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星籠の海



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星籠の海の評価: 7.20/10点 レビュー 5件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.20pt

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全5件 1~5 1/1ページ
No.5:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
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御手洗が瀬戸内海を巡る巡る

久々の御手洗潔シリーズ長編はなんと島田荘司氏の故郷福山を舞台にした瀬戸内海を巡るミステリ。
短編からは『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』以来2年ぶりだが、長編としては2005年に出版された『摩天楼の怪人』以来、なんと8年ぶりの刊行となった。

本作は『ロシア幽霊軍艦事件』の後1993年頃に遭遇した瀬戸内海を舞台にしたミステリで、つまり海外を舞台にしたミタライではなく、往年のシリーズファンには非常に馴染みやすい石岡和己との名コンビが味わえる作品となっている。

本書は文庫で上下1,140ページ物大長編であるが、文字のフォントが大きいため、90年代に毎年のように記録を更新するが如く刊行された大長編ほどの大部では無いように感じられる。そして物語の枠組みはそれらの作品で見られた様々なエピソードをふんだんに盛り込んではいるものの、全てが御手洗の扱う事件も含めて広島県の鞆という町が舞台となっている。

まず御手洗が今回扱う事件は愛媛県の松山市の沖合にある島、興居島で頻繁に死体が流れ着く怪事から物語は幕を開け、やがてその源である福山市の鞆に行き着き、そこで新興宗教が起こした奇妙な征服計画に対峙する。

この物語を軸にして他に3つのエピソードが盛り込まれる。

1つは小坂井茂という鞆で生まれ育った男が巻き込まれた数奇な半生の話。

もう1つは村上水軍と福山藩主阿部家について研究している大学助教授滝沢加奈子に纏わる『星籠』という謎めいた言葉に関する物語。

そしてもう1つが鞆で飲み屋を営むシングルマザーの子供宇野智弘と彼を支える造船会社々長忽那との世代を超えた交流の話。

しかしこれらのエピソードが実に読ませる。これだけで1つの話として十分読むに堪えうるものとなっている。

特に1つ目の小坂井茂という端正な容姿だけが取り柄の優柔不断な男が辿る、女性に翻弄される永遠のフォロワーの物語が後々事件の核心になってくる。一歩間違えば誰しもが陥るがために実に濃い内容となっていてついつい先が気になってしまうほどのリーダビリティーを持っている。

小坂井茂自身が事件を起こすわけではない。この主体性の無さゆえにその時に出遭った女性に魅かれ、云われるまま唯々諾々と従いながら人生を漂流する彼の生き方が自分を犯罪へと巻き込んでいく。つまり何もしない、何も考えないことが罪であると云えよう(ここで重箱の隅を1つ。小坂井の友人田中が経営する自動車整備工場でガソリンをポリタンクに入れているという件があるが法律では禁じられているのでこの辺は重版時に修正した方がいいかと)。

また3つ目の忽那と智弘との交流のエピソードにも島田氏は社会問題を盛り込むことを忘れない。1993年が舞台である本書であるが、原発のある南相馬で育った智弘は幼い頃から川や海で遊んでおり、工場排水に含まれる放射性物質で被曝して白血病を患って亡くなるのだ。実は放射能問題は大震災前から起きているのだと島田氏は現在稼働している原発周辺の住民にも警鐘を鳴らす。

また今回御手洗が立ち向かう相手は日東第一教会というネルソン・パクなる朝鮮人によって起こされた新興宗教というのも珍しい。最終目標の敵が明らかになっていることも珍しく、いかに彼を捕えるかを地方の一刑事である黒田たちと共に広島と愛媛を行き来する。
とにかく今回は御手洗が瀬戸内海を舞台に縦横無尽に動き回るのだ。私は読んでいてクイーンの『エジプト十字架の謎』を想起した。

