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シティ・オブ・ボーンズ



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シティ・オブ・ボーンズの評価: 7.25/10点 レビュー 4件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.25pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1~4 1/1ページ
No.4:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

読むほどに深まる謎とサスペンス、第一級のエンタメだ!

ハリー・ボッシュ・シリーズの第8作。散歩中の犬がくわえてきた古い骨から始まった事件捜査が公私にわたってボッシュを揺さぶる、シリーズのカギとなる作品である。
犬がくわえてきた骨を鑑定した結果、12歳ぐらいの少年のもので20年ほど前に鈍器で殴られて死亡したらしいことが判明した。しかも、少年は生前に激しい虐待を受けていたと思われ、ボッシュとエドガーのコンビは絶対に犯人を逮捕すると決心したのだが物証、証言ともに乏しく、捜査は難航する。さらに、現場近くに住み、小児性愛事件を起こした過去を持つ男性を取り調べていることがマスコミに漏洩し、男性が自殺する事態となり、ボッシュは警察内部からも厳しく批判された。そんな中、一本の通報電話から身元解明へのきっかけをつかんだボッシュは寝食を忘れて事件の真相を探っていく…。
20年も埋もれていた骨がボッシュの刑事魂を激しく揺さぶる。怒涛の警察ハードボイルドである。上層部からにらまれながら、なぜボッシュは真相解明に突き進むのか、ボッシュの熱さがメインテーマと言っても過言ではない。古い骨の鑑定という地味なスタートだが、被害者の身元が判明してからはスピーディーで緊張感あふれる捜査が展開され、どんどん引き込まれていった。
シリーズの転機となる作品であり、ボッシュ・ファンは必読。しっかりした構成のサスペンス・ミステリーを読みたいという読者にも自信をもっておススメしたい。

iisan
927253Y1
No.3:
(7pt)

同時多発テロの犠牲者たちへの鎮魂歌なのか

シリーズの大転換を迎えるとかねてから云われているボッシュシリーズ8作目の本書は今のところシリーズで唯一早川書房から訳出された作品だ。

事件はおよそ20年前に虐待されて殺害された少年の犯人を追うという、これまたかなり古い過去の捜査に当たるボッシュが描かれている。

その捜査において古い骨の鑑定が据えられている。これは恐らくアーロン・エルキンズのギデオン・オリヴァー教授シリーズの影響でもなく、またジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズのヒットによる影響でもなく、当時大いにヒットしていたTVドラマ『CSI:科学捜査班』の影響があったのではないだろうか。

そんな古い骨から判明する事実は少年が度重なる虐待を受けていたと思しき数々の骨折の自然治癒の痕跡。そして度を越した虐待が彼を死に至らしめたという実に憤懣遣る方ない過去の事件が炙り出される―骨の鑑定を行ったウィリアム・ゴラーの、鑑定で過去と悲劇がはっきりと判るのに、皮肉なことにその人が生きている時点ではそれが解らないのだという吐露が心に痛く刻まれる―。
ボッシュはかつてFBI心理分析官のテリー・マッケイレブと組んだ事件で名もない少女の死の事件を扱っており、結局その少女の身元が判明しないまま今日に至っている。この苦い経験が少年少女という無力な存在に圧倒的な暴力や変態的趣味で死に至らしめる現在の悪魔たちに対して異常なまでに憎悪を掻き立てるのだ。

勿論それは自身もまた孤児だった過去に起因しているだろう。自分を捨てたと思っていた亡き娼婦の母親が自分に多大なる愛情を注いでいたことを知って、業からは解き放たれてはいたが、それでもやはり孤児院で育ったという過去は変わりなく、それがボッシュの人生に翳を落としている。

そして今回は相棒のエドガーがいつもより前面に出てくる。既に離婚していながらも子を持つ親として虐待して子供を死なせた大人に対して憤りを露わにするのだ。そしていつもより前のめりで捜査に当たる。今まで見たことのない「熱い」エドガーが本書では見られる。

またボッシュは本書でもまた新たな女性と出逢い、恋に落ちる。彼女の名はジュリア・ブレイシャー。34歳でポリス・アカデミーに入った新人女性警官。過去に民事弁護士をしていたが、業務に嫌気が差し、世界を旅していろんな経験をした後に警官になる決意をした、変わった経歴の持ち主だ。

