め、そこで知り合ったおばあちゃんの過去に触れていく。 介護問題、戦争話など、高齢者と若者の関わりも描いており、要所要所で社会への訴えを感じたりしていましたが、雰囲気はユーモアが多く楽しいのが良かったです。 この方の本は、小説の作品として意味があるのが素晴らしく感動します。 映画を見てストーリーが良かった。という感想だけなら、それは映画じゃなくてもよいと思いますが、 この本は本だから受ける感じ方を操作されていて、文章を紡ぐ作家の凄さを感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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意地悪な、おばあちゃんがガン宣告を受けて余命僅かだから、楽に死なせておくれ。と子供たちにお願いする。
痛かったり苦しいのは嫌。また、犯行がばれて捕まってしまっては元も子もないので、完全犯罪をしておくれ。 一番良い案を出したものに賞金をあげます。 と言った内容で、明るくユーモアに描いているとはいえ、個人的には不謹慎で合わず。 知能戦や驚きも感じず、古い本であるので、これも時代せいかなと思いました。 おばあちゃん+犯罪劇のミステリは、天藤真の『大誘拐』を思い浮かびます。おばあちゃんの知恵袋や年季が入った他人に動じぬ立ち振る舞いなど魅せる要素が本作にもあった所は良かったです。 |
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マンションを軸に、そこに住む者、関わる者の交差に謎を散りばめているのが面白いです。
上下左右の隣人がどんな人か分からない。人との関わり方が減った現代のマンション住民の模様を巧みに活用しています。 例えば、 ・上の階から聞こえてくる子供の騒音に苦情を申し出た所、幼児虐待疑惑の母親に遭遇。『子供を静かにさせる』と言ったあと、確かに足音はなくなった。騒音の悩みはなくなったが、子供はあれからどうなってしまったのか気が気でない・・・。 ・高齢のおばあちゃんを最近見かけない。部屋にいるのか。そういえば最近家から変な匂いがする気がする・・・。 と言ったマンション住民間で起きる疑惑の物語。 隣人との干渉、騒音問題、年金不正受給、高齢化社会、etc...。 社会的なテーマを持ちつつ、それでいて結末は予想外な方向へ展開するのでミステリとして面白いです。 著者の持ち味である、話の隠す所、見せる所の作り方がうまい。何が起きているのか気になって読めてしまいます。 さらに雰囲気もライトでテーマが圧し掛からず、読みやすかったのが良かったです。 こんなにも問題を抱えているマンションはどうなのよ。と言うのは気にせず、喜劇を見る感じて楽しみました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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好みの本格ミステリである事と読みやすさが良いです。
『館』の文字の使用を控えて、眼球堂の『堂』を選んだと思いますが、中身は館物でクローズド・サークル。 トリックあり、読者への挑戦ありと、直球の本格ミステリです。この手の本は好みで楽しいです。 少し厄介に感じたのが既視感が多い所です。 人物設定やトリックなど新本格時代の本を好んで読んでいる人には触れているだろう定番本のネタをいろいろ取り入れています。 が、それが悪いかというとそうではなくて、うまく組み合わせて作品を作ったなと思う次第です。 新鮮な驚きではなく、感心という気持ちでした。 ミステリ好き同士で感想を話すと、ここってこの作品のここだよね。こっちの設定はこの作品だよね。 と、他作の作品名はネタバレになるので言えませんが、そういう風に感じる本でした。 天才が集まる必然性が弱かったり、「ザ・ブック」と発言する主人公は数学者を超えたイタさを感じるなど、ひっかかる部分はあるのですが、本格が好きな気持ちと楽しさが伝わり良かったです。 次回作も楽しみです。 |
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警察小説、3億円事件。社会的で硬質漂うので、あらすじを読んだ印象では好みに合わない感じでした。ですが、評判で気になって読んだ所・・・当たりです。これは食わず嫌い本でした。
自殺とされた事件が殺人の可能性をおびて、時効寸前の前日に調査を再開。関係者を集めて過去を聞きだし真相を探っていく。 時効寸前というタイムリミットと、警察内の雰囲気がとても緊迫感をだしています。 容疑者達から過去の物語を聞いていくのですが、何が起きていたのか分らないもどかしさも重なって、ミステリの謎が気になる。という好奇心ではなく、真相がわからない事による『焦り』の雰囲気が巧かったです。 謎や伏線に至るミステリの面白さに、警察小説の雰囲気や人間模様などうまく絡んでおり、警察小説も悪くないと思わせる作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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日本推理作家協会賞受賞作ではありますが、ミステリの要素は低いです。
絵画であれば、この絵にはどんな美が存在するのだろうか。と言った謎を提示するところが、 ミステリっぽいと言えばそうなのですが、本作は美に関わる人々の気持ちに触れて相手を思う。そんな作品でした。 芸術、音楽など、文章中に扱われる単語の多くが心地よいものなので、物語だけでなく文章作りの美も感じます。 頭を使わず雰囲気に触れている様な作品で、そこが求めている好みと違った点でした。 |
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いやはや。今回も楽しませて頂きました。この方の作品凄いです。
