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ゴーグル男の怪



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【この小説が収録されている参考書籍】
ゴーグル男の怪
ゴーグル男の怪 (新潮文庫)

ゴーグル男の怪の評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(7pt)

TVでは描かれなかったサイドストーリーが強烈すぎて

本書は2011年にNHKで放映された『探偵Xからの挑戦状』という番組のために書き下ろされた作品。これは現代の本格ミステリ作家たちによる視聴者参加型の推理番組で、そのうちの1つとして放映された。
従ってまず先に映像化があり、その3ヶ月後に刊行された、島田作品では唯一映像化先行の作品である。

従って映像化を意識してか、その導入部はかなりのインパクトを持って始まる。なんせ霧の中からゴーグルを掛けた男が現れて、巡査の前を疾走して消え去る。しかもその男のゴーグルの中の目は血走っており、さらにその顔は真っ赤で爛れているように見えたという、何とも映像的なシーンである。

ゴーグル男はその後も福来市の至る所に姿を現す。しかもゴーグルをつけた状態で。

つまり本来ならば犯罪者が自らの顔を隠す覆面としてゴーグルを着けていると思われるのに、このゴーグル男は犯行を行うときのみならず普通の生活をしている時にもゴーグルを着けているところが異なっている。スーパーでの買い物、定食屋での食事、更には銭湯での入浴時でもゴーグルをしている。
想像しただけでもシュールな光景で、しかも笑える。

日常生活でゴーグルをなぜしているのか?
その理由を示唆するサイドストーリーが交互に語られる。

このサイドストーリーはNHKの番組にはなかったもので、小説化に当たり、加えられたものだ。

島田氏はその作品のサイドストーリーに社会的弱者の生い立ちを絡め、豊かな国日本で社会の底辺でままならぬ生活を強いられている人物、もしくはある出来事・事件がきっかけで人生を狂わせてしまった人物のエピソードをかなりの紙幅を割いて語るのが特徴となっているが、本書では母子家庭で育った、幼い頃にその女の子のような風貌からある大人に性的虐待をされた男の話が添えられている。

ただその男に関してはその性的虐待の過去だけが人生に暗い翳を落とすだけでなく、彼が大人になって勤める住吉化研という原子炉の燃料を製造している会社の話が絡められている。
その会社が臨界事故を起こし、その場に自分もいたが、鉛スーツを着てゴーグルを掛けていたため、直接的に放射能を受けたのはゴーグル部分のみであることが示唆される。そしてウラン溶液を直接扱っていた作業者が2名が被曝し、その惨たらしい死に様が克明に書かれる。

さてこの住吉化研の臨界事故と、聞けばすぐにある会社が思い浮かぶだろう。日本のみならず世界をも騒がせた1999年9月30日に起きた茨城県東海村での臨界事故。この作品のサイドストーリーは実に読むのが辛かった。
舞台は東京都の福生市をモデルにしたであろう架空の市福来市と場所は変えているが、起こった事故の詳細は当時の事故の話とほぼ同じである。特に至近距離で被曝した被害者の生々しい描写には暗鬱にさせられる。当時の事故のことを知っている私でも改めてこんなひどい死に方があるものかと思うくらいだ。

ただ近くの公園で奇形の犬の死骸が沢山掘り出されたり、敷地内の森では自殺した家族の幽霊が出たりと、いかにも秘密主義の会社で不安を煽る描写が続くのには眉をひそめる。
その後の会社の対応については被害者サイドの話、もしくはこの事故のことを書いた文献—参考文献が書かれていないのでどの書物なのかは不明だが—を元に構成されたようで、一方的に会社側が悪者になっているように書かれている。町の至る所に現れ、都市伝説化したゴーグル男の棲み処とまで名指しで称されるようになる。

この辺の件については、いかにフィクションであれ、実際に起きた事故を、そしてモデルになっている会社があることを考えると不快でならなかった。そしてこの内容は場所や名前は異なるが明らかに特定の会社を示唆しているので、番組放映ではカットされても止むを得なかっただろう。放映時点で構想はあったかは解らないが。

そして今回の事件の真相—つまりゴーグル男がなぜゴーグルをしているのか?-については当時の番組を観ていたこともあり、記憶に残っていた。もう7年も前になるが、やはり島田氏の奇想は刺激的で、こんなこと思いつくのはこの作家しかいないと思えるほどインパクトの強いものだった。

しかしその番組を観ていてもそこに盛り込まれていないサイドストーリーの内容が強烈で、番組の時とは全く違うのではないかと思わされた。特にゴーグルの中は赤く爛れて血が流れていたと何度も繰り返されているところが不安を掻き立てられたように思える。映像を観た人も更に読み応えが得られるようにかなり肉付けしたのだろうが、私には少し、いやかなり刺激が強すぎた。

しかし覚えていたのはそこまで。

私が特に面白く思ったのは3軒目の煙草屋のお婆さんが見たくねくね動いていた若い男の真相。

本書は最盛期の島田氏の奇想溢れるミステリとしてまさにこの作家しか考えつかないアイデアと驚き、そして納得に満ちたミステリであり、最近の作品の中でも本格ミステリ度の高い快作なのだが、上に書いたようにミステリ性を装飾するサイドストーリーが私にとっては非常に辛い内容だっただけに島田氏の健在ぶりを素直に喜べなかった。
そのサイドストーリーについても事件の悲惨さを掻き立てる内容に終始しているのが残念でならない。

そして当事者性を排除して読むと、会社の決まり事というのは部外者にとっては実に奇妙に映ることがよく解った。何とも会社というのは世間一般と離れた独自の文化を持つ共同体であることかと改めて気付かされた。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ゴーグル男の怪の感想

ホラーぽい表紙にまずびっくり。冒頭に提示されるグロテスクな風貌の犯人。なぜそんな目立つ恰好をしていたのか?という謎が論理的に解明されるラストはまさに、島田先生の真骨頂。
これまでの作品同様、中盤で先生のイデオロギー的展開となるが、ここはここでひとつの読み物として楽しんで読める・・・というには悲惨な内容ではあるが。この部分については賛否両論だろうけど、自分はもう慣れた。

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