彼女が今までのボッシュと付き合った女性と違うのはボッシュがヴェトナム戦争でトンネル兵だった時に遭遇した恐怖を彼女が知っていることだ。ボッシュ達が戦争で赴いたヴェトナムではそのトンネルは観光名所となっており、観光客が金を払って入ることが出来るようになっていた。彼女はヴェトナムを訪れた際に、そのトンネルを潜り、奥深く入り、そしてボッシュが戦争時代に経験した“迷い光(ロスト・ライト)”に遭遇したことがあった。誰もが共有できない特異な過去をジュリアは共有した相手としてボッシュにとって特別な存在となる。

弁護士だった親の敷かれたレールを嫌って弁護士を辞め、世界を見て回った後、戻ったアメリカで警官募集の広告を見てすぐに応募して警官となった彼女は自分が何か特別な存在になりたかったのだ。そして彼女は評判は良くないものの、抜群の検挙率を誇るボッシュを見た時に彼に自分を重ねたのだ。
肩の銃の瑕を負ったボッシュはそれだけで周りにいる警官とは違う特別な存在だった。上昇志向の強い彼女は自分も早くそんな特別な存在になりたかった。

まだ前途ある彼女がなぜ自分を特別な存在としたかったのか?

それはやはり同時多発テロという大量死が関係しているのかもしれない。それについては後述しよう。

さて事件は振出しに戻る。

この辺の展開は今までコナリーが敬意を払っているレイモンド・チャンドラーの諸作品よりもむしろハードボイルド御三家の1人、ロス・マクドナルドの作風を彷彿とさせる。

家庭の中に隠された悲劇がボッシュの捜査で明るみに出される。
虐待された少年の遺体から家族の中で隠され、守られてきた秘密が明かされる。

また本書が発表された時期にも注目したい。
本書の原書が刊行されたのは2002年。そう、あのニューヨークの同時多発テロが起きた翌年である。本書にも言及されているが、3000人もの人が瓦礫に埋もれて亡くなったテロ事件である。

そんな大量死の事件を経たからこそ、30年前に埋められた身元不明の少年の死の真相を探る事件が敢えて書かれたのではないか。

いわば一己の人間という尊厳が失われる大量死が実際に起きたからこそ、敢えて名もない少年の、30年前に埋められた少年の素性を探り、そしてそこに隠された真実を追い、そしてその骨を埋めた犯人を捕まえることがその少年の尊厳を守ること、そしてその死体に名を、人間性を与えることになるからだ。
ニューヨークの世界貿易センタービルの下には今なお瓦礫に埋もれて忘れ去られようとしている名を与えられていない遺体が沢山いることだろう。コナリーはそんな人たちへの鎮魂歌として掘り出された骨の、かつて人間だった少年を殺した犯人を探る物語を描いたのではないだろうか。

これはまさに笠井潔氏が唱えた『大量死体験理論』の正統性を裏付けるかのようだ。
やはり大量死の発生が1人の人間の死の真相を探り、尊厳を与えるミステリが書かれる原動力となるのかもしれない。

そして前述したジュリア・ブレンジャーが特別な存在になりたかった理由もこれである程度氷解する。

未曽有のテロで死んだ人は名もなきその他大勢。そんな集団の中の無個性な自分になるのが彼女は怖かったのではないだろうか。だからこそ個としての存在を主張するために、彼女はボッシュに将来の自分を見出し、そして早くそこに近づこうとしたのではないだろうか。

本書のタイトルもまたこの大量死から生まれたように感じる。

シティ・オブ・ボーンズ。骨の街。

本書では埋められた子供の骨が見つかった丘を方眼紙で区分けして骨が見つかった場所をプロットしていく作業を鑑識課員の1人がまるで道路やブロックを置いていくようで街を描いているように感じるから、骨の街と名付けたと話している。

しかしこの名前は同時多発テロ後のその時だからこそ付けられたタイトルではないだろうか?
テロが起きたニューヨークの街は3000人もの人が亡くなった街だ。それはつまり数限りない骨が埋められた街を指している。
舞台はロサンジェルスだが、このような無差別テロが起きるアメリカはどこも骨の街であり、また骨の街になり得るのだと哀しみを込めてコナリーが名付けたように思える。