推理物のミステリとは違う小説ですが、『知るとは何か?』をミステリの謎と言うより哲学的に問いかけるSFよりな作品です。 堅物な作風だと頭が痛くなるような専門用語や論述をライトノベルの作風を使ってとても読みやすくしているのは毎回凄い所。 テーマの感じさせ方もうまく、読後余韻に浸り、いろいろと考えさせられました。 まず感じたのは『情報格差』です。 脳に付与された機器によって、得られ、隠せる情報制限を人々にランク付けさせる世界。 一般人はランク2。官僚はランク5。社会適性がないものはランク0で個人情報筒抜け。 コンピューターの進化や超情報化社会に発展する未来において起こり得る格差世界を体感させられます。 脳とコンピューターが接続する世界において知識とは、事前に知っている必要はなく、瞬時に検索してアウトプットできれば同義になるなど、未来における考え方の変化も興味深いです。 現代でもすでに知らない事はネットを活用して瞬時に回答を得られる能力があれば事足りる状況もあるわけで、その世界においての『知っている』『知らない』『知りたい』とは何なのかを感じる読書でした。 人間の生きるとは何なのか、全てを知るとはどういう事なのか、深いテーマを掲げて、 脳とコンピューターのSF世界をライトに楽しめる作品はそうそうないです。 ネタバレは後述するとして、作者の考え方の仏教や宇宙など巻き込んだ思考の到達点はかなり痺れました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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バカミスから著者の本を読むようになった為、昔の本書を読むにあたってはその手の先入観を感じながら読みました。
シリーズ3作目ですが、本書が初めての読書です。 話は、死なない吸血鬼の主人公が時間を持て余しているので5万枚のミステリーを書こうと思い、何を書こうかと、つらつら述べていく所から始まります。 序盤から『この事件は時が解決してくれる!』それ、探偵の名前が(とき)さんって人じゃないですよね?とか、 『密室は嘆いていた』それ、(ひそかむろ)って名前の男がいる叙述じゃないですよね?とか、 ユーモアなやりとりでクスっとさせられながら、昔からこんな話を書いてたんだと感じていました。 ですが、作中作「青い館の追憶」が現れた辺りは、氷の館に住む女王と7色の氷人である賢者の幻想小説になり、その本を書いた人を調べていく中で、顔の溶けた幽霊が現れる現実のマンションに出くわし、ホラーテイストから話が繋がっていくミステリへ変容していきます。 吸血鬼が主人公なので、氷の女王やら幽霊やら不思議な現象も作品の設定として感じてしまう所ですが、結末へはそれらを必然的にうまく繋げていくんだなと思いました。 バカミスに特化、ホラーに特化。と、1ジャンルに洗練させているのではなく、色々な持ち味を混ぜ込んでいる所に今と昔の作風の変化を感じられました。 |
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いやはや。久々に頭使って読みました。かなり重厚です。
久々の翻訳物を読んだ為か名前や人物の把握に苦労しました。 中盤までは登場人物ページをいったりきたりしていました。 ピア警部に至っては、最初勝手に"警部"だからと、男の印象で読み進めてしまっていて、 女性警部と把握した時は、日本の警察小説で女性の階級が高いものって少ないな。と、国の違いを感じていました。 著者に関しても男性作家だと思っていたのですが、 読書後に著者を調べたら女性作家だった事に驚き、 それで、女性のキャラが生き生きしていたのかと合点。 などなど、名前に然り、ドイツの事をまったくもって把握していない自分を改めていました。 そんな自分に対して、本書がドイツのご当地物といいますか、情景・歴史がよく描かれているのでかなり学ばされた本でした。ミステリを通して他国を感じられるのは良いです。 かなり緻密な構成でストーリー展開は良い意味で混乱。 全容が分かる後半は、もうなんか凄い事になってるな。と感じるしかなかったです。 オリヴァー とピアの関係も素敵で好み。人物把握が慣れた所で、他のシリーズを読もうと思いました。 個人的には本書はシリーズの雰囲気・下地を把握する魅力的な体験版と言った感じでした。 |
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これは好みの作品ですね。埋もれてました。
冒頭から始まる『無重力空間での墜落死』という不可解な状況の提示は魅力的です。 宇宙ステーションが舞台なのでSFとなりますが、何でもありの奇想のSFではなく、ほんの少し先の未来が舞台である現実的な世界を描いてます。 また、理系用語豊富ですが教養範囲。特殊なものは丁寧に説明されています。 ライトノベルも描く方なので、キャラの気持ちも入りやすい。 本書は初心者から楽しめるSFミステリだと感じました。 なんとなく、森博嗣『すべてがFになる』の設定や雰囲気を色々と感じましたが、 S&Mシリーズが好きな方には本書も好まれると思いました。 事件の魅力も然る事ながら、テーマ性もよかったです。 『ミラーワールド』と表現された、現代で言うインターネットのバーチャル空間においての相手との対話。 相手は人なのか人工知能なのか。人の死後、その人の情報はネット中にどのように存在し続けるのか。と、語りかけられるテーマに面白く触れられました。 2作目の『海底密室』にも話題として出てきましたが、ネットと言う新たな世界での『人の存在』を意識させられました。 SFを読みなれていないのもあって、宇宙での表現方法が新鮮でした。 気に入った所を引用しますと、 >舞依の瞳から、涙がこぼれた。地上に比べて、ほんの少しだけ、ゆっくりと流れ落ちるその透明な液体を、凌はとても綺麗だと思う。 重力の違う宇宙空間にいる事を感じさせる表現が素敵です。 シリーズをもっと読みたいのですが、無いのが残念。 よい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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