御手洗によって語られる日東第一教会は世界的規模で信者を増やしており、日本の鄙びた港町鞆を足がかりに日本の侵略を計画しているという。

都会よりも限られた人口で共同意識を持つ田舎の方が、逆に御しやすく、牛耳りやすい。そして狭いコミュニティでは異分子は排他されるがために同一行動を採らざるを得なくなる。日本だけでなく世界でも田舎ほど怖い所はないのだ。

政界、財界の有力者を信者にし、反米感情を植え付けるような怨嗟教育を施し、誘導する。さらに本国で作った覚醒剤を持ち込み、日本で売り捌いて金や貴金属を購入し、本国に持ち帰る。そして犯罪者を匿うことで信者を増やし、それが更なる信者を生んでいく。

また異性と縁のない独身者に信者から候補者を紹介して結婚を斡旋する。聞こえはいいが、その実は朝鮮からの流れ者をあてがうだけで、いざ結婚したか思うと言葉も通じず、困り果てるが、教祖が紹介した相手を断ると報復が待っているから離婚も出来ないと二重苦三重苦に苛まれる。

これらは恐らくある実在する新興宗教をモデルにしているのだろうが、このようなことが実際に行われていると考えると実に恐ろしい。
社会的弱者に対してこのような宗教は巧みに心に滑り込み、救済という名目で洗脳を行う。それは自分も含め、誰しも起こり得ることなのだ。今現在自らに縁がなくて本当に良かったと思う。

この瀬戸内海に関する情報も実に面白い。
本書に登場する中国工業技術研究所は実在するようで、産業技術総合研究所で1973年に瀬戸内海を模した水理実験室が建設されている。瀬戸内海が他の海と違って急流があり、地形の複雑さ故に潮の流れが複雑で、また6時間ごとに潮流が変化する、ど真ん中を境に潮の流れが分断されていると述べられている薀蓄は実に興味深い。
恐らくは長らく瀬戸内海沿岸で暮らす人々にとっては既に当たり前の事なのだろうが、実に興味深く読んだ。

本書は比較的万人受けするミステリだろう。
とはいえ、死体が流れ着く島からやがて地方都市で繰り広げられる新興宗教の陰謀へと繋がり、そこに一介のベビーシッターの過失が奇妙に絡まって、更には村上水軍に纏わる『星籠』という兵器の謎と歴史ミステリの要素もありと単純に人が殺されて誰がどうやって何故殺したのかを追うだけのミステリに留まっていないのが御大島田氏の凄い所だ。
ただかつて90年代に出された、古代エジプトやタイタニック号沈没などのエピソードに大部の筆を費やし、一大伽藍を築くような荘厳たるミステリを経験してきた一ファンとしては物足りなさを覚えるものの、御手洗が初対面の人物の性格や生活の有様を一目で看破し、次から次へと暴露していく辺りはかつてホームズのオマージュである御手洗シリーズの原点回帰であり、特に嬉しいのが御手洗の奇人ぶりが復活しているところだ。アメリカでは歯を抜いた後、歯医者がアイスクリームを勧めるとか、本当かどうか解らない薀蓄を語るのが実に御手洗らしい。

ドイルが築いた本格ミステリに冒険的要素を加えた正統な御手洗ミステリの復活を素直に喜びたい。とにもかくにも故郷を舞台にした島田氏の筆が実に意欲的で、作者自身が渾身の力を込めて書き、また愉しんでいるのが行間から滲み出ている。
本書は映画化されたのでそちらも愉しみだが、それを足掛かりに国内のみならず世界を駆け巡る御手洗の活躍をスクリーンで今後も観られることを期待しよう。


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Tetchy
WHOKS60S
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

とにかく


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TeppinJP
27KEZ347
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

星籠の海の感想


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氣學師
S90TRJAH
No.2:
(7pt)

御手洗シリーズが好きな人はぜひ!

御手洗シリーズ国内編最終章!
今、話題(?)の村上海賊についての謎があり、
あの国絡みの宗教問題や○○○発電所などの社会問題もありの、もりだくさんです。
あ、もちろん人も死にます!!

御手洗&石岡君が好きな方は、ぜひ読んでください♪

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jack
J1EJ4V2U
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

国を憂い、国を守る


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