そんな大量死を迎えたがゆえに1人の少年の死に意味を与えるための捜査の結末は何とも煮え切られないものとなった。

これまでそのルールすれすれの、いや時にはルールすら破る危うい捜査を続けてきたお陰で、幾度となく辞職の危機に立たされていたボッシュ。しかし彼は結果を出すことでそれを免れてきた。

それは自身が刑事として悪と戦い、街を浄化することこそが生き甲斐であり、存在証明だと信じてきたボッシュの魂の砦だった。
従って警察上層部の、スキャンダルを葬り、穏便に事を済ませるために描いてきたシナリオに反発し、常に事件の真相を、真の犯人を捕まえることを信条としてきたボッシュ。

本書においても警察内部の者による捜査情報のリーク、またそれによって生じた容疑者の自殺、更に警官が捜査中に亡くなるという数々のスキャンダルが起こり、それに対して上層部の指示に従うように強要される。

しかしそれはこのシリーズの定番とも云うべき展開で、今回もボッシュはそれを克服する。

なぜか愛する者と長く続かないボッシュ。

かつてエレノア・ウィッシュ、シルヴィア・ムーアの2人と付き合ったが、いずれも自分を離れていった。しかし彼女たちは自らの意志でボッシュの元を去った。
ジュリアがボッシュにとって他の女性と違ったのは同じ暗闇を見た女性だったからだ。ヴェトナムの戦時のトンネルに入り、そして彼女は自分と同じ光、“迷い光(ロスト・ライト)”を見た女性だ。自分の人生に落とす闇の中で見出した光を見た女性という、ボッシュにとって彼女はこれまでになくかけがえのない存在だったと思う。
ジュリアはまさしくボッシュの「ロスト・ライト」、喪われた光だったのだ。

しかし何とも感傷的な幕切れだろう。そして何よりも実に歯切れが悪い。

そして何よりも本書は『CSI;科学捜査班』の影響とみられる骨や遺物の鑑定が今まで以上に前面に出ていること、そして同時多発テロの影響が色濃い事など、コナリー作品としては外部による影響がそれまでになく多く見られ、それがゆえに歯切れの悪さとバランスの良さを欠いているように思える。

しかしまだシリーズは続く。ボッシュが自らの暗黒に向き合うとき、闇の側に立つのか、それとも光の側に留まれるのか、そんな不穏な期待をしながら読みたいと思う。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

シティ・オブ・ボーンズの感想

面白かった!
共に当代アメリカのベストセラー作家ジェフリー・ディーバーを4冊読んだあとでのマイクル・コナリー2冊目で、どうしても比較してしまいます
こちらはどんでん返しも無く、ジェットコースター的な展開もありませんが、背景や設定、話の流れに無理がなく良質なノンフィクションを読んでいるように小説世界をリアルにイメージすることができました
終盤はたたみかけるように緊張感のある展開で、久しく無かった小説に挑むという感覚を覚えました
惜しむらくは、何かの書評に書いてあったように作品を発表順に読んでおくべきでした
ということでその反省をふまえ、次はマイクル・コナリーの第一作からハリー・ボッシュのシリーズを順に追っていくつもりです
まだ2作を読んだだけですが、マイクル・コナリーへの期待はとっても大きくなっています

のぶくん
UIM2AM2N
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

コナリーの暴力描写はいつも痛そう!と思いながら読み進めるのですが、この作品ももれなく痛そう!でした。
ホッと心休まる場面や、ハリーの人間くさいところも要所要所にあり、何作品も読んでいる私に、ハリーの人生を一緒に歩いているような感覚も生まれました。
ただの小説、でも重い。
同じ感慨を持ちながら、これからもずっとコナリーの小説を読み続けたい・・・もっともっとハリーのことを知りたい、ずっとハリーと一緒にいたい。
今回のハリーは、俳優でいうと「ケビン・スペイシー」
細いネクタイが似合いそうなグッドルッキングガイ、映画化はないのでしょうけど、動いているハリーもちょっとは見てみたいなー。

ももか
3UKDKR1